イオン質量分析計と結合するイオンガイドを有するレーザ脱離イオン源
レーザ脱離イオン源は、1つ又は複数のイオンガイドを使用することによりイオンサンプリング効率性及び測定感度を高め、イオン標的から放出されるプルーム中のイオンを効率的に捕獲し、該イオンを開口部経由で下流の真空チャンバ内に誘導する。2つのRF多極イオンガイドを使用する一構成では、イオン標的に隣接して配置されている第1のRF多極イオンガイドは、プルームの大部分を捕獲するのに十分な大きさであるように選択され、一方、第1の多極イオンガイドと開口部との間に配置されている第2のRF多極イオンガイドは、イオンを開口部内に集束するのに役立つようにより小さい寸法を有する。第1のRF多極イオンは、プルーム中のイオンを第2のRF多極イオンガイド内へ誘導し、次いで、第2のRF多極イオンガイドはイオンが開口部を通過して下流の真空チャンバ内に入るようにイオンを集束する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への引用)
本願は、2005年6月30日に出願された米国出願第11/173,291号の一部継続出願であり、上記出願は2003年3月27日に出願された米国出願第10/400,322号の一部継続出願であり、該出願は2002年3月28日に出願された米国仮出願第60/368,195号の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、イオン質量分析に関し、特に、マトリックス支援レーザ脱離イオン(MALDI)源などのイオン源からのイオンのサンプリングレート及び移送効率を高める方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
薬剤及び代謝産物などの薬学的および生物学的に重要な化合物の定量分析は、質量分析の重要な用途である。従来、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及び大気圧化学イオン化(APCI)に基づくイオン源は、三連四重極質量分析計(三連四重極)との組合せにおいて使用され、定量分析を実現する。該組合せは、高感度及び高特定度の両方をもたらす。ESI及びAPCIはどちらも、流動液体流からイオンを生成するので、分析される化合物を含有する有機溶媒流及び水性溶媒流を、イオン源を介して送り込むことにより使用される。液体クロマトグラフィーは、質量分析計に先立って、オンラインの分離技術として一般的に使用される。このように、試料を含む公知の容積物を液体流中に注入し、質量分析計を使用して、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードとして公知である走査モードで公知の前駆体及びプロダクトフラグメントイオンに対応するイオンの質量/電荷値の特定の組合せをモニタすることにより試料を導入することができる。走査中、試料は、自動サンプリング装置の限界及び溶出ピークの自然幅による限界に因り、10秒につき約1回の速度で順次注入される。試料がイオン源を通過すると、試料はイオン源中でイオン化し、消散し、試料から生成されるごく少量のイオンのみが、実際に質量分析計システム内にサンプリングされる。
【0004】
マトリックス支援レーザ脱離/飛行時間(MALDI/TOF)は、異なる種類の質量分析計技術であり、該技術では、試料は紫外線吸収化合物(マトリックス)と混合され、表面上に堆積され、次いで、高速レーザパルスを用いてイオン化される。レーザにより、質量分析計のイオン源においてイオンの短いバースト又はプルームが生成され、このイオンのプルームが、飛行時間型質量分析計により(イオン生成パルスで開始する)固定距離上の飛行時間を測定することによって分析される。この技術は、本質的に、(飛行時間型質量分析計に必要な)パルスイオン化技術及びバッチ処理技術である。何故なら、試料は、連続する流動液体流でではなく、(プレート上の小スポットに配置されている試料の)一群でイオン源内に導入されるからである。ペプチド及びタンパク質などの生体高分子の分析では、略例外なくMALDI/TOFが使用されてきた。該技術は高感度で、前述のような壊れやすい分子に対して良好に機能し、TOF法は、高質量化合物の分析に特に適している。しかし、最近まで、このタイプの計器を用いて真のMS/MSを実行する実行可能な方法が存在しなかった。代わりに、ポストソース分解法(PSD)を用いて、いくらかのフラグメント化情報を提供する。この技術では、イオンゲートを備える飛行管内で前駆イオンが選択され、次いで、(イオン源から運び出される過剰なエネルギーに起因して)イオンミラーの前でフラグメント化するそれらのイオンを、質量分離することができる。この技術は、比較的不十分な感度及び質量精度しか実現せず、高性能MS/MS技術であるとは考えられない。MALDI技術もまた、質量精度及び分解能を極めて高度にすることができる(低質量での分解能は最高30,000、精度は数百万分の1)が、これらの重要な機能は、試料表面の微細構造(粗さ)、レーザフルエンス、及び他の計器特性に左右され、これらは制御が困難なところがあるために上記の重要な機能の実現は困難であるという問題を抱えている。良好な質量精度を得るには、通常、実際の試料自体に近接する試料表面上に較正化合物が配置される必要がある。MALDI/TOF技術は、主にスペクトル解析に用いられてきた。MALDIを定量分析に使用することは以前に何度か試みられたが、MALDI/TOFで得られる精度が不十分であるため、ある程度の成果しか得られなかった。
【0005】
近年、マニトバ大学のあるグループがMALDIを直交TOFと組み合わせる方法を導入した。(マニトバ大学に譲渡された)特許文献1に記載されている、直交MALDI又は「oMALDITM」(カナダのオンタリオ州コンコード所在のApplied Biosystems/MDS SCIEX Instrumentsの商標)と呼ばれるこの技術は、分析計をイオン源からより完全に分離し、角度及び速度の広がりがより小さいより連続的なイオンビームを提供する方法で、MALDI源などのパルスイオン源を種々の分析計機器と接続できるようにする装置及び方法である。この技術では、(通常、20Hz未満の繰返し数で、レーザパルスから数ナノ秒のパルス幅で)MALDI源からプルームとして生成されるイオンが、RFイオンガイド内の減衰ガスを含む比較的高圧な領域内で衝突冷却される。減衰ガスを用いる衝突は、プルームを準連続ビームに変換する。この準連続ビームは、次いで、直交飛行時間で分析される。ここでは、イオンはTOFの軸に直交して進入し、放射状にパルス化される。
【0006】
この組合せには、従来のMALDI/TOFでは得られないいくつかの利点がある。TOFの分解能及び質量精度は、レーザフルエンス及び試料形態などのイオン源の状態とは別である。イオンは、熱エネルギーに接近すると減速する。イオンは、熱エネルギーにより、衝突セル内での衝突活性化分解(CAD)のために何十電子ボルトまで都合よく再加速することができる。ビーム中のイオン流出は(正しいテンポでビームを出すことにより)十分少ないので、タイムデジタイザ回路(TDC)をイオン検出に使用することができる。その結果、多様な動作条件下で高い質量精度及び分解能を達成することができる。更に、質量分解用四重極及び衝突セルをTOF分析装置の前に配置し、MS/MS構成を提供することができる。MALDI源からの前駆イオンは衝突冷却され、次いで、四重極質量フィルタにより選択され、衝突セル内で分解され、フラグメントがTOFにより質量分析される。これにより、以前には得られなかった、MALDIイオンのMS/MSの高い質量分解能及び感度が実現される。このMS/MS構成はQqTOFと呼ばれ、ここで、Qは質量フィルタ四重極を、qはRFのみの衝突セルを指す。
【0007】
マニトバのグループは、イオンビームの略連続的な性質に起因して、oMALDITM技術によりMALDI源を四重極質量分析計システムに効率的に接続することが可能になることを確認した。しかし、このことが、試料濃度を定量的に測定する能力を向上させる可能性があることは確認されていない。
【0008】
一定の用途に対し、どのイオン質量分析技術の性能であっても、重要となる因子の1つが、イオン源からのイオンを効率的に捕獲し、それらを分析できるように分析デバイスに輸送する能力である。この因子は、対象イオンの定量的測定を目的とするMRMスキャンなどの分析技術にとって特に重要である。MALDI源では、MALDI標的に衝突する各レーザパルスが、イオンのプルーム及び中性粒子を生成する。イオンを分析できるようするためには、それらを直接又はイオン輸送デバイスを介して質量分析計まで送達しなければならない。質量分析計、又は四重極イオンガイドなどのイオン輸送デバイスは、通常、極めて限定されたイオン受容ゾーンを有する。進入してくるイオンを平行にするためには、入り口開口部を使用することが多い。更に、試料標的により放たれる不要な材料が質量分析計又はイオンガイドを汚染するのを阻止し、MALDI源を下流の真空チャンバから隔てる目的で開口部を使用することも多い。該下流の真空チャンバ内には、質量分析計又はイオン輸送デバイスが配置されている。そのような開口部は、通常、MALDI標的を離れて来るイオンのプルームの幅よりかなり小さい。結果として、プルーム中のイオンの大部分は、開口部に進入することができず、質量分析計により検出することができない。また、プルームの中心軸は、開口部から角度をなしている可能性があり、このことは、開口部を通過するイオン部分を更に減少させる。結果として、イオン、即ちイオン源から出て、下流の質量分析計により分析されるイオン部分のサンプリング効率性はかなり低くなる可能性があるので、質量分析計の測定感度は著しく低下する。
【特許文献1】米国特許第6,331,702号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
上記を考慮して、本発明は、三連四重極質量分析計などの質量分析計に接続されているレーザ脱離(例えば、MALDI)イオン源を使用する、試料、特に小分子の高スループット定量を可能にする質量分析定量技術を提供する。本明細書で使用されている通り、「小分子」という用語は、本質的に全く重合体ではなく、そのようなものとして、繰返しサブユニット類の化合物で構成されていない化合物を意味する。小分子は、(アミノ酸サブユニットで構成されている)タンパク質若しくはペプチド、(核酸サブユニットで構成されている)DNA及びRNA、又は(糖サブユニットで構成されている)セルロースなどの繰返しサブユニット体で構成されている生体高分子又はポリマーの範囲外に分類される。
【0010】
本発明の態様に基づき、試料物質のレーザ脱離により生成されるイオンは、衝突で減衰/冷却され、次いで、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードでの三連四重極の動作を用いて定量的に分析される。一動作モードでは、イオン源に高いパルス繰り返し数、好ましくは約500Hz以上、でレーザパルスを適用することにより、著しく向上した測定感度が得られる。これにより、データ収集を迅速に実施することが可能になり、イオン源標的上の各試料点につき1秒くらいの速度が達成されている。
【0011】
本発明の特性に基づき、MALDI標的上の各試料スポットを、照射時間即ち継続時間の間レーザからのレーザ光で照射することにより、定量のスループットは著しく向上する。上記照射時間即ち継続時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な時間より大幅に短い。試料物質のレーザ脱離により生成されるイオンは、衝突で減衰/冷却され、次いで、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードでの三連四重極の動作を用いて定量的に分析される。レーザ照射の継続時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な継続時間より大幅に短いことが好ましく、MRM検出のために試料標的からイオンを輸送する間にイオン輸送に起因するピーク広がりと同程度であるか又はより短くてもよい。
【0012】
本発明の別の態様に基づき、MALDI源からのイオンを質量分析計又はMALDI源の下流にある真空チャンバ内に配置されているイオン輸送デバイスに効率的に接続するために接続装置が提供され、その結果、MALDI標的からのプルーム中のイオンの大部分が質量分析計に到達することができ、それにより、イオンサンプリングの効率性が向上し、このため測定感度が著しく増大する。MALDI標的と、MALDI標的を下流の真空チャンバから隔てる開口部との間に配置されている少なくとも1つのイオンガイドを使用することにより、接続の強化が達成される。該下流の真空チャンバは、イオン質量分析計又はイオン輸送デバイスを含む。イオンガイドは、MALDI標的から放出されたプルーム中のイオンを受容し、イオンの大部分が開口部を通過しイオン質量分析計の受容ゾーンに進入するように該イオンを誘導する。高められたイオンサンプリング効率性を備えるMALDIイオン源を、例えば、MRM検出用の三連四重極型装置と共に、又は異なるイオン質量分析技術用の他のタイプの質量分析デバイスと共に、効果的に使用することができる。また、マトリックス支援型ではないレーザ脱離イオン源と共にイオン接続装置を使用して、サンプリング効率及び測定感度を高めることができる。
【0013】
一構成では、イオン接続装置は、イオンのプルームの大部分を受容するのに十分な大きさの直径を有する四重極イオンガイドなどのRF多極イオンガイドを含む。MALDI標的及びRF多極イオンガイドを含む真空チャンバ内のガス圧力は、プルーム中のイオンを効果的に減衰させるために、約1Torr以上の値に設定される。RF多極イオンガイドは、プルーム中のイオンを集束し、それらを誘導して開口部を通過させるように動作する。該開口部は、分析デバイスを含む下流の真空チャンバからMALDI源を隔てている。
【0014】
別の構成では、イオン接続装置は、少なくとも2つのRF多極イオンガイドを含む。第1のRF多極イオンガイドは、MALDI標的に隣接して配置されており、MALDI標的を離れて来るプルームの大部分、好ましくは50%以上、を捕獲するのに十分な大きさであるように選択される直径を有する。第1の多極イオンガイドは、イオンを集束し、それらを誘導して第2のRF多極イオンガイド内に入れるように動作する。第2のRF多極イオンガイドは、更なるイオン収集を実現するために、第1のRF多極イオンガイドの直径より小さい直径を有することができる。第2のRF多極イオンガイドは、イオンが開口部を通過し、下流の真空チャンバ内に入るように、第1のRF多極イオンガイドによってそこに送達されたイオンを誘導する。該下流の真空チャンバは、質量分析計又はイオン輸送デバイスを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
ここで図面を参照すると、類似の参照番号は類似の要素を指しており、図1は、イオン源及び質量分析計を含む質量分析計システムの実施形態を示す。本発明に基づき、衝突減衰装置22に連結されているイオン源はマトリックス支援レーザ脱離イオン(MALDI)源20であり、質量分析計は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードで動作する三連四重極デバイス30である。MALDIイオン源を活性化するために、レーザ40により生成されるレーザ光即ち通常はレーザ光のパルスは、MALDIイオン源20の試料標的36に当てられる。以下により詳細に記載する通り、一動作モードでは、レーザは、約500Hz以上などの比較的高いパルス繰返し数で発射することができるタイプであってもよい。本発明の特性に基づき、レーザは連続レーザであってもよく、各試料スポットの照射時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な時間よりも十分短くなるように制御される。照射時間を大幅に減少させると、良好な信号/ノイズ比を維持しながらMRMピークの幅が著しく減少する結果となり、ピーク幅再現性が向上すると共に定量分析のスループットが著しく向上する。
【0016】
質量分析計は、データ収集システム50に接続されている。該データ収集システムは、データ収集のためのデータ収集エレクトロニクス52、及び質量分析調査を実施するシステムの動作を制御するようにプログラムされているコンピュータ56を含む。特に、コンピュータ56は、レーザ40のパルス繰返し数を制御し、データ収集エレクトロニクス52へのインターフェースを介して、MRM調査を実行する三連四重極質量分析計30の動作を制御する。
【0017】
図2に示す通り、好適な実施形態では、分析されるイオンは、真空チャンバ60の内部でMALDI源の標的36から生成される。レーザ40により生成される紫外線(UV)光62は、UVレンズ66を透過し、真空チャンバ60内に入り、MALDI試料標的36の表面に当たる。各レーザパルスは、試料標的36からイオンのプルーム70を生成する。このプルーム70は、真空チャンバ内でガスにより衝突冷却され、試料標的36に隣接して配置されている四重極イオンガイドQ0により閉じ込められる。
【0018】
図3は、代替の実施形態を示す。該実施形態では、試料標的36は、隔壁76により真空領域60と隔てられている真空領域72内に配置されており、真空領域60内には、四重極セットQ0が置かれている。隔壁76は、図3に示すような平板、又はスキマー若しくは錐体などの当業者に公知の他の形態構造とすることができる。この装置により、試料標的36を離れて来るプルーム70は、第2の真空領域60内の圧力より高い圧力の衝突減衰ガスに暴露されることが可能になる。
【0019】
図4は、別の代替の実施形態を示す。該実施形態では、試料標的36は、真空領域72の外部の大気中に配置されている。結果として、イオンのプルーム70は大気圧中で生成される。イオンのプルーム70は、次いで、差動排気される真空領域72を通過し、四重極セットQ0の真空領域60に進入する。図4は、大気圧(AP)MALDIのための比較的簡単な構成を示すが、当業者には当然のことながら、本発明はまた、ガスコンダクタンス制限式加熱管若しくはオリフィス板、キャピラリエクステンダ、カーテンガス、又は上記の組合せを備える構成を含むがそれらに限定されない他のAP MALDI構成にも関する。
【0020】
図1に戻って、示されている実施形態では、三連四重極30は、Q1、Q2、及びQ3で示される3セットの四重極ロッドを含む。三連四重極30がMRMモードで動作すると、第1の四重極ロッドセットQ1が動作し、MALDI源20により生成されるイオンのプルーム70から「前駆」イオンを選択する。第2の四重極ロッドセットQ2が動作し、ロッドQ2によって限定される空間内でのガスを用いる衝突により、第1の四重極セットQ1により選択された前駆イオンのフラグメンテーションを生じる。次いで、第3の四重極ロッドセットQ3が動作し、前駆イオンをフラグメント化することにより生成されるイオンから、特定の「プロダクト」イオンを選択する。四重極ロッドQ3により選択されたプロダクトイオンは、開口部80を通過し、当業者に公知のチャネルトロン(CHANNELTRON)(登録商標)電子増倍管デバイスなどの電気パルス生成デバイス82により収集される。パルス生成デバイス82により生成されるパルスは、データ収集エレクトロニクス52によって検出される。該データ収集エレクトロニクスは、通常、パルス検出デバイス及びカウンタ等を含む。データ収集エレクトロニクス52により収集されたデータは、記憶、表示、及び分析のためにコンピュータ56へ送信される。MRMモード検出の目的で、パルス生成デバイス82により生成されるパルスは、試料標的がレーザパルスによりアブレーションする継続時間の関数として収集され、計数される。
【0021】
一動作モードでは、MALDI源を用いてMRMモードで動作する三連四重極質量分析計を、約500Hz以上、好ましくは約500Hzと1500Hzの間などの高繰返し数のレーザパルスを用いて活性化されたMALDI源と組み合わせることにより、且つレーザパルスによって生成されるイオンのプルームを衝突減衰させることにより、小分子の高スループット定量を達成することができる。この結果は予想外であった。なぜなら、その発見以前は、MALDI源の使用により小分子の定量分析が可能になるのかどうか、又は、もしあるとして、感度の妥協を受容するのに十分な分析速度があるとしたら感度がどうなるのかは未知であったためである。高いレーザパルス繰返し数の使用により、測定感度が向上し、その結果、従来のMALDIに典型的なレーザパルス繰返し数を用いる高スループット条件下では正確に検出できなかった特定の化合物に関する超高スループットな定量的測定を実施する能力、及び更により良好な信号の再現性がもたらされる。質量分析計の信号を劣化させることなく、比較的高いレーザフルエンスを使用する能力は、イオン経路における減衰ガスの存在に起因すると考えられる。該減衰ガスは、衝突によりイオンを冷却する。衝突冷却はまた、パルスイオンビームを準連続イオンビームに変換する。MRM動作モードを使用する三連四重極質量分析計を用いて、準連続イオンビームを効率的に分析することができる。レーザパルス繰返し数が高いほど、イオンビームはより連続的になる。
【0022】
前述の定量技術の高感度及び高スループットにより、測定を比較的高速で実施することができる。約1000〜1500Hzのレーザパルス繰返し数により、1秒につき1試料を優に上回るスループット速度が可能になることが分かっている。高スループット定量が目標であるので、試料スポット上で「下手なタイプを打つ」ことは望まれず、試料スポット「に」狙いを定め、定量‐品質データの取得を開始することが望ましい。マトリックスの選択、及び従って試料スポットの形成は、この要件の影響を受ける。多くのマトリックス材料及びマトリックスレス材料が試され、良好な感度並びにスポットごとの再現性及び日々の再現性を実現することを示したマトリックス材料の例は、(α‐シアノ((α‐シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)(別称HCCA)である。HCCAもまた、通常、ペプチド及びタンパク質のMALDI/TOF分析に使用される。しかし、本明細書に記載されている方法は、通常、いずれのタイプのMALDIマトリックスとも共に、又はいずれのMALDIマトリックスもなしで使用することができる。
【0023】
動作中、分析される試料は試料標的プレート上に堆積される。該試料標的プレートは、通常、96〜384又はそれ以上の試料スポット位置を含んでもよい。この定量技術の主な応用分野の1つは、医薬品及びそれらの代謝産物又は反応生成物の定量である。対象材料を含有する溶液は、通常、血液若しくは尿若しくは血漿などの生体試料から、又は酵素を含有する緩衝溶液から抽出される。該酵素は、試料と反応するように使用されてきた。不要な塩又はタンパク質の大部分を除去するために何らかの簡単な浄化手続きを用いてもよい。次いで、通常は1マイクロリットル未満の小量を、マトリックス溶液と混合してもよい。マトリックス溶液は、レーザの波長、例えば335ナノメートル、の紫外線光を効率的に吸収するために選択される。試料溶液とマトリックスとの混合物(又は、マトリックスレス試料に関しては試料溶液だけ)を、当業者に公知の静電気、噴霧器、又は乾燥液滴付着を含むがそれらに限定されない種々の手段により、試料プレート上に堆積させることができる。試料がプレート上で乾燥することが可能になった後、対象試料を含有する結晶化材料のスポットが形成される。プレートは、質量分析計のイオン源内に挿入される。一構成では、プレートは、対象試料スポットが質量分析計のイオン光学系の正面にあるように、ステッピングモータにより移動させられるホルダ内に挿入される。試料プレートをとり囲むO‐リングは、真空密閉を提供する。レーザは、試料を脱離させイオン化するために、試料スポットに繰り返し発射される。対象イオン(内標準のイオン及び検体のイオンの両方)は、パルス繰返し数に応じて、数msから数百msまでの範囲内で典型的なドウェル時間を使用して、質量分析計によりモニタされる。以下により詳細に記載する通り、この動作モードでは、レーザは、約500Hzから、例えば、約1500Hzまでの高い繰返し数で発射される。一方法では、レーザが一定時間(例えば1秒)毎に発射される間、プレートは静止したままであり、イオン信号強度は、消費される試料量の測定を提供するためにこの一定時間の間に統合される。別の方法では、レーザは、イオン信号が低レベルに減少するまで発射される。該低レベルは、試料のその領域が完全に枯渇していることを示す。別の方法では、試料プレートは、イオン信号が測定されるにつれて、試料の新しい領域をレーザ光の経路内に持ってくるために小さいパターンで移動させられる。このことにより、試料が不均一に分散した場合、より代表的な信号を供給することができるが、各試料を処理するために追加の時間が必要である。
【0024】
イオン生成のためにパルスレーザ光を使用する高スループット定量プロセスの一例を、以下に記載する。試料スポットの新しい部分は、データ収集の継続時間中、レーザの正面にある。定量MRM分析では、内標準が試料中に含まれており、従って、試料スポット内に存在する。クロマトグラフの(時間の関数としての信号の)データ収集は、試料スポットに衝突しないレーザ光を用いて(検体及び内標準の両方に関して)開始される。レーザ光は試料スポットに衝突することができるようになり、試料スポット上の同位置から試料をアブレーションする(即ち、アブレーション中試料は移動しない)。このことにより、イオン信号はバックグラウンドレベルから著しく増大し、ピークに達し、次いで、試料が完全に脱離するにつれて減少してバックグラウンドレベルに戻る。イオン信号がバックグラウンドレベルに戻ると、レーザ光は試料スポットへの衝突を停止する。次いで、レーザは、データを取ることになる試料標的上の次の位置に移動させられる。次の位置は、該試料スポットの別の位置でもよく、又は完全に異なる試料スポットでもよい。
【0025】
基準を提供するために、マトリックス及び1:1などの所定の比率の試料溶媒のみを含有する試料スポットから、「マトリックスブランク」に関して同一イオン対のデータを取る。LC/MSフローインジェクションピークによく似た時間の関数としてイオン信号を呈示するデータから、検体ピーク及び内標準ピークのピーク領域が算出され、各ピークの内標準領域に対する検体領域の比が得られ、結果が適宜プロットされる。
【0026】
図5は、本技術を用いて収集されたMRMデータのタイプの例である。この場合、レーザは、5つの試料スポット各々の2つの離れた位置に発射された。検体は25pg/ulのハロペリドール(市販の化合物)であった。20msのドウェル時間を使用してデータを収集し、376.0/165.1m/zのイオン対をモニタした。レーザは1400Hzで1パルスにつき約6uJで動作した。そのようなMRM定量分析では、0.2〜1ulの試料を標的プレート上に堆積させた(上記データは0.2ulのスポットからであった)。すべての場合において、1ピークにつき少なくとも10データポイントがあった。平均ピーク幅は130msの半値全幅(FWHM)により得られ、これにより、前述のESI源及びAPCI源などの質量分析計で使用される従来の大気圧イオン化源からは得られない速度での日常的分析スループットの可能性がもたらされる。
【0027】
この方法を用いて、市販の化合物リドフラジンに関する図6に示すものなどの較正曲線が生成され得る。試料調製には濃度5pg/ulのパラゾジンが含まれ、内標準として使用された。すべてのMRM濃度データポイントは、検体イオン対に関しては10msのドウェル時間、内標準に関しては10msのドウェル時間で、3度収集した。モニタされたイオン対は、リドフラジンは386.2/122.0、内標準であるパラゾシンは384.2/247.0であった。較正曲線はピーク領域を使用し、検体のピーク領域は内標準のピーク領域に対する比率で表し、重み付けのない一次フィットを使用した。較正曲線は0.5pg/ul〜2000pg/ulの広範囲に及び、ブランクを含んだ。該曲線は、r=0.9979で直線状であった。図7は図6と同一のデータを示すが、ここでは、分析の意義がより大きい0.5pg/ul〜100pg/ulの範囲のみで分析されている。このより狭い濃度範囲でデータを再分析したところ、ここでも較正曲線はr=0.9957となり直線状であった。
【0028】
前述の通り、レーザパルス繰返し数は、可能な分析速度及び従って試料スループットに極めて大きな影響を及ぼす。対照をなすために、図8は、40Hzで1パルスにつき約18uJのパルスエネルギーで動作する窒素レーザを用いて取ったMRMデータを示す。このパルス繰返し数は、本明細書に記載されている技術で使用されるレーザパルス繰返し数よりずっと低いものの、従来のMALDI用途にとっては実際には「高い」。この場合、レーザは、5つの試料スポット各々の2つの離れた位置に発射された。検体は25pg/ulのジルチアゼム(市販の化合物)であり、0.2ulの試料スポットを使用した。414.9/178.1m/zイオン対をモニタするために、500msのドウェル時間を使用してデータを収集した。平均ピーク幅は、4.51秒の半値全幅(FWHM)により得られる。このFWHMは、図5における1400Hzのデータの130msの値よりずっと大きい(約34倍に等しい)。一般に、低周波では、より高いパルスエネルギーを使用すると、試料はより急速にアブレーションし、狭いピークをもたらし、このため同じ低周波数でより低いパルスエネルギーの場合よりも高いスループットの可能性をもたらす。しかし、レーザパルスエネルギーが高くなると、イオン源領域における分子フラグメンテーションが増大する可能性があり、その結果としてMS/MS感度が低減する可能性がある。パルス繰返し数の高まりによってもたらされるピークの更なる狭まりは、更により高スループットな方法でデータを収集する能力を提供する。
【0029】
図9は、ハロペリドールに関するMRMピーク幅に対するレーザパルス繰返し数の影響を示す。レーザパルスエネルギーを一定に保つ一方、レーザパルス繰返し数を変更して、各周波数毎にFWHMを測定した。図10は、図9に示すデータを拡大したものである。パルス幅は、10Hzのレーザパルス繰返し数で約17秒から1400Hzのレーザパルス繰返し数で約0.1秒まで減少した。これは約155分の1の減少であり、更により高い試料スループットを可能にする。
【0030】
レーザパルス繰返し数が高くなると、更に他の利益ももたらされる。低エネルギーでパルス繰返し数が高くなると、イオン源領域内での分子フラグメンテーションが減少し、その結果、MS/MSを実施するための前駆イオンが増加する。レーザパルス繰返し数を変更した時に単一MS Q1スペクトルを測定して、実験を実施した。M+Hに対応する主要なフラグメントイオンの強度に加えて分子イオン(M+H)の強度を測定した。図11は、パラゾシンのM+H強度に対するフラグメントイオン強度の比を示す。
【0031】
レーザパルス周波数を変更した時、MSスキャンの速度を調節して、異なる周波数で取られるデータ毎に同数のレーザショットが生じるようにした。分子フラグメンテーションは、レーザパルス繰返し数が40Hzから1400Hzまで増加するにつれて、約2分の1減少した。レーザパルス繰返し数が増加すると、イオン源内での分子フラグメンテーションが減少するので、MRMなどのMS/MS実験を実施するための分子イオンがより多く無傷で残っている。図12は、ハロペリドール及びプラゾシンに関して、レーザパルス繰返し数の関数としてMRMピーク領域を示す。レーザパルス繰返し数が10Hzから1400Hzまで増加すると、MRMピーク領域に60%〜100%の増加があることが分かる。
【0032】
前述したこの定量技術は、従来のMALDI/TOF及び直交MALDI/TOF(又はMALDI QqTOF)の両者にいくつかの利点をもたらす。第1に、MRMモードの三連四重極の高感度に起因して、MALDI QqTOFの感度がQqTOFの感度と比較して著しく向上する。QqTOFでは、直交TOF法の負荷サイクル制限が原因で相当なイオン損失が起こり、(高質量よりも低質量で効率が低い状態で)イオンビームの一部しかサンプリングできなかった。この実験により、絶対感度及び効率性は、QqTOFでの同等の実験よりも三連四重極のMRMで10〜50倍良好であることが示された。
【0033】
第2の利点は、MS/MSが極めて特定的な検出技術であるということによりもたらされる。該技術では、通常、化学的ノイズのバックグラウンドが極めて低い。これは、特定の前駆体イオン/プロダクトイオンの組合せしかモニタしないことが原因である。(効率的なMS/MS能力のない)MALDI/TOFでは、通常、化学的ノイズは高く、特に低質量で高い。この化学的ノイズは、高い存在度で存在するマトリックス関連イオンが原因であり、低質量の検体イオンからの信号を分かりにくくする可能性がある。従って、三連四重極のMS/MS能力により、マトリックス関連イオンよりずっと低い強度で存在する低質量イオンの高感度の検出をも可能になり得る。更に、MALDI/TOFには、過渡現象記録装置検出システムを使用しなければならないほど大きなイオン流出がある。このことには、多少ノイズが多いという欠点があり、その結果、単一イオンイベントが検出されない可能性がある。MALDI/MRM技術を用いると、パルスが正しいテンポで出るので、たとえ1パルスにつき同数のイオンが受容されるとしてもイオン流出はずっと少なく、その結果、パルス計数によるイオン検出にタイムデジタイザ回路を使用することができる。ノイズレベルが極めて低いので、このことはMS/MSに利益をもたらす。
【0034】
第3に、試料を分析することができる速度を向上させるために、質量分析計の性能(この場合は三連四重極)が試料形態とは無関係であることにより、表面から試料を急速に脱離させる可能性がもたらされる。以前の軸性MALDI/MSでは、質量分解能及び質量精度が大きな影響を受けないように、レーザフルエンスを低くイオン化閾値近くに維持しなければならない。しかし、イオンビームの衝突冷却に因り、レーザエネルギーは、試料の熱分解が生じるすぐ下の点まで上昇する可能性がある。このことにより、試料のより急速な脱離が可能になり、従って、短時間により多くの試料を処理することが可能になり得る。更に、質量分析計の分析性能が試料形態とは無関係であるということは、より大きな直径のレーザビームを使用することにより、試料のより大きな領域が一度にイオン化されることを意味する。MALDI/TOFを用いた状況とは対照的に、試料の不均一性は質量分析計の性能(質量分解能及び質量位置)に影響を及ぼさない。更に、イオンビームの準連続的性質により、(イオン流出が依然として弱いので)パルス計数法の使用が可能になる。パルス計数は、本質的にMS/MSの最もノイズのない検出方法であり、最良の信号対雑音比を可能にする。但し、イオンの存在を検出するいずれの公知の方法も可能である。
【0035】
従って、衝突冷却されるMALDIイオン源とMRMモードでの三連四重極及び高いレーザパルス繰返し数との組合せは、小分子の生物学的試料及び薬学的試料の定量分析のための極めて高感度且つ迅速な技術を実現する。試料をオフラインで調製し、それらを試料プレート上に堆積させる能力は、並列試料処理の方法を用いて多数の試料をオフラインで抽出し浄化することができることを意味する。一般に、質量分析計は分析システムの最も高価な部分であるので、分析のための試料をバッチモードで調製する能力は、処理の効率性を著しく向上させる。
【0036】
本発明の特徴に基づき、定量動作の極めて高いスループットは、標的上の各試料スポットにある試料物質を枯渇させるのに必要な時間より大幅に短い継続時間で当該スポットをレーザ光で照射することにより得られる。この技術を用いて達成可能なスループットは、前述のパルスレーザ動作モードを使用して得られるスループットよりずっと高い可能性がある。この構成においては、イオン生成に使用されるレーザは、選択された短い継続時間に所定の試料スポット上でオンになり、次いでオフになる連続レーザであってもよい。或いは、レーザ光はパルスであってもよく、レーザパルスの総照射継続時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な時間よりも大幅に短くなるように制御される。レーザがパルス状か連続かに関係なく、照射継続時間は、レーザ光が選択された試料スポット又は領域を照射する継続時間又は時間と定義される。前述の通り、照射継続時間中に試料の新しい領域をレーザ光の経路内に持ってくるために、レーザ光をパルス化するか又はオンのままにすることができると同時に、試料プレートはレーザ光に対して所定又は任意のパターンで移動させることができる。移動のパターンは不連続ステップ、連続動作、又はそれらの組合せで達成し得ることを理解することができる。例えば、レーザ光が液体クロマトグラフィー出力から堆積される試料痕跡をラスタし追跡することを可能にするようなパターンで、試料プレートを移動させることができる。本発明のこの特徴は、レーザ照射継続時間が試料の枯渇に必要な時間よりも大幅に短い場合、信号/ノイズ比に大きな影響を及ぼすことなく、MRMピークの幅が著しく減少するという予期せぬ結果に基づいている。このようにして得られるMRMピーク幅の著しい減少に因り、各試料スポットでデータを取るために必要な時間は著しく減少する。結果として、測定装置は、MALDI標的上の試料スポットをより高速で通過することができ、その結果、スループットが著しく向上する。本明細書で使用されている通り、「スループット」という用語は、所定の時間で分析することができる試料スポットの数を意味する。
【0037】
例示として、図13、14、及び15は、化合物ハロペリドールを含有する試料標的上で測定されたMRMピークを示す。これらの図では、各MRMピークは、当該試料標的の1つの試料スポットから採取されたイオンの(時間の関数としての)計数率を表す。各試料スポットに関して、連続レーザが選択された継続時間だけオンにされ、次いでオフにされた。各対応する試料スポットの試料物質が枯渇するまでレーザをオンにしておくことにより、図13のMRMピークを測定した。プロットから分かるように、これらのMRMピークの全ベース幅は、約1秒以上であった。図14及び15は、大幅に短いレーザ継続時間で測定されたMRMピークを示す。具体的には、図14のMRMピークは、100msのレーザ照射継続時間で測定され、該継続時間は、試料の枯渇に必要な通常の時間の約10%又は10%未満であり、図15のMRMピークは、10msのレーザ照射継続時間で測定され、該継続時間は、試料の枯渇に必要な時間の約1%又は1%未満である。図14及び15のMRMピークの幅は、図13のMRMピークの幅よりずっと狭いことが分かる。また、図13に示す試料の枯渇を伴うピークは比較的鋭角の先端を有するが底部にかなり幅があることが分かる。これらのMRMピークの形状は、初期に試料スポットからの急速な検体の堆積があり、次に、試料標的からの検体の遊離速度が低下したことを示唆する。その一方、図13のピークのそのような幅のある底部は、図14及び15に示す通り、短いレーザ照射継続時間で生成されたMRMピークからは消滅している。
【0038】
短時間のレーザ照射を用いてMRMピークを生成することの重要な利点は、たとえイオン計数の総数が減少するとしても、信号/ノイズ比が高いままであることである。これが、試料の枯渇に必要なレーザ照射継続時間より短いレーザ照射継続時間を用いることが、検体のMRMピーク領域(即ち、イオン計数の総数)及びバックグラウンド領域の両方を減少させるように見える理由である。例示として、表1及び2は、ケトコナゾール(Keto)及びプラゾシン(Praz)それぞれに関する代表的なデータを示す。各表においては、4つの異なるレーザ照射継続時間、試料の枯渇まで継続してオンにする、100ms、50ms、及び10ms、を用いてデータを取った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
MRMピーク領域(即ち、イオン計数の総数)上でのレーザ照射時間を減少させることの効果を更に例証するために、表3は、「オンのまま」、500ms、100ms、及び10msの間で変更されたレーザ照射継続時間での、プラゾシンを含有する試料標的上で測定されたピーク領域のデータを示す。照射時間を、試料スポットを枯渇させるのにかかる通常の時間の約半分又はそれ未満である500msに設定すると、ピーク領域は、試料スポットを枯渇させることにより得られるピーク領域の88%である。これに関して、照射時間の50%削減は、相当に大幅な削減であると考えられる。アブレーションポイントから(以下に図示する)検出器へのイオンの輸送に起因して導入されるピーク広がりに近い100msのレーザ継続時間では、ピーク領域は、試料の枯渇までレーザをオンのままにすることにより得られるピーク領域の50%近くである。10msという短いレーザ照射継続時間でも、ピーク領域は、試料枯渇のピーク領域の約4分の1である。このように、イオン輸送広がりよりもずっと短いレーザ照射継続時間でも、高い信号/ノイズ比のデータ収集を実施することができる。MRMピークの狭いピーク幅により、測定システムは1つの試料スポットから次の試料スポットへ迅速に移動することが可能になり、結果として、測定スループットが大幅に向上する。
【0041】
【表3】
極短い照射時間の継続時間は定量に弊害をもたらさないことを例証するために、25pmolのKetoを内標準として使用し、Praz(10pmol〜500pmol)に関して一連の較正曲線を算出する。表4及び表5はそれぞれ、様々な濃度におけるプラゾシン/IS信号比及び様々な照射時間での較正曲線を表す。これらの表は、オンのままから約10msまで変動する照射時間で取ったデータを含む。約10msは、(1000Hzの繰返し数で動作して)試料枯渇に必要な標準的な時間の約1%又は1%未満である。表4及び表5のデータは、照射時間に関係なく、極めて類似した較正曲線が生成されたことを示す。類似した較正曲線は、検体応答の直線性に因り定量実験を実行することが依然として可能であることを意味する。
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
本発明の態様に基づき、観察されるMRMピークベース幅は、レーザ照射時間、及びイオンがアブレーションポイントから検出器まで輸送されるイオン輸送中に導入される広がりの両方に左右される。例えば、当業者に公知の種々のイオン光学系の焦点効果(又は焦点ぼけ)は、イオン輸送広がりに関与する可能性がある。また、アブレーションポイントと検出器との間の経路に沿ったバックグラウンドのガス圧力は、広がりに関与する可能性がある。しかし、衝突ガスの添加又は、当該分野で公知の、レーザのアブレーションプロセスの性質に起因するバックグラウンドのガス圧力は、衝突減衰に効果的である可能性があることが理解される。イオンフラグメンテーション量の低減に効果的である可能性があるイオンの衝突減衰。一般に、イオン輸送による広がりは、ピーク幅の制限の低減を示す。このことを、薬剤キニジン(Quin)の試料に関して様々なレーザ照射時間で収集されたデータのプロットを示す図16に示す。図16に示されるデータは、試料上でのレーザ照射の継続時間と観察されるMRMピーク幅との間に直接的関係があることを示す。このように、レーザ照射時間の制御は、MALDI定量システムにとって重大な側面であり、先行技術のシステムでは考慮されてこなかった因子である。
【0044】
更に、図16のプロットは、ピーク広がりの別の主要な源は、イオンがシステムのイオン光学系を通過する時に誘発される時間拡散であるように見えることを示す。例示として、プロットを0秒の照射時間に外挿すると、このプロットのためのデータを取るのに用いられるイオン輸送に起因して、ピーク広がりが生じるはずである。この例で使用されるイオン光学系は、図3に示すイオン光学系と類似している。この例では、Quinのイオンに関して、MRMピークの幅は、使用されるレーザ照射時間に関係なく、所定の測定構成で約99msよりそれ程大幅には狭くないと予想される。イオン輸送に起因するピーク広がりの規模は、使用される特定の測定構成次第であり、該広がりもまた、調査される特定のイオンに応じて小さい変動を示す可能性があることが理解されるであろう。
【0045】
測定スループットの顕著な向上は、イオン輸送に因る広がりと規模が同程度になるようにレーザ照射時間を選択することにより期待される。レーザ照射時間は、イオン輸送のピーク広がりと略同じか又はそれより短かくなるように選択されてもよいことが、より好ましい。例示として、研究者は、特定のイオン試料に関して、図16に示す分析に類似した分析を実施することにより、MALDI/MRM装置を通るイオンの輸送中に生じるピーク広がりを最初に確定し、イオン輸送により生じる広がりを確定してもよい。次いで、後続のMRM定量のためのレーザ照射継続時間は、所望のスループットを達成するために、確定されたイオン輸送広がりに基づく値に設定されてもよい。例えば、イオン輸送の広がりがおよそ100msである場合、各試料スポットのレーザ照射継続時間は、スループット、各試料スポットの計数の総数、各試料スポット上での経過時間、及び信号/ノイズ比の間の良好なバランスを達成するために、およそ100msに設定されてもよい。
【0046】
上記の例を表6に見ることができる。表6は、5つの異なる化合物に関する、様々な照射時間で3つの離隔した試料スポット(領域)(n=15)の各々から得られた5つの別個のピーク幅測定値を示す。
【0047】
【表6】
照射継続時間は、「オンのまま」(スポット領域から更なる信号が検出されなくなるまでレーザはオンのままにされた)から10msの最小値まで変化した。レーザ照射時間が減少すると、MRMピーク幅は劇的に減少した。試料が10ms間照射された場合、MRMピーク幅は5.5〜9分の1狭くなった。これらのデータは、ハロペリドールに関して、(ステージ移動時間の影響は無視して)現在の試料スループットが約9倍向上する可能性があることを示す。劇的なスループットの向上に加えて、表6のデータは、レーザをトグルスイッチでオン/オフ切換えした場合、ベースピーク幅の再現性もまた極めて大幅に向上したことを示す。レーザをオンのままにした場合、及び100ms、50ms、及び10msそれぞれで動作させた場合、5つの薬剤の平均RSDは、26%、4%、8%、及び8%であった。短い照射時間に関連する最後の利点は、観察されるピーク幅に関する化合物依存性の著しい低減であった。信号枯渇までレーザをオンのままにすることにより、種々の化合物のベースピーク幅に顕著な差異が生じたが、短時間照射した場合、これらの差異は消滅した。
【0048】
本発明の特徴に基づき、図17は、高圧領域72内のRF多極イオンガイド78を使用して、MALDI標的36を離れて来るプルーム70中のイオンを捕獲し、該イオンが開口部86を通過して隣接する真空チャンバ60内に入るようにそれらを誘導する改良されたイオン源の構成を示す。そうすることで、イオンガイド78は、イオン質量分析計に到達できるイオン数を大幅に増加させ、それにより、システムの測定感度を高める。
【0049】
MALDI標的36を収容する真空チャンバ72及びイオンガイド78は、レーザパルスにより生成されるプルーム70中のイオンを効果的に減衰させるために選択される圧力に維持される。第1のチャンバ72内の減衰ガスの圧力は、イオン質量分析計の効果的な動作に通常必要な低圧力より大幅に高い。真空チャンバ72内の減衰ガス圧力は、10Torr未満であることが図17に示されている。一般に、第1の真空チャンバ72内の減衰ガス圧力は、約1Torrであってもよく、好ましくは、0.1Torrと10Torrの間である。
【0050】
イオンガイド78は、1つ又は複数の個別のイオンガイドを含むことができるが、それらに限定されないことが理解されるであろう。一般に、イオンガイド78は、当該分野で公知の1つ又は複数の多極イオンガイド若しくはリングガイド、又はそれらの組合せとすることができる。更に、同様の減圧を有するように諸イオンガイドを構成することができる。或いは、減圧差を達成するために、通常、追加の差動排気される領域(図示せず)を有すること又はコンダクタンス制限を使用することを含む種々の方法により、各イオンガイドが異なる減圧を有し得るように、イオンガイドを構成することができる。
【0051】
図18は、図17に示す概念に基づく改良されたMALDI源を示す。図18に示す実施形態では、MALDIイオンを捕獲し誘導するためのイオンガイドは、四重極イオンガイド90である。MALDI標的36は、第1の真空チャンバ72内に配置されており、第1の真空チャンバ72は、壁又は隔壁76により第2の真空チャンバ60と隔てられている。隔壁76は、MALDI標的36から第2のチャンバ60まで延びるライン上に配置されている開口部86を有し、MALDI標的36からのプルーム70中のイオンが第2のチャンバ60内に進入することを可能にし、最終的にイオン質量分析計に到達することを可能にする。第2の真空チャンバ60はイオン質量分析計を含んでもよい。或いは、第2の真空チャンバ60は、イオンをイオン質量分析計へ輸送するイオン輸送デバイスを含んでもよい。イオン質量分析計は、第2の真空チャンバ60の下流にある別の真空チャンバ内に配置されてもよい。該質量分析計は、例えば、前述の通り三連四重極分析計であってもよい。図18に示す例では、第2のチャンバは四重極RFイオンガイドQ0を含み、該イオンガイドは、前に検討した実施形態のように、四重極イオンガイドQ1、Q2、及びQ3により形成されている三連四重極分析計と共に使用されていもよい。その組合せでは、MRM分析用の三連四重極分析計を含む下流の真空チャンバにイオンを輸送する間に、四重極Q0はイオンを衝突冷却する。真空チャンバ72内の高圧は、イオンガイド90によって輸送されるイオンを効果的に冷却し、イオンガイドQ0によりもたらされるピーク広がり作用に加えて、プルーム70中のイオンのピーク広がりに関与する。
【0052】
四重極RFイオンガイド90は、MALDI標的36と開口部86との間に配置されており、MALDI標的と開口部86とを繋ぐラインと一直線になるその軸を有する。イオンを受容するための四重極イオンガイド90の開口部の寸法は、レーザパルスによりMALDI標的36から放出されるイオンのプルームの大部分、好ましくは50%以上、を受容するのに十分な大きさであるように選択される。1つの実施においては、四重極イオンガイド90は、約5cmのロッド長と共に直径約4mmの内接円を特徴する所定の横断面を有する。開口部86は約1.7mmの直径を有する。イオンの次の段階への接続を最適化するために、これらの寸法は、例えばプルームの幅及び角度、開口部の直径、圧力等の因子に従って調節することができることが理解されるであろう。種々の実施形態では、イオンの開口部86への十分な集束及び移送を実現するために、四重極イオンガイド90の内接直径は約1cmとすることができる。四重極RFイオンガイド90のロッドは、円形又は双曲形を含む種々の形状を有していてもよく、各ロッドの直径は、性能を最適化するために選択されてもよい。電源92は、四重極RFイオンガイド90のロッドを動作させるためにRF電圧を供給し、イオンが集束され、開口部86を通過して隣接する真空チャンバ60内に誘導されるようにする。図18は、例として、第2の真空チャンバ内の四重極イオンガイドQ0を示すが、イオンガイドの接続によって高められたイオンサンプリング効率性を備えるMALDI源はそのような構成に限定されず、第2の真空チャンバ60は他のタイプのイオン輸送デバイス又は質量分析計を含んでもよいことが理解されるべきである。
【0053】
例として、図19は、MRM分析のための三連四重極分析計と共に使用される四重極イオンガイド90を備えるMALDI源を示す。MALDI標的36及び集束用多極イオンガイド90は、約2.5Torrのガス圧力に維持されている第1の真空チャンバ72内に含まれる。電源92により四重極イオンガイド90の極に印加されるRF電圧は、所望の集束効果を実現するために、チャンバ72内の減衰ガス圧力において動作する極に関して選択される。ロッドセットQ0は、約5mTorrの圧力の第2の真空チャンバ60内に配置されている一方、三連四重極分析計30を形成する四重極イオンガイドQ1、Q2,及びQ3は、約0.01mTorrなどの更により低い圧力に維持されている第3の真空チャンバ96内に含まれる。イオンガイド接続を備えるレーザ離脱イオン源は、飛行時間型質量分析計又はイオントラップ型質量分析計などの他のタイプのイオン質量分析計と共に使用することができることを理解すべきである。
【0054】
レーザパルスがMALDI標的36に命中すると、イオンのプルーム70が生成され、四重極イオンガイド90のロッドに囲まれた空間内に放出される。四重極イオンガイド90の内接直径は、プルーム中のイオンの大部分、好ましくは50%以上、を受容するように選択される。四重極イオンガイド90は、受容したプルーム70中のイオンの軌道を修正し、該イオンを誘導して開口部86を通過させ、第2の真空チャンバ60内の四重極イオンガイドQ0の受容領域に進入させる。
【0055】
本発明の別の特徴に基づき、代替のイオン接続構成は、2つ以上の多極イオンガイドを使用する。そこでは、各イオンガイドは、MALDI標的36からのプルーム中のイオンを捕獲し該イオンを誘導してそれらを下流の真空チャンバに送達させるための直径を有する内接円を特徴とする所定の横断面を有する。2つのイオンガイドを用いる実施形態に関して図20に示す通り、第1の多極イオンガイド100及び第2の多極イオンガイド102は、MALDI標的36を含む真空チャンバ72内に配置されている。図20に示す実施形態では、前の実施形態と同様に、第3の四重極イオンガイドQ0は第2の真空チャンバ60内に配置されており、該チャンバは、壁76により第1の真空チャンバと隔てられている。該壁は、イオンが第1の真空チャンバ72から第2の真空チャンバ60内へ通過することを可能にする開口部86を有する。第1のチャンバ72内の2つの多極イオンガイド100及び102は、MALDI標的36と、第1の真空チャンバ72及び第2の真空チャンバ60を隔てる壁にある開口部86とを繋ぐライン上にそれらの軸があるように一直線になっている。
【0056】
動作中、MALDI標的36及び集束用イオンガイド100及び102を含む第1の真空チャンバ60は、MALDI標的に命中するレーザパルスにより生成されるプルーム中のイオンを効果的に減衰させるために選択される比較的高い圧力に維持される。減衰ガスの圧力は、例えば、2.5Torrであってもよく、好ましくは0.1Torrと10Torrの間であってもよい。対照的に、第2の真空チャンバ60は、5mTorrなどの低圧力にある。電源92は、イオンガイド100及び102を動作させるためにRF電圧を供給する。或いは、イオンガイド100及び102それぞれのために別個の電源を使用してもよい。
【0057】
MALDI源を下流の構成要素に接続するために2つ(以上)の多極イオンガイドを使用することの重大な利点は、異なる特徴を有する多極イオンガイドを選択でき、開口部86を通過するように誘導し得るイオン総数を最適化することができることである。MALDI標的36を離れて来るイオンを効率的に捕獲するために、MALDI標的36に隣接する第1の多極イオンガイド100は、プルーム70の大部分、好ましくは50%以上、を捕獲することができるように、比較的大きな受容ゾーンを有する大きさにされる。一方、第2の多極イオンガイド102を、更なる集束を実現するためにより小さい寸法を有するように選択することができる。たとえプルームの中心軸が開口部86を指すラインから角度を成しているとしても、第1の多極イオンガイド100の寸法を大きくすることにより、プルーム70中のイオンを効率的に捕獲することが可能になる。第1の多極イオンガイド100は、更により小さい開口部86内に直接ではなく、第2の多極イオンガイド102の受容領域内にイオンを集束すればよいだけなので、その比較的大きな寸法でも適切な集束を提供することができる。
【0058】
一方、そのより小さい寸法に因り、第2の多極イオンガイド102は、第1の多極イオンガイド100によってそこに送達されたイオンを効率的に誘導し、第2の真空チャンバ60内のイオン質量分析計の比較的小さい開口部86を通過させるために、更なる集束を提供することができる。このようにして、2つの多極イオンガイド100及び102を、プルーム70中のイオンの効果的な捕獲及び開口部86を通過させるためのイオンの効果的な集束の両方を提供するように適合させることができる。これに関して、電源92は、異なるRF電圧を供給して、異なる集束効果を生じるようにイオンガイド100及び102を独立して制御することができる。
【0059】
一実施形態では、第1及び第2の多極イオンガイド100及び102の各々は、所望の捕獲及び集束特性を提供するために選択されるそれらのロッドの寸法を有する四重極イオンガイドである。開口部86へのプルーム70の最適なイオン移送に関する種々の実施形態では、第1の多極イオンガイドに対する第2の多極イオンガイドの横断面の相対比率は、1未満又は1に等しくすることができる。例として、1つの実施においては、第1の四重極ロッドセットは、7mmの内接直径及び7cmのロッド長を有する。第2の四重極ロッドセットは、4mmの内接直径及び5cmのロッド長を有する。開口部86の直径は約1.7mmである。結果として、この場合の相対比率は約0.6であるが、より小さい比率が用いられてもよい。種々の実施形態では、第1及び第2の多極イオンガイドの横断面を等しくすることができる一方、イオンの集束/移送のために独立して最適化されるRF閉込め磁場を提供するために、異なるRF電圧を選択することができるであろう。
【0060】
図21は、MRM分析のために第3の真空チャンバ96内に配置されている三連四重極分析計と共に使用される2段階集束用多極イオンガイド100、102を備えるMALDI源を示す。このシステムは一例として示されているに過ぎず、レーザ脱離イオン源から下流の真空チャンバまでイオンを効果的に接続する異なる寸法の2つ(以上)のイオンガイドを使用する手法は、他のタイプのイオン分析技術と共に効果的に使用することができることが理解されるであろう。
【0061】
MALDI標的からのイオンの著しく向上したサンプリング効率及び結果として得られる質量分析計の測定感度に加えて、多極イオンガイドを使用することの別の重要な利点は、イオン質量分析計がMALDI標的36から来る汚染から概ね隔離されることである。図20を再度参照すると、レーザパルスがMALDI標的36に命中すると、イオン及び中性粒子を含有するプルーム70が生成される。中性粒子は試料物質、マトリックス物質、及びそれらの混合物を含む。イオン質量分析計がMALDI標的36のすぐ下流にそれに暴露されて配置されている場合、中性粒子は、イオン質量分析計の構成要素上に堆積されることがあり、分析デバイスの性能の劣化又は故障をも生じる可能性がある。
【0062】
対照的に、図18及び20に示す接続装置を用いると、イオン質量分析計は、MALDI標的36と空間的に隔てられており、小さい開口部86は、分析デバイスの構成要素に到達することも考えられる汚染の量を大幅に制限する。結果として、分析デバイスを清浄に保つことができ、手入れ又は交換をする前に耐用年数を更により長くすることができる。
【0063】
これに関連して、多極イオンガイド100、102、特にMALDI標的36のすぐ下流にある第1のイオンガイド100は、MALDI標的から解放される粒子により汚染される可能性がある。それにも関わらず、異なる真空チャンバ内に含まれる分析デバイス及びMALDI源を有することにより、集束用多極イオンガイドを、イオン分析デバイスに支障をきたすことなくクリーニングのために取り出すことが可能になる。その目的のために、第1及び第2の真空チャンバ72及び60を隔てている隔壁76の開口部86を密閉するためにバルブ又はシャッタ88が設けられていることが好ましい。多極イオンガイド100、102、がクリーニングを必要とする場合、バルブ又はシャッタ88を使用して開口部86を閉鎖し、該開口部を通じた第2の真空チャンバ60内への空気漏れを防止する。次いで、第1の真空チャンバ72を開いて、クリーニングのために、集束用多極イオンガイドの1つ又は両方を取り外すことができる。このようにして、分析デバイスを真空下に維持しながら、イオンガイドのクリーニング作業を実行することができる。分析デバイスは、通常、精密な調節を必要とし、クリーニングプロセスにおいて注意を払わないと容易に破損する可能性があるため、この態様の利点は重要である。更に、質量分析要素をクリーニングすることは、真空システムを計器に至るまで停止させることを含み、結果として、その他の因子の中でも計器のポンプダウンが原因で、相当な遅延がもたらされる。イオンガイドでの作業中に質量分析計を真空下に維持する能力は、そのような遅延を効果的に回避する。クリーニング作業をより簡単にするために、多極イオンガイド100、102は、取外し及び再取付けを容易にするモジュール構造を有することができる。
【0064】
本発明の原理を応用してもよい多数の可能な実施形態を考慮し、図面に関して本明細書に記載されている実施形態は例示的であることを意図しているに過ぎず、本発明の範囲を限定するものと見做されるべきではないことが理解されるべきである。従って、本明細書に記載されている発明は、以下の請求項及びその等価物の範囲内に入る全ての実施形態を考慮に入れている。三連四重極質量分析計を例として記載してきたが、質量分析イオントラップなどの当該分野で公知の他の質量分析計を効果的に適用することができることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、MALDIイオン源、及び小分子の高スループット定量のためにMRMモードで動作する三連四重極質量分析計を含む、本発明による質量分析計システムの実施形態の概略図である。
【図2】図2は、図1の質量分析計システムのMALDIイオン源の概略拡大図である。
【図3】図3は、MALDIイオン源が差動排気される真空チャンバ内にある代替の装置の概略図である。
【図4】図4は、MALDIイオン源が大気圧下にある、別の代替の実施形態の概略図である。
【図5】図5は、本発明の高スループット定量技術を用いて取られた例示的なMRMデータを示すチャートである。
【図6】図6は、例示的な較正曲線を示すチャートである。
【図7】図7は、図6の較正曲線と類似しているがより低い濃度範囲に関する例示的な較正曲線を示すチャートである。
【図8】図8は、従来のMALDI/TOF質量分析に通常使用されるより低いレーザパルス繰り返し数を用いて取られた例示的なデータを示すチャートである。
【図9】図9は、MRMピークの幅に対するレーザパルス繰り返し数の影響を示すチャートである。
【図10】図10は、図9のチャートの一部の拡大図を示すチャートである。
【図11】図11は、プラゾシンのM+H強度に対するフラグメントイオン強度の比の例を示すチャートである。
【図12】図12は、レーザパルス繰り返し数の関数としてのMRMピーク領域の例を示すチャートである。
【図13】図13は、試料スポットを枯渇させるように設定されたレーザ照射継続時間でMALDI試料標的上で測定されたMRMピークを示すチャートである。
【図14】図14は、100msに設定されたレーザ照射継続時間でMALDI試料標的上で測定されたMRMピークを示すチャートである。
【図15】図15は、10msに設定されたレーザ照射継続時間でMALDI試料標的上で測定されたMRMピークを示すチャートである。
【図16】図16は、レーザ照射継続時間の関数としてプロットされた、測定されたMRMピーク幅を示すチャートである。
【図17】図17は、イオン標的から下流の真空段階へのイオンの接続を増大するためにイオンガイドを使用する強化されたMALDI源の概略図である。
【図18】図18は、四重極イオンガイドを使用してMALDIプルーム中のイオンを捕獲し、該イオンを下流の真空段階へ誘導する、強化されたMALDI源の実施形態の概略図である。
【図19】図19は、MRMスキャンのために三連四重極分析計と共に使用される図18のMALDI源の概略図である。
【図20】図20は、異なる寸法の2つのRF多極イオンガイドを使用してMALDIプルーム中のイオンを捕獲し、開口部を通して隣接する真空段階内へ該イオンを誘導する、MALDI源の実施形態の概略図である。
【図21】図21は、MRMスキャンのために三連四重極分析計と共に使用される図20のMALDI源の概略図である。
【技術分野】
【0001】
(関連出願への引用)
本願は、2005年6月30日に出願された米国出願第11/173,291号の一部継続出願であり、上記出願は2003年3月27日に出願された米国出願第10/400,322号の一部継続出願であり、該出願は2002年3月28日に出願された米国仮出願第60/368,195号の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、イオン質量分析に関し、特に、マトリックス支援レーザ脱離イオン(MALDI)源などのイオン源からのイオンのサンプリングレート及び移送効率を高める方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
薬剤及び代謝産物などの薬学的および生物学的に重要な化合物の定量分析は、質量分析の重要な用途である。従来、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及び大気圧化学イオン化(APCI)に基づくイオン源は、三連四重極質量分析計(三連四重極)との組合せにおいて使用され、定量分析を実現する。該組合せは、高感度及び高特定度の両方をもたらす。ESI及びAPCIはどちらも、流動液体流からイオンを生成するので、分析される化合物を含有する有機溶媒流及び水性溶媒流を、イオン源を介して送り込むことにより使用される。液体クロマトグラフィーは、質量分析計に先立って、オンラインの分離技術として一般的に使用される。このように、試料を含む公知の容積物を液体流中に注入し、質量分析計を使用して、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードとして公知である走査モードで公知の前駆体及びプロダクトフラグメントイオンに対応するイオンの質量/電荷値の特定の組合せをモニタすることにより試料を導入することができる。走査中、試料は、自動サンプリング装置の限界及び溶出ピークの自然幅による限界に因り、10秒につき約1回の速度で順次注入される。試料がイオン源を通過すると、試料はイオン源中でイオン化し、消散し、試料から生成されるごく少量のイオンのみが、実際に質量分析計システム内にサンプリングされる。
【0004】
マトリックス支援レーザ脱離/飛行時間(MALDI/TOF)は、異なる種類の質量分析計技術であり、該技術では、試料は紫外線吸収化合物(マトリックス)と混合され、表面上に堆積され、次いで、高速レーザパルスを用いてイオン化される。レーザにより、質量分析計のイオン源においてイオンの短いバースト又はプルームが生成され、このイオンのプルームが、飛行時間型質量分析計により(イオン生成パルスで開始する)固定距離上の飛行時間を測定することによって分析される。この技術は、本質的に、(飛行時間型質量分析計に必要な)パルスイオン化技術及びバッチ処理技術である。何故なら、試料は、連続する流動液体流でではなく、(プレート上の小スポットに配置されている試料の)一群でイオン源内に導入されるからである。ペプチド及びタンパク質などの生体高分子の分析では、略例外なくMALDI/TOFが使用されてきた。該技術は高感度で、前述のような壊れやすい分子に対して良好に機能し、TOF法は、高質量化合物の分析に特に適している。しかし、最近まで、このタイプの計器を用いて真のMS/MSを実行する実行可能な方法が存在しなかった。代わりに、ポストソース分解法(PSD)を用いて、いくらかのフラグメント化情報を提供する。この技術では、イオンゲートを備える飛行管内で前駆イオンが選択され、次いで、(イオン源から運び出される過剰なエネルギーに起因して)イオンミラーの前でフラグメント化するそれらのイオンを、質量分離することができる。この技術は、比較的不十分な感度及び質量精度しか実現せず、高性能MS/MS技術であるとは考えられない。MALDI技術もまた、質量精度及び分解能を極めて高度にすることができる(低質量での分解能は最高30,000、精度は数百万分の1)が、これらの重要な機能は、試料表面の微細構造(粗さ)、レーザフルエンス、及び他の計器特性に左右され、これらは制御が困難なところがあるために上記の重要な機能の実現は困難であるという問題を抱えている。良好な質量精度を得るには、通常、実際の試料自体に近接する試料表面上に較正化合物が配置される必要がある。MALDI/TOF技術は、主にスペクトル解析に用いられてきた。MALDIを定量分析に使用することは以前に何度か試みられたが、MALDI/TOFで得られる精度が不十分であるため、ある程度の成果しか得られなかった。
【0005】
近年、マニトバ大学のあるグループがMALDIを直交TOFと組み合わせる方法を導入した。(マニトバ大学に譲渡された)特許文献1に記載されている、直交MALDI又は「oMALDITM」(カナダのオンタリオ州コンコード所在のApplied Biosystems/MDS SCIEX Instrumentsの商標)と呼ばれるこの技術は、分析計をイオン源からより完全に分離し、角度及び速度の広がりがより小さいより連続的なイオンビームを提供する方法で、MALDI源などのパルスイオン源を種々の分析計機器と接続できるようにする装置及び方法である。この技術では、(通常、20Hz未満の繰返し数で、レーザパルスから数ナノ秒のパルス幅で)MALDI源からプルームとして生成されるイオンが、RFイオンガイド内の減衰ガスを含む比較的高圧な領域内で衝突冷却される。減衰ガスを用いる衝突は、プルームを準連続ビームに変換する。この準連続ビームは、次いで、直交飛行時間で分析される。ここでは、イオンはTOFの軸に直交して進入し、放射状にパルス化される。
【0006】
この組合せには、従来のMALDI/TOFでは得られないいくつかの利点がある。TOFの分解能及び質量精度は、レーザフルエンス及び試料形態などのイオン源の状態とは別である。イオンは、熱エネルギーに接近すると減速する。イオンは、熱エネルギーにより、衝突セル内での衝突活性化分解(CAD)のために何十電子ボルトまで都合よく再加速することができる。ビーム中のイオン流出は(正しいテンポでビームを出すことにより)十分少ないので、タイムデジタイザ回路(TDC)をイオン検出に使用することができる。その結果、多様な動作条件下で高い質量精度及び分解能を達成することができる。更に、質量分解用四重極及び衝突セルをTOF分析装置の前に配置し、MS/MS構成を提供することができる。MALDI源からの前駆イオンは衝突冷却され、次いで、四重極質量フィルタにより選択され、衝突セル内で分解され、フラグメントがTOFにより質量分析される。これにより、以前には得られなかった、MALDIイオンのMS/MSの高い質量分解能及び感度が実現される。このMS/MS構成はQqTOFと呼ばれ、ここで、Qは質量フィルタ四重極を、qはRFのみの衝突セルを指す。
【0007】
マニトバのグループは、イオンビームの略連続的な性質に起因して、oMALDITM技術によりMALDI源を四重極質量分析計システムに効率的に接続することが可能になることを確認した。しかし、このことが、試料濃度を定量的に測定する能力を向上させる可能性があることは確認されていない。
【0008】
一定の用途に対し、どのイオン質量分析技術の性能であっても、重要となる因子の1つが、イオン源からのイオンを効率的に捕獲し、それらを分析できるように分析デバイスに輸送する能力である。この因子は、対象イオンの定量的測定を目的とするMRMスキャンなどの分析技術にとって特に重要である。MALDI源では、MALDI標的に衝突する各レーザパルスが、イオンのプルーム及び中性粒子を生成する。イオンを分析できるようするためには、それらを直接又はイオン輸送デバイスを介して質量分析計まで送達しなければならない。質量分析計、又は四重極イオンガイドなどのイオン輸送デバイスは、通常、極めて限定されたイオン受容ゾーンを有する。進入してくるイオンを平行にするためには、入り口開口部を使用することが多い。更に、試料標的により放たれる不要な材料が質量分析計又はイオンガイドを汚染するのを阻止し、MALDI源を下流の真空チャンバから隔てる目的で開口部を使用することも多い。該下流の真空チャンバ内には、質量分析計又はイオン輸送デバイスが配置されている。そのような開口部は、通常、MALDI標的を離れて来るイオンのプルームの幅よりかなり小さい。結果として、プルーム中のイオンの大部分は、開口部に進入することができず、質量分析計により検出することができない。また、プルームの中心軸は、開口部から角度をなしている可能性があり、このことは、開口部を通過するイオン部分を更に減少させる。結果として、イオン、即ちイオン源から出て、下流の質量分析計により分析されるイオン部分のサンプリング効率性はかなり低くなる可能性があるので、質量分析計の測定感度は著しく低下する。
【特許文献1】米国特許第6,331,702号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
上記を考慮して、本発明は、三連四重極質量分析計などの質量分析計に接続されているレーザ脱離(例えば、MALDI)イオン源を使用する、試料、特に小分子の高スループット定量を可能にする質量分析定量技術を提供する。本明細書で使用されている通り、「小分子」という用語は、本質的に全く重合体ではなく、そのようなものとして、繰返しサブユニット類の化合物で構成されていない化合物を意味する。小分子は、(アミノ酸サブユニットで構成されている)タンパク質若しくはペプチド、(核酸サブユニットで構成されている)DNA及びRNA、又は(糖サブユニットで構成されている)セルロースなどの繰返しサブユニット体で構成されている生体高分子又はポリマーの範囲外に分類される。
【0010】
本発明の態様に基づき、試料物質のレーザ脱離により生成されるイオンは、衝突で減衰/冷却され、次いで、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードでの三連四重極の動作を用いて定量的に分析される。一動作モードでは、イオン源に高いパルス繰り返し数、好ましくは約500Hz以上、でレーザパルスを適用することにより、著しく向上した測定感度が得られる。これにより、データ収集を迅速に実施することが可能になり、イオン源標的上の各試料点につき1秒くらいの速度が達成されている。
【0011】
本発明の特性に基づき、MALDI標的上の各試料スポットを、照射時間即ち継続時間の間レーザからのレーザ光で照射することにより、定量のスループットは著しく向上する。上記照射時間即ち継続時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な時間より大幅に短い。試料物質のレーザ脱離により生成されるイオンは、衝突で減衰/冷却され、次いで、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードでの三連四重極の動作を用いて定量的に分析される。レーザ照射の継続時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な継続時間より大幅に短いことが好ましく、MRM検出のために試料標的からイオンを輸送する間にイオン輸送に起因するピーク広がりと同程度であるか又はより短くてもよい。
【0012】
本発明の別の態様に基づき、MALDI源からのイオンを質量分析計又はMALDI源の下流にある真空チャンバ内に配置されているイオン輸送デバイスに効率的に接続するために接続装置が提供され、その結果、MALDI標的からのプルーム中のイオンの大部分が質量分析計に到達することができ、それにより、イオンサンプリングの効率性が向上し、このため測定感度が著しく増大する。MALDI標的と、MALDI標的を下流の真空チャンバから隔てる開口部との間に配置されている少なくとも1つのイオンガイドを使用することにより、接続の強化が達成される。該下流の真空チャンバは、イオン質量分析計又はイオン輸送デバイスを含む。イオンガイドは、MALDI標的から放出されたプルーム中のイオンを受容し、イオンの大部分が開口部を通過しイオン質量分析計の受容ゾーンに進入するように該イオンを誘導する。高められたイオンサンプリング効率性を備えるMALDIイオン源を、例えば、MRM検出用の三連四重極型装置と共に、又は異なるイオン質量分析技術用の他のタイプの質量分析デバイスと共に、効果的に使用することができる。また、マトリックス支援型ではないレーザ脱離イオン源と共にイオン接続装置を使用して、サンプリング効率及び測定感度を高めることができる。
【0013】
一構成では、イオン接続装置は、イオンのプルームの大部分を受容するのに十分な大きさの直径を有する四重極イオンガイドなどのRF多極イオンガイドを含む。MALDI標的及びRF多極イオンガイドを含む真空チャンバ内のガス圧力は、プルーム中のイオンを効果的に減衰させるために、約1Torr以上の値に設定される。RF多極イオンガイドは、プルーム中のイオンを集束し、それらを誘導して開口部を通過させるように動作する。該開口部は、分析デバイスを含む下流の真空チャンバからMALDI源を隔てている。
【0014】
別の構成では、イオン接続装置は、少なくとも2つのRF多極イオンガイドを含む。第1のRF多極イオンガイドは、MALDI標的に隣接して配置されており、MALDI標的を離れて来るプルームの大部分、好ましくは50%以上、を捕獲するのに十分な大きさであるように選択される直径を有する。第1の多極イオンガイドは、イオンを集束し、それらを誘導して第2のRF多極イオンガイド内に入れるように動作する。第2のRF多極イオンガイドは、更なるイオン収集を実現するために、第1のRF多極イオンガイドの直径より小さい直径を有することができる。第2のRF多極イオンガイドは、イオンが開口部を通過し、下流の真空チャンバ内に入るように、第1のRF多極イオンガイドによってそこに送達されたイオンを誘導する。該下流の真空チャンバは、質量分析計又はイオン輸送デバイスを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
ここで図面を参照すると、類似の参照番号は類似の要素を指しており、図1は、イオン源及び質量分析計を含む質量分析計システムの実施形態を示す。本発明に基づき、衝突減衰装置22に連結されているイオン源はマトリックス支援レーザ脱離イオン(MALDI)源20であり、質量分析計は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードで動作する三連四重極デバイス30である。MALDIイオン源を活性化するために、レーザ40により生成されるレーザ光即ち通常はレーザ光のパルスは、MALDIイオン源20の試料標的36に当てられる。以下により詳細に記載する通り、一動作モードでは、レーザは、約500Hz以上などの比較的高いパルス繰返し数で発射することができるタイプであってもよい。本発明の特性に基づき、レーザは連続レーザであってもよく、各試料スポットの照射時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な時間よりも十分短くなるように制御される。照射時間を大幅に減少させると、良好な信号/ノイズ比を維持しながらMRMピークの幅が著しく減少する結果となり、ピーク幅再現性が向上すると共に定量分析のスループットが著しく向上する。
【0016】
質量分析計は、データ収集システム50に接続されている。該データ収集システムは、データ収集のためのデータ収集エレクトロニクス52、及び質量分析調査を実施するシステムの動作を制御するようにプログラムされているコンピュータ56を含む。特に、コンピュータ56は、レーザ40のパルス繰返し数を制御し、データ収集エレクトロニクス52へのインターフェースを介して、MRM調査を実行する三連四重極質量分析計30の動作を制御する。
【0017】
図2に示す通り、好適な実施形態では、分析されるイオンは、真空チャンバ60の内部でMALDI源の標的36から生成される。レーザ40により生成される紫外線(UV)光62は、UVレンズ66を透過し、真空チャンバ60内に入り、MALDI試料標的36の表面に当たる。各レーザパルスは、試料標的36からイオンのプルーム70を生成する。このプルーム70は、真空チャンバ内でガスにより衝突冷却され、試料標的36に隣接して配置されている四重極イオンガイドQ0により閉じ込められる。
【0018】
図3は、代替の実施形態を示す。該実施形態では、試料標的36は、隔壁76により真空領域60と隔てられている真空領域72内に配置されており、真空領域60内には、四重極セットQ0が置かれている。隔壁76は、図3に示すような平板、又はスキマー若しくは錐体などの当業者に公知の他の形態構造とすることができる。この装置により、試料標的36を離れて来るプルーム70は、第2の真空領域60内の圧力より高い圧力の衝突減衰ガスに暴露されることが可能になる。
【0019】
図4は、別の代替の実施形態を示す。該実施形態では、試料標的36は、真空領域72の外部の大気中に配置されている。結果として、イオンのプルーム70は大気圧中で生成される。イオンのプルーム70は、次いで、差動排気される真空領域72を通過し、四重極セットQ0の真空領域60に進入する。図4は、大気圧(AP)MALDIのための比較的簡単な構成を示すが、当業者には当然のことながら、本発明はまた、ガスコンダクタンス制限式加熱管若しくはオリフィス板、キャピラリエクステンダ、カーテンガス、又は上記の組合せを備える構成を含むがそれらに限定されない他のAP MALDI構成にも関する。
【0020】
図1に戻って、示されている実施形態では、三連四重極30は、Q1、Q2、及びQ3で示される3セットの四重極ロッドを含む。三連四重極30がMRMモードで動作すると、第1の四重極ロッドセットQ1が動作し、MALDI源20により生成されるイオンのプルーム70から「前駆」イオンを選択する。第2の四重極ロッドセットQ2が動作し、ロッドQ2によって限定される空間内でのガスを用いる衝突により、第1の四重極セットQ1により選択された前駆イオンのフラグメンテーションを生じる。次いで、第3の四重極ロッドセットQ3が動作し、前駆イオンをフラグメント化することにより生成されるイオンから、特定の「プロダクト」イオンを選択する。四重極ロッドQ3により選択されたプロダクトイオンは、開口部80を通過し、当業者に公知のチャネルトロン(CHANNELTRON)(登録商標)電子増倍管デバイスなどの電気パルス生成デバイス82により収集される。パルス生成デバイス82により生成されるパルスは、データ収集エレクトロニクス52によって検出される。該データ収集エレクトロニクスは、通常、パルス検出デバイス及びカウンタ等を含む。データ収集エレクトロニクス52により収集されたデータは、記憶、表示、及び分析のためにコンピュータ56へ送信される。MRMモード検出の目的で、パルス生成デバイス82により生成されるパルスは、試料標的がレーザパルスによりアブレーションする継続時間の関数として収集され、計数される。
【0021】
一動作モードでは、MALDI源を用いてMRMモードで動作する三連四重極質量分析計を、約500Hz以上、好ましくは約500Hzと1500Hzの間などの高繰返し数のレーザパルスを用いて活性化されたMALDI源と組み合わせることにより、且つレーザパルスによって生成されるイオンのプルームを衝突減衰させることにより、小分子の高スループット定量を達成することができる。この結果は予想外であった。なぜなら、その発見以前は、MALDI源の使用により小分子の定量分析が可能になるのかどうか、又は、もしあるとして、感度の妥協を受容するのに十分な分析速度があるとしたら感度がどうなるのかは未知であったためである。高いレーザパルス繰返し数の使用により、測定感度が向上し、その結果、従来のMALDIに典型的なレーザパルス繰返し数を用いる高スループット条件下では正確に検出できなかった特定の化合物に関する超高スループットな定量的測定を実施する能力、及び更により良好な信号の再現性がもたらされる。質量分析計の信号を劣化させることなく、比較的高いレーザフルエンスを使用する能力は、イオン経路における減衰ガスの存在に起因すると考えられる。該減衰ガスは、衝突によりイオンを冷却する。衝突冷却はまた、パルスイオンビームを準連続イオンビームに変換する。MRM動作モードを使用する三連四重極質量分析計を用いて、準連続イオンビームを効率的に分析することができる。レーザパルス繰返し数が高いほど、イオンビームはより連続的になる。
【0022】
前述の定量技術の高感度及び高スループットにより、測定を比較的高速で実施することができる。約1000〜1500Hzのレーザパルス繰返し数により、1秒につき1試料を優に上回るスループット速度が可能になることが分かっている。高スループット定量が目標であるので、試料スポット上で「下手なタイプを打つ」ことは望まれず、試料スポット「に」狙いを定め、定量‐品質データの取得を開始することが望ましい。マトリックスの選択、及び従って試料スポットの形成は、この要件の影響を受ける。多くのマトリックス材料及びマトリックスレス材料が試され、良好な感度並びにスポットごとの再現性及び日々の再現性を実現することを示したマトリックス材料の例は、(α‐シアノ((α‐シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)(別称HCCA)である。HCCAもまた、通常、ペプチド及びタンパク質のMALDI/TOF分析に使用される。しかし、本明細書に記載されている方法は、通常、いずれのタイプのMALDIマトリックスとも共に、又はいずれのMALDIマトリックスもなしで使用することができる。
【0023】
動作中、分析される試料は試料標的プレート上に堆積される。該試料標的プレートは、通常、96〜384又はそれ以上の試料スポット位置を含んでもよい。この定量技術の主な応用分野の1つは、医薬品及びそれらの代謝産物又は反応生成物の定量である。対象材料を含有する溶液は、通常、血液若しくは尿若しくは血漿などの生体試料から、又は酵素を含有する緩衝溶液から抽出される。該酵素は、試料と反応するように使用されてきた。不要な塩又はタンパク質の大部分を除去するために何らかの簡単な浄化手続きを用いてもよい。次いで、通常は1マイクロリットル未満の小量を、マトリックス溶液と混合してもよい。マトリックス溶液は、レーザの波長、例えば335ナノメートル、の紫外線光を効率的に吸収するために選択される。試料溶液とマトリックスとの混合物(又は、マトリックスレス試料に関しては試料溶液だけ)を、当業者に公知の静電気、噴霧器、又は乾燥液滴付着を含むがそれらに限定されない種々の手段により、試料プレート上に堆積させることができる。試料がプレート上で乾燥することが可能になった後、対象試料を含有する結晶化材料のスポットが形成される。プレートは、質量分析計のイオン源内に挿入される。一構成では、プレートは、対象試料スポットが質量分析計のイオン光学系の正面にあるように、ステッピングモータにより移動させられるホルダ内に挿入される。試料プレートをとり囲むO‐リングは、真空密閉を提供する。レーザは、試料を脱離させイオン化するために、試料スポットに繰り返し発射される。対象イオン(内標準のイオン及び検体のイオンの両方)は、パルス繰返し数に応じて、数msから数百msまでの範囲内で典型的なドウェル時間を使用して、質量分析計によりモニタされる。以下により詳細に記載する通り、この動作モードでは、レーザは、約500Hzから、例えば、約1500Hzまでの高い繰返し数で発射される。一方法では、レーザが一定時間(例えば1秒)毎に発射される間、プレートは静止したままであり、イオン信号強度は、消費される試料量の測定を提供するためにこの一定時間の間に統合される。別の方法では、レーザは、イオン信号が低レベルに減少するまで発射される。該低レベルは、試料のその領域が完全に枯渇していることを示す。別の方法では、試料プレートは、イオン信号が測定されるにつれて、試料の新しい領域をレーザ光の経路内に持ってくるために小さいパターンで移動させられる。このことにより、試料が不均一に分散した場合、より代表的な信号を供給することができるが、各試料を処理するために追加の時間が必要である。
【0024】
イオン生成のためにパルスレーザ光を使用する高スループット定量プロセスの一例を、以下に記載する。試料スポットの新しい部分は、データ収集の継続時間中、レーザの正面にある。定量MRM分析では、内標準が試料中に含まれており、従って、試料スポット内に存在する。クロマトグラフの(時間の関数としての信号の)データ収集は、試料スポットに衝突しないレーザ光を用いて(検体及び内標準の両方に関して)開始される。レーザ光は試料スポットに衝突することができるようになり、試料スポット上の同位置から試料をアブレーションする(即ち、アブレーション中試料は移動しない)。このことにより、イオン信号はバックグラウンドレベルから著しく増大し、ピークに達し、次いで、試料が完全に脱離するにつれて減少してバックグラウンドレベルに戻る。イオン信号がバックグラウンドレベルに戻ると、レーザ光は試料スポットへの衝突を停止する。次いで、レーザは、データを取ることになる試料標的上の次の位置に移動させられる。次の位置は、該試料スポットの別の位置でもよく、又は完全に異なる試料スポットでもよい。
【0025】
基準を提供するために、マトリックス及び1:1などの所定の比率の試料溶媒のみを含有する試料スポットから、「マトリックスブランク」に関して同一イオン対のデータを取る。LC/MSフローインジェクションピークによく似た時間の関数としてイオン信号を呈示するデータから、検体ピーク及び内標準ピークのピーク領域が算出され、各ピークの内標準領域に対する検体領域の比が得られ、結果が適宜プロットされる。
【0026】
図5は、本技術を用いて収集されたMRMデータのタイプの例である。この場合、レーザは、5つの試料スポット各々の2つの離れた位置に発射された。検体は25pg/ulのハロペリドール(市販の化合物)であった。20msのドウェル時間を使用してデータを収集し、376.0/165.1m/zのイオン対をモニタした。レーザは1400Hzで1パルスにつき約6uJで動作した。そのようなMRM定量分析では、0.2〜1ulの試料を標的プレート上に堆積させた(上記データは0.2ulのスポットからであった)。すべての場合において、1ピークにつき少なくとも10データポイントがあった。平均ピーク幅は130msの半値全幅(FWHM)により得られ、これにより、前述のESI源及びAPCI源などの質量分析計で使用される従来の大気圧イオン化源からは得られない速度での日常的分析スループットの可能性がもたらされる。
【0027】
この方法を用いて、市販の化合物リドフラジンに関する図6に示すものなどの較正曲線が生成され得る。試料調製には濃度5pg/ulのパラゾジンが含まれ、内標準として使用された。すべてのMRM濃度データポイントは、検体イオン対に関しては10msのドウェル時間、内標準に関しては10msのドウェル時間で、3度収集した。モニタされたイオン対は、リドフラジンは386.2/122.0、内標準であるパラゾシンは384.2/247.0であった。較正曲線はピーク領域を使用し、検体のピーク領域は内標準のピーク領域に対する比率で表し、重み付けのない一次フィットを使用した。較正曲線は0.5pg/ul〜2000pg/ulの広範囲に及び、ブランクを含んだ。該曲線は、r=0.9979で直線状であった。図7は図6と同一のデータを示すが、ここでは、分析の意義がより大きい0.5pg/ul〜100pg/ulの範囲のみで分析されている。このより狭い濃度範囲でデータを再分析したところ、ここでも較正曲線はr=0.9957となり直線状であった。
【0028】
前述の通り、レーザパルス繰返し数は、可能な分析速度及び従って試料スループットに極めて大きな影響を及ぼす。対照をなすために、図8は、40Hzで1パルスにつき約18uJのパルスエネルギーで動作する窒素レーザを用いて取ったMRMデータを示す。このパルス繰返し数は、本明細書に記載されている技術で使用されるレーザパルス繰返し数よりずっと低いものの、従来のMALDI用途にとっては実際には「高い」。この場合、レーザは、5つの試料スポット各々の2つの離れた位置に発射された。検体は25pg/ulのジルチアゼム(市販の化合物)であり、0.2ulの試料スポットを使用した。414.9/178.1m/zイオン対をモニタするために、500msのドウェル時間を使用してデータを収集した。平均ピーク幅は、4.51秒の半値全幅(FWHM)により得られる。このFWHMは、図5における1400Hzのデータの130msの値よりずっと大きい(約34倍に等しい)。一般に、低周波では、より高いパルスエネルギーを使用すると、試料はより急速にアブレーションし、狭いピークをもたらし、このため同じ低周波数でより低いパルスエネルギーの場合よりも高いスループットの可能性をもたらす。しかし、レーザパルスエネルギーが高くなると、イオン源領域における分子フラグメンテーションが増大する可能性があり、その結果としてMS/MS感度が低減する可能性がある。パルス繰返し数の高まりによってもたらされるピークの更なる狭まりは、更により高スループットな方法でデータを収集する能力を提供する。
【0029】
図9は、ハロペリドールに関するMRMピーク幅に対するレーザパルス繰返し数の影響を示す。レーザパルスエネルギーを一定に保つ一方、レーザパルス繰返し数を変更して、各周波数毎にFWHMを測定した。図10は、図9に示すデータを拡大したものである。パルス幅は、10Hzのレーザパルス繰返し数で約17秒から1400Hzのレーザパルス繰返し数で約0.1秒まで減少した。これは約155分の1の減少であり、更により高い試料スループットを可能にする。
【0030】
レーザパルス繰返し数が高くなると、更に他の利益ももたらされる。低エネルギーでパルス繰返し数が高くなると、イオン源領域内での分子フラグメンテーションが減少し、その結果、MS/MSを実施するための前駆イオンが増加する。レーザパルス繰返し数を変更した時に単一MS Q1スペクトルを測定して、実験を実施した。M+Hに対応する主要なフラグメントイオンの強度に加えて分子イオン(M+H)の強度を測定した。図11は、パラゾシンのM+H強度に対するフラグメントイオン強度の比を示す。
【0031】
レーザパルス周波数を変更した時、MSスキャンの速度を調節して、異なる周波数で取られるデータ毎に同数のレーザショットが生じるようにした。分子フラグメンテーションは、レーザパルス繰返し数が40Hzから1400Hzまで増加するにつれて、約2分の1減少した。レーザパルス繰返し数が増加すると、イオン源内での分子フラグメンテーションが減少するので、MRMなどのMS/MS実験を実施するための分子イオンがより多く無傷で残っている。図12は、ハロペリドール及びプラゾシンに関して、レーザパルス繰返し数の関数としてMRMピーク領域を示す。レーザパルス繰返し数が10Hzから1400Hzまで増加すると、MRMピーク領域に60%〜100%の増加があることが分かる。
【0032】
前述したこの定量技術は、従来のMALDI/TOF及び直交MALDI/TOF(又はMALDI QqTOF)の両者にいくつかの利点をもたらす。第1に、MRMモードの三連四重極の高感度に起因して、MALDI QqTOFの感度がQqTOFの感度と比較して著しく向上する。QqTOFでは、直交TOF法の負荷サイクル制限が原因で相当なイオン損失が起こり、(高質量よりも低質量で効率が低い状態で)イオンビームの一部しかサンプリングできなかった。この実験により、絶対感度及び効率性は、QqTOFでの同等の実験よりも三連四重極のMRMで10〜50倍良好であることが示された。
【0033】
第2の利点は、MS/MSが極めて特定的な検出技術であるということによりもたらされる。該技術では、通常、化学的ノイズのバックグラウンドが極めて低い。これは、特定の前駆体イオン/プロダクトイオンの組合せしかモニタしないことが原因である。(効率的なMS/MS能力のない)MALDI/TOFでは、通常、化学的ノイズは高く、特に低質量で高い。この化学的ノイズは、高い存在度で存在するマトリックス関連イオンが原因であり、低質量の検体イオンからの信号を分かりにくくする可能性がある。従って、三連四重極のMS/MS能力により、マトリックス関連イオンよりずっと低い強度で存在する低質量イオンの高感度の検出をも可能になり得る。更に、MALDI/TOFには、過渡現象記録装置検出システムを使用しなければならないほど大きなイオン流出がある。このことには、多少ノイズが多いという欠点があり、その結果、単一イオンイベントが検出されない可能性がある。MALDI/MRM技術を用いると、パルスが正しいテンポで出るので、たとえ1パルスにつき同数のイオンが受容されるとしてもイオン流出はずっと少なく、その結果、パルス計数によるイオン検出にタイムデジタイザ回路を使用することができる。ノイズレベルが極めて低いので、このことはMS/MSに利益をもたらす。
【0034】
第3に、試料を分析することができる速度を向上させるために、質量分析計の性能(この場合は三連四重極)が試料形態とは無関係であることにより、表面から試料を急速に脱離させる可能性がもたらされる。以前の軸性MALDI/MSでは、質量分解能及び質量精度が大きな影響を受けないように、レーザフルエンスを低くイオン化閾値近くに維持しなければならない。しかし、イオンビームの衝突冷却に因り、レーザエネルギーは、試料の熱分解が生じるすぐ下の点まで上昇する可能性がある。このことにより、試料のより急速な脱離が可能になり、従って、短時間により多くの試料を処理することが可能になり得る。更に、質量分析計の分析性能が試料形態とは無関係であるということは、より大きな直径のレーザビームを使用することにより、試料のより大きな領域が一度にイオン化されることを意味する。MALDI/TOFを用いた状況とは対照的に、試料の不均一性は質量分析計の性能(質量分解能及び質量位置)に影響を及ぼさない。更に、イオンビームの準連続的性質により、(イオン流出が依然として弱いので)パルス計数法の使用が可能になる。パルス計数は、本質的にMS/MSの最もノイズのない検出方法であり、最良の信号対雑音比を可能にする。但し、イオンの存在を検出するいずれの公知の方法も可能である。
【0035】
従って、衝突冷却されるMALDIイオン源とMRMモードでの三連四重極及び高いレーザパルス繰返し数との組合せは、小分子の生物学的試料及び薬学的試料の定量分析のための極めて高感度且つ迅速な技術を実現する。試料をオフラインで調製し、それらを試料プレート上に堆積させる能力は、並列試料処理の方法を用いて多数の試料をオフラインで抽出し浄化することができることを意味する。一般に、質量分析計は分析システムの最も高価な部分であるので、分析のための試料をバッチモードで調製する能力は、処理の効率性を著しく向上させる。
【0036】
本発明の特徴に基づき、定量動作の極めて高いスループットは、標的上の各試料スポットにある試料物質を枯渇させるのに必要な時間より大幅に短い継続時間で当該スポットをレーザ光で照射することにより得られる。この技術を用いて達成可能なスループットは、前述のパルスレーザ動作モードを使用して得られるスループットよりずっと高い可能性がある。この構成においては、イオン生成に使用されるレーザは、選択された短い継続時間に所定の試料スポット上でオンになり、次いでオフになる連続レーザであってもよい。或いは、レーザ光はパルスであってもよく、レーザパルスの総照射継続時間は、試料スポットを枯渇させるのに必要な時間よりも大幅に短くなるように制御される。レーザがパルス状か連続かに関係なく、照射継続時間は、レーザ光が選択された試料スポット又は領域を照射する継続時間又は時間と定義される。前述の通り、照射継続時間中に試料の新しい領域をレーザ光の経路内に持ってくるために、レーザ光をパルス化するか又はオンのままにすることができると同時に、試料プレートはレーザ光に対して所定又は任意のパターンで移動させることができる。移動のパターンは不連続ステップ、連続動作、又はそれらの組合せで達成し得ることを理解することができる。例えば、レーザ光が液体クロマトグラフィー出力から堆積される試料痕跡をラスタし追跡することを可能にするようなパターンで、試料プレートを移動させることができる。本発明のこの特徴は、レーザ照射継続時間が試料の枯渇に必要な時間よりも大幅に短い場合、信号/ノイズ比に大きな影響を及ぼすことなく、MRMピークの幅が著しく減少するという予期せぬ結果に基づいている。このようにして得られるMRMピーク幅の著しい減少に因り、各試料スポットでデータを取るために必要な時間は著しく減少する。結果として、測定装置は、MALDI標的上の試料スポットをより高速で通過することができ、その結果、スループットが著しく向上する。本明細書で使用されている通り、「スループット」という用語は、所定の時間で分析することができる試料スポットの数を意味する。
【0037】
例示として、図13、14、及び15は、化合物ハロペリドールを含有する試料標的上で測定されたMRMピークを示す。これらの図では、各MRMピークは、当該試料標的の1つの試料スポットから採取されたイオンの(時間の関数としての)計数率を表す。各試料スポットに関して、連続レーザが選択された継続時間だけオンにされ、次いでオフにされた。各対応する試料スポットの試料物質が枯渇するまでレーザをオンにしておくことにより、図13のMRMピークを測定した。プロットから分かるように、これらのMRMピークの全ベース幅は、約1秒以上であった。図14及び15は、大幅に短いレーザ継続時間で測定されたMRMピークを示す。具体的には、図14のMRMピークは、100msのレーザ照射継続時間で測定され、該継続時間は、試料の枯渇に必要な通常の時間の約10%又は10%未満であり、図15のMRMピークは、10msのレーザ照射継続時間で測定され、該継続時間は、試料の枯渇に必要な時間の約1%又は1%未満である。図14及び15のMRMピークの幅は、図13のMRMピークの幅よりずっと狭いことが分かる。また、図13に示す試料の枯渇を伴うピークは比較的鋭角の先端を有するが底部にかなり幅があることが分かる。これらのMRMピークの形状は、初期に試料スポットからの急速な検体の堆積があり、次に、試料標的からの検体の遊離速度が低下したことを示唆する。その一方、図13のピークのそのような幅のある底部は、図14及び15に示す通り、短いレーザ照射継続時間で生成されたMRMピークからは消滅している。
【0038】
短時間のレーザ照射を用いてMRMピークを生成することの重要な利点は、たとえイオン計数の総数が減少するとしても、信号/ノイズ比が高いままであることである。これが、試料の枯渇に必要なレーザ照射継続時間より短いレーザ照射継続時間を用いることが、検体のMRMピーク領域(即ち、イオン計数の総数)及びバックグラウンド領域の両方を減少させるように見える理由である。例示として、表1及び2は、ケトコナゾール(Keto)及びプラゾシン(Praz)それぞれに関する代表的なデータを示す。各表においては、4つの異なるレーザ照射継続時間、試料の枯渇まで継続してオンにする、100ms、50ms、及び10ms、を用いてデータを取った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
MRMピーク領域(即ち、イオン計数の総数)上でのレーザ照射時間を減少させることの効果を更に例証するために、表3は、「オンのまま」、500ms、100ms、及び10msの間で変更されたレーザ照射継続時間での、プラゾシンを含有する試料標的上で測定されたピーク領域のデータを示す。照射時間を、試料スポットを枯渇させるのにかかる通常の時間の約半分又はそれ未満である500msに設定すると、ピーク領域は、試料スポットを枯渇させることにより得られるピーク領域の88%である。これに関して、照射時間の50%削減は、相当に大幅な削減であると考えられる。アブレーションポイントから(以下に図示する)検出器へのイオンの輸送に起因して導入されるピーク広がりに近い100msのレーザ継続時間では、ピーク領域は、試料の枯渇までレーザをオンのままにすることにより得られるピーク領域の50%近くである。10msという短いレーザ照射継続時間でも、ピーク領域は、試料枯渇のピーク領域の約4分の1である。このように、イオン輸送広がりよりもずっと短いレーザ照射継続時間でも、高い信号/ノイズ比のデータ収集を実施することができる。MRMピークの狭いピーク幅により、測定システムは1つの試料スポットから次の試料スポットへ迅速に移動することが可能になり、結果として、測定スループットが大幅に向上する。
【0041】
【表3】
極短い照射時間の継続時間は定量に弊害をもたらさないことを例証するために、25pmolのKetoを内標準として使用し、Praz(10pmol〜500pmol)に関して一連の較正曲線を算出する。表4及び表5はそれぞれ、様々な濃度におけるプラゾシン/IS信号比及び様々な照射時間での較正曲線を表す。これらの表は、オンのままから約10msまで変動する照射時間で取ったデータを含む。約10msは、(1000Hzの繰返し数で動作して)試料枯渇に必要な標準的な時間の約1%又は1%未満である。表4及び表5のデータは、照射時間に関係なく、極めて類似した較正曲線が生成されたことを示す。類似した較正曲線は、検体応答の直線性に因り定量実験を実行することが依然として可能であることを意味する。
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
本発明の態様に基づき、観察されるMRMピークベース幅は、レーザ照射時間、及びイオンがアブレーションポイントから検出器まで輸送されるイオン輸送中に導入される広がりの両方に左右される。例えば、当業者に公知の種々のイオン光学系の焦点効果(又は焦点ぼけ)は、イオン輸送広がりに関与する可能性がある。また、アブレーションポイントと検出器との間の経路に沿ったバックグラウンドのガス圧力は、広がりに関与する可能性がある。しかし、衝突ガスの添加又は、当該分野で公知の、レーザのアブレーションプロセスの性質に起因するバックグラウンドのガス圧力は、衝突減衰に効果的である可能性があることが理解される。イオンフラグメンテーション量の低減に効果的である可能性があるイオンの衝突減衰。一般に、イオン輸送による広がりは、ピーク幅の制限の低減を示す。このことを、薬剤キニジン(Quin)の試料に関して様々なレーザ照射時間で収集されたデータのプロットを示す図16に示す。図16に示されるデータは、試料上でのレーザ照射の継続時間と観察されるMRMピーク幅との間に直接的関係があることを示す。このように、レーザ照射時間の制御は、MALDI定量システムにとって重大な側面であり、先行技術のシステムでは考慮されてこなかった因子である。
【0044】
更に、図16のプロットは、ピーク広がりの別の主要な源は、イオンがシステムのイオン光学系を通過する時に誘発される時間拡散であるように見えることを示す。例示として、プロットを0秒の照射時間に外挿すると、このプロットのためのデータを取るのに用いられるイオン輸送に起因して、ピーク広がりが生じるはずである。この例で使用されるイオン光学系は、図3に示すイオン光学系と類似している。この例では、Quinのイオンに関して、MRMピークの幅は、使用されるレーザ照射時間に関係なく、所定の測定構成で約99msよりそれ程大幅には狭くないと予想される。イオン輸送に起因するピーク広がりの規模は、使用される特定の測定構成次第であり、該広がりもまた、調査される特定のイオンに応じて小さい変動を示す可能性があることが理解されるであろう。
【0045】
測定スループットの顕著な向上は、イオン輸送に因る広がりと規模が同程度になるようにレーザ照射時間を選択することにより期待される。レーザ照射時間は、イオン輸送のピーク広がりと略同じか又はそれより短かくなるように選択されてもよいことが、より好ましい。例示として、研究者は、特定のイオン試料に関して、図16に示す分析に類似した分析を実施することにより、MALDI/MRM装置を通るイオンの輸送中に生じるピーク広がりを最初に確定し、イオン輸送により生じる広がりを確定してもよい。次いで、後続のMRM定量のためのレーザ照射継続時間は、所望のスループットを達成するために、確定されたイオン輸送広がりに基づく値に設定されてもよい。例えば、イオン輸送の広がりがおよそ100msである場合、各試料スポットのレーザ照射継続時間は、スループット、各試料スポットの計数の総数、各試料スポット上での経過時間、及び信号/ノイズ比の間の良好なバランスを達成するために、およそ100msに設定されてもよい。
【0046】
上記の例を表6に見ることができる。表6は、5つの異なる化合物に関する、様々な照射時間で3つの離隔した試料スポット(領域)(n=15)の各々から得られた5つの別個のピーク幅測定値を示す。
【0047】
【表6】
照射継続時間は、「オンのまま」(スポット領域から更なる信号が検出されなくなるまでレーザはオンのままにされた)から10msの最小値まで変化した。レーザ照射時間が減少すると、MRMピーク幅は劇的に減少した。試料が10ms間照射された場合、MRMピーク幅は5.5〜9分の1狭くなった。これらのデータは、ハロペリドールに関して、(ステージ移動時間の影響は無視して)現在の試料スループットが約9倍向上する可能性があることを示す。劇的なスループットの向上に加えて、表6のデータは、レーザをトグルスイッチでオン/オフ切換えした場合、ベースピーク幅の再現性もまた極めて大幅に向上したことを示す。レーザをオンのままにした場合、及び100ms、50ms、及び10msそれぞれで動作させた場合、5つの薬剤の平均RSDは、26%、4%、8%、及び8%であった。短い照射時間に関連する最後の利点は、観察されるピーク幅に関する化合物依存性の著しい低減であった。信号枯渇までレーザをオンのままにすることにより、種々の化合物のベースピーク幅に顕著な差異が生じたが、短時間照射した場合、これらの差異は消滅した。
【0048】
本発明の特徴に基づき、図17は、高圧領域72内のRF多極イオンガイド78を使用して、MALDI標的36を離れて来るプルーム70中のイオンを捕獲し、該イオンが開口部86を通過して隣接する真空チャンバ60内に入るようにそれらを誘導する改良されたイオン源の構成を示す。そうすることで、イオンガイド78は、イオン質量分析計に到達できるイオン数を大幅に増加させ、それにより、システムの測定感度を高める。
【0049】
MALDI標的36を収容する真空チャンバ72及びイオンガイド78は、レーザパルスにより生成されるプルーム70中のイオンを効果的に減衰させるために選択される圧力に維持される。第1のチャンバ72内の減衰ガスの圧力は、イオン質量分析計の効果的な動作に通常必要な低圧力より大幅に高い。真空チャンバ72内の減衰ガス圧力は、10Torr未満であることが図17に示されている。一般に、第1の真空チャンバ72内の減衰ガス圧力は、約1Torrであってもよく、好ましくは、0.1Torrと10Torrの間である。
【0050】
イオンガイド78は、1つ又は複数の個別のイオンガイドを含むことができるが、それらに限定されないことが理解されるであろう。一般に、イオンガイド78は、当該分野で公知の1つ又は複数の多極イオンガイド若しくはリングガイド、又はそれらの組合せとすることができる。更に、同様の減圧を有するように諸イオンガイドを構成することができる。或いは、減圧差を達成するために、通常、追加の差動排気される領域(図示せず)を有すること又はコンダクタンス制限を使用することを含む種々の方法により、各イオンガイドが異なる減圧を有し得るように、イオンガイドを構成することができる。
【0051】
図18は、図17に示す概念に基づく改良されたMALDI源を示す。図18に示す実施形態では、MALDIイオンを捕獲し誘導するためのイオンガイドは、四重極イオンガイド90である。MALDI標的36は、第1の真空チャンバ72内に配置されており、第1の真空チャンバ72は、壁又は隔壁76により第2の真空チャンバ60と隔てられている。隔壁76は、MALDI標的36から第2のチャンバ60まで延びるライン上に配置されている開口部86を有し、MALDI標的36からのプルーム70中のイオンが第2のチャンバ60内に進入することを可能にし、最終的にイオン質量分析計に到達することを可能にする。第2の真空チャンバ60はイオン質量分析計を含んでもよい。或いは、第2の真空チャンバ60は、イオンをイオン質量分析計へ輸送するイオン輸送デバイスを含んでもよい。イオン質量分析計は、第2の真空チャンバ60の下流にある別の真空チャンバ内に配置されてもよい。該質量分析計は、例えば、前述の通り三連四重極分析計であってもよい。図18に示す例では、第2のチャンバは四重極RFイオンガイドQ0を含み、該イオンガイドは、前に検討した実施形態のように、四重極イオンガイドQ1、Q2、及びQ3により形成されている三連四重極分析計と共に使用されていもよい。その組合せでは、MRM分析用の三連四重極分析計を含む下流の真空チャンバにイオンを輸送する間に、四重極Q0はイオンを衝突冷却する。真空チャンバ72内の高圧は、イオンガイド90によって輸送されるイオンを効果的に冷却し、イオンガイドQ0によりもたらされるピーク広がり作用に加えて、プルーム70中のイオンのピーク広がりに関与する。
【0052】
四重極RFイオンガイド90は、MALDI標的36と開口部86との間に配置されており、MALDI標的と開口部86とを繋ぐラインと一直線になるその軸を有する。イオンを受容するための四重極イオンガイド90の開口部の寸法は、レーザパルスによりMALDI標的36から放出されるイオンのプルームの大部分、好ましくは50%以上、を受容するのに十分な大きさであるように選択される。1つの実施においては、四重極イオンガイド90は、約5cmのロッド長と共に直径約4mmの内接円を特徴する所定の横断面を有する。開口部86は約1.7mmの直径を有する。イオンの次の段階への接続を最適化するために、これらの寸法は、例えばプルームの幅及び角度、開口部の直径、圧力等の因子に従って調節することができることが理解されるであろう。種々の実施形態では、イオンの開口部86への十分な集束及び移送を実現するために、四重極イオンガイド90の内接直径は約1cmとすることができる。四重極RFイオンガイド90のロッドは、円形又は双曲形を含む種々の形状を有していてもよく、各ロッドの直径は、性能を最適化するために選択されてもよい。電源92は、四重極RFイオンガイド90のロッドを動作させるためにRF電圧を供給し、イオンが集束され、開口部86を通過して隣接する真空チャンバ60内に誘導されるようにする。図18は、例として、第2の真空チャンバ内の四重極イオンガイドQ0を示すが、イオンガイドの接続によって高められたイオンサンプリング効率性を備えるMALDI源はそのような構成に限定されず、第2の真空チャンバ60は他のタイプのイオン輸送デバイス又は質量分析計を含んでもよいことが理解されるべきである。
【0053】
例として、図19は、MRM分析のための三連四重極分析計と共に使用される四重極イオンガイド90を備えるMALDI源を示す。MALDI標的36及び集束用多極イオンガイド90は、約2.5Torrのガス圧力に維持されている第1の真空チャンバ72内に含まれる。電源92により四重極イオンガイド90の極に印加されるRF電圧は、所望の集束効果を実現するために、チャンバ72内の減衰ガス圧力において動作する極に関して選択される。ロッドセットQ0は、約5mTorrの圧力の第2の真空チャンバ60内に配置されている一方、三連四重極分析計30を形成する四重極イオンガイドQ1、Q2,及びQ3は、約0.01mTorrなどの更により低い圧力に維持されている第3の真空チャンバ96内に含まれる。イオンガイド接続を備えるレーザ離脱イオン源は、飛行時間型質量分析計又はイオントラップ型質量分析計などの他のタイプのイオン質量分析計と共に使用することができることを理解すべきである。
【0054】
レーザパルスがMALDI標的36に命中すると、イオンのプルーム70が生成され、四重極イオンガイド90のロッドに囲まれた空間内に放出される。四重極イオンガイド90の内接直径は、プルーム中のイオンの大部分、好ましくは50%以上、を受容するように選択される。四重極イオンガイド90は、受容したプルーム70中のイオンの軌道を修正し、該イオンを誘導して開口部86を通過させ、第2の真空チャンバ60内の四重極イオンガイドQ0の受容領域に進入させる。
【0055】
本発明の別の特徴に基づき、代替のイオン接続構成は、2つ以上の多極イオンガイドを使用する。そこでは、各イオンガイドは、MALDI標的36からのプルーム中のイオンを捕獲し該イオンを誘導してそれらを下流の真空チャンバに送達させるための直径を有する内接円を特徴とする所定の横断面を有する。2つのイオンガイドを用いる実施形態に関して図20に示す通り、第1の多極イオンガイド100及び第2の多極イオンガイド102は、MALDI標的36を含む真空チャンバ72内に配置されている。図20に示す実施形態では、前の実施形態と同様に、第3の四重極イオンガイドQ0は第2の真空チャンバ60内に配置されており、該チャンバは、壁76により第1の真空チャンバと隔てられている。該壁は、イオンが第1の真空チャンバ72から第2の真空チャンバ60内へ通過することを可能にする開口部86を有する。第1のチャンバ72内の2つの多極イオンガイド100及び102は、MALDI標的36と、第1の真空チャンバ72及び第2の真空チャンバ60を隔てる壁にある開口部86とを繋ぐライン上にそれらの軸があるように一直線になっている。
【0056】
動作中、MALDI標的36及び集束用イオンガイド100及び102を含む第1の真空チャンバ60は、MALDI標的に命中するレーザパルスにより生成されるプルーム中のイオンを効果的に減衰させるために選択される比較的高い圧力に維持される。減衰ガスの圧力は、例えば、2.5Torrであってもよく、好ましくは0.1Torrと10Torrの間であってもよい。対照的に、第2の真空チャンバ60は、5mTorrなどの低圧力にある。電源92は、イオンガイド100及び102を動作させるためにRF電圧を供給する。或いは、イオンガイド100及び102それぞれのために別個の電源を使用してもよい。
【0057】
MALDI源を下流の構成要素に接続するために2つ(以上)の多極イオンガイドを使用することの重大な利点は、異なる特徴を有する多極イオンガイドを選択でき、開口部86を通過するように誘導し得るイオン総数を最適化することができることである。MALDI標的36を離れて来るイオンを効率的に捕獲するために、MALDI標的36に隣接する第1の多極イオンガイド100は、プルーム70の大部分、好ましくは50%以上、を捕獲することができるように、比較的大きな受容ゾーンを有する大きさにされる。一方、第2の多極イオンガイド102を、更なる集束を実現するためにより小さい寸法を有するように選択することができる。たとえプルームの中心軸が開口部86を指すラインから角度を成しているとしても、第1の多極イオンガイド100の寸法を大きくすることにより、プルーム70中のイオンを効率的に捕獲することが可能になる。第1の多極イオンガイド100は、更により小さい開口部86内に直接ではなく、第2の多極イオンガイド102の受容領域内にイオンを集束すればよいだけなので、その比較的大きな寸法でも適切な集束を提供することができる。
【0058】
一方、そのより小さい寸法に因り、第2の多極イオンガイド102は、第1の多極イオンガイド100によってそこに送達されたイオンを効率的に誘導し、第2の真空チャンバ60内のイオン質量分析計の比較的小さい開口部86を通過させるために、更なる集束を提供することができる。このようにして、2つの多極イオンガイド100及び102を、プルーム70中のイオンの効果的な捕獲及び開口部86を通過させるためのイオンの効果的な集束の両方を提供するように適合させることができる。これに関して、電源92は、異なるRF電圧を供給して、異なる集束効果を生じるようにイオンガイド100及び102を独立して制御することができる。
【0059】
一実施形態では、第1及び第2の多極イオンガイド100及び102の各々は、所望の捕獲及び集束特性を提供するために選択されるそれらのロッドの寸法を有する四重極イオンガイドである。開口部86へのプルーム70の最適なイオン移送に関する種々の実施形態では、第1の多極イオンガイドに対する第2の多極イオンガイドの横断面の相対比率は、1未満又は1に等しくすることができる。例として、1つの実施においては、第1の四重極ロッドセットは、7mmの内接直径及び7cmのロッド長を有する。第2の四重極ロッドセットは、4mmの内接直径及び5cmのロッド長を有する。開口部86の直径は約1.7mmである。結果として、この場合の相対比率は約0.6であるが、より小さい比率が用いられてもよい。種々の実施形態では、第1及び第2の多極イオンガイドの横断面を等しくすることができる一方、イオンの集束/移送のために独立して最適化されるRF閉込め磁場を提供するために、異なるRF電圧を選択することができるであろう。
【0060】
図21は、MRM分析のために第3の真空チャンバ96内に配置されている三連四重極分析計と共に使用される2段階集束用多極イオンガイド100、102を備えるMALDI源を示す。このシステムは一例として示されているに過ぎず、レーザ脱離イオン源から下流の真空チャンバまでイオンを効果的に接続する異なる寸法の2つ(以上)のイオンガイドを使用する手法は、他のタイプのイオン分析技術と共に効果的に使用することができることが理解されるであろう。
【0061】
MALDI標的からのイオンの著しく向上したサンプリング効率及び結果として得られる質量分析計の測定感度に加えて、多極イオンガイドを使用することの別の重要な利点は、イオン質量分析計がMALDI標的36から来る汚染から概ね隔離されることである。図20を再度参照すると、レーザパルスがMALDI標的36に命中すると、イオン及び中性粒子を含有するプルーム70が生成される。中性粒子は試料物質、マトリックス物質、及びそれらの混合物を含む。イオン質量分析計がMALDI標的36のすぐ下流にそれに暴露されて配置されている場合、中性粒子は、イオン質量分析計の構成要素上に堆積されることがあり、分析デバイスの性能の劣化又は故障をも生じる可能性がある。
【0062】
対照的に、図18及び20に示す接続装置を用いると、イオン質量分析計は、MALDI標的36と空間的に隔てられており、小さい開口部86は、分析デバイスの構成要素に到達することも考えられる汚染の量を大幅に制限する。結果として、分析デバイスを清浄に保つことができ、手入れ又は交換をする前に耐用年数を更により長くすることができる。
【0063】
これに関連して、多極イオンガイド100、102、特にMALDI標的36のすぐ下流にある第1のイオンガイド100は、MALDI標的から解放される粒子により汚染される可能性がある。それにも関わらず、異なる真空チャンバ内に含まれる分析デバイス及びMALDI源を有することにより、集束用多極イオンガイドを、イオン分析デバイスに支障をきたすことなくクリーニングのために取り出すことが可能になる。その目的のために、第1及び第2の真空チャンバ72及び60を隔てている隔壁76の開口部86を密閉するためにバルブ又はシャッタ88が設けられていることが好ましい。多極イオンガイド100、102、がクリーニングを必要とする場合、バルブ又はシャッタ88を使用して開口部86を閉鎖し、該開口部を通じた第2の真空チャンバ60内への空気漏れを防止する。次いで、第1の真空チャンバ72を開いて、クリーニングのために、集束用多極イオンガイドの1つ又は両方を取り外すことができる。このようにして、分析デバイスを真空下に維持しながら、イオンガイドのクリーニング作業を実行することができる。分析デバイスは、通常、精密な調節を必要とし、クリーニングプロセスにおいて注意を払わないと容易に破損する可能性があるため、この態様の利点は重要である。更に、質量分析要素をクリーニングすることは、真空システムを計器に至るまで停止させることを含み、結果として、その他の因子の中でも計器のポンプダウンが原因で、相当な遅延がもたらされる。イオンガイドでの作業中に質量分析計を真空下に維持する能力は、そのような遅延を効果的に回避する。クリーニング作業をより簡単にするために、多極イオンガイド100、102は、取外し及び再取付けを容易にするモジュール構造を有することができる。
【0064】
本発明の原理を応用してもよい多数の可能な実施形態を考慮し、図面に関して本明細書に記載されている実施形態は例示的であることを意図しているに過ぎず、本発明の範囲を限定するものと見做されるべきではないことが理解されるべきである。従って、本明細書に記載されている発明は、以下の請求項及びその等価物の範囲内に入る全ての実施形態を考慮に入れている。三連四重極質量分析計を例として記載してきたが、質量分析イオントラップなどの当該分野で公知の他の質量分析計を効果的に適用することができることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、MALDIイオン源、及び小分子の高スループット定量のためにMRMモードで動作する三連四重極質量分析計を含む、本発明による質量分析計システムの実施形態の概略図である。
【図2】図2は、図1の質量分析計システムのMALDIイオン源の概略拡大図である。
【図3】図3は、MALDIイオン源が差動排気される真空チャンバ内にある代替の装置の概略図である。
【図4】図4は、MALDIイオン源が大気圧下にある、別の代替の実施形態の概略図である。
【図5】図5は、本発明の高スループット定量技術を用いて取られた例示的なMRMデータを示すチャートである。
【図6】図6は、例示的な較正曲線を示すチャートである。
【図7】図7は、図6の較正曲線と類似しているがより低い濃度範囲に関する例示的な較正曲線を示すチャートである。
【図8】図8は、従来のMALDI/TOF質量分析に通常使用されるより低いレーザパルス繰り返し数を用いて取られた例示的なデータを示すチャートである。
【図9】図9は、MRMピークの幅に対するレーザパルス繰り返し数の影響を示すチャートである。
【図10】図10は、図9のチャートの一部の拡大図を示すチャートである。
【図11】図11は、プラゾシンのM+H強度に対するフラグメントイオン強度の比の例を示すチャートである。
【図12】図12は、レーザパルス繰り返し数の関数としてのMRMピーク領域の例を示すチャートである。
【図13】図13は、試料スポットを枯渇させるように設定されたレーザ照射継続時間でMALDI試料標的上で測定されたMRMピークを示すチャートである。
【図14】図14は、100msに設定されたレーザ照射継続時間でMALDI試料標的上で測定されたMRMピークを示すチャートである。
【図15】図15は、10msに設定されたレーザ照射継続時間でMALDI試料標的上で測定されたMRMピークを示すチャートである。
【図16】図16は、レーザ照射継続時間の関数としてプロットされた、測定されたMRMピーク幅を示すチャートである。
【図17】図17は、イオン標的から下流の真空段階へのイオンの接続を増大するためにイオンガイドを使用する強化されたMALDI源の概略図である。
【図18】図18は、四重極イオンガイドを使用してMALDIプルーム中のイオンを捕獲し、該イオンを下流の真空段階へ誘導する、強化されたMALDI源の実施形態の概略図である。
【図19】図19は、MRMスキャンのために三連四重極分析計と共に使用される図18のMALDI源の概略図である。
【図20】図20は、異なる寸法の2つのRF多極イオンガイドを使用してMALDIプルーム中のイオンを捕獲し、開口部を通して隣接する真空段階内へ該イオンを誘導する、MALDI源の実施形態の概略図である。
【図21】図21は、MRMスキャンのために三連四重極分析計と共に使用される図20のMALDI源の概略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバの下流にある第2の真空チャンバであって、前記第1及び第2の真空チャンバは、前記第1の真空チャンバから前記第2の真空チャンバ内へのイオンの通過を可能にするために形成されている開口部を有する隔壁により隔てられている、第2の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバ内に配置されているレーザ脱離イオン標的と、
前記第1の真空チャンバ内に配置されている第1及び第2の多極イオンガイドであって、前記第1の多極イオンガイドは前記標的に隣接しており、前記第2の多極イオンガイドは、前記第1の多極イオンガイドと前記開口部との間にあり、前記第1の多極イオンガイドは、前記レーザ脱離イオン標的から生成されるイオンのプルームを受容するように配置されており、且つ前記プルーム中のイオンを誘導して前記第2の多極イオンガイドに進入させるように動作し、前記第2の多極イオンガイドは、前記イオンを誘導して前記開口部を通過させ前記第2の真空チャンバ内に進入させるように動作する、第1及び第2の多極イオンガイドと
を含む、イオン分析システム。
【請求項2】
前記第1及び第2の多極イオンガイドはそれぞれ、第1及び第2の四重極イオンガイドである、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項3】
前記第1の四重極イオンガイドは、前記第2の四重極イオンガイドの内接直径より大きい内接直径を有する、請求項2に記載のイオン分析システム。
【請求項4】
前記第1のイオンガイドの前記内接直径に対する前記第2のイオンガイドの前記内接直径の比が1以下である、請求項3に記載のイオン分析システム。
【請求項5】
前記比が0.6以下である、請求項4に記載のイオン分析システム。
【請求項6】
前記第1の四重極イオンガイドは約7mmの内接直径を有する、請求項5に記載のイオン分析システム。
【請求項7】
前記第2の四重極イオンガイドは約4mmの内接直径を有する、請求項6に記載のイオン分析システム。
【請求項8】
前記第1の真空チャンバは、前記プルーム中の前記イオンを減衰させるために約1Torrのガス圧力に維持されている、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項9】
前記第1の真空チャンバ内の前記ガス圧力は0.1Torrと10Torrとの間である、請求項8に記載のイオン分析システム。
【請求項10】
前記第2のチャンバ内に配置されており、前記開口部を通って前記第2の真空チャンバ内に輸送されるイオンを衝突冷却するように動作する第3の多極イオンガイドを更に含み、前記第2の真空チャンバは約5mTorrのガス圧力に維持されている、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項11】
前記第3の多極イオンガイドの下流にある第3の真空チャンバ内に配置されている三連四重極分析計を更に含む、請求項10に記載のイオン分析システム。
【請求項12】
前記レーザ脱離イオン標的は、マトリックス支援レーザ脱離イオン標的である、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項13】
第1の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバの下流にある第2の真空チャンバであって、前記第1及び第2の真空チャンバは、前記第1の真空チャンバから前記第2の真空チャンバ内へのイオンの通過を可能にするために形成されている開口部を有する隔壁により隔てられている、第2の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバ内に配置されているレーザ脱離イオン標的と、
前記標的と前記開口部との間にある前記第1の真空チャンバ内に配置されており、前記標的から放出されるイオンのプルームを受容するように配置されており、前記プルーム中のイオンを誘導して前記開口部を通過させ前記第2の真空チャンバ内に入らせるように動作する、第1の多極イオンガイドと、
前記開口部を通って前記第2の真空チャンバ内に進入するイオンを輸送するために前記第2の真空チャンバ内に配置されている第2の多極イオンガイドと、
を含み、
前記第1の真空チャンバは、前記プルーム中のイオンを減衰させるために約1Torrのガス圧力に維持されている、イオン分析システム。
【請求項14】
前記第1の真空チャンバ内の前記ガス圧力は0.1Torrと10Torrの間である、請求項13に記載のイオン分析システム。
【請求項15】
前記第1の多極イオンガイドは第1の四重極イオンガイドである、請求項13に記載のイオン分析システム。
【請求項16】
前記第1の四重極イオンガイドは約4mmの内接直径を有する、請求項15に記載のイオン分析システム。
【請求項17】
前記第2の多極イオンガイドは第2の四重極イオンガイドである、請求項16に記載のイオン分析システム。
【請求項18】
前記第2の四重極イオンガイドは、前記開口部を通って前記第2の真空チャンバ内に進入するイオンを衝突冷却するように動作し、前記第2の真空チャンバは約5mTorrのガス圧力に維持されている、請求項17に記載のイオン分析システム。
【請求項19】
前記第2の真空チャンバの下流にある第3の真空チャンバ内に配置されている三連四重極分析計を更に含む、請求項13に記載のイオン分析システム。
【請求項20】
前記レーザ脱離イオン源はマトリックス支援レーザ脱離イオン源である、請求項13に記載のイオン分析システム。
【請求項1】
第1の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバの下流にある第2の真空チャンバであって、前記第1及び第2の真空チャンバは、前記第1の真空チャンバから前記第2の真空チャンバ内へのイオンの通過を可能にするために形成されている開口部を有する隔壁により隔てられている、第2の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバ内に配置されているレーザ脱離イオン標的と、
前記第1の真空チャンバ内に配置されている第1及び第2の多極イオンガイドであって、前記第1の多極イオンガイドは前記標的に隣接しており、前記第2の多極イオンガイドは、前記第1の多極イオンガイドと前記開口部との間にあり、前記第1の多極イオンガイドは、前記レーザ脱離イオン標的から生成されるイオンのプルームを受容するように配置されており、且つ前記プルーム中のイオンを誘導して前記第2の多極イオンガイドに進入させるように動作し、前記第2の多極イオンガイドは、前記イオンを誘導して前記開口部を通過させ前記第2の真空チャンバ内に進入させるように動作する、第1及び第2の多極イオンガイドと
を含む、イオン分析システム。
【請求項2】
前記第1及び第2の多極イオンガイドはそれぞれ、第1及び第2の四重極イオンガイドである、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項3】
前記第1の四重極イオンガイドは、前記第2の四重極イオンガイドの内接直径より大きい内接直径を有する、請求項2に記載のイオン分析システム。
【請求項4】
前記第1のイオンガイドの前記内接直径に対する前記第2のイオンガイドの前記内接直径の比が1以下である、請求項3に記載のイオン分析システム。
【請求項5】
前記比が0.6以下である、請求項4に記載のイオン分析システム。
【請求項6】
前記第1の四重極イオンガイドは約7mmの内接直径を有する、請求項5に記載のイオン分析システム。
【請求項7】
前記第2の四重極イオンガイドは約4mmの内接直径を有する、請求項6に記載のイオン分析システム。
【請求項8】
前記第1の真空チャンバは、前記プルーム中の前記イオンを減衰させるために約1Torrのガス圧力に維持されている、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項9】
前記第1の真空チャンバ内の前記ガス圧力は0.1Torrと10Torrとの間である、請求項8に記載のイオン分析システム。
【請求項10】
前記第2のチャンバ内に配置されており、前記開口部を通って前記第2の真空チャンバ内に輸送されるイオンを衝突冷却するように動作する第3の多極イオンガイドを更に含み、前記第2の真空チャンバは約5mTorrのガス圧力に維持されている、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項11】
前記第3の多極イオンガイドの下流にある第3の真空チャンバ内に配置されている三連四重極分析計を更に含む、請求項10に記載のイオン分析システム。
【請求項12】
前記レーザ脱離イオン標的は、マトリックス支援レーザ脱離イオン標的である、請求項1に記載のイオン分析システム。
【請求項13】
第1の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバの下流にある第2の真空チャンバであって、前記第1及び第2の真空チャンバは、前記第1の真空チャンバから前記第2の真空チャンバ内へのイオンの通過を可能にするために形成されている開口部を有する隔壁により隔てられている、第2の真空チャンバと、
前記第1の真空チャンバ内に配置されているレーザ脱離イオン標的と、
前記標的と前記開口部との間にある前記第1の真空チャンバ内に配置されており、前記標的から放出されるイオンのプルームを受容するように配置されており、前記プルーム中のイオンを誘導して前記開口部を通過させ前記第2の真空チャンバ内に入らせるように動作する、第1の多極イオンガイドと、
前記開口部を通って前記第2の真空チャンバ内に進入するイオンを輸送するために前記第2の真空チャンバ内に配置されている第2の多極イオンガイドと、
を含み、
前記第1の真空チャンバは、前記プルーム中のイオンを減衰させるために約1Torrのガス圧力に維持されている、イオン分析システム。
【請求項14】
前記第1の真空チャンバ内の前記ガス圧力は0.1Torrと10Torrの間である、請求項13に記載のイオン分析システム。
【請求項15】
前記第1の多極イオンガイドは第1の四重極イオンガイドである、請求項13に記載のイオン分析システム。
【請求項16】
前記第1の四重極イオンガイドは約4mmの内接直径を有する、請求項15に記載のイオン分析システム。
【請求項17】
前記第2の多極イオンガイドは第2の四重極イオンガイドである、請求項16に記載のイオン分析システム。
【請求項18】
前記第2の四重極イオンガイドは、前記開口部を通って前記第2の真空チャンバ内に進入するイオンを衝突冷却するように動作し、前記第2の真空チャンバは約5mTorrのガス圧力に維持されている、請求項17に記載のイオン分析システム。
【請求項19】
前記第2の真空チャンバの下流にある第3の真空チャンバ内に配置されている三連四重極分析計を更に含む、請求項13に記載のイオン分析システム。
【請求項20】
前記レーザ脱離イオン源はマトリックス支援レーザ脱離イオン源である、請求項13に記載のイオン分析システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2009−521788(P2009−521788A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547533(P2008−547533)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/048732
【国際公開番号】WO2007/075856
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(508139273)エムディーエス サイエックス, インコーポレイテッド (3)
【出願人】(503229742)アプレラ コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/048732
【国際公開番号】WO2007/075856
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(508139273)エムディーエス サイエックス, インコーポレイテッド (3)
【出願人】(503229742)アプレラ コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】
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