説明

アルミニウム薄膜及びその製造方法、電解コンデンサ、触媒金属膜、並びに分離素子

【課題】真空蒸着によるドライな条件で、化学薬品を使用することなく、廃棄物の排出を抑えながら極めて大きな比表面積を有するアルミニウム薄膜を実現する。
【解決手段】高真空中で、蒸着温度460℃以上520℃以下、蒸着速度0.5nm/s以上10.0nm/s以下の成膜条件で、アルミニウム基板上に蒸着法によりアルミニウムを成膜し、直径が0.7μm以上1.5μm以下であって先端尖状の柱状とされた複数の各々孤立したアルミニウム粒子から構成され、前記各アルミニウム粒子間には貫通した空隙が形成されており、凹凸状の表面を有するアルミニウム薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム薄膜及びその製造方法、このアルミニウム薄膜を用いた電解コンデンサ、触媒金属膜、並びに分離素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサに用いられる電極は、いわゆる溶液法により、アルミニウム薄膜の電気的なエッチングを用い、大量の電気及び化学薬品を使用して、廃棄物を排出しながら製造されている。現在、この溶液法によるアルミニウム薄膜の表面積の増加率は限界に達しており、新しい製造方法による表面積の更なる拡大が望まれている。
【0003】
真空蒸着法を用いたアルミニウム薄膜の製造方法が特許文献1に開示されている。この技術では、分圧2×10-3Torr〜5×10-3Torrの窒素と分圧2×10-4Torr〜5×10-4Torrの酸素との混合雰囲気中、蒸着速度約300オングストローム/sで温度300℃のアルミニウム箔上にアルミニウムを蒸着する。これにより、カリフラワー状の表面構造を有するアルミニウム薄膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−524686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術によれば、電解コンデンサの電極として、大きな表面積を有するアルミニウム薄膜が得られる。しかしながら近時では、表面積の更に大きなアルミニウム薄膜が要求されつつある。また、電解コンデンサの電極以外にも、様々な用途に適応したアルミニウム薄膜が求められている。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、真空蒸着によるドライな条件で、化学薬品を使用することなく、廃棄物の排出を抑えながら極めて大きな比表面積を有するアルミニウム薄膜及びその製造方法、電解コンデンサ、触媒金属膜、並びに分離素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアルミニウム薄膜の製造方法は、高真空中で、蒸着温度を460℃以上520℃以下として、アルミニウム基板上に真空蒸着法によりアルミニウム薄膜を形成する。
【0008】
本発明のアルミニウム薄膜は、直径が0.7μm以上1.5μm以下の範囲内にあって先端尖状の柱状とされた複数の各々孤立したアルミニウム粒子から構成され、前記各アルミニウム粒子間には貫通した空隙が形成されており、凹凸状の表面を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、真空蒸着によるドライな条件で、化学薬品を使用することなく、廃棄物の排出を抑えながら極めて大きな比表面積を有するアルミニウム薄膜を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態において、各種基板の加熱に用いるヒーターブロック及びマスクを示す模式図である。
【図2】電解コンデンサの概略構成を示す模式図である。
【図3】触媒金属膜の概略構成を示す模式図である。
【図4】分離素子の概略構成を示す模式図である。
【図5】雲母基板上に形成したAl薄膜のSEMによる画像写真を示す図である。
【図6】雲母基板上に形成したAl薄膜のAFMによる測定結果を示す図である。
【図7】W基板上に形成したAl薄膜のSEMによる画像写真を示す図である。
【図8】W基板上に形成したAl薄膜のAFMによる測定結果を示す図である。
【図9】Mo基板上に形成したAl薄膜のSEMによる画像写真を示す図である。
【図10】Mo基板上に形成したAl薄膜のAFMによる測定結果を示す図である。
【図11】SUS基板上に形成したAl薄膜のSEMによる画像写真を示す図である。
【図12】SUS基板上に形成したAl薄膜のAFMによる測定結果を示す図である。
【図13】Au基板上に形成したAl薄膜のSEMによる画像写真を示す図である。
【図14】Au基板上に形成したAl薄膜のAFMによる測定結果を示す図である。
【図15】Al基板上に形成したAl薄膜のSEMによる画像写真を示す図である。
【図16】Al基板上に形成したAl薄膜のAFMによる測定結果を示す図である。
【図17】Al基板上に形成したAl薄膜のSEMによる画像写真を示す図である。
【図18】Al基板上に形成したAl薄膜の構成を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のアルミニウム薄膜及びその製造方法の具体的な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、高真空中で金属基板、例えばアルミニウム(Al)基板上に、以下で説明する諸条件でAlを真空蒸着法により蒸着して、Al薄膜を形成する。
【0012】
Al基板上へのAlの真空蒸着は、例えば、内径40cm、高さ28cmのステンレス製のベルジャー内で行い、液体窒素トラップを付けた例えば6インチの油拡散ポンプを用いて真空排気を行う。ベルジャーに取り付けた電離真空計を用いて真空度を測定する。
【0013】
本実施形態では、Al薄膜を作製する際に、例えば抵抗加熱法を用いる。Al基板の加熱には、図1に示すように、銅製のヒーターブロック11と、Al基板を載置するためのマスク12とを使用する。ヒーターブロック11には、熱電対の穴11aが形成されている。Al基板の加熱には、ヒーターブロック11を用い、温度校正された熱電対を用いて温度を測定する。蒸着時のボートの加熱によるヒーターブロック11の温度上昇は最高で例えば3℃程度である。
【0014】
〈Al基板の洗浄〉
アセトン及びメタノールを用いて、Al基板を洗浄する。具体的には、Al基板をアセトン中に浸漬させ、10分間の超音波洗浄を2回行う。続いて、Al基板をメタノール中に浸漬させ、10分間の超音波洗浄を2回行う。
【0015】
〈真空蒸着法〉
上記のように、抵抗加熱法を用いて真空蒸着を行う。真空蒸着装置の蒸着チャンバ内に、蒸着源、ここでは例えば純度99.999%のAlを例えばモリブデン(Mo)製或いはタングステン(W)製のボートに載置し、ボートに電流を流すことによって蒸着源を加熱し、被蒸着対象であるAl基板上にAlを蒸着する。ボートとAl基板との距離を例えば13cmにする。Al基板の直下のシャッタを開閉することにより、蒸着の開始及び終了の操作を行う。Al基板の近傍に設けられた水晶振動子膜厚計を用いて蒸着速度及びAl膜厚を測定する。
なお、本実施形態の真空蒸着として、抵抗加熱法の代わりに、電子ビームを蒸着源に集中照射して加熱し蒸発させる、いわゆる電子ビーム加熱蒸着法を用いることもできる。
【0016】
上記のように洗浄したAl基板を蒸着チャンバ内に設置し、1.4×10-6Torr以上3.1×10-6Torr以下の高真空中で、500℃に例えば2時間程度保持する。そして、460℃以上520℃においてAl基板上に、0.5nm/s以上10.0nm/s以下の蒸着速度でAlを蒸着する。Al基板の温度が90℃程度となるまで自然冷却した後、Al基板を大気中に取り出す。
【0017】
本実施形態による真空蒸着の各条件において、真空度が低い(例えば、10-4〜10-5Torr程度)と、Al基板の表面に汚染物が付着し易く、基板表面の清浄度が劣る。また、上記のボートが焼き切れ易くなる。本実施形態では、雰囲気ガス等を用いることなく、1.4×10-6Torr以上3.1×10-6Torrの高真空度とすることにより、Al基板表面の清浄度が向上し、ボートの焼き切れ等の真空蒸着装置の不都合が生じることもない。本実施形態の高真空度で加熱したAl基板について、X線光電子分光法(XPS)により調べたところ、Al基板表面の十分な清浄度が確認された。
【0018】
また、蒸着温度が550℃を越えると、Al基板が上記のヒーターブロックに付着して変形する懸念がある。蒸着温度が比較的低温、例えば400℃程度であると、下記の構造を有する独立したAl粒子のアレー構造を得ることができない懸念がある。本実施形態では、下記の構造のAl薄膜を確実に得るべく、蒸着温度を460℃以上520℃以下に規定する。
また、本実施形態では、下記の構造のAl薄膜を確実に得るべく、蒸着速度を0.5nm/s以上10.0nm/s以下に規定する。
【0019】
〈作製されたAl薄膜〉
Al基板上にはAl薄膜が形成される。作製されたAl薄膜は、先端尖状の柱状とされた複数の各々孤立したAl粒子がAl基板上に並列して集合するアレー構造として構成される。
Al薄膜を構成する各Al粒子は、平均直径が1.1μmで標準偏差が0.4μmのほぼ均一な範囲に分布しており、高さは例えば0.15μm程度で殆どばらつきなく均一である。Al薄膜の膜厚はAl粒子の高さと等しく、例えば0.15μm程度となる。各Al粒子間には貫通した空隙が形成されており、Al薄膜は凹凸状の表面を有する。この構造により、当該Al薄膜は、極めて大きな比表面積を有する。比表面積とは、単位体積当たりの表面積を言う。
【0020】
〈Al薄膜の利用方法〉
本実施形態により作製されるAl薄膜は、例えば以下に示すような多種の用途に利用される。
【0021】
(1)電解コンデンサの電極
電解コンデンサの概略構成を図2に示す。
図2(a)の一部断面図に示すように、電解コンデンサは、陽極箔21と陰極箔22とで誘電体であるセパレータ23を挟持し、陽極箔21とセパレータ23との界面及び陰極箔22とセパレータ23との界面に電解液24が浸潤して構成される。
【0022】
コンデンサでは、その容量は、誘電体膜を挟んで対向する各電極の対向面の表面積に比例する。図2(b)に示すコンデンサでは、対向配置する電極25,26の各対向面25a,26aは平坦であり、これらの表面積(比表面積)は小さい。これに対して図2(c)に示すコンデンサでは、対向配置する電極27,28の各対向面27a,28aは凹凸状とされており、図2(b)と比べて表面積(比表面積)は大きい。図2(c)では、対向面27a,28aの凹凸が微細である(凹凸の数が多い)ほど表面積(比表面積)は増大する。
【0023】
従って図2(a)の電解コンデンサでは、陽極箔21及び陰極箔22の各対向面の表面積(比表面積)が大きいほど、また各対向面の凹凸が微細である(凹凸の数が多い)ほど表面積(比表面積)は大きく、その容量も大きい。
【0024】
本実施形態のAl薄膜は、均一形状のAl粒子からなる微細な凹凸状表面により、表面積(比表面積)は極めて大きい。一例として、本実施形態のAl薄膜は、表面が平坦なAl薄膜の2.7倍程度の比表面積を持つことが確認されている。このAl薄膜を電解コンデンサの電極の少なくとも一方(上記の例では陽極箔21及び陰極箔22の双方)に適用することにより、極めて大きな容量を得ることができる。
【0025】
(2)触媒金属膜
Al薄膜は、その表面に存する(自然酸化等により生成された)アルミナ(Al23)が化学工業における各種の触媒として機能するため、触媒金属膜として用いられる。
触媒金属膜では、触媒の反応効率は表面積によって決まる。図3(a)のように、表面31aが平坦で表面積の小さい触媒金属膜31に比べて、図3(b)のように、表面32aが凹凸状で表面積の大きい触媒金属膜32では、反応物質(反応前をA、反応後をBとする)との接触頻度が多く、触媒の反応効率が高い。
【0026】
本実施形態のAl薄膜は、均一形状のAl粒子からなる微細な凹凸状表面により、表面積(比表面積)は極めて大きい。このAl薄膜を触媒金属膜に適用する(触媒金属膜32に適用する)ことにより、極めて高い反応効率を得ることができる。
【0027】
(3)分離素子
Al薄膜の表面のアルミナは、薄層クロマトグラフィ(TLC)と同様に、その表面における物質との相互作用を利用することにより短時間で物質を分離する機能を有するため、分離素子として用いられる。
分離素子では、物質との相互作用の効率は表面積によって決まる。図4(a)のように、表面41aが平坦で表面積の小さい分離素子41に比べて、図4(b)のように、表面42aが凹凸状で表面積の大きい分離素子42では、物質との相互作用の頻度が多く、相互作用の効率が高い。
【0028】
本実施形態のAl薄膜は、均一形状のAl粒子からなる微細な凹凸状表面により、表面積(比表面積)は極めて大きい。このAl薄膜を分離素子に適用する(分離素子42に適用する)ことにより、極めて高い相互作用効率を得ることができる。そのため本実施形態のAl薄膜は、近年着目されている、例えばLOC(Laboratory On a Chip)等への応用が期待できる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例及びその比較例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
〈各種の基板上に形成したAl薄膜の表面状態〉
Al薄膜を蒸着形成する基板の材質をいくつか変えて、本実施形態による蒸着条件でAl薄膜を形成し、作製された各Al薄膜について、これらの表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察及び測定した。SEMによる観察条件は、15kVで3000倍あるいは6000倍とした。AFMによる測定条件は、10μm×10μm、500nmグレースケールとした。
【0031】
基板として、雲母基板、W基板、Mo基板、ステンレス(SUS)基板、金(Au)基板、Al基板をサンプル基板として用いた。
先ず、W基板、Mo基板、SUS基板、Au基板、Al基板の各サンプル基板をアセトン及びメタノールを用いて洗浄した。具体的には、各サンプル基板をアセトン中に浸漬させ、10分間の超音波洗浄を2回行った。続いて、各サンプル基板をメタノール中に浸漬させ、10分間の超音波洗浄を2回行った。
【0032】
真空蒸着装置を用いて、各サンプル基板を500℃まで加熱し、その状態で2時間保持した。加熱後の各サンプル基板の表面が清浄されることをXPSにより確認した。
各サンプル基板に対して、1.4×10-6Torr以上3.1×10-6Torr以下の高真空中で、蒸着温度500℃、蒸着速度0.5nm/s,2.0nm/s,10.0nm/sでAlを蒸着し、各Al薄膜を膜厚150nm程度に形成した。
各サンプル基板を自然冷却により90℃程度まで冷却した後、各サンプル基板を真空チャンバから取り出した。
【0033】
SEMによる画像写真及びAFMによる測定結果を図5〜図16に示す。
図5、図7、図9、図11、図13、図15は、それぞれ、雲母基板、W基板、Mo基板、SUS基板、Au基板、Al基板のSEMによる画像写真を示している。倍率は3000倍である。各図において、(a)が蒸着速度0.5nm/s、(b)が2.0nm/s、(c)が10.0nm/sの場合にそれぞれ対応する。
図6、図8、図10、図12、図14、図16は、それぞれ、雲母基板、W基板、Mo基板、SUS基板、Au基板、Al基板のAFMによる測定結果を示している。各図において、(a)が蒸着速度0.5nm/s、(b)が2.0nm/s、(c)が10.0nm/sの場合にそれぞれ対応する。
【0034】
雲母基板を用いた場合には、図5及び図6のように、孤立状態のAl領域を有する表面状態のAl薄膜が得られた。しかしながら、各Al領域は比較的大きく、Al薄膜の大きな比表面積を得るには至らないものと評価される。
【0035】
W基板、Mo基板、SUS基板を用いた場合には、図7〜図12のように、作製されたAl薄膜の表面には所々に亀裂が生じており、明確に孤立したAl粒子の構造は見られない。
【0036】
Au基板を用いた場合には、図13及び図14のように、作製されたAl薄膜の表面には、孤立したAl粒子の構造が見られる。但し、孤立したAl粒子の構造はまばらであり、Al粒子の存在しない領域も見られる。
【0037】
Al基板を用いた場合には、図15及び図16のように、作製されたAl薄膜の表面には、孤立した円柱状であってサイズが均一なAl粒子の構造が明確に見られる。Al粒子とAl粒子との間には空隙が存在する。各Al粒子は、Al基板上から直立していると考えられる。個々のAl粒子の露出した側面部分が、Al薄膜の比表面積の増加に特に大きく寄与するものと考えられる。
【0038】
〈Al基板上に形成するAl薄膜の粒子直径の測定〉
図15のSEMによる画像写真に基づいて、Al粒子の直径を測定した。
具体的には、図15(a)〜(c)のSEMによる画像写真について、Al粒子の「直径」を各画像写真におけるAl粒子の水平方向(左右方向)と垂直方向(上下方向)の径と定義し、粒子の直径の平均値と標準偏差を求めた。その結果は以下の表1に示すように、1.1±0.4μmとなった。このことから、作製されたAl薄膜のAl粒子の直径は、0.7μm以上1.5μm以下のほぼ均一な範囲に分布していることが確認された。
【0039】
〈Al基板上に形成するAl薄膜の蒸着速度の依存性〉
上記のように蒸着速度0.5nm/s、2.0nm/s、10.0nm/sでAl基板上に作製したAl薄膜について、W(nm)及びRms(nm)を測定し、最表面積の増加率を算出した。W(nm)はベアリング解析により求めた表面高さ分布のピークの半値幅を、Rms(nm)は表面高さの標準偏差であり、いずれも表面の粗さ度合いを表す。
最表面積とは、AFMで測定したAl薄膜の見かけの表面積を言う。結果を以下の表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から、蒸着速度に対するAl薄膜の最表面の形態及び表面粗さ、更に最表面積の増加率に大きな相違は認められなかった。
このように、蒸着速度を0.5nm/s〜10.0nm/sとして真空蒸着することにより、上記した所期の表面状態とされたAl薄膜を得ることができることが確認された。
なお、0.5nm/s〜10.0nm/sの範囲内の蒸着速度では、Al薄膜の表面状態に差異は認められなかった。
【0042】
〈Al基板上に形成したAl薄膜の全表面積の増加率〉
平坦な表面のAl基板のみの試料(試料A)と、上記のように当該表面にAl薄膜を蒸着速度0.5nm/s、2.0nm/s、10.0nm/sで形成したAl基板の試料(それぞれ試料B、試料C、試料D)とについて、交流インピーダンス法を用いて容量を測定した。具体的には、室温で0.5mol/lの硫酸ナトリウム水溶液中に試料A、B、C、Dをそれぞれ浸漬させ、カーボンファイバーの対電極を用いて試料A、B、C、Dの5mm×5mmの領域の電気二重層の容量を測定した。測定結果を以下の表2に示す。ここで、R1は溶液の抵抗、R2とCはそれぞれ電気二重層の抵抗と容量である。なお、電気二重層の容量Cはcm2当たりの値である。
【0043】
【表2】

【0044】
表2の結果から、以下のようにAl薄膜の全表面積の増加率を算出した。全表面積の増加率とは、Al薄膜の真の表面積を言う。
試料の容量は表面積に比例する。従って表2より、試料B、C、Dの表面積は試料Aの表面積のそれぞれ2.62、2.59、2.60倍となる。
このことから、本発明により作製した試料B、C、DのAl薄膜では、全表面積の増加率はそれぞれ162、159、160%となることが確認された。
【0045】
〈Al基板上に形成するAl薄膜の蒸着温度の依存性〉
上記のように蒸着速度2.0nm/sにおいて、Al基板上に作製したAl薄膜のSEMによる画像写真による測定結果を図17に示す。倍率は6000倍である。図17では、蒸着温度が460℃の場合を(a)に、蒸着温度が480℃の場合を(b)に、蒸着温度が520℃での場合を(c)にそれぞれ示す。作製されたAl薄膜の表面には、蒸着温度500℃で作製したAl薄膜と同様に、孤立した円柱状であってサイズが均一なAl粒子の構造が明確に見られる。Al粒子とAl粒子との間には空隙が存在する。各Al粒子は、Al基板上から直立していると考えられる。個々のAl粒子の露出した側面部分が、Al薄膜の比表面積の増加に特に大きく寄与するものと考えられる。
【0046】
図17(a)〜(c)のSEMによる画像写真について、上記のように粒子の直径の平均値と標準偏差を求めた。その結果は以下の表3に示すように、1.1±0.4μmとなった。このことから、作製されたAl薄膜のAl粒子の直径は、0.7μm以上1.5μm以下のほぼ均一な範囲に分布していることが確認された。
【0047】
【表3】

【0048】
平坦な表面のAl基板のみの試料(試料A)と、上記のように当該表面にAl薄膜を蒸着速度2.0nm/sにおいて、蒸着温度460℃、480℃、520℃で形成したAl基板の試料(それぞれ試料E、試料F、試料G)とについて、上記のように容量を測定した。測定結果を以下の表3に示す。ここで、R1は溶液の抵抗、R2とCはそれぞれ電気二重層の抵抗と容量である。なお、電気二重層の容量Cはcm2当たりの値である。
【0049】
表3より、試料E、F、Gの表面積は試料Aの表面積のそれぞれ2.69、2.68、2.61倍となる。このことから、本発明により作製した試料E、F、GのAl薄膜では、全表面積の増加率はそれぞれ169、168、161%となることが確認された。
【0050】
1.4×10-6Torr以上3.1×10-6Torr以下の高真空中で、蒸着温度500℃、蒸着速度0.5nm/s、2.0nm/s、10.0nm/sと、蒸着速度2.0nm/sで、460℃、480℃、520℃とで作製したAl薄膜の構成を模式的に図18に示す。
Al基板51上に、孤立した各Al粒子53の集合体としてAl薄膜52が形成されている。Al粒子53は、各々孤立したサイズが均一な円柱状とされ、直径1μm程度で高さ0.15μm程度とされている。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、真空蒸着によるドライな条件で、化学薬品を使用することなく、廃棄物の排出を抑えながら極めて大きな比表面積を有するAl薄膜を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
11 ヒーターブロック
11a 熱電対の穴
12 マスク
21 陽極箔
22 陰極箔
23 セパレータ
24 電解液
25,26,27,28 電極
25a,26a,27a,28a 対向面
31,32 触媒金属膜
31a,32a 表面
41,42 分離素子
41a,42a 表面
51 Al基板
52 Al薄膜
53 Al粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高真空中で、蒸着温度を460℃以上520℃以下として、アルミニウム基板上に真空蒸着法によりアルミニウム薄膜を形成することを特徴とするアルミニウム薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム薄膜を形成する際に、蒸着速度を0.5nm/s以上10.0nm/s以下とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記高真空は、1.4×10-6Torr以上3.1×10-6Torr以下の真空度であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム薄膜の製造方法。
【請求項4】
真空蒸着法として、抵抗加熱法を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム薄膜の製造方法。
【請求項5】
直径が0.7μm以上1.5μm以下の範囲内にあって、先端尖状の柱状形状をなす複数の孤立したアルミニウム粒子から構成され、前記各アルミニウム粒子間には貫通した空隙が形成されており、凹凸状の表面を有することを特徴とするアルミニウム薄膜。
【請求項6】
前記アルミニウム粒子は、直径の平均が1.1μmで標準偏差が0.4μmであることを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム薄膜。
【請求項7】
膜厚が前記アルミニウム粒子の高さに等しいことを特徴とする請求項5又は6に記載のアルミニウム薄膜。
【請求項8】
陽極箔と陰極箔とで誘電体を挟持してなる電解コンデンサであって、
前記陽極箔及び前記陰極箔の一方又は双方が、請求項5〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム薄膜を有することを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項9】
表面が触媒として機能する触媒金属膜であって、
請求項5〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム薄膜を有することを特徴とする触媒金属膜。
【請求項10】
表面における物質との相互作用を利用して物質を分離する分離素子であって、
請求項5〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム薄膜を有することを特徴とする分離素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−72495(P2012−72495A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189748(P2011−189748)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】