説明

イオン発生装置および中性子発生装置

【課題】単位時間当たりの中性子発生量を増加することができるイオン発生装置および中性子発生装置を提供すること。
【解決手段】中性子発生装置1は、イオン発生装置2を備え、このイオン発生装置2は、重水素ガスまたは三重水素ガスが供給されるイオン発生管21と、イオン発生管21の外部に配置され、このイオン発生管21に磁界を発生させる磁石23と、イオン発生管21の外部に配置され、このイオン発生管21に電界を発生させるプラズマ発生用アンテナ22と、プラズマ発生用アンテナ22に高周波電力を供給する高周波電源24と、を備える。高周波電源24は、イオン発生管21においてプラズマの非定常状態を繰り返し発生するように、プラズマ発生用アンテナ22に、高周波電力をパルス制御して供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン発生装置および中性子発生装置に関し、さらに詳しくは、重水素イオンまたは三重水素イオンを発生させるイオン発生装置および重水素または三重水素の核融合反応により中性子を発生する中性子発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1,2に示すように、重水素イオンビームまたは三重水素イオンビームを重水素または三重水素を吸蔵したターゲットに照射し、重水素または三重水素の核融合反応により中性子を発生させる中性子発生装置がある。この中性子発生装置が発生した中性子が検出対象物に衝突すると、この検出対象物からγ線が放射される。この放射されたγ線の種類や強度によって、検出対象物を特定することができる。従って、この中性子発生装置は、石油等の地下資源の探査や、地雷や空港での手荷物中の火薬等の検査、治療用中性子源などに幅広く利用されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3122081号公報
【特許文献2】特開平11−131199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、検出対象物が放出するγ線を確実にかつ短時間に検出するためには、この検出対象物に衝突する中性子の量を増加することが必要である。しかしながら、上記従来の特許文献1,2に示す中性子発生装置では、重水素−重水素反応の場合、中性子発生量が毎秒10の6乗個程度が上限であった。これは、重水素イオン(三重水素イオン)を発生するイオン発生装置から引き出されるイオンの数、すなわちイオン電流が低いことが要因の1つとしてあげられていた問題であった。なお、重水素−三重水素反応の場合における中性子発生量は、毎秒10の8乗個程度であった。
【0005】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、単位時間当たりの中性子発生量を増加することができるイオン発生装置および中性子発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるイオン発生装置では、重水素ガスまたは三重水素ガスが供給されるイオン発生管と、前記イオン発生管の外部に配置され、当該イオン発生管に磁界を発生させる磁石と、前記イオン発生管の外部に配置され、当該イオン発生管に電界を発生させるプラズマ発生用アンテナと、前記プラズマ発生用アンテナに高周波電力を供給する高周波電源と、を備えるイオン発生装置において、前記高周波電源は、前記イオン発生管においてプラズマ生成時の非定常状態を繰り返し発生させるように、前記プラズマ発生用アンテナに、高周波電力を供給することを特徴とする。
【0007】
また、この発明では、前記高周波電源は、前記プラズマ発生用アンテナに、間欠的に高周波電力を供給し、かつ1回の高周波電力を供給する期間を前記イオン発生管においてプラズマ生成時の非定常状態が保持される期間とすることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、例えば、1回の高周波電力を供給する期間をイオン発生管においてプラズマ生成時の非定常状態が保持される期間とし、間欠的にプラズマ発生用アンテナに高周波電力を供給することで、前記イオン発生管においてプラズマ生成時の非定常状態を繰り返し発生させるようにし、単位時間当たりにプラズマ生成時の非定常状態を多くイオン発生管に発生させることができる。ここで、プラズマ生成時の非定常状態が保持される期間における最大イオン電流値は、プラズマの定常状態が保持される期間における最大イオン電流値よりも高いものである。従って、単位時間当たりにプラズマの非定常状態を多くイオン発生管に発生・維持させることで、プラズマの定常状態をイオン発生管に保持させた場合よりも、イオン電流よりも増加することができる。これにより、単位時間当たりのイオン電流を増加することができる。
【0009】
また、この発明によれば、プラズマ生成時の非定常状態を繰り返し発生させ、重水素イオンまたは三重水素イオンを発生させるので、プラズマの定常状態を発生させ、重水素イオンまたは三重水素イオンを発生させる場合と比較して、イオン発生装置に発生する熱を著しく減少させることができる。従って、イオン発生装置に発生する熱を増加させる高周波電力を増加することができ、プラズマ生成時の非定常状態が保持される期間における最大イオン電流値を増加することができる。これにより、単位時間当たりのイオン電流をさらに増加させることができる。
【0010】
また、この発明では、前記イオン発生管は、内径Dが15mm以上25mm以下の範囲であることを特徴とする。
【0011】
この発明よれば、イオン発生管の内径Dを小さくするので、イオン発生管に発生する熱による応力を減少させることができる。従って、イオン発生管の損傷を抑制することができる。
【0012】
また、イオン発生管の内径Dを小さくするので、プラズマ発生用アンテナによりイオン発生管に発生させる電界の強度を増加することができる。従って、イオン発生管の中央に発生するプラズマの密度を向上することができ、プラズマの非定常状態の期間における最大イオン電流値を増加することができる。これにより、単位時間当たりのイオン電流をさらに増加することができる。
【0013】
また、この発明にかかる中性子発生装置では、上記イオン発生装置と、前記イオン発生装置に重水素ガスまたは三重水素ガスを供給する原料ガス供給装置と、前記イオン発生装置に対向して配置され、かつ重水素または三重水素を吸蔵したターゲットと、前記イオン発生装置と前記ターゲットとの間に配置され、かつ加速電源により電圧が印加された加速電極を有する加速装置と、前記加速装置内を真空にする真空排気装置と、前記イオン発生装置と前記加速装置との間に配置され、引き出し電源により電圧が印加された引き出し電極と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、上述のように、単位時間当たりのイオン電流を増加することができるので、ターゲットに衝突する重水素イオンまたは三重水素イオンを増加することにより、単位時間当たりの中性子発生量を増加することができる。
【0015】
また、この発明では、前記引き出し電源は、前記イオン発生管の内径Dが小さくなるほど、前記引き出し電極に印加する前記電圧を増加することを特徴とする。
【0016】
また、この発明では、前記引き出し電源は、前記高周波電力が増加するほど、前記引き出し電極に印加する前記電圧を増加することを特徴とする。
【0017】
これらの発明では、イオン発生装置に発生した重水素イオンまたは三重水素イオンの増加に応じて、引き出し電圧を増加する。従って、増加した重水素イオンまたは三重水素イオンを効率良くイオン発生装置から引き出すことができる。これにより、単位時間当たりの中性子発生量を確実に増加することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明にかかるイオン発生装置および中性子発生装置は、イオン発生管にプラズマ生成時の非定常状態を繰り返し発生させるので、単位時間当たりのイオン電流を増加することができ、単位時間当たりの中性子発生量を増加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0020】
図1は、この発明にかかるイオン発生装置を備える中性子発生装置の構成例を示す図である。図2は、高周波電力の供給方法を示す図である。図3は、プラズマの非定常状態を示す図である。図4は、イオン電流と引き出し電圧との関係を示す図である。
【0021】
中性子発生装置1は、図1に示すように、イオン発生装置2と、原料ガス供給装置3と、加速装置4と、真空排気装置5と、引き出し電極6と、引き出し電源7とにより構成されるものである。この中性子発生装置1は、例えば地面100に埋め込まれている石油等の地下資源や、地雷などの爆発物などの検出対象物200に中性子を衝突させるものである。なお、検出対象物200に中性子が衝突し、この検出対象物200から放出されたγ線を検出する検出装置は、この中性子発生装置1と一体に構成されても良いし、別個に構成しても良い。
【0022】
イオン発生装置2は、重水素または三重水素からプラズマを発生させ、重水素イオンまたは三重水素イオンを生成するものである。このイオン発生装置2は、イオン発生管21と、磁石22と、プラズマ発生用アンテナ23と、RF電源24とにより構成されている。
【0023】
イオン発生管21は、原料ガス供給装置3から重水素ガスまたは三重水素ガスが供給されるものであり、この重水素ガスまたは三重水素ガスを充填し、プラズマを発生させ、重水素イオンまたは三重水素イオンを生成するものである。このイオン発生管21は、円筒形状であり、一方の端部が原料ガス供給装置3と接続され、他方の端部が引き出し電極6を介して加速装置4と接続されている。なお、このイオン発生管21の長さ(軸方向長さ)は、特に規定しないが、中性子発生装置1の小型化を考慮すると300mm以下であることが好ましい。
【0024】
このイオン発生管21の内径Dは、15mm以上25mm以下の範囲であることが好ましい。このイオン発生管21の内径Dが15mm未満であると、原料ガス供給装置3から重水素ガスまたは三重水素ガスが供給され難くなり、イオン発生管21の内部を重水素ガスまたは三重水素ガスにより十分に充填することが困難となるためである。また、このイオン発生管21の内径Dが25mmを超えると、プラズマ発生用アンテナ23によりイオン発生管21に発生させる電界の強度を増加することが困難となるためである。なお、イオン発生管21の内径Dは、18mm以上225mm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0025】
磁石23は、イオン発生管21に磁界を発生させるものである。この磁石23は、イオン発生管21の外部に配置されている。この実施例では、磁石23は、永久磁石であり、イオン発生管21の外周を覆うように配置されている。なお、この磁石23は、電磁石などであっても良い。
【0026】
プラズマ発生用アンテナ23は、RF電源24から供給された高周波電力により、イオン発生管21に電界を発生させるものである。このプラズマ発生用アンテナ23は、イオン発生管21の外部に配置されている。この実施例では、プラズマ発生用アンテナ23は、ヘリコン波アンテナであり、イオン発生管21と磁石23との間に、このイオン発生管21の外周を覆うように配置されている。
【0027】
RF電源24は、高周波電源であり、プラズマ発生用アンテナ23に高周波電力を供給するものである。ここで、高周波電力とは、プラズマ発生用アンテナ23に供給することで、この実施例ではヘリコン波を発生することができる周波数である。例えば、数〜十数MHZで数KWの高周波電力である。この実施例では、このRF電源24は、図2に示すように、高周波電力をパルス制御して、プラズマ発生用アンテナ23に供給する。つまり、RF電源24は、間欠的に高周波電力をプラズマ発生用アンテナ23に供給する。
【0028】
原料ガス供給装置3は、イオン発生装置に重水素ガスまたは三重水素ガスを供給するものである。この原料ガス供給装置3は、原料ガスタンク31と、ガス供給調整バルブ32と、供給管33とにより構成されている。
【0029】
原料ガスタンク31は、イオン源となる重水素ガスまたは三重水素ガスを貯留するものである。この原料ガスタンク31は、供給管33を介してイオン発生管21に接続されている。
【0030】
ガス供給調整バルブ32は、イオン発生管21に供給される重水素ガスまたは三重水素ガスの供給量を調整するものである。このガス供給調整バルブ32は、供給管33の途中に設けられている。ガス供給調整バルブ32により、供給量を調整することにより、イオン発生管21の内部をプラズマが発生しやすい濃度とすることができる。
【0031】
加速装置4は、イオン発生装置2により発生した重水素イオンまたは三重水素イオンを加速して重水素イオンビームまたは三重水素イオンビームとするものである。この加速装置4は、金属管41と、加速電極42と、加速電源43と、分岐管44とにより構成されている。
【0032】
金属管41は、円筒形状であり、一方の端部が引き出し電極6を介してイオン発生管21に接続され、他方の端部が閉塞されている。この金属管41には、加速電極42とターゲット8が収納されている。
【0033】
加速電極42は、電圧が印加されることで、イオン発生管21から金属管41内に引き出された重水素イオンまたは三重水素イオンを加速するものである。この加速電極42は、円筒形状であり、イオン発生装置2とターゲット8との間に配置される。
【0034】
加速電源43は、加速電極42に電圧を印加するものである。この電圧は、例えば数百KV程度である。また、その極性は、重水素イオンまたは三重水素イオンをイオン発生装置側からターゲット側に向かって加速させることができる極性である。つまり、加速電源43により加速電極42に電圧が印加されると、金属管41内に引き出された重水素イオンまたは三重水素イオンは、この金属管41内をターゲット8に向かって加速される。
【0035】
分岐管44は、一方の端部が真空排気装置5と接続されており、他方の端部が金属管41と連通している。
【0036】
真空排気装置5は、上記加速装置4内を真空にするものである。この真空排気装置5は、例えば図示しない排気ポンプなどにより構成されている。この図示しない排気ポンプを駆動することで、金属管41内の気体が排気され、真空となる。なお、真空排気装置5は、金属管41に接続されているイオン発生管21も真空とすることができる。
【0037】
引き出し電極6は、電圧が印加されることで、イオン発生管21に発生したプラズマから重水素イオンまたは三重水素イオンを加速装置4に引き出すものである。この引き出し電極6は、イオン発生装置2と加速装置4との間に配置される。
【0038】
引き出し電源7は、引き出し電極6に電圧を印加するものである。この電圧は、例えば数〜十数KV程度である。また、その極性は、重水素イオンまたは三重水素イオンをイオン発生装置から加速装置側に向かって移動させることができる極性である。つまり、引き出し電源7により引き出し電極6に電圧が印加されると、イオン発生管21内に発生したプラズマから重水素イオンまたは三重水素イオンがイオン発生管21から加速装置4に引き出される。
【0039】
次に、この発明にかかるイオン発生装置2を備える中性子発生装置1の動作について説明する。まず、原料ガス供給装置3からイオン発生装置2に重水素または三重水素を供給する。このとき、真空排気装置5が駆動されており、加速装置4の金属管41およびイオン発生管21は、真空となっている。従って、原料ガスタンク31内の重水素または三重水素は、ガス供給調整バルブ32を開弁することで、この供給管33により供給量が調整された状態で、イオン発生管21に供給される。
【0040】
次に、イオン発生管21に供給された重水素または三重水素からプラズマを発生させる。プラズマは、磁石22がイオン発生管21に発生させる磁界およびRF電源24により高周波電力が供給されたプラズマ発生用アンテナ23がイオン発生管21に発生させる電界の力により、イオン発生管21内の電子を高速運動させることで発生するものである。
【0041】
ここで、このRF電源24は、イオン発生管21においてプラズマ生成時の非定常状態を繰り返し発生できるように、プラズマ発生用アンテナ22に、高周波電力を供給する。イオン発生管21に発生するプラズマは、図3に示すように、非定常状態と定常状態(同図点線)とが存在する。プラズマ生成時の非定常状態は、プラズマ生成時の過渡的な応答であり、定常状態と比較して、最大イオン電流値が高い。つまり、プラズマ生成時の非定常状態が保持される期間における最大イオン電流値は、プラズマの定常状態が保持される期間における最大イオン電流値よりも高いものである。RF電源24は、同図に示すように、1回の高周波電力を供給する期間をこのプラズマ生成時の非定常状態が発生・保持することができる期間となるように、高周波電力をパルス制御して、プラズマ発生用アンテナ22に供給する。具体的には、RF電源24は、図2に示すように、高周波電力のON/OFFを繰り返すためのパルス周波数と、1周期Tに対して高周波電力を供給する期間tの比であるパルスデューティーt/T×100(%)とを調整することで、高周波電力を供給する期間tがプラズマ生成時の非定常状態が保持される期間となるようにする。従って、イオン発生管21においてプラズマ生成時の非定常状態がパルス周波数に応じて繰り返し発生する。つまり、プラズマの定常状態が保持される期間における最大イオン電流値よりも高い最大イオン電流値となるプラズマ生成時の非定常状態が保持される期間をイオン発生管21において単位時間当たりに多く発生させることができる。これにより、単位時間当たりのイオン電流をプラズマの定常状態をイオン発生管21に保持させた場合よりも増加することができ、単位時間当たりのイオン電流を増加することができる。
【0042】
ここで、イオン発生管21においてプラズマの定常状態を保持させる期間が長ければ長いほど、イオン発生装置2、特にイオン発生管21に発生する熱が増加する。しかしながら、この発明にかかるイオン発生装置2では、イオン発生管21においてプラズマ生成時の非定常状態が保持される期間を繰り返し発生させるので、プラズマの定常状態を保持させる場合と比較して、イオン発生装置2に発生する熱を著しく減少させることができる。従って、イオン発生装置2に発生する熱を増加させる高周波電力を増加することができ、プラズマ生成時の非定常状態が保持される期間における最大イオン電流値を増加することができる。これにより、単位時間当たりのイオン電流を増加することができる。
【0043】
なお、高周波電力を供給する期間tは、プラズマ生成時の非定常状態の期間と同一あるいは、ほぼ同一であることが好ましい。つまり、RF電源24が高周波電力を供給する期間tの間、プラズマ発生用アンテナ22に、高周波電力を供給することで、イオン発生管21においてプラズマの定常状態が保持されないことが好ましい。
【0044】
また、イオン発生管21の内径Dが15mm以上25mm以下の範囲であるため、内径Dが25mmを超えるイオン発生管と比べて、高周波電力が印加されたプラズマ発生用アンテナ22によって、イオン発生管21に発生させる電界の強度を増加することができる。従って、このイオン発生管21の中央に発生するプラズマの密度を向上することができ、プラズマの非定常状態の期間における最大イオン電流値を増加することができる。これにより、単位時間当たりのイオン電流を増加することができる。
【0045】
また、内径Dが25mmを超えるイオン発生管と比べて、イオン発生管21に発生する熱による応力を減少することができる。従って、イオン発生管21の損傷を抑制することができる。また、イオン発生管21の内径Dが小さくなればなるほど、熱による応力を減少することができるので、イオン発生装置2に発生する熱を増加させる高周波電力を増加することができ、プラズマの非定常状態の期間における最大イオン電流値を増加することができる。これにより、単位時間当たりのイオン電流を増加することができる。
【0046】
次に、イオン発生管21に発生したプラズマから重水素イオンまたは三重水素イオンを加速装置4に引き出す。ここでは、引き出し電源7により、引き出し電極6に電圧を印加する。イオン発生管21に発生したプラズマから重水素イオンまたは三重水素イオンが電圧が印加された引き出し電極6に引き寄せられ、イオン発生管21から加速装置4へ引き出される。ここで、イオン発生管21に密度の低いプラズマや、少ないプラズマしか発生しなければ、すなわち引き出せる重水素イオンまたは三重水素イオンが少なければ、引き出し電極の電圧を上げても、イオン発生管21に発生した重水素イオンまたは三重水素イオンの量以上は引き出すことができない。
【0047】
しかしながら、この発明にかかるイオン発生装置2では、プラズマ発生用アンテナ22に供給する高周波電力が増加するほど、イオン発生観21の内径Dを小さくするほどイオン発生管21の中央に発生するプラズマの密度を向上することができ、多くのプラズマを発生することができる。つまり、引き出せる重水素イオンまたは三重水素イオンを増加することができる。従って、引き出し電源7は、イオン発生管21の内径Dが小さくなるほど、引き出し電極6に印加する電圧を増加する。また、引き出し電源7は、プラズマ発生用アンテナ22に供給される高周波電力が増加するほど、引き出し電極6に印加する電圧を増加する。つまり、イオン発生装置2に発生した重水素イオンまたは三重水素イオンの増加に応じて、引き出し電圧を増加することで、増加した重水素イオンまたは三重水素イオンを効率良くイオン発生装置2から引き出すことができる。
【0048】
例えば、図4に示すように、イオン発生管21の内径Dを30mmで、RF電源24がプラズマ発生用アンテナ22に供給する高周波電力RFをN(kW)とすると、引き出し電極6の電圧(kV)をあげても、イオン電流(mA)がほとんど増加しない(同図点線)。しかしながら、内径Dを30mmで、高周波電力RFをN(kW)から2N(kW)とすると、高周波電力が増加しているため、引き出し電極6の電圧(kV)をあげることでイオン電流(mA)を増加することができる(同図実線)。しかし、高周波電力を増加しただけでは、引き出し電極6の電圧(kV)をある程度あげると、イオン電流(mA)がほとんど増加しなくなる。
【0049】
そこで、イオン発生管21の内径Dを30mmから20mmとし、高周波電力RFを2N(kW)とすると、内径Dを小さくしたことで、イオン発生管21の中央に発生するプラズマの密度を向上することができるため、引き出し電極6の電圧(kV)をさらにあげることで、イオン電流(mA)を増加さらに増加することができる(同図黒丸)。さらに、内径Dを小さくしたことで、イオン発生管21に発生する熱による応力を減少することができるため、高周波電力RFを増加しても、イオン発生21が破損することはない。従って、高周波電力RFを2N(kW)から4(kW)とし、引き出し電極6の電圧(kV)をさらにあげることでイオン電流(mA)が増加する(同図黒丸)。
【0050】
この発明にかかる中性子発生装置1では、イオン発生管21の内径Dを20mm、高周波電力RFを3.7kW、引き出し電圧を6.0kV、パルス周波数を2000Hz、パルスデューティーを10%とした際に、ピークイオン電流78mAとすることができる。
【0051】
次に、イオン発生管21から引き出し電極6により引き出された重水素イオンまたは三重水素イオンを加速装置4により加速する。ここでは、加速電源43により、加速電極42に電圧を印加する。加速装置4に引き出された重水素イオンまたは三重水素イオンは、電圧が印加された加速電極42に引き寄せられ、この加速電極42内をターゲット8に向かって加速する。
【0052】
次に、加速装置4により加速された重水素イオンまたは三重水素イオンをイオンビームとしてターゲット8に衝突させる。イオンビームとして重水素イオンまたは三重水素イオンがターゲット8に衝突すると、ターゲット8に吸蔵されている重水素または三重水素と核融合反応を起こし、中性子が等方的に放射される。この中性子が地面100に埋め込まれている検出対象物200に衝突する。検出対象物200は、中性子が衝突すると、検出対象物200の物性に応じたガンマ線を放出する。放出したγ線を図示しない検出装置により検出することで、地面100に同様な検出対象物200が埋まっているかを判断することができる。
【0053】
以上のように、この発明にかかる中性子発生装置1では、単位時間当たりのイオン電流を増加することができる、すななわち、重水素イオンまたは三重水素イオンを多く発生させ、引き出すことができるので、ターゲットに衝突する重水素イオンまたは三重水素イオンを増加することでき、単位時間当たりの中性子発生量を増加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、この発明にかかるイオン発生装置および中性子発生装置は、重水素イオンまたは三重水素イオンを発生するイオン発生装置および重水素または三重水素から中性子を発生する中性子発生装置に有用であり、特に、単位時間当たりの中性子発生量を増加するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明にかかるイオン発生装置を備える中性子発生装置の構成例を示す図である。
【図2】高周波電力の供給方法を示す図である。
【図3】プラズマの非定常状態を示す図である。
【図4】イオン電流と引き出し電圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 中性子発生装置
2 イオン発生装置
21 イオン発生管
22 磁石
23 プラズマ発生用アンテナ
24 RF電源(高周波電源)
3 原料ガス供給装置
31 原料ガスタンク
32 ガス供給調整バルブ
33 供給管
4 加速装置
41 金属管
42 加速電極
43 加速電源
44 分岐管
5 真空排気装置
6 引き出し電極
7 引き出し電源
100 地面
200 検出対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水素ガスまたは三重水素ガスが供給されるイオン発生管と、
前記イオン発生管の外部に配置され、当該イオン発生管に磁界を発生させる磁石と、
前記イオン発生管の外部に配置され、当該イオン発生管に電界を発生させるプラズマ発生用アンテナと、
前記プラズマ発生用アンテナに高周波電力を供給する高周波電源と、
を備えるイオン発生装置において、
前記高周波電源は、前記イオン発生管においてプラズマ生成時の非定常状態を繰り返し発生させるように、前記プラズマ発生用アンテナに、高周波電力を供給することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項2】
前記高周波電源は、前記プラズマ発生用アンテナに、間欠的に高周波電力を供給し、かつ1回の高周波電力を供給する期間を前記イオン発生管においてプラズマ生成時の非定常状態が保持される期間とすることを特徴とする請求項1に記載のイオン発生装置。
【請求項3】
前記イオン発生管は、内径Dが15mm以上25mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン発生装置。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれか1つに記載のイオン発生装置と、
前記イオン発生装置に重水素ガスまたは三重水素ガスを供給する原料ガス供給装置と、
前記イオン発生装置に対向して配置され、かつ重水素または三重水素を吸蔵したターゲットと、
前記イオン発生装置と前記ターゲットとの間に配置され、かつ加速電源により電圧が印加された加速電極を有する加速装置と、
前記加速装置内を真空にする真空排気装置と、
前記イオン発生装置と前記加速装置との間に配置され、引き出し電源により電圧が印加された引き出し電極と、
を備えることを特徴とする中性子発生装置。
【請求項5】
前記引き出し電源は、前記イオン発生管の内径Dが小さくなるほど、前記引き出し電極に印加する前記電圧を増加することを特徴とする請求項4に記載の中性子発生装置。
【請求項6】
前記引き出し電源は、前記高周波電力が増加するほど、前記引き出し電極に印加する前記電圧を増加することを特徴とする請求項4または5に記載の中性子発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−328965(P2007−328965A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157952(P2006−157952)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】