説明

インクジェット塗布方法および装置

【課題】インクジェットを使用したインク塗布において、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる塗布方法および装置を提供する。
【解決手段】インク滴が吐出されるノズル11と、ノズル11に連通する圧力室16と、圧力室16内のインクに圧力変化を与える圧電素子14とを含んで構成されるノズルヘッド10と、ノズルヘッド10にインクを圧送する圧送機構17と、圧送圧力を制御する圧送制御部18とを備えたインクジェット塗布装置を用いて、基板の所定領域にインク液滴を吐出し、塗布する塗布方法であって、インク滴を吐出しない待機時間に、圧送制御部18を用いてノズル液面を揺動させる圧力を印加するようにしたものであり、安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッド10の交換時期を延ばすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット装置によって機能液を吐出塗布し、機能性素子を製造する際の塗布方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、機能素子として種々の発光素子が使用されているが、軽量、低消費電力、高画質かつ広視野角という特徴を持つ有機EL素子が注目されている。
【0003】
図7に一般的な有機EL素子の断面構造を示す。有機EL素子は、基板1上に、陰極33と陽極32の間に、少なくとも発光材料を含む有機薄膜301(R,G,B)が挟持された構造であり、発光材料の種類により、低分子材料を用いる低分子型と高分子材料を用いる高分子型に大別される。
【0004】
低分子型の場合は、主に真空蒸着法などのドライプロセスにより有機薄膜を形成し、高分子型の場合は、主に溶媒に溶解または分散させてからインクジェット法などのウェットプロセスにより有機薄膜を形成する。低分子型で使用される真空蒸着法は、大型の設備を必要とする高真空プロセスであるため、製造コストが高く、生産性が低いなどの問題を有していた。これに対し高分子型は、大気下でインクジェット法により成膜するため、前記低分子型と比較して、設備コストが安く、大画面化が可能という利点を有している。
【0005】
一般に、インクジェット法では、高分子材料を溶媒へ溶解させた溶液をノズルから吐出させ、基板の所定の位置へ塗布し、溶媒を乾燥させることにより成膜される。
【0006】
図7に示すように、有機EL素子のように、複数の種類の発光層301R,G,Bを有する場合、これらに対応する溶液が塗布時において混じり合わないように、バンク31が設けられる。
【0007】
図8に一般的な有機ELディスプレイの平面構造を示す。映像を表示するため、陰極33または陽極32がピクセル状にパターニングされている。バンク31は、このようにピクセル状のこともあるが、同色の発光層に対しては境界を設けないライン状の場合もある。バンク31の幅およびピッチは50〜100μmと微細であるので、インクジェットのような精密塗布技術が必要となる。
【0008】
図9(a),(b)は一般的なインクジェット塗布装置(または液滴吐出装置)要部の概略構成図と動作を示す図である。
【0009】
このインクジェット装置は、架台2と、架台2の上に設置された基板搬送ステージ3と、基板搬送ステージ3に対向するノズルヘッドとからなり、ノズルヘッド10は基板搬送ステージ3を跨ぐ門型のガントリー4に設置されている。
【0010】
図10はノズルヘッドの全体構造を示す図であり、(a)は正面断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0011】
ノズルヘッド10は、インクを吐出するノズル11と、ノズル11に連通する圧力室16と、圧力室16の一部をなす圧電素子14と、圧力室16にインクを供給するマニホールド部12と、マニホールド部12にインクを供給するインク導入口13とからなる。このインクジェット塗布装置は、圧電素子14に電圧を加えて変形させ、圧力室16の容積を小さくすることで、インクに圧力を加えてインクを吐出させている。
【0012】
次に、インクジェット塗布装置の塗布動作について説明する。
【0013】
基板搬送ステージ3は、図9の(a)から(b)に示すように移動し、このとき、基板搬送ステージ3に載置された基板1に向けて、ノズルヘッド10からインクが吐出され、基板1の塗布領域5にインクが塗布される。この塗布領域5は、有機ELディスプレイの場合、実質的に映像を映す発光領域であるが、乾燥ムラ対策のダミー領域を含んでもよい。塗布領域5への塗布終了後、基板1を交換するまで、ノズルヘッド10はインク液滴の吐出を停止して待機する。
【0014】
このような有機EL素子製造用のインクジェット塗布装置においては、ノズル液面(またはメニスカス)において溶媒が乾燥しやすく、待機時の溶液の粘度上昇や乾燥固化によって、不吐出や飛行曲がりなどの吐出不良が発生するという問題があった。
【0015】
この問題に対し、特許文献1には圧電素子を振動させてメニスカスを揺動する方法が開示されている。このようにメニスカスを揺動することによって圧力室内でインクを攪拌させ、メニスカス近傍の濃度が上昇することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−137252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、前記塗布方法では、圧電素子14を常時駆動するため、圧電素子14の寿命が短くなるという問題があり、圧電素子14が劣化すると、駆動電圧を印加しても所望の変形ができなくなり、所望のインク量を吐出できなくなったり、変形のタイミングがずれたりすることになって、その結果、安定な塗布ができなくなるという問題があった。
【0018】
また、圧電素子14が劣化するとノズルヘッド10を交換しなければならないが、ノズルヘッド10は、微細加工技術によって作成されており、非常に高価であるほか、ノズルヘッド10の交換、および、その後の精密な塗布を実現するための調整には、多大な時間を要するため、その期間装置の稼働率が低下するという問題もあった。
【0019】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、長期にわたり安定な塗布が可能となる他、高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができるインクジェット塗布方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成すべく、本発明に係るインクジェット塗布方法は、インク滴がノズルから吐出される方法であって、前記インク滴を前記ノズルから吐出しない待機時間に前記ノズルに形成された前記インク滴の液面を揺動させることを特徴とする。
【0021】
このインクジェット塗布方法によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。
【0022】
また、本発明に係るインクジェット塗布方法は、前記ノズルにインクを圧送する圧送機構の圧送圧力を制御する圧送制御部を用いて、前記インク滴の液面を揺動させるようにした方法であり、さらに本発明に係るインクジェット塗布装置は、インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子とを含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルヘッドにインクを圧送する圧送機構と圧送圧力を制御する圧送制御部とを備えたインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記圧送制御部がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成したものである。
【0023】
このインクジェット塗布方法および装置によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。またその際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。
【0024】
また、本発明に係るインクジェット塗布方法は、前記ノズルにインクを供給するインクタンクの高さを制御する機構を用いて、前記インク滴の液面を揺動させるようにした方法であり、さらに本発明に係るインクジェット塗布装置は、インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子とを含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルヘッドにインクを供給するインクタンクとインクタンクの高さを制御する機構とを備えたインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記インクタンクの高さを制御する機構がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成したものである。
【0025】
このインクジェット塗布方法および装置によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。またその際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。さらに、インクタンクの高さを制御することでノズルヘッドに係る圧力を変動させているので、ポンプで圧力を制御する構成に比べ、厳密な圧力シールが不要で安価となり、かつ信頼性の高い製造が可能となる。
【0026】
また、本発明に係るインクジェット塗布方法は、前記ノズルの高さを制御する機構を用いて、前記ノズル滴の液面を揺動させるようにした方法であり、さらに本発明に係るインクジェット塗布装置は、インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子とを含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルヘッドの高さを制御する機構とを備えたインクジェット装置を用いて基板の所定領域にインク液滴を吐出し、塗布するインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記ノズルヘッドの高さを制御する機構がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成したものである。
【0027】
このインクジェット塗布方法および装置によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。またその際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となる。また高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。さらに、ノズルヘッドの高さを制御することでノズルヘッドにかかる圧力を変動させているので、ポンプで圧力を制御する構成に比べ、厳密な圧力シールが不要で安価となり、かつ信頼性の高い製造が可能となる。また、小型のインクジェット塗布装置などでは、インクタンクの高さを調整するより、ノズルヘッドの高さを調整する方が安価で信頼性が高い塗布が可能となる。
【0028】
また、本発明に係るインクジェット塗布方法は、インク滴が吐出されるノズルに連通する圧力室にインクを供給するためのマニホールドと、インクタンクとの間でインクを循環させる循環機構を用いて、前記ノズル滴の液面を揺動させるようにした方法であり、さらに、本発明に係るインクジェット塗布装置は、インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子と、圧力室にインクを供給するためのマニホールドとを含んで構成されるノズルヘッドと、マニホールドにインクを供給する供給口と、マニホールドからインクを排出する排出口と、インクタンクとマニホールドの間でインクを循環させる循環機構を備えたインクジェット塗布装置を用いて基板の所定領域にインク液滴を吐出し、塗布するインクジェット装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記インク循環機構がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成したものである。
【0029】
このインクジェット塗布方法および装置によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。その際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となる。また高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。さらに圧力室内で粘度が上昇したインクの一部が、循環しているインクと交換されるため粘度の増加を防止する効果が高く、より確実に不吐出や飛行曲がりを防止することができる。
【0030】
また、本発明に係るインクジェット塗布方法は、前記ノズルを覆うキャップを備え、前記キャップ内の圧力の変動を用いて、前記ノズル滴の液面を揺動させるようにした方法であり、さらに本発明に係るインクジェット塗布装置は、インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子と、を含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルを覆うキャップと、前記キャップの内部圧力を制御する機構とを備えたインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記キャップ内の圧力制御機構が発生する圧力変動がノズル液面を揺動させるように構成したものである。
【0031】
このインクジェット塗布方法および装置によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。またその際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となる。また高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。さらに、ノズル内の圧力変動はないため、ノズル内の部材に経年疲労を及ぼすことがなく、信頼性の高い塗布を実現できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1におけるインクジェット塗布装置の概略図
【図2】本発明の各実施の形態におけるノズル液面揺動の説明図
【図3】本発明の実施の形態2におけるインクジェット塗布装置の概略図
【図4】本発明の実施の形態3におけるインクジェット塗布装置の概略図
【図5】本発明の実施の形態4におけるインクジェット塗布装置の概略図
【図6】本発明の実施の形態5におけるインクジェット装置の概略図
【図7】一般的な有機EL素子の断面の概略図
【図8】一般的な有機EL素子の平面の概略図
【図9】一般的なインクジェット塗布装置要部の構成と動作説明図
【図10】一般的なノズルヘッドの構成図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下本発明の各実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、ここでは、有機ELディスプレイの発光領域に機能液として、発光材料を溶媒に溶かしたインクをインクジェットで塗布する方法および装置を例として説明するものとする。
【0035】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態の説明にあたり、図7〜図10に例示した有機EL素子、インクジェットで塗布装置、ノズルヘッド等が前提となるので、再度これらを参照しながら説明を進めるものとする。
【0036】
まず、図7に示したように、本実施の形態の対象となる有機EL素子の構造は、基板1上の陰極33および陽極32との間に、少なくとも発光材料を含む有機薄膜301R(301G,301Bも同様)を挟持した構造であり、これら有機薄膜301R,301G,301Bは、高分子材料を溶媒へ溶解させた溶液をノズルから吐出させ、基板1の所定の位置へ塗布し、溶媒を乾燥させることにより成膜されたものである。
【0037】
有機ELの製造に使用されるインク材料は溶質として、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体,ポリアセチレンおよびその誘導体,ポリフェニレンおよびその誘導体,ポリパラフェニレンエチレンおよびその誘導体,ポリ3−ヘキシルチオフェンおよびその誘導体,ポリフルオレンおよびその誘導体などが含まれる。
【0038】
また、溶媒として、トルエン,キシレン,テトラリン,アニソール等の芳香族系有機溶媒,ジオキサン等のエーテル系溶媒,イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒などが含まれる。
【0039】
このときインクの濃度は0.1〜10%で、インクの粘度は1〜30mPa・sである。
【0040】
有機ELディスプレイのように、複数の種類の発光層301R,301G,301Bを有する場合、これらに対応する溶液が塗布時において混じり合わないようバンク31が設けられる。
【0041】
次に、図8に示した有機ELディスプレイの平面構造から明らかなように、映像を表示するための陰極33または陽極32はピクセル状にパターニングされている。バンク31は図のようにピクセル状のこともあるが、同色の発光層に対しては境界を設けないライン状の場合もある。バンクの幅およびピッチは、50〜100μmと微細であるので、インクジェットのような精密塗布技術が必要となる。
【0042】
この有機ELディスプレイに溶液を塗布するには、図9に示すインクジェット塗布装置(または液滴吐出装置)が用いられ、架台2と、架台2上に設置された基板搬送ステージ3と、基板搬送ステージ3に対向するノズルヘッド10とからなる。ノズルヘッド10は基板搬送ステージを跨ぐ門型のガントリー4に設置されている。
【0043】
このインクジェット塗布装置に装着されるノズルヘッドは図10に示す構造であり、ノズルヘッド10は、インクを吐出するノズル11と、ノズル11に連通する圧力室16と、圧力室16の一部をなす圧電素子14と、圧力室16にインクを供給するマニホールド部12と、マニホールド部12にインクを供給するインク導入口13とからなる。
【0044】
インクジェット塗布装置は、圧電素子14に電圧を加え変形させ、圧力室16の容積を小さくすることで、インクに圧力を加え、インクを吐出させている。
【0045】
ノズルヘッドが有するノズルは、直径20〜50μm、100〜500μmのピッチで100〜1000穴並んでいる。一般にノズルを塗布方向に対して傾けることで、バンクピッチに対応した塗布を実現している。
【0046】
次に、このインクジェット装置の塗布動作について説明する。
【0047】
基板搬送ステージ3は図9の(a)から(b)に示すように移動する、このとき、基板搬送ステージ3上に載置された基板1に向けて、ノズルヘッド10からインクが吐出され、基板1の塗布領域5にインクが塗布される。基板搬送ステージ3の速度は20〜400mm/sである。また、インクの吐出周波数は、1000〜50000Hzである。
【0048】
基板1の塗布領域5は、有機ELディスプレイの場合、実質的に映像を映す発光領域であるが、乾燥ムラ対策のダミー領域を含んでもよい。塗布領域5への塗布終了後、基板1を交換するまで、ノズルヘッド10はインク液滴の吐出を停止し待機する。この時間を待機時間と呼び、本実施の形態は、この待機時間中の動作に特徴がある。
【0049】
以下、図1を参照して、本発明のインクジェット塗布方法および装置の実施の形態1を説明する。
【0050】
実施の形態1におけるインクジェット塗布装置は、図1の概略図に示すごとく構成されている。図1における(a)は正面断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0051】
なお、下記の各実施の形態において、ノズルヘッド10については図10にて説明したものと同様であるので、同一部分については同一符号を付し、その説明は省略する。また、既に説明した部材と同一機能の部材には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0052】
本実施の形態においては、図10に示す構成に加えてノズルヘッド10にインクを圧送する圧送機構17と、圧送圧力を制御する圧送制御部18とを備えている。なお、19はインクタンクである。
【0053】
圧送機構としては、ポンプやシリンダを使用することができ、インク滴を吐出しない待機時間に圧送制御部18を用いてノズル液面を揺動させる圧力を印加する。印加する圧力は、インク流路における圧力損失に大きく影響されるが、例えば、振幅が100〜100000Paで、周期が0.01〜100sで印加する。
【0054】
このとき、ノズル液面(メニスカス)40の状態を図2に示す。圧力振幅が小さいときは、図2(a)に示すように、ノズル液面の揺動によるノズル内面41とノズル液面40の接触位置42は移動しない。ところが、圧力振幅が大きいときは、図2(b)に示すように、ノズル液面の揺動によりこの接触位置42は移動する。
【0055】
ここで、図2(a)に示すように、接触位置42が移動しない場合、ノズル液面の揺動によって粘度が高くなったインクが攪拌されるので、待機後塗布を再開したときの吐出安定性を向上する効果はあるものの、接触位置42が乾燥しやすくなるため、図2(b)に示すように、ノズル液面の揺動が前記接触位置42を移動させる圧力振幅で揺動させることが望ましい。
【0056】
以上のように本実施の形態によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。また、その際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。
【0057】
なお、前記ノズル液面の揺動はノズル内面とノズル液面の接触位置の移動を伴うことが望ましく、このようにすれば、ノズル内面とノズル液面の接触位置が移動しているので、より確実に乾燥による増粘や、インクの固化を防ぐことができる。
【0058】
(実施の形態2)
図3を参照して本発明の実施の形態2におけるインクジェット塗布方法および装置を説明する。図3は実施の形態2におけるインクジェット塗布装置の概略図であって、(a)は正面断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0059】
本実施の形態においては、図10に示す構成に加えて、ノズルヘッド10にインクを供給するインクタンク19とインクタンクの高さを制御するタンク高さ制御機構50とを備えている。タンク高さ制御機構50としては、モータによる駆動機構や、空圧式エアシリンダによる駆動機構や、カムによる駆動機構などが使用できる。
【0060】
本実施の形態では、インク滴を吐出しない待機時間にインクタンク19の高さを制御するタンク高さ制御機構50を用いてノズル液面を揺動させる。インクタンク19の高さは、インク流路における圧力損失に大きく影響されるが、例えば、高低差10〜10000mm、周期が0.01〜100sで変化させる。高低差が小さい場合は図2(a)のように、高低差が大きい場合は図2(b)のように、ノズル液面を揺動させることができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。また、その際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となる。
【0062】
また、高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。さらに、インクタンク19の高さを制御することによりノズルヘッド10に加わる圧力を変動させているので、ポンプで圧力を制御する構成に比べ、厳密な圧力シールが不要で安価で信頼性の高い製造が可能となる。
【0063】
なお、ノズル液面の揺動はノズル内面とノズル液面の接触位置の移動を伴うことが望ましく、このようにすれば、ノズル内面とノズル液面の接触位置が移動しているので、より確実に乾燥による増粘や、インクの固化を防ぐことができる。
【0064】
(実施の形態3)
図4を参照して本発明の実施の形態3におけるインクジェット塗布方法および装置を説明する。図4は実施の形態3におけるインクジェット塗布装置の概略図であって、(a)は正面断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0065】
本実施の形態においては、ノズルヘッド10の高さを制御するヘッド高さ制御機構60を備えている。ヘッド高さ制御機構60としては、モータによる駆動機構、空圧式エアシリンダによる駆動機構、カムによる駆動機構などが使用できる。
【0066】
本実施の形態では、インク滴を吐出しない待機時間にノズルヘッド10の高さを制御するヘッド高さ制御機構60を用いてノズル液面を揺動させる。ノズル11の高さは、インク流路における圧力損失に大きく影響されるが、例えば、高低差10〜10000mm、周期が0.01〜100sで変化させる。高低差が小さい場合は図2(a)のように、高低差が大きい場合は図2(b)のように、ノズル液面を揺動させることができる。
【0067】
以上のように、本実施の形態によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。また、その際、圧電素子を使用しないので、圧電素子の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッドの交換時期を延ばすことができる。
【0068】
さらに、ノズルヘッド10の高さを制御することにより、ノズルヘッド10に加わる圧力を変動させているので、ポンプで圧力を制御する構成に比べ、厳密な圧力シールが不要で安価で信頼性の高い製造が可能となる。また、小型のインクジェット装置などでは、インクタンクの高さを調整するより、ノズルヘッドの高さを調整する方が安価で信頼性が高い塗布が可能となる。
【0069】
なお、前記ノズル液面の揺動はノズル内面とノズル液面の接触位置の移動を伴うことが望ましく、このようにすれば、ノズル内面とノズル液面の接触位置が移動しているので、より確実に乾燥による増粘や、インクの固化を防ぐことができる。
【0070】
(実施の形態4)
図5を参照して本発明の実施の形態4におけるインクジェット塗布方法および装置を説明する。図5は実施の形態4におけるインクジェット塗布装置の概略図であって、(a)は正面断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0071】
本実施の形態においては、マニホールド部12にインクを供給する供給口71と、マニホールド部12からインクを排出する排出口72と、インクタンク19とマニホールド12の間でインクを循環させる循環機構73を備えている。インクタンク19とマニホールド12の間でインクを循環させる循環機構73としては液送用のポンプが使用される。
【0072】
本実施の形態では、インク滴を吐出しない待機時間に循環機構73が印加する圧力の変動を用いてノズル液面を揺動させる圧力を印加する。印加する圧力は、インク流路における圧力損失に大きく影響されるが、例えば、振幅が100〜100000Paで、周期が0.01〜100sで印加する。
【0073】
圧力振幅が小さい場合は図2(a)のように、圧力振幅が大きい場合は図2(b)のように、ノズル液面を揺動させることができる。
【0074】
以上のように、本実施の形態によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。また、その際、圧電素子14を使用しないので、圧電素子14の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッド10の交換時期を延ばすことができる。
【0075】
さらに、圧力室内で粘度が上昇したインクの一部が、循環しているインクと交換され、インクタンク19で大量のインクによって希釈されるため、粘度の増加を防止する効果が高く、より確実に不吐出や飛行曲がりを防止することができる。
【0076】
なお、ノズル液面の揺動はノズル内面とノズル液面の接触位置の移動を伴うことが望ましく、このようにすれば、ノズル内面とノズル液面の接触位置が移動しているので、より確実に乾燥による増粘や、インクの固化を防ぐことができる。
【0077】
(実施の形態5)
図5を参照して本発明の実施の形態4におけるインクジェット塗布方法および装置を説明する。図5は実施の形態4におけるインクジェット塗布装置の概略図であって、(a)は正面断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0078】
本実施の形態においては、ノズルヘッド10のノズル11を覆うキャップ81と、キャップ81の内部圧力を制御する圧力制御機構82とを備えている。キャップ81の内部圧力を制御する圧力制御機構82としては、ポンプやシリンダが使用できる。
【0079】
本実施の形態では、インク滴を吐出しない待機時間にキャップ81の圧力制御機構82を用いてノズル液面を揺動させる。キャップ81内の圧力はインク流路における圧力損失に大きく影響されるが、例えば、振幅が100〜100000Paで、周期が0.01〜100sで変化するように制御する。圧力振幅が小さい場合は図2(a)のように、圧力振幅が大きい場合は図2(b)のように、ノズル液面を揺動させることができる。
【0080】
以上のように、本実施の形態によれば、インクを吐出しない時間もノズル液面を揺動させるので、ノズル液面の表面でインクの粘度が増加することを防止し、不吐出や飛行曲がりを防止することができる。また、その際、圧電素子14を使用しないので、圧電素子14の寿命が短くなることはなく、長期にわたり安定な塗布が可能となるほか、高価なノズルヘッド10の交換時期を延ばすことができる。
【0081】
さらに、ノズル11内の圧力変動はないため、ノズル11内の部材に経年疲労を及ぼすことがなく、信頼性の高い塗布を実現できる。
【0082】
なお、ノズル液面の揺動はノズル内面とノズル液面の接触位置の移動を伴うことが望ましく、このようにすれば、ノズル内面とノズル液面の接触位置が移動しているので、より確実に乾燥による増粘や、インクの固化を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のインクジェット塗布方法および装置は、液滴吐出ヘッドを用いてデバイスを製造する製造方法および製造装置に広く適用可能であり、特に有機ELの製造に有効である。
【符号の説明】
【0084】
10 ノズルヘッド
11 ノズル
12 マニホールド部
14 圧電素子
16 圧力室
17 圧送機構
18 圧送制御部
19 インクタンク
50 タンク高さ制御機構
60 ヘッド高さ制御機構
73 循環機構
82 圧力制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴がノズルから吐出される方法であって、前記インク滴を前記ノズルから吐出しない待機時間に前記ノズルに形成された前記インク滴の液面を揺動させることを特徴とするインクジェット塗布方法。
【請求項2】
前記ノズルにインクを圧送する圧送機構の圧送圧力を制御する圧送制御部を用いて、前記インク滴の液面を揺動させることを特徴とする請求項1記載のインクジェット塗布方法。
【請求項3】
前記ノズルにインクを供給するインクタンクの高さを制御する機構を用いて、前記インク滴の液面を揺動させることを特徴とする請求項1記載のインクジェット塗布方法。
【請求項4】
前記ノズルの高さを制御する機構を用いて、前記ノズル滴の液面を揺動させることを特徴とする請求項1記載のインクジェット塗布方法。
【請求項5】
インク滴が吐出されるノズルに連通する圧力室にインクを供給するためのマニホールドと、インクタンクとの間でインクを循環させる循環機構を用いて、前記ノズル滴の液面を揺動させることを特徴とする請求項1記載のインクジェット塗布方法。
【請求項6】
前記ノズルを覆うキャップを備え、前記キャップ内の圧力の変動を用いて、前記ノズル滴の液面を揺動させることを特徴とする請求項1記載のインクジェット塗布方法。
【請求項7】
前記ノズル液面の揺動がノズル内面とノズル液面の接触位置の移動を含むことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のインクジェット塗布方法。
【請求項8】
インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子とを含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルヘッドにインクを圧送する圧送機構と圧送圧力を制御する圧送制御部とを備えたインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記圧送制御部がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成されたことを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項9】
インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子とを含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルヘッドにインクを供給するインクタンクとインクタンクの高さを制御する機構とを備えたインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記インクタンクの高さを制御する機構がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成されたことを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項10】
インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子とを含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルヘッドの高さを制御する機構とを備えたインクジェット塗布装置を用いて基板の所定領域にインク液滴を吐出し、塗布するインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記ノズルヘッドの高さを制御する機構がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成されたことを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項11】
インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子と、圧力室にインクを供給するためのマニホールドとを含んで構成されるノズルヘッドと、マニホールドにインクを供給する供給口と、マニホールドからインクを排出する排出口と、インクタンクとマニホールドの間でインクを循環させる循環機構を備えたインクジェット塗布装置を用いて基板の所定領域にインク液滴を吐出し、塗布するインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記循環機構がノズル液面を揺動させる圧力を印加するように構成されたことを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項12】
インク滴が吐出されるノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内のインクに圧力変化を与える圧電素子と、を含んで構成されるノズルヘッドと、前記ノズルを覆うキャップと、前記キャップの内部の圧力を制御する機構とを備えたインクジェット塗布装置であって、インク滴を吐出しない待機時間に前記キャップ内の圧力制御機構が発生する圧力変動がノズル液面を揺動させるように構成されたことを特徴とするインクジェット塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−264382(P2010−264382A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117582(P2009−117582)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】