説明

アーク応用機器の電源装置

【課題】出力容量が多種類の機種要求に対応して設計の工数を削減し、製作部品の種類を限定して安定した品質のアーク応用電源機器を安価に提供する。
【解決手段】平滑コンデンサを含む入力段直流ユニットとインバータを含む交流ユニットと直流出力ユニットを具備する単位電源ブロックの複数ブロックを並列に接続した電源において単位電源ブロック間の電力バランスを保つ為に、各平滑コンデンサ端子電圧を同じ電圧にする様に各インバータの出力を制御することを特徴とするアーク応用電源機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク応用機器の電源装置に於いて、受電二電圧系に対応が出来て、ユーザの出力容量多様化要求への対応が、設計工程単純化により製作コストが安くできるアーク応用電源機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の技術としては特許文献1に並列運転に関する技術が開示されている。
【0003】
この特許文献1の技術では、段落(0002)に「従来の溶接機の容量アップ方法の1つは、単機容量を増やす方法がある。また他の方法は、同一容量のインバータを直接並列接続してインバータ出力を増やす方法がある。後者の方法は、一台のマスターと称するインバータの制御回路で全てのインバータの制御を行い、他はマスターとなるインバータの制御回路からインバータ駆動回路へ引き渡される駆動信号を分配し、共通に接続する方法をとっている。この時、インバータの制御回路は取り外すか、または保護動作のみ行い出力の制御は行わない状態にしている。」との記述がある。段落(0003)に「上述したような溶接機の容量アップ方法は次のような問題がある。単機容量を増やす方法の場合、必要とする容量を実現可能であるが、容量アップを行う毎に使用する部品を変更すること、都度新設計が必要となる。インバータ、溶接トランス、整流回路の開発が個々に必要となるという問題がある。」段落(0004)に、「また後者の方法は、標準機を使用していながらその都度マスターとなるインバータの制御基板から駆動信号を分配するための改造と、故障信号や他のインターロック関係等の信号の接続を行う為の改造が必要で、手間のかかる方法である。」
発明の内容として、同公報の段落(0006)に、「上記問題を解決する為に、溶接ト
ランスの2次側を直接並列接続すると共に同期信号と通信手段によって容量アップする。」との技術開示がある。
【0004】
【特許文献1】「特開平8−1350号」公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような技術が開示されている、ところがアーク溶接機の場合、アーク発生に起因する電磁ノイズ発生が近距離の通信回路を誤動作させるので、上記通信手段の内蔵は制御回路の誤動作の対応にコストが余分に掛かることになる。
【0006】
多様な出力容量の要求に対して行っていた都度の新設計をして新部品を製作する工数を省き、上記のような通信手段を具備しない方法で、単位電源ブロックを形成し、安定した品質の電源装置を安価に提供できるようにすることが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に関しては、平滑コンデンサを含む入力段直流ユニットと、インバータを含む交流ユニット及び、出力段整流器と出力端子を具備する直流出力ユニットとによって形成される標準的な単位電源ブロックの複数個を、直流出力ユニットの出力端子で並列に接続し所望の容量を得る電源装置において、単位電源ブロック間の電力バランスを保つ為に、各平滑コンデンサの端子電圧を検出し、該端子電圧を等しい電圧に保持するように、各交流ユニットのインバータを制御して出力調整することを特徴とするアーク応用機器の電源装置とした。もし単位電源ブロック間に電力アンバランスが生じたときは、出力大の電源ブロックの、高周波トランス、出力整流器、半導体スイッチング素子、入力整流器などの主回路構成要素部品に過負荷が掛かり過熱して故障を速めてしまう。このような事態を避けるために電力をバランスさせる。この方法として各ブロックの平滑コンデンサの端子電圧を検出し、該端子電圧を等しい電圧に保持することに着眼した。各交流ユニットのインバータを制御して出力調整する場合の出力バランスの検出は受電電圧の入力インピーダンスによる電圧降下に着目した。単位電源ブロックB1とB2とは同じ構成要素部品で製作されているから、入力インピーダンスは同じ値である、この同一インピーダンスで電圧降下する値は電流の大きさに比例するから、受電電圧から該電圧降下分を差し引いた値である平滑コンデンサの端子電圧が出力を示す代用特性として表れているから、これを同じ電圧に保持することは出力を同じ値に保持することになる。
【0008】
請求項2に関しては、前記入力段直流電力ユニットは、交流電圧を受電する入力端子と、直流に変換する整流回路及び平滑コンデンサを具備する直流電力ユニットであり、前記単位電源ブロック毎の平滑コンデンサは同等の静電容量であり、その端子間電圧は基準電圧値と比較され、誤差増幅されてインバータのパルス幅制御信号を生成するために用いられる検出電圧であることを特徴とする請求項1記載のアーク応用機器の電源装置とした。
【0009】
請求項3に関しては、前記入力段直流電力ユニットは、受電する二種類の交流電圧(例えば、200V、及び100V)に対応して、二電圧系切替器を介して接続され、どちらの電圧の場合も同一の直流出力電圧で交流ユニットに給電する二電圧対応機能を有する入力段直流電力ユニットであることを特徴とする請求項1乃至2記載のアーク応用機器の電源装置とした。
【0010】
請求項4に関しては、前記インバータは入力側の直流と出力側の交流がブリッジ接続される各アームを具備し、該アームが半導体スイッチング素子で形成され、各単位電源ブロックの平滑コンデンサの端子間電圧が高い方のブロックが出力大となるように、出力調整機能を備えたインバータであることを特徴とする請求項1乃至3記載のアーク応用機器の電源装置とした。
【0011】
請求項5に関しては、前記インバータはPWM制御によって調整をすることを特徴とする請求項1乃至4記載のアーク応用機器の電源装置とした。
【0012】
請求項6に関しては、前記直流出力ユニットの並列接続した出力端子の一極を分岐し、分岐した一方をパイロットアーク用チョッパ回路を介して、溶接用ノズルに接続し、分岐した他方を溶接電極に接続することを特徴とする請求項1乃至5記載のアーク応用機器の電源装置とした。
【発明の効果】
【0013】
200V系と100V系などの受電二電圧系に対応が出来て、出力容量の多様化要求に対応し都度の新設計して新部品を製作していた工程を省き、標準品の単位電源ブロックで単純化して設計製作コストが安くできた。アーク溶接機電源の場合、アーク発生に起因する電磁ノイズが近距離の通信回路を誤動作させるので、上記通信手段の内蔵は制御回路の誤動作の対応にコストが余分に掛かることになるが、上記のような通信手段を具備しない方法で制御が自己完結している単位電源ブロックを形成し、この標準品を複数個、要求容量に合わせ出力を並列接続するだけで多様な容量の電源装置を形成することで、品質が安定した電源装置を安価に提供することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による実施の形態を図1の回路ブロック図に示して説明する。1,2は入力端子であり商用電源がここに接続される。A1、A2が入力段直流ユニットである。Zは入力側の等価インピーダンス、3は平滑コンデンサ、C1、C2は交流ユニット、D1,D2は直流出力ユニットであり以上で単位電源ブロックB1、B2を構成する。7,8は出力端子で並列接続されて負荷13に接続されている。単位電源ブロックB1、B2は標準品として特性値、信頼性の確認が充分に実施されていて安定した生産工程で製作され、この電源ブロックが必要数だけ並列に接続されてユーザの要求する出力電流容量の電源装置に形成することが出来る。Zは等価回路としての入力側インピーダンスであり、出力電流が大きい単位電源ブロックは、この等価インピーダンスZによる電圧降下が大きい。この電圧降下のために、平滑コンデンサ3の端子間電圧が低い方の電源ブロックは出力電流が大きく、高い方の電源ブロックは出力電流が少ないことを示していて、両方の平滑コンデンサ3の端子間電圧が同じ値になるように、制御回路14で生成した信号で交流ユニットC1、C2のインバータの出力電力を制御して、単位電源ブロック間で出力がバランスするようにした。
【0015】
図2に、図1の回路ブロック図を具体化した回路構成図として示した。A1、A2の入力段直流ユニットは、入力整流器Rで交流を直流に変換して、平滑コンデンサ3でリップルを小さくする。交流ユニットC1,C2はインバータ4と高周波トランス5で構成され、インバータ4で直流を高周波交流電力に変換すると同時に出力を制御する。制御の方法は半導体スイッチング素子24の制御電極に駆動信号を与えてこの素子24の出力電流パルス幅を変化させるPWM制御である。高周波トランス5で負荷13に最適の電圧になるように変圧する。直流出力ユニットD1,D2は、出力整流器6で回路構成され高周波交流電力を直流電力に変換する。複数の単位電源ブロックB1、B2が並列接続された出力端子7,8から直流電力が負荷13に供給される。単位電源ブロックB1、B2が受電した商用周波数の交流を入力整流器Rで直流に変換して高周波交流電力に変換するのは、高周波トランス5で負荷に最適の電圧まで変圧する変圧器構造体が、同じ出力電力でも周波数に反比例的に小型に製作出来て、製作コストが安価になり電源装置自体の重量が大幅に軽減できるからであり、単位電源ユニットを形成する場合に有効である。
【0016】
図3に負荷が溶接の場合の実施形態を回路構成図で示し、この図3によって説明する。溶接電極9が一方の出力端子7に,他方の端子8に母材11が接続されて,この間にアークを発生させて溶接電極及び母材を溶かして溶接する消耗性電極による溶接法や,溶接電極が溶けないでアーク発生のための電極として作用し,母材を溶かして溶接する非消耗性電極の溶接法に用いられる場合である。アークスタート性を改良する為にチョッパ12で電圧を昇圧してトーチ10に印加して、パイロットアークを溶接電極9との間に発生させ、母材へアークを移行させて母材のアークスタートを速くする方法に用いられる。インバータは入力側の直流端と出力側の交流端がブリッジ接続される各アームを具備し、該アームが半導体スイッチング素子24で形成され導通電流波形をパルス幅制御(PWM制御)することができる絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)や,パワーMOS FETの使用が有効である。
【0017】
負荷がランプの場合は、図2に示すように、負荷13が一対の電極を有する放電ランプなどの光源であり,出力端子7,8にランプの各電極がそれぞれ接続される場合の光源用の電源装置として,出力整流器6で直流に変換しないで高周波電力をランプの電極間に接続する光源用電源装置の場合も有効である。
【0018】
図2、図3に示す受電二電圧系切替器Wは、例えば交流入力電圧が200V系と100V系に対応して交流ユニットの入力電圧を各電源ブロックB1、B2の入力側にそれぞれ、同一の100V系電圧にして与えるように自動的又は、手動で切替えるように形成されている。単位電源ブロックB1、B2を出力端子で並列接続して出力容量が所定の値になるようにするので、電源ブロックが複数個あるというこの構成は、入力電圧を二電圧系に対応できる利点がある。受電二電圧系切替器Wの常閉接点28が閉じて、常開接点26と27が開いている状態で入力端PとQが接続状態であるから、入力端子1と2の間に200Vを受電したとき入力段A1及びA2に夫々100Vが印加されるので交流ユニットC1とC2に100Vが整流され平滑コンデンサ3で平滑された直流が無負荷時は交流の波高値に近い約140Vで印加される。負荷電流が大きくなれば、入力側の等価インピーダンスZで電圧降下も大きいが、負荷電流に比例した値だけ低い電圧となって平滑コンデンサ3に印加される。受電二電圧系切替器Wの常閉接点28が開いて、常開接点26と27が閉じた100V受電状態では、入力端PとQが非接続状態であるから、入力端子1と2の間に100Vを受電したとき入力段A1及びA2に夫々交流100Vが印加される。交流の入力電圧を検出してこれに対応して自動で各接点を作動させる自動切換手段も有効であり、単位電源ブロックを複数個準備し、出力端で並列運転する本発明の方式は、受電二電圧系対応にも活かせる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の出力調整のための検出部位として各平滑コンデンサ端子電圧に着目し、これを各単位電源とも同じ電圧値にする様に、各インバータの出力を制御するので安価で簡単な構成部品で制御できた。単位電源ブロック間の出力容量が偏って、過電流による一方の電源ブロックに寿命を短縮させる要因が排除できたので電源装置の信頼性が向上したので、この電源を使用する点灯設備や、溶接設備全体の故障時間が少なくなり稼動率が向上し産業上の価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による実施の形態を示す回路ブロック図。
【図2】本発明による実施の形態を示す回路構成図。
【図3】本発明による他の実施の形態を示す回路構成図。
【符号の説明】
【0021】
1 入力端子
2 入力端子
R 入力整流器
3 平滑コンデンサ
4 インバータ
5 高周波トランス
6 出力整流器
7 出力端子
8 出力端子
9 溶接電極
10 トーチ
11 母材
12 チョッパ
13 負荷
14 制御回路
141 第1電圧検出器
142 第2電圧検出器
151 第1誤差増幅器
152 第2誤差増幅器
161 第1基準電圧生成手段
162 第2基準電圧生成手段
19 PWM制御信号生成器
20 ゲート駆動信号生成器
24 半導体スイッチング素子
26 常開接点
27 常開接点
28 常閉接点
A1 入力段直流ユニット
A2 入力段直流ユニット
B1 単位電源ブロック
B2 単位電源ブロック
C1 交流ユニット
C2 交流ユニット
D1 直流出力ユニット
D2 直流出力ユニット
E 等電位接続体
R 入力整流器
W 受電二電圧系切替器
Z 等価インピ-ダンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑コンデンサを含む入力段直流ユニットと、インバータを含む交流ユニット及び、出力段整流器と出力端子を具備する直流出力ユニットから形成される単位電源ブロックの複数ブロックを、直流出力ユニットの出力端子で並列に接続した電源において、単位電源ブロック間の電力バランスを保つ為に、各平滑コンデンサの端子電圧を検出し、該端子電圧を等しい電圧に保持するように、各交流ユニットのインバータを制御して出力調整することを特徴とするアーク応用機器の電源装置。
【請求項2】
前記入力段直流電力ユニットは、交流電圧を受電する入力端子と、直流に変換する整流回路及び平滑コンデンサを具備する直流電力ユニットであり、前記単位電源ブロック毎の平滑コンデンサは同等の静電容量であり、該平滑コンデンサの端子間電圧は基準電圧値と比較され、誤差増幅されてインバータのパルス幅制御信号を生成するために用いられる検出電圧であることを特徴とする請求項1記載のアーク応用機器の電源装置。
【請求項3】
前記入力段直流電力ユニットは、受電する二種類の交流電圧系に、(例えば、200V系及び100V系の)対応して接続切替えで、受け入れて同一の直流出力電圧で交流ユニットに給電する二電圧系対応手段を有する入力段直流電力ユニットであることを特徴とする請求項1乃至2記載のアーク応用機器の電源装置。
【請求項4】
前記インバータは、直流入力端と交流出力端がブリッジ接続される各アームを具備し、該アームが半導体スイッチング素子で形成され、前記各単位電源ブロックの平滑コンデンサの端子間電圧が高い方の電源ブロックが低い方の電源ブロックより出力大となるように制御する、出力制御機能を備えたインバータであることを特徴とする請求項1乃至3記載のアーク応用機器の電源装置。
【請求項5】
前記インバータはブリッジ接続される各アームでPWM制御することによって電力調整をすることを特徴とする請求項1乃至4記載のアーク応用機器の電源装置。
【請求項6】
前記直流出力ユニットの並列接続した出力端子の一極を分岐し、分岐した一方がパイロ
ットアーク用チョッパ回路を介して、溶接用ノズルに接続され、分岐した他方が溶接電極に接続されることを特徴とする請求項1乃至5記載のアーク応用機器の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−116555(P2006−116555A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304849(P2004−304849)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】