説明

インクジェット記録装置および予備吐出方法

【課題】 インクジェットプリンタにおいて、予備吐出受けに吐出されたインクの堆積などを防ぐ。
【解決手段】 例えば、予備吐出A1で、インクBk1を用いる場合では、インクBk1の記録ヘッドの予備吐出の吐出数を200発とする。そして、この予備吐出モードBk1のときの、他のインクであるカラーインクC、Lc、M、Lm、Yの予備吐出の吐出数を400発とする。これにより、予備吐出A1が行われて予備吐出受けにインクBk1とカラーインクが吐出されて混合したときに、その混合物が、流動限界を超えないようにすることができる。すなわち、予備吐出モードColor1の吐出数:400は、予備吐出モードBk1の吐出数:200の量のインクBk1と混合しても、少なくともその混合物が流動限界を超えない量として設定されている。この結果、予備吐出受けにおいて、蒸発時に高粘度となるインクの堆積を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置および該装置における予備吐出方法に関し、詳しくは、記録ヘッドの吐出性能を良好に保つために行われる予備吐出の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタなどのインクジェット記録装置では、一般に、インクを吐出する記録ヘッドの吐出性能を良好に保つための回復処理が行われる。記録ヘッドの吐出口およびその内部のインクはその水分が蒸発して増粘(粘度の増加)ないし乾燥する。この増粘ないし乾燥は記録ヘッドの吐出性能劣化の一要因である。吐出性能の劣化は、吐出量が正規のものより少なくなったり吐出方向が正規の方向からずれたりする減少として現れる。この劣化が顕著な場合は不吐出となることもある。回復処理は、主にこの吐出性能劣化の主要因である増粘を防止または解消するために行われる。この回復処理の態様として、記録ヘッドの吐出口が配列した面をキャッピングした状態で吸引を行い吐出口内からインクを排出させる吸引回復や記録装置の所定の場所に記録に関与しないインク吐出を行い吐出口内のインクを排出する予備吐出などが知られている。
【0003】
ところで、以上説明した回復処理は、用いるインクの種類に応じた制御がなされることがある。例えば、特許文献1には、用いるインクの組み合わせに応じて回復処理を変更することが記載されている。具体的には、吸引回復を行う場合にその実行回数を最小限として、キャッピングにおいて弊害となる異なる種類のインクの混合を防ぐことが開示されている。また、特許文献2には、用いるインクの交換に伴う異なる種類のインクの混合による弊害を防止すべく回復処理を制御することが記載されている。例えば、濃度の低いインクを使用する際には、予備吐出の回数を増して、インクの濃度変動を抑えて画像への影響を少なくすること、濃度の低いインクを使用する際には、予備吐出間隔を短くして、インクの濃度変動を抑えて画像への影響を少なくすること、濃度の低いインクを使用する際には、記録ヘッド前面の清掃後の予備吐出回数を増して、インクの濃度変動を抑え画像への影響を少なくすることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平07−068797号公報
【特許文献2】特開平10−006527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示されるような回復処理の制御を行い異なる種類のインクの混合を防いだとしても、インクの特性により比較的増粘し易いインク自身が、例えば回復処理によって排出されるインクの排出路の途中に堆積したり留まったりすることを防ぐことはできない。特に、予備吐出の場合は、その吐出を受けるための予備吐出受けに吐出されたインクは、装置に備えられた何らかの動力によらず重力によって所定の廃インク溜めに導かれることが一般的であることから、増粘したインクが排出路などの途中で移動しなくなり堆積などが顕著になる。そして、以上のような堆積などを生じると、その後の回復の際のインクの排出が妨害され、ひいては排出路が塞がれて廃インクのあふれによる装置内の汚染や装置の寿命低下をもたらすことがある。
【0006】
一方で、予備吐出受けは、通常、装置で用いる複数の記録ヘッド、すなわち用いる複数種類のインクに対して1つが備えられる。この場合、予備吐出受けに吐出された異なる種類のインクは予備吐出受けの中で混じることになる。
【0007】
本発明は上述した堆積などの問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、予備吐出受けにおいて異なる種類のインクが混じることを利用して、予備吐出受けに吐出されたインクの堆積などを防ぐことができるインクジェット記録装置および予備吐出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明では、増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置であって、予備吐出受けと、該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行う手段であって、前記複数種類のインクのうち、より増粘の程度が高い第1インクの吐出数に対し、該第1インクより増粘の程度が低い第2インクの吐出数を多くして、前記第1インクおよび第2インクを吐出する予備吐出手段と、を具えたことを特徴とする。
【0009】
他の態様では、増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置であって、予備吐出受けと、該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行う手段であって、前記複数種類のインクのうち、第1の色についてより増粘の程度が高い第1色の第1インクと前記第1色と異なる第2色について前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第2色の第3インクを吐出する第1予備吐出モードと、前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第1色の第2インクと前記第2色の第3インクを吐出する第2予備吐出モードを実行し、前記第1色の第1インクの吐出数を前記第1色の第2インクの吐出数より多く、かつ前記第1色の第1インクの吐出数より前記第2色の第3インクの吐出数を多くして、前記第1予備吐出モードまたは第2予備吐出モードを実行する予備吐出手段と、を具えたことを特徴とする。
【0010】
また、増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置における予備吐出方法であって、予備吐出受けを用意するステップと、該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行うステップであって、前記複数種類のインクのうち、より増粘の程度が高い第1インクの吐出数に対し、該第1インクより増粘の程度が低い第2インクの吐出数を多くして、前記第1インクおよび第2インクを吐出する予備吐出ステップと、を有したことを特徴とする。
【0011】
他の態様では、増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置における予備吐出方法であって、予備吐出受けを用意するステップと、該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行うステップであって、前記複数種類のインクのうち、第1の色についてより増粘の程度が高い第1色の第1インクと前記第1色と異なる第2色について前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第2色の第3インクを吐出する第1予備吐出モードと、前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第1色の第2インクと前記第2色の第3インクを吐出する第2予備吐出モードを実行し、前記第1色の第1インクの吐出数を前記第1色の第2インクの吐出数より多く、かつ前記第1色の第1インクの吐出数より前記第2色の第3インクの吐出数を多くして、前記第1予備吐出モードまたは第2予備吐出モードを実行する予備吐出ステップと、を有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成によれば、増粘の程度が高いインクを吐出するとき、それより増粘の程度が低いインクを多く吐出するようにするので、予備吐出受けでそれらが混合したときに増粘の程度が高いインクの増粘を抑制することができる。
【0013】
その結果、予備吐出受けに吐出されたインクの堆積などを防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタを示す斜視図である。
【0015】
本実施形態のプリンタは、ブラック(Bk)、シアン(C)、これより色材濃度の薄いライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、これより色材濃度の薄いライトマゼンタ(Lm)およびイエロー(Y)の6色のインクに対応した記録ヘッド(不図示)を備える。これらの記録ヘッドは、ガイドシャフト708に沿って移動できるキャリッジ701に着脱自在に装着される。このキャリッジ701には、記録ヘッドに対して吐出駆動のための信号パルスやヘッド温調用信号などを供給するためのフレキシブル基板702が取り付けられている。フレキシブル基板の他端は、本プリンタの制御を実行する制御回路を備えたプリント基板(不図示)に接続されている。図3にて後述されるように、上記6色のインクをそれぞれ貯留するタンクユニット(不図示)から各色独立に、フレキシブル基盤に付帯したインク供給チューブ703を介し、記録ヘッドにインクが供給される。また、キャリッジ701の移動範囲の一部には、記録ヘッドの回復処理を行うための回復ユニット(不図示)が設けられている。この回復ユニットは、記録ヘッドの吐出口面を覆うキャップ、図10にて後述される予備吐出受け、吐出口面をワイピングするためのブレードなどを備えている。
【0016】
以上の構成に基づく、記録動作は以下のように行われる。記録紙などの記録媒体705は給紙ローラ704によってプラテン706上の記録領域に供給される。記録ヘッドはキャリッジ701の移動に伴い、エンコーダ707によって得られる位置信号に基づいたタイミングでインクを吐出する。この記録ヘッド走査と所定量の紙送りを繰り返すことによって記録媒体上に記録を行ってゆく。
【0017】
本実施形態のインクに用いられる水溶性有機溶剤としては、従来公知のインクに使用されているものであれば、概ね使用することが出来る。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、ヘキシレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;チオジグリコール;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の様な水溶性有機溶剤の含有量は、一般にはインクの全重量に対して重量%で1〜49%、好ましくは2〜30%の範囲である。又、上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも混合物としても使用出来るが、媒体を併有する場合の最も好ましい液媒体組成は、少なくとも1種の水溶性高沸点有機溶剤、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを含有するものである。また必要に応じて、記録品位向上のため、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム等、金属塩を使用する場合もある。
【0018】
以上の溶剤を用いる本実施形態のインクは、上述したようにC、M、Y、Lc、LmおよびBkの6種類のインクである。さらに本実施形態では、Bk(ブラック)については2種類のBkを記録する画像などに応じて交換して用いる。具体的には、後述されるようにインクタンクを交換することによってインクの交換を行う。この2種類のBkは増粘の程度で区別でき、以下では、増粘の程度が比較的高いブラックインクをBk1、それより増粘の程度が低いブラックインクをBk2とする。このような増粘の程度の違いは、顔料または染料などの色材の種類や特性、含有量などに応じて生じることは周知のとおりである。本実施形態で用いるインクBk1、Bk2のいずれも顔料を色材とするが、上記のとおり増粘の程度が異なるものである。また、C、M、Y、Lc、Lmのカラーインクは、いずれも上記インクBk1よりも増粘の程度が低いものである。このカラーインクがBk1インクと増粘の程度が異なることを利用して、図12等で後述される、本発明の実施形態に係る予備吐出制御が行われる。このように、色材などインクを構成する成分の内容、量にかかわらず、本発明は、インクの増粘の程度の違いに応じてそれらインクを吐出する記録ヘッドの予備吐出に適用できるものである。この点は、以下の説明からも明らかである。
【0019】
図2は、図1に示したプリンタの主に制御構成を示すブロック図である。図2において、101はプログラマブル・ペリフェラル・インターフェイス(以下PPIとする)を示し、ホストコンピュータ100から送られてくる指令信号(コマンド)や記録データを含む記録情報信号を受信してMPU102に転送するとともに、ホストコンピュータ100に対しては必要に応じプリンタのステータス情報を送出する。また、ユーザがプリンタに対して各種設定を行う設定入力部やユーザに対してメッセージを表示する表示部などを有したコンソール106との間で入出力を行うとともに、キャリッジ701ないし記録ヘッド9がホームポジションにあることを検出するホームポジションセンサ107よりの信号入力を受容する。また、ホーム位置センサ107は、記録ヘッド112を搭載したキャリッジがホーム位置に到達したことを検知するものである。
【0020】
MPU(マイクロプロセッシングユニット)102は、制御用ROM105に記憶された図7〜図9について後述する処理手順などに対応した制御プログラムに従って、プリンタ内の各部を制御する。103は受信した信号を格納し、あるいはMPU102のワークエリアとして使用され、また各種データを一時的に記憶するためのRAMを示す。104はフォント発生用ROMを示し、コード情報に対応して文字や記録等のパターン情報を記憶しており、入力したコード情報に対応して各種パターン情報を出力する。121はRAM103等に展開された記録データを記憶するためのプリントバッファを示し、M行記録分の容量を持つ。制御用ROM105には上記制御プログラムのほか、図12などで後述されるテーブル等に対応した固定データを格納しておくことができる。これらの各部は、アドレスバス117およびデータバス118を介して、MPU102により制御される。
【0021】
113はキャッピングモータを示し、図1にて上述した回復ユニットにおける、キャップ27の昇降、ワイパホルダ23の移動およびポンプ29の動作の駆動源をなす。114、115および116は、それぞれ、キャッピングモータ113、キャリッジモータ3および給紙モータ5をMPU102の制御に応じて駆動するためのモータドライバを示す。
【0022】
109はシートセンサを示し、記録媒体の有無、すなわち記録媒体が記録ヘッドによる記録が可能な位置に供給されたか否かを検知する。111は記録情報信号に応じて記録ヘッド9の発熱部52を駆動するためのドライバを示している。124は上記各部へ電源を供給する電源部を示し、駆動電源装置としてACアダプタと電池とを有している。391は、本プリンタに装着されているそれぞれのインクタンク39に設けられたROMを示し、このROMには、そのタンクが貯留するインクの色を含めた種類の情報などが記憶されている。MPU102は、図7等で後述する予備吐出制御でこのインク種類によって図12などにて後述するテーブルを参照するなど、これらの情報を読み出して本プリンタの制御に利用する。
【0023】
上記プリンタおよびこれに対して記録情報信号を供給するホストコンピュータ100からなる記録システムにおいては、ホストコンピュータ100よりパラレルポート、赤外線ポート、あるいはネットワーク等を介して記録データ送信する際、その先頭部分に所要のコマンドが付加される。そのコマンドとしては、例えば記録の行われる記録媒体の種類(普通紙,OHPシート,光沢紙等の種類や、さらには転写フィルム,厚紙,バナー紙等の特殊な記録媒体の種別)、媒体サイズ(A0,A1,A2など)、記録品位(ドラフト,高品位,中品位,特定色の強調,モノクローム/カラーの種別など)、給紙経路(プリンタが備える記録媒体の送給手段の形態や種類に応じて定められる。例えばASF,手差し,給紙カセット1,給紙カセット2など)、およびオブジェクトの自動判別の有無などがある。また、記録媒体でのインクの定着性を向上するための処理液を付与する構成が採用される場合には、その付与の有無を定める情報等がコマンドとして送信されることもある。
【0024】
これらのコマンドに従って、プリンタ側では前述したROM105から記録に必要なデータを読み込み、それらのデータに基づいて記録を行う。データとしては、例えば上述したマルチパス記録を行う際の記録パス数や、記録媒体単位面積あたりのインクの打ち込み量および記録方向等を決定するためのものがある。またその他、マルチパス記録を行う際に適用されるデータ間引き用のマスク種類や、記録ヘッドの駆動条件(たとえば発熱部52に印加する駆動パルスの形状,印加時間等)、ドットのサイズ、記録媒体搬送の条件、さらにはキャリッジ速度等もある。
【0025】
図3は上記記録ヘッドへのインク供給系の構成例を示す図である。記録ヘッドにインクを供給する方式としては主に2つのものがある。一つは、キャリッジにインクを保持するインクタンクを搭載し、直接記録ヘッドにインクを供給するものである。もう一つは、供給チューブと呼ばれるチューブを用いて、装置の固定部位に配置されたインクタンクと、キャリッジに搭載された記録ヘッドとの間を繋いでインクを供給するものであり、本実施形態ではこの方式を採用している。
【0026】
インクタンク39Bk、39Lc、39C、39Lm、39Mおよび39Yには、上述したようにブラック(Bk)、ライトシアン(Lc)、シアン(C)、ライトマゼンタ(Lm)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクが収納されている。なお、同様に上述したように、インクタンク39Bkは、インクBk1およびインクBk2に対応して2種類があり、これらが交換して用いられる。これらの2種類のインクタンクのいずれが装着されているかについては、上述したようにそれぞれのタンクに備えられたROM391の内容が読取られることによって知ることができる。
【0027】
45は各色インクタンクに接続されるインク供給チューブを示し、キャリッジ701ないし記録ヘッド9の移動(スキャン)に追従可能な可撓性を有するものである。46は記録ヘッドとともにキャリッジユニット2に搭載されるジョイントを示し、各供給チューブ45の他端が接続される一方、記録ヘッド9のインク導入部23に結合するインク導出管45Aを有する(当該接続部分は図示を省略している)。
【0028】
各インクタンクはPP,PE等の樹脂によりインジェクション・ブロー等により成型され、超音波溶着,熱溶着,接着,嵌合などの技術を用いて組み立てられている。図3では、タンク外装がそのままインクチャンバとして機能する形式のものが例示され、その底部にジョイントゴム44が配置される一方、供給チューブ45の端部に設けた中空針43がジョイントゴム44を貫通してインクチャンバ内に突入することでインク供給を受けるようになっている。また、各インクタンクに対しては、中空針42を介して同様の接続形態にてバッファ室41が配設されている。これは、環境変化等によってインクチャンバ内に圧力変化が生じたときにこれを吸収して供給チューブ45ひいては記録ヘッド9側に圧力変動の影響を及ぼさないようにする機能を果たす。例えば、インクタンク内の空気が膨張することによってタンク内から溢れ出るインクを一時的に保持したり、逆にインクタンク内の空気が収縮する場合には保持したインクをインクタンク内に戻す機能を有する。
【0029】
なお、インクタンクの構成としては、上記のものに限られず、例えば内部にインクを充填したインク袋を持つもの、また内部に多孔質体が充填されてインク含浸保持するとともに、記録ヘッドのインク吐出口に形成されるインクメニスカスを保持するための負圧を発生させるようにしたものであってもよい。また、このような負圧発生機構を有するタンクの形態としては、インクを収納する可撓性の袋を設け、袋の内部または外部に設けられたばね機構等によって袋の内容積を拡大する方向に付勢するようにしたものでもよい。
【0030】
図4は、回復ユニットの構成例を示す模式的斜視図である。2つのキャップ27は不図示の昇降機構によって昇降可能に支持されており、上昇位置では、記録ヘッドの6色の吐出部を配列したフェイス面を3色ずつキャッピングする。これにより、非記録動作時等においてその保護を行ったり、あるいは吸引回復を行うことが可能である。記録動作時には記録ヘッド9との干渉を避ける下降位置に設定され、またフェイス面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。
【0031】
ゴム等の弾性部材でなるワイパブレード21,22はワイパホルダ23に固定されている。ワイパホルダ23はガイド24に沿って、矢印Wで示す図の前後方向(吐出部における吐出口の配列方向)に移動可能である。そして、記録ヘッド9がホームポジションに到達したときに、矢印W方向にワイパホルダ23が移動することによって、ワイピングが可能である。ワイピング動作が終了すると、キャリッジをワイピング領域の外に退避させてから、ワイパがフェイス面等と干渉しない位置に戻す。なお、本例においては、3吐出部のフェイス面をワイピングする2つのワイパブレード21と、吐出部11〜16の吐出面を含む記録ヘッド9の面全体をワイピングするワイパブレード22とが設けられている。
【0032】
吸引ポンプ29は、キャップ27をフェイス面に接合させてその内部に密閉空間を形成した状態で負圧を発生させることにより、インクタンクから記録ヘッドないし吐出部内にインクを充填させたり、吐出口もしくはその内方のインク路に存在する塵埃、固着物、気泡等を吸引除去したりすることができる。図示の例では、チューブポンプ形態の吸引ポンプ29が用いられ、これは可撓性を有するものとしたチューブ28(の少なくとも一部)を沿わせて保持する曲面が形成された部材と、これに向けて可撓性チューブを押圧可能なローラと、このローラを支持して回転可能なローラ支持部とを有するものとすることができる。すなわち、ローラ支持部を所定方向に回転させることで、ローラは曲面形成部材上で可撓性チューブを押しつぶしながら転動する。これに伴い、キャップ7が形成する密閉空間に負圧が生じてインクが吐出口より吸引され、キャップ27からチューブないし吸引ポンプに引き込まれる一方、引き込まれているインクはさらに適宜の部材(廃インク吸収体)に向けて移送される。
【0033】
また、本実施形態の回復ユニットは、2つのキャップ27の配列方向に沿った位置に、図10にて後述される予備吐出受け(図4では不図示)が設けられている。
【0034】
図5は、上記プリンタのキャリッジ701に搭載される記録ヘッドを、インクが吐出される方向から示した模式的斜視図である。ここで、記録ヘッド9には、上述したように、主走査方向Sに異なる色調(色、濃度を含む)のインク、ブラック(Bk)、ライトシアン(Lc)、シアン(C)、ライトマゼンタ(Lm)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出可能なそれぞれの吐出部11〜16が並置されている。各吐出部に対しては、インク導入部23から記録ヘッド内部のインク流路を介してインクが供給される。インク導入部23には後述のインクタンクよりチューブを介してインクが導入される。
【0035】
図6は、上記6色のインクの吐出部の1つを示す模式的な斜視図である。
【0036】
各吐出部は、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、例えば通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを用いる方式のものであり、所定のピッチで発熱部52が形成された発熱部列を2列、並列させてなる基板51を有している。基板51の発熱部列間には、上記インク流路に連通するインク供給口56が設けられている。基板51に対しては、発熱部52に対応したノズル55と、ノズル55のそれぞれに対応してインク供給口56からインクを供給するためのインク路59とが形成された部材(オリフィスプレート)54が接合されて、吐出部が構成される。
【0037】
各列では互いに、発熱部52およびノズル(吐出口)55を半ピッチずらして配置することで、所望の記録解像度を実現している。ここで、吐出部11〜16のそれぞれについて同じ記録密度およびノズル数とすることもできるし、異なる記録密度およびノズル数とすることもできる。本実施形態では、Bk用の吐出部11では1cmあたり約245ノズルの密度で640個のノズルが配列されており、その他のカラーインク用吐出部11〜15では各色とも1cmあたり約490ノズルの密度で1280個のノズルが配列されている。
【0038】
なお、本例では発熱部52が基板51に対して垂直方向にインクを吐出させる方式の吐出部を用いているが、平行な方向にインクを吐出させる形態の吐出部を用いるものでもよい。
【0039】
図7、図8および図9は、本発明の一実施形態に係る、それぞれ記録中以外、記録中および記録終了後に回復ユニットによって行われる回復処理を示すフローチャートである。
【0040】
図7に示す記録中以外の回復処理では、先ず、Step1(以下、S1と省略する。他のステップも同様)で、ソフトオン(2次電源投入)または記録開始指令があると、本処理が起動される。そして、S2において現在時刻を読み込み、S3で記録ヘッドのクリーニングを実行した前回の時刻を読み込み、S4でクリーニング間隔の算出を行う。この「クリーニング」は、回復処理の一態様であり、吸引回復、予備吐出およびワイピングの総てをそれぞれ所定量行うものである。
【0041】
S5では、S4で算出したクリーニング間隔が所定の閾値を超えているか否かの判定を行い、所定の閾値を超えているときは、S6においてクリーニングを実行する。そして、S7で前回クリーニング時刻Tbを現在時刻Taで置き換え、READY状態(S8)とする。
【0042】
次に、図8に示す記録中回復処理では、先ず、記録ヘッドを記録可能な状態とするため記録ヘッドがキャップされた状態か否かを判断する(S9)。これはキャッピングセンサーの信号により確認することができる。キャップされているときは、キャップをオープンさせる(S10)。次に、S11で、図7にて説明した記録中以外の回復シーケンスを実施する。
【0043】
この回復シーケンスを終了すると、給紙を行い(S12)、プリントバッファ121に記録ヘッドの1走査分の記録データがそろっていると判断すると(S13)、記録開始前の予備吐出を行い(S14)、1走査分の記録動作を行う(S15)。次に、記録終了や強制排紙などによる排紙か否かを判断する(S16)。排紙でないときは、S10のキャップオープンからの経過時間Tcをリードし(S17)、この時間Tcがキャピングすべき時間Tcapを超えているか否かを判断する(S18)。時間Tcapを超えていときは、次に、キャップオープン状態での経過時間Tcが予備吐出をすべき時間Tpreinjを超えているか否かを判断する(S20)。この時間を超えていないときはS13に戻り、それ以降で次の走査の記録動作を行う。
【0044】
S18で、時間Tcapを超えていると判断したときは、記録ヘッドに対してキャッピングを行い(S19)、S13へ戻る。これにより、ホスト装置から記録データが送られてこない状態が比較的長時間続くような事態に対処して、記録ヘッドのキャッピングを行い記録ヘッド内のインクの増粘を抑制することができる。なお、このキャッピングを行った場合は、S14の予備吐出の直前にキャップを開ける動作を行う。また、経過時間Tcが時間Tpreinjを超えていると判断したときは、ワイピングおよび予備吐出を行う(S21)。これにより、例えば、記録ヘッドの数回の走査ごとに予備吐出を行い、記録動作中の吐出口ごとの部分的な増粘を抑制することができる。排紙コマンドにより記録が終了したと判断すると(S16)、排紙を行い(S22)、記録動作を終了する。
【0045】
なお、上記の実施形態では、走査の直前に予備吐出を行っているが、記録直前にタイマーの時間に応じて、予備吐出する/しないを選択する構成も可能である。
【0046】
図9に示す記録動作後の回復処理は、図8で説明した1ページ分の記録シーケンス(S23)を終了すると起動される。先ず、S24において記録ドット数Nが規定のドット数N1を超えているか否かを判断する。閾値N1を超えているときはワイピングを行う(S25)。こにより、特に記録量が多く、記録ヘッドのフェース面にインク滴などが多量に付着している可能性が高い場合に、これを除去することができる。次に、S26において次ページの記録データが有るか否かを判断する。ここで、次のページの記録データがある場合は、S23の記録シーケンスを繰返す。次ページ記録データがない場合は、55秒待機する(S27)。そして、この待機時間中に次のページの記録データの入力がないときは、ワイピングを行い(S28)、次いでキャッピングを行い(S29)、本処理を終了する。
【0047】
なお、ワイピング実行判断のためのドットカウントについては、本プリンタ内のドットカウンタによってカウントされたドット数をメモリー122等に保存して用いられる。本実施形態では、ワイピングをする/しないの判断は各ページ終了時に行うよう構成したが、本実施形態の対象である、記録領域が大きいプロッタ、大判プリンタの場合には、各記録スキャン後にワイピングする/しないの判断を行うよう構成することも可能である。また、ドットカウントのみでなくフェイス面に付着するインクミストは記録デューティによっても変動する場合があるため、ドット数にデューティーを基に算出した係数を加味してドット数の増減を行う構成とすることもできる。
【0048】
図10は、本発明の一実施形態に係る予備吐出受けを示す模式的断面図である。
【0049】
上述したように、予備吐出受け62は回復ユニットの一部として記録ヘッド9の移動範囲の一部に設けられる。図7、図8にて説明した記録外回復や記録中回復処理の一環として予備吐出が行われるが、これらの予備吐出は記録ヘッド9がこの予備吐出受け62まで移動して行われる。
【0050】
本実施形態の予備吐出は、記録ヘッド9が同図に示す位置に静止して、まずBkの吐出部11から吐出を行い、次にLc吐出部12から吐出を行うというように、各色インクの吐出部から順次に予備吐出を行う。なお、Bk吐出部11、Lc吐出部12、C吐出部13、Lm吐出部14、M吐出部15、およびY吐出部16のすべてを同時に吐出する構成とすることもできる。また、Bk吐出部11、Lc吐出部12、C吐出部13を同時に吐出し、その後にLm吐出部14、M吐出部15、Y吐出部16を同時に吐出するというような2分割の構成、さらには、これらの吐出部を任意の2ヘッドごとに吐出する3分割の構成にすることも可能である。本実施形態に係る図10に示す予備吐出受けは記録ヘッド9の幅分の広さを持っていることから、同時または順次の予備吐出のいずれにも対応することができるが、スペースの関係等で十分な幅の予備吐口が設けられない場合には、1〜数吐出部分の幅の予備吐出受けを設け上記のように順次予備吐出を行う構成にすることもできる。記録ヘッドを移動させながらそれぞれの色の吐出部ないし記録ヘッドから順次に吐出を行い、それらの吐出されたインクが予備吐出受け上で同じ位置に着弾するようにしてもよい。これによれば、以下で説明する異なるインクの混合を効率よく行うことができる。
【0051】
図10に示すように、各吐出部から吐出されたインク滴61は、予備吐出受け62に着弾し、予備吐出受け62を形成する部材を伝わりつつ(流れつつ)インクの集合体であるインク廃液65を形成する。インク廃液65は、さらに予備吐口下部に接続されているインク流路63を通りインク排出口64に導かれる。インク排出口64に導かれたインクは廃インクケース67内に収納された廃インク吸収体66に導かれる。廃インク吸収体66には、一般に、ポリウレタン、メラミン等の樹脂の発泡体やパルプ、レーヨン、ポリエステル等の繊維を用いた不織布やこれらを用いたニードルフェルト等が用いられる。また、廃インク回収用のボトル等に回収される場合もある。吸収体にはインクの流動を制御するため、各種交換作業により大量の廃インクが発生した場合のオーバーフロー防止、またはインクを一時的に貯留し、拡散を促すため等の目的で拡散溝68が設けられる。本実施形態でも高粘度のインクが一時的に滞留できるよう溝68が設けられる。図10に示す例では廃インクケース67内に導かれたインク廃液65は拡散溝68に落下し、その後拡散するよう構成されている。
【0052】
ところで、前述したように、インクは、浸透性または非浸透性、顔料または染料、インク濃度、溶剤組成等によって同じ色調のインクであってもさまざまなインクを作ることが可能となっている。例えば、少量のインクで比較的高い濃度得るには含まれる色材濃度を上げればよいが、一方で信頼性、保存時の安定性等で問題を生じることは従来から知られている。また、顔料インクは、十分な濃度が得られるが、他方で光沢系の記録媒体に記録を行った場合には記録部分の光沢感が失われ記録物の品位を落としてしまうことがある。また、染料系のインクは、光沢系の記録媒体に記録した場合比較的良い画像が得られる反面、普通紙、コート紙等では十分な濃度が得られないことが知られている。これは顔料が表面に残留するために濃度に関しては有利であるが、光沢に関しては表面に残留するが故に光沢が低下する特性を持っているためである。このようにインクは同じ色(例えばBk)であっても異なる性質を持つことがある。
【0053】
本実施形態は、前述したように、ブラックインクについて増粘の程度などの特性の異なるインクBk1およびBk2をそれらのインクタンクを交換することによって使い分ける。これにより、記録する画像の種類や用いる記録媒体の種類に応じた種類のブラックインクを用いて、常に高品位の画像を記録することができる。
【0054】
前述したように、予備吐出受けでは、これに吐出された後の増粘の程度がインクの種類によって異なるため、予備吐出受け62の傾斜部分に堆積を生じたり、インク流路63の途中に滞留したりといった現象が発生し、インク廃液65の回収を阻害する場合がある。また、廃インク吸収体上に堆積し、それ以上のインクが吸収されることを妨害する場合もある。
【0055】
これに対し、本発明の一実施形態は、予備吐出の際に、増粘の程度が高いインクとともに粘度が上昇しにくい他のインクを同時に吐出し、それらのインクを混合してその混合したインクの粘度を低下させる。
【0056】
図11は、本発明の一実施形態に係るインクBk1、Bk2、およびインクBk1に他の増粘の程度が低いインクを混合したものそれぞれの粘度変化を説明する図である。同図は、横軸が、蒸発によって変化するインク量を蒸発開始時の量に対する割合を示し、縦軸が粘度を示している。
【0057】
同図において、69はインクBk1の粘度変化曲線を示し、70はインクBk2の粘度変化曲線を示す。これらの曲線が示すように、どちらのインクも残量50%程度まではそれほど粘度変化に差が無い。しかし、残量50%を下回ったあたりからインクBk1の粘度は急激に上昇し始め、ほぼ限界に近い30%あたり(70%蒸発)では、インクBk2との間に大きな粘度の差が生じている。この30%残量のあたりでインクBk1の粘度は流動限界72(約2000mPa・s)を超える。この限界を超えると、インクはほとんど流動することができない。
【0058】
これに対し、71は、インクBk1と他のより増粘の程度が低い所定のインクとを混合させたものの粘度変化曲線を示す。これに示すように、インクBk1と他のインクトンも混合物は、急激な粘度上昇が抑えられ、限界付近のインク残量30%付近でも流動限界72を超えないようにすることができる。このように、本発明の一実施形態は、予備吐出の際に増粘の程度が高いインクとより増粘の低いインクを混合させるようにして、流動限界を超えるような増粘を防止するものである。すなわち、増粘の程度が低いインクを、増粘の程度が高いインクが流動限界を超えないだけの十分な量吐出して混合するようにする。なお、このようなインクの混合は、予備吐出受け62に対して増粘の程度が高いインクとより増粘の低いインクを吐出することによって実現することができる。この場合、上述したように、必ずしもこれらのインクが予備吐出受けの同じ場所に吐出されてその場所で混合する必要はなく、予備吐出受けに吐出された後それらのインクが移動して(流れて)混合するものであってもよいことはもちろんである。
【0059】
図12は、本発明の一実施形態に係る予備吐出制御で用いる予備吐出の吐出数を定めるためのテーブルを示す図であり、図13は、比較のための従来の同様のテーブルを示す図である。
【0060】
図12において、予備吐出A1、A2、A3、B、CおよびDは、図7および図8にて上述した回復処理の一環として行われるものである。詳しくは、予備吐出A、BおよびCは、図7に示す非記録時の記録外回復処理のステップS6の「クリーニング」で行われるものであり、図7の処理で用いる規定時間Uが60分以下、240分以下、720分以下のどれに設定されているかに応じて、「クリーニング」で予備吐出A、BおよびCのいずれかのテーブルが参照される。予備吐出B、C、Dは、図8に示す記録中回復処理のそれぞれステップS14、S21、S11で行われる。
【0061】
図12に示すように、例えば、「予備吐出A1」では、インクBk1を用いる場合(以下、この場合の予備吐出を「予備吐出モードBk1」とも言う)では、インクBk1の記録ヘッドの予備吐出の吐出数を200発とする。これは、インクBk1が増粘し易いため吐出数を多くしてその予備吐出による増粘インクの除去を確実にするためである。そして、この予備吐出モードBk1のときの、他のインクであるインクC、Lc、M、Lm、Y(以下、これらをまとめて「カラーインク」とも言う)の予備吐出(以下、この場合の予備吐出を「予備吐出モードColor1」とも言う)の吐出数を400発とする。これにより、予備吐出A1が行われて予備吐出受け62にインクBk1とカラーインクが吐出されて混合したときに、その混合物が、図11にて説明した流動限界を超えないようにすることができる。すなわち、予備吐出モードColor1の吐出数:400は、予備吐出モードBk1の吐出数:200の量のインクBk1と混合しても、少なくともその混合物が流動限界を超えない量として設定されている。この結果、予備吐出受けにおいて、蒸発時に高粘度となるインクの堆積を防止することができる。
【0062】
「予備吐出A1」で、インクBk2を用いる場合、インクBk2の記録ヘッドの予備吐出の吐出数を40発とする。これは、インクBk2がインクBk1と比較して増粘の程度が低いため吐出数をそれほど多くしなくてもよいためである。そして、このインクBk2と用いるとき(以下、この場合の予備吐出を「予備吐出モードBk2」とも言う)、カラーインクの予備吐出(以下、この場合の予備吐出を「予備吐出モードColor2」とも言う)の吐出数を同じ40発とする。これは、同様にカラーインクのそれぞれがインクBk1と比較して増粘の程度が低いため吐出数をそれほど多くしなくてもよく、また、インクBk2はもともと流動限界を超えることがないから、インクBk2との混合物の流動性を考慮しなくてよいからである。
【0063】
これに対し、比較のため図13に示す従来例では、同じ「予備吐出A1」で、予備吐出モードBk1および予備吐出モードBk2のいずれでも、カラーインクの吐出数は同じ40発である。このため、インクBk1を用いる場合に、このインクがカラーインクと混合してもその混合物の粘度変化を抑制できず、流動限界を超える場合があり、その結果として予備吐出受けに堆積物を生じることがある。
【0064】
図12において、他の予備吐出A2〜Dについても同様に、インクBk1とカラーインクとの混合物が流動限界を超えないように、特に予備吐出モードColor1の吐出数が設定されている。なお、この予備吐出モードColor1の吐出数の決め方は、その他の種々の要因をも考慮して行われるのはもちろんである。しかし、その場合でも予備吐出モードBk1の吐出数に対して、そのインクBk1と混合して少なくともその混合物が流動限界を超えない吐出数が設定される必要があることは明らかである。
【0065】
(実施形態2)
図14は、本発明の他の実施形態に係る予備吐出制御で用いるテーブルを示す図であり、図12に示す図と同様の図である。
【0066】
上記の実施形態1では、予備吐出モードColor1および予備吐出モードColor2のいずれのモードでも、カラーインク間で吐出数は同じものとした。これに対し、本実施形態では、それぞれのモードで、カラーインク間でそれらの吐出数を異ならせる。すなわち、流動性を向上させやすいインク、一般には、増粘の程度の低いインクほど、吐出数を多くする。例えば、「予備吐出A1」では、インクBk1を用いる場合の予備吐出モードBk1に対応する予備吐出モードColor1のインクLc、Lmの吐出数をそれぞれ400とし、インクC、M、Yの吐出数をそれぞれ100とする。これはインクLm、Lcは顔料濃度がインクC、M、Yに比べて低く増粘の程度が低いため、M、C、Yよりも多く混合するようにしている。なお、実施形態1と本実施形態のインクが同じ組成のものであるとすると、図12に示すテーブルとの比較からわかるように、インクBk1とカラーインクとの混合物の粘度上昇を抑制して流動限界を超えないために必要な吐出量は、図12に示すようにカラーインクの総てが400発である必要がないことがわかる。
【0067】
このように、本実施形態によれば、予備吐出で吐出する吐出数をできる限り少なくして、より効果的に、予備吐出受けにおいて蒸発時に高粘度となるインクの堆積を防止することができる。
【0068】
(他の実施形態)
上記の実施形態2で説明したように、カラーインクC、Lc、M、Lm、Yそれぞれの粘度上昇の程度に応じて、そのカラーインク間で吐出数を異ならせてもよく、その一例として、例えば、予備吐出モードBk1および予備吐出モードBk1に対応する予備吐出モードColor1および予備吐出モードColor2のいずれでも、Yの吐出数を一定とし、他のカラーインクを変化させるようにしてもよい。
【0069】
(さらに他の実施形態)
上記の各実施形態では、Bkインクを交換して用いるものとしたが、例えば、インクBk1とインクBk2について、記録ヘッドおよびインクタンクを複数具え、モードに応じて使い分ける態様としてもよく、この態様において本発明に係る上記の各実施形態の予備吐出を実行することもできることはもちろんである。
【0070】
また、粘度上昇しやすいインクが上記各実施形態に説明したブラックインクに限られず、増粘の程度に応じて、より増粘の程度が低いインクで希釈する対象となるインクを設定することはもちろんである。さらに、そのような対象として、そのインクが単独で図11で説明した流動限界を超えるものである必要はなく、用いるインクのグループの中で最も増粘の程度が高いインクを希釈の対象とすることができる。これによれば、予備吐出受けにおける流動性をより高くするという作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタを示す斜視図である。
【図2】図1に示したプリンタの主に制御構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示すプリンタで用いられる記録ヘッドへのインク供給系の構成例を示す図である。
【図4】図1に示すプリンタで用いられる回復ユニットの構成例を示す模式的斜視図である。
【図5】図1に示すプリンタのキャリッジに搭載される記録ヘッドを、インクが吐出される方向から示した模式的斜視図である。
【図6】上記記録ヘッドの6色のインクの吐出部の1つを示す模式的な斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る、記録以外に回復ユニットによって行われる回復処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に係る、記録中に回復ユニットによって行われる回復処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の一実施形態に係る、記録終了後に回復ユニットによって行われる回復処理を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係る予備吐出受けを示す模式的断面図である。
【図11】本発明の一実施形態に係るインクBk1、Bk2、およびインクBk1に他の増粘の程度が低いインクを混合したものそれぞれの粘度変化を説明する図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る予備吐出制御で用いる予備吐出の吐出数を定めるためのテーブルを示す図である。
【図13】比較のための従来の同様のテーブルを示す図である。
【図14】本発明の他の実施形態に係る予備吐出制御で用いる予備吐出の吐出数を定めるためのテーブルを示す図である。
【符号の説明】
【0072】
9 記録ヘッド
11 ブラック吐出部
12 ライトシアン吐出部
13 シアン吐出部
14 ライトマゼンタ吐出部
15 マゼンタ吐出部
16 イエロー吐出部
39 インクタンク
61 インク滴
62 予備吐出受け
63 インク流路
64 インク排出口
65 インク廃液
66 廃インク吸収体
67 廃インクケース
68 拡散溝
100 ホスト
101 PPI
102 MPU
103 RAM
104 ROM


【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置であって、
予備吐出受けと、
該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行う手段であって、前記複数種類のインクのうち、より増粘の程度が高い第1インクの吐出数に対し、該第1インクより増粘の程度が低い第2インクの吐出数を多くして、前記第1インクおよび第2インクを吐出する予備吐出手段と、
を具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第2インクの吐出数は、前記第1および第2インクが前記予備吐出受けにおいて混合したときの混合物が流動限界を超えないように定められることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1インクおよび前記第2インクは、蒸発によるインク残量が30%のときに粘度がそれぞれ2000mPa・s以上および2000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置であって、
予備吐出受けと、
該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行う手段であって、前記複数種類のインクのうち、第1の色についてより増粘の程度が高い第1色の第1インクと前記第1色と異なる第2色について前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第2色の第3インクを吐出する第1予備吐出モードと、前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第1色の第2インクと前記第2色の第3インクを吐出する第2予備吐出モードを実行し、前記第1色の第1インクの吐出数を前記第1色の第2インクの吐出数より多く、かつ前記第1色の第1インクの吐出数より前記第2色の第3インクの吐出数を多くして、前記第1予備吐出モードまたは第2予備吐出モードを実行する予備吐出手段と、
を具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第1色の第1および第2インクはブラックインクであり、前記第2色の第3インクはシアン、該シアンインクより色材濃度の低い淡シアンインク、マゼンタ、該マゼンタインクより色材濃度の低い淡マゼンタインクおよびイエローを含むカラーインクであることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1色の第1および第2インクはブラックインクであり、前記第2色の第3インクは、前記複数のインクを構成する、シアン、該シアンインクより色材濃度の低い淡シアンインク、マゼンタ、該マゼンタインクより色材濃度の低い淡マゼンタインクおよびイエローを含むカラーインクのうち、淡シアンおよび淡マゼンタインクであることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置における予備吐出方法であって、
予備吐出受けを用意するステップと、
該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行うステップであって、前記複数種類のインクのうち、より増粘の程度が高い第1インクの吐出数に対し、該第1インクより増粘の程度が低い第2インクの吐出数を多くして、前記第1インクおよび第2インクを吐出する予備吐出ステップと、
を有したことを特徴とする予備吐出方法。
【請求項8】
前記第2インクの吐出数は、前記第1および第2インクが前記予備吐出受けにおいて混合したときの混合物が流動限界を超えないように定められることを特徴とする請求項7に記載の予備吐出方法。
【請求項9】
前記第1インクおよび前記第2インクは、蒸発によるインク残量が30%のときに粘度がそれぞれ2000mPa・s以上および2000mPa・s以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の予備吐出方法。
【請求項10】
増粘の程度が異なる複数種類のインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置における予備吐出方法であって、
予備吐出受けを用意するステップと、
該予備吐出受けに対し、記録ヘッドから前記複数種類のインクを吐出して予備吐出を行うステップであって、前記複数種類のインクのうち、第1の色についてより増粘の程度が高い第1色の第1インクと前記第1色と異なる第2色について前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第2色の第3インクを吐出する第1予備吐出モードと、前記第1色の第1インクより増粘の程度が低い第1色の第2インクと前記第2色の第3インクを吐出する第2予備吐出モードを実行し、前記第1色の第1インクの吐出数を前記第1色の第2インクの吐出数より多く、かつ前記第1色の第1インクの吐出数より前記第2色の第3インクの吐出数を多くして、前記第1予備吐出モードまたは第2予備吐出モードを実行する予備吐出ステップと、
を有したことを特徴とする予備吐出方法。
【請求項11】
前記第1色の第1および第2インクはブラックインクであり、前記第2色の第3インクはシアン、該シアンインクより色材濃度の低い淡シアンインク、マゼンタ、該マゼンタインクより色材濃度の低い淡マゼンタインクおよびイエローを含むカラーインクであることを特徴とする請求項10に記載の予備吐出方法。
【請求項12】
前記第1色の第1および第2インクはブラックインクであり、前記第2色の第3インクは、前記複数のインクを構成する、シアン、該シアンインクより色材濃度の低い淡シアンインク、マゼンタ、該マゼンタインクより色材濃度の低い淡マゼンタインクおよびイエローを含むカラーインクのうち、淡シアンおよび淡マゼンタインクであることを特徴とする請求項10に記載の予備吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−240173(P2006−240173A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61249(P2005−61249)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】