説明

アンテナ装置

【課題】 アンテナ利得をサブアンテナ数倍程度に増加させつつ、合成後のビーム幅をサブアンテナと同程度まで拡大させることができるアンテナ装置を提供する。
【解決手段】 分散配置した指向性ビームを有する複数の受信サブアンテナ1と、複数の受信サブアンテナ1のビーム指向方向を制御する統合ビーム制御器2と、受信サブアンテナ1を介して信号を受信する受信機3と、受信機3の出力信号の共分散行列を計算する共分散行列計算部5と、共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算する最大固有ベクトル計算部6と、固有ベクトルをウェイトとして各受信機3の出力信号に乗算する複素乗算部7と、ウェイトを乗算した各受信機3の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部8とを有する受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、指向性ビームを用いて電波や音波を受信、或いは送信するレーダー用、ソナー用または通信用のアレーアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アレーアンテナの利得を高くするためにはアンテナ開口径を大きくすることが考えられるが、装置の大規模化を招き好ましくない。そこで、このアンテナ装置の大規模化を回避する一手法として、例えば非特許文献1に開示される技術がある。
【0003】
この非特許文献1では、間隔をおいて分散配置した複数の小型アンテナの受信信号をコヒーレントに合成することで、等価的に大開口の受信アンテナで受信したのと同様の高利得を得ている。このような分散配置する複数の小型アンテナを、以降サブアンテナと称し、これらサブアンテナの受信信号を電気的に合成して等価的な大開口アンテナとしたアンテナ装置を、以降の説明では分散開口アンテナと称することにする。
【0004】
一方、アダプティブアンテナの分野では、アレー素子の受信信号を用いてアダプティブにビームを形成して所要信号の増幅や不要干渉波の抑圧を効果的に行う技術として,非特許文献2に示すような各種ビーム形成アルゴリズムが知られている。また、これらのアルゴリズムは任意の素子配列に適用できるものが多いことも知られている。
【0005】
【非特許文献1】R.C. Heimiller, J.E. Belyea and P.G. Tomlinsonr, “Distributed array radar,” IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systems, Vol.19, No.6, pp.831−839, Nov. 1983.
【非特許文献2】H. Krim and M. Viberg, “Two decades of array signal processing research: the parametric approach,” IEEE Signal Processing Magazine, Vol.13, No.4, pp.67−94, July 1996.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に代表される、従来の分散開口アンテナでは、サブアンテナの受信信号を非特許文献2に記載されるような通常のビームフォーマ法で合成することにより高利得で先鋭な受信ビームを形成することができ、合成後の受信アンテナパターンには以下の特徴があることが示されている。
(1)アンテナ利得の増加
サブアンテナ数をKとすると、合成後の受信利得は個々のサブアンテナの受信利得の約K倍になる。
(2)ビーム幅の減少
サブアンテナ配置の両端間の長さがサブアンテナ開口長のM倍とすると、合成後の受信ビーム幅は、個々のサブアンテナの受信ビーム幅の約1/Mになる。
このように、分散開口アンテナを使用すれば、アンテナ利得の増加によりシステムの総合的な受信感度が向上し、例えばレーダーにおける探知性能を向上させることができる等の大きな効果が得られる。
【0007】
しかしながら、この反面ビーム幅の減少は同時に空間をカバーする領域が減少するという欠点を生じることになり、例えば捜索レーダーへ応用する場合には空間捜索効率の著しい劣化を招く。従って、従来の分散開口アンテナでは、受信アンテナ利得をサブアンテナの約K倍に増加させつつ、合成後の受信ビーム幅をサブアンテナと同程度まで拡大することができないという課題がある。
【0008】
また、非特許文献1には、分散開口アンテナを送信に用いる場合に、各サブアンテナの送信信号を合成する技術は開示されていない。つまり、受信の場合と同様に、サブアンテナの送信信号の合成により送信アンテナ利得を高め、且つ広い送信ビーム幅を有する送信用分散開口アンテナという概念は全く開示されていなかった。
【0009】
なお、一般的なアダプティブアンテナは、複数の素子アンテナで受信された信号から不要干渉波を抑圧して所望信号のみを抽出するようアダプティブにビームを形成するものであり、移動体通信、音響イメージング、レーダー、ソナー等の分野で用いられ、そのビーム形成アルゴリズムも幅広く研究されている。
【0010】
このアダプティブアンテナのうち固有値展開を用いてビームを形成する従来技術としては、入力信号の相関行列の固有値計算から直接ウェイトを求めるものがある。この技術は理論的な明快さと性能の良さで注目されている。この代表的な手法として知られている、非特許文献2に開示されるような最小ノルム法やMUSIC法では、相関行列の最小固有値を用いて信号到来方向の高精度推定を行うものである。従って、送受信アンテナの利得をサブアンテナ数倍程度に増加させつつ、合成後のビーム幅をサブアンテナと同程度まで拡大することはできない。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、固有値展開によるビーム形成法の考え方を応用して最大固有値を導入することにより、アンテナ利得をサブアンテナ数倍程度に増加させつつ、合成後のビーム幅をサブアンテナと同程度まで拡大させることができるアンテナ装置を得ることを目的とする。なお、この発明は、任意配列のサブアンテナに適用できる信号合成法を用いることにより、汎用性の点からも分散開口アンテナのビーム形成方法として適切である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るアンテナ装置は、分散配置した指向性ビームを有する複数の受信サブアンテナと、複数の受信サブアンテナのビーム指向方向を制御する統合ビーム制御部と、受信サブアンテナを介して信号を受信する受信機と、受信機の出力信号の共分散行列を計算する行列計算部と、共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算するベクトル計算部と、固有ベクトルをウェイトとして各受信機の出力信号に乗算する乗算部と、ウェイトを乗算した各受信機の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部とを有する受信処理部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、分散配置した指向性ビームを有する複数の受信サブアンテナと、複数の受信サブアンテナのビーム指向方向を制御する統合ビーム制御部と、受信サブアンテナを介して信号を受信する受信機と、受信機の出力信号の共分散行列を計算する行列計算部と、共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算するベクトル計算部と、固有ベクトルをウェイトとして各受信機の出力信号に乗算する乗算部と、ウェイトを乗算した各受信機の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部とを有する受信処理部とを備えるので、複数の受信サブアンテナの受信信号を合成して大開口の受信アンテナに相当する高利得の受信ビームを形成すると共に、合成後の受信ビーム幅を受信サブアンテナと同程度まで拡大できるという効果がある。これにより、アンテナ利得の増加と同時に空間をカバーする領域を、従来技術と比較して大幅に拡大することができることから、例えばレーダーへ応用する場合、従来では相反するとされていた探知性能の向上と空間捜索効率の向上を両立することができる。
【0014】
また、本発明のアンテナ装置は、従来のビームフォーマ法と異なり、各受信サブアンテナの位置や位相誤差の情報を使用しない、いわゆるブラインドビームフォーマと呼ばれる性質を有する。このため、事前に各受信サブアンテナの位置や位相誤差に関する情報を得る必要がなく、これら情報を得るための較正作業を省略することができるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるアンテナ装置の構成を示す図であり、分散配置した複数の受信サブアンテナの受信信号を合成して高利得で広ビーム幅の受信ビームを形成する受信用の分散開口アンテナ装置を示している。実施の形態1によるアンテナ装置は、複数の受信サブアンテナ1、統合ビーム制御器(統合ビーム制御部)2、受信機3及び受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ(受信処理部)4から構成される。
【0016】
複数の受信サブアンテナ1は、いずれも同一の指向性ビームを有し、開口の数〜数100倍までの任意の間隔で等間隔或いは不等間隔で直線状又は平面状若しくは立体的に分散配置される。統合ビーム制御器2は、各受信サブアンテナ1のビームが同一方向を指向するよう制御する。受信機3は、受信サブアンテナ1毎に設けられ、各受信サブアンテナ1で受信された信号を増幅してディジタル信号に変換する。受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4は、各受信機3の出力からサブアンテナの合成ビームを形成するプロセッサであって、共分散行列計算部(行列計算部)5、最大固有ベクトル計算部(ベクトル計算部)6、複素乗算部(乗算部)7及び総和計算部8から構成される。
【0017】
共分散行列計算部5は、各受信機3の出力信号に対して共分散行列計算を実行する。最大固有ベクトル計算部6は、共分散行列計算部5が算出した共分散行列の最大固有ベクトルを算出する。複素乗算部7は受信機3毎に設けられ、最大固有ベクトルをウェイトとして各受信機3の出力に乗じる。総和計算部8は、各複素乗算部7の演算結果を入力して総和を計算し合成ビームとして出力する。
【0018】
次に動作について説明する。
上述のように分散配置した複数個の受信サブアンテナ1の受信ビームは、統合ビーム制御器2からのビーム制御信号により同一方向を向くように制御される。例えば、本実施の形態1によるアンテナ装置を空間の走査が必要なレーダー装置等で具現化する場合、この統合ビーム制御器2は、受信サブアンテナ1のビーム指向方向を一致させつつ所要空間を順次走査する制御を行う。
【0019】
各受信サブアンテナ1に到来した信号波は、それぞれ受信機3で受信されディジタル信号へ変換される。なお、受信サブアンテナ1がデジタルビーム形成アンテナで構成される場合、受信機3の機能は、いわゆるビームフォーマで実現される。この場合、統合ビーム制御器2からのビーム制御信号は、このビームフォーマに入力されることになる。以下で述べる受信サブアンテナ間のビーム合成では、図1に示した通常の形式のアンテナによる場合とデジタルビーム形成アンテナとにおいてサブアンテナとして機能的な差異がない。そこで、以降では、図1に示した通常の形式のアンテナで代表して説明する。
【0020】
受信機3によりディジタル信号に変換された各サブアンテナ1からの受信信号は、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4によって合成され、合成ビームとして出力される。なお、図では省略するが、各受信サブアンテナ1の受信機3から受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4までの間の信号伝送時間に時間差が生じないように受信機3の出力段又はプロセッサ4の入力段に遅延回路を設け、この遅延回路により伝送時間を適切に補正する。
【0021】
ここで、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4内での処理を説明する。受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4内の共分散行列計算部5は、各サブアンテナ1からの受信信号に対応する各受信機3の出力に対して共分散行列を算出する。最大固有ベクトル計算部6は、共分散行列計算部5から各受信機3の出力に対する共分散行列を入力し、これらの固有値を計算してその最大固有値に相当する固有ベクトルを求める。
【0022】
一方、複素乗算部7では、最大固有ベクトル計算部6が求めた最大固有ベクトルをウェイトとして各受信機3の出力に乗算する。これら乗算結果は、総和計算部8により総和がとられて合成ビームが形成される。
【0023】
次に、実施の形態1によるビーム合成処理の詳細について説明する。
先ず、波源までの距離が受信サブアンテナ1の配置の両端間の長さに比べて十分に長いと仮定する場合、各受信サブアンテナ1への到来波は平面波と見なすことができる。またここでは、分散配置された受信サブアンテナ1のビーム幅及び指向方向は等しい。これにより、アレーアンテナの理論によると、合成後の指向性パターンG(θ)は、下記式(1)のように一つのサブアンテナのパターンGE(θ)とサブアンテナを一つの素子と見なした配置全体のアレーファクタFA(θ)との積で表せる。
【数1】

【0024】
上記式(1)の関係より、信号方向に拘わらず利得が高いアレーファクタを形成できれば、高利得で、且つビーム幅は各サブアンテナと同等の合成パターンが得られることになる。このようなアレーファクタを形成するため、本実施の形態1では、アンテナ入力信号から適応的にアレーファクタを形成するアダプティブアンテナのアルゴリズムの一種である固有値展開を用いたビーム形成法の考え方の一部を応用する。
【0025】
具体的に説明する。先ず、受信サブアンテナ1の数をK個、k番目の受信サブアンテナ1の受信信号をxk(t)(tは時間、k=1,2,・・・,K)とする。このとき、各受信信号xk(t)に対してそれぞれ複素ウェイトwkを乗じた後、総和をとればビーム形成した結果の出力が得られる。ここで、xk(t)を要素とする入力ベクトルX及びwnを要素とするウェイトベクトルWを、下記式(2)、(3)で定義する。但し、上付添え字のHは転置行列を表している。従って、合成されたビーム出力y(t)は、下記式(4)のように表せる。
【数2】

【0026】
各受信サブアンテナ1の受信信号の共分散行列Rxxを下記式(5)で定義する。この共分散行列Rxxを用いることにより、出力電力Poutは、下記式(6)で表すことができる。なお、E[ ]は時間平均である。
【数3】

【0027】
図2は、素子アンテナ位置と電波到来方向とを示す座標系の図である。電波到来角θ、φを図のように定義する。このとき、k番目の受信サブアンテナの位相中心の位置座標を(xk,yk,zk)とおくと、これと基準点Oとの伝搬経路差dkは下記式(7)で表せる。下記式(7)を用いて、電波到来角θ、φのアレー応答ベクトルaを、下記式(8)で定義する。なお、λは波長である。
【数4】

【0028】
従来のビームフォーマ法は、ビーム形成方向のアレー応答ベクトルをウェイトベクトルとして使用するものである。非特許文献1によれば、この場合、アレーファクタの利得はビーム形成方向でKとなり、その結果、合成パターンの利得はビーム形成方向で受信サブアンテナのK倍になる。
【0029】
しかしながら、従来のビームフォーマ法では、サブアンテナ配置の両端間の長さをサブアンテナ開口長のM倍とすると、アレーファクタのビーム幅がサブアンテナの約1/Mとなり、合成パターンのビーム幅も非常に狭くなることが示されている。その上、上記式(8)から明らかなように、ビーム形成方向のアレー応答ベクトルを計算するには、各受信サブアンテナの位置座標が正確にわかっている必要があり、また受信サブアンテナ間の位相誤差を正確に較正しておく必要がある。
【0030】
これに対して、本実施の形態1による合成パターン形成では、受信信号の共分散行列を用いてアダプティブにウェイトベクトルを計算する。例えば、受信信号の到来方向に拘わらず、上記式(6)で求まる出力電力Poutが最大になるようにウェイトベクトルWを決めることを考える。ここで、雑音に対する利得が1になるように正規化すれば、この問題は下記式(9)で示す最適化式で記述できる。
【数5】

【0031】
上記式(9)をラグランジェの未定乗数法で解くと、ウェイトベクトルの局所的最適解Wハット(電子出願の関係上、読みで示す)について下記式(10)が得られる。但し、ηはラグランジェ乗数である。この式(10)は、ηが共分散行列Rxxの固有値、Wハットがその固有ベクトルになることを示している。ここで、RxxはK次元のエルミート行列であるので、K個の固有値を有する。さらに、K個の固有値を有する上記式(10)の左からWハットの転置行列をかけると、下記式(11)の関係が導かれ、左辺はWハットに対する出力電力になる。
【数6】

【0032】
従って、RxxのK個の固有値のうち最大固有値が最大出力電力となり、これに相当する固有ベクトルが最適ウェイトベクトルになる。即ち、受信信号の共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを求め、これをウェイトとすれば、信号到来方向に拘わらず最大出力電力(つまり、アレーファクタの利得=K)が得られる。その結果、合成パターンとしては、利得がサブアンテナのK倍で、かつビーム幅がサブアンテナと同等のものが得られることになる。
【0033】
なお、行列の固有値及び固有ベクトルの一般的な求め方にはヤコビ法、QR法、ハウスホルダー法等、多くの数学的手法が知られているが、特に共分散行列はエルミート行列であるという性質があるので、いずれの方法を使用しても良く比較的容易に解を求めることができる(参考文献参照)。
(参考文献)
長嶋秀世著、”数値計算法”、pp.117−127、槇書店、東京、1979
【0034】
図3は、実施の形態1によるビーム形成アルゴリズムを適用した合成パターンの計算例とサブアンテナパターンとを示す図であり、同図(a)は従来からある通常のビームフォーマ法によるものを示しており、同図(b)は本実施の形態1によるビーム形成での結果を示している。なお、同図(a)中の符号Aを付したパターンは合成パターンであり、符号Bを付したパターンはサブアンテナパターンである。また、同図(b)中の符号Cを付したパターンは合成パターンであり、符号Dを付したパターンはサブアンテナパターンである。
【0035】
図示の例は、図2中に示す座標系のz軸上に10個の受信サブアンテナを平均間隔20λとしてランダムに配置した場合における、10個の受信サブアンテナの合成パターン及び各受信サブアンテナの出力パターンを、通常のビームフォーマ法と本実施の形態1によるビーム形成アルゴリズムで求めたものを記載している。なお、図中の横軸の到来角は、図2の座標系で示したθである。
【0036】
また、図3(a)に示す従来のビームフォーマ法による結果では、受信サブアンテナのビーム指向角がθ=90°で、ビーム幅が0.25°となる。一方、図3(b)において、受信サブアンテナのビーム指向角はθ=90°で、ビーム幅は7.1°となる。この計算例からも、本実施の形態1を用いることにより、サブアンテナに比べて受信利得を向上させることができる上、サブアンテナと同様のビーム幅を達成でき、通常のビームフォーマ法のようなビーム幅の減少を回避できることができる。
【0037】
以上のように、この実施の形態1によれば、分散配置した同一の指向性ビームを有する複数の受信サブアンテナ1と、複数の受信サブアンテナ1のビーム指向方向を制御する統合ビーム制御器2と、受信サブアンテナ1を介して信号を受信する受信機3と、受信機3の出力信号の共分散行列を計算する共分散行列計算部5と、共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算する最大固有ベクトル計算部6と、固有ベクトルをウェイトとして各受信機3の出力信号に乗算する複素乗算部7と、ウェイトを乗算した各受信機3の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部8とを有する受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4とを備えるので、受信サブアンテナ1より受信利得を向上させることができる上、受信サブアンテナ1と同様のビーム幅を実現できる。これにより、例えばレーダーへ応用する場合であっても探知性能の向上と空間捜索効率の向上とを両立できる。
【0038】
また、この実施の形態1によれば、上記式(10)から明らかなように、実施の形態1によるビーム形成は、各受信サブアンテナの位置や位相誤差の情報を使用しない。従って、通常のビームフォーマ法と異なり、事前にこれらの情報を得るための較正作業の必要がないという実用上の大きな長所がある。
【0039】
さらに、上記実施の形態1では、受信すべき波源の数や位置が不確定であるような一般的な場合を想定した。このような場合には最大固有ベクトルを常時計算する必要があるが、もし波源の位置がある時間内で不変と見なせるか、或いは少なくとも波源の方向が既知であるような特殊な場合には、波源位置の変化時のみ又は波源方向で1回のみ最大固有ベクトルの計算を行ってメモリに格納しておき、その後はこれを繰り返し適用して計算量を減らすことも可能である。
【0040】
しかし、この場合も上記と同様の効果があることは言うまでもない。また、図1では、統合ビーム制御器2により各受信サブアンテナ1の指向方向を制御する例を示したが、波源方向が固定されている場合では、各受信サブアンテナ1の指向方向を波源方向に固定して統合ビーム制御器2を省略しても同様の効果がある。なお、これらの変化形態は以下で説明する実施の形態2以下においても共通して成立する。
【0041】
実施の形態2.
本実施の形態2は、上記実施の形態1における受信サブアンテナ構成について変更した形態を示しており、異なるアンテナパターンの受信サブアンテナを利用するものである。
図4は、この発明の実施の形態2によるアンテナ装置の構成を示す図である。K個の受信サブアンテナ1−1〜1−Kは、上記実施の形態1と同様に分散配置するが、アンテナパターンがそれぞれ異なる。受信サブアンテナ1−1〜1−Kにそれぞれ対応して設けたK個の受信ビーム制御器(ビーム制御部)9は、各受信サブアンテナ1−1〜1−Kのビーム指向方向を統合ビーム制御器2からのビーム制御信号に対して所定量だけ偏移させる。この他の構成要素については図1と同一であり、同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0042】
次に動作について説明する。
統合ビーム制御器2は、上記実施の形態1と同様に、各受信サブアンテナ1−1〜1−Kのビームが同一方向を向くようにビーム制御信号を発生する。統合ビーム制御器2からの各受信サブアンテナ1−1〜1−Kへのビーム制御信号は、受信サブアンテナ1−1〜1−K毎に設けた受信ビーム制御器9に中継される。
【0043】
各受信サブアンテナ1−1〜1−Kの受信ビーム制御器9では、統合ビーム制御器2からのビーム制御信号を受信すると、当該ビーム制御信号で指定された実際のビーム指向方向より所定量だけ偏移するような制御信号を発生して、対応する受信サブアンテナに出力する。これにより、受信サブアンテナ1−1〜1−Kは、受信ビーム制御器9の制御信号に従った所定量分だけビーム指向方向を偏移させる。これ以降の動作は、上記実施の形態1と同様である。
【0044】
次に、実施の形態2によるビーム合成処理について説明する。
本実施の形態2では、異なるアンテナパターン(例えば、利得やビーム幅等が異なるパターン)や異なるビーム指向方向の受信サブアンテナを用いて、上記実施の形態1と同様のアルゴリズムによりビーム合成を行う。この場合、上記式(5)の共分散行列Rxxの各要素に受信サブアンテナの利得差に対応する重みがかかるのと等価になる。この結果、得られる合成パターンは各サブアンテナパターンの電力和になる。
【0045】
従って、目的に応じて、適切なパターンの受信サブアンテナを複数個配置し(但し、位置は任意)、これらのビーム指向方向をずらすようにすれば、その目的に適した形状の合成パターンを形成することができる。なお、この他の処理内容は、上記実施の形態1と同様である。
【0046】
以下、図5に示す数値例を用いて具体的に説明する。
図5は、実施の形態2によるビーム形成アルゴリズムを適用した合成パターンの計算例とサブアンテナパターンとを示す図である。同図(a)は同一のパターンを持つ5個の受信サブアンテナのビーム指向方向をずらして合成した場合の計算例であり、同図(b)は相異なるアンテナパターンの5個の受信サブアンテナのビーム指向方向をずらして合成した場合の計算例である。また、同図(a)中の符号Eを付したパターンは合成パターンであり、符号Fを付したパターンはサブアンテナパターンである。また、同図(b)中の符号Gを付したパターンは合成パターンであり、符号Hを付したパターンはサブアンテナパターンである。
【0047】
同図(a)は、各受信サブアンテナのビーム幅は7.1°で、統合ビーム制御器2から指示されるビーム形成方向90°に対して各受信ビーム制御器9が各受信サブアンテナのビーム指向方向を7.1°ずつシフトさせている。同図(a)から明らかなように、得られる合成パターンの利得は受信サブアンテナと同等であるが、ビーム幅は約5倍に拡大している。このような合成パターンは、レーダーの空間捜索効率を重視するような応用において有効である。
【0048】
なお、同図(b)の例では、サブアンテナパターンとそのビーム指向方向とを適切に選び、合成パターンが、いわゆるコセカント2乗パターンと呼ばれるものになるようにしている。受信ビーム制御器9により、このようなパターンを仰角方向に形成した上で、統合ビーム制御器2で合成パターン全体を方位方向に走査すれば、一定の高度覆域をもつ捜索用レーダーを効率よく実現できる。
【0049】
以上のように、この実施の形態2によれば、適切なパターンをもつ複数の受信サブアンテナのビーム指向方向を受信ビーム制御器9で制御することにより、使用目的に適した形状の合成パターンを比較的容易に形成することができる。
【0050】
実施の形態3.
本実施の形態3では、共分散行列の計算において上記実施の形態1及び実施の形態2における受信機3の出力の代りに仮想波源のアレー応答ベクトルを用いるものである。これにより、最大固有ベクトルの計算量を減少させることができる。
【0051】
図6は、この発明の実施の形態3によるアンテナ装置の構成を示す図である。なお、図1と同一若しくは相当する構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。サブアンテナ補正メモリ(補正メモリ)10は、受信サブアンテナの位置情報及び位相誤差情報を格納する。仮想波源アレー応答ベクトル計算部(アレー応答ベクトル計算部)11は、仮想波源のアレー応答ベクトルを算出する。
【0052】
次に動作について説明する。
統合ビーム制御器2は、上記実施の形態1と同様に、各受信サブアンテナ1のビームが同一方向を向くようにビーム制御信号を発生する。統合ビーム制御器2から各受信サブアンテナ1へのビーム制御信号は、各受信サブアンテナ1の他、仮想波源アレー応答ベクトル計算部11にもそれぞれ入力される。
【0053】
仮想波源アレー応答ベクトル計算部11では、統合ビーム制御器2から出力される各受信サブアンテナ1に対するビーム制御信号で指示された合成パターンの中心方向に対して、所要の合成ビーム幅内に複数の仮想波源を想定し、これらの方向に対応する複数のアレー応答ベクトルを計算する。この計算の過程で、予め測定器等で測定又は較正した各受信サブアンテナ1の位置情報及び位相誤差情報を記憶しておいたサブアンテナ補正メモリ10から、各受信サブアンテナの位置情報及び位相誤差情報を読み出して使用される。
【0054】
仮想波源アレー応答ベクトル計算部11が算出した各受信サブアンテナ1のビーム指向方向に対応するアレー応答ベクトルは、共分散行列計算部5に入力される。共分散行列計算部5では、入力したアレー応答ベクトルを用いて仮想波源に対応する共分散行列を計算する。最大固有ベクトル計算部6は、共分散行列計算部5が算出した共分散行列を入力し、これらの固有値を計算して受信機3毎に最大固有値に相当する固有ベクトルを求める。これ以降の動作は、上記実施の形態1と同様である。
【0055】
次に、実施の形態3によるビーム合成処理について説明する。
この実施の形態3の趣旨は、事前に受信サブアンテナの位置情報及び位相誤差情報が得られる場合に、より少ない計算量で上記実施の形態1及び上記実施の形態2と同様の効果を達成するものである。つまり、図1に示した上記実施の形態1の共分散行列計算部5及び図4に示した上記実施の形態2の共分散行列計算部5は、到来方向や到来時刻が未知の波源に対してアダプティブにビームを形成する必要があり、各受信機3の出力を用いてリアルタイムに共分散行列を計算する。この結果、これに続く最大固有ベクトル計算部6もリアルタイムの計算が必要になり計算量が多くなる場合がある。
【0056】
これに対して、事前に受信サブアンテナ1の位置情報及び位相誤差情報が得られる場合であれば、サブアンテナ補正メモリ10、仮想波源アレー応答ベクトル計算部11及び共分散行列計算部5によって、以下のようにして共分散行列の計算回数を減らすことができる。
【0057】
上記式(5)で示した共分散行列Rxxは、N個の仮想波源方向のアレー応答ベクトルを用いると、下記式(12)のように表すことができる。ここで、Piはi番目の仮想波源からの受信電力想定値、σi2は仮想雑音入力電力、Iは単位行列である。また、aiはi番目の仮想波源方向のアレー応答ベクトルである。
【数7】

【0058】
仮想波源アレー応答ベクトル計算部11は、ビーム制御信号で指示された合成パターンの中心方向に対して所要の合成ビーム幅内に複数の仮想波源を想定し、サブアンテナ補正メモリ10から各受信サブアンテナ1の位置情報及び位相誤差情報を入手して、上記式(7)を用いて仮想波源方向に応じたアレー応答ベクトルを算出する。共分散行列計算部5では、算出されたアレー応答ベクトルを用いて、上記式(12)から各受信サブアンテナ1の共分散行列を推定する。
【0059】
なお、典型的な仮想波源の間隔は、受信サブアンテナ1を通常のビームフォーマ法で合成した場合のビーム幅程度とするのが適切であり、仮想波源の数は、通常、合成パターンの所要ビーム幅と仮想波源の間隔との比で与えられる。本実施の形態3では、この条件に沿うように上記処理をサブアンテナ補正メモリ10及び仮想波源アレー応答ベクトル計算部11により実施している。なお、その他の処理は、上記実施の形態1と同様である。
【0060】
以上のように、この実施の形態3によれば、共分散行列の計算をリアルタイムで行う必要は無く、ビーム制御信号により合成ビームの指向方向が変更される都度、計算を行えばよい。従って、これに続く最大固有ベクトルの計算も同様に計算回数を減らすことができる。これは、合成ビームの指向方向が変更されない限り、ビーム合成のためのウェイトを変更しなくて良いことを意味している。なお、仮想波源に近い方向に実際の波源があれば、上記実施の形態1と同様の効果で出力電力が増加する。
【0061】
また、仮想波源は所要の合成ビーム幅内に分布しているので、これらの結果として合成パターンは高利得かつ広ビーム幅となる。つまり、本実施の形態3によれば、事前に各受信サブアンテナ1の位置及び位相誤差を測定しておけば、上記実施の形態1と同様の効果を、より少ない計算量で得ることができる。
【0062】
なお、上記実施の形態3では、上記実施の形態1に対してサブアンテナ補正メモリ10と仮想波源アレー応答ベクトル計算部11を付加した例を示したが、上記実施の形態2に適用しても同様の効果があることは言うまでもない。
【0063】
実施の形態4.
本実施の形態4は、上記実施の形態3で既知情報とした受信サブアンテナの位置情報及び位相誤差の事前情報の代わりに、既知波源を用いたアレー応答ベクトルの測定値から内挿して仮想波源アレー応答ベクトルを計算するものである。
【0064】
図7は、この発明の実施の形態4によるアンテナ装置の構成を示す図である。なお、図6と同一若しくは相当する構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。アレー応答ベクトルメモリ12は、既知波源からの受信信号により得られるアレー応答ベクトルを記憶する。
【0065】
次に動作について説明する。
統合ビーム制御器2は、上記実施の形態1と同様に、各受信サブアンテナ1のビームが同一方向を向くようにビーム制御信号を発生する。統合ビーム制御器2から各受信サブアンテナ1へのビーム制御信号は、各受信サブアンテナ1の他、仮想波源アレー応答ベクトル計算部11にもそれぞれ入力される。
【0066】
仮想波源アレー応答ベクトル計算部11では、統合ビーム制御器2から出力される各受信サブアンテナ1に対するビーム制御信号で指示された合成パターンの中心方向に対して、上記実施の形態3と同様にして所要の合成ビーム幅内に複数の仮想波源を想定し、アレー応答ベクトルメモリ12に格納された既知波源方向のアレー応答ベクトルを読み出し、アレー応答ベクトルの内挿計算により仮想波源方向に対応する複数のアレー応答ベクトルを計算する。
【0067】
なお、この計算の過程で使用するアレー応答ベクトルメモリ12には、予め到来方向が既知である波源に対して受信機3の出力として得られるアレー応答ベクトルを、到来方向が異なる少なくとも3個以上の既知波源について格納しておく。
【0068】
仮想波源アレー応答ベクトル計算部11が算出した各受信サブアンテナ1のビーム指向方向に対応するアレー応答ベクトルは、共分散行列計算部5に入力される。共分散行列計算部5では、入力したアレー応答ベクトルを用いて仮想波源に対応する共分散行列を計算する。最大固有ベクトル計算部6は、共分散行列計算部5が算出した共分散行列を入力し、これらの固有値を計算して受信機3毎に最大固有値に相当する固有ベクトルを求める。これ以降の動作は、上記実施の形態1と同様である。
【0069】
次に、実施の形態4によるビーム合成処理について説明する。
この実施の形態4は、到来方向が既知である波源が複数個存在する場合に、より少ない計算量で上記実施の形態1及び上記実施の形態2と同様の効果を達成するものである。なお、上記式(8)のアレー応答ベクトルaは、既知波源に対しては受信機3の出力として得ることができる。
【0070】
従って、到来方向が異なる3個以上の既知波源のアレー応答ベクトルを事前に測定してアレー応答ベクトルメモリ12に記憶しておくことにより、これらの内挿計算から上記実施の形態3における仮想波源方向のアレー応答ベクトルを求めることが可能になる。本実施の形態4では、上記処理をアレー応答ベクトルメモリ12と仮想波源アレー応答ベクトル計算部11で実施している。なお、その他の処理は、上記実施の形態3と同様である。
【0071】
以上のように、この実施の形態4によれば、上記実施の形態3と同様に、共分散行列の計算をリアルタイムで行う必要は無いため、より少ない計算量で上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。なお、予め到来方向が既知である波源が複数個存在すれば、上記実施の形態3で必要とされた各受信サブアンテナの位置情報及び位相誤差情報も不要となる。
【0072】
また、上記実施の形態4では、上記実施の形態1の構成にアレー応答ベクトルメモリ12と仮想波源アレー応答ベクトル計算部11を付加した例を示したが、上記実施の形態2の構成に適用しても同様の効果があることは言うまでもない。
【0073】
実施の形態5.
この実施の形態5は、上記実施の形態3と同様の概念で、分散配置された複数の送信サブアンテナを合成した高利得で広ビーム幅の送信ビームを形成する送信用分散開口アンテナに関するものである。
【0074】
図8は、この発明の実施の形態5によるアンテナ装置の構成を示す図である。本実施の形態5によるアンテナ装置は、複数の送信サブアンテナ13、励振信号発生器14、統合ビーム制御器2、送信機18及び送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ(送信処理部)15から構成される。複数の送信サブアンテナ13は、いずれも指向性ビームを有し、開口の数〜数100倍までの任意の間隔で等間隔或いは不等間隔で直線状又は平面状若しくは立体的に分散配置される。また、送信機18は、ディジタル信号である励振信号を送信信号に変換し増幅して各送信サブアンテナ13へ供給する。なお、図6と同一若しくは相当する構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0075】
励振信号発生器14は、送信の源信号となるディジタル信号である励振信号を発生する。送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ15は、空間で合成パターンが得られるように、励振信号発生器14が発生した元の励振信号から送信サブアンテナ13毎の励振信号を作成するプロセッサであって、共分散行列計算部5、最大固有ベクトル計算部6、サブアンテナ補正メモリ10、仮想波源アレー応答ベクトル計算部11、信号分配部16及び複素乗算部17から構成される。
【0076】
信号分配部16は、励振信号発生器14が発生した励振信号を各送信サブアンテナ13に分配する。複数の複素乗算部17は、信号分配部16により分配された励振信号に対して、最大固有ベクトル計算部6が算出したビーム合成用のウェイトを乗じる。この他の内部構成は、上記実施の形態1及び上記実施の形態3で示したものと同様である。
【0077】
次に動作について説明する。
先ず、励振信号発生器14で発生された源信号である励振信号は、送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ15に入力される。プロセッサ15内の信号分配部16は、励振信号発生器14からの励振信号を送信サブアンテナ13数毎に分配する。各送信サブアンテナ13に対応して設けられた複素乗算部17は、信号分配部16により分配された励振信号に対して、最大固有ベクトル計算部6が各送信サブアンテナ13に対応してそれぞれ算出したビーム合成用のウェイトを乗算する。これにより、送信サブアンテナ13毎の励振信号に変換されて、送信サブアンテナ13毎に設けられた送信機18に出力される。
【0078】
送信機18では、入力した励振信号を送信信号に変換して増幅し各送信サブアンテナ13へ供給する。これにより、分散配置した複数個の送信サブアンテナ13から送信される信号は空間で合成されて高利得で広ビーム幅の指向性ビームを形成する。なお、合成ビームの指向方向は、統合ビーム制御器2が発生する、各送信サブアンテナ13へのビーム制御信号により制御される。このビーム制御信号を受けると、各送信サブアンテナ13は、当該ビーム制御信号で指定される方向にビーム指向方向を調整する。
【0079】
ここで、送信ビームの合成処理を簡単に説明する。
送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ15に入力された励振信号発生器14による元の励振信号は、信号分配部16に入力される。信号分配部16では、入力した励振信号を送信サブアンテナ13毎に分配する。
【0080】
一方、統合ビーム制御器2は、上記実施の形態1と同様に、各送信サブアンテナ13のビームが指定した方向を向くようにビーム制御信号を発生する。統合ビーム制御器2から各送信サブアンテナ13へのビーム制御信号は、各送信サブアンテナ13の他、仮想波源アレー応答ベクトル計算部11にもそれぞれ入力される。
【0081】
仮想波源アレー応答ベクトル計算部11では、統合ビーム制御器2から出力される各送信サブアンテナ13に対するビーム制御信号で指示された合成パターンの中心方向に対して、所要の合成ビーム幅内に複数の仮想波源を想定し、これらの方向に対応する複数のアレー応答ベクトルを計算する。この計算の過程で、予め測定器等で測定又は較正した各送信サブアンテナ13の位置情報及び位相誤差情報を記憶しておいたサブアンテナ補正メモリ10から、各送信サブアンテナの位置情報及び位相誤差情報を読み出して使用される。
【0082】
仮想波源アレー応答ベクトル計算部11が算出したアレー応答ベクトルは、共分散行列計算部5に入力される。共分散行列計算部5では、入力したアレー応答ベクトルを用いて仮想波源に対応する共分散行列を計算する。最大固有ベクトル計算部6は、共分散行列計算部5が算出した共分散行列を入力し、これらの固有値を計算して送信機18毎に最大固有値に相当する固有ベクトルを求める。
【0083】
複素乗算部17では、信号分配部16により送信サブアンテナ毎に分配された励振信号に対して、最大固有ベクトル計算部6が求めた送信機18毎の固有ベクトルをビーム合成用のウェイトとして乗算する。送信機18では、複素乗算部17により処理された励振信号を送信信号に変換して増幅し各送信サブアンテナ13へ供給する。なお、サブアンテナ補正メモリ10から最大固有ベクトル計算部6に至る機能で実行されるウェイト作成の動作は実施の形態3と同様である。
【0084】
次に送信ビームの合成処理の詳細を説明する。
一般のアレーアンテナでは、上記式(4)の左辺と右辺を逆にしても等式が成り立つことは自明である。これにより、ある方向から受信される各受信サブアンテナ1の受信信号に適切なウェイトを乗じて加算した結果として最大電力が得られることと、励振信号を分配して上記と同じウェイトを乗じた後、各送信サブアンテナ13から送信すれば、その方向に最大電力が送信される、即ちその方向に指向性ビームが形成されることとは等価になる。
【0085】
以上のように、この実施の形態5によれば、図8で示した回路構成及びウェイトを用いることにより上記実施の形態3で得られた受信の合成パターンと同じ性質の送信パターンを空間合成で形成することができる。即ち、送信サブアンテナ13よりも高い送信利得を持ち、かつ送信ビーム幅が広い合成パターンを形成できる。
【0086】
なお、上記実施の形態5においても、上記実施の形態3と同様に、予め送信サブアンテナ13の位置情報及び位相誤差を測定してサブアンテナ補正メモリ10に記憶しておく必要がある。
【0087】
実施の形態6.
この実施の形態6は、上記実施の形態1乃至4における受信サブアンテナのうち1個を送受信サブアンテナとすることにより、送信及び受信を可能とした分散開口アンテナ装置に関するものである。
【0088】
図9は、この発明の実施の形態6によるアンテナ装置の構成を示す図である。図において、送受信サブアンテナ19は、分散配置された受信サブアンテナ1と離隔して配置され、指向性ビームの送受信機能を有する。送受切替器(送受信切替部)20は、送受信サブアンテナ19への送信信号と受信信号を切り替える。信号検出器21は、サブアンテナ合成された受信信号を検出する。なお、図1及び図8と同一若しくは相当する構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0089】
次に動作について説明する。
先ず、送信の場合を述べる。統合ビーム制御器2のビーム制御信号により、受信サブアンテナ1及び送受信サブアンテナ19の受信ビームは指向方向が同一になるように制御され、送受信サブアンテナ19の送信ビームも所要方向にビームが指向するように制御される。
【0090】
励振信号発生器14で発生された励振信号は、送信機18で送信信号に変換及び増幅され、送受切替器20により送信先を送受信サブアンテナ19に切り換えられる。これにより、送受信サブアンテナ19を介して送信信号が空間へ放射される。
【0091】
次に、受信の場合を述べる。分散配置した複数個の受信サブアンテナ1及び送受信サブアンテナ19の受信ビームは、統合ビーム制御器2からのビーム制御信号により同一方向を向くように制御される。分散配置された受信サブアンテナ1及び送受信サブアンテナ19で受信された信号は、受信機3でディジタル信号に変換される。なお、送受信サブアンテナ19で受信された信号は、送受切替器20により出力先が受信機3へ切り換えられ、受信機3によりディジタル信号に変換される。
【0092】
受信機3でディジタル信号に変換された受信信号は、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4に入力される。なお、図では省略するが、各受信サブアンテナ1及び送受信サブアンテナ19の受信機3から受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4までの間の信号伝送時間に時間差が生じないように受信機3の出力段又はプロセッサ4の入力段に遅延回路を設け、この遅延回路により伝送時間を適切に補正する。
【0093】
受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4内の共分散行列計算部5は、各サブアンテナ1及び送受信サブアンテナ19からの受信信号に対応する各受信機3の出力に対して共分散行列を算出する。最大固有ベクトル計算部6は、共分散行列計算部5から各受信機3の出力に対する共分散行列を入力し、上記実施の形態1と同様に、これら共分散行列の固有値を計算して受信機3毎に最大固有値に相当する固有ベクトルを求める。
【0094】
一方、複素乗算部7では、最大固有ベクトル計算部6が求めた最大固有ベクトルをウェイトとして各受信機3の出力に乗算する。これら乗算結果は、総和計算部8により総和がとられて合成ビームが形成される。総和計算部8により形成された合成ビームは、信号検出器21に出力される。これにより、受信信号の合成ビームが信号検出器21で検出される。
【0095】
以上のように、この実施の形態6によれば、分散開口アンテナ全体として送受信が可能になると共に、受信時は上記実施の形態1と同様に、利得が各サブアンテナのK倍(K:受信するサブアンテナ数)でビーム幅はサブアンテナと同程度に広い合成パターンを得ることができる。また、送信時は送受信サブアンテナ1個分ゆえ、利得は受信の合成パターンより低いがビーム幅はほぼ等しいパターンが得られる。
【0096】
これにより、例えばレーダーのように送受信機能が必要な場合に適用できるだけでなく、受信において上記実施の形態1と同様に、高利得で広ビーム幅の合成パターンが得られる。なお、その他の作用効果も上記実施の形態1と同様である。
【0097】
なお、上記実施の形態6では、送信機能を有する1個の送受信サブアンテナを設ける例を示したが、受信機能は他の受信サブアンテナのみとし、1個の送信専用のサブアンテナを設けることで、送受切替器20を省略しても同様の効果が得られる。
【0098】
また、上記実施の形態6を上記実施の形態1へ適用する例を示したが、上記実施の形態2乃至4に適用しても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0099】
実施の形態7.
この実施の形態7は、上記実施の形態1乃至4の受信サブアンテナのうち複数個を送受信サブアンテナに置き換えることにより、上記実施の形態6に比べて実効送信電力を向上させたものである。なお、本実施の形態7による送受信用の分散開口アンテナ装置は、レーダーのように送信ビームと受信ビームの指向方向を同一方向にして使用する場合に適用できる。
【0100】
図10は、この発明の実施の形態7によるアンテナ装置の構成を示す図であり、説明の簡単のため、サブアンテナを全て送受信サブアンテナで構成した例を示している。図において、変調器(変調処理部)22は、励振信号を周波数軸又は時間軸上に拡散変調する。復調器(復調処理部)23は、変調信号を復調する。また、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4は、送受信サブアンテナ19の数だけ並列に設けられる。なお、図1及び図9と同一若しくは相当する構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0101】
次に動作について説明する。
先ず、送信の場合を述べる。統合ビーム制御器2のビーム制御信号により、送受信サブアンテナ19の送信ビームは指向方向が同一になるように制御される。励振信号発生器14で発生された励振信号は、変調器22により周波数軸上で拡散又は時間軸上で拡散及び符号化されて、送受信サブアンテナ19毎に設けた送信機18に分配される。
【0102】
図11は、変調器22による変調処理を説明するための図であり、同図(a)が周波数多重の場合を示しており、同図(b)は時間軸多重の場合を示している。同図(a)に示す変調処理を行う場合、変調器22は、励振信号発生器14が発生した元の励振信号を入力すると、各送受信サブアンテナ19、例えば送受信アンテナ#1,#2,・・・,#K毎に分配し、送受信アンテナ#1,#2,・・・,#K毎に異なる周波数F1,F2,・・・,FKで変調する。
【0103】
同図(b)に示す変調処理を行う場合、変調器22は、励振信号発生器14が発生した元の励振信号を入力すると、各送受信サブアンテナ19、例えば送受信アンテナ#1,#2,・・・,#K毎に分配し、送受信アンテナ#1,#2,・・・,#K毎に時間をずらし、且つ互いに直交する符号で変調する。
【0104】
送信機18では、上述のようにして変調された励振信号を送信信号に変換及び増幅する。このあと、送信信号は送受切替器20を経由して送受信サブアンテナ19に送られ、送受信サブアンテナ19を介して空間へ放射される。
【0105】
次に、受信の場合を述べる。分散配置した複数個の送受信サブアンテナ19の受信ビームは、統合ビーム制御器2からのビーム制御信号により同一方向を向くように制御される。分散配置された送受信サブアンテナ19で受信された信号は、送受切替器20により出力先が受信機3へ切り換えられ、受信機3によりディジタル信号に変換される。
【0106】
受信機3でディジタル信号に変換された受信信号は、復調器23で復調され、いずれの送受信サブアンテナ19の送信信号に対応した受信信号かが区別される。これら受信信号は、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4毎に入力される。
【0107】
受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4では、復調器23から入力した受信信号を用いて、復調器23で区別された受信信号毎に受信ビームを合成する。信号検出器21は、これらプロセッサ4の出力を合成して最終的な信号検出を行う。その他の動作は上記実施の形態6と同様である。
【0108】
以下に本実施の形態7の概要を説明する。
上記実施の形態6によるアンテナ装置では、送受信サブアンテナ19が1個ゆえ比較的簡単な構成で送受信が可能であるが、実効送信電力はサブアンテナ1個と同じにしかならないという欠点がある。しかしながら、実効送信電力を増加させるために複数のサブアンテナを同一周波数で同時に送信させると、相互の干渉による送信パターンの乱れが著しくなり有効な送信電力の向上が得られないという不具合が生じる。
【0109】
そこで、本実施の形態7では、レーダーのように送信ビームと受信ビームの指向方向を同一方向にして使用する場合を想定し、各サブアンテナを周波数分割又は時分割で送信することにより、サブアンテナ間の相互干渉を防止するものである。
【0110】
即ち、周波数分割送信を使用する場合であれば、変調器22が、図11(a)に示すように、元の励振信号を送信するサブアンテナの数に分配した後、サブアンテナ毎に異なる周波数で変調する。前述のように、ここではレーダーのような応用を想定したので、受信信号は送信信号のレプリカか、或いは送信信号と強い相関があると見なすことができる。従って、復調器23は、受信信号を周波数フィルタにより、送信したサブアンテナに対応させて分離することができる。分離された受信信号は、それぞれの受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4において受信ビーム合成される。
【0111】
一方、時分割送信を使用する場合には、変調器22は、図11(b)に示すように、元の励振信号を送信するサブアンテナの数に分配した後、サブアンテナ毎に時間をずらし、かつ互いに直交する符号で変調する。ここでは直交符号を用いているので、周波数分割の場合と同様に、復調器23では、受信信号を符号復調することにより送信したサブアンテナに対応させて分離することができる。分離された受信信号は、それぞれの受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4において受信ビーム合成される。
【0112】
以上のように、この実施の形態7によれば、送受信サブアンテナ19を複数設けた場合であっても、それぞれの送受信サブアンテナ19による送信信号の相互干渉を防止できるので、複数サブアンテナを同時に送信に使用できる。この結果、上記実施の形態6に比べて実効送信電力がサブアンテナ数相当だけ増加する。また、送信ビーム幅は、それぞれのサブアンテナと等しいので、通常のビームフォーマ法による分散開口アンテナの受信ビームのようなビームの先鋭化が生じない。
【0113】
一方、各送受信サブアンテナ19の送信信号に対する受信時の処理構成及び動作は、上記実施の形態1と同様であるので、これと同様に受信利得の向上と受信ビーム幅の拡大の効果も得られる。即ち、上記実施の形態7によるアンテナ装置は、レーダーのように送信ビームと受信ビームの指向方向を同一方向にして使用する場合、送信、受信ともサブアンテナ単独である場合よりも利得が向上し、且つビーム幅はサブアンテナ相当に拡大できる。
【0114】
また、上記実施の形態7を上記実施の形態1又は上記実施の形態2に適用することにより、各送受信サブアンテナ19の位置情報や位相誤差の情報が不要であるという長所もある。
【0115】
なお、上記実施の形態7では、全てのサブアンテナを送受信可能なもので構成した例を示したが、必ずしも送信と受信のサブアンテナ数は同じである必要は無く、これらの数が異なっている場合にも同様の効果があることは明らかである。
【0116】
また、上記実施の形態7を上記実施の形態1の構成に適用する例を示したが、上記実施の形態2乃至4に適用しても同様の効果を得ることができる。
【0117】
実施の形態8.
この実施の形態8は、上記実施の形態7で説明した周波数分割や時分割送信の代わりに上記実施の形態5で示した送信サブアンテナの合成法を用いることにより、上記実施の形態6に比べて送信利得を向上させたものである。
【0118】
図12は、この発明の実施の形態8によるアンテナ装置の構成を示す図であり、説明の簡単のため、サブアンテナを全て送受信サブアンテナで構成した場合を示している。なお、図8及び図9と同一若しくは相当する構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0119】
次に動作について説明する。
先ず、送信の場合を述べる。励振信号発生器14で発生された源信号である励振信号は、送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ15に入力される。プロセッサ15では、上記実施の形態5と同様にして、入力した励振信号を送受信サブアンテナ19毎の励振信号に変換して、送受信サブアンテナ19毎に設けられた送信機18に出力する。
【0120】
送信機18では、入力した励振信号を送信信号に変換して増幅し、送受信切替器20を介して各送受信サブアンテナ19へ供給する。これにより、分散配置した複数個の送受信サブアンテナ19から送信される信号は空間で合成されて高利得で広ビーム幅の指向性ビームを形成する。なお、合成ビームの指向方向は、統合ビーム制御器2が発生する、各送受信サブアンテナ19へのビーム制御信号により制御される。このビーム制御信号を受けると、各送受信サブアンテナ19は、当該ビーム制御信号で指定される方向にビーム指向方向を調整する。
【0121】
次に、受信の場合を述べる。各送受信サブアンテナ19に到来した信号波は、送受信切替器20により受信機3側に送信先が切り替えられる。受信機3では、受信信号をディジタル信号へ変換する。受信機3によりディジタル信号に変換された各送受信サブアンテナ19からの受信信号は、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4に入力される。
【0122】
なお、図では省略するが、各送受信サブアンテナ19の受信機3から受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4までの間の信号伝送時間に時間差が生じないように受信機3の出力段又はプロセッサ4の入力段に遅延回路を設け、この遅延回路により伝送時間を適切に補正する。
【0123】
受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4では、上記実施の形態1と同様の処理で各送受信サブアンテナ19からの受信信号についての合成ビームを形成する。信号検出器21は、プロセッサ4からの出力により最終的な信号検出を行う。その他の動作は上記実施の形態6と同様である。
【0124】
以上のように、この実施の形態8によれば、分散配置された送受信サブアンテナ19の送信系に上記実施の形態5と同様の機能を、受信系に上記実施の形態1と同様の機能をそれぞれ適用している。これにより、この実施の形態8の効果は、これらの実施の形態の効果を兼ね備えたものになる。
【0125】
即ち、送信においては、送信利得を増加させる手段として空間で送信ビームを合成するので、同一周波数での同時送信が可能で上記実施の形態7における変調器と復調器を必要とせず、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4も1個でよい。
【0126】
また、送信ビームと受信ビームの指向方向が同一であるという制約も無いので、目的によっては送信ビームと受信ビームを別方向に形成することも可能である。その代わり、上記実施の形態7と異なり、送信ビームの合成のために各送受信サブアンテナ19の位置情報や位相誤差の事前情報が必要になる。
【0127】
一方、受信においては、上記実施の形態7と同様に、受信利得の向上と受信ビーム幅の拡大の効果が得られる。
【0128】
なお、上記実施の形態8では、全てのサブアンテナを送受信可能なもので構成した例を示したが、送信と受信のサブアンテナ数は必ずしも同じである必要は無く、これらの数が異なっている場合にも同様の効果があることは明らかである。
【0129】
また、上記実施の形態8を上記実施の形態1の構成に適用する例を示したが、上記実施の形態2乃至4に適用しても同様の効果があることは言うまでもない。
【0130】
実施の形態9.
この実施の形態9は、上記実施の形態8において、全てのサブアンテナが送受信サブアンテナであり、かつ送信ビームと受信ビームの指向方向が同一である場合、送信用固有値ビームフォーミングプロセッサのウェイト計算を無くし、その代わりに受信用固有値ビームフォーミングプロセッサで計算したウェイトを励振信号のウェイト乗算に使用するものである。これにより、上記実施の形態8より計算量を減少させている。
【0131】
図13は、この発明の実施の形態9によるアンテナ装置の構成を示す図である。図において、ウェイトメモリ24は、最大固有ベクトル計算部6が算出した最大固有値ベクトルである受信用のウェイトを格納する。なお、図8及び図9と同一若しくは相当する構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0132】
次に動作について説明する。
受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4内の最大固有ベクトル計算部6は、上記実施の形態1と同様にして送受信サブアンテナ19毎の最大固有値ベクトルを算出する。ここで、最大固有ベクトル計算部6の出力は2分岐されており、一方は自プロセッサ4内の複素乗算部7に出力され、他方は送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ15内のウェイトメモリ24に出力され記憶される。
【0133】
これにより、受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ4内の複素乗算部7は、当該最大固有値ベクトルを受信用のウェイトとして受信信号に乗算する。また、送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ15内の複素乗算部17は、ウェイトメモリ24に一旦記憶した最大固有値ベクトルを、送信処理時に読み出して励振信号に乗じるウェイトとして送信信号に乗算する。これ以外の処理は、上記実施の形態8と同様である。
【0134】
次に実施の形態9の概要について説明する。
上記実施の形態8において、全てのサブアンテナが送受信サブアンテナ19であり、かつ送信ビームと受信ビームの指向方向が同一であるならば、受信用と送信用の固有値ビームフォーミングプロセッサにおけるウェイトは同じものになる。従って、少なくとも1回の受信により対象となる波源の受信利得を最大にするウェイトを決定したならば、次回の送信時のウェイトにこれを流用すれば、その波源に対する送信利得は受信利得と同様に最大化される。
【0135】
例えば、本実施の形態9をレーダー装置に適用した場合、1回目の送信(このときは、まだ送信ビーム合成はされていない)に対する受信信号で受信ビームが合成されれば、このウェイトを2回目の送信に使用することになり、これにより送信利得が増加する。従って、これ以後は送信受信ともに高い利得となり、安定した目標検出が行える。
【0136】
以上のように、この実施の形態9によれば、全てのサブアンテナが送受信サブアンテナであり、かつ送信ビームと受信ビームの指向方向が同一である場合、上記実施の形態8と同様の効果をより少ない計算量で達成することができる。
【0137】
また、上記実施の形態8の構成と異なり、上記実施の形態9を、上記実施の形態1又は上記実施の形態2の構成に適用した場合には、各送受信サブアンテナ19の位置情報や位相誤差の情報が不要であるという長所もある。
【0138】
なお、上記実施の形態9を上記実施の形態1の構成に適用する例を示したが、上記実施の形態2乃至4に適用しても同様の効果があることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】この発明の実施の形態1によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図2】素子アンテナ位置と電波到来方向とを示す座標系の図である。
【図3】実施の形態1による合成パターンの計算例とサブアンテナパターンとを示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図5】実施の形態2による合成パターンの計算例とサブアンテナパターンとを示す図である。
【図6】この発明の実施の形態3によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態4によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態5によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態6によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態7によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図11】実施の形態7による変調器の変調処理を説明するための図である。
【図12】この発明の実施の形態8によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図13】この発明の実施の形態9によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0140】
1,1−1〜1−K 受信サブアンテナ、2 統合ビーム制御器(統合ビーム制御部)、3 受信機、4 受信用固有値ビームフォーミングプロセッサ(受信処理部)、5 共分散行列計算部(行列計算部)、6 最大固有ベクトル計算部(ベクトル計算部)、7,17 複素乗算部(乗算部)、8 総和計算部、9 受信ビーム制御器(ビーム制御部)、10 サブアンテナ補正メモリ(補正メモリ)、11 仮想波源アレー応答ベクトル計算部(アレー応答ベクトル計算部)、12 アレー応答ベクトルメモリ、13 送信サブアンテナ、14 励振信号発生器、15 送信用固有値ビームフォーミングプロセッサ(送信処理部)、16 信号分配部、18 送信機、19 送受信サブアンテナ、20 送受切替器(送受信切替部)、21 信号検出器、22 変調器(変調処理部)、23 復調器(復調処理部)、24 ウェイトメモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散配置した指向性ビームを有する複数の受信サブアンテナと、
前記複数の受信サブアンテナのビーム指向方向を制御する統合ビーム制御部と、
前記受信サブアンテナを介して信号を受信する受信機と、前記受信機の出力信号の共分散行列を計算する行列計算部と、前記共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算するベクトル計算部と、前記固有ベクトルをウェイトとして各受信機の出力信号に乗算する乗算部と、前記ウェイトを乗算した各受信機の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部とを有する受信処理部とを備えたアンテナ装置。
【請求項2】
送受信が可能な送受信サブアンテナと、前記送受信サブアンテナの送信と受信を切り替える送受信切替部と、送信信号を前記送受信サブアンテナに供給する送信機とを備えたことを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
分散配置した送受信が可能な複数の送受信サブアンテナと、
前記送受信サブアンテナの送信と受信を切り替える送受信切替部と、
前記複数の送受信サブアンテナのビーム指向方向を制御する統合ビーム制御部と、
前記送受信サブアンテナを介して信号を受信する受信機と、前記受信機の出力信号を復調して前記送受信サブアンテナ毎の受信信号に分離する復調処理部と、前記受信機の出力信号の共分散行列を計算する行列計算部と、前記共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算するベクトル計算部と、前記固有ベクトルをウェイトとして各受信機の出力信号に乗算する乗算部と、前記ウェイトを乗算した各受信機の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部とを有する受信処理部と、
励振信号を前記送受信サブアンテナの数で周波数分割又は時分割して変調する変調処理部と、変調した励振信号を送信信号として前記送受信アンテナに供給する送信機とを備えたアンテナ装置。
【請求項4】
分散配置した送受信可能な複数の送受信サブアンテナと、
前記送受信サブアンテナの送信と受信を切り替える送受信切替部と、
前記複数の送受信サブアンテナのビーム指向方向を制御する統合ビーム制御部と、
前記送受信サブアンテナを介して信号を受信する受信機と、前記受信機の出力信号の共分散行列を計算する行列計算部と、前記共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算する受信側ベクトル計算部と、前記固有ベクトルをウェイトとして各受信機の出力信号に乗算する受信側乗算部と、前記ウェイトを乗算した各受信機の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部とを有する受信処理部と、
前記各送受信サブアンテナの位置及び位相誤差に関する情報を記憶する補正メモリと、前記補正用メモリに格納した情報及び統合ビーム制御部により制御された前記複数の送受信サブアンテナのビーム指向方向に基づいて仮想波源方向のアレー応答ベクトルを計算するアレー応答ベクトル計算部と、前記アレー応答ベクトルを用いて前記仮想波源に対応する共分散行列を計算する行列計算部と、前記共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算する送信側ベクトル計算部と、前記送受信アンテナの数に分配した励振信号に前記固有ベクトルをウェイトとしてそれぞれ乗算する送信側乗算部と、前記ウェイトを乗算した励振信号を送信信号として前記各送受信サブアンテナに供給する送信機と有する送信処理部とを備えたアンテナ装置。
【請求項5】
分散配置した送受信可能な複数の送受信サブアンテナと、
前記送受信サブアンテナの送信と受信を切り替える送受信切替部と、
前記複数の送受信サブアンテナのビーム指向方向を制御する統合ビーム制御部と、
前記送受信サブアンテナを介して信号を受信する受信機と、前記受信機の出力信号の共分散行列を計算する行列計算部と、前記共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算する受信側ベクトル計算部と、前記固有ベクトルをウェイトとして各受信機の出力信号に乗算する受信側乗算部と、前記ウェイトを乗算した各受信機の出力信号の総和を計算して出力する総和計算部とを有する受信処理部と、
前記送受信アンテナの数に分配した励振信号に前記受信側ベクトル計算部が算出した固有ベクトルをウェイトとしてそれぞれ乗算する送信側乗算部と、前記ウェイトを乗算した励振信号を送信信号として前記各送受信サブアンテナに供給する送信機とを有する送信処理部とを備えたアンテナ装置。
【請求項6】
サブアンテナをそれぞれ異なるアンテナパターンを有するアンテナとし、前記サブアンテナ毎にそのビーム指向方向を制御するビーム制御器を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項7】
受信処理部は、予め測定した各サブアンテナの位置及び位相誤差に関する情報を記憶する補正用メモリと、前記補正用メモリに格納した情報及び統合ビーム制御部により制御された前記複数のサブアンテナのビーム指向方向に基づいて仮想波源方向のアレー応答ベクトルを計算するアレー応答ベクトル計算部とを備え、
行列計算部は、前記アレー応答ベクトルを用いて共分散行列を計算することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項8】
受信処理部は、既知方向の波源に関する受信機の出力信号を測定して求めたアレー応答ベクトルを記憶するアレー応答ベクトルメモリと、統合ビーム制御部により制御された前記複数のサブアンテナのビーム指向方向に基づいて、前記アレー応答ベクトルメモリに格納したアレー応答ベクトルの内挿計算により複数の仮想波源方向のアレー応答ベクトルを求めるアレー応答ベクトル計算部とを備え、
行列計算部は、前記アレー応答ベクトルを用いて共分散行列を計算することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項9】
分散配置した指向性ビームを有する複数の送信サブアンテナと、
前記複数の送信サブアンテナのビーム指向方向が共に同一方向となるように制御する統合ビーム制御部と、
前記各送信サブアンテナの位置及び位相誤差に関する情報を記憶する補正メモリと、
前記補正用メモリに格納した情報及び統合ビーム制御部により制御された前記複数の送信サブアンテナのビーム指向方向に基づいて仮想波源方向のアレー応答ベクトルを計算するアレー応答ベクトル計算部と、
前記アレー応答ベクトル計算部が算出したアレー応答ベクトルを用いて前記仮想波源に対応する共分散行列を計算する行列計算部と、
前記共分散行列の最大固有値に相当する固有ベクトルを計算するベクトル計算部と、
前記送信サブアンテナの数に分配した励振信号に前記固有ベクトルをウェイトとして乗算する乗算部と、
前記ウェイトを乗算した励振信号を送信信号として前記各送信サブアンテナに供給する送信機とを備えたアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−270847(P2006−270847A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89326(P2005−89326)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】