説明

アルミニウム青銅軸受材料の製造方法

【課題】 軸受合金にアルミニウム青銅を用い、このアルミニウム青銅を鋼裏金上に強固に接着した鋼裏金付きとすることができるアルミニウム青銅軸受材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 帯鋼1上にCuまたはCu合金板2を重ね、更にこのCuまたはCu合金板2上にAlまたはAl合金箔3を重ね、その後、加熱炉8で加熱する。この加熱によりAlまたはAl合金箔が溶融すると、そのAlまたはAl合金は、CuまたはCu合金板中に溶浸し、Cu−Al合金層を形成する。CuまたはCu合金中に溶浸したAl成分は帯鋼1との境界面に達すると、帯鋼1中に固溶する。このため、鋼裏金とCu−Al合金層とは金属的に結合し、強固に接合する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋼裏金層上にアルミニウム青銅層を固着してなるアルミニウム青銅軸受材料を製造する方法に関するものである。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】従来の青銅系軸受材料は、軸受合金として青銅、りん青銅、鉛青銅などを用いた鋼裏金付きのものが供されている。これら青銅系軸受材料は、青銅、りん青銅、鉛青銅などの青銅系焼結合金の粉末を帯鋼上に散布し、そして還元雰囲気を有する焼結炉で一次焼結を行った後、この焼結材を圧延して合金層の密度を上げ、そして再び焼結炉で二次焼結を行う、という製造方法が一般的である。
【0003】しかし、この青銅系軸受材料は、実使用されると、表面の摺動面側に硫化や酸化が起きるが、青銅系合金の硫化膜や酸化膜は低強度であり、またその硫化膜や酸化膜は厚く成長して摩擦により摺動面から容易に取り去られるため、非焼付性、耐摩耗性、耐腐食性が十分ではない。このため、従来の青銅軸受材料では、耐摩耗性の向上のために硬質粒子を含有させたものもあるが、摺動面での硬質粒子と相手材との摩擦熱により硬質粒子に接する青銅の腐食が激しく発生し、硬質粒子の脱落が起こり易い。
【0004】そこで、軸受合金に耐食性に優れたアルミニウム青銅を用いることが試みられている。アルミニウム青銅軸受材料は、アルミニウム青銅合金粉末や、Cu合金とAlやAl合金の混合粉末を用いるが、アルミニウム青銅合金粉末を用いる場合は、焼結雰囲気に還元力の強い水素ガスを用いても、Alや青銅粉末表面の酸化膜は還元されないため、粉末同士や、粉末と帯鋼との焼結が殆ど進まず、実用的なアルミニウム青銅軸受材料は得られない。
【0005】Cu合金粉末と、AlやAl合金の混合粉末を用いる場合は、焼結炉中でCu合金の粉末表面の還元ガスによる酸化膜の還元が十分に起きる前に、融点の低いAlやAl合金が溶解し、Cu合金の粉末表面に拡散するが、この拡散したAl表面に還元ガスでも還元できない強固な酸化膜を作るため、粉末同士や、粉末と帯鋼との焼結が不十分で、やはり、実用的なアルミニウム青銅軸受材料は得られない。
【0006】このようにアルミニウム青銅軸受材料では、鋼裏金とアルミニウム青銅との焼結が不十分であるため、鋳造法により鋼裏金なしのアルミニウム青銅ソリッド軸受とする製造方法もある。ところが、軸受は、一般に、運転中にハウジングから抜け出たり、軸との共回りを防止するため、ハウジング内径より軸受外形を若干大きくして締め代が生ずるようにしている。そのために軸受には、周方向の圧縮応力が発生し、設計上軸受が降伏しないように軸受の厚さや幅が決定されるが、上記のアルミニウム青銅ソリッド軸受は、鋼裏金付きではないので、軸受の厚さを厚くしたり、軸受幅を広くしたりしなければならない。このため、軸受が高価になるという問題が生じていた。
【0007】本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、軸受合金にアルミニウム青銅を用い、このアルミニウム青銅を鋼裏金上に強固に接着した鋼裏金付きとすることができるアルミニウム青銅軸受材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、鋼裏金上にCuまたはCu合金の板材を重ね、更にこのCuまたはCu合金の板材上にAlまたはAl合金の粉末または板材を重ね、この状態で加熱し、AlまたはAl合金を溶融させてCuまたはCu合金の板材中に溶浸させることを特徴とする。
【0009】加熱によりAlまたはAl合金が溶融すると、そのAlまたはAl合金は、CuまたはCu合金中に溶浸し、Cu−Al合金層を形成する。CuまたはCu合金中に溶浸したAl成分は鋼裏金との境界面に達すると、鋼裏金中に固溶する。このため、鋼裏金とCu−Al合金層とは金属的に結合し、強固に接合する。
【0010】上記のようにAl成分が鋼裏金中に拡散すると、鋼裏金層のアルミニウム青銅層との境界部では、Al含有量が0質量%を越える。このようにするためには、加熱工程を、750〜1070℃で10〜30分実施する。アルミニウム青銅軸受材料の厚さ調節のために、加熱工程の終了後に圧延を行っても良い。また、調質のための熱処理を実施しても良い。例えば、添加元素によってはγ相が生ずることがあり、このγ相は脆く、耐食性を害するので、熱処理によってβ相、κ相に変化させたり、また、β相は硬いが脆いため、熱処理によってα相単体に変化させたりする。
【0011】本発明では、アルミニウム青銅層のAl含有量を、13質量%以下としている。Alが13質量%を越えると、アルミニウム青銅層が脆くなる。このAl含有量は、アルミニウム青銅層の表面から鋼裏金との境界まで同じ値であっても良いし、表面から鋼裏金との境界まで次第に低下するようにしても良い。
【0012】アルミニウム青銅層には、強度向上のために、Ni、Mn、Fe、Sn、P、Siなどを含有させることができ、また、潤滑性向上のために、Pb、Biなどを含有させることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例を図1により説明する。この実施例は帯鋼にCuまたはCu合金展伸材とAlまたはAl合金展伸材とを通常のロール圧接法により圧接し、これを加熱することによって製造する。
【0014】すなわち、図1において、鋼裏金となる帯鋼1、帯状にされたCuまたはCu合金の展伸材2、同じく帯状の箔にされたAlまたはAl合金の展伸材3は、それぞれコイル状に巻かれ、アンコイラ4〜6にセットされている。これら帯鋼1、CuまたはCu合金の展伸材2、AlまたはAl合金の展伸材3は、それぞれアンコイラ4〜6により巻き戻されて帯鋼1の上にCuまたはCu合金の展伸材2、CuまたはCu合金の展伸材2の上にAlまたはAl合金の展伸材3が重ねられ、この状態で圧接用のローラ7によって圧接される。このローラ7による圧接は、加熱までの取り扱いで帯鋼1、展伸材2、3が剥れない程度で、また、加熱によってAlが拡散し易いように帯鋼1、展伸材2、3の相互間に隙間ができない程度でよく、特別な圧接方法を要しない。
【0015】接合された帯鋼1、展伸材2、3は、その後、加熱炉8に導入され、ここで750〜1070℃の還元雰囲気で10〜30分間加熱される。この加熱により、AlまたはAl合金の展伸材3は融点に達して溶融し、急激にCuまたはCu合金の展伸材2中に拡散(溶浸)してアルミニウム青銅層が形成され、更にそのAlは帯鋼1中に拡散する。以上により、図3に示すように、帯鋼1(鋼裏金層)上にアルミニウム青銅層9を固着してなるアルミニウム青銅軸受材料10が製造され、製造された帯状のアルミニウム軸受材料10はリコイラ11によりコイル状に巻き取られる。
【0016】図2は本発明の他の実施例を示すもので、上述の実施例との相違はAlまたはAl合金の展伸材3に代えて、粉末散布タンク12によりCuまたはCu合金の展伸材2上にAlまたはAl合金の粉末13を散布するようにしたところにある。なお、粉末13の散布後に圧延しても良い。散布されたAlまたはAl合金の粉末13は、加熱炉8で加熱されることにより溶融し、上述したと同様にしてCuまたはCu合金の展伸材2中に溶浸し、且つ帯鋼1中に拡散し固溶する。
【0017】このように、アルミニウム青銅層を、焼結によらず、AlまたはAl合金をCuまたはCu合金の展伸材に溶浸させることによって形成するので、アルミニウム青銅層のAlが鋼裏金層中に拡散して両層を強固に接合するようになる。従って、本発明によれば、鋼裏金付きのアルミニウム青銅軸受材料を連続的に容易に製造することができる。なお、加熱雰囲気は還元雰囲気の他、不活性雰囲気、真空雰囲気などのいずれかを用いても良い。
【0018】本発明により製造したアルミニウム青銅軸受材料では、摺動面の酸化膜(Al)が緻密で高強度であり、且つ厚く成長しないため、実使用により容易に取り去られることがなく、また、酸化膜が破壊され新生面が露出しても、その新生面には急速に酸化膜が形成されるので、非焼付性、耐摩耗性、耐腐食性に優れたものとなる。
【0019】また、本発明では、鋼裏金層とアルミニウム青銅層とが強固に接合された鋼裏金付きのアルミニウム青銅軸受材料とすることができるため、軸受として形成した場合に、従来のアルミニウム青銅ソリッド軸受とは異なり、降伏応力が高く、ハウジングに取り付けた時に締め代により発生する周方向の圧縮応力で降伏しないようにするために軸受厚さを厚くしたり、軸受幅を広くしたりしなくとも済み、軸受寸法を小さくすることができる。
【0020】本発明によるアルミニウム青銅軸受材料の効果を確認するために、次の表1に示す組成の本発明の実施例品1〜9と、比較例品1〜5を作成した。なお、各組成はアルミニウム青銅層表面の含有量を示している。
【0021】
【表1】


【0022】実施例品1、2、4〜8の試料は、鋼裏金とCuまたはCu合金展伸材とAlまたはAl合金展伸材とをロール圧接し、750〜1070℃の還元性雰囲気で10〜30分間加熱したものである。実施例品3、9の試料は、鋼裏金とCu展伸材とをロール圧接後、Al粉末を散布し、750〜1070℃の還元性雰囲気で10〜30分間加熱したものである。
【0023】比較例品1の試料(Al無し)は鋼裏金とCu展伸材とをロール圧接し、750〜1070℃の還元性雰囲気で10〜30分間加熱したもの、比較例品2の試料は鋼裏金とCu展伸材とAl展伸材とをロール圧接し、750〜1070℃の還元性雰囲気で10〜30分間加熱したものである。比較例品3、4は鋼裏金のアルミニウム青銅層との境界部でAl含有量が0となるように、鋼裏金とCu展伸材とAl展伸材とをロール圧接し(比較例品3)、または鋼裏金とCu展伸材とをロール圧接後、Al粉末を散布し(比較例品4)、750〜1070℃の還元性雰囲気で10〜30分間加熱したものである。比較例品5、6は銅合金粉末を鋼裏金上に散布し、750〜900℃の還元雰囲気で10〜30分間焼結後、ロール圧延により銅合金層を緻密化し、再び750〜900℃の還元雰囲気で10〜30分間焼結し、青銅焼結軸受材料としたものである。
【0024】上記のようにして作成した実施例品1〜9、比較例品1〜6について摩耗試験、焼付試験、疲労試験を実施した。この試験の結果は上記表1に示した。摩耗試験、焼付試験、疲労試験の条件は表2ないし4に示す通りである。
【0025】
【表2】


【0026】
【表3】


【0027】
【表4】


【0028】上記の試験結果を分析する。実施例品1〜9は、Alを全く含まない比較例品1に比べて、耐摩耗性、非焼付性、耐疲労性の全てにおいて優れ、しかも、従来の一般的な青銅軸受材料である比較例品5、6に比べても、耐摩耗性、非焼付性、耐疲労性の全てで優れている。
【0029】実施例品8、9はAlを本発明の上限値(13質量%)だけ含むが、Alを本発明の上限値を越えて含む比較例品2に比し、特に耐疲労性に優れる。また、鋼裏金層のアルミニウム青銅層との境界部でAl含有量が0である比較例品3、4は青銅層の接着性が悪く、耐疲労性に劣る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すもので、製造設備を示す図
【図2】本発明の他の実施例を示す図1相当図
【図3】本発明のアルミニウム青銅軸受材料の断面図
【符号の説明】
図中、1は帯鋼(鋼裏金層)、2はCuまたはCu合金板、3はAlまたはAl合金箔、7はローラ、8は加熱炉、9はアルミニウム青銅層、13はAlまたはAl合金粉末である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼裏金層と、この鋼裏金層上に固着されたアルミニウム青銅層とを具備し、その鋼裏金層のアルミニウム青銅層との境界部で0質量%を越えたAl含有量となるアルミニウム青銅軸受材料を製造する方法において、鋼裏金上にCuまたはCu合金の板材を重ね、更にこのCuまたはCu合金の板材上にAlまたはAl合金の粉末または板材を重ね、この状態で加熱し、前記AlまたはAl合金を溶融させて前記CuまたはCu合金の板材中に溶浸させることを特徴とするアルミニウム青銅軸受材料の製造方法。
【請求項2】 前記アルミニウム青銅層のAl含有量は、13質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム青銅軸受材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2003−214433(P2003−214433A)
【公開日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−11432(P2002−11432)
【出願日】平成14年1月21日(2002.1.21)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】