説明

イオン性微粒子およびその用途

【課題】 水不溶性のイオン性粒子と水溶性架橋ポリマーの双方の特徴を兼ね備え、通常の光学顕微鏡では確認できず位相差顕微鏡ではじめて確認できる粒子であって、カチオン性あるいは両性のイオン性を持つことを特徴とするイオン性微粒子とその用途を提供することである。
【解決手段】 水溶性ビニルモノマーを開始時のモノマー濃度が15〜60質量%で重合することにより製造可能であることを発見した。このイオン性微粒子は汚泥脱水剤、歩留向上剤、濾水性向上剤に優れた性能を発揮することを発見した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性微粒子とその用途に関するものであり、詳しくは水溶性ビニルモノマーを開始時15〜60質量%のモノマー濃度で重合したラジカル(共)重合物からなるカチオン性あるいは両性のイオン性を有する微粒子であって、通常の顕微鏡では確認できず位相差顕微鏡ではじめて確認できることを特徴とするイオン性微粒子とその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子凝集剤として多岐にわたる用途へイオン性の水溶性ポリマーが利用されてきた。しかしながら、問題点も多く更なる機能を目指して、水不溶性、水膨潤性のイオン重合体微粒子が多く開発され利用されている。
【0003】
これら水不溶性、水膨潤性のイオン重合体微粒子は、架橋性モノマーの存在下油中水型の逆相乳化重合により製造され、通常光学顕微鏡で観察することが可能であり、その粒子径が容易に測定されている。
【0004】
一方で、架橋性モノマーを利用して水溶性の架橋構造を有するイオン性ビニル系ポリマーを、汚泥脱水剤として利用する方法が示されているが、水溶性であるため通常の光学顕微鏡では当然観察することはできない。また水溶性であり本発明の粒子とは異なる。
【0005】
このように、水不溶性であることおよび水溶性の架橋構造を有することが、高分子凝集剤の多岐にわたる用途においてそれぞれが特徴のある有効なものであることが知られている。しかしながら、水不溶性であることおよび水溶性で架橋構造を有する両方の特徴をあわせ持つイオン性微粒子というものは未だ開示されていない。
【0006】
【特許文献1】特許第2135284号
【特許文献2】特許第2575692号
【特許文献3】特許第321857号
【特許文献4】特開昭64−085199公報
【特許文献5】特開2000−024700公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、通常の光学顕微鏡では確認できず位相差顕微鏡ではじめて確認できる微粒子であって、カチオン性あるいは両性を有することを特徴とするイオン性微粒子とその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため詳細な検討を行った結果、特定の重合条件下で反応を進行させることにより、通常の光学顕微鏡では確認できず位相差顕微鏡ではじめて確認できる粒子であって、イオン性を有する微粒子が製造可能であることを発見した。さらには、このイオン性微粒子が懸濁固形物の凝集作用に優れた性能を発揮することを発見した。
【0009】
すなわち請求項1の発明は、水溶性ビニルモノマーを開始時のモノマー濃度が15〜60質量%で重合したラジカル(共)重合物からなるカチオン性あるいは両性のイオン性を有する微粒子であって、通常の光学顕微鏡では確認できず位相差顕微鏡ではじめて確認できる粒子であることを特徴とするイオン性微粒子である。
【0010】
請求項2の発明は、前記イオン性粒子が、下記一般式(1)で表されるカチオン性水溶性ビニルモノマー、あるいは適宜下記一般式(2)で表されるアニオン性水溶性ビニルモノマーを構造単位に含むラジカル共重合物であることを特徴とする、請求項1に記載のイオン性微粒子である。
【化1】


一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2〜R4はベンジル基あるいは炭素数1〜3のアルキル基であり同種でも異種でも良い、Aは酸素又はNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基又はアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
R5は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R6は水素又はCOOY2、Y1あるいはY2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0011】
請求項3の発明は、前記イオン性微粒子が、前記一般式(1)で表されるカチオン性水溶性ビニルモノマー、あるいは適宜前記一般式(3)で表されるアニオン性水溶性ビニルモノマーを含むモノマー混合物水溶液を、塩水溶液中において該塩水溶液中に可溶なポリマー分散剤を共存させる分散重合法によって製造されることを特徴とする、請求項1あるいは2に記載のイオン性微粒子である。
【0012】
請求項4の発明は、前記イオン性微粒子の粒径が4質量%塩化ナトリウム水溶液中において800nmから100μmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のイオン性微粒子である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性微粒子からなる汚泥脱水剤である。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性微粒子からなる歩留向上剤である。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性微粒子からなる濾水性向上剤である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカチオン性あるいは両性微粒子(以下イオン性微粒子という)は、水不溶性のイオン性微粒子と架橋構造を持つ水溶性のイオン性重合物の特徴をあわせ持つ微粒子である。この微粒子の生成は以下のように推定される。すなわち、高濃度で重合反応を行うことにより、生成したポリマーの一部が絡まりまたは結晶化、あるいはこれらの複合的な作用により粒子が生成するものと考えられる。塩水溶液中の分散重合においては、重合したポリマーが縮まり析出する過程を経るが、水溶液中での重合より析出系でのポリマーの密度は著しく高いため、比較的低濃度の重合でもイオン性粒子が生成すると考えられる。水不溶性のイオン性微粒子と架橋構造を持つ水溶性のイオン性重合物の特徴をあわせ持つ微粒子であるため以下のような使用法が期待できる。すなわち多岐にわたる高分子凝集剤としての用途、特に廃水処理剤、汚泥脱水剤、歩留向上剤、濾水性向上剤などがある。従って産業上多大な貢献をするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を具体的に説明する。本発明のイオン性微粒子は、通常の光学顕微鏡では確認できず位相差顕微鏡ではじめて確認できる微粒子であって、カチオン性あるいは両性を有することを特徴とするイオン性微粒子である。水溶性のカチオン性あるいは両性架橋ポリマーは、懸濁物の凝集性能、例えばフロック形成性能が未架橋カチオン性あるいは両性ポリマーと比較して向上するが、最適添加量がやや増加する傾向がある。一方で、水不溶性のカチオン性あるいは両性微粒子は、強いフロックを形成しせん断力に対して安定であるが、最適添加量が増加する傾向にあるといった特徴を持つ。本発明のイオン性微粒子は、上記の性能をあわせ持つ特徴がある。
【0018】
イオン性微粒子が生成する反応の詳細についてはまだ良くわからないが、以下のように推定される。すなわち、高濃度で重合反応を行うことにより、生成したポリマーの一部が絡まりまたは結晶化、あるいはこれらの複合的な作用により粒子が生成するものと考えられる。塩水溶液中の分散重合においては、重合したポリマーが縮まり析出する過程を経るが、水溶液中での重合より析出系でのポリマーの密度は著しく高いため、比較的低濃度の重合でもイオン性粒子が生成すると考えられる。すなわち重合開始時の水溶性ビニルモノマーの濃度はモノマー溶解相に対して15〜60重量%の範囲である。特に、塩水溶液中該塩水溶液中で可溶なポリマー分散剤存在下の重合法においては、15〜40重量%の範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明のイオン性微粒子は、水溶性ビニルモノマーの重合により生成することができる。重合方法としてはとくに制限はないが、重合物の性状、反応の制御等を考慮すると、油中水型逆相エマルジョン重合法や塩水溶液中水溶性ポリマー分散剤存在下の分散重合法が好ましく、重合中に相分離過程を経る生成するポリマーの密度が高い塩水溶液中分散重合法がさらに好ましい。
【0020】
油中水型逆相エマルジョン重合法は、水溶性ビニルモノマー混合物および架橋成分を水、分散媒として少なくとも水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合することにより合成することができる。
【0021】
塩水溶液中分散重合は、水溶性ビニルモノマー混合物を、水、塩、塩水溶液中可溶なポリマー分散剤、場合によっては架橋成分を混合し、重合しつつポリマーを析出させ、水溶液中に分散させ合成することができる。
【0022】
水溶性ビニルモノマーとしては、カチオン性水溶性ビニルモノマー単独もしくは非イオン性水溶性ビニルモノマー、さらにはアニオン性ビニルモノマーを使用する。カチオン性水溶性ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチルジアリルアミン等の第三級アミの基含有モノマーやその塩類などが上げられる。さらには、上記第三級アミノ基含有モノマーの塩化メチル等による四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩化物(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物等が上げられ、一種類あるいは二種類以上を併用することが可能である。
【0023】
非イオン性水溶性ビニルモノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等が上げられ、これらの1種類あるいは二種類以上を併用することが可能である。
【0024】
アニオン性水溶性ビニルモノマーの例としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、p−カルボキシスチレン等が上げられる。これらの1種類あるいは二種類以上を併用することも可能である。
【0025】
重合する単量体(混合物)の組成は、一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜100モル%、一般式(3)で表される単量体0〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%からなる単量体(混合物)が好ましい。更に好ましい単量体(混合物)の組成は、一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜50モル%、一般式(3)で表される単量体0〜30モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜95モル%である。また更に好ましい単量体は、メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物あるいはアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物であり、最も好ましい単量体の組み合わせとしてはメタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物及びアクリルアミド、あるいはメタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリル酸及びアクリルアミドの各組み合わせである。
【0026】
塩水溶液中水溶性ポリマー分散剤存在下の分散重合法で使用する塩としては、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンなどの陽イオンと、ハロゲン化物、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンや酢酸イオン、クエン酸イオンなどの陰イオンとの組み合わせによる塩が上げられる。これらの塩は一種類だけでも複数の組み合わせでも使用することができ、その濃度は10重量%〜飽和濃度までの範囲である。
【0027】
共存させるポリマー分散剤としては、イオン性、非イオン性いずれも使用可能であるが、好ましくはイオン性、さらに好ましくはカチオン性である。カチオン性ポリマー分散剤としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物や、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物などのカチオン性モノマーの(共)重合体を使用するが、カチオン性モノマーと非イオン性モノマーとの共重合体も使用できる。非イオン性モノマーの例としては、アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が上げられる。
【0028】
上記水溶性ポリマー分散剤の分子量は、1000〜200万、好ましくは5000から100万の範囲である。また水溶性ポリマー分散剤の添加量は、モノマーの重量に対して1〜20重量%の範囲であり、分散効果と実用性を考慮すると好ましくは2〜15重量%の範囲である。
【0029】
本発明においてはイオン性微粒子を生成するために、モノマー混合物中に共有結合性の架橋成分を含有することは、必須のものではないが併用することも可能である。この際、架橋成分の存在は、本粒子の生成および存在の安定化を促進するものである。
【0030】
共有結合性の架橋成分としては特に制限は無く、複数のビニル基を有する多官能ビニルモノマーをモノマー混合物と共重合することも可能であるし、上記モノマー混合物を共重合した重合物中の活性基と反応性のある官能基を複数持つ架橋成分で重合後架橋することも可能である。さらには放射線、プラズマ、酸化剤等による架橋も可能であるが、製造の容易さ、コスト等を考慮すると好ましくは、多官能ビニルモノマーと共重合することが好ましい。多官能ビニルモノマーの例としては、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−ビニル(メタ)アクリルアミド等が上げられる。
【0031】
共有結合性の架橋成分の適当な添加量は、架橋剤の効率、分子量、反応条件等を考慮して適宜決定する必要があるが、一般的にはモノマー混合物の質量に対して0.5〜50,000ppmの範囲である。また、イソプロピルアルコール、メタリルスルホン酸ナトリウムといった連鎖移動剤を、モノマー混合物重量に対して1〜50,000ppmの範囲で使用することも可能である。
【0032】
油中水型エマルジョン重合法により重合する場合の分散媒として使用する炭化水素からなる油状物質の例としては、パラフィン類あるいは灯油、軽油、中油などの鉱油、あるいはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度などの特性を有する炭化水素系合成油、あるいはこれらの混合物があげられる。含有量としては、油中水型エマルジョン全量に対して20質量%〜50質量%の範囲であり、好ましくは20質量%〜35質量%の範囲である。
【0033】
油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤の例としては、HLB3〜11のノニオン性界面活性剤であり、その具体例としては、ソルビタンモノオレ−ト、ソルビタンモノステアレ−ト、ソルビタンモノパルミテ−トなどがあげられる。これら界面活性剤の添加量としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%の範囲である。
【0034】
油中水型エマルジョンの重合後は、転相剤と呼ばれる親水性界面化成剤を添加して油の膜で被われたエマルジョン粒子が水になじみ易くし、中の水溶性ポリマーが溶解しやすくする処理を行い、水で希釈しそれぞれの用途に用いる。親水性界面化成剤の例としては、カチオン性界面化成剤やHLB9〜15のノニオン性界面化成剤であり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエ−テル系、ポリオキシエチレンアルコールエ−テル系などである。
【0035】
上記重合反応は、上記モノマー混合物を重合開始剤存在下ラジカル(共)重合でおこなうことができる。重合開始剤は一般的なラジカル重合開始剤であれは特に制限は無く、アゾ系、過酸化物系、レドックス系重合開始剤や光重合開始剤等を使用することが可能であり、油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオネ−ト)、4、4−アゾビス(4−メトキシ−2、4ジメチル)バレロニトリルなどがあげられ、水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などがあげられる。
【0036】
またレドックス系の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどとの組み合わせがあげられる。さらに過酸化物の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムあるいはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエ−トなどをあげることができる。光重合開始剤としてはベンゾインエチルエステル、ベンゾインイソプロピルエステル等が上げられる。これらの重合開始剤の添加量は、製品の目的、反応温度により異なるが、モノマー重量に対して10〜10,000ppmの範囲であり、一度で全量添加することも、複数回に分けて添加することも可能である。
【0037】
重合反応の温度は、選択した開始剤や、カチオン粒子の目的により異なるが、一般的には5〜100℃の範囲であり、重合開始剤の効率や、反応速度の制御について考慮すると、油中水型エマルジョン重合法を適用する場合は20〜80℃、好ましくは20〜60℃の範囲で、塩水溶液中水溶性ポリマー分散剤存在下での重合反応では20〜60℃の範囲であることが好ましい。
【0038】
このように生成された本発明のイオン性微粒子は、4質量%塩化ナトリウム水溶液中における粒子径が800nmから100μmの範囲である。800nmより小さい粒子は製造上の困難を伴い現実的ではなく、100μmより大きい粒子は、特徴ある性能が発揮されない。
【0039】
このような状態にあるイオン性微粒子を汚泥脱水剤として用いた場合、水不溶性のイオン性微粒子と架橋構造を持つ水溶性のイオン性重合物に比較して少ない添加量で強固なフロックを形成し、さらに脱水ケーキのべた付きが少なく、含水率が低下するといったメリットが発生する。また無機凝集剤、カチオン性・アニオン性及び両性水溶性ポリマーから選択される一種以上と組み合わせて使用することも可能である。
【0040】
同様に、このような状態にあるイオン性微粒子を製紙工業における歩留向上剤として使用した場合、製紙原料フロックが巨大化せず小さく締ったものとなりシェアに強い。従って歩留が向上するだけでなく、地合も良好な紙が抄紙できる。また無機凝集剤、カチオン性・アニオン性及び両性水溶性ポリマーから選択される一種以上と組み合わせて使用することも可能である。
【0041】
さらに、このような状態にあるイオン性微粒子を製紙工業における濾水性向上剤として使用した場合、製紙原料のフロック形成による濾水性向上効果のほか、フロックの含水率が低下するため、ドライヤーパートにおける乾燥性が向上する。
【0042】
これらの組み合わせて使用する無機凝集剤は、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸鉄などある。カチオン性ポリマーのうち縮合系カチオン性水溶性ポリマーの例は、アミン・エピクロルヒドリン縮合物などである。アニオン性水溶性ポリマーの例は、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸あるいはアクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸などのそれぞれ単独重合体あるいは前記モノマーから二つ以上を選択した共重合体、あるいは(メタ)アクリルアミドとの共重合体などである。両性水溶性ポリマーの例は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマー、適宜(メタ)アクリルアミドなどの非イオン性モノマーからなるモノマー混合物の共重合体である。カチオン性水溶性ポリマーの例は、一種以上のカチオン性モノマーの重合体、あるいは(メタ)アクリルアミドなど非イオン性モノマーとの共重合体である。
【0043】
カチオン性モノマーの例は、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチルジアリルアミンなどが上げられる。また、四級アンモニウム基含有モノマーの例としては、該三級アミノ含有モノマーの塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物などである。
【0044】
これら組み合わせて使用する縮合系カチオン性水溶性ポリマー、またはアニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性ポリマーの分子量は以下のような範囲が好ましい。縮合系の場合は数千〜数10万であり、アニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性ポリマーは100万〜2,000万であり、好ましくは500万〜1500万である。
【0045】
本発明のイオン性微粒子と組み合わせて使用する場合、無機凝集剤の添加量としては、対製紙原料当り(以下同様)0.1〜5%の範囲であり、好ましくは0.5〜3%の範囲である。また縮合系カチオン性水性溶ポリマーの添加量としては、50〜2000ppmの範囲であり、好ましくは50〜500ppmの範囲である。アニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性ポリマーの添加量としては、20ppm〜5000ppmの範囲であり、好ましくは50ppm〜1000ppmの範囲である。
【0046】
以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに脱イオン水205.8g、硫酸アンモニウム148.8g、カチオン性ビニルモノマーとして80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQ)18.7g及び80重量%メタクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物(以下DMC)20.1g、50重量%アクリルアミド(以下AAM)87.9g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物重合体(以下pDM)18.8g(20重量%水溶液、20重量%水溶液粘度6450mPa・s)をそれぞれ仕込んだ。その後、攪拌しながら窒素導入管より窒素を導入し溶存酸素の除去を行った。この間、恒温水槽により35±2℃に内部温度を調整した。窒素導入40分後、開始剤として2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ニ塩化水素化物の1重量%水溶液0.75gを添加し重合を開始させた。内部温度を35±2℃に保ち重合開始後6時間たったところで上記開始剤を0.75g追加し、さらに10時間反応させ終了した。この得られた分散液を試作1とする。この試作1の仕込み量を表1、物性を表3に示す。
【実施例2】
【0048】
アニオン性ビニルモノマーとしてアクリル酸(以下AAC)を加え仕込み重量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様な方法で反応を行った。この得られた分散液を試作2とし、この試作の仕込み量を表1、物性を表3に示す。
【実施例3】
【0049】
仕込み重量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1もしくは2と同様な方法で反応を行った。この得られた分散液を試作3〜6とし、これら試作の仕込み量を表1、物性を表3に示す。
【実施例4】
【0050】
架橋成分としてメチレンビスアクリルアミド(以下MBA)を表1に示す量添加したこと以外は、実施例1と同様な方法で反応を行った。この得られた分散液を試作7および試作8とし、これら試作の仕込み量を表1、物性を表3に示す。
【実施例5】
【0051】
攪拌機および温度制御装置を備えた反応槽に沸点190°Cないし230°Cのイソパラフィン(以下ISP)140gにソルビタンモノオレート(SOL)15.0gを仕込み溶解させた。別にDMQ80重量%水溶液46.2g、DMC80重量%水溶液49.5gAAM50重量%水溶液216.9g、MBA0.1重量%水溶液1.8g、イオン交換水30.6gを各々採取し、混合し完全に溶解させた。その後油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて1000rpmで15分間攪拌乳化した。得られたエマルジョンをモノマー溶液の温度を46〜50℃の範囲に保ち、窒素置換を30分行った後、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート0.7gを加え、重合反応を開始させた。反応温度を46〜50℃の範囲で12時間重合させ反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエ−テル5.0gを添加混合した。この得られた油中水型エマルジョンを試作9とする。この試作9の仕込み表を表2に、物性を表3に示す。
【実施例6】
【0052】
仕込み重量を表2に示すように変えたこと以外は、実施例9と同様な方法で反応を行った。この得られた油中水型エマルジョンを試作10および試作11とし、これら試作の仕込み量を表2、物性を表3に示す。
【0053】
(比較合成例1)仕込み量を表1のように変え、水溶性モノマーの濃度を10重量%としたこと以外は、実施例1と同様な方法で反応を行った。この得られた分散液をそれぞれ比較1〜6とし、これら比較の仕込み量を表1、物性を表3に示す。
【0054】
(比較合成例2)仕込み重量を表2に示すようにMBAを添加しないこと以外は、実施例5〜6と同様な方法で反応を行った。この得られた油中水型エマルジョンをそれぞれ比較7〜9とし、これら比較の仕込み量を表2、物性を表3に示す。
【0055】
表1

DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(80重量%水溶液)
DMC:メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(80重量%水溶液)
AAC:アクリル酸(60重量%水溶液)、AAM:アクリルアミド(50重量%水溶液)、MBA:N,N−メチレンビスアクリルアミド(0.1重量%水溶液)pDM:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物重合体(20重量%水溶液)、AST:硫酸アンモニウム
数値の単位:質量g
【0056】
表2

DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(80重量%水溶液)
DMC:メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(80重量%水溶液)、AAM:アクリルアミド(50重量%水溶液)
MBA:N,N−メチレンビスアクリルアミド(0.1重量%水溶液)
ISP:沸点190°Cないし230°Cのイソパラフィン
SOL:ソルビタンモノオレート
数値の単位、質量:g
【0057】
表3

数値の単位
モノマー濃度:質量%、顕微鏡観察結果:μm、カチオン当量値:meq/g、
カチオン当量値はpH10.0におけるコロイド滴定法での測定による。
【0058】
表3からわかるように、実施例においては位相差顕微鏡での観察の結果、光学顕微鏡では確認できなかったイオン性微粒子が観察された。比較例においては、位相差顕微鏡、光学顕微鏡いずれの場合にも粒子は観察されなかった。特に塩水溶液中での分散重合の特徴として、架橋剤使用の有無に関わらず、イオン性微粒子が確認された。
【実施例7】
【0059】
実施例3、4、10および11で合成したイオン性微粒子試作3、4、10および11を用いて汚泥の脱水試験を行った。し尿余剰汚泥(pH6.50、全ss分20,500mg/L)200mLポリビーカーに採取し、汚泥脱水剤として試作3、4、10および11を対全重量150ppm添加し、ビーカー移し変え攪拌20回行った後、T−1178Lのナイロン濾布で濾過し、45秒後の濾液量を測定した。また濾過した汚泥のケーキ支持性(脱水ケーキの硬さ)を観察した後、プレス圧2kg/mで1分間脱水し濾布剥離性を確認し、ケーキ含水率(105℃、20時間乾燥)を測定した。結果を表4に示す。
【0060】
(比較試験1)比較4〜6および比較8、9を用いて、実施例7と同様に汚泥脱水試験を行い、45秒後濾液量、ケーキ支持性、濾布剥離性およびケーキ含水率を測定した。結果を表4に示す。
【0061】
表4

45秒後濾液量単位:mL、ケーキ支持性、濾布剥離性、良:○、やや不良:△、不良:×、ケーキ含水率:重量%
【0062】
表4を見て明らかなように、本発明の試作3、4、10および11は、濾水量、ケーキ支持性、濾布剥離性およびケーキ含水率が、比較4〜6、および試作10、11と比較して、濾水量が増大、ケーキ支持性、濾布剥離性が良好で、ケーキ含水率が低下しており、効果が優れていることがわかる。
【実施例8】
【0063】
LBKPを主体とした製紙原料、pH6.34、全ss分2.67%、灰分0.47%を検体として、パルプ濃度を0.5重量%に水道水で希釈し、ブリット式ダイナミックジャーテスターで歩留率の測定を行った。添加薬品としては、カチオン性澱粉対製紙原料0.5重量%、軽質炭酸カルシウム対製紙原料20重量%、中性ロジンサイズ対製紙原料0.5重量%、硫酸バンド0.5重量%、歩留向上剤として本発明の試作1、2および試作5〜9を対製紙原料0.01重量%、さらにアニオン性ポリマーとしてアニオン化度25mol%のアニオン性ポリアクリルミド(重量平均分子量1240万)対製紙原料0.01重量%を、それぞれこの順に、ブリット式ダイナミックジャーテスターに投入して攪拌している製紙原料中に15秒間隔で添加した。30秒後から40秒後の10秒間白水を排水し、その後の30秒間白水を採取し、総歩留率と灰分歩留率を測定した。なおブリット式ダイナミックジャーテスターの攪拌条件は、1000rpm、ワイヤー125Pスクリーン、白水はADVANTEC No.2濾紙で濾過し105℃で乾燥し総歩留率の測定を行った。乾燥後の濾紙は525℃で2時間灰化し、灰分歩留率を測定した。結果を表5に示す。
【0064】
(比較試験2)比較1〜3および比較7を用いて、実施例8と同様にパルプの歩留試験を行い、総歩留率および灰分歩留率を測定した。結果を表5に示す。
【0065】
表5

総歩留率、灰分歩留率の単位:%
【0066】
表5から明らかなように、本発明の試作1、2および試作5〜9は、総歩留率、灰分歩留率が、比較1〜3および比較7と比較して高く、歩留向上剤として効果が優れていることがわかる。
【実施例9】
【0067】
ダンボール古紙を2%分散液に離解した後、カナディアン・スタンダード・フリーネス(CSF)値で180mLに叩解した。この分散液を0.4重量%に希釈し濾水性試験を行った。調整した0.4重量%分散液を1000mLのメスシリンダーに採取し、硫酸バンド対ss2.0重量%(酸化アルミニウム純分)および中性ロジンサイズ剤対ss0.1重量%および濾水性向上剤として試作3、4、10および11を対ss重量400ppm添加した。メスシリンダーを5回転倒攪拌し、CSFテスターに投入し濾水量を測定した。濾水量測定後、CSFテスターのメッシュ上に残ったパルプを、低部に100メッシュの濾布となっている二重底遠心管に投入し、遠心分離機で3000rpm5分間の条件で脱水を行った。脱水されたパルプの重量、絶乾重量を測定しパルプの含水率を測定した。結果を表6に示す。
【0068】
(比較試験3)比較4〜6および比較8、9を用いて、実施例9と同様に濾水性を行い、濾水量および脱水パルプの含水率を測定した。結果を表6に示す。
【0069】

表6

濾水量:CSF値mL
パルプ含水率:重量%
【0070】
表6から明らかなように、本発明の試作3、4、10および11は比較4〜6および比較8、9と比較して濾水量が多く、パルプ含水率が低く、濾水性向上剤として効果が優れていることがわかる。










【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ビニルモノマーを開始時のモノマー濃度が15〜60質量%で重合したラジカル(共)重合物からなるカチオン性あるいは両性のイオン性を有する微粒子であって、通常の光学顕微鏡では確認できず位相差顕微鏡ではじめて確認できる粒子であることを特徴とするイオン性微粒子。
【請求項2】
前記イオン性粒子が、下記一般式(1)で表されるカチオン性水溶性ビニルモノマー、あるいは適宜下記一般式(2)で表されるアニオン性水溶性ビニルモノマーを構造単位に含むラジカル共重合物であることを特徴とする、請求項1に記載のイオン性微粒子。
【化1】


一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2〜R4はベンジル基あるいは炭素数1〜3のアルキル基であり同種でも異種でも良い、Aは酸素又はNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基又はアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
R5は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R6は水素又はCOOY2、Y1あるいはY2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項3】
前記イオン性微粒子が、前記一般式(1)で表されるカチオン性水溶性ビニルモノマー、あるいは適宜前記一般式(2)で表されるアニオン性水溶性ビニルモノマーを含むモノマー混合物水溶液を、塩水溶液中において該塩水溶液中に可溶なポリマー分散剤を共存させる分散重合法によって製造されることを特徴とする、請求項1あるいは2に記載のイオン性微粒子。
【請求項4】
前記イオン性微粒子の粒径が4質量%塩化ナトリウム水溶液中において800nmから100μmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のイオン性微粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性微粒子からなる汚泥脱水剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性微粒子からなる歩留向上剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性微粒子からなる濾水性向上剤。












【公開番号】特開2007−23146(P2007−23146A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206847(P2005−206847)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】