説明

インクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】より高い放熱性を有するインクジェット記録ヘッド、および該インクジェット記録ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】インクジェット記録ヘッド1は、は、インクに熱を加えて該インクが吐出するための圧力をインクに付与するインク吐出部2と、インク吐出部2を第一面3aに備え、第一面3aとは反対側の第二面3bに少なくとも一つの凹部9を有する基板3と、インク吐出部2から基板3へ伝えられた熱を外部へ放出する放熱部材8であって、凹部9の形状に合わせて形成された凸部10を有し、凸部10が凹部9に埋め込まれた状態で第二面3bに接合された放熱部材8と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット記録ヘッド、および該インクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを吐出して被記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置には、インクを吐出するためのインクジェット記録ヘッドが搭載されている。
【0003】
インクジェット記録ヘッドとして、熱エネルギを利用してインク滴を吐出するインク吐出部を基板上に備えたものがある。インク吐出部は、供給されたインクに熱を加えることにより該インクに吐出圧力を付与する発熱抵抗素子と、インクを吐出するためのノズルが形成されたノズルプレートと、を含んでいる。ノズルプレートの片側面には溝が形成されており、該片側面が基板に当接するようにノズルプレートが基板に設けられ、該溝と基板とでインク流路が形成されている。
【0004】
発熱抵抗素子は、インク流路に貯留されているインクに熱を加えることができる基板上の位置に配置されている。所望のタイミングで発熱抵抗素子が熱を発生することでインク流路に貯留されているインクが加熱される。加熱されたインクが沸騰することで生じる発泡圧によってインク流路のインクが、インク流路と連通されているノズルから吐出される。
【0005】
このようなインクジェット記録ヘッドでは、発熱抵抗素子から発生する熱が基板にも伝わり、該基板の温度が上昇することがある。
【0006】
基板の温度が上昇すると、インク流路中のインクが基板の熱により加熱される。すなわち、発熱抵抗素子が熱を発生していない状態であってもインクが加熱され、インクがより沸騰しやすい状態になる。したがって、発熱抵抗素子が熱を発生したときに、基板により加熱されていないインクに比べてより短い時間で吐出される。その結果、所望のタイミングとは異なったタイミングでインクが吐出され、記録画像の品位の低下を招いていた。
【0007】
また、基板の熱がノズルプレートに伝わり、ノズルの形状が変形することがある。ノズルの形状が変形することにより、インク滴の大きさや吐出方向が変わり、インク滴の着弾点が所望の位置からずれ、記録画像の品位の低下を招くことがあった。
【0008】
そこで、特許文献1では、基板の熱を放出する放熱部材を基板に備えた構造が開示されている。放熱部材から基板の熱を放出することによって、基板の温度上昇を抑えることができ、基板によるインクの加熱や、ノズルの形状の変形を抑制することができる。その結果、記録画像の品位の低下を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−144157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年では、より高い画像品位でより速く記録を行うことができるインクジェット記録ヘッドが求められている。
【0011】
画像品位を高めるためにはノズルの高密度化が有効であり、それに伴って、発熱抵抗素子をより高い密度で基板に配置することが提案されている。そのため、このようなインクジェット記録ヘッドでは、より多くの熱が基板に伝わりやすい。
【0012】
また、より速く記録を行うために、発熱抵抗素子が熱を発生するタイミングの間隔を短縮することが提案されている。この場合、発熱抵抗素子が単位時間当たりに発生する熱量がより大きくなる。
【0013】
発熱抵抗素子の配置の高密度化や、発熱抵抗素子を発熱させるタイミングの間隔の短縮化により、特許文献1で開示されている構造では、基板から放熱部材へ伝わる熱量よりも、発熱抵抗素子から基板へ伝わる熱量が大きくなることがあった。その結果、基板の熱が十分に放出されずに、基板の温度が上昇し、記録品位の低下を招く虞があった。
【0014】
そこで、本発明は、より高い放熱性を有するインクジェット記録ヘッド、および該インクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様に係るインクジェット記録ヘッドは、内部に供給されたインクに熱を加えることにより該インクを外部へ吐出するための圧力を該インクに付与するインク吐出部と、インク吐出部を第一面に備え、該第一面とは反対側の第二面に少なくとも一つの凹部を有する基板と、インク吐出部から基板へ伝えられた熱を外部へ放出する放熱部材であって、凹部の形状に合わせて形成された凸部を有し、該凸部が凹部に埋め込まれた状態で第二面に接合された放熱部材と、を備えている。
【0016】
また、本発明の一つの態様は、内部に供給されたインクに熱を加えることにより該インクを外部へ吐出するための圧力を該インクに付与するインク吐出部と、該インク吐出部を第一面に備え、該第一面とは反対側の第二面に少なくとも一つの凹部を有する基板と、インク吐出部から該基板へ伝えられた熱を外部へ放出する放熱部材であって、凹部の形状に合わせて形成された凸部を有し、該凸部が凹部に埋め込まれた状態で第二面に接合された放熱部材と、を備えたインクジェット記録ヘッドの製造方法に係る。この態様において、基板の第二面に少なくとも一つの凹部を形成する凹部形成工程と、凹部に放熱部材の材料を充填した状態で第二面を覆うようにして放熱部材を形成する放熱部材形成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より高い放熱性を有するインクジェット記録ヘッド、および該インクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの断面図。
【図2】第一の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図3】本発明の第二の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの断面図。
【図4】第二の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図5】本発明の第三の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るインクジェット吐出ヘッドおよび該インクジェット吐出ヘッドの製造方法について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
(実施例1)
図1(a)および(b)は、本発明の第一の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの断面図である。図1(a)に示すように、インクジェット記録ヘッド1は、内部に供給されたインクに熱を加えることにより該インクを外部へ吐出するための圧力を該インクに付与するインク吐出部2と、インク吐出部2を第一面3aに備えた基板3とを備えている。
【0021】
なお、図1(a)は、基板3の第一面3aと垂直に交わる面(図1(b)に示すA−A面)で切断したときの断面図である。また、図1(b)は、基板3の第一面3aと平行な面(図1(a)に示すB−B面)で切断したときの断面図である。
【0022】
インク吐出部2は、インクに熱を加えて吐出圧力を付与する発熱抵抗素子4と、インクを吐出するためのノズル5が形成されたノズルプレート6と、を含んでいる。ノズルプレート6は基板3の第一面3aに設けられている。ノズルプレート6の、基板3側の面には溝が形成されており、基板3の第一面3aと当該溝とで、インク流路7が形成されている。
【0023】
発熱抵抗素子4は、インク流路7内またはその近傍に、基板3に設けられている。発熱抵抗素子4が熱エネルギを発生することによって、インク流路7中のインクが加熱される。加熱されたインクが沸騰してインクに発泡圧が生じ、該発泡圧がインクの吐出力となる。インク流路7およびノズル5は連通しており、インク流路7において発熱抵抗素子4から吐出力を付与されたインクはノズル5から吐出される。
【0024】
また、インクジェット記録ヘッド1には、基板3よりも熱伝導率が高く熱を放出しやすい材料からなる放熱部材8が、基板3の第二面3bに設けられている。発熱抵抗素子4が熱を発生した場合、該熱はインク流路7中のインクだけでなく、基板3へも伝わる。基板3へ伝わった熱は、放熱部材8へ伝わり、放熱部材8からインクジェット記録ヘッド1の外部(例えばインクジェット記録ヘッド1の周囲の雰囲気や放熱部材8に当接して設けられた不図示の部品)へ放熱される。
【0025】
放熱部材8の熱伝導率は基板3よりも高いため、放熱部材8がないインクジェット記録ヘッドに比べ、基板3からインクジェット記録ヘッドの外部へ熱が放出されやすくなっている。すなわち、基板3の、発熱抵抗素子4による昇温をより抑制することができ、基板3によるインクの昇温を防ぐことが可能となる。
【0026】
また、放熱部材8を第二面3bに設けることにより、発熱抵抗素子4から発せられた熱が第二面3bへ向かって移動しやすくなる。したがって、基板3から、第一面3aに設けられたノズルプレート6への熱移動が抑制され、ノズルプレート6の昇温によるノズル5の変形を防ぐことが可能となる。
【0027】
さらに、基板3の第二面3bの、放熱部材8が設けられている領域には、少なくとも一つの凹部9が形成されている。また、放熱部材8は、凹部9の形状に合わせて形成された凸部10を有しており、凸部10が凹部9に埋め込まれた状態で、放熱部材8が第二面3bに接合されている。
【0028】
したがって、基板3と放熱部材8との接触面積は、凹凸のない平面で接触している場合に比べて大きくなっており、基板3から放熱部材8へ熱がより伝わりやすくなっている。すなわち、基板3およびノズルプレート6の昇温をより抑制することができ、基板3によるインクの昇温およびノズルプレート6の昇温によるノズル5の変形をより防ぐことが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態では、凹部9は穴形状を有し、凸部10は該穴形状に一致する柱形状を有している。もちろん、他の形状、例えば凹部9が溝形状を有し、凸部10が該溝形状に一致する突起形状を有するものであってもよい。
【0030】
また、インクジェット記録ヘッド1に、インクジェット記録ヘッド1の外部(例えば不図示のインクタンク)からインク流路7へインクを供給するためのインク供給路11が、基板3および放熱部材8を貫通するように形成されていてもよい。第二面3bに形成された、インク供給路11の開口部と不図示のインクタンクとが接続されて、該インクタンクからインク流路7へインクが供給される。
【0031】
基板3および放熱部材8を貫通する貫通穴をインク供給路11とすることにより、より容易に、かつより少ない部品でインク供給路11を有するインクジェット記録ヘッド1を製造することが可能となる。
【0032】
次に、図1に示すインクジェット記録ヘッド1の製造方法について、図2を用いて説明する。図2(a)〜(f)は、インクジェット記録ヘッド1の製造方法を説明するための断面図である。
【0033】
ここでは、基板3に単結晶シリコンウェハを用い、六フッ化硫黄および酸素の混合ガスを使用したドライエッチングにより単結晶シリコンウェハを加工して基板3を形成する製造方法について説明する。なお、基板3の形状によっては、反応性イオンを用いたドライエッチングや等方性ウェットエッチング、異方性ウェットエッチングで単結晶シリコンウェハを加工してもよい。
【0034】
まず、図2(a)に示すように、発熱抵抗素子4、インク流路7およびノズル5(図1)となる範囲形成された型材12、およびノズルプレート6を第一面3aに備えた基板3を用意する。
【0035】
発熱抵抗素子4、型材12およびノズルプレート6の形成には、プラズマを用いた化学気相蒸着法(CVD:Chemical Vaper Deposition)やスパッタ蒸着法などの成膜手法を用いることができる。また、発熱抵抗素子4の形成にはフォトレジストマスクを用いたエッチングを適用することができる。
【0036】
発熱抵抗素子4や型材12を形成するときに、耐エッチング性を有するエッチングストップ層(不図示)や、発熱抵抗素子4へ電気信号を伝える導体(不図示)を基板3の第一面3aに形成してもよい。
【0037】
エッチングストップ層は、基板3をドライエッチングにより加工する際には基板3に対して十分に遅く除去されるものが望ましい。このようなエッチングストップ層の材料として、アルミニウムやシリコン酸化物等が挙げられる。また、エッチングストップ層の除去剤には基板3に対して速く除去されるものが望ましく、フッ化水素酸や、リン酸および硝酸混合物が挙げられる。
【0038】
エッチングストップ層や導体のパターニングには、フォトレジストマスクを用いたエッチングを適用することができる。
【0039】
次に、基板3の第二面3bに凹部9を形成する凹部形成工程に移る(図2(b))。凹部9の形成は、開口部を有するレジストパターン(不図示)を第二面3bに形成し、第二面3bをエッチングすることにより行う。レジストパターンの開口部は凹部9が形成される位置に設けられており、エッチングにより該開口部における単結晶シリコンウェハが除去されて凹部9が形成される。凹部9を形成した後、レジストパターンを基板3から剥離する。
【0040】
続いて、基板3の第二面3bに放熱部材8を形成する放熱部材形成工程に移る(図2(c))。このとき、凹部9に放熱部材8を充填した状態で第二面3bを覆うように放熱部材8を形成する。このように放熱部材8を形成することによって、凹部9の形状に合わせて形成された凸部10を有する放熱部材8を比較的容易に得ることができる。
【0041】
放熱部材8の、基板3とは反対側の面8aは、基板3の第二面3bの形状、すなわち凹部9の影響を受けて、凹凸形状を有することがある。放熱部材8の面8aに研磨処理を施し、面8aを平坦化することがより好ましい。
【0042】
放熱部材8の材料には、単結晶シリコンよりも熱伝導率が高く、耐インク性が比較的高いAu,Ta,Pt,Irなどの金属、あるいはこれらの金属の少なくとも2つ以上よりなる合金が望ましい。また、Auなどの金属を用いる場合、凹部9の内部にまで十分に充填されるように、電気めっき法により放熱部材8を形成するとよい。めっき厚さは40μm〜70μm程度がよい。
【0043】
電気めっき法を用いて放熱部材8を形成する場合には、基板3に比較的強固に放熱部材8が固着されるように、凹部9の内側面を含む第二面3bにめっきシード層(不図示)を成膜してもよい。めっきシード層としては、Ti/Au,TiW,Ti/Pdなどを用いることができる。Ti/Auの場合、膜厚は、Ti:2000Å,Au:4000Åが望ましい。もちろんこの膜厚に限定されるものではない。
【0044】
めっきシード層の成膜方法としては、蒸着法が挙げられる。蒸着法を用いる場合、蒸着方向に対する第二面3bの角度を変化させることによって、凹部9の底面および側面にめっきシード層を形成することができる。
【0045】
図2(d)および(e)は、図1に示すインク供給路11を形成する工程を示す断面図である。図2(d)に示すように、インク供給路11となる領域の放熱部材8を除去してインク供給路11の一部を形成するとともに、インク供給路11が形成される位置の第二面3bを露出させる。放熱部材8にAuを用いた場合には、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いたエッチングによりAuを除去することで、放熱部材8にインク供給路11の一部を形成することができる。
【0046】
基板3の第二面3bにめっきシード層(不図示)を形成している場合には、インク供給路11に対応する領域のめっきシード層を除去する。めっきシード層にTi/Auを用いた場合、めっきシード層を除去するには過酸化水素を用いたエッチングにより除去すればよい。
【0047】
次に、図2(e)に示すように、インク供給路11となる領域の基板3を除去し、インク供給路11を形成する。インク供給路11の形成は、CF系の反応性イオンを用いたドライエッチングにより行うことができる。
【0048】
Auなどの金属は、ドライエッチングにおいて単結晶シリコンウェハに比べて除去される速度が十分に遅い。したがって、放熱部材8をAuなどの金属で形成した場合には、放熱部材8の残存部をエッチングマスクとしてドライエッチングにより基板3を加工することができる。放熱部材8をエッチングマスクとして用いることにより、ドライエッチングのためのエッチングマスクを別途形成する工程を省略することができる。
【0049】
続いて、図2(f)に示すように、型材12(図2(a))を除去し、インク流路7およびノズル5を形成する。
【0050】
発熱抵抗素子4や型材12を形成する工程(図2(a))において、基板3の第二面3aにエッチングストップ層(不図示)を形成している場合には、型材12を除去する前にエッチングストップ層を除去する。エッチングストップ層にアルミニウムやシリコン酸化物を用いた場合には、フッ化水素酸や、リン酸および硝酸混合物を用いたエッチングでインク供給路11側から除去することにより、エッチングストップ層を除去することができる。
【0051】
エッチングストップ層を基板3の第一面3aに設けることによって、インク供給路11を形成する際のドライエッチングによるノズルプレート6の加工を防止することができる。すなわち、インク流路7やノズル5を比較的高い寸法精度で形成することができる。
【0052】
必要に応じて、単結晶シリコンウェハからダイサーを用いて分離することによって、インクジェット記録ヘッド1が完成する。
【0053】
以上の製造方法を用いて、従来よりも高い密度で配置された発熱抵抗素子4を有するインクジェット記録ヘッド1を製造し、被記録媒体により早い速度で記録をするテストを行ったところ、より高い画像品位で記録を行うことができた。これは、記録の際におけるインクジェット記録ヘッド1の放熱性が向上したためである。
【0054】
なお、テストに用いたインクジェット記録ヘッド1は、次のように製造した。
【0055】
基板3の第一面3aに、アルミニウムを用いてエッチングストップ層(不図示)を形成し、エッチングストップ層のエッチングにはリン酸および硝酸混合物を用いた。基板3のエッチングは、六フッ化硫黄と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングにより行った。また、凹部9の内側面を含む第二面3bにTiWを蒸着してめっきシード層(不図示)を形成した。
【0056】
放熱部材8を形成するために、Auからなる厚さ40μmの金属層を電気めっきにより第二面3bに形成し、該金属層に表面研磨処理を施して平坦化し、放熱部材8とした。平坦化により、放熱部材8の、第二面3bからの厚さは5μmとした。
【0057】
インク供給路11を形成するために、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液を用いたエッチングにより放熱部材8を除去し、過酸化水素を用いたエッチングによりめっきシード層を除去した。
【0058】
(実施例2)
次に、本発明の第二の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドについて、図3を用いて説明する。図3(a)および(b)は、第二の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの断面図である。なお、第一の実施形態と同じ構成要素についての説明は省略する。
【0059】
図3(a)に示すように、本実施形態のインクジェット記録ヘッド1は、インク供給路11の経路に沿った方向の寸法(以下、該寸法を厚さという)が、一のインクジェット記録ヘッド1内で異なっている基板13を備えている。具体的には、基板13の、インク供給路11が形成されている付近の領域(供給路形成領域14と称す)は、基板13の、供給路形成領域14以外の領域、すなわちインク供給路11が形成されていない領域(供給路非形成領域15と称す)よりも薄くなっている。
【0060】
また本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1には、第一の実施形態と同様に、基板13にインク吐出部2および放熱部材8が設けられており、放熱部材8および基板13を貫通するようにインク供給路11が形成されている。
【0061】
なお、図3(a)は、基板13の、インク吐出部2が設けられた第一面13aと垂直に交わる面(図3(b)に示すC−C面)で切断したときの断面図である。また、図3(b)は、基板13の第一面13aと平行な面(図1(a)に示すD−D面)で切断したときの断面図である。
【0062】
基板13の、供給路形成領域14の厚さをより薄くすることによって、インク供給路11の経路を短くすることができる。したがって、インク供給路11における流体抵抗を小さくできる。
【0063】
また、基板13の、供給路非形成領域15の厚さをより厚くすることによって、インクジェット記録ヘッド1の強度を高めることができる。すなわち、供給路形成領域14の厚さの薄肉化による、インクジェット記録ヘッド1の強度低下を抑制することができる。
【0064】
供給路形成領域14の厚さをより薄くすることにより、供給路形成領域14の熱容量はより小さくなる。そのため、供給路形成領域14は、インク吐出部2からの熱により温度が上昇しやすくなっている。
【0065】
そこで、本実施形態では、供給路形成領域14における第二面13bに少なくとも一つの凹部9が形成されており、放熱部材8の凸部10が凹部9に埋められた状態で、放熱部材8が第二面13bに接合されている。
【0066】
したがって、供給路形成領域14と放熱部材8との接触面積は、凹凸のない平面で接触している場合に比べて大きくなっており、供給路形成領域14から放熱部材8へ熱がより伝わりやすくなっている。その結果、供給路形成領域14の、インク吐出部2からの熱による温度の上昇が抑制される。基板13によるインクの昇温や、ノズルプレート6の昇温によるノズル5の変形を抑制することができ、より速い速度でより高い品位の画像を記録することができる。
【0067】
また、本実施形態では、インク供給路11の経路が第一の実施形態に比べて短く、流体抵抗が小さいため、インク吐出部2へのインクの供給をより速く行うことができる。したがって、より速い速度で記録することが可能となる。
【0068】
基板13の、供給路形成領域14における厚さを100μm、供給路非形成領域15における厚さを725μmとしてインクジェット記録ヘッド1を製造し、被記録媒体に画像の記録を行った。記録画像の品位を低下させることなく従来よりも高速で記録をすることができた。
【0069】
次に、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1の製造方法の一例を、図4を用いて説明する。図4(a)〜(f)は、インクジェット記録ヘッド1の製造方法を説明するための断面図である。
【0070】
まず、図4(a)に示すように、第一面13aに発熱抵抗素子4、型材12およびノズルプレート6が積層された基板13を用意する。基板13に単結晶シリコンウェハを用いた場合、基板13は、略直方体形状の単結晶シリコンウェハの、インク供給路11(図3)が形成される付近の領域をエッチングで部分的に除去することによって得られる。なお、基板13の形成と、発熱抵抗素子4等の積層は、どちらを先に行ってもよい。
【0071】
続いて、図4(b)に示すように、供給路形成領域14における第二面3bに、凹部9を形成し、図4(c)に示すように、凹部9に放熱部材8の材料を充填した状態で、第二面3bを放熱部材8の材料で覆う。このように放熱部材8を形成することによって、凹部9の形状に合わせて形成された凸部10を有する放熱部材8を比較的容易に得ることができる。
【0072】
次に、図4(d)および(e)に示すように、インク供給路11を形成する。まず、インク供給路11が形成される領域の放熱部材8および基板13を除去し、インク供給路11を形成する。
【0073】
インク供給路11の形状によっては、インクがインク供給路11を流れるときにインクが受ける流体抵抗がより大きな影響を与えることがある。そのため、比較的高い精度でインク供給路11を形成することが望ましく、インク供給路11の形成には比較的長い時間を必要とする場合が多い。
【0074】
一方、基板13の供給路形成領域14を薄くするために行われる単結晶シリコンウェハの除去は、インクに与える影響が小さいため、高い精度を必要としない。すなわち、インク供給路11を形成する時間よりも短い時間で基板13の供給路形成領域14を薄くすることができる。
【0075】
したがって、基板13の供給路形成領域14を薄くしておくことによって、供給路形成領域14を薄くすることなくインク供給路11を形成する場合よりも、短い時間でインク供給路11を形成することができる。
【0076】
続いて、図4(f)に示すように、型材12(図4(a))を除去し、インク流路7およびノズル5を形成する。必要に応じて、単結晶シリコンウェハから各々のチップ形態にダイサーを用いて分離することによってインクジェット記録ヘッド1が完成する。
【0077】
(実施例3)
次に、本発明の第三の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドについて、図5を用いて説明する。図5(a)および(b)は、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの断面図である。なお、第一の実施形態と同じ構成要素についての説明は省略する。
【0078】
図5(a)に示すように、インクジェット記録ヘッド1は、インク吐出部2、基板3、放熱部材8を備えている。また、インクジェット記録ヘッド1には、基板3を貫通して、放熱部材8および凸部10に囲まれるように形成されたインク供給路11が形成されている。
【0079】
なお、図5(a)は、基板3の、インク吐出部2が設けられた第一面3aと垂直に交わる面(図5(b)に示すE−E面)で切断したときの断面図である。図5(b)は、基板3の、第一面3aと平行な面(図5(a)に示すF−F面)で切断したときの断面図である。
【0080】
図5(a)および(b)に示すように、本実施形態のインクジェット記録ヘッド1では、インク供給路11が凸部10に囲まれるように形成されている。このようにインク供給路11が形成されていることによって、インク供給路11の全経路に対する、放熱部材8に囲まれたインク供給路11の経路の割合が高められる。
【0081】
基板3には単結晶シリコンウェハが用いられることが多く、放熱部材8にはAuなどの金属が用いられることが多い。Auなどの金属は、ドライエッチングにおいて単結晶シリコンウェハに比べて除去される速度が十分に遅い。そのため、放熱部材8および凸部10をAuなどの金属で形成した場合には、放熱部材8および凸部10をエッチングマスクとしてドライエッチングにより基板3を加工することができる。したがって、放熱部材8だけをエッチングマスクとしてドライエッチングにより基板3を加工する場合に比べて、インク供給路11の寸法安定性が向上する。
【0082】
また、イオンを用いたドライエッチングの際には、放熱部材8および凸部10をエッチングマスクとして用いることにより、インク供給路11の経路に沿った方向に平行に入射しないイオンを放熱部材8および凸部10が遮蔽する。そのため、インク供給路11を高精度で形成できる。このとき、インク供給路11の開口部が狭いほど、放熱部材8および凸部10が効果的にイオンを遮蔽するため、インク供給路11をより高い精度で形成することができる。
【0083】
したがって、放熱部材8および凸部10に囲まれたインク供給路11の経路の割合を高めることによって、より高い精度で形成されたインク供給路11を備えたインクジェット記録ヘッド1を得ることができる。その結果、インク吐出部2へインクを安定して供給することができ、より速い速度でより品位の高い画像を記録することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 インクジェット記録ヘッド
2 インク吐出部
3 基板
8 放熱部材
9 凹部
10 凸部
11 インク供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に供給されたインクに熱を加えることにより該インクを外部へ吐出するための圧力を該インクに付与するインク吐出部と、
前記インク吐出部を第一面に備え、該第一面とは反対側の第二面に少なくとも一つの凹部を有する基板と、
前記インク吐出部から前記基板へ伝えられた熱を外部へ放出する放熱部材であって、前記凹部の形状に合わせて形成された凸部を有し、該凸部が前記凹部に埋め込まれた状態で前記第二面に接合された放熱部材と、を備えた、インクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
外部からのインクを前記インク吐出部へ供給するためのインク供給路であって、前記基板および前記放熱部材を貫通した貫通穴からなるインク供給路をさらに備えた、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記基板の、前記インク供給路が形成されている供給路形成領域における、前記インク供給路に沿った方向の寸法は、前記基板の、前記供給路形成領域の以外の供給路非形成領域における該方向の寸法よりも小さく、
前記凹部が少なくとも前記供給路形成領域の前記第二面に形成されている、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記放熱部材は、前記基板よりも高い精度で貫通穴を形成することができる材料からなり、
前記インク供給路は、前記放熱部材の凸部に囲まれるように形成されている、請求項2または3に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記放熱部材が、Au,Ta,Pt,Irのいずれか一つの金属、又はこれらの金属のうちの少なくとも2つからなる合金である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
内部に供給されたインクに熱を加えることにより該インクを外部へ吐出するための圧力を該インクに付与するインク吐出部と、該インク吐出部を第一面に備え、該第一面とは反対側の第二面に少なくとも一つの凹部を有する基板と、前記インク吐出部から該基板へ伝えられた熱を外部へ放出する放熱部材であって、前記凹部の形状に合わせて形成された凸部を有し、該凸部が前記凹部に埋め込まれた状態で前記第二面に接合された放熱部材と、を備えたインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
基板の前記第二面に前記少なくとも一つの凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部に前記放熱部材の材料を充填した状態で前記第二面を覆うようにして前記放熱部材を形成する放熱部材形成工程と、
を含む、インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
外部からのインクを前記インク吐出部へ供給するためのインク供給路であって、前記基板および前記放熱部材を貫通した貫通穴からなるインク供給路をさらに備えたインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
前記放熱部材形成工程において形成された前記放熱部材の、前記インク供給路に対応する部分を除去して前記第二面を露出させる工程と、
前記放熱部材の残存部をエッチングマスクとして、エッチングにより、前記露出されている第二面から前記インク供給路に対応する部分の前記基板を除去して前記インク供給路を形成する工程と、
を含む、請求項6に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記基板の、前記インク供給路が形成されている供給路形成領域における、前記インク供給路に沿った方向の寸法が、前記基板の、前記供給路形成領域の以外の供給路非形成領域における該方向の寸法よりも小さく、前記凹部が少なくとも前記供給路形成領域の前記第二面に形成されている、インクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
前記凹部形成工程の前に、前記基板の、前記供給路形成領域を部分的に除去して、該供給路形成領域を前記供給路非形成領域よりも薄くする工程をさらに含み、
前記凹部形成工程において、少なくとも前記供給路形成領域の前記第二面に前記凹部を形成する、請求項7に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−158146(P2012−158146A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20785(P2011−20785)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】