説明

インクジェットヘッド、インクジェット記録装置およびノズルプレートの洗浄方法

【課題】インクの吐出安定性を維持することができるインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】液体を吐出するノズル孔を有するノズルプレートと、ノズル孔に流路を介して繋がる圧力室と、圧力室内の液体に圧力を加える駆動素子と、を備える圧力発生素子と、からなり、ノズルプレートの液体を吐出する吐出面側は凹凸構造30を有し、凹凸構造30の凸部31先端側は撥水性を有し、凹部32の側面および底面は親水性を有し、凹部のワイピング方向の長さが100μm以下であることを特徴とするインクジェットヘッドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッド、インクジェット記録装置およびノズルプレートの洗浄方法に係り、インク吐出面に撥水性を付与したインクジェットヘッド、インクジェット記録装置およびノズルプレートの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で用いられるインクジェットヘッドでは、ノズルプレートの表面にインクが付着していると、ノズルから吐出されるインクが影響を受けて、インクの吐出方向にばらつきが生じることがある。そのため、記録媒体上の所定位置にインクを着弾させることが困難となり、画像品質が劣化する要因となる。そこで、ノズルプレート表面にインクが付着することを防止するために、ノズルプレート表面に撥水性を付与する方法が各種提案されている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、複数の吐出口を備えた領域を囲む中央撥水領域と、吐出口から所定距離離れ、複数の吐出口の配列方向に沿って設けられた溝状親水領域とを備えたインクジェットヘッドが記載されている。また、特許文献2には、ノズル開口周辺に高撥水領域を設け、その周りに低撥水領域を設けた液体噴射ヘッドが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−210859号公報
【特許文献2】特開2007−245549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているインクジェットヘッドは、溝状親水領域の幅が、100μm以上あるため、溝部に溜まり固まったインクが、ワイピングを行なった際に溝部から引き出されて撥水面に傷がつきやすいという問題があった。また、親水領域に溜まったインクを完全に除去しようとしてワイピングを強くすると、吐出口を囲む撥水領域における撥水性が損なわれてしまい、吐出口周りの濡れの原因となっていた。また、特許文献2においても、低撥水領域に付着したインクを放置し固化した場合には、ワイピングを行った際に、高撥水領域にも傷がつきやすくなり、吐出不良が発生しやすかった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、固化したインクにより撥水膜が劣化することを防止し、吐出安定性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、液体を吐出するノズル孔を有するノズルプレートと、前記ノズル孔に流路を介して繋がる圧力室と、前記圧力室内の前記液体に圧力を加える圧力発生素子と、を備える流路構造体と、からなり、前記ノズルプレートの前記液体を吐出する吐出面側は凹凸構造を有し、前記凹凸構造の凸部先端側は撥水性を有し、凹部の側面および底面は親水性を有し、前記凹部のワイピング方向の長さが100μm以下であることを特徴とするインクジェットヘッドを提供する。
【0008】
請求項1によれば、ノズルプレートの吐出面側に凹凸構造を設け、凹凸構造の凸部を撥水性、凹部を親水性としている。したがって、ノズルプレート表面に付着したインクは、親水領域である凹部に引き込まれ乾燥するので、インクの固化物が凸部(ノズルプレート表面)に付着することがない。したがって、ワイピングを行なってもインク固化物を引きずることがないため、ノズル孔周辺を傷つけることがない。また、凹部のサイズもワイピング方向の長さを100μm以下と微細にしているので、凹部に形成されたインク固化物を掃き出すことがないので、ノズル孔周辺が傷つくことを防止することができ、吐出安定性を維持することができる。
【0009】
請求項2は請求項1において、前記凸部先端側に撥水膜が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2によれば、凸部先端側に撥水膜を形成することで、凸部先端側に撥水性を付与することができる。
【0011】
請求項3は請求項1又は2において、前記凸部のワイピング方向の長さが、前記凹部の深さの1/2以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項3によれば、凸部のワイピング方向の長さを凹部の深さの1/2以上としているので、ワイピングにより凸部が破壊されるのを防止することができる。
【0013】
請求項4は請求項1から3のいずれか1項において、前記凹部のワイピング方向の長さが、前記凹部の深さの1/2以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項4によれば、凹部のワイピング方向の長さを凹部の深さの1/2以上とすることで、洗浄液で溶解した後のインクをワイピング時に取り除くことができる。
【0015】
請求項5は請求項1又は2において、前記凹凸構造が千鳥状に配置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項5によれば、凹凸構造が千鳥状に配置されているので、凹凸構造の撥水性部と親水性部が交互に配置されており、ノズルプレート表面に付着したインクを効率よく親水性部である凹部に引き込むことができる。
【0017】
請求項6は請求項5において、前記千鳥状に配置された凹凸構造の凹部の1辺が100μm以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項6によれば、凹部の一辺の長さが100μm以下と微細にしているので、凹部に形成されたインク固化物を掃き出すことがないので、ノズル孔周辺が傷つくことを防止することができ、吐出安定性を維持することができる。
【0019】
請求項7は請求項2から6のいずれか1項において、前記ノズルプレートを形成する基板はシリコン系の材料からなり、前記撥水膜はフルオロアルキルシランからなることを特徴とする。
【0020】
請求項7によれば、ノズルプレートを形成する基板にシリコン系の材料を用い、撥水膜にフルオロアルキルシランを用いることで、基材と強く結合した撥水膜を形成することができる。
【0021】
請求項8は請求項1から7のいずれか1項において、前記ノズル孔の前記吐出面側の周囲に平坦な撥水領域を設け、前記平坦な撥水領域の周囲に前記凹凸構造を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項8によれば、平坦な撥水領域は、凹凸構造を備える撥水領域よりも全面が撥水性を有しているので凹凸構造を有する領域より撥水性の高い領域である。したがって、ノズルプレート表面のノズル孔周辺より、さらにその周りの凹凸構造を有する撥水領域にインクを付着させることができる。したがって、ノズル周辺へのインクの付着を防止することができ、ノズル詰まりを防止することができる。
【0023】
本発明の請求項9は前記目的を達成するために、請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドを備えることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0024】
本発明のインクジェットヘッドは、インクジェット記録装置に好適に用いることができる。
【0025】
本発明の請求項10は前記目的を達成するために、インクを溶解するための洗浄液を、請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドのノズルプレート面に塗布し、付着したインク固化物を溶解した後、ワイピングを行なうことを特徴とするノズルプレートの洗浄方法を提供する。
【0026】
請求項10によれば、請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドは、凹凸構造の凹部に形成されたインク固化物を掃き出すことができないが、洗浄液を塗布しインク固化物を溶解させることで、凹部に形成されたインク固化物の除去を行なうことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のインクジェットヘッド、インクジェット記録装置およびノズルプレートの洗浄方法によれば、ノズルプレート表面に微細な凹凸構造を有し、インクを凹部に引き込まれるようにすることで、インク固化物により撥水領域が傷つくことを防止することができる。したがって、インクの吐出安定性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】インクジェットヘッドの構造例を示す平面透視図である。
【図3】図2中IV−IV線に沿う断面図である。
【図4】インクジェットヘッドの製造方法を説明する図である。
【図5】インクジェットヘッドの製造方法を説明する図である。
【図6】凹凸構造を説明する図である。
【図7】ノズルプレート表面の他の実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面に従って、本発明に係るインクジェット、インクジェット記録装置およびノズルプレートの洗浄方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0030】
<インクジェット記録装置の全体構成>
図1は、インクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置の構成図である。このインクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行なう2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0031】
図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、および排出部122を備えて構成される。
【0032】
(給紙部)
給紙部112は、記録媒体124を処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。
【0033】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0034】
図1に示すように、処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム154、および処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体124を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体124を挟み込むことによって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0035】
処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置156によれば、処理液を計量しながら記録媒体124に塗布することができる。
【0036】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0037】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(第2の搬送体)170、用紙抑えローラ174、およびインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備える。描画ドラム170に固定された記録媒体124は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yからインクが付与される。
【0038】
インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0039】
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体124の記録面に向かって各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0040】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0041】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図1に示すように、乾燥ドラム176、および溶媒乾燥装置178を備えている。
【0042】
乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0043】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ180と、各ハロゲンヒータ180の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル182とで構成される。
【0044】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0045】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、およびインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0046】
定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0047】
定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。また、定着ドラム184の表面温度を50℃以上に設定することで、定着ドラム184の外周面に保持された記録媒体124を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
【0048】
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
【0049】
(排出部)
図1に示すように、定着部120に続いて排出部122が設けられている。排出部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。
【0050】
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100には、上記構成の他、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行なうヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体124の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0051】
なお、図1においてはドラム搬送方式のインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、ベルト搬送方式のインクジェット記録装置などにおいても用いることができる。
【0052】
〔インクジェットヘッドの構造〕
次に、インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの構造について説明する。なお、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。
【0053】
図2(a)は、インクジェットヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図2(b)は、インクジェットヘッド250の他の構造例を示す平面透視図である。図3は、インク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図2(a)中、IV−IV線に沿う断面図)である。
【0054】
記録紙面上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、インクジェットヘッド250におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のインクジェットヘッド250は、図2(a)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252などからなる複数のインク室ユニット253を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙搬送方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0055】
紙搬送方向と略直交する方向に記録媒体124の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図2(a)の構成に代えて、図2(b)に示すように、複数のノズル251が2次元に配列された短尺のヘッドブロック(ヘッドチップ)250’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体124の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
【0056】
図3に示すように、各ノズル251は、インクジェットヘッド250のインク吐出面250aを構成するノズルプレート260に形成されている。ノズルプレート260は、例えば、Si、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料、ポリイミドのような樹脂系材料で構成されている。
【0057】
ノズルプレート260の表面(インク吐出側の面)には、インクに対して撥液性を有する撥水膜262が形成されており、インクの付着防止が図られている。
【0058】
各ノズル251に対応して設けられている圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル251と供給口254が設けられている。各圧力室252は供給口254を介して共通流路255と連通されている。共通流路255はインク供給源たるインク供給タンク(不図示)と連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に分配供給される。
【0059】
圧力室252の天面を構成し共通電極と兼用される振動板256には個別電極257を備えた圧電素子258が接合されており、個別電極257に駆動電圧を印加することによって圧電素子258が変形してノズル251からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路255から供給口254を通って新しいインクが圧力室252に供給される。
【0060】
なお、ノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0061】
また、ライン型ヘッドによる印字方式に限定されず、記録媒体124の幅方向(主走査方向)の長さに満たない短尺のヘッドを記録媒体124の幅方向に走査させて当該幅方向の印字を行ない、1回の幅方向の印字が終わると記録媒体124を幅方向と直交する方向(副走査方向)に所定量だけ移動させて、次の印字領域の記録媒体124の幅方向の印字を行ない、この動作を繰り返して記録媒体124の印字領域の全面にわたって印字を行なうシリアル方式を適用してもよい。
【0062】
<ノズルプレートの製造方法>
図4、5は本発明のインクジェットヘッドの製造方法を説明する図である。
【0063】
図4を用いて基材(ノズルプレート基板)10の構造化について説明する。まず、図4(a)に示すように、基板10上の凹凸構造の凸部となる部分に、フォトリソグラフィーによりマスク材20を形成する。マスク材としてはAl、レジストなどを用いることができる。
【0064】
次に図4(b)に示すように、基板10にエッチングにより凹凸構造30を形成する。凹凸構造30の形成は、例えば、ドライエッチング装置を用いて、いわゆるボッシュプロセスと呼ばれる、側面へのプラズマ合成膜の形成とプラズマエッチング工程と、を交互に行なうことで垂直性の高い凹凸構造30を得ることができる。エッチング条件については、形成する凹凸構造の大きさなどにより適宜設定することができる。また、エッチング方法については、この方法に限定されず、他の方法を用いて行なうこともできるが、垂直性の低い等方性エッチングの場合は、凹部のインク固化物がワイピングにより掃き出しやすくなってしまうので、垂直性が高くなるように凹凸構造30を形成することが好ましい。
【0065】
その後、図4(c)に示すように、エッチング液によりマスク材20を除去することで、凹凸構造30を基材10が形成される。
【0066】
次に図5を用いて凹凸構造30の凸部31の上面に撥水膜を形成する方法を説明する。図5(d)に示すように、基板10の凹部32が埋まるようにレジスト材料40を全面にスピンコートにより塗布し、ベークを行なう。その後、図5(e)に示すように、凸部31の上面に形成されたレジスト材料40がちょうど除去されるように制御しながら、反応性イオンエッチング(RIE)により全面アッシングを行なう。凸部31上にレジスト材料40の残渣が残らないように、少しオーバーエッチングにしてもよい。
【0067】
次に、別の工程で作製された流路構造体を基板10の凹凸構造30が形成されていない側に貼り合わせることで、インクジェットヘッドを製造する。なお、図中、流路構造体は省略して説明する。
【0068】
流路構造体には、ノズル孔に繋がる流路(圧力室、ノズル連通路、共通流路などを含む)が形成されている。更、振動板および圧電体膜が接合されており、振動板と圧電体膜との境界面には、共通電極に相当する電極層が形成され、圧電体膜層の上面には、各ノズルに対応した圧電素子の上部電極に相当する個別電極がパターニングされている。
【0069】
次に、図5(f)に示すように、凸部31上およびレジスト材料40上に撥水膜50を形成する。撥水膜50の材料は、基材10と結合しやすい材料を選択することが好ましく、例えば、基材にシリコンを用いた場合は、シリコン表面の自然酸化膜と結合可能なフルオロアルキルシランを用いることが好ましい。
【0070】
撥水膜を形成する方法としては、フルオロアルキルシランを真空蒸着法で蒸着させる方法、低分子のシロキサンをプラズマ重合させてフッ素含有プラズマ重合膜、シリコン系プラズマ重合撥液膜などを形成する方法、フッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を付与する方法を用いることができる。
【0071】
シランカップリング剤は、YSiX4−n(n=1、2、3)で表されるケイ素化合物である。Yはアルキル基などの比較的不活性な基、または、ビニル基、アミノ基、あるいはエポキシ基などの反応性基を含むものである。Xは、ハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセトキシ基などの基質表面の水酸基あるいは吸着水との縮合により結合可能な基からなる。シランカップリング剤は、ガラス繊維強化プラスチックなどの有機質と無機質からなる複合材料を製造する際に、これらの結合を仲介するものとして幅広く用いられており、Yがアルキル基などの不活性な基の場合は、改質表面上に、付着や摩擦の防止、つや保持、撥水、潤滑などの性質を付与する。また、反応性基を含む場合は、主として接着性の向上に用いられる。さらに、Yに直鎖状のフッ化炭素鎖を導入したフッ素系シランカップリング剤を用いて改質した表面は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)表面のように低表面自由エネルギーを持ち、撥水、潤滑、離型などの性質が向上し、さらに撥油性も発現する。
【0072】
フッ素系シランカップリング剤(塩素型、メトキシ型、エトキシ型、イソシアナト型など)を用いて撥水性を有する膜を形成する方法として、例えば、物理的気相成長法(蒸着法、スパッタリング法など)や化学気相成長法(CVD法、ALD法など)などのドライプロセス法や、ゾルゲル法、塗布法などのウェットプロセス法などによって形成することができる。
【0073】
その後、図5(g)に示すように、アセトンなどの有機溶媒でレジスト材料40を除去することで、凸部31の上部のみ撥水膜50を残すことができる。
【0074】
このようにして形成された凹凸構造を有するノズルプレート表面を図6に示す。図6(a)は、ノズルプレート表面の一例を示す平面図、図6(b)は、図6(a)のA−A’断面図である。
【0075】
図6(a)に示すように、ノズルプレート表面に形成された凹凸構造30のパターンは千鳥状に形成されていることが好ましい。凹凸構造30の凸部31には、撥水膜が形成されており、凹部32は、基材10のままであるので、親水性となっている。したがって、ノズルプレート表面に付着したインクは、凹凸構造の凹部に入り込むことになる。したがって、インクが乾燥し固化しても凹部32で固化し、凸部31上にはインク固化物が形成されないため、ワイピングによりノズル表面に傷がつくことを防止することができる。また、凹凸構造30のパターンを千鳥状に形成することで、親水性部と撥水性部を交互に配置することができ、効率よく付着したインクを親水性部である凹部32に引き込むことができる。
【0076】
凹凸構造30のサイズは、凹部32のワイピング方向(図6(a)中、矢印X1で示す)に対する長さLが100μm以下とする。Lを100μm以下とすることで、凹部に形成されたインク固化物が払拭部材により掃き出されることを防止することができる。Lが100μmを越えると、メンテナンス時に払拭部材によるワイピングでインク固化物が掃き出されノズルプレート表面に傷を付ける場合があるので好ましくない。長さLは好ましくは、50μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。払拭部材としては、帯状のウエブ、ブラシ、ブレードなどを用いることができる。払拭部材としてブレードを用いる場合は、ブレードが凹部32の奥まで入り込まないように、LをブレードのRより小さくすることが好ましい。
【0077】
また、Lは凹部の深さLに対して短い場合は、後述する洗浄液を塗布した後のワイピングにおいて、凹部32内部の異物(インク固化物)を除去できない場合がある。したがって、LはLに対して1/2以上の長さとすることが好ましい。具体的には、5μm以上とすることが好ましい。
【0078】
また、凸部31のワイピング方向の長さLは、深さLに対して1/2以上とすることが好ましい。深さLに対しLが短すぎる場合は、ワイピングにより凸部31が破壊される場合があるので好ましくない。具体的には、5μm以上100μm以下とすることが好ましい。
【0079】
図6(a)においては、ワイピング方向X1と凹部32の一辺が平行に形成されているが、凹部32の一辺に対して、所定の角度を設けてワイピングを行なう場合がある(ワイピング方向を矢印X2で示す)。この場合、凹部32のワイピング方向の長さは図中LX2で示す範囲となる。ワイピング方向が凹部32の一辺と所定の角度を有してワイピングを行なう場合は、凹部32のワイピング方向の長さLX2を、100μm以下とする。
【0080】
なお、図6(a)においては、凹凸構造が千鳥状に形成されたパターンを用いて説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、凹部と凸部が縞状に形成されたパターンとすることができる。この場合も凹部のワイピング方向の長さが100μm以下となるようにパターンを形成する。
【0081】
図7は、インクジェットヘッドのノズルプレート表面の別の実施形態を示した図である。図7に示すように、ノズル251の周辺は、凹凸構造を有さない平坦な基板に撥水膜を形成した第1の撥水領域310であり、さらに、第1の撥水領域310の周りに上述した凹凸構造を有する第2の撥水領域320を備えている。
【0082】
第1の撥水領域310は領域全面が撥水性を有しており、第2の撥水領域320は凸部が撥水性、凹部が親水性であるので、第1の撥水領域310は第2の撥水領域320より撥水性が高くなっている。インクは第1の撥水領域310より第2の撥水領域320の方が付着し易いため、第1の撥水領域310へのインクの付着および第2の撥水領域320から第1の撥水領域310へのインクの移動を防止することができる。したがって、ノズル251の周辺部である第1の撥水領域にインク固化物が付着することがないため、ノズル詰まりを防止することができる。
【0083】
このようなノズルプレート表面の形成方法は、上記ノズルプレートの製造方法において、基材の構造化を行なう際に、第1の撥水領域310となる領域をマスク剤で被覆する。これにより第1の撥水領域310となる領域には、凹凸構造が形成されないので、全面撥水膜の撥水領域を形成することができる。
【0084】
第1の撥水領域310としては、ノズル251から100μmの領域とすることが好ましい。第1の撥水領域310をこの範囲とすることで、ノズル詰まりを防止することができる。例えば、ノズル251間を300μmで形成する場合、ノズル近傍100μmの範囲が第1の撥水領域310となるため、その間の100μmの範囲が第2の撥水領域320となる。
【0085】
<ノズルプレートの洗浄方法>
次に、本発明のインクジェットヘッドのノズルプレートの洗浄方法について説明する。本発明のインクジェットヘッドは、上述したように、ノズルプレート表面の凹部の内部にインク固化物を形成することができる。したがって、インク固化物の除去を行なう場合、洗浄液を塗布し、付着したインク固化物を溶解させる。その後、ノズルプレート表面を払拭部材でワイピングすることで、溶解したインク固化物を除去することができる。
【0086】
洗浄液としては、粘度20cPのDEGmBE(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、水、描画に用いるインク自身、等を用いることができる。
【0087】
[実施例]
(試験1)
上記実施形態の方法でノズルプレートの吐出面側全面に凹凸構造を有するインクジェットヘッドを製造した。凹凸構造の深さは10μmで一定とし、凹部および凸部は縦と横の比が1:1で千鳥状に配置した。また凹部および凸部の長さは、各実施例で変更して行なった。
【0088】
試験は、インクジェットヘッドから7plのインク液滴を100000滴連続で吐出した後、ノズルプレート表面に40℃の熱風を1分間送風しインクを固化させ、1回のワイピングを行なう。これを1セットとし、吐出とワイピングを所定の回数行なった後の、撥水性の劣化したノズル数を顕微鏡で計測した。また、試験に使用した全ノズル数である2048ノズル全ての吐出曲がりの偏差を測定した。ワイピングは、ノズル洗浄液を塗布した後、払拭部材としてウエブを用いて行ない、ノズルプレートの一方の端部から他方の端部までウエブで拭き取ることにより行なった。ワイピングを100回行なうごとにノズル面にインク洗浄液を塗布し、充分にインクが溶解した後にワイピングを行った。
【0089】
顕微鏡で観察した際にノズル孔周囲の撥水性が壊れ、濡れが発生しているものを撥水性の劣化したノズルとし、表中にNGとして示す。また、吐出曲がりの初期値は3mradであり、偏差として表中に示す。結果を表1に示す。また、参考例1として凹凸構造を設けないノズルプレートについても試験を行った。
【0090】
【表1】

【0091】
比較例1は、凹凸構造の一辺が200μmとした場合であり、ノズル面にあるインクが乾燥した状態でワイピングを繰り返すと、凹部の親水領域からインク固化物が引きずりだされるため、ノズル周辺の撥水膜を傷つけてしまった。撥水膜が劣化することで、徐々に吐出性能の劣化も見られた。
【0092】
これに対して、実施例1では、凹凸構造の一辺を100μmとしたため、ワイピング操作を繰り返しても凹部からインク固化物が引きずり出されることがないため、5000回ワイピングを行なっても良好な状態を保つことができた。
【0093】
実施例2は、凹凸構造の一辺を5μmとした場合であり、ワイピングにより凸部が破壊されることがなく、5000回行なっても撥水膜の劣化は見られず、吐出性能も良好であった。
【0094】
比較例2は、凹凸構造の一辺を、100μmとし、ワイピング100回ごとのインク溶解液の塗布を行なわずにワイピングした場合の結果である。比較例2においては。固化したインクのほとんどが凹部に除去されずに残ってしまうため、ワイピング1000回までは、撥水性、吐出性能供に比較的良好であったが、5000回行なった結果、撥水性、吐出性ともに劣化していた。
【符号の説明】
【0095】
10…基材、20…マスク材、30…凹凸構造、31…凸部、32…凹部、40…レジスト材料、50、262…撥水膜、100…インクジェット記録装置、112…給紙部、114…処理液付与部、116…描画部、118…乾燥部、120…定着部、122…排出部、124…記録媒体、154…処理液ドラム、156…処理液塗布装置、170…描画ドラム、172M、172K、172C、172Y…インクジェットヘッド、176…乾燥ドラム、180…温風噴出しノズル、182…IRヒータ、184…定着ドラム、186…ハロゲンヒータ、188…定着ローラ、192…排出トレイ、196…搬送ベルト、251…ノズル、260…ノズルプレート、310…第1の撥水領域、320…第2の撥水領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズル孔を有するノズルプレートと、
前記ノズル孔に流路を介して繋がる圧力室と、前記圧力室内の前記液体に圧力を加える圧力発生素子と、を備える流路構造体と、からなり、
前記ノズルプレートの前記液体を吐出する吐出面側は凹凸構造を有し、
前記凹凸構造の凸部先端側は撥水性を有し、凹部の側面および底面は親水性を有し、
前記凹部のワイピング方向の長さが100μm以下であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記凸部先端側に撥水膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記凸部のワイピング方向の長さが、前記凹部の深さの1/2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記凹部のワイピング方向の長さが、前記凹部の深さの1/2以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記凹凸構造が千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記千鳥状に配置された凹凸構造の凹部の1辺が100μm以下であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記ノズルプレートを形成する基板はシリコン系の材料からなり、前記撥水膜はフルオロアルキルシランからなることを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記ノズル孔の前記吐出面側の周囲に平坦な撥水領域を設け、前記平坦な撥水領域の周囲に前記凹凸構造を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項10】
インクを溶解するための洗浄液を、請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドのノズルプレート面に塗布し、付着したインク固化物を溶解した後、ワイピングを行なうことを特徴とするノズルプレートの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−101365(P2012−101365A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248892(P2010−248892)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】