説明

イオン伝導性電解質膜の検査方法

【課題】イオン伝導性電解質膜におけるピンホール等の検査方法を提供する。
【解決手段】電解質膜の一方の面に調光薄膜を接合し、水素ガスを電解質膜の他方の面側から供給する。電解質膜にピンホール等の欠陥部があると、水素ガスが電解質膜の一方の面へ漏洩するから、該一方の面に調光薄膜を接合しておけば、欠陥部の漏洩水素ガスで調光薄膜が水素化して反射率が局部的に変化する。すなわち調光薄膜の局部的な反射率の変化の有無を目視等して電解質膜の欠陥部の有無を迅速に検査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性電解質膜の欠陥部の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性電解質膜(「電解質膜」と表示することがある)は、例えば燃料電池に使用され、水素イオン伝導を利用する水素イオン伝導性電解質膜は、例えば固体高分子型燃料電池の膜電極接合体(membrane electrode assembly )に用いられる。上記膜電極接合体は、水素イオン伝導性電解質膜である固体高分子膜の一方の面に水素極(燃料極)を他方の面に空気極(酸素極)を接合して構成される。固体高分子型燃料電池では、水素極には水素が、空気極には酸素(又は空気)がそれぞれ供給される。水素は、水素極でイオン化して水素イオンと電子を生成する。水素イオンは、電解質膜を透過して空気極へと達する。電子は、水素極と空気極との間に接続された電気的負荷を介して空気極へ達する。電子が供給された空気極では、水素イオンと酸素が反応して、水(水蒸気)が生成される。
【0003】
こうして電力を発生する固体高分子型燃料電池では、膜電極接合体の一部を構成する電解質膜にピンホールやクラックがあると、電解質膜にガス漏れが生じて、発電能力が低下してしまう。かかるピンホールやクラックは、例えば電解質膜のいずれか一方の面側の空間に水素ガスを供給すると、電解質膜に水素ガスの漏洩を生じさせるから、水素センサで電解質膜のいずれか他方の面側の空間中に含まれる水素の濃度を測定することによって発見することができる。かかる測定における水素センサとしては、例えば水素吸収合金を用いたものなどがある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−233097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水素センサを用いて雰囲気中に含まれる漏洩水素ガスの濃度を測定しても、漏洩水素ガスの濃度から、ピンホール等の有無を間接的に検査するにすぎず、電解質膜におけるピンホール等の位置や大きさ等を直接的に検査することはできない。そこで本発明は、電解質膜の欠陥部(ピンホールやクラック等)を直接的に検査する方法を実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係るイオン伝導性電解質膜の検査方法(請求項1)では、電解質膜の一方の面に調光薄膜が接合され、水素ガスが電解質膜の他方の面側の空間に供給される。すると電解質膜に水素ガスの漏洩を生じさせる欠陥部があるときには、欠陥部を通じて水素ガスが電解質膜の他方の面から電解質膜の一方の面へと漏洩するから、漏洩箇所に接する調光薄膜が漏洩水素ガスで水素化して光学的反射率が変化する。すなわち調光薄膜の局部的な光学的反射率の変化の有無を目視等して電解質膜の欠陥部の有無を検査することができる。
【0006】
請求項2に記載のように、電解質膜の他方の面側の空間における気圧を、電解質膜の一方の面側の空間における気圧よりも高くすると、欠陥部における漏洩水素ガスの量が多くなって、漏洩箇所に接する調光薄膜の光学的反射率がより顕著に変化するから、電解質膜の欠陥部の有無をより迅速に検査することができる。請求項3に記載のように、調光薄膜が触媒層と反応層を有し、触媒層が電解質膜と接していれば、触媒層が電解質膜の漏洩水素ガスを水素分子化し、この水素分子が反応層と反応して、調光薄膜の光学的反射率を変化させることができる。
【0007】
請求項4に記載のように、調光薄膜が、マグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・バナジウム合金もしくはマグネシウムで形成した反応膜と、触媒膜をパラジウムもしくは白金で形成した触媒膜を有していれば、調光薄膜は、水素に反応して迅速かつ可逆的に光学的反射率が変化する。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法によれば、イオン伝導性電解質膜の欠陥部を、漏洩水素ガスによって生じる調光薄膜の光学的反射率の変化で直接的かつ迅速に検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法を説明する。
【実施例】
【0010】
本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法の一実施例を図1ないし図3を用いて説明する。ここで図1は、検査対象となる電解質膜に調光薄膜を接合したときの構成例を示す図であり、図2は、その斜視図であり、図3は、検査のために図1に示す電解質膜等を容器に収容するときの概略構成例を示す図である。
【0011】
(電解質膜及び調光薄膜)
図1及び図2に示すように、電解質膜10と同一平面状形を有する調光薄膜11は、触媒膜12と反応膜13を有し、触媒膜12で電解質膜10の一方の面10aに接している。なお図1(a)中の10bは、電解質膜10の他方の面である。電解質膜10には、例えば固体高分子膜であるパーフルオロスルホン酸基ポリマー膜、あるいはナフィオン膜等を使用することができる。調光薄膜11が有する反応膜13は、例えばMgNix(0≦x<0.6)の薄膜であり、またマグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・バナジウム合金もしくはマグネシウムで形成することもできる。触媒膜12は、例えばパラジウムもしくは白金からなり、反応膜13の表面にコーティングなどによって形成することができ、厚さは1nmないし100nmである。かかる調光薄膜11が、水素濃度が100ppmないし1%程度以上の雰囲気に触れると、例えば数秒ないし10秒程度で、反応膜13が迅速かつ可逆的に水素化して光学的反射率(以下、単に「反射率」と表示することがある)に目視可能な変化が生じる(反応膜13は、水素化していないときには反射率が高く、水素化すると反射率が低下する)。なおポリエチレンシート上に反応膜13を形成し、さらに触媒層12を形成した調光薄膜11では(図1における調光薄膜11の上面にポリエチレンシートが位置することになる)、その取り扱いが容易になる。
【0012】
(水素ガスを供給する空間)
図3に示すように、調光薄膜11を接合した電解質膜10を容器20に収容したのち、電解質膜10の他方の面10b側の水素ガス供給空間21に、容器20の水素ガス供給口21aから水素ガスHを供給する(たとえばポンプ26で供給する)。調光薄膜11の側の空気供給空間22には、水素ガスHを殆ど含まないガス(例えば空気)が容器20の空気供給口22aから供給される(図示しないポンプで供給される)。水素ガス供給空間21と空気供給空間22とは、電解質膜10で遮られている。空気供給空間22の周壁23には、調光薄膜11を目視するための窓24が設けられている(ガラス25が窓24に取り付けられて容器20の内部と外部を遮蔽している)。なお調光薄膜11を接合した電解質膜10は、その周辺部を枠(図示せず)で挟持されるなどして容器20の内部に取り付けられる。
【0013】
(電解質膜の欠陥部検査)
電解質膜10にピンホール等の欠陥部が全くないときには、水素ガス供給空間21に供給された水素ガスHは、電解質膜10に阻まれて調光薄膜11に触れることができない。したがって、調光薄膜11は水素化されず、調光薄膜11の反射率は変化しない(調光薄膜11の表面11aを目視したとき、調光薄膜11は、均一な高い反射率を有して鏡面のように見える)。電解質膜10にクラック10c(欠陥部)があるときには、図1(b)および図3に示すように、水素ガスHが電解質膜10の他方の面10bからクラック10cを経て電解質膜10の一方の面10aへと漏洩する。するとクラック10cに接する調光薄膜11の部分11cは、漏洩した水素ガスHの多寡に応じて反射率が迅速に変化する(反射率が低下して、調光薄膜11の斑として目視できる)。
【0014】
なお、調光薄膜11と電解質膜10の一方の面10aとの接合は、両膜の間に間隙が全く生じない完全な密着状態を意味するものではない。なぜならば、両膜を接合するときに僅かな間隙が生じたとしても、クラック10cで漏洩した水素ガスHは、クラック10cの直近の反応層13を水素化できるからである。また水素イオン伝導性電解質膜を検査する場合において、電解質膜の他方の面10bに水素極が接合されていてもよい。なぜならば、電解質膜に欠陥部があるときには、水素ガスHは、水素極を透過したのち欠陥部を通じて電解質膜の一方の面へと漏洩して反応層を水素化するからである(すなわち水素イオン伝導性電解質膜に水素極を接合した膜電極接合体の半完成品状態において、欠陥部の検査を行うことができる)。また水素極を接合することで、調光薄膜と電解質膜との接合体(両膜とも極めて薄い)に水素極の厚さが加わって、電解質膜等の取り扱いが容易になる。またポンプ26を用いて、水素ガスHを供給するとともに、水素給空間21の気圧を空気供給空間22の気圧よりも高く維持することが好ましい。そうすれば電解質膜に水素極を接合するか否かに拘らず、クラック10cにおける漏洩水素ガスHを増量できる。なお水素ガス供給空間21の気圧を空気供給空間22の気圧よりも高く維持できれば、ポンプ26以外のものを用いてもよい。
【0015】
かくして調光薄膜11に水素ガス漏洩を生じさせる欠陥部の有無、欠陥部の位置、欠陥部の形状を目視によって迅速に検査することができる。また目視に代えて、テレビジョンカメラなどで調光薄膜11の反射率を電気信号に変換すれば、映像処理装置で反射率の変化を検出して、電解質膜10の欠陥部を迅速に検査することもできる。
電解質膜は、実施例の平板形状に限定されず他の平面的な形状であってもよい。また円柱状の電解質膜であっても、円柱の外周面に調光薄膜を接合し、円柱の内周面側の空間に水素ガスを供給するなどしてもよい。なお本発明は、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体に用いられるイオン伝導性電解質膜の検査に限定されるもではなく、上述した実施例に限定されるものでもなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明の検査方法によって、電解質膜のピンホール等の欠陥部を検査するために、検査対象となる電解質膜に調光薄膜を接合した例を示す図であり、(b)は電解質膜における水素ガス漏洩の例を示す図である。
【図2】図1に示す電解質膜の斜視図である。
【図3】本発明の検査方法によって、電解質膜のピンホール等の欠陥部を検査するために、電解質膜等を容器に収容するときの一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
10 電解質膜
10a 電解質膜の一方の面
10b 電解質膜の他方の面
10c クラック(欠陥部)
11 調光薄膜
11c 電解質膜の欠陥部に接する調光薄膜の部分
12 触媒膜
13 反応膜
21 水素ガス供給空間(電解質膜の他方の面側の空間)
26 ポンプ
水素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性電解質膜の検査方法であって、
前記電解質膜の一方の面に調光薄膜を接合し、
水素ガスを前記電解質膜の他方の面側の空間に供給して、
前記電解質膜にガスの漏洩を生じさせる欠陥部があるときには、前記欠陥部を通じて前記水素ガスを前記電解質膜の他方の面から前記電解質膜の一方の面へと漏洩させて、
漏洩した前記水素ガスで前記調光薄膜を水素化して、
前記水素化で生じる前記調光薄膜の光学的反射率の変化によって、前記電解質膜の前記欠陥部の有無を検査することを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項2】
前記電解質膜の他方の面側の空間における気圧が、前記電解質膜の一方の面側の空間における気圧よりも高いことを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項3】
前記調光薄膜は触媒層と反応層を有し、
前記電解質膜と接する前記触媒層が、前記電解質膜を透過した水素ガスで前記反応層を水素化することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項4】
前記反応膜はマグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・バナジウム合金もしくはマグネシウムで形成された反応膜であり、前記触媒膜はパラジウムもしくは白金で形成された触媒膜であることを特徴とする請求項3に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−311060(P2008−311060A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157515(P2007−157515)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(391064005)株式会社アツミテック (39)
【Fターム(参考)】