説明

インクジェット式塗布装置

【課題】 複数のインクジェットヘッドへのインク供給系を簡素にしながら、各インクジェットヘッドのノズルにおけるインク圧力を負圧にすること。
【解決手段】 所定の方向に沿って配置された複数のインクジェット式の塗布ヘッド20を有し、供給源から供給された塗布液を前記塗布ヘッド20のノズルから液滴として吐出して基板上に塗布するインクジェット式塗布装置において、前記複数の塗布ヘッド20の上方に前記所定の方向に沿って前記複数の塗布ヘッド20の配置範囲にわたって設けられ、前記塗布液を収容する供給分岐タンク40と、前記供給分岐タンク40から前記複数の塗布ヘッド20のそれぞれに向けて分岐され前記供給分岐タンク40内の前記塗布液を各塗布ヘッド20に供給する複数の供給配管50と、前記供給分岐タンク40内の空間の圧力を調整可能にする圧力調整手段70とを有してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット式塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布液(以下「インク」と称す。)の液滴を吐出するノズルを有する複数のインクジェットヘッドを備えるインクジェット塗布装置では、特許文献1に記載の如く、インクジェットヘッドのノズル内におけるインクに作用する圧力を微小な負圧(インクジェットヘッドの各ノズルからインクが漏れ出しもせず、引き込まれもしない圧力)に保ちながら、各ノズルに対応して配置された圧電素子の作動制御により、各ノズルから所望吐出量のインクを吐出させることとしている。
【0003】
従来技術では、インクジェットヘッドへインクを供給する供給タンクを各インクジェットヘッドの水平方向の横方に配置し、インク供給タンク内のインクの液面を各インクジェットヘッドのノズルよりわずかに低く設定し、インク供給タンクから各インクジェットヘッドに向かうインク供給分岐配管によりインク供給タンク内のインクを各インクジェットヘッドへ供給するようにし、各インクジェットヘッド内におけるインクに作用する圧力を微小な負圧にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-275659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のインクジェット塗布装置には以下の問題点がある。
(1)インク供給タンクを各インクジェットヘッドの横方に配置するものであるから、インク供給タンクから各インクジェットヘッドに延在されるインク供給配管が長くなる。
【0006】
(2)インク供給配管が長くなり、インクの使用量がこのインク供給配管への充填分だけ多く必要になる。
【0007】
(3)インク供給タンクから各インクジェットヘッドへのインク供給配管長がインクジェットヘッド毎に異なるものになり、インクジェットヘッド毎に供給配管の流路抵抗が異なるから、各インクジェットヘッドのノズルから吐出されるインクの吐出量が均等にならない。
【0008】
本発明の課題は、複数のインクジェット式の塗布ヘッドへの塗布液の供給系を簡素にしながら、塗布液を良好に吐出することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、所定の方向に沿って配置された複数のインクジェット式の塗布ヘッドを有し、供給源から供給された塗布液を前記塗布ヘッドのノズルから液滴として吐出して基板上に塗布するインクジェット式塗布装置において、前記複数の塗布ヘッドの上方に前記所定の方向に沿って前記複数の塗布ヘッドの配置範囲にわたって設けられ、前記塗布液を収容する供給分岐タンクと、前記供給分岐タンクから前記複数の塗布ヘッドのそれぞれに向けて分岐され前記供給分岐タンク内の前記塗布液を各塗布ヘッドに供給する複数の供給配管と、前記供給分岐タンク内の空間の圧力を調整可能にする圧力調整手段とを有してなるようにしたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記圧力調整手段が、前記供給分岐タンク内の前記塗布液が各塗布ヘッドに及ぼす水頭を打ち消す負圧を該供給分岐タンク内の空間に及ぼし、各塗布ヘッドのノズル内において塗布液に作用する圧力を負圧に保つようにしたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において更に、前記圧力調整手段が、前記供給分岐タンク内の前記塗布液の液位を検出するための液面センサと、前記供給分岐タンク内の空間の圧力を検出するための圧力検出手段と、前記液面センサと前記圧力検出手段の検出結果に基づいて、前記供給分岐タンク内の前記塗布液が各塗布ヘッドに及ぼす水頭を打ち消す負圧を該供給分岐タンク内の空間に及ぼす負圧発生器とを有してなるようにしたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において更に、前記負圧発生器が真空エジェクタであるようにしたものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項3に係る発明において更に、前記負圧発生器が真空ポンプであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数のインクジェット式の塗布ヘッドへの塗布液の供給系を簡素にしながら、塗布液を良好に吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はインクジェット式塗布装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】図2は図1のインクジェット式塗布装置を示す側面図である。
【図3】図3はインク供給装置を示す模式図である。
【図4】図4はインク供給装置の変形例を示す模式図である。
【図5】図5はインク供給装置の圧力調整状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1と図2に示すこの発明のインクジェット式塗布装置はほぼ直方体状のベース1を有する。このベース1の下面の所定位置にはそれぞれ脚2が設けられており、上記ベース1を水平に支持している。
【0017】
図2に示すように、上記ベース1の上面の幅方向両端部には、長手方向に沿ってそれぞれ取付け板3が設けられている。これら取付け板3の上面の幅方向一端部には長手方向に沿ってそれぞれガイド部材4が設けられている。これらガイド部材4の上面には、矩形板状のXテーブル5が、その下面の幅方向両側に平行に設けられた断面ほぼ逆U字状の一対の受け部材6をスライド可能に係合させて支持されている。つまり、Xテーブル5は上記ガイド部材4に沿うX方向に移動可能となっている。
【0018】
上記ベース1の長手方向一端にはX駆動源7が設けられている。このX駆動源7はねじ軸8を回転駆動する。このねじ軸8は上記ベース1の長手方向に沿って回転可能に支持されて設けられ、上記Xテーブル5の下面に設けられたナット体9に螺合している。従って、上記X駆動源7によってねじ軸8が回転駆動されれば、上記Xテーブル5が図1に矢印で示すように上記ガイド部材4に沿うX方向に駆動されるようになっている。
【0019】
上記Xテーブル5の上面にはθテーブル11が水平面と直交する軸線を中心にして回転可能に設けられている。このθテーブル11は上記Xテーブル5に設けられたθ駆動源12によって回転方向に駆動されるようになっている。
【0020】
上記θテーブル11の上面には載置テーブル13が設けられている。この載置テーブル13にはアクティブマトリックス方式の液晶表示装置に用いられる矩形状のガラス製の基板Wが供給される。この基板Wは、上記載置テーブル13に下面が真空吸着や静電吸着等の手段によって吸着されて保持される。従って、載置テーブル13に保持された基板Wは上記Xテーブル5とθテーブル11とによってX方向とθ方向とに駆動されるようになっている。
【0021】
上記ベース1の長手方向中途部には上記一対のガイド部材4を跨ぐように門型の支持体14が立設されている。この支持体14の両側上部には角柱からなる取付け部材15が水平に架設されている。
【0022】
上記取付け部材15にはヘッドテーブル16が上記Xテーブル5の駆動方向であるX方向と直交する水平方向であるY方向(図2に矢印で示す)に沿って移動可能に設けられている。上記支持体14の幅方向一側にはY駆動源17が設けられている。このY駆動源17は上記ヘッドテーブル16をY方向に沿って駆動するようになっている。
【0023】
上記ヘッドテーブル16の一側面にはインクジェット方式によって機能性薄膜である、例えば配向膜を形成するポリイミド樹脂溶液等の塗布液(以下「インク」と称す。)をドット(液滴)状に吐出する複数のインクジェットヘッド20がY方向に沿って配置されている。この実施の形態では、例えば7つのヘッド20が千鳥状に二列で配置されている。
【0024】
上記インクジェットヘッド20は、基板Wの搬送方向に直交する方向である、Y方向に沿ってそれぞれの液室、及びこの液室に連通して下向きに開口するノズルを有し、各ノズルに対向して圧電素子がそれぞれ設けられている。後述するインク供給装置30がインクジェットヘッド20の各液室にインクを供給し、インクジェットヘッド20の各ノズルのノズル面(ノズルが外界に開口する面)においてインクに作用する圧力を微小な負圧(インクジェットヘッド20の各ノズルからインクが漏れ出しもせず、引き込まれもしない圧力)に保ちながら、各ノズルに対応する圧電素子の作動制御により、各ノズルから所望吐出量のインクを基板Wに吐出するものである。
【0025】
以下、複数のインクジェットヘッド20へのインク供給系を簡素にしながら、各インクジェットヘッド20のノズルにおいてインクに作用する圧力を負圧にするインク供給装置30の構成について説明する。
【0026】
インク供給装置30は、図3に示す如く、各インクジェットヘッド20(図3では4つのヘッド20だけを示している)の上方に配置され、インクを収容するインク供給分岐タンク40と、インク供給分岐タンク40から各インクジェットヘッド20のそれぞれに向けて分岐され、インク供給分岐タンク40内のインクを各インクジェットヘッド20に供給する複数のインク供給配管50を有している。インク供給分岐タンク40は、インクジェットヘッド20の配列方向の長さと同等或いは同等以上の長さにわたって延設される。インク供給配管50は、本実施例では、インク供給分岐タンク40から各インクジェットヘッド20のそれぞれに連通する2本の供給管51、52からなり、それらの供給管51、52に開閉弁A、Bを介装している。インク供給分岐タンク40のインクがインク供給配管50の供給管51、52から各インクジェットヘッド20が備える複数の液室に供給される。インク供給配管50は唯1本の供給管51だけからなるものでも良い。各インクジェットヘッド20に供給されたインクを回収タンク等へ返送する返送管を各インクジェットヘッド20に接続することもできる。
【0027】
インク供給装置30は、インク供給分岐タンク40にインクを充填するインク充填手段60を有している。インク充填手段60は、図3に示す如く、インク供給源としての加圧タンク61を有し、N2ガス源から加圧供給されるN2ガスをN2ガス配管62の圧力調整器63、開閉弁C経由で加圧タンク61の上部空間に印加し、このN2ガスにより加圧タンク61内のインクを加圧し、インク充填配管64の開閉弁D、フィルタ65経由でインク供給分岐タンク40の一側に設けてあるオーバーフロー室41に圧送する。インク充填配管64からオーバーフロー室41に圧送されてオーバーフロー室41の内壁に沿って流下したインクは、オーバーフロー室41の側傍に設けてある仕切板42をオーバーフローしてインク供給分岐タンク40内に充填される。
【0028】
尚、インク充填手段60は、各インクジェットヘッド20やノズルの気泡抜き、又は各インクジェットヘッド20のノズルの異物によるつまりを解消するため、N2ガスをN2ガス配管66の圧力調整室67、開閉弁E、流量計68、フィルタ69経由でインク供給分岐タンク40の上部空間に印加する。インク供給分岐タンク40内のインクが上述のN2ガスより加圧された状態で、インク供給配管50を介してインクジェットヘッド20の各液室及びノズルに送り込まれることで、その加圧されたインクの流れによって液室及びノズル内の気泡、異物が排出される。
【0029】
インク供給装置30は、インク供給分岐タンク40内の上部空間の圧力を調整可能にする圧力調整手段70を有している。圧力調整手段70は、インク供給分岐タンク40内のインクが各インクジェットヘッド20に及ぼす水頭H(インク供給分岐タンク40内のインクの液面がインクジェットヘッド20の各ノズルのノズル面に対してなす高さの差H)を打ち消す負圧Pxを、インク供給分岐タンク40内の上部空間に及ぼし、結果として各インクジェットヘッド20のノズルのノズル面におけるインク圧力を微小負圧に保つものである。
【0030】
圧力調整手段70は、液面センサ71と圧力検出手段72と負圧発生器73とを有して構成される。
【0031】
液面センサ71はインク供給分岐タンク40内の底部〜上部空間に連通する液位管71Aを有して構成され、インク供給分岐タンク40内のインクの液位を測定し、この液位から該インクが各インクジェットヘッド20に及ぼす水頭Hを検出する。
【0032】
圧力検出手段72はインク供給分岐タンク40内の上部空間に連通する圧力センサ72Aにより構成され、インク供給分岐タンク40内の上部空間の圧力を検出する。
【0033】
負圧発生器73はインク供給分岐タンク40内の上部空間に直に連通される真空エジェクタ73Aを有して構成される。空圧源から供給される圧縮空気が空圧配管74の圧力調整器75、開閉弁F、流量計76、フィルタ77経由で真空エジェクタ73Aの絞り部を通過し、開閉弁Gから排気される。空圧源における圧縮空気の元圧の調整により、真空エジェクタ73Aがインク供給分岐タンク40内の上部空間に及ぼす負圧Pxを調整できる。
【0034】
上述した、X駆動源7、θ駆動源12、Y駆動源17、インクジェットヘッド20の圧電素子、インク供給装置30の各開閉弁A〜Gは、それぞれ不図示の制御装置によって制御される。
【0035】
以下、インク供給装置30が各インクジェットヘッド20の液室にインクを供給する手順について説明する。
【0036】
(1)インク供給装置30において、開閉弁A〜Gを閉じ、加圧タンク61にインクを貯留した状態を初期状態とする。
【0037】
(2)開閉弁Gを開き、インク供給分岐タンク40の上部空間を大気圧にする。
【0038】
(3)開閉弁C、Dを開き、加圧供給されるN2ガスにより加圧された加圧タンク61内のインクをインク供給分岐タンク40内に標準液位L0(インク供給分岐タンク40内のインクが各インクジェットヘッド20に及ぼす水頭Hが標準水頭H0になる液位)より上位の上限レベルLuまで充填した後、開閉弁C、Dを閉じる。
【0039】
(4)開閉弁Gを閉じ、開閉弁Eを開き、N2ガスによりインク供給分岐タンク40の上部空間を加圧し、開閉弁A、Bを開く。これにより、インク供給配管50内及び各インクジェットヘッド20の流路、液室、並びにノズル内にインクが供給される。予め設定された時間(インク供給配管50内及び各インクジェットヘッド20内にインクを充填するに充分な時間)が経過したならば開閉弁Eが閉じられる。ここで、上限レベルLuは標準液位L0にインク供給配管50内及び各インクジェットヘッド20内に充填するに要するインク量を加えた液位に設定されているから、開閉弁Eが閉じられたとき、インク供給分岐タンク40内の液面は標準液位L0(標準水頭H0)になる。
【0040】
開閉弁Eを閉じたならば、直ちに、開閉弁F、Gを開き、真空エジェクタ73Aにより、インク供給分岐タンク40内のインクが各インクジェットヘッド20に及ぼす標準水頭H0を打ち消す負圧Pxがインク供給分岐タンク40内の上部空間に付与される。これにより、各インクジェットヘッド20のノズルのノズル面におけるインク圧力が微小負圧に保たれる。この状態において、各インクジェットヘッド20のノズルのノズル面はワイピングされる。即ち、インク供給配管50内及び各インクジェットヘッド20内にインクを充填する際、各インクジェットヘッド20のノズルからはインクが流出するので、インクジェットヘッド20のノズル面には流出したインクが付着している。そのため、ノズル面に付着したインクを取り除くため、ノズル面に沿って弾性材で形成されたブレード状のワイピング部材や吸水性材料で形成されたワイピング部材を摺動させる。
【0041】
(5)各インクジェットヘッド20のノズルに対応する圧電素子が作動され、それらのノズルから所望量のインクが吐出される。
【0042】
例えば、載置テーブル13上に載置されて搬送される基板W上の塗布領域にインクを塗布して塗布領域に配向膜を形成する場合、各インクジェットヘッド20のノズルの下を基板W上の塗布領域が通過するタイミングに合わせて、塗布領域に対向するノズルからインクを所定の周期で吐出させる。
【0043】
各インクジェットヘッド20のノズルからの吐出動作が何回か繰り返され、インク供給分岐タンク40内の液面レベルが標準液位L0より下位の下限レベルLdまで下がると、液面センサ71がそれを検知する。液面センサ71が液面レベルの下限レベルLdへの到達を検知すると、開閉弁C、Dを開き、前述(3)と同様にしてインク供給分岐タンク40内の液面レベルを標準液位L0に戻す。即ち、インク供給分岐タンク40内の液面レベルが標準液位L0に到達すると液面センサ71がそれを検知するので、この検知信号に基づき、開閉弁C、Dを閉じる。この間、真空エジェクタ73Aによる上述(4)の圧力調整動作は継続される。
【0044】
(6)各インクジェットヘッド20のノズルからインクの吐出を繰り返し行なっている間に、ノズルの異物によるつまりを生じたときには、異物の除去動作を行なう。
【0045】
各インクジェットヘッド20のノズルからインクの吐出を停止させた状態で、開閉弁F、Gを閉じ、開閉弁Eを開き、N2ガスをインク供給分岐タンク40の上部空間に供給し、これによって加圧されるインク供給分岐タンク40内のインクがインク供給配管50内及び各インクジェットヘッド20内に押し流されることによって生じるインクの加圧流によりノズル内の異物を排出する。
【0046】
予め設定された時間が経過した後、開閉弁Eを閉じ、開閉弁F、Gを開き、真空エジェクタ73Aによる前述(4)の圧力調整動作により、インク供給分岐タンク40内の上部空間に負圧Pxを及ぼし、各インクジェットヘッド20のノズルのノズル面におけるインク圧力を微小負圧に保つ。
【0047】
このとき、インク供給分岐タンク40内の液面レベルが下限レベルLdまで下がっていれば、液面センサ71の検知に基づき開閉弁C、Dを開き、前述(3)と同様にしてインク供給分岐タンク40内の液面レベルを標準液位L0に戻す。また、各インクジェットヘッド20のノズルのノズル面をワイピングして前述(5)のインクを吐出可能状態に戻る。
【0048】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)各インクジェットヘッド20の上方にインク供給分岐タンク40を配置し、インク供給分岐タンク40内の空間の圧力を調整可能にする圧力調整手段70を設けた。圧力調整手段70によりインク供給分岐タンク40内の空間の圧力を調整し、ひいては各インクジェットヘッド20の各ノズルのノズル面においてインクに作用する圧力を微小な負圧(インクジェットヘッド20の各ノズルからインクが漏れ出しもせず、引き込まれもしない圧力)に保つことができる。
【0049】
そのため、インクジェットヘッド20の上方にインク供給分岐タンク40を配置しながらインクジェットヘッド20の各ノズルからのインクの吐出を良好に行なうことができる。従って、基板Wにインクとしてポリイミド溶液を塗布して配向膜を形成する場合に、基板W上に必要量のインクを精度良く吐出して塗布することができるので、基板W上に所望の塗布量でインクを塗布することができ、所望する膜厚の配向膜を精度良く形成することができる。
【0050】
(b)各インクジェットヘッド20の上方に、インクジェットヘッド20の配列方向の長さと同等の長さにわたって延設したインク供給分岐タンク40を配置し、このインク供給分岐タンク40から各インクジェットヘッド20のそれぞれにインクを供給するインク供給配管50を並列に分岐した。
【0051】
従って、インク供給分岐タンク40から各インクジェットヘッド20に延在されるインク供給配管50は短く、このインク供給配管50に充填するインク使用量も少なくなる。
【0052】
インク供給分岐タンク40から各インクジェットヘッド20へのインク供給配管50の配管長を互いに同等化でき、各インクジェットヘッド20のノズルから吐出されるインク吐出量が均等になる。これにより、各インクジェットヘッド20の各ノズルからのインクの吐出精度が向上するので、基板Wに対するインクの塗布精度が向上し、基板上に形成される配向膜の膜厚精度がより一層向上する。
【0053】
(c)圧力調整手段70が、インク供給分岐タンク40内のインクが各インクジェットヘッド20に及ぼす水頭Hを打ち消す負圧Pxを該インク供給分岐タンク40内の上部空間に及ぼし、各インクジェットヘッド20のノズルにおけるインク圧力を負圧に保つことができる。
【0054】
(d)圧力調整手段70が、液面センサ71と圧力検出手段72と負圧発生器73により構成され、上述(c)を確実に実施できる。
【0055】
(e)上述(d)の負圧発生器73として真空エジェクタ73Aを採用できる。
【0056】
図4に示した変形例は、図1〜図3に示した実施例の圧力調整手段70に代わる圧力調整手段80を用いたものである。図4では、インク充填手段60を図示省略している。
【0057】
圧力調整手段80は、圧力調整手段70の液面センサ71(液位管71A)と同様の液面センサ81(液位管81A)と、圧力調整手段70の圧力検出手段72に代わる圧力検出手段82と、圧力調整手段70の負圧発生器73に代わる負圧発生器90とを有して構成される。
【0058】
液面センサ81はインク供給分岐タンク40内の底部〜上部空間に連通する液位管81Aにより構成され、インク供給分岐タンク40内のインクの液位を測定し、この液位から該インクが各インクジェットヘッド20に及ぼす水頭Hを検出する。
【0059】
圧力検出手段82は、U字管83のU字の一方の縦管83Aの上端を液位管81Aの上部を介してインク供給分岐タンク40の上部空間に連通し、他方の縦管83Bの上端を大気に開放している。そして、縦管83Aの中間部と液位管81Aの下部とを開閉弁84を介して連通し、縦管83Bの上端部とインク供給分岐タンク40の上部空間とを開閉弁85を介して連通している。圧力検出手段82は縦管83Aの所定の高さに液面センサ86を配置し、縦管83Aの液面が縦管83Bの液面に対してなす高さの差(H+α)を検出する。
【0060】
圧力検出手段82はU字管83の液面の高さの差(H+α)でインク供給分岐タンク40内の圧力を測定できる。インク供給分岐タンク40内の圧力が、インクジェットヘッド20の各ノズルのノズル面においてインクに作用する圧力を微小な負圧(インクジェットヘッド20の各ノズルからインクが漏れ出しもせず、引き込まれもしない圧力)にするときにU字管83のインク供給分岐タンク40側の縦管83Aの液面が到達する位置に液面センサ86が配置されている。図4は、このときの状態を示している。尚、液面センサ86は、レーザ光等のスポット光を照射する投光部と受光部とを縦管83Aを挟んで対向して配置した検出器を2つ、所望の液面高さを中央として上下に1mm間隔で配置して構成されてなる。即ち、検出器は、光源から照射されるスポット光が縦管83A内のインクによって遮られることによって受光部に生じる受光量の変化(減少)からインクの液面の到達を検出する。例えば、スポット光がインクで遮られない状態でON信号を、遮られた状態でOFF信号を出力する。従って、下側に配置した検出器がOFF信号を出力し、上側に配置した検出器がON信号を出力するように維持するようにインク供給分岐タンク40内の圧力を制御することで、インク供給分岐タンク40内の圧力を所望の圧力で一定に制御することができる。
【0061】
図5(A)は、U字管83にインクを充填するときの状態を示している。このときには、開閉弁84、85を開く。インク供給分岐タンク40内のインクがU字管83に流れ込み、インク供給分岐タンク40内の液面高さ、液面高さ検出用縦管81Aの管内の液面高さ、U字管83のインク供給分岐タンク40側の縦管83Aと大気開放側の縦管83Bの液面高さのいずれもが同じ高さになる。U字管83にインクが充填されたならば、開閉弁84、85を閉じる。U字管83には、インク供給分岐タンク40内のインクと同じ液が充填されているから、図4に示すように、インク供給分岐タンク40内の圧力がインクジェットヘッド20の各ノズルからインクが漏れ出しもせず、引き込まれもしない圧力となったときには、U字管83のインク供給分岐タンク40側の縦管83Aと大気開放側の縦管83Bの液面高さの差が、インク供給分岐タンク40内の液面高さとインクジェットヘッド20の各ノズルのノズル面の高さとの差Hと理論的には等しくなる。しかしながら、実際には、流路抵抗等があるので、U字管83のインク供給分岐タンク40側の縦管83Aと大気開放側の縦管83Bの液面高さの差がH+αとなるように、インク供給分岐タンク40内の圧力を調整している。
【0062】
図5(B)は、負圧発生器90の開閉弁93、95を閉じたときのU字管83内のインクの状態を示したものである。
【0063】
負圧発生器90は、インク供給分岐タンク40内の上部空間に連通される真空ポンプ91により構成される。真空ポンプ91をインク供給分岐タンク40に連通する真空配管92に、開閉弁93を介装した管路と、圧力調整弁94及び開閉弁95を介装した管路とを並列に設けている。
【0064】
開閉弁93、95を開いたときに、インク供給分岐タンク40内の圧力がインクジェットヘッド20の各ノズルのノズル面においてインクに作用する圧力を微小な負圧(インクジェットヘッド20の各ノズルからインクが漏れ出しもせず、引き込まれもしない圧力)になるように、圧力調整弁94の開度が調整される。
【0065】
開閉弁93を閉じて開閉弁95を開くと、圧力調整弁94を介した弱い減圧のみになるので、インク供給分岐タンク40内の圧力は上昇し、開閉弁93、95を開いたときよりも弱い減圧雰囲気になる。そのため、インクジェットヘッド20の各ノズルからインクがこぼれ出す。これを利用して、インクジェットヘッド20内やノズル内の気泡抜き等を行なう。
【0066】
尚、インクジェットヘッド20内やノズル内の気泡抜き等を行なうときは、開閉弁93、95を閉じ、開閉弁85を開いてインク供給分岐タンク40内を大気圧にしたり、開閉弁84、85、93、95を全て閉じ、N2ガス配管66からN2ガスをインク供給分岐タンク40内に加圧供給したりするようにしても良い。
【0067】
このような、圧力検出手段82を用いることによって、インク供給分岐タンク40内の圧力を簡易な構成によって精度良く制御することが可能となる。即ち、U字管83内のインクには、大気に連通する側の縦管83Bと負圧であるインク供給分岐タンク40に連通する側の縦管83Aとで、液体の比重とインク供給分岐タンク40内圧力と大気圧との差圧に応じた高低差が生じる。仮に、インクの比重を1とすれば、1気圧(101kPa)あたり10mの高低差が生じることとなるので、僅か10Pa(1/10000気圧)の圧力変化を1mmの液面高さの変動で知ることができることになる。そこで、液面センサ86を用いて1mmの液面高さの範囲で維持することで、インク供給分岐タンク40内の圧力を所望する圧力に対して10Paの範囲で保つことが可能となる。
【0068】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0069】
例えば、液面センサ86としてスポット光を利用した投受光式の検出器を用いた例を示したが、縦管83Aに沿う縦方向のスリット光を照射する投光部と、縦方向に受光素子を配列したラインセンサ等の受光部からなる検出器や、CCDカメラ等のエリア式イメージセンサ等を用いた検出器を用いても良い。
【0070】
尚、液面センサ71、81については詳述しなかったが、液面センサ86と同様の構成のものを採用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、複数のインクジェット式の塗布ヘッドへのインク供給系を簡素にしながら、各インクジェットヘッドのノズルにおけるインク圧力を負圧にすることができる。
【符号の説明】
【0072】
20 インクジェットヘッド
30 インク供給装置
40 インク供給分岐タンク
50 インク供給配管
70 圧力調整手段
71 液面センサ
72 圧力検出手段
73 負圧発生器
73A 真空エジェクタ
80 圧力調整手段
81 液面センサ
82 圧力検出手段
90 負圧発生器
91 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に沿って配置された複数のインクジェット式の塗布ヘッドを有し、供給源から供給された塗布液を前記塗布ヘッドのノズルから液滴として吐出して基板上に塗布するインクジェット式塗布装置において、
前記複数の塗布ヘッドの上方に前記所定の方向に沿って前記複数の塗布ヘッドの配置範囲にわたって設けられ、前記塗布液を収容する供給分岐タンクと、
前記供給分岐タンクから前記複数の塗布ヘッドのそれぞれに向けて分岐され前記供給分岐タンク内の前記塗布液を各塗布ヘッドに供給する複数の供給配管と、
前記供給分岐タンク内の空間の圧力を調整可能にする圧力調整手段とを有してなるインクジェット式塗布装置。
【請求項2】
前記圧力調整手段が、前記供給分岐タンク内の前記塗布液が各塗布ヘッドに及ぼす水頭を打ち消す負圧を該供給分岐タンク内の空間に及ぼし、各塗布ヘッドのノズル内において塗布液に作用する圧力を負圧に保つ請求項1に記載のインクジェット式塗布装置。
【請求項3】
前記圧力調整手段が、
前記供給分岐タンク内の前記塗布液の液位を検出するための液面センサと、
前記供給分岐タンク内の空間の圧力を検出するための圧力検出手段と、
前記液面センサと前記圧力検出手段の検出結果に基づいて、前記供給分岐タンク内の前記塗布液が各塗布ヘッドに及ぼす水頭を打ち消す負圧を該供給分岐タンク内の空間に及ぼす負圧発生器とを有してなる請求項2に記載のインクジェット式塗布装置。
【請求項4】
前記負圧発生器が真空エジェクタである請求項3に記載のインクジェット式塗布装置。
【請求項5】
前記負圧発生器が真空ポンプである請求項3に記載のインクジェット式塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−206739(P2011−206739A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79286(P2010−79286)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】