説明

インクジェット記録装置およびその描画方法

【課題】複数の不良ノズルが存在する場合でも、容易に制御可能で、かつ、確実に描画可能なインクジェット記録装置およびその描画方法を提供する。
【解決手段】本発明の描画方法は、不良ノズルの検出情報を取得する不良情報取得工程と、副走査における記録媒体のホーム位置からの、相対的な逆移動の移動規制量情報を取得する規制量取得工程と、取得した不良ノズルを外して、描画ラインを短くした短描画ラインを設定する短ライン設定工程と、記録媒体を相対的に逆移動させる逆移動量が、移動規制量以内である否かを判定する判定工程と、移動規制量以内であると判定された場合に、描画ラインを構成する主走査吐出データを、短縮描画ラインに合せて副走査方向に位置ずらしするように各ノズルに割り当てるデータずらし工程と、移動規制量以内であると判定された場合に、副走査改行データを変更するデータ変更工程と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジに搭載した複数のインクジェットヘッドを、主走査方向および副走査方向に移動させながら描画を行なうインクジェット記録装置およびその描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の描画方法(印刷)として、プリンターでの印刷時に不良ノズルが検出された場合、ノズル列を構成する複数のノズルを領域分けし、正常なノズルを用いて印刷を続行する方法が知られている(特許文献1参照)。
この方法では、不良ノズルを含むノズル領域と不良ノズルを含まないノズル領域とにノズル列を領域分けし、本来は不良ノズルにより印刷されるはずであったドットマトリクスデータを、不良ノズルを含まないノズル領域に割り当て、それらのノズルにより印刷を行うようにしている。すなわち、記録媒体に対し印字ヘッドを、主査走査方向および副走査方向に相対的に走査しながら、不良ノズルを含まないノズル領域の複数のノズルにより、印刷を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−226772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、印刷対象となる記録媒体(ワーク)によっては、印刷の前後で前処理(例えばワークの表面処理)或いは後処理(例えばインクの硬化処理)を行う場合があり、これの装置が、ワークテーブルの送り方向(副走査方向)に並んでスペース効率良く配置される場合がある。
一方、従来の描画方法において、送り方向の手前に位置するノズル領域のノズルにより印刷を行うとすると、記録媒体を不良ノズルのノズル領域分、逆送りして記録媒体の頭出しを行う必要がある。
このようなワークテーブルと、ワークの前処理装置や後処理装置とを集約的に配置した装置に、従来の描画方法を適用すると、記録媒体を逆送りしたときにワークテーブルが前処理装置や後処理装置に干渉してしまうことが想定される。すなわち、ワークテーブルに近接して部品や装置が配設されているものでは、従来の描画方法を適用することが、構造上不可能となる。
【0005】
本発明は、ホーム位置からの記録媒体の逆移動が規制される場合であって、且つ複数の不良ノズルが存在する場合でも、描画を適切に行うことができるインクジェット記録装置およびその描画方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェット記録装置の描画方法は、複数のインクジェットヘッドを、主走査方向および副走査方向に位置ずれさせてキャリッジに搭載し、複数のインクジェットヘッドにおける複数のノズル列により、副走査方向に連続する描画ラインを構成すると共に、各ノズル列に割り振られた主走査吐出データ、および副走査改行データを含む描画データに基づいて、主走査および副走査を行って記録媒体に描画を実施するインクジェット記録装置の描画方法であって、不良ノズルの検出情報を取得する不良情報取得工程と、副走査における記録媒体のホーム位置からの、相対的な逆移動の移動規制量情報を取得する規制量取得工程と、取得した不良ノズルを外して、描画ラインを短くした短描画ラインを設定する短ライン設定工程と、短描画ラインによる主走査の開始位置に合せるために、記録媒体を相対的に逆移動させる逆移動量が、移動規制量以内である否かを判定する判定工程と、移動規制量以内であると判定された場合に、描画ラインを構成する主走査吐出データを、短縮描画ラインに合せて副走査方向に位置ずらしするように各ノズルに割り当てるデータずらし工程と、移動規制量以内であると判定された場合に、短描画ラインに基づいて、副走査改行データを変更するデータ変更工程と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明のインクジェット記録装置は、複数のインクジェットヘッドを、主走査方向および副走査方向に位置ずれさせてキャリッジに搭載し、複数のインクジェットヘッドにおける複数のノズル列により、副走査方向に連続する描画ラインを構成すると共に、各ノズル列に割り振られた主走査吐出データ、および副走査改行データを含む描画データに基づいて、主走査および副走査を行って記録媒体に描画を実施するインクジェット記録装置であって、不良ノズルの検出情報を取得する不良情報取得手段と、副走査における記録媒体のホーム位置からの、相対的な逆移動の移動規制量情報を取得する規制量取得手段と、取得した不良ノズルを外して、描画ラインを短くした短描画ラインを設定する短ライン設定手段と、短描画ラインによる主走査の開始位置に合せるために、記録媒体を相対的に逆移動させる逆移動量が、移動規制量以内である否かを判定する判定手段と、移動規制量以内であると判定された場合に、描画ラインを構成する主走査吐出データを、短縮描画ラインに合せて副走査方向に位置ずらしするように各ノズルに割り当てるデータずらし手段と、移動規制量以内であると判定された場合に、短描画ラインに基づいて、副走査改行データを変更するデータ変更手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、不良ノズルに対応する描画時とは逆方向のワークテーブルの戻し量とワークテーブルの戻し可能量(余剰ストローク)とが比較され、この結果に基づいて、代替ノズルの選定が行われるので、障害物等により、ホーム位置からの記録媒体の逆移動が規制される場合であって、且つ複数の不良ノズルが存在する場合でも、描画を適切に行うことができる。
【0009】
この場合、各インクジェットヘッドは、相互平行に配置した複数のノズル列を有し、複数のノズル列により副走査方向に連続する部分描画ラインを構成しており、インクジェット記録装置の描画方法は、移動規制量を越えると判定された場合に、不良ノズルが存在するノズル列と、ノズル列に対応する他のインクジェットヘッドのノズル列とから成る複数のノズル列の、全ての主走査吐出データをキャンセルしたときに、描画ラインに代えて、描画ラインと同長さの低分解能描画ラインが構成可能か否かを判定するライン判定工程と、低分解能描画ラインが構成可能と判定された場合に、全ての主走査吐出データをキャンセルし、描画ラインに代えて低分解能描画ラインを設定する低ライン設定工程と、を更に備えているのが好ましい。
【0010】
また、各インクジェットヘッドは、相互平行に配置した複数のノズル列を有し、複数のノズル列により副走査方向に連続する部分描画ラインを構成しており、インクジェット記録装置は、移動規制量を越えると判定された場合に、不良ノズルが存在するノズル列と、ノズル列に対応する他のインクジェットヘッドのノズル列とから成る複数のノズル列の、全ての主走査吐出データをキャンセルしたときに、描画ラインに代えて、描画ラインと同長さの低分解能描画ラインが構成可能か否かを判定するライン判定手段と、低分解能描画ラインが構成可能と判定された場合に、全ての主走査吐出データをキャンセルし、描画ラインに代えて低分解能描画ラインを設定する低ライン設定手段と、を更に備えているのが好ましい。
【0011】
この構成によれば、不良ノズルを含まないノズル列のみにより描画が行われるので、解像度は低下するが、正常に描画が行われる時と同じ時間で描画を行なうことができる。また、主走査吐出データをキャンセルするだけなので、描画データの再生成を必要としない。
【0012】
この場合、インクジェット記録装置の描画方法は、低分解能描画ラインが構成不可能と判定された場合に、不良ノズルのノズル補完が不能である旨、報知する報知工程、を更に備えているのが好ましい。
【0013】
また、インクジェット記録装置は、低分解能描画ラインが構成不可能と判定された場合に、不良ノズルのノズル補完が不能である旨、報知する報知手段、を更に備えているのが好ましい。
【0014】
この構成によれば、インクジェット記録装置のオペレーターは、とりあえず不良ノズルを用いて描画を続行するか、または、描画を中止してキャリッジを交換するか、いずれかの動作を実行しなければならないことを知ることができる。
【0015】
この場合、インクジェット記録装置の描画方法は、不良ノズルと描画データとを比較し、不良ノズルが描画に使用しないノズルである場合に、不良情報取得工程および規制量取得工程以降の各工程をキャンセルするキャンセル工程、を更に備えているのが好ましい。
【0016】
また、インクジェット記録装置は、不良ノズルと描画データとを比較し、不良ノズルが描画に使用しないノズルである場合に、不良情報取得工程および規制量取得工程以降の各工程をキャンセルするキャンセル工程、を更に備えているのが好ましい。
【0017】
この構成によれば、不良ノズルからは機能液がもともと吐出されることがなく、吐出不良検査装置による処理以降の処理を省略することができるので、応急処理として最も好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】インクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】マルチヘッドを有するヘッドユニットの平面図である。
【図3】列のノズル列を有するインクジェットヘッドの平面図である。
【図4】制御部のブロック図である。
【図5】インクジェット記録装置の制御に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置について説明する。なお、このインクジェット記録装置は、例えばUVインクによるICマーキング装置、加飾装置、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)装置などに適用可能であるが、本実施形態では、ICマーキング装置としてのインクジェット記録装置について説明する。このインクジェット記録装置は、ICのパッケージ正面に、シリアルナンバーや検査のランクなどがUVインクによりマーキング(描画)するようになっている。
【0020】
図1は、インクジェット記録装置1の斜視図である。図1に示すインクジェット記録装置1は機台となる石定盤9と、石定盤9に支持されると共にインクジェットヘッド20を有するヘッド機構部2と、石定盤9に支持されると共に複数個のICをトレイに搭載したワークWがセットされるワーク機構部3と、石定盤9に支持されると共にインクジェットヘッド20の機能回復等の保守を行うメンテナンス機構部5と、インクジェットヘッド20にUVインクを供給するインク供給部4と、これらを統括制御する制御部6とを備えている。そして、石定盤9は、高さ調整可能な4つの支持脚8により支持されている。
【0021】
ヘッド機構部2は、石定盤9上において、その一方の側面から他方の側面にわたってY軸方向(主走査方向)に沿って設けられている。ヘッド機構部2は、UVインクを吐出する複数のインクジェットヘッド20を有するヘッドユニット21が吊設されたキャリッジ22と、キャリッジ22のY軸方向への移動をガイドするY軸ガイド25と、Y軸ガイド25と近接し、かつ平行に設置されたY軸リニアモーター26等を備えている。キャリッジ22には、ヘッドプレート28に複数(実施形態のものは4つ)のインクジェットヘッド20を組み込んだ上記のヘッドユニット21(図2a参照)と、後述するメインタンク41およびタンク側流路菅43が搭載されている。
【0022】
図2aに示すように、インクジェットヘッド20は、複数(4つ)のインクジェットヘッド20a〜20dをX軸方向およびY軸方向に位置ずれさせるようにして、ヘッドプレート28に組み込んで構成されている(マルチヘッド)。そして、この複数(4つ)のインクジェットヘッド20a〜20dには、インク供給部4から同一種のUVインクが供給されるようになっている。
【0023】
ワーク機構部3は、ヘッド機構部2を跨いでヘッド機構部2と直交し、石定盤9上でX軸方向(副走査方向)に延在するように設けられている。ワーク機構部3は、インクジェットヘッド20から吐出されたインク液滴の描画対象である複数個のICをトレイに搭載したワークWが、位置決め状態でセットされるワークテーブル30と、ワークテーブル30の移動をガイドするX軸ガイド31と、X軸ガイド31の側方にX軸ガイド31と平行に設置されたX軸リニアモーター32等を備えている。なお、複数個のICは、X軸方向およびY軸方向にマトリクス状に整列配置した状態で、トレイに収容されている。
【0024】
ワーク機構部3により、ワークWがX軸方向に間欠送りされ(副走査)され、これに同期して、ヘッド機構部2により、ヘッドユニット21(複数のインクジェットヘッド20a〜20d)がY軸方向に往復動作しながらUVインクを選択的に吐出する(主走査)ことで、ワークW(IC)に所望の描画(マーキング)が行われる。
【0025】
インクジェットヘッド20にUVインクを供給するインク供給部4は、UVインクが充填されたメインタンク41と、上記のキャリッジ22に搭載されたサブタンク23と、メインタンク41のUVインクをサブタンク23に送液するインクポンプ42と、メインタンク41とサブタンク23とを接続するタンク側流路菅(チューブ)43と、メインタンク41とインクジェットヘッド20とを接続するヘッド側流路菅(チューブ)24と、を備えている。実施形態のものは、メインタンク41、サブタンク23、インクポンプ42、タンク側流路菅43およびヘッド側流路菅24が、複数セット設けられており、異なる性状のUVインクを選択してインクジェットヘッド20に供給できるようになっている。
【0026】
実施形態では、白色のUVインクが用いられ、描画されたワーク(IC)Wは、図示しないロボット等により紫外線照射装置19へ送られ、紫外線照射により硬化処理される。紫外線照射装置19は、石定盤9やワーク機構部3に隣接して配設されている。詳細は後述するが、実施形態のインクジェット記録装置1では、紫外線照射装置19が障害となって、ワークテーブル30(ワーク(IC)W)のホーム位置からの逆送り量が規制されている。
【0027】
メンテナンス機構部5は、ワーク機構部3と並んでX軸方向に延在するように配置されている。メンテナンス機構部5は、各インクジェットヘッドに対しキャッピングを行うと共に捨て吐出(フラッシング)を受けるキャッピングユニット51と、各インクジェットヘッド20a〜20dのノズル面を払拭するワイピングユニット52と、各インクジェットヘッド20a〜20dからインク吸引を行う吸引ユニット53と、を備えている。また、キャッピングユニット51および吸引ユニット53には、廃液タンク54がそれぞれ接続されている。メンテナンス機構部5は、さらに上記ユニット51、52および53を載置するスライドベース55と、スライドベース55を介して上記ユニット51、52および53をX軸方向に移動させるモーター駆動のメンテ移動機構56と、を備えている。メンテ移動機構56は、Y軸方向のこの位置に移動したヘッドユニット21の直下に、キャッピングユニット51、ワイピングユニット52および吸引ユニット53を適宜臨ませる。
【0028】
図1では省略したが、このインクジェット記録装置1には、さらに吐出不良検査装置71が搭載されている(図4参照)。吐出不良検査装置71は、例えば上記のワークテーブル30にセットした検査シートに、所定の検査パターンに基づいて、4つのインクジェットヘッド20a〜20dの全吐出ノズルからインク吐出を実施し、これをカメラで認識する。そして、認識結果において、不吐出、吐出不良(インク滴が小さい)、着弾位置がずれる飛行曲りなどの吐出不良となった吐出ノズルを検出する。
【0029】
次に、図2および図3を参照して、ヘッドユニット21の構成について説明する。なお、簡略のため、図3には、図2aに示す4つのインクジェットヘッド20a〜20dのうちの2つのインクジェットヘッド20aおよび20bを示してある。上述のように、ヘッドユニット21は、ステンレスなどで構成された厚手のヘッドプレート28と、ヘッドプレート28の4つの矩形開口に嵌め込むようにして組み込んだ4つのインクジェットヘッド20a〜20dと、で構成されている。4つのインクジェットヘッド20a〜20dは、相互に位置決めされた状態で、X軸方向およびY軸方向に千鳥状に位置がずれて配設されている。各インクジェットヘッド20a〜20dのノズル面には、複数の吐出ノズル27を列設した2本のノズル列A、B(「A列」「B列」)が、相互に平行に形成されている。2本のノズル列A、Bは、X軸方向(副走査方向)に延在し、且つ半ノズルピッチ位置ずれして配設されている(図3参照)。
【0030】
なお、インクジェットヘッド20の各ノズル列A、Bにおいて、最外端の複数(図示のものは2つ)の吐出ノズル27aおよび27bは、吐出特性が不安定になるため、実際の描画には使用しない。すなわち、実施形態のヘッドユニット21では、4つのインクジェットヘッド20a〜20dの相互間において、最外端の不使用の吐出ノズル(各2つ)27aおよび27bが、副走査方向においてオーバーラップするように、各ノズル列A、Bが配設されている。以下、「ノズル列」という語は、最外端の不使用の吐出ノズル27aおよび27bを除いたノズル列A、Bを意味するものとして説明を進める。
【0031】
図3に示すように、各インクジェットヘッド20の2本のノズル列Aおよびノズル列Bは、それぞれ90DPIとなるノズルピッチで吐出ノズル27が列設されている。また、ノズル列Aおよびノズル列Bは、Y軸方向に関し、相互に半ノズルピッチ位置ずれしていることから、両方のノズル列A、Bを同時に使用することで、180DPIのノズルピッチとなる。すなわち、各インクジェットヘッド20a〜20dは、副走査方向において、180DPIの解像度を有する部分描画ライン80a〜80dを構成している(図2b参照)。
【0032】
また、第1のインクジェットヘッド20a、第2のインクジェットヘッド20b、第3のインクジェットヘッド20cおよび第4のインクジェットヘッド20dは、副走査方向において、各ノズル列A、Bが連続しており、全体として、180DPIの解像度を有する描画ライン80を構成している(図2b参照)。すなわち、描画ライン80は、4つの部分描画ライン80a〜80dを副走査方向に連ねた構成になっており、この描画ライン80の長さが、1つの主走査(1パス)における有効描画幅となる。
【0033】
ところで、ワークテーブル30と紫外線照射装置19との間に十分なスペースが存在し、ワークテーブル30の余剰ストローク(ホーム位置からの逆送り量)が長い場合には、例えば、図2aに示すインクジェットヘッド20aの上端側(図示の上側)のノズルが不良と検出されたとしても、不良ノズルの描画データを正常なノズルに割り当てて描画することができる。すなわち、不良ノズルを含む使用しない複数のノズルの全長分、ワークテーブル30をホーム位置からの逆送りし、頭出しを行ってから描画を開始すれば、正常な描画が可能となる。
【0034】
しかし、紫外線照射装置19が石定盤9と隣接して設けられ、ワークテーブル30と紫外線照射装置19との間に十分なスペースがなく、ワークテーブル30を逆送りさせようとしても、ワークテーブル30が紫外線照射装置19と干渉してしまう場合(ワークテーブル30の余剰ストロークが短い場合、或いは余剰ストロークが無い場合)には、描画データの移行は可能であっても、物理的に頭出しを行うことができない。そこで、本実施形態では、ワークテーブル30の余剰ストロークと、不良ノズル分に対応するワークテーブル30の逆送り量(逆移動すべき移動量)とを比較し、その比較結果に基づいて代替ノズルの選定方法を変えるようにしている。
【0035】
次に、図4のブロック図を参照して、制御部6について説明する。制御部6には、制御用のプログラムやデータ等が記憶されたメモリー部61と、所定の描画データがノズル列単位で記憶された画像メモリー部62と、システムコントローラー63aおよびプリント制御部63bを備え、メモリー部61および画像メモリー部62を制御するコントローラー部63と、搬送部ドライバー64a、ヘッドドライバー64bおよび光源ドライバー64cを含み、コントローラー部63からの指令によりインクジェット記録装置1を構成する各機構部を駆動するドライバー部64と、を有している。搬送部ドライバー64aは、システムコントローラー63aからの制御信号を受け、X軸リニアモーター32およびY軸リニアモーター26を駆動させ、ワークWおよびキャリッジ22を所望の位置に移動させる。ヘッドドライバー64bは、プリント制御部63bからの制御信号を受け、インクジェットヘッド20a〜20dを駆動させる。描画(マーキング)が終了した後、ワークWは紫外線照射装置19に移動される。光源ドライバー64cは、プリント制御部63bからの制御信号を受け、ワークWに対し紫外線を照射するように紫外線照射装置19を駆動する。ワークWに紫外線が照射されると、ワークW上に描画されたUVインクが硬化する。また、プリント制御部63bには、上記の吐出不良検査装置71が接続されている。
【0036】
画像メモリー部62には、ビットマップデータに基づく描画データが格納されており、描画データは、各ノズル列A、Bに割り振られた主走査吐出データ62a、および副走査改行データ62bで構成されている。主走査吐出データ62aは、各ノズル列A、Bにおける主走査方向の移動位置(吐出タイミング)と複数の吐出ノズル27の選択的吐出を関連付けたデータであり、副走査改行データ62bは、改行幅(ノズル列長単位)のデータである。
【0037】
次に、図5のフローチャートを用いて、インクジェット記録装置1の制御について説明する。先ず、吐出不良検査装置71により不良ノズルの検査が行われる(ステップ81)と、ステップ82において、不良ノズルの有無が判定される(不良情報取得工程)。不良ノズルが存在しない場合、すなわち、全てのノズルが正常である場合、描画が行われて処理が終了する。
【0038】
一方、不良ノズルがあると判定されると、次に不良ノズルを用いることなく描画可能であるか否かが判定される(ステップ83)。ステップ83では、不良ノズルにより描画されるデータが、描画データの中に存在するか否が検索される。すなわち、不良ノズルを使用しなくても、正常な描画が可能か否かが判定される。ここで、描画が可能と判定されると、描画動作に移行し処理が終了する(ステップ83:Yes)。そして、後述するステップ84以降の処理が、キャンセルされることになる(キャンセル工程)。
【0039】
一方、描画が不可能と判定されると、処理は、ステップ84へ進む。ステップ84では、ワークWが搭載されたワークテーブル30が、描画時の送り方向とは逆の方向に、ホーム位置からどの程度移動可能であるか、つまり、ワークテーブル30の余剰ストロークの情報が取得される(規制量取得工程)。この情報は、画像メモリー部62に記憶されており、画像メモリー部62から読み出すことになる。
【0040】
その後、ステップ85では、不良ノズルの位置からワークテーブル30を戻す(逆送り)だけで描画可能か否かが判定される。より詳しく言うと、不良ノズルを含む不使用ノズルを特定し、使用ノズルで描画を行なう場合に、頭出しのために必要なワークテーブル30の移動すべき移動(戻し)量を算定する。続いて、この移動(戻し)量と、ステップ84で得られた余剰ストロークとが比較され、上記戻し量が余剰ストローク以内であるか否かが判定される(判定工程)。可能な場合には、ステップ88で、不良ノズル(不使用ノズル)の位置からワークテーブル30の戻し量が設定され、ワークテーブル30を戻し量分だけ移動させる。すなわち、ワークWの描画開始に先立つ頭出しを行う。その後、ワークテーブル30上のワークWに描画が行われて処理が終了する。
【0041】
この場合、不良ノズルは用いられず、図2bに示した描画ライン80のライン長が短くなるため、描画データを再構成する必要がある。描画ライン80の長さが短描画ラインに設定され(短ライン設定工程)、不良ノズルに割り当てられていた主走査吐出データ62aが正常なノズルに再割り当てされる(データずらし工程)。また、描画ライン80が短描画ラインに設定されるので、これに伴って副走査改行データ62bが変更される(データ変更工程)。なお、データずらし工程において、可能ならば、ノズル列単位で行ってもよい。この場合には、主走査吐出データ62aの再構成を容易に行うことができる。
【0042】
一方、ステップ85において、ワークテーブル30を移動させるだけでは描画が可能ではない、すなわち、ワークテーブル30の余剰ストロークよりもワークテーブル30が移動すべき戻し量が長いと判定されると、処理はステップ86に進む。ステップ86では、不良ノズルを含むインクジェットヘッドを用いずに描画可能であるか否かが判定される。可能である場合、ステップ89にて描画に用いるインクジェットヘッドが再設定される。
【0043】
ステップ86では、図2aに示すインクジェットヘッド20aのノズル列Aのみに不良ノズルがある場合、対応する他のインクジェットヘッド20b〜20dのノズル列Aの主走査吐出データ62aをキャンセルし、インクジェットヘッド20a〜20dのノズル列Bのみで描画ライン80を描画することが可能か否かを判定し(ライン判定工程)、可能な場合には、ノズル列Bのみで描画する(低ライン設定工程)。この場合には、データ変更工程(使用ヘッド、実際には使用ノズル列)の再設定が行われる。この描画では、ノズル列Bのみで描画されるので、描画ライン80の長さは変わらない(副走査改行データ62bが変更せず)が、ノズル列A、Bにより描画される時の半分の分解能に低下する。
【0044】
ステップ86において、例えばノズル列Bにも不良ノズルが存在し、上記の方法でも描画が不可能と判定された場合、上述したような不良ノズルを含まない他のインクジェットヘッドにより描画することはできないので、ディスプレイ表示等により、その旨報知する(報知工程)。すなわち、処理を続行するか、または中止するかの指示をインクジェット記録装置1のオペレーターに求める。処理が続行される場合には、不良ノズルも用いられ、ドット抜けを有する描画が行われる。処理が中止される場合には、キャリッジ22を交換するようにオペレーターに知らせる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、ワークテーブルの戻し量と余剰ストロークとが比較され、この結果に基づいて、代替ノズルの選定が行われる。また、記録媒体は、ホーム位置から逆送りされ、頭出しが行われる。そのため、障害物等により、ホーム位置からの記録媒体の逆移動が規制される場合であって、且つ複数の不良ノズルが存在する場合でも、描画を適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0046】
1…インクジェット記録装置 2…ヘッド機能部 3…ワーク機能部 19…紫外線照射装置 20、20A、20B、20C、20D…インクジェットヘッド 27…ノズル 30…ワークテーブル 71…吐出不良検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインクジェットヘッドを、主走査方向および副走査方向に位置ずれさせてキャリッジに搭載し、前記複数のインクジェットヘッドにおける複数のノズル列により、副走査方向に連続する描画ラインを構成すると共に、
前記各ノズル列に割り振られた主走査吐出データ、および副走査改行データを含む描画データに基づいて、主走査および副走査を行って記録媒体に描画を実施するインクジェット記録装置の描画方法であって、
不良ノズルの検出情報を取得する不良情報取得工程と、
前記副走査における前記記録媒体のホーム位置からの、相対的な逆移動の移動規制量情報を取得する規制量取得工程と、
取得した前記不良ノズルを外して、前記描画ラインを短くした短描画ラインを設定する短ライン設定工程と、
前記短描画ラインによる前記主走査の開始位置に合せるために、前記記録媒体を相対的に逆移動させる逆移動量が、前記移動規制量以内である否かを判定する判定工程と、
前記移動規制量以内であると判定された場合に、前記描画ラインを構成する前記主走査吐出データを、短縮描画ラインに合せて副走査方向に位置ずらしするように各ノズルに割り当てるデータずらし工程と、
前記移動規制量以内であると判定された場合に、前記短描画ラインに基づいて、前記副走査改行データを変更するデータ変更工程と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置の描画方法。
【請求項2】
前記各インクジェットヘッドは、相互平行に配置した複数のノズル列を有し、前記複数のノズル列により副走査方向に連続する部分描画ラインを構成しており、
前記移動規制量を越えると判定された場合に、
前記不良ノズルが存在する前記ノズル列と、当該ノズル列に対応する他のインクジェットヘッドの前記ノズル列とから成る複数のノズル列の、全ての前記主走査吐出データをキャンセルしたときに、前記描画ラインに代えて、当該描画ラインと同長さの低分解能描画ラインが構成可能か否かを判定するライン判定工程と、
前記低分解能描画ラインが構成可能と判定された場合に、前記全ての前記主走査吐出データをキャンセルし、前記描画ラインに代えて前記低分解能描画ラインを設定する低ライン設定工程と、を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置の描画方法。
【請求項3】
前記低分解能描画ラインが構成不可能と判定された場合に、
前記不良ノズルのノズル補完が不能である旨、報知する報知工程、を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置の描画方法。
【請求項4】
前記不良ノズルと描画データとを比較し、前記不良ノズルが描画に使用しないノズルである場合に、
前記不良情報取得工程および前記規制量取得工程以降の各工程をキャンセルするキャンセル工程、を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置の描画方法。
【請求項5】
複数のインクジェットヘッドを、主走査方向および副走査方向に位置ずれさせてキャリッジに搭載し、前記複数のインクジェットヘッドにおける複数のノズル列により、副走査方向に連続する描画ラインを構成すると共に、
前記各ノズル列に割り振られた主走査吐出データ、および副走査改行データを含む描画データに基づいて、主走査および副走査を行って記録媒体に描画を実施するインクジェット記録装置であって、
不良ノズルの検出情報を取得する不良情報取得手段と、
前記副走査における前記記録媒体のホーム位置からの、相対的な逆移動の移動規制量情報を取得する規制量取得手段と、
取得した前記不良ノズルを外して、前記描画ラインを短くした短描画ラインを設定する短ライン設定手段と、
前記短描画ラインによる前記主走査の開始位置に合せるために、前記記録媒体を相対的に逆移動させる逆移動量が、前記移動規制量以内である否かを判定する判定手段と、
前記移動規制量以内であると判定された場合に、前記描画ラインを構成する前記主走査吐出データを、短縮描画ラインに合せて副走査方向に位置ずらしするように各ノズルに割り当てるデータずらし手段と、
前記移動規制量以内であると判定された場合に、前記短描画ラインに基づいて、前記副走査改行データを変更するデータ変更手段と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記各インクジェットヘッドは、相互平行に配置した複数のノズル列を有し、前記複数のノズル列により副走査方向に連続する部分描画ラインを構成しており、
前記移動規制量を越えると判定された場合に、
前記不良ノズルが存在する前記ノズル列と、当該ノズル列に対応する他のインクジェットヘッドの前記ノズル列とから成る複数のノズル列の、全ての前記主走査吐出データをキャンセルしたときに、前記描画ラインに代えて、当該描画ラインと同長さの低分解能描画ラインが構成可能か否かを判定するライン判定手段と、
前記低分解能描画ラインが構成可能と判定された場合に、前記全ての前記主走査吐出データをキャンセルし、前記描画ラインに代えて前記低分解能描画ラインを設定する低ライン設定手段と、を更に備えたことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記低分解能描画ラインが構成不可能と判定された場合に、
前記不良ノズルのノズル補完が不能である旨、報知する報知手段、を更に備えたことを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記不良ノズルと描画データとを比較し、前記不良ノズルが描画に使用しないノズルである場合に、
前記不良情報取得工程および前記規制量取得工程以降の各工程をキャンセルするキャンセル工程、を更に備えたことを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−161772(P2012−161772A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25930(P2011−25930)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】