説明

アルミニウム管抽伸潤滑油及びアルミニウム管の抽伸方法

【課題】潤滑性に優れ、低コストで抽伸加工を行うことができるアルミニウム管抽伸潤滑油及びアルミニウム管の抽伸方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム管の抽伸加工に用いられるアルミニウム管抽伸潤滑油及び該潤滑油を用いたアルミニウム管の抽伸方法である。アルミニウム管抽伸潤滑油は、基油とカルナウバとを含有する。基油は、鉱物油、未水素添加又は水素添加のポリイソブチレン、及びイソパラフィンから選ばれる1種以上である。アルミニウム管抽伸潤滑油において、カルナウバの含有量は、0.05〜5.0重量%である。また、アルミニウム管抽伸潤滑油の温度40℃における動粘度が5〜50000mm2/sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の管の製造に使用されるアルミニウム管抽伸潤滑油及び該潤滑油を用いたアルミニウム管の抽伸方法に関する。なお、ここでいうアルミニウムは、アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。
に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの抽伸加工は、アルミニウムをダイスに通して引っ張り、ダイス穴形状と同じ断面の管、棒、線材を製造する方法である。一般には、常温で加工するが、高温で加工することもできる。
アルミニウム管の抽伸加工においては、例えば心金やプラグ等をアルミニウム管の内面に配置した状態で、上記のごとくアルミニウム管をダイスを通して引っ張ることにより、管の外形のみならず、内径あるいは肉厚をも所要の寸法に仕上げることができる。
また、変形抵抗の大きなアルミニウム材からなるアルミニウム管を加工する場合や変形量が大きな加工を行う場合には、ダイスとアルミニウム材との間、あるいは内面のプラグとアルミニウム管との間に、大きな摩擦力がはたらき、管方向に焼き付き傷が発生したり、場合によっては管切れが発生したりすることがある。
【0003】
このような不具合を防ぐために、抽伸加工においては、アルミニウム管、ダイス、プラグ等に潤滑油を供給することが行われていた。
このような潤滑油としては、抽伸加工用に特化したものはほとんどなく、一般的にはアルミニウム加工用の潤滑油が広く用いられていた。例えば軽加工あるいは軟質アルミニウム材からなるアルミニウム管の加工においては、例えば高粘度の高分子合成炭化水素からなる基油に、脂肪酸エステルあるいはアルコール、ポリオールエステル等の油性剤が添加された潤滑油が用いられていた。また、変形抵抗の大きなアルミニウム材からなるアルミニウム管を加工する場合や加工度が大きい場合には、潤滑油として、高粘度の潤滑油、吸着性の高い油性剤、あるいは極圧剤等が使用されていた。
このような潤滑油の具体例としては、鉱油、合成油、及び油脂等の基油と、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤とを含有する潤滑油組成物等がある(特許文献1参照)。また、特定組成のジチオリン酸亜鉛を含有する塑性加工用潤滑油組成物等がある(特許文献2及び3参照)。
【0004】
しかしながら、抽伸加工に上述のような潤滑油を用いた場合でも限界があり、製造条件によっては上述のように摩擦力が発生し、焼き付き傷や管切れ等の不具合が発生する場合があった。また、従来の潤滑油は、比較的製造コストが高いという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−358495号公報
【特許文献2】特開2001−348586号公報
【特許文献3】特開2001−348588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、潤滑性に優れ、低コストで抽伸加工を行うことができるアルミニウム管抽伸潤滑油及びアルミニウム管の抽伸方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、アルミニウム管の抽伸加工に用いられるアルミニウム管抽伸潤滑油であって、
該アルミニウム管抽伸潤滑油は、鉱物油、未水素添加又は水素添加のポリイソブチレン、及びイソパラフィンから選ばれる1種以上の基油と、カルナウバとを含有し、
上記アルミニウム管抽伸潤滑油におけるカルナウバの含有量は0.05〜5.0重量%であり、
上記アルミニウム管抽伸潤滑油の温度40℃における動粘度は5〜50000mm2/sであることを特徴とするアルミニウム管抽伸潤滑油にある(請求項1)。
【0008】
上記第1の発明のアルミニウム管抽伸潤滑油は上記構成を有するため、上述した従来の問題を一気に解消することができる。
すなわち,上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、如何なる材質のアルミニウム管に対しても、優れた潤滑性を発揮することができる。そのため、変形抵抗の大きなアルミニウム管を抽伸加工する場合、又は変形量が大きな抽伸加工を行う場合においても、アルミニウム管と、例えばダイス又はプラグ等との間に発生する摩擦を充分に抑制することができる。それ故、アルミニウム管に焼き付き傷や管切れ等の不具合が発生することを防止できる。
【0009】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、高価な添加剤等を用いずに作製することができるため、低コストで作製することができる。
また、一般に、潤滑油は、抽伸加工後の工程に悪影響を及ぼすことを防止するために、洗浄等により抽伸加工後に除去される。従来の潤滑油は、洗浄により除去することが困難であったため、抽伸加工においてはアルミニウム材の表面に樹脂等の被膜を形成させて、該被膜の上に潤滑油を供給して抽伸加工を行う方法が用いられていた。かかる方法は、被膜を形成させる工程が増えるため、製造コストが高くなるという問題があった。
本発明の上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、抽伸加工後に、例えばパークレン(テトラクロロエチレン)、トリクレン(トリクロロエチレン)、塩化メチレン、及びトリクロロエタン等の塩素系溶剤やアセトン等の炭化水素系溶剤等の洗浄液で、簡単に除去することができる。そのため、上記アルミニウム管抽伸潤滑油が抽伸加工後の工程に悪影響を及ぼすことを簡単に防ぐことができる。さらに、被膜を形成する必要がなくなるため、低コストで抽伸加工を行うことができる。
【0010】
以上のように、上記第1の発明によれば、潤滑性に優れ、低コストで抽伸加工を行うことができるアルミニウム管抽伸潤滑油を提供することができる。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明の上記アルミニウム管抽伸潤滑油をアルミニウム管の内面及び/又は外面に供給し、アルミニウム管の抽伸加工を行うことを特徴とするアルミニウム管の抽伸方法にある(請求項7)。
【0012】
上記抽伸方法においては、上記第1の発明の上記アルミニウム管抽伸潤滑油をアルミニウム管の内面及び/又は外面に供給し、抽伸加工を行う。そのため、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の優れた特長を生かして、例えばダイス又はプラグ等との間の摩擦を抑制しつつ抽伸加工を行うことができる。それ故、アルミニウム管に焼き付き傷や管切れが発生することを防止し、表面品質の優れたアルミニウム管を作製することができる。
【0013】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、上述のごとく洗浄等により容易に除去することができるため、抽伸加工の前に従来のように樹脂等の皮膜をアルミニウム管に形成する必要がなくなる。そのため、低コストでアルミニウム管の抽伸加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、上記基油として、鉱物油、未水素添加又は水素添加のポリイソブチレン、及びイソパラフィンから選ばれる1種以上を含有する。
上記抽伸加工後に焼鈍等を行う場合には、上記基油としてポリイソブチレン及び/又はイソパラフィンを用いることが好ましい。この場合には、オイルステインの発生を防止することができる。また、この場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の臭いを抑えることができ、作業環境を向上させることができる。
【0015】
また、コストを重視する場合には、上記基油として、鉱物油を用いることが好ましい。鉱物油としては、例えばパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等のノンアロマ系鉱油を用いることができる。ノンアロマ系鉱油に比べて少し高価であるがアロマ成分を含有するアロマ系鉱油を用いることもできる。この場合には、ポリイソブチンやイソパラフィンを基油とする場合に比べてコストを抑えることができると共に、臭いや肌あれ等を抑制し、作業環境を向上させることができる。
【0016】
上記アルミニウム管抽伸潤滑油における上記基油の含有量は、45重量%以上であることが好ましい。上記基油の含有量が45重量%未満の場合には、抽伸加工後に上記アルミニウム管抽伸潤滑油を洗浄により除去することが困難になるおそれがある。また、コストが増大するおそれがある。
【0017】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、カルナウバを含有する。
カルナウバは、天然のものであり、官能基を有する。上記アルミニウム管抽伸潤滑油においては、カルナウバの官能基がアルミニウム管の表面と強固に吸着し、境界潤滑性を与えることができる。
【0018】
上記アルミニウム管抽伸潤滑油中の上記カルナウバの含有量は、0.05〜5.0重量%である。
カルナウバが0.05重量%未満の場合には、境界潤滑性が不充分になり、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の潤滑性が低下するおそれがある。一方、5.0重量%を越える場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油が少なくとも部分的に固形化し、アルミニウム管への供給が困難になるおそれがある。また、固形化した成分がアルミニウム管の表面に付着して、抽伸加工の際にアルミニウム管の表面品質を劣化させるおそれがある。
【0019】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の温度40℃における動粘度は5〜50000mm2/sである。比較的柔らかい材料からなるアルミニウム管の抽伸加工の場合、又は軽加工の場合においては、上記の5〜50000mm2/sという動粘度の範囲においてもできるだけ低粘度であることが好ましい。一方、比較的硬い材料や高加工の場合にはできるだけ高粘度であることが好ましい。
【0020】
上記アルミニウム管抽伸潤滑油の動粘度が5mm2/s未満の場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の潤滑性が不充分になり、抽伸加工時に焼き付き等の不具合が発生するおそれがある。一方、50000mm2/sを越える場合には、抽伸加工後に、上記アルミニウム管抽伸潤滑油を洗浄等により除去することが困難になるおそれがある。より好ましくは、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の温度40℃における動粘度は3000〜10000mm2/sがよい。
【0021】
上記アルミニウム管抽伸潤滑油の動粘度は、上記基油、カルナウバ、後述の油性剤、潤滑性向上剤、芳香族炭化水素、極圧剤の種類及び配合量等を変えることによって調整することができる。
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の温度40℃における動粘度は、例えばキャノン・フェンスケ粘度計(毛細粘度計の一種)により、一定量の試験油(アルミニウム管抽伸潤滑油)が毛管を通過するのに要する時間から測定することができる(キャノン・フェンスケ粘度測定方法)。
【0022】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、上記基油、カルナウバの他に、油性剤、潤滑性向上剤、芳香族炭化水素、極圧剤等の添加剤を含有することができる。
好ましくは、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、油性剤として、天然油脂、合成エステル、脂肪酸エステル、脂肪酸、及びアルコールから選ばれる一種以上を含有することがよい(請求項2)。
この場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の潤滑性をより向上させることができる。一般に、アルミニウム管の抽伸加工において、潤滑油の潤滑性は、主として境界潤滑性によるところが大きい。上記アルミニウム管抽伸潤滑油においては、上記特定の油性剤を添加することにより、境界潤滑性を向上させることができるため、潤滑性をより向上させることができる。
【0023】
また、天然油脂としては、例えば大豆油、なたね油、パーム油、やし油、豚脂、及び牛脂等がある。これらの中でも、操業性の観点から工業的には、パーム油、やし油が好ましい。
【0024】
次に、合成エステルとしては、例えばネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、及びペンタエリスリトールエステル等がある。合成エステルを構成する脂肪酸は、飽和あるいは不飽和のもの、また直鎖あるい分枝を有するものであってもよいが、上記基油との相溶性及びハンドリングの面から炭素数が12〜18のものがより好ましい。また、合成エステルとしては、フルエステル或いは部分エステルのどちらでも用いることができる。
また、上記合成エステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステル、及びテトラエ
ステルから選ばれる1種又は2種以上からなることが好ましい。
この場合には、熱による酸化に対する安定性や、境界潤滑性をより向上させることができる。
【0025】
ネオペンチルグリコールエステルとしては、具体的には、例えばネオペンチルグリコールカプリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールカプリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールリノレン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールリノレン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールオレイン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールオレイン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールイソステアリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールイソステアリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールやし油脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコールやし油脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコール牛脂脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコール牛脂脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコールパーム油脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコールパーム油脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコール2モル・ダイマ酸1モル・オレイン酸2モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸及び牛脂脂肪酸のエステルがよい。
【0026】
また、トリメチロールプロパンエステルとしては、例えばトリメチロールプロパンカプリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンカプリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンカプリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸モノエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸ジエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸トリエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸モノエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸ジエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸トリエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパン2モル・ダイマ酸1モル・オレイン酸4モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸、及び牛脂脂肪酸のエステルがよい。
【0027】
また、ペンタエリスリトールとしては、例えばペンタエリスリトールカプリン酸モノエ
ステル、ペンタエリスリトールカプリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸モノエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸ジエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸トリエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸モノエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸ジエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸トリエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトールプロパン2モル・ダイマー酸1モル・オレイン酸6モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸、及び牛脂脂肪酸のエステルがよい。
【0028】
次に、上記油性剤として添加する上記脂肪酸エステルとしては、一般式(2)R3−COO−R4(ただし、R3は炭素数7〜17のアルキル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基)で表される脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
上記一般式(2)において、R3の炭素数が7未満の場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の境界潤滑性が低下したり、アルミ粉が凝着し易くなり抽伸不良が起こるおそれがある。またこの場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の臭気がきつくなり、作業環境を悪化させるおそれがある。一方、R3の炭素数が17を超える場合、又はR4の炭素数が4を超える場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の融点が高くなり、常温で固化し易くなるおそれがある。そのため、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の使用時に、該潤滑油を加熱するための加熱設備等が必要となり、アルミニウム管抽伸潤滑油の取り扱いが困難になるおそれがある。
【0029】
上記脂肪酸エステルの具体例としては、例えばカプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、カプリル酸ブチル、ペラルゴン酸メチル、ペラルゴン酸エチル、ペラルゴン酸プロピル、ペラルゴン酸ブチル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル等がある。
【0030】
次に、上記油性剤として添加する上記脂肪酸としては、例えばカプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、デミスリチン酸、ペンタデカン酸、パルチミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の直鎖飽和脂肪酸や、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノル酸、リノレン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸等がある。工業的により好ましい脂肪酸としては、潤滑性、作業性、長期安定性及びコストの面を考慮して、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸等がよい。
【0031】
次に、上記油性剤として添加するアルコールとしては、一般式(3)R5−OH(ただし、R5は炭素数8〜18のアルキル基)で表される高級アルコールが好ましい。
上記一般式(3)において、R5の炭素数が8未満の場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の境界潤滑性が低下したり、アルミ粉が凝着し易くなり抽伸不良が起こるおそれがある。また、この場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の臭気がきつくなり、作業環境を悪化させるおそれがある。一方、18を越える場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の融点が高くなり、常温で固化し易くなるおそれがある。そのため、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の使用時に、該潤滑油を加熱するための加熱設備等が必要となり、アルミニウム管抽伸潤滑油の取り扱いが困難になるおそれがある。より好ましくは、上記一般式(3)におけるR5の炭素数は12〜15がよい。
【0032】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、潤滑性向上剤として、α−オレフィンを含有することが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の潤滑性をより一層向上させることができる。
【0033】
α−オレフィンは、分子の末端に二重結合を有し、アルミニウム管の表面に化学吸着し易い性質を有しており、潤滑性向上剤として好適である。
一般に、アルミニウムの抽伸加工等の塑性加工時においては、アルミニウムの活性な新生面が現れる。α−オレフィンは、主にこの新生面に吸着して油性剤としての役割を果たし、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の潤滑性を向上させることができる。なお、塑性加工前においては、アルミニウムの表面は酸化被膜によって覆われており、酸化被膜によって覆われたアルミニウムに対しては、脂肪酸エステル、脂肪酸等が吸着し易い。
【0034】
上記アルミニウム管抽伸潤滑油において、上記潤滑性向上剤として用いるα−オレフィンとしては、全炭素数が14〜18のものが好ましい。炭素数が14未満の場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の境界潤滑性が低下するおそれがある。一方、炭素数が18を越える場合には、温度0℃付近で上記アルミニウム管抽伸潤滑油が凝固し易くなるおそれがある。そのため、冬季や寒冷地等における使用が困難になるおそれがある。
【0035】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、芳香族炭化水素を含有することが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記基油とカルナウバとの相溶性を向上させることができる。また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油が、上記油性剤、潤滑向上剤及び後述の極圧剤等を含有する場合には、これらと上記基油との相溶性を向上させることができる。その結果、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の境界潤滑性をより向上させることができる。また、上記芳香族炭化水素としては、一分子にベンゼン環が2個以下のものが好ましい。上記芳香族炭化水素に含まれるベンゼン環が2個を越える場合には、相溶性の向上効果が充分に発揮できなくなるおそれがある。
【0036】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、極圧剤として、一般式(1)で表されるアルキルフォスフォン酸エステル及び/又はリン酸トリトリルを含有することが好ましい(請求項5)。
【化2】

(但し、R1は炭素数12〜14のアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0037】
この場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の境界潤滑性をより向上させることができる。
上記一般式(1)においてR1の炭素数が12未満の場合には、極圧性及び境界潤滑性が劣化し、焼き付きが発生するおそれがある。一方、14を越える場合には、抽伸後の洗浄により上記アルミニウム管抽伸潤滑油を除去することが困難になるおそれがある。また、この場合には、上記アルミニウム管抽伸潤滑油の調整時に粘度が高くなり、取り扱いが困難になるおそれがある。
また、R2の炭素数が4を越える場合には、工業的な製造コストが増大し、コストに見合った潤滑性の向上効果が充分に得られないおそれがある。
【0038】
また、上記アルミニウム管抽伸潤滑油に含まれる上記油性剤、上記潤滑性向上剤、上記芳香族炭化水素、及び上記極圧剤の合計含有量は、0.1〜50重量%であることが好ましい(請求項6)。
上記合計含有量が0.1重量%未満の場合には、上記油性剤、上記潤滑性向上剤、上記芳香族炭化水素、及び上記極圧剤による上述の境界潤滑性の向上効果が充分に得られないおそれがある。一方、50重量%を越える場合には、抽伸加工後に上記アルミニウム管抽伸潤滑油を除去することが困難になり、抽伸加工後の脱脂や焼鈍等の工程における残油量が多くなり、アルミニウム管の表面品質に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0039】
また、上記第2の発明においては、上記アルミニウム管抽伸潤滑油をアルミニウム管の内面及び/又は外面に供給し、アルミニウム管の抽伸加工を行う。
上記アルミニウム管の抽伸加工においては、一方からアルミニウム管を送り出し、他方からダイスを通してアルミニウム管を引き抜くことにより、抽伸を行い、ダイス穴形状と同じ断面のアルミニウム管を得ることができる。また、例えば心金やプラグ等をアルミニウム管の内面に配置した状態で、上記のごとくアルミニウム管をダイスを通して引き抜くことにより、管の外形のみならず、内径あるいは肉厚をも所望の寸法に仕上げることができる。
【0040】
上記アルミニウム管の抽伸方法においては、上記アルミニウム管抽伸潤滑油を上記アルミニウム管の内面及び/又は外面に供給して抽伸加工を行う。即ち、アルミニウム管の内面又は外面のいずれか一方、又は内面と外面の両方に上記アルミニウム管抽伸潤滑油を供給して抽伸加工を行うことができる。また、ダイス、心金、プラグ等に上記アルミニウム管抽伸潤滑油を供給することもできる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
次に、本発明のアルミニウム管抽伸潤滑油の実施例につき、具体的に説明する。
本例においては、後述の表1に示すごとく、本発明の実施例として複数種類のアルミニウム管抽伸潤滑油(試料E1〜試料E14)と、後述の表2に示すごとく比較例として複数種類の抽伸潤滑油(試料C1〜試料C13)を作製し、各種性能の比較試験を行った。
【0042】
試料E1〜試料E14は、基油とカルナウバとを必須成分とし、さらに油性剤、潤滑性向上剤、芳香族炭化水素、及び極圧剤から選ばれる1種以上を所定量配合し、温度40℃における動粘度が5〜50000mm2/sとなるように調整して作製したものである。
また、試料C1〜試料C13は、基油を必須成分とし、さらにカルナウバ、油性剤、潤滑性向上剤、芳香族炭化水素、及び極圧剤から選ばれる1種以上を所定量配合して作製したものである。
基油としては、表3に示すごとく、平均分子量980又は3700のポリイソブチレン、40℃における動粘度1.3mm2/sのイソパラフィン、40℃における動粘度300mm2/sの鉱物油のいずれか1種以上を用いた。表1及び表2において、A1〜A4は基油の種類を示し、その具体的な種類は表3に示してある。
【0043】
また、油性剤としては、表3に示すごとく、ラウリルアルコール、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、トリメチロールプロパンオレイン酸トリエステル、パーム油のいずれか1種以上を用いた。表1及び表2において、B1〜B5は油性剤の種類を示し、その具体的な種類は表3に示してある。
極圧剤としては、表1〜表3に示すごとく、ドデシルフォスフォン酸ジメチルエステル又はリン酸トリトリルを用いた。表1及び表2において、D1及びD2は、極圧剤の種類を示し、その具体的な種類は表3に示してある。
また、潤滑性向上剤としてはテトラデセン−1を用い、芳香族炭化水素としては温度40℃における動粘度が3.8mm2/sのエチルベンゼンを用いた。
【0044】
本例においては、試料E1〜試料E14及び試料C1〜試料C13のアルミニウム管抽伸潤滑油について、相状態(固体、液体、気体)を視認により確認し、相状態が液体であった試料について、温度40℃の動粘度を測定した。動粘度は、上述のキャノン・フェンスケ粘度測定方法によって測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0045】
また、本例においては、相状態が液体であった試料について、下記の焼き付き評価試験を行った。
「焼き付き評価試験」
まず、熱間押出しにより製作したアルミニウム合金管(材質A5052、外径53.0mm、内径35.0mm、長さ約4m)を準備した。次いで、各試料(試料E1〜試料E14及び試料C1〜試料C13)をそれぞれ使用して、アルミニウム合金管を外径45.4mm、内径30.0mmの寸法にする抽伸加工を行った。この抽伸加工は、出側材料速度40m/分という条件で行った。
各試料の潤滑性が悪い場合には、抽伸加工後のアルミニウム合金管表面に潤滑不良にともなう焼き付きが発生する。この焼き付きの有無を目視にて評価し、焼き付きがなかった場合を「○」、焼き付きが生じた場合を「×」として、その結果を表1及び表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表1より知られるごとく、試料E1〜試料E14のアルミニウム管抽伸潤滑油は、相状態が液体であり、抽伸加工の際に問題なくアルミニウム管に供給することができた。また、試料E1〜試料E14を用いて抽伸加工を行った場合には、焼き付き等の不具合は発生せず、試料E1〜試料E14は優れた潤滑性を発揮できることがわかる。
また、試料E1〜試料E14は、基油と、比較的安価な添加剤(カウナウバ、潤滑性向上剤、油性剤、極圧剤等)とから作製することができる。そのため、低コストで抽伸加工を行うことできると共に、上述のごとく優れた潤滑性を発揮することができる。
【0050】
一方、表2より知られるごとく、試料C1〜試料C9、試料C11及び試料C13を用いて抽伸加工を行った場合には、焼き付けが発生した。したがって、試料C1〜試料C9、試料C11及び試料C13は、潤滑性が不充分であることがわかる。また、試料C10及び試料C12は、相状態がそれぞれ固体及び半固体であったため、抽伸加工の際にアルミニウム管に供給することができなかった。
【0051】
以上のごとく、本発明の実施例にかかるアルミニウム管抽伸潤滑油(試料E1〜試料E14)は、潤滑性に優れ、低コストで抽伸加工を行うことができるものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム管の抽伸加工に用いられるアルミニウム管抽伸潤滑油であって、
該アルミニウム管抽伸潤滑油は、鉱物油、未水素添加又は水素添加のポリイソブチレン、及びイソパラフィンから選ばれる1種以上の基油と、カルナウバとを含有し、
上記アルミニウム管抽伸潤滑油におけるカルナウバの含有量は0.05〜5.0重量%であり、
上記アルミニウム管抽伸潤滑油の温度40℃における動粘度は5〜50000mm2/sであることを特徴とするアルミニウム管抽伸潤滑油。
【請求項2】
請求項1において、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、油性剤として、天然油脂、合成エステル、脂肪酸エステル、脂肪酸、及びアルコールから選ばれる一種以上を含有することを特徴とするアルミニウム管抽伸潤滑油。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、潤滑性向上剤として、α−オレフィンを含有することを特徴とするアルミニウム管抽伸潤滑油。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、芳香族炭化水素を含有することを特徴とするアルミニウム管抽伸潤滑油。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記アルミニウム管抽伸潤滑油は、極圧剤として、一般式(1)で表されるアルキルフォスフォン酸エステル及び/又はリン酸トリトリルを含有することを特徴とするアルミニウム管抽伸潤滑油。
【化1】

(但し、R1は炭素数12〜14のアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項において、上記アルミニウム管抽伸潤滑油に含まれる上記油性剤、上記潤滑性向上剤、上記芳香族炭化水素、及び上記極圧剤の合計含有量は、0.1〜50重量%であることを特徴とするアルミニウム管抽伸潤滑油。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の上記アルミニウム管抽伸潤滑油をアルミニウム管の内面及び/又は外面に供給し、アルミニウム管の抽伸加工を行うことを特徴とするアルミニウム管の抽伸方法。

【公開番号】特開2006−199875(P2006−199875A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14595(P2005−14595)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】