説明

アンタントレン系化合物及び半導体装置

【課題】半導体層を構成する有機半導体材料として、安定性が良好であるアンタントレン系化合物を提供。
【解決手段】大気中での安定性が良好である構造式(1)で表されるオリゴ・ジカルコゲノ・アンタントレン系化合物。


ここで、Xは第16族元素を示し、nは0乃至20の整数を表し、mは1乃至9の整数を表し、置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基等から成る群から選択された1種類の置換基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンタントレン系化合物、及び、係るアンタントレン系化合物から成る半導体層を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料から成る半導体層を備えた半導体装置が注目されている。このような半導体装置は、無機材料から成る半導体層を備えた構成と比較して、半導体層を低温で塗布成膜することが可能である。そのため、大面積化に有利であると共に、プラスチック等の、耐熱性は低いが、可撓性を有する基板上への形成が可能であり、多機能化と共に低コスト化も期待されている。
【0003】
現在、半導体層を構成する有機半導体材料として、例えば、下記の構造式を有するアントラセン、ナフタセン、ペンタセン等のポリアセン化合物が広く研究されている。
【0004】

【0005】
これらのポリアセン化合物は、環の長さが延びていくと共にπ系が広がり、隣り合う分子間でより大きな軌道の重なりを形成し、キャリア移動度が向上することが期待されている。しかしながら、一般には、ペンタセンが安定に存在できる最大の長さであり、ヘキサセンより長いポリアセン化合物は不安定となると云われている。このため単離することが困難である(非特許文献1及び非特許文献2参照)。また、広いπ系を構築する手段として、ポリアセン化合物を複数個結合させたオリゴポリアセン化合物が報告されている(特許文献1、非特許文献3及び非特許文献4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−107257
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry, 1999, Vol. 64, pp. 2505-2512
【非特許文献2】Journal of The American Chemical Society, 2006, Vol. 128, pp. 2873-2879
【非特許文献3】Angewante Chemie, International Edition, 2003, Vol. 42, pp. 1159-1162
【非特許文献4】Journal of Applied Physics, 2004, Vol. 95, pp. 5795-5799
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、構成単位であるポリアセン化合物は、分子内に反応活性部位を有し(具体的には、例えば、ペンタセンにあっては、6位及び12位において、電子密度が高く、6位及び12位は反応活性部位である)、酸素、光、水、高温等によって容易に分解反応を起こし、大気中での安定性が良くない。そして、このようなポリアセン化合物を有する限り、オリゴポリアセン化合物においても、分子の安定性を確立することは困難であると考えられる。
【0009】
従って、本発明の目的は、大気中での安定性が良好であるアンタントレン系化合物、及び、係るアンタントレン系化合物から成る半導体層を備えた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物は、以下の構造式(1)で表されるアンタントレン系化合物(オリゴ・ジカルコゲノ・アンタントレン系化合物)である。
【0011】

【0012】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物は、以下の構造式(2)で表されるアンタントレン系化合物(オリゴ・ジカルコゲノ・アンタントレン系化合物)である。
【0013】

【0014】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る半導体装置は、基体上に形成された、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域を備えており、
チャネル形成領域は、上述した本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物(オリゴ・ジカルコゲノ・アンタントレン系化合物)から成る。
【0015】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る半導体装置は、基体上に形成された、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域を備えており、
チャネル形成領域は、上述した本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物(オリゴ・ジカルコゲノ・アンタントレン系化合物)から成る。
【0016】
そして、本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物、あるいは、本発明の第1の態様に係る半導体装置のチャネル形成領域を構成するアンタントレン系化合物(以下、これらを総称して、『本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物等』と呼ぶ)にあっては、
Xは第16族元素を示し、
nは0乃至20の整数を表し、
mは1乃至9の整数を表し、
A部におけるB部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部におけるA部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部におけるC部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
C部におけるB部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上である。
【0017】
尚、A部におけるB部との結合位置と、B部におけるA部との結合位置は、同じである必要は無いし、B部におけるC部との結合位置と、C部におけるB部との結合位置は、同じである必要は無い。ここで、n=0である場合には、当然のことながら、A部におけるC部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、C部におけるA部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であると読み替える。また、nが2以上の場合、B部同士は、一種、直鎖的に結合していてもよいし、一部が分岐した状態で結合していてもよいし、一種、環状に結合していてもよい。mが2以上の場合も、同様に、C部同士は、一種、直鎖的に結合していてもよいし、一部が分岐した状態で結合していてもよいし、一種、環状に結合していてもよい。
【0018】
また、本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物、あるいは、本発明の第2の態様に係る半導体装置のチャネル形成領域を構成するアンタントレン系化合物(以下、これらを総称して、『本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物等』と呼ぶ)にあっては、
Xは第16族元素を示し、
[Y]及び[Z]は、それぞれ、独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及び、シリル基から成る群から選択された1種類の官能基を表し、
nは0乃至20の整数を表し、
mは1乃至9の整数を表し、
A部における[Y]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部における[Y]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
C部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上である。
【0019】
尚、A部における[Y]との結合位置と、B部における[Y]との結合位置とは、同じである必要は無いし、B部における[Z]との結合位置と、C部における[Z]との結合位置とは、同じである必要は無い。ここで、n=0である場合には、当然のことながら、A部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、C部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であると読み替える。また、[Y]におけるA部との結合位置、[Y]におけるB部との結合位置、[Z]におけるB部との結合位置、[Z]におけるC部との結合位置は、問わない。nが2以上の場合、B部同士は、一種、直鎖的に結合していてもよいし、一部が分岐した状態で結合していてもよいし、一種、環状に結合していてもよい。mが2以上の場合も、同様に、C部同士は、一種、直鎖的に結合していてもよいし、一部が分岐した状態で結合していてもよいし、一種、環状に結合していてもよい。
【0020】
そして、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係るアンタントレン系化合物等(以下、これらを総称して、単に、『本発明のアンタントレン系化合物等』と呼ぶ場合がある)にあっては、更に、置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及び、シリル基から成る群から選択された1種類の置換基である。尚、本発明のアンタントレン系化合物等にあっては、更には、置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、及び、ハロゲン原子から成る群から選択された置換基であることが、より好ましい。
【0021】
ここで、アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等を挙げることができる。尚、直鎖、分岐は問わない。また、シクロアルキル基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができるし;アルケニル基として、ビニル基等を挙げることができるし;アルキニル基として、エチニル基等を挙げることができるし;アリール基として、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができるし;アリールアルキル基として、メチルアリール基、エチルアリール基、イソプロピルアリール基、ノルマルブチルアリール基を挙げることができるし;芳香族複素環として、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等を挙げることができるし;複素環基として、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等を挙げることができるし;アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等を挙げることができるし;シクロアルコキシ基として、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等を挙げることができるし;アリールオキシ基として、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を挙げることができるし;アルキルチオ基として、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基等を挙げることができるし;シクロアルキルチオ基として、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等を挙げることができるし;アリールチオ基として、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等を挙げることができるし;アルコキシカルボニル基として、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基等を挙げることができるし;アリールオキシカルボニル基として、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等を挙げることができるし;スルファモイル基として、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等を挙げることができるし;アシル基として、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等を挙げることができるし;アシルオキシ基として、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等を挙げることができるし;アミド基として、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等を挙げることができるし;カルバモイル基として、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等を挙げることができるし;ウレイド基として、メチルウレイド基、エチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等を挙げることができるし;スルフィニル基として、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等を挙げることができるし;アルキルスルホニル基として、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等を挙げることができるし;アリールスルホニル基として、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等を挙げることができるし;アミノ基として、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等を挙げることができるし;ハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができるし;フッ化炭化水素基として、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等を挙げることができる。更には、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基を挙げることができるし、シリル基として、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等を挙げることができる。ここで、以上で例示した置換基は、上記の置換基によって更に置換されていてもよい。また、これらの置換基は、複数が互いに結合して環を形成してもよい。
【0022】
以上の好ましい形態を含む本発明のアンタントレン系化合物にあっては、Xは酸素元素である形態とすることが一層好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のアンタントレン系化合物等にあっては、繰り返し単位(モノマーユニット)は大気中で安定であるし、繰り返し単位(モノマーユニット)は広いπ系を有する(芳香環をより多く有する)。即ち、本発明のアンタントレン系化合物等におけるモノマーユニットの6位及び12位における炭素原子が第16族元素で置き換わっているので、反応活性部位では無くなり、酸素、光、水、高温等によって分解反応を起こし難く、大気中での安定性に優れている。また、隣り合う分子間でより大きな軌道の重なりを形成し、キャリア移動度が向上し得る。即ち、本発明により、大気中における高い耐酸素、耐光、耐熱性、耐水性、耐溶媒性を有する安定した、しかも、高いキャリア移動度を有する有機半導体材料を提供できる。それ故、本発明のアンタントレン系化合物等からチャネル形成領域を構成することで、本発明の半導体装置(有機トランジスタ)は、高いキャリア移動度を発現し得るし、大気中、高温の熱処理後にあっても、高い安定性、高いキャリア移動度を維持し得る。また、本発明のアンタントレン系化合物等は高い安定性を有するが故に、半導体装置の製造プロセスの幅を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1及び実施例2のアンタントレン系化合物の合成スキームを示す図である。
【図2】図2は、実施例3のアンタントレン系化合物の合成スキームを示す図である。
【図3】図3の(A)は、所謂ボトムゲート/トップコンタクト型の電界効果トランジスタの模式的な一部断面図であり、図3の(B)は、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタの模式的な一部断面図である。
【図4】図4の(A)は、所謂トップゲート/トップコンタクト型の電界効果トランジスタの模式的な一部断面図であり、図4の(B)は、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタの模式的な一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物、本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物、本発明の第1の態様に係る半導体装置、本発明の第2の態様に係る」半導体装置、全般に関する説明
2.実施例1(本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物)
3.実施例2(実施例1の変形)
4.実施例3(本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物)
5.実施例4(本発明の第1の態様及び第2の態様に係る半導体装置、その他)
【0026】
[本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物、本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物、本発明の第1の態様に係る半導体装置、本発明の第2の態様に係る」半導体装置、全般に関する説明]
本発明のアンタントレン系化合物等にあっては、Xは第16族元素を示すが、ここで、第16族元素とは、周期表において第16族に属する元素の総称であり、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、ポロニウム(Po)がこれに分類され、酸素族元素、カルコゲンとも呼ばれる。また、A部、B部及びC部、それ自体は、ジオキサアンタントレン系化合物、具体的には、6,12−ジオキサアンタントレン(所謂、ペリキサンテノキサンテン,6,12-dioxaanthanthreneであり、『PXX』と略称する場合がある)の1位から5位、7位から11位を、水素原子を含む以下の置換基で置換した有機半導体材料である。
【0027】
本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る半導体装置(以下、これらを総称して、単に、『本発明の半導体装置』と呼ぶ場合がある)を、ボトムゲート/ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ(FET)から構成する場合、係るボトムゲート/ボトムコンタクト型のFETは、
(A)基体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極上に形成されたゲート絶縁層、
(C)ゲート絶縁層上に形成されたソース/ドレイン電極、並びに、
(D)ソース/ドレイン電極の間であってゲート絶縁層上に形成されたチャネル形成領域、
を備えている。
【0028】
あるいは又、本発明の半導体装置を、ボトムゲート/トップコンタクト型のFETから構成する場合、係るボトムゲート/トップコンタクト型のFETは、
(A)基体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極上に形成されたゲート絶縁層、
(C)ゲート絶縁層上に形成されたチャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部、並びに、
(D)チャネル形成領域延在部上に形成されたソース/ドレイン電極、
を備えている。
【0029】
あるいは又、本発明の半導体装置を、トップゲート/ボトムコンタクト型のFETから構成する場合、係るトップゲート/ボトムコンタクト型のFETは、
(A)基体上に形成されたソース/ドレイン電極、
(B)ソース/ドレイン電極の間の基体上に形成されたチャネル形成領域、
(C)チャネル形成領域上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0030】
あるいは又、本発明の半導体装置を、トップゲート/トップコンタクト型のFETから構成する場合、係るトップゲート/トップコンタクト型のFETは、
(A)基体上に形成されたチャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部、
(B)チャネル形成領域延在部上に形成されたソース/ドレイン電極、
(C)ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0031】
ここで、基体は、酸化ケイ素系材料(例えば、SiOXやスピンオンガラス(SOG));窒化ケイ素(SiNY);酸化アルミニウム(Al23);金属酸化物高誘電絶縁膜から構成することができる。基体をこれらの材料から構成する場合、基体を、以下に挙げる材料から適宜選択された支持体上に(あるいは支持体の上方に)形成すればよい。即ち、支持体として、あるいは又、上述した基体以外の基体として、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル,PMMA)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)に例示される有機ポリマー(高分子材料から構成された可撓性を有するプラスチック・フィルムやプラスチック・シート、プラスチック基板といった高分子材料の形態を有する)を挙げることができ、あるいは又、雲母を挙げることができる。このような可撓性を有する高分子材料から構成された基体を使用すれば、例えば曲面形状を有するディスプレイ装置や電子機器への半導体装置の組込みあるいは一体化が可能となる。あるいは又、基体として、各種ガラス基板や、表面に絶縁膜が形成された各種ガラス基板、石英基板、表面に絶縁膜が形成された石英基板、表面に絶縁膜が形成されたシリコン基板、ステンレス等の各種合金や各種金属から成る金属基板を挙げることができる。電気絶縁性の支持体としては、以上に説明した材料から適切な材料を選択すればよい。支持体として、その他、導電性基板(金等の金属、高配向性グラファイトから成る基板、ステンレス基板等)を挙げることができる。また、半導体装置の構成、構造によっては、半導体装置が支持体上に設けられているが、この支持体も上述した材料から構成することができる。
【0032】
ゲート電極やソース/ドレイン電極、配線を構成する材料として、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、チタン(Ti)、インジウム(In)、錫(Sn)等の金属、あるいは、これらの金属元素を含む合金、これらの金属から成る導電性粒子、これらの金属を含む合金の導電性粒子、不純物を含有したポリシリコン等の導電性物質を挙げることができるし、これらの元素を含む層の積層構造とすることもできる。更には、ゲート電極やソース/ドレイン電極、配線を構成する材料として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]といった有機材料(導電性高分子)を挙げることもできる。ゲート電極やソース/ドレイン電極、配線を構成する材料は、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0033】
ゲート電極やソース/ドレイン電極、配線の形成方法として、これらを構成する材料にも依るが、物理的気相成長法(PVD法);MOCVD法を含む各種の化学的気相成長法(CVD法);スピンコート法;スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、反転オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト法といった各種印刷法;エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法、浸漬法といった各種コーティング法;スタンプ法;リフト・オフ法;シャドウマスク法;電解メッキ法や無電解メッキ法あるいはこれらの組合せといったメッキ法;及び、スプレー法の内のいずれかと、必要に応じてパターニング技術との組合せを挙げることができる。尚、PVD法として、(a)電子ビーム加熱法、抵抗加熱法、フラッシュ蒸着、ルツボを加熱する方法等の各種真空蒸着法、(b)プラズマ蒸着法、(c)2極スパッタリング法、直流スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、バイアススパッタリング法等の各種スパッタリング法、(d)DC(direct current)法、RF法、多陰極法、活性化反応法、電界蒸着法、高周波イオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法等の各種イオンプレーティング法を挙げることができる。
【0034】
更には、ゲート絶縁層を構成する材料として酸化ケイ素系材料、窒化ケイ素(SiNY)、金属酸化物高誘電絶縁膜にて例示される無機系絶縁材料だけでなく、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリビニルフェノール(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)にて例示される有機系絶縁材料を挙げることができるし、これらの組み合わせを用いることもできる。尚、酸化ケイ素系材料として、酸化シリコン(SiOX)、BPSG、PSG、BSG、AsSG、PbSG、酸化窒化シリコン(SiON)、SOG(スピンオングラス)、低誘電率材料(例えば、ポリアリールエーテル、シクロパーフルオロカーボンポリマー及びベンゾシクロブテン、環状フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化アリールエーテル、フッ化ポリイミド、アモルファスカーボン、有機SOG)を例示することができる。
【0035】
あるいは又、ゲート絶縁層は、ゲート電極の表面を酸化あるいは窒化することによって形成することができるし、ゲート電極の表面に酸化膜や窒化膜を成膜することで得ることもできる。ゲート電極の表面を酸化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、O2プラズマを用いた酸化法、陽極酸化法を例示することができる。また、ゲート電極の表面を窒化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、N2プラズマを用いた窒化法を例示することができる。あるいは又、例えば、Au電極に対しては、一端をメルカプト基で修飾された直鎖状炭化水素のように、ゲート電極と化学的に結合を形成し得る官能基を有する絶縁性分子によって、浸漬法等の方法で自己組織的にゲート電極表面を被覆することで、ゲート電極の表面にゲート絶縁層を形成することもできる。
【0036】
チャネル形成領域、あるいは、チャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部の形成方法として、上述の各種PVD法;スピンコート法;上述した各種印刷法;上述した各種コーティング法;浸漬法;キャスティング法;及び、スプレー法の内のいずれかを挙げることができる。場合によっては、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係るアンタントレン系化合物に添加物(例えば、n型不純物やp型不純物といった、所謂ドーピング材料)を加えることもできる。
【0037】
本発明の半導体装置を、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、支持体に多数の半導体装置を集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各半導体装置を切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。また、半導体装置を樹脂にて封止してもよい。そして、本発明の半導体装置は、具体的には、液晶表示装置、有機電界発光装置、電子ペーパー、各種センサー、RFIDs(Radio Frequency Identification Card)等に使用することができる。
【実施例1】
【0038】
実施例1は、本発明の第1の態様に係るアンタントレン系化合物に関する。実施例1のアンタントレン系化合物は、以下の構造式(1)で表されるアンタントレン系化合物(オリゴ・ジカルコゲノ・アンタントレン系化合物)である。
【0039】

【0040】
尚、A部、B部及びC部、それ自体は、ジオキサアンタントレン系化合物、具体的には、6,12−ジオキサアンタントレン(所謂、ペリキサンテノキサンテン,6,12-dioxaanthanthrene,PXX)の1位から5位、7位から11位を、水素原子を含む前述した置換基で置換した有機半導体材料である。ここで、Xは第16族元素を示し、nは0乃至20の整数を表し、mは1乃至9の整数を表す。
【0041】
また、A部におけるB部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、B部におけるA部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、B部におけるC部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、C部におけるB部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上である。
【0042】
尚、実施例1にあっては、Xは酸素(O)元素であり、n=0であり、m=1である。それ故、B部は存在せず、A部におけるC部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、C部におけるA部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であると読み替える。具体的には、A部におけるC部との結合位置は3位の1箇所であり、C部におけるA部との結合位置は10位の1箇所である。また、A部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R9は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。また、C部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R3は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。
【0043】
より具体的には、実施例1のアンタントレン系化合物は、以下の構造式(3)で表される。また、実施例1のアンタントレン系化合物の合成スキームを図1の(A)に示す。即ち、当量の3,9−ジブロモペリキサンテノキサンテンとp−エチルフェニルボロン酸を、パラジウム触媒存在下、鈴木−宮浦クロスカップリング反応(Suzuki-Miyaura Cross-coupling Reaction,Miyaura, N. Suzuki, A. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1979, 866. や Miyaura, N. Yamada, K. Suzuki, A. Tetrahedron Lett. 1979, 3437. 参照)を行うことにより、化合物(a)を得る。次いで、化合物(a)と0.5当量のビス(ピナコラト)ジボロンを、パラジウム触媒存在下、鈴木−宮浦クロスカップリング反応を行うことにより、化合物(b)を得る。更には、当量の化合物(a)と化合物(b)を、パラジウム触媒存在下、鈴木−宮浦クロスカップリング反応を行うことにより、構造式(3)で表される化合物を得ることができる。
【0044】

【0045】
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3のアンタントレン系化合物にあっては、繰り返し単位(モノマーユニット)は大気中で安定である。即ち、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3におけるモノマーユニット(主たる骨格はPXXから構成されている)の6位及び12位における炭素原子が第16族元素(具体的には、酸素元素)で置き換わっているので、反応活性部位では無くなり、酸素、光、水、高温等によって分解反応を起こし難く、大気中での安定性に優れている。また、繰り返し単位(モノマーユニット)は広いπ系を有する。即ち、芳香環をより多く有し、π電子共役領域が広がっている。従って、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3のアンタントレン系化合物は、隣り合う分子間でより大きな軌道の重なりを形成し(所謂π−πスタック等)、キャリア移動度が向上し得る。即ち、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3により、大気中における高い耐酸素、耐光、耐熱性、耐水性、耐溶媒性を有する安定した、しかも、高いキャリア移動度を有する有機半導体材料を提供できる。それ故、後述するように、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3のアンタントレン系化合物から有機トランジスタのチャネル形成領域を構成することで、有機トランジスタは、高いキャリア移動度を発現し得るし、大気中、高温の熱処理後にあっても、高い安定性、高いキャリア移動度を維持し得る。また、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例3のアンタントレン系化合物は高い安定性を有するが故に、半導体装置の製造プロセスの幅を広げることができる。
【実施例2】
【0046】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例1にあっては、n=0とした。一方、実施例2にあっては、n=1とした。
【0047】
具体的には、A部におけるB部との結合位置は3位の1箇所であり、B部におけるA部との結合位置は10位の1箇所である。また、B部におけるC部との結合位置は3位の1箇所であり、C部におけるB部との結合位置は10位の1箇所である。A部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R9は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。また、B部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子である。更には、C部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R3は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。
【0048】
より具体的には、実施例2のアンタントレン系化合物は、以下の構造式(4)で表される。また、実施例2のアンタントレン系化合物の合成スキームを図1の(B)に示す。即ち、3,9−ジブロモペリキサンテノキサンテンと2当量の化合物(b)を、パラジウム触媒存在下、鈴木−宮浦クロスカップリング反応を行うことにより、構造式(4)で表される化合物を得ることができる。
【0049】

【実施例3】
【0050】
実施例3は、本発明の第2の態様に係るアンタントレン系化合物に関する。実施例3のアンタントレン系化合物は、以下の構造式(2)で表されるアンタントレン系化合物(オリゴ・ジカルコゲノ・アンタントレン系化合物)である。
【0051】

【0052】
ここで、
X:第16族元素を示す。
n:0乃至20の整数を表す。
m:1乃至9の整数を表す。
[Y]及び[Z]:それぞれ、独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及び、シリル基から成る群から選択された1種類の官能基を表す。
【0053】
また、A部における[Y]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、B部における[Y]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、B部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、C部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上である。
【0054】
尚、実施例3にあっては、Xは酸素(O)元素であり、n=0であり、m=1である。それ故、B部及び[Y]は存在せず、A部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であると読み替える。具体的には、A部における[Z]との結合位置は3位の1箇所であり、C部における[Z]との結合位置は10位の1箇所である。また、A部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R9は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。また、C部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R3は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。更には、[Z]は、アリール基、具体的には、フェニル基である。
【0055】
より具体的には、実施例3のアンタントレン系化合物は、以下の構造式(5)で表される。また、実施例3のアンタントレン系化合物の合成スキームを図2に示す。即ち、p−フェニレンジボロン酸と2当量の化合物(a)を、パラジウム触媒存在下、鈴木−宮浦クロスカップリング反応を行うことにより、構造式(5)で表される化合物を得ることができる。
【0056】

【0057】
尚、実施例3において、例えば、n=1とすることもできる。具体的には、例えば、A部における[Y]との結合位置を3位の1箇所とし、B部における[Y]との結合位置を10位の1箇所とする。また、B部における[Z]との結合位置を3位の1箇所とし、C部における[Z]との結合位置を10位の1箇所とする。A部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R9は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。また、B部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子である。更には、C部における置換基R1,R2,R4,R5,R7,R8,R10及びR11は、それぞれ、水素原子であり、R3は、アリールアルキル基、具体的には、エチルアリール基、より具体的には、エチルフェニル基である。更には、[Y]は、アリール基、具体的には、フェニル基である。また、[Z]は、アルキル基、具体的には、エチル基である。
【実施例4】
【0058】
実施例4は、本発明の第1の態様及び第2の態様に係る半導体装置に関する。実施例4の半導体装置(具体的には、電界効果トランジスタ,FET)は、基体上に形成された、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域を備えており、チャネル形成領域は、上述した構造式(1)で表されるアンタントレン系化合物から成る。あるいは又、実施例4の半導体装置は、基体上に形成された、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域を備えており、チャネル形成領域は、上述した構造式(2)で表されるアンタントレン系化合物から成る。
【0059】
より具体的には、実施例4の半導体装置は、図3の(A)に模式的な一部断面図を示すように、所謂ボトムゲート/トップコンタクト型のFET(より具体的には、TFT)であり、
(A)基体10,11上に形成されたゲート電極12、
(B)ゲート電極12上に形成されたゲート絶縁層13、
(C)ゲート絶縁層13上に形成されたチャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14A、並びに、
(D)チャネル形成領域延在部14A上に形成されたソース/ドレイン電極15、
を備えている。
【0060】
尚、基体10,11は、ガラス基板から成る基板10、及び、その表面に形成されたSiO2から成る絶縁膜11から構成されており、ゲート電極12及びソース/ドレイン電極15は金薄膜から成り、ゲート絶縁層13はSiO2から成る。また、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14Aは、実施例1〜実施例3において説明したアンタントレン系化合物のいずれかから構成されている。ここで、ゲート電極12及びゲート絶縁層13は、より具体的には、絶縁膜11上に形成されている。
【0061】
以下、ボトムゲート/トップコンタクト型のFET(具体的にはTFT)の製造方法の概要を説明する。
【0062】
[工程−500A]
先ず、基体(ガラス基板10、及び、その表面にSiO2から成る絶縁膜11が形成されている)上にゲート電極12を形成する。具体的には、絶縁膜11上に、ゲート電極12を形成すべき部分が除去されたレジスト層(図示せず)を、リソグラフィ技術に基づき形成する。その後、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ゲート電極12としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて全面に成膜し、その後、レジスト層を除去する。こうして、所謂リフトオフ法に基づき、ゲート電極12を得ることができる。
【0063】
[工程−510A]
次に、ゲート電極12を含む基体(絶縁膜11)上にゲート絶縁層13を形成する。具体的には、SiO2から成るゲート絶縁層13を、スパッタリング法に基づきゲート電極12及び絶縁膜11上に形成する。ゲート絶縁層13の成膜を行う際、ゲート電極12の一部をハードマスクで覆うことによって、ゲート電極12の取出部(図示せず)をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0064】
[工程−520A]
次に、ゲート絶縁層13上に、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14Aを形成する。具体的には、真空蒸着法に基づき、先に説明した実施例1〜実施例3において説明したアンタントレン系化合物のいずれかの成膜を行う。
【0065】
[工程−530A]
その後、チャネル形成領域延在部14Aの上に、チャネル形成領域14を挟むようにソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、全面に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。こうして、図3の(A)に示した構造を得ることができる。ソース/ドレイン電極15の成膜を行う際、チャネル形成領域延在部14Aの一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極15をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0066】
[工程−540A]
最後に、全面にパッシベーション膜である絶縁層(図示せず)を形成し、ソース/ドレイン電極15の上方の絶縁層に開口部を形成し、開口部内を含む全面に配線材料層を形成した後、配線材料層をパターニングすることによって、ソース/ドレイン電極15に接続された配線(図示せず)が絶縁層上に形成された、ボトムゲート/トップコンタクト型のFET(TFT)を得ることができる。
【0067】
尚、FETは、図3の(A)に示した所謂ボトムゲート/トップコンタクト型に限定されず、その他、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型、所謂トップゲート/トップコンタクト型、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型とすることもできる。
【0068】
図3の(B)に模式的な一部断面図を示す、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型のFET(より具体的には、TFT)は、
(A)基体10,11上に形成されたゲート電極12、
(B)ゲート電極12上に形成されたゲート絶縁層13、
(C)ゲート絶縁層13上に形成されたソース/ドレイン電極15、並びに、
(D)ソース/ドレイン電極15の間であってゲート絶縁層13上に形成されたチャネル形成領域14、
を備えている。
【0069】
以下、ボトムゲート/ボトムコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0070】
[工程−500B]
先ず、[工程−500A]と同様にして、基体(絶縁膜11)上にゲート電極12を形成した後、[工程−510A]と同様にして、ゲート電極12及び絶縁膜11上にゲート絶縁層13を形成する。
【0071】
[工程−510B]
次に、ゲート絶縁層13の上に金(Au)層から成るソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、ゲート絶縁層13上に、ソース/ドレイン電極15を形成すべき部分が除去されたレジスト層をリソグラフィ技術に基づき形成する。そして、[工程−500A]と同様にして、レジスト層及びゲート絶縁層13上に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて成膜し、その後、レジスト層を除去する。こうして、所謂リフトオフ法に基づき、ソース/ドレイン電極15を得ることができる。
【0072】
[工程−520B]
その後、[工程−520A]と同様の方法に基づき、ソース/ドレイン電極15の間のゲート絶縁層13の部分の上にチャネル形成領域14を形成する。こうして、図3の(B)に示した構造を得ることができる。
【0073】
[工程−530B]
最後に、[工程−540A]と同様の工程を実行することで、ボトムゲート/ボトムコンタクト型のFET(TFT)を得ることができる。
【0074】
図4の(A)に模式的な一部断面図を示す、所謂トップゲート/トップコンタクト型のFET(より具体的には、TFT)は、
(A)基体10,11上に形成されたチャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14A、
(B)チャネル形成領域延在部14A上に形成されたソース/ドレイン電極15、
(C)ソース/ドレイン電極15及びチャネル形成領域14上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(D)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【0075】
以下、トップゲート/トップコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0076】
[工程−500C]
先ず、基体(ガラス基板10、及び、その表面にSiO2から成る絶縁膜11が形成されている)上に、[工程−520A]と同様の方法に基づき、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14Aを形成する。
【0077】
[工程−510C]
次いで、チャネル形成領域延在部14A上に、チャネル形成領域14を挟むようにソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、全面に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。ソース/ドレイン電極15の成膜を行う際、チャネル形成領域延在部14Aの一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極15をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0078】
[工程−520C]
次いで、ソース/ドレイン電極15及びチャネル形成領域14上に、ゲート絶縁層13を形成する。具体的には、PVAをスピンコーティング法にて全面に成膜することで、ゲート絶縁層13を得ることができる。
【0079】
[工程−530C]
その後、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を形成する。具体的には、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ゲート電極12としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて全面に成膜する。こうして、図4の(A)に示した構造を得ることができる。ゲート電極12の成膜を行う際、ゲート絶縁層13の一部をハードマスクで覆うことによって、ゲート電極12をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。最後に、[工程−540A]と同様の工程を実行することで、トップゲート/トップコンタクト型のFET(TFT)を得ることができる。
【0080】
図4の(B)に模式的な一部断面図を示す、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型のFET(より具体的には、TFT)は、
(A)基体10,11上に形成されたソース/ドレイン電極15、
(B)ソース/ドレイン電極15の間の基体10,11上に形成されたチャネル形成領域14、
(C)チャネル形成領域14上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(D)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【0081】
以下、トップゲート/ボトムコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0082】
[工程−500D]
先ず、基体(ガラス基板10、及び、その表面にSiO2から成る絶縁膜11が形成されている)上に、ソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、絶縁膜11上に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を真空蒸着法に基づき形成する。ソース/ドレイン電極15の成膜を行う際、基体(絶縁膜11)の一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極15をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0083】
[工程−510D]
その後、ソース/ドレイン電極15の間の基体(絶縁膜11)上に、[工程−520A]と同様の方法に基づき、チャネル形成領域14を形成する。実際には、ソース/ドレイン電極15の上にチャネル形成領域延在部14Aが形成される。
【0084】
[工程−520D]
次に、ソース/ドレイン電極15及びチャネル形成領域14上に(実際には、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14A上に)、[工程−520C]と同様にして、ゲート絶縁層13を形成する。
【0085】
[工程−530D]
その後、[工程−530C]と同様にして、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を形成する。こうして、図4の(B)に示した構造を得ることができる。最後に、[工程−540A]と同様の工程を実行することで、トップゲート/ボトムコンタクト型のFET(TFT)を得ることができる。
【0086】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。半導体装置の構造や構成、製造条件、製造方法は例示であり、適宜変更することができる。本発明によって得られた半導体装置を、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、支持体や支持部材に多数のFETを集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各FETを切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。
【符号の説明】
【0087】
10・・・基板、11・・・絶縁膜、12・・・ゲート電極、13・・・ゲート絶縁層、14・・・チャネル形成領域、14A・・・チャネル形成領域延在部、15・・・ソース/ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式(1)で表されるアンタントレン系化合物。

但し、
Xは第16族元素を示し、
nは0乃至20の整数を表し、
mは1乃至9の整数を表し、
A部におけるB部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部におけるA部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部におけるC部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
C部におけるB部との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及び、シリル基から成る群から選択された1種類の置換基である。
【請求項2】
置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、及び、ハロゲン原子から成る群から選択された置換基である請求項1に記載のアンタントレン系化合物。
【請求項3】
Xは酸素元素である請求項1に記載のアンタントレン系化合物。
【請求項4】
以下の構造式(2)で表されるアンタントレン系化合物。

但し、
Xは第16族元素を示し、
[Y]及び[Z]は、それぞれ、独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及び、シリル基から成る群から選択された1種類の官能基を表し、
nは0乃至20の整数を表し、
mは1乃至9の整数を表し、
A部における[Y]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部における[Y]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
B部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
C部における[Z]との結合位置は、1位から5位、7位から11位のいずれか1以上であり、
置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及び、シリル基から成る群から選択された1種類の置換基である。
【請求項5】
置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、及び、ハロゲン原子から成る群から選択された置換基である請求項4に記載のアンタントレン系化合物。
【請求項6】
Xは酸素元素である請求項4に記載のアンタントレン系化合物。
【請求項7】
基体上に形成された、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域を備えており、
チャネル形成領域は、請求項1に記載されたアンタントレン系化合物から成る半導体装置。
【請求項8】
基体上に形成された、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域を備えており、
チャネル形成領域は、請求項4に記載されたアンタントレン系化合物から成る半導体装置。
【請求項9】
置換基R1,R2,R3,R4,R5,R7,R8,R9,R10及びR11は、それぞれ、独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、芳香族複素環、及び、ハロゲン原子から成る群から選択された置換基である請求項7又は請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
Xは酸素元素である請求項7又は請求項8に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−12001(P2011−12001A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156459(P2009−156459)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】