説明

アンテナ基板およびICタグ

【課題】 アンテナ特性を正しく評価でき、また耐環境性に優れたアンテナ基板およびこれを用いたICタグを提供する。
【解決手段】 誘電体1と、誘電体1の一方主面上に配設された放射導体2と、誘電体1の他方主面上に放射導体2と対向して配設された接地導体3とを備えており、接地導体3はスロット3aを有するとともに、スロット3aを挟んでICチップの端子電極が接続される接続部3bを備えているアンテナ基板およびその接続部3bにICチップが搭載されたICタグである。測定用プローブが接触される接続部3bは、電界が強く電波を授受する放射導体2とは反対側の接地導体3側に位置するので、測定用プローブによってアンテナ特性が影響を受けにくく、アンテナ特性を正しく測定することができる。ICチップとICタグの使用環境との間にはアンテナ基板が存在するので、使用環境の影響が小さいものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ基板およびこれを用いたICタグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バーコードに代わり、RFID(Radio Frequency Identification)技術を用いたICタグにより物品の正確で高速な峻別が実現されてきている。RFIDは、ICタグへの電池の搭載の有無、データ伝送方式および使用周波数などにより多くの種類があり、用途に応じて選択される。この内、国内では2006年の電波法改正によりUHF帯を用いた電波方式のRFIDが利用され始め、通信距離が長いことから物流分野で利用が拡大している。いずれの方式においても、ICタグの近くに金属体が存在すると、電波の伝播に影響が及んで通信の妨げになる場合があるが、特に電波を遠くに飛ばす必要があるUHF帯を用いた電波方式の用途においては、その影響が大きい。
【0003】
ICタグを、このような電波の伝播に影響を与えやすい金属体に貼り付ける場合には、ICタグのアンテナとして、接地導体から放射導体に向かう向きが最大利得となる半球状の放射パターンを有するパッチアンテナが形成されたアンテナ基板が用いられる場合が多い(例えば、特許文献1を参照。)。このアンテナ基板の接地導体を金属体側にして設置することで、データ(電波)の入出力部である放射導体は金属体と反対側を向くので、金属体の影響が少ない状態でICタグとして動作させることができる。また、放射導体にスロットを設けて、スロットの対向部分から内部にそれぞれ延びた電気接続部にICチップを搭載してICチップ−アンテナ間で電力の授受ができるようにしたパッチアンテナを用いることもできる(例えば、特許文献2を参照。)。
【0004】
ICタグは、上記のようなアンテナ基板の放射導体にICチップの一方の端子が接続され、他方の端子は接地導体と放射導体とを接続する貫通導体に接続されてICチップが搭載されてなる。このようなアンテナ基板とICチップとからなる、電池を用いない方式(パッシブ型)のICタグの動作原理は、以下のようなものである。ICタグの情報を読み取るタグリーダーから照射された電波をアンテナ(放射導体)で受け取ると、その電波をICチップ内で整流して直流に変換し、それを電源としてICチップが動作する。また、アンテナはタグリーダーからの電波の一部を反射するが、ICチップの動作によってICチップのメモリーに記憶されているID情報をこの反射波に乗せて返す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/001049号パンフレット
【特許文献2】特開2007−243296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のICタグ用のアンテナ基板では放射導体の上にICチップが実装されるものであることから、ICチップを実装する前に、アンテナ基板の性能評価あるいは特性測定を正しく行なうことができないという問題点があった。これは、アンテナ基板のアンテナ特性の測定は、通常ICチップが実装される部分に測定用プローブの先端を接触させて測定する方法で行なわれるため、金属体で構成される測定用プローブが、電界が強く電波を授受する放射導体側に位置することになり、測定用プローブによってアンテナ特性が影響を受けるからであった。
【0007】
また、電波の授受をするために外側に向けられた放射導体側にICチップが実装されていると、ICチップが使用環境にさらされることから、温度や雰囲気等の環境の影響を受けやすく、故障や誤動作が起こりやすいという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、アンテナ特性を正しく評価でき、また耐環境性に優れたアンテナ基板およびこれを用いたICタグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアンテナ基板は、誘電体と、該誘電体の一方主面上に配設された放射導体と、前記誘電体の他方主面上に前記放射導体と対向して配設された接地導体とを備えており、該接地導体はスロットを有するとともに、該スロットを挟んでICチップの端子電極が接続される接続部を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のアンテナ基板は、上記構成において、前記接地導体の上に、前記接続部を取り囲むような枠状誘電体が積層されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のアンテナ基板は、上記各構成において、前記放射導体を覆うように誘電体層が積層されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のICタグは、上記各構成のいずれかの本発明のアンテナ基板と、該アンテナ基板の前記接続部に端子電極が接続されて搭載されたICチップとを備えていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のICタグは、上記構成において、前記ICチップを覆う封止樹脂を備えていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のICタグは、上記構成において、前記ICチップを覆う蓋体を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアンテナ基板によれば、誘電体と、誘電体の一方主面上に配設された放射導体と、誘電体の他方主面上に放射導体と対向して配設された接地導体とを備えており、接地導体はスロットを有するとともに、スロットを挟んでICチップの端子電極が接続される接続部を備えていることから、ICチップの端子電極が接続される接続部を備えたスロットが接地導体に形成されているので、アンテナ基板の特性測定を行なう際に、ICチップの端子電極が接続される接続部に測定用プローブの先端を接触させて測定しても、金属体で形成される測定用プローブは、電界が強く電波を授受する放射導体とは反対側の接地導体側に位置するので、測定用プローブによってアンテナ特性が影響されにくく、アンテナ特性を正しく測定することができる。
【0016】
また、誘電体、放射導体および接地導体にてパッチアンテナの基本構造が形成され、接地導体にスロットが形成されているので、接続部にICチップを実装してICタグとした場合には、タグリーダーからの電波を放射導体で受信し、それによってスロットに磁界が励振され、ICチップの端子電極が接続される接続部に高周波が入力されてICチップが作動し、続いてICチップからの起電力によってスロットに磁界が励起され、放射導体から電波が放射される。このとき、ICタグは接地導体を対象物側にして貼り付けられることから、ICチップと使用環境との間にはアンテナ基板が存在することとなり、使用環境のICチップに対する影響が小さいものとなるので、耐環境性に優れたICタグとなる。
【0017】
本発明のアンテナ基板によれば、上記構成において、接地導体の上に、接続部を取り囲むような枠状誘電体が積層されているときには、ICチップの周囲が枠状誘電体に囲まれることから、さらに耐環境性に優れたICタグを得ることのできるアンテナ基板となる。また、枠状誘電体の厚みを実装された状態のICチップの高さより厚くすることで、筐体などを用いることなくICチップを保護しつつ、金属体などの対象物に直接貼り付けることができるアンテナ基板となる。
【0018】
本発明のアンテナ基板によれば、上記各構成において、放射導体を覆うように誘電体層が積層されているときには、金属からなる放射導体が誘電体層で覆われることから、アンテナ基板を用いたICタグの使用環境の雰囲気等によって放射導体が腐食することのないものとなる。
【0019】
本発明のICタグによれば、上記各構成の本発明のアンテナ基板と、アンテナ基板の接続部に端子電極が接続されて搭載されたICチップとを備えていることから、ICタグを電波の授受を行なう放射導体を外部に向け、接地導体を対象物側にして貼り付けることで、ICチップを使用環境とはアンテナ基板を挟んだ位置に配置することができるので、使用環境の雰囲気や温度等の影響を受けにくく、耐環境性に優れたものとなる。
【0020】
本発明のICタグによれば、上記構成において、ICチップを覆う封止樹脂を備えているときには、ICチップが封止樹脂で覆われてICタグの使用環境に露出していないので、耐環境性がさらに向上する。
【0021】
本発明のICタグによれば、上記構成において、ICチップを覆う蓋体を備えているときには、ICチップが蓋体で覆われて使用環境に露出していないので、耐環境性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は本発明のアンテナ基板の実施の形態の一例を示す断面図であり、(b)は(a)の下面図である。
【図2】(a)は本発明のアンテナ基板の実施の形態の他の例を示す断面図であり、(b)は(a)の下面図である。
【図3】(a)は本発明のアンテナ基板の実施の形態の他の例を示す断面図であり、(b)は(a)の下面図である。
【図4】(a)は本発明のアンテナ基板の実施の形態の他の例を示す断面図であり、(b)は(a)の下面図である。
【図5】(a)は本発明のICタグの実施の形態の一例を示す断面図であり、(b)は(a)の下面図である。
【図6】(a)は本発明のICタグの実施の形態の他の例を示す断面図であり、(b)は(a)の下面図である。
【図7】(a)は本発明のICタグの実施の形態の他の例を示す断面図であり、(b)は(a)の下面図である。
【図8】本発明のアンテナ基板のアンテナ特性を示すグラフであり、(a)は反射特性を、(b)は放射特性を示す。
【図9】従来のアンテナ基板のアンテナ特性を示すグラフであり、(a)は反射特性を、(b)は放射特性を示す。
【図10】本発明のアンテナ基板のアンテナ特性を示すグラフであり、(a)は反射特性を、(b)は放射特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のアンテナ基板およびICタグについて図面を用いて詳細に説明する。図1〜図7において、1は誘電体、1aは枠状誘電体、1bは誘電体層、2は放射導体、3は接地導体、3aはスロット、3bは接続部、4はICチップ、4aは端子電極、5は封止樹脂、6は蓋体である。
【0024】
図1に示す例のように、本発明のアンテナ基板は、誘電体1と、誘電体1の一方主面上に配設された放射導体2と、誘電体1の他方主面上に放射導体2と対向して配設された接地導体3とを備えており、接地導体3はスロット3aを有するとともに、スロット3aを挟んでICチップの端子電極が接続される接続部3bを備えている。
【0025】
誘電体1、放射導体2および接地導体3にてパッチアンテナの基本構造が形成され、接地導体3にスロット3aが形成されているので、接続部3bにICチップを実装してICタグとした場合には、タグリーダーからの電波を放射導体で受信し、それによってスロット3aに磁界が励振され、ICチップの端子電極が接続される接続部3bに高周波が入力されてICチップが作動し、続いてICチップからの起電力によってスロット3aに磁界が励起され、放射導体2から電波が放射される。このとき、ICタグは接地導体3を対象物側にして貼り付けられることから、ICチップと使用環境との間にはアンテナ基板が存在することとなり、使用環境のICチップに対する影響が小さいものとなるので、耐環境性に優れたICタグとなる。
【0026】
パッチアンテナは、図1に示す例のように、誘電体1と放射導体2とスロット3aを備える接地導体3とで基本構造が構成されるが、図2に示す例のように、共振周波数を調節するために、放射導体2と接地導体3との間に、接続導体3dで接地導体2に接続された容量導体3cを設けてもよい。容量導体3cは、接地導体3と放射導体2との距離よりも近い位置で放射導体2と対向することから、接地導体3と放射導体2との間の容量結合が大きくなるので、共振周波数を低くすることができる。通常、共振周波数を低くするためには、放射導体2の大きさを大きくする必要があるが、このような容量導体3cを設けることで、放射導体2の大きさを変えることなく共振周波数を低くすることができるので、アンテナ基板およびICタグを小型化することができる。共振周波数の調節は、容量導体3cの面積や、容量導体3cと放射導体2との距離によって容量結合の大きさを変えることによって行なうことができる。
【0027】
容量導体3cの平面視の位置は、放射導体2と接地導体3との間の電界強度が強い位置にすると共振周波数をより低くすることができることから、図2に示す例のように、特にスロット3aの長辺側の放射導体2の端部に対向する位置に容量導体3cを設置するのがよい。スロット3aの長辺側の放射導体2の端部はスロット3aを挟んで2箇所あるので、図2に示す例のように、容量導体3cをスロット3aの長辺側の放射導体2の両端部(図2における、放射導体2のスロット3aに平行な2辺部)に対向して設けると、共振周波数をより低くすることができるので好ましい。
【0028】
また、図2に示す例では、2つの接続導体3dはそれぞれ1つの接続導体3dで接地導体3に接続されているが、複数の接続導体3dで接続してもよい。接続導体3dの数が多いほど接地導体3と容量導体3cとの間の電気抵抗を小さくすることができ、電波の放射効率を向上できるので好ましい。あるいは、同様の理由から、図2に示す例のような接続導体3dに対して、接続導体3dの横断面積を大きくするために、図2に示す例の接続導体3dを容量導体3cの長さ方向に伸ばした、容量導体3cの長さに沿った板状としてもよい。また、接続導体3dと放射導体2との間でもわずかではあるが容量結合するので、図2に示す例のように、接続導体3dを放射導体2の端部側に配置すると、接続導体3dが接続された容量導体3cと放射導体2との間の容量結合を大きくすることができるので好ましい。
【0029】
また、スロット3aが接地導体3に形成されているので、アンテナ基板の特性測定を行なう際に、ICチップの端子電極が接続される接続部3bに測定用プローブの先端を接触させて測定しても、金属体で形成される測定用プローブは、電界が強く電波を授受する放射導体2とは反対側の接地導体3側に位置するので、測定用プローブによってアンテナ特性が影響されにくく、アンテナ特性を正しく測定することができる。
【0030】
図3に示す例のように、接地導体3の上に接続部3bを取り囲むような枠状誘電体1aが積層されているときには、ICチップの周囲が枠状誘電体1aに囲まれることから、さらに耐環境性に優れたICタグを得ることのできるアンテナ基板となる。また、枠状誘電体1aの厚みを実装された状態のICチップの高さより厚くすると、筐体などを用いることなくICチップを保護しつつ、ICタグを金属体などの対象物に直接貼り付けることができるので好ましい。
【0031】
図4に示す例のように、放射導体2を覆うように誘電体層1bが積層されているときには、金属体からなる放射導体2が誘電体層1bで覆われることとなり、アンテナ基板を用いたICタグの使用環境の雰囲気等によって放射導体2が腐食することのないものとなる。例えば、ICタグの使用環境が薬品処理工程であるような場合であっても、誘電体層1bが耐薬品性の高いセラミックス等からなるものであれば、誘電体層1bによって薬品から放射導体2を保護することができる。
【0032】
誘電体1、枠状誘電体1aおよび誘電体層1bは、セラミック材料や樹脂材料からなるものである。具体的には、セラミック材料としては、例えば、アルミナ質セラミックス,ムライトセラミックスおよびガラスセラミックス等を用いることができる。また、樹脂材料としては、例えば、四フッ化エチレン―エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン;PTFE),四フッ化エチレン―エチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン―エチレン共重合樹脂;ETFE)および四フッ化エチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂;PFA)のようなフッ素樹脂,エポキシ樹脂,ガラスエポキシ樹脂およびポリイミド樹脂等を用いることができる。
【0033】
放射導体2および接地導体3は、金属材料からなるものである。具体的には、金属材料としてW,Mo,Mn,Cu,Cr,Ni,Ag,AuおよびPtならびにこれらの合金を用いることができる。
【0034】
アンテナ基板の作製方法としては、誘電体1が例えば酸化アルミニウム質焼結体から成る場合であれば、まずアルミナ(Al)やシリカ(SiO),カルシア(CaO),マグネシア(MgO)等の原料粉末に適当な有機溶剤,溶媒および有機バインダーを添加混合してスラリーを作製し、これを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等によりシート状に成形してセラミックグリーンシート(以下、グリーンシートともいう。)を得る。次に、従来周知のスクリーン印刷法等の印刷方法により、セラミックグリーンシートに放射導体2および接地導体3の所定パターン形状に導体ペーストを印刷塗布する。導体ペーストは、タングステン(W),モリブデン(Mo),マンガン(Mn)等の高融点金属粉末に適当な有機バインダーや溶剤を添加混合して作製する。その後、必要に応じてグリーンシートを複数枚積層して積層体を作製し、これを約1600℃の温度で焼成することにより製作される。アンテナ基板が枠状誘電体1aを有する場合は、打ち抜き加工したグリーンシートを接地導体パターンが形成されたグリーンシートの上に積層すればよい。同様に、アンテナ基板が誘電体層1bを有する場合は、グリーンシートを放射導体パターンが形成されたグリーンシートの上に積層すればよい。あるいは、積層体を作製した後に、上記スラリーと同様の誘電体ペーストを印刷塗布してもよい。
【0035】
導体ペーストを印刷せずに誘電体1からなる基板を作製した後に、この基板の上に導体ペーストを印刷塗布して焼成することにより、メタライズ層を焼き付けることで放射導体2および接地導体3を形成してもよい。
【0036】
または、Al,SiO,CaO,MgO等の原料粉末に必要に応じて有機バインダーを加えたものを金型に充填してプレス成型することによって板状に成形して、この成形体を約1600度の温度で焼成することによって誘電体1からなる基板を作製してもよい。
【0037】
容量導体3cを設ける場合は、例えば、2枚のグリーンシートを準備して、1枚のグリーンシートには放射導体2パターンを形成し、もう1枚のグリーンシートには上面に容量導体3cパターンを、下面に接地導体3パターンをそれぞれ形成すればよい。容量導体3cパターンは、放射導体2パターンを印刷塗布したグリーンシートの下面に形成してもよい。接続導体3dは、上記パターンの形成の前にグリーンシートに貫通孔を形成して、この貫通孔を導体ペーストで充填しておくことにより形成することができる。
【0038】
誘電体1が樹脂材料からなる場合は、上記のような樹脂材料からなる板材の上に、銅(Cu)等の金属箔をエッチング加工により放射導体2および接地導体3の形状に加工したものを転写することによって、アンテナ基板を作製することができる。アンテナ基板が枠状誘電体1aを有する場合は、打ち抜き加工した樹脂板を接地導体パターンが形成された樹脂板の上に積層して接着すればよい。同様に、アンテナ基板が誘電体層1bを有する場合も、樹脂板を放射導体パターンが形成された樹脂板の上に積層して接着すればよい。あるいは、液状の樹脂を印刷塗布して硬化させてもよい。
【0039】
また、誘電体1上に放射導体2および接地導体3を形成する方法としては、誘電体1を作製した後に蒸着法やフォトリソグラフィ法により形成してもよい。
【0040】
容量導体3cを設ける場合は、例えば、上面に放射導体2を形成した樹脂板と、上面に容量導体3cを形成して下面に接地導体3を形成した樹脂板とを接着すればよい。容量導体3dは、上面に放射導体2を形成した樹脂板の下面に形成してもよい。あるいは、上面に容量導体3cを形成し、下面に接地導体3を形成した樹脂板の上に、液状の樹脂を印刷塗布して硬化させ、その上に放射導体2を形成してもよい。いずれの場合であっても、接続導体3dは、例えば、ドリル加工やレーザー加工あるいは金型によるうち抜き加工などによって下側の樹脂板に貫通孔を形成し、貫通孔を熱硬化性の導体ペーストで充填して硬化させることによって形成することができる。
【0041】
なお、ICチップの端子電極が接続される接続部3bは、接地導体3のスロット3aを挟んだ両側の部分であり、別に形成する必要はない。
【0042】
次に、本発明のアンテナ基板の具体例について説明する。上記のようなアンテナ基板のアンテナ特性について、電磁界シミュレーターにて計算した。図2に示す例のアンテナ基板において、誘電率が9であり、30mm角で厚み(図2に示すT)が3mmである誘電体1の上面に、22mm角(図2に示すL)の放射導体2が形成され、下面に長さ(図2に示すSL)が10mmで幅(図2に示すSW)が1mmであるスロット3aを中央部に有する30mm角の接地導体3が形成されたものとした。また、共振周波数をUHF帯のRFIDに使用される950MHz帯に合わせるため、誘電体1内に、放射導体2との間に容量を形成する3mm×22mmの容量導体3cを2枚配置して、容量導体3cと接地導体3とを接続する接続導体3dを形成した。容量導体3cは、上面(放射導体2)から0.35mmの位置において、図2に示す例のように、平面視でスロット3aの長手方向と容量導体3cの長手方向とを平行にしてスロット3aを挟むとともに、2つの容量導体3cのぞれぞれのスロットとは反対側の長辺が、放射導体2の辺と重なるように配置した。接続導体3dは、容量導体3cの幅の中心からスロット3aから離れる方向に1mmずらした位置に、直径0.1mmのものを1mmピッチで20本並べて接続した。また、アンテナ基板の貼り付け先を300mm角の完全導体板とした。アンテナ基板を筐体で覆うことを考慮して、完全導体板とアンテナ基板の間に1mmの隙間を設けた(ただし、筐体はモデリングせず)。
【0043】
図8は、このようなアンテナ基板のシミュレーションによるアンテナ基板のアンテナ特性を示すグラフであり、(a)は反射特性を、(b)は放射特性を示す。図8(a)において、横軸は周波数(単位:GHz)を、縦軸はS11(単位:dB)を示す。S11の値が小さいほど、その周波数において信号のやり取りが効率的に行なわれることに対応する。図8(b)において、円周の数字が天頂方向(図2において接地導体3から放射導体2に向かう方向)を0度としたときの角度であり、縦軸の数字は利得(単位:dBi)を規格化(最大値=0dBi)した値である。
【0044】
図8(a)から、UHF帯のRFIDで使用される950MHz帯において、約3.6MHzの帯域幅に亘ってS11が−10dB以下となっており、日本国内においてUHF帯のRFID用に割り当てられている周波数帯域の2MHzをカバーしているので、ICタグ用のアンテナ基板として使用可能であるといえる。
【0045】
図8(b)は、図2に示すアンテナ基板おけるスロット3aの中心を通り、スロット3aの長手方向に垂直な面内の利得を示している。図8(b)から、0度において最大となる放射パターンを示しており、上記アンテナ基板は、ICタグの貼り付け面に垂直な方向、すなわち接地導体3から放射導体2に向かう方向に最も強い指向性を有することが分かる。
【0046】
次に、アンテナ基板のアンテナ特性を測定する際の測定用プローブによる影響について説明する。プローブを直径2.6mmの完全導体とし、このプローブがアンテナ基板の接続部3bから上方に延びるようにモデリングして、上記と同様の電磁界シミュレーターを用いたシミュレーションによってアンテナ特性を計算した。
【0047】
図9は、従来のアンテナ基板のシミュレーションによるアンテナ基板のアンテナ特性を示すグラフであり、図8と同様に、(a)は反射特性を、(b)は放射特性を示す。従来のアンテナ基板は、スロットを放射導体に設けた以外の構造および材料は、上記の本発明のアンテナ基板と同一であるものとした。なお、スロットのサイズは、インピーダンス整合のために長さを9mmとした。図9には、「プローブなし」として、プローブをモデリングしていない場合の結果と、「プローブあり」として、プローブをモデリングした場合の結果を示している。
【0048】
図9(a)から、プローブが存在することで、反射特性に影響が生じ、プローブがない状態に対してS11が最小となる周波数が約0.2MHz低周波側へシフトしていることが分かる。日本におけるUHF帯RFIDの帯域幅2MHzに対して、0.2MHzは10%であるので、プローブによって正確なアンテナ特性が測定できないといえる。また、図9(b)から、プローブによって放射パターンが歪んでいるので、放射特性についても正確な測定ができないことが分かる。これは、電界が強い放射導体の上方に金属体のプローブが存在することによって、放射導体の周囲の電界が乱されて、アンテナ特性がずれたものと考えられる。
【0049】
図10は、上記本発明のアンテナ基板においてプローブをモデリングした場合の結果を図8のグラフに重ねて示したものであり、図8と同様に、(a)は反射特性を、(b)は放射特性を示す。この例の場合のプローブは、上記と同様のものがアンテナ基板の接続部3bから図2における下方に延びるようにモデリングした。なお、プローブがアンテナ基板が実装される完全導体板を突き抜けるように、完全導体板に直径2.6mmの穴を設け、プローブが通るようにした。
【0050】
図10から、「プローブあり」と「プローブなし」との結果は、(a)の反射特性および(b)の放射特性のいずれにおいてもほとんど重なっており、プローブの存在によるアンテナ特性への影響は少ないことが分かる。これは、プローブが電界の弱い放射導体の下方に存在するため、電界が大きく乱されることもなく、アンテナ特性への影響が少ないものと考えられる。
【0051】
そして、本発明のアンテナ基板においては、アンテナ特性測定用のプローブによる影響が少なく、アンテナ特性を正しく評価できるといえる。
【0052】
次に、上記のようなアンテナ基板を用いた本発明のICタグについて説明する。図5に示す例のように、本発明のICタグは、上記した本発明のアンテナ基板と、アンテナ基板の接続部(図示せず)に端子電極4aが接続されて搭載されたICチップ4とを備えている。このようなICタグを、電波の授受を行なう放射導体2を外部に向け、接地導体3を対象物側にして貼り付けることで、使用環境とはアンテナ基板を挟んだ位置にICチップ4を配置することができるので、使用環境の雰囲気や温度等の影響を受けにくく、耐環境性に優れたものとなる。
【0053】
ICチップ4は、整流回路などを含む高周波化回路、メモリーあるいは制御回路等がシリコン(Si)等からなる基板上に形成されたものであり、アンテナ基板の接続部3bに接続するための端子電極4aを有する。
【0054】
ICタグは、ICチップ4の端子電極4aと接地導体3の接続部3bとを、導電性ペーストやはんだ等の接合材を用いて接合することによって電気的に接続して作製される。あるいは、ICチップ4の端子電極4aの上に金(Au)やはんだ等からなるバンプを形成しておき、異方性導電ペーストや異方性導電フィルムを用いて、あるいは超音波や熱を加えながら圧着して接続してもよい。
【0055】
図6に示す例のように、ICタグがICチップ4を覆う封止樹脂5を備えているときには、ICチップ4が封止樹脂5で覆われてICタグの使用環境に露出していないので、耐環境性がさらに向上する。
【0056】
封止樹脂5は絶縁性のものであればよく、また、封止樹脂5は外界の環境からICチップ4を保護する意味から、耐薬品性、耐熱性および耐水性等に優れるものが好適である。具体的には、エポキシ樹脂等が用いられる。誘電体1やICチップの熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するものであれば、使用環境の温度変化によって封止樹脂5がアンテナ基板から剥がれてしまうことを抑えることができるので、エポキシ樹脂に熱膨張係数を調整するためのSiOやアルミナ等の無機粉末を添加したものを用いるとよい。
【0057】
封止樹脂5は、例えば、液状のエポキシ樹脂をスクリーン印刷によって、あるいはディスペンサーによってICチップ4を覆うように塗布して、加熱することにより硬化させればよい。この加熱による樹脂硬化の際に、熱によってICチップ4を破壊してしまわないためにも、封止樹脂5は硬化温度が低いものが好適である。なお、図6に示す例では、アンテナ基板が枠状誘電体1aを有する場合であるが、枠状誘電体1aを有さないアンテナ基板であってもよい。図6に示す例のように、ICチップ4の実装高さより厚みの厚い枠状誘電体1aを有する場合は、枠状誘電体1aと誘電体1aとで形成された凹部に液状の封止樹脂5を充填すれば、液状の封止樹脂5が拡がることがないので、容易にICチップ4を覆うことができる。
【0058】
図7に示す例のように、ICタグがICチップ4を覆う蓋体6を備えているときには、ICチップ4が蓋体6で覆われて使用環境に露出していないので、耐環境性がさらに向上する。
【0059】
蓋体6は、ICチップを外界の環境から保護できる緻密なものであればよく、セラミックス,金属または樹脂等からなるものである。蓋体6は、エポキシ樹脂等の接着剤によってアンテナ基板上に接合される。例えば、蓋体6が誘電体1や枠状誘電体1aと同一の材料からなるなど、誘電体1や枠状誘電体1aとの熱膨張係数が近いものであれば、使用環境の温度変化によって蓋体6がアンテナ基板から剥がれてしまうことを抑えることができるので好適である。
【0060】
なお、図7に示す例は、アンテナ基板が枠状誘電体1aを有する場合であるが、枠状誘電体1aを有さないアンテナ基板であってもよい。この場合の蓋体6は、図7に示す例の蓋体6が平板状であるのに対して、箱状のものとすればよい。また、図7に示す例では、枠状誘電体1aの開口部に段差部を設けて、段差部に平板状の蓋体6を接合してICタグの下面を平らにしている。このようにすることで、対象物への貼り付けが容易かつ強固になるので好ましい。
【0061】
なお、本発明は、上記の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行なうことは何ら差し支えない。例えば、誘電体1がセラミックス材料から成る場合に、放射導体2および接地導体3を備える誘電体基板1を作製した後に、上記封止樹脂5と同様の液状のエポキシ樹脂を印刷塗布して硬化させることによって誘電体層1bや枠状誘電体1aを形成してもよい。あるいは、ICタグ全体を樹脂製の筐体で囲ったり、樹脂封止したりしてもよい。このようにすることで、ICタグの耐環境性や強度がさらに向上する。
【符号の説明】
【0062】
1・・・誘電体
1a・・・枠状誘電体
1b・・・誘電体層
2・・・放射導体
3・・・接地導体
3a・・・スロット
3b・・・接続部
4・・・ICチップ
4a・・・端子電極
5・・・封止樹脂
6・・・蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体と、該誘電体の一方主面上に配設された放射導体と、前記誘電体の他方主面上に前記放射導体と対向して配設された接地導体とを備えており、該接地導体はスロットを有するとともに、該スロットを挟んでICチップの端子電極が接続される接続部を備えていることを特徴とするアンテナ基板。
【請求項2】
前記接地導体の上に、前記接続部を取り囲むような枠状誘電体が積層されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ基板。
【請求項3】
前記放射導体を覆うように誘電体層が積層されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンテナ基板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のアンテナ基板と、該アンテナ基板の前記接続部に端子電極が接続されて搭載されたICチップとを備えていることを特徴とするICタグ。
【請求項5】
前記ICチップを覆う封止樹脂を備えていることを特徴とする請求項4記載のIDタグ。
【請求項6】
前記ICチップを覆う蓋体を備えていることを特徴とする請求項4記載のICタグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−49711(P2011−49711A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194928(P2009−194928)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】