説明

インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法

【課題】複数のヘッドブロック内のインク温度を制御する。
【解決手段】インクジェット方式によりインクIKを吐出させる複数のノズル22nを有するヘッドブロック22が複数配置されたライン型インクジェットヘッド20と、インクIKを循環させるインク循環経路部50と、インク循環経路57内のインクIKの温度を所定のインク温度に制御するインク循環経路内インク温度制御部70と、ヘッドブロック22内のインクIKの温度を計測する第2温度計31と、ヘッドブロック22内のインクIKを加熱する第2ヒータ32とが各ヘッドブロック22ごとに設置され、各ヘッドブロック22内のインクIKの温度を目標インク温度TMに制御するヘッドブロック内インク温度制御部30と、を備えたインクジェット記録装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドを用い、各ヘッドブロック内でインク温度を最適に制御できるインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、インクジェット方式を適用したインクジェット記録装置は、画像情報や文字情報などによる印刷データに基いてインクジェットヘッドのノズルからインクを記録紙に向けて吐出させて画像や文字などを記録することができ、しかも、多色のインクを使用して記録紙上に印刷データをカラーで記録できるので、家庭用や業務用プリンタとして多用されている。
【0003】
この種のインクジェット記録装置の一例として、複数のノズルを主走査方向となるラインに沿って配列させたライン型インクジェットヘッドを用い、このライン型インクジェットヘッドを固定して記録紙を主走査方向と直交する副走査方向に送ることにより、印刷データを記録紙上で少なくとも1ライン以上一括してフルライン記録できるものがある。
【0004】
この際、業務用プリンタなどで多量にインクを使用する場合に、ライン型インクジェットヘッドと、インクを貯蔵したインクタンクとをインク循環経路で接続し、インク循環経路中に配設したポンプを駆動してインクを循環させつつライン型インクジェットヘッドに設けた複数のノズルからインクを記録紙に向けて吐出させるインク循環方式が一般的に採用されている。
【0005】
このインク循環方式を採用したインクジェット記録装置において、インク加熱における電力消費量を抑えると共に、インクを速やかに所定のインク温度に保つことにより、記録処理前の待ち時間を短縮することが可能なインク温度調整機構を備えた画像記録装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図13に示した従来の画像記録装置(インクジェット記録装置)100は、特許文献1に開示されているものであり、ここでは特許文献1を参照して簡略に説明する。
【0007】
図13に示した従来の画像記録装置100において、記録ユニット(以下、インクジェットヘッドと記す)101は、不図示のピエゾ素子によってインクIKの吐出を行なう複数のノズルを有するノズル列101aを取り付けていると共に、ノズル列101aの近傍にインク温度調整機構120の一部を構成する温度検出器121が配設されている。
【0008】
また、インクジェットヘッド101のノズル列101aと対向して記録紙PAが複数のローラ(図示せず)によって架設された無端ベルト102上に載置され、且つ、この無端ベルト102がモータ103によって回転駆動されて、記録紙PAが紙面に垂直な方向に搬送されている。従って、無端ベルト102とモータ103とが記録紙PAを搬送する記録紙搬送機構部104を構成している。
【0009】
また、インクジェットヘッド101と、インクIKを貯蔵したインク貯蔵部105との間には、インクジェットヘッド101よりもインク循環方向上流側で且つインク貯蔵部105よりも下流側にインク供給経路106が配管され、且つ、インクジェットヘッド101よりも下流側にインク回収経路107が配管されて、両経路106,107によりインクIKが循環可能になっている。
【0010】
そして、インク供給経路106側において、インク貯蔵部105に貯蔵したインクIKは、チューブポンプ111によって矢印a方向に吸い上げられた後にこのチューブポンプ111から矢印b方向に押し出されて電磁弁112を介してインク温度調整機構120に送られる。
【0011】
上記したインク温度調整機構120は、温度検出器121,熱交換器122,放熱器123,冷却器124,全体ヒータ125を備えている。
【0012】
このインク温度調整機構120内では、電磁弁112よりも下流側のインク供給経路106が第1経路106aと第2経路106bとに二股に分かれており、インクジェットヘッド101のノズル列101aの近傍に配設した温度検出器121の検出温度が所定の温度よりも低い場合に、電磁弁112を通ったインクIKが第1経路106a中に設けた熱交換器122で所定のインク温度となるように制御される一方、温度検出器121の検出温度が所定の温度よりも高い場合には、電磁弁112を通ったインクIKが第2経路106b中に設けた放熱器123及び冷却器124により冷却されて所定のインク温度となるように制御される。
【0013】
この後、二股に分かれた第1,第2経路106a,106bは合体し、第1経路106a又は第2経路106bを通過したインクIKは、下流側のインク供給経路106中に設けた全体ヒータ125で温度検出器121の検出温度が所定の温度よりも低い場合に加熱されてインクジェットヘッド101に供給される。
【0014】
そして、インクジェットヘッド101内でインクIKの温度が所定の温度に達した後に、ノズル列101aからインクIKが記録紙PA上に吐出される。
【0015】
一方、インクジェットヘッド101からの余剰のインクIKは、インク回収経路107を通って熱交換器122の熱伝導される側の経路及び電磁弁113を介して負圧発生器(大気開放タンク)114へ流入し、この後、負圧発生器114に流入したインクIKは、インクジェットヘッド101のノズル列101aの各ノズルのインク室内を適正な負圧状態に保つ処置として、ノズル列101aに対して距離hだけ低い所定の液面位置を保ちつつ、インク貯蔵部105に戻されてインクIKの循環が行なわれている。
【0016】
尚、インク貯蔵部105及び負圧発生器114にはエアフィルタ115,116がそれぞれ取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−37020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、特許文献1に開示された従来の画像記録装置100内で使用されるインクIKは、一般的に粘性を有しており、周囲の温度や湿度などにより粘度が変化し、とくに、インク温度が低いと粘度が高くなり、一方、インク温度が高いと粘度が低くなる傾向があるために、インクジェットヘッド101のノズル列101aからインクIKを吐出させる際、インクIKの温度を図14に示したような使用可能なインク温度範囲の下限インク温度TLと上限インク温度THとの間に目標インク温度TMを設定し、この目標インク温度TMになるようにインクIKの温度を制御する必要がある。
【0019】
この際、従来の画像記録装置100では、インク循環方式を採用しているので、インクIKの量が多いためにインク量全体の熱容量が大きくなり、インクIKを所望のインク温度となる例えば目標インク温度TMまで温度上昇させるために時間がかかってしまう。
【0020】
そこで、画像記録装置100内のインクIKの温度が所定の温度になるようにウォームアップ時間を早めるには、インク温度調整機構120内に大きな全体ヒータ125が必要になるので、画像記録装置100の消費電力が大きくなってしまうという問題がある。
【0021】
また、インクジェットヘッド101内のインク温度をインク温度調整機構120内に設けた温度検出器121で検出して、この検出結果に応じてインクジェットヘッド101内のインク温度を全体ヒータ125や、放熱器123及び冷却器124により制御しているが、この温度検出器121ではインクジェットヘッド101内のインク温度を全体的に見ているにすぎない。
【0022】
即ち、インクジェットヘッド101は、前述したように、複数のノズル(図示せず)を一列に配置させたノズル列101aを有してライン型に構成されているので、このノズル列101aからインクIKを記録紙PAに向かって吐出させる際に、インクジェットヘッド101内のインクIKを目標インク温度TMに制御する場合に、図14に示したように、インクIKを全体ヒータ125で加熱した時に記録紙PA上での主走査方向に対するヘッド内インク温度特性は、記録紙PAの中央部位と対応するノズル列101aの中央部位のインク温度を目標インク温度TMよりも高く設定し、且つ、記録紙PAの左右両端部位と対応するノズル列101aの左右両端部位のインク温度を略目標インク温度TMに設定しなければならないために、ノズル列101a全体が略均一な目標インク温度TMとなる理想的なヘッド内インク温度特性にならないことが判明した。
【0023】
これを言い換えると、ノズル列101aの左右両端部位のインク温度は、ノズル列101aの中央部位のインク温度よりも温度低下しやすい傾向を持っていることがわかる。
【0024】
従って、上記したヘッド内インク温度特性を持ったノズル列101aを有するインクジェットヘッド101内でインクIKを目標インク温度TMに制御する場合には、インクIKを全体ヒータ125で目標インク温度TMよりも高い温度まで加熱しなければならないために、全体ヒータ125に対して電力を無駄に消費することになり問題である。
【0025】
そこで、インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドを用い、且つ、ライン型インクジェットヘッドとインクを貯蔵したインクタンクとの間でインクを循環させながら印刷データに応じて各ヘッドブロック内に設けた複数のノズルからインクを記録紙に向かって選択的に吐出させて印刷データを記録する際に、装置内のインクに対してインク温度を制御するためのウォームアップ時間を短縮することができ、且つ、省電力化を図りながらライン型インクジェットヘッドの各ヘッドブロック内でインク温度を最適に制御できるインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、第1の発明は、インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドと、
前記ライン型インクジェットヘッドと前記インクを貯蔵したインクタンクとの間で前記インクを循環させるインク循環経路部と、
インク循環経路内のインクの温度を計測する第1温度計と、前記インク循環経路内の前記インクを加熱する第1加熱手段とが前記インク循環経路中に設置され、前記インク循環経路内の前記インクの温度を所定のインク温度に制御するインク循環経路内インク温度制御部と、
前記ヘッドブロック内のインクの温度を計測する第2温度計と、前記ヘッドブロック内の前記インクを加熱する第2加熱手段とが各ヘッドブロックごとに設置され、前記各ヘッドブロック内の前記インクの温度を目標インク温度に制御するヘッドブロック内インク温度制御部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0027】
また、第2の発明は、インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドと、
複数の前記ヘッドブロックを、ライン上の位置に基いて温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とに分けた情報を格納したテーブルを有する制御部と、
前記ライン型インクジェットヘッドと前記インクを貯蔵したインクタンクとの間で前記インクを循環させるインク循環経路部と、
インク循環経路内のインクの温度を計測する第1温度計と、前記インク循環経路内の前記インクを加熱する第1加熱手段とが前記インク循環経路中に設置され、前記インク循環経路内の前記インクの温度を所定のインク温度に制御するインク循環経路内インク温度制御部と、
前記ヘッドブロック内のインクの温度を計測する第2温度計と、前記ヘッドブロック内の前記インクを加熱する第2加熱手段とが各ヘッドブロックごとに設置され、前記テーブルを参照して前記温度低下しにくいヘッドの組と、前記温度低下しやすいヘッドの組とをそれぞれ異なる目標インク温度に制御するヘッドブロック内インク温度制御部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0028】
また、第3の発明は、上記した第2の発明のインクジェット記録装置において、
前記温度低下しやすいヘッドの組の目標インク温度を、前記温度低下しにくいヘッドの組の目標インク温度よりも高めに設定することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0029】
また、第4の発明は、上記した第2の発明のインクジェット記録装置において、
前記テーブル内に前記各ヘッドブロックの温度上昇率を記憶させ、前記各ヘッドブロックの温度上昇率に応じて前記各ヘッドブロック内の前記インクの温度を制御することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0030】
また、第5の発明は、上記した第1又は第2の発明のインクジェット記録装置において、
前記第2加熱手段は、ヒータ、又は、前記複数のノズルと対応した複数の吐出手段を前記インクが吐出しない程度に微振動させるプリカーサのいずれか一方であることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0031】
また、第6の発明は、上記した第2の発明のインクジェット記録装置において、
前記印刷データに対して一の記録ジョブを行なう間に前記各ヘッドブロック内の前記インクの温度が徐々に低下しても前記一の記録ジョブが終了可能な値に前記目標インク温度を設定した上で、前記各ヘッドブロック内のインク温度が記録条件を満足した場合に、前記第1,第2加熱手段のうち少なくとも一方の加熱手段を遮断することを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0032】
更に、第7の発明は、インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドを用い、且つ、前記ライン型インクジェットヘッドとインクを貯蔵したインクタンクとの間で前記インクを循環させながら印刷データに応じて各ヘッドブロック内に設けた複数のノズルから前記インクを記録紙に向かって選択的に吐出させて前記印刷データを記録するインクジェット記録方法において、
複数の前記ヘッドブロックを、ライン上の位置に基いて温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とに分け、且つ、前記温度低下しにくいヘッドの組のインク温度を目標インク温度に制御する一方、前記温度低下しやすいヘッドの組のインク温度を前記目標インク温度よりも高めの目標インク温度に制御することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0033】
第1の発明のインクジェット記録装置によると、とくに、複数のヘッドブロックそれぞれに第2温度計と第2加熱手段とが設置されているので、各ヘッドブロックごとにインク温度を目標インク温度に制御できるので、各ヘッドブロックで吐出不良が発生せず、しかも、装置内のインクに対してインク温度を制御するためのウォームアップ時間を短縮できると共に、大きな全体ヒータに頼らないので省電力化が可能となる。
【0034】
また、第2の発明のインクジェット記録装置によると、とくに、複数のヘッドブロックを、ライン上の位置に基いて温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とに分けた情報を制御部のテーブルに格納し、テーブルを参照して温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とをそれぞれ異なる目標インク温度に制御しているので、各組のインク温度をそれぞれ別々に制御できる。
【0035】
また、第3の発明のインクジェット記録装置によると、とくに、温度低下しやすいヘッドの組の目標インク温度を、温度低下しにくいヘッドの組の目標インク温度よりも高めに設定することにより、記録時間が経過してインク温度が徐々に低下したときに、温度低下しにくいヘッドブロックの組と温度低下しやすいヘッドブロックの組とが略同じ傾向で下限インク温度に至るので、温度低下しやすいヘッドブロックの組に対して印刷中断状態に至るまでの時間を改善することができる。
【0036】
また、第4の発明のインクジェット記録装置によると、とくに、テーブル内に各ヘッドブロックの温度上昇率を記憶させ、各ヘッドブロックの温度上昇率に応じて各ヘッドブロック内のインクの温度を制御しているので、温度上昇率の傾きに基いて第2温度計で計測した温度に対して第2加熱手段でインクを加熱する時間を演算により設定するとか、又は、温度上昇率の傾きに応じて各ヘッドブロックの目標インク温度を設定することができ、これにより、インクへの無駄な加熱を防止できるので省電力化が可能になる。
【0037】
また、第5の発明のインクジェット記録装置によると、第2加熱手段は、ヒータ、又は、プリカーサのいずれか一方であり、とくに、記録紙への記録を開始する前にインクの加熱をプリカーサによって行なう場合には、複数のヘッドブロックごとにヒータが必要なくなるために、ライン型インクジェットヘッド内を小型化できると共に、コストダウンを図ることができる。
【0038】
また、第6の発明のインクジェット記録装置によると、印刷データに対して一の記録ジョブを行なう間に各ヘッドブロック内のインクの温度が徐々に低下しても一の記録ジョブが終了可能な値に目標インク温度を設定した上で、各ヘッドブロック内のインク温度が記録条件を満足した場合に、第1,第2加熱手段のうち少なくとも一方の加熱手段を遮断することにより、ヒータに用いる電力をインク吐出用の電力にまわすことができるので、省電力化を図ることができる。
【0039】
また、第7の発明のインクジェット記録方法によると、とくに、複数のヘッドブロックを、ライン上の位置に基いて温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とに分け、且つ、温度低下しにくいヘッドの組のインク温度を目標インク温度に制御する一方、温度低下しやすいヘッドの組のインク温度を前記目標インク温度よりも高めの目標インク温度に制御しているので、上記した第3の発明と略同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の全体構成を示した全体構成図である。
【図2】(a),(b)は本発明に係るインクジェット記録装置において、ライン型インクジェットヘッドと、ヘッドブロック内インク温度制御部と、記録紙搬送部とを模式的に示した平面図,正面図である。
【図3】図2に示したライン型インクジェットヘッドを拡大して示した平面図である。
【図4】制御部のテーブル内に格納したヘッドブロックの情報を一覧表形式で示した図である。
【図5】(a),(b)は図2に示したライン型インクジェットヘッド内に設けた一のヘッドブロックを拡大して示した縦断面図,下面図である。
【図6】本発明に係るインクジェット記録装置において、インク循環経路部を模式的に示した斜視図である。
【図7】本発明に係るインクジェット記録装置において、インク温度が低下しにくいヘッドブロックのインク温度特性と、インク温度が低下しやすいヘッドブロックのインク温度特性とを模式的に示した図である。
【図8】本発明に係るインクジェット記録装置において、インク温度が低下しにくいヘッドブロックの記録中のインク温度特性と、インク温度が低下しやすいヘッドブロックの記録中のインク温度特性(その1,その2)とを模式的に示した図である。
【図9】本発明に係るインクジェット記録装置の全体動作を説明するためのフロー図である。
【図10】図9に示したインク循環経路内インク温度制御サブルーチンの動作を説明するためのフロー図である。
【図11】図9に示したヘッドブロックインク温度制御サブルーチン(その1)の動作を説明するためのフロー図である。
【図12】図9に示したヘッドブロックインク温度制御サブルーチン(その2)の動作を説明するためのフロー図である。
【図13】従来の画像記録装置を模式的に示した構成図である。
【図14】従来の画像記録装置において、ライン型インクジェットヘッドを用いたときに、記録紙上での主走査方向に対するヘッド内インク温度特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に本発明に係るインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法の一実施例について、図1〜図12を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0042】
図1に示した如く、本発明に係る実施例のインクジェット記録装置10は、電源11と、パソコンPCや不図示のLANケーブルなどに着脱自在に接続されるインターフェース12と、パソコンPCや不図示のLANケーブルなどからインターフェース12を介して印刷データDが入力され且つ装置全体を制御する制御部13と、ヘッド駆動回路21及び複数のヘッドブロック22を有し且つ印刷データDに応じてインクを記録紙に向かって吐出させる少なくとも一色以上のライン型インクジェットヘッド20と、ライン型インクジェットヘッド20の各ヘッドブロック22内のインク温度を制御するヘッドブロック内インク温度制御部30と、記録紙を搬送する記録紙搬送部40と、インクを循環させるためのインク循環経路部50と、インク循環経路57(図6)内のインク温度を制御するインク循環経路内インク温度制御部70とを備えている。
【0043】
ここで、インクジェット記録装置10内に設けた主要な構成部材について順を追って説明する。
【0044】
まず、上記した制御部13は、この内部に演算部(CPU)13aと、インクジェット記録装置10の制御用ソフトなどを記憶したROM13bと、インクジェット記録装置10の動作時に変更可能な情報を一時的に格納するRAM13cと、ライン型インクジェットヘッド20内に設けた複数のヘッドブロック22の情報を格納するテーブル13dとを有している。
【0045】
次に、ライン型インクジェットヘッド20は、図2(a),(b)に示した如く、複数色のインクに対応して各色ごとに設けられている。この実施例では、インクジェット記録装置10(図1)内に入力された印刷データDをカラーで記録(印刷)するための複数色のインクの一例として、C(シアン),K(ブラック),M(マゼンタ),Y(イエロー)が用いられているので、C,K,M,Yの各インク色に対応して複数のライン型インクジェットヘッド20C,20K,20M,20Yが記録紙PAの搬送方向(矢印X1方向)に対してC,K,M,Yの記録順に配置されている。
【0046】
この際、複数のライン型インクジェットヘッド20C,20K,20M,20Yは、全て同一構造で構成されているので、以下の説明では、一のライン型インクジェットヘッド20について説明する。
【0047】
上記した一のライン型インクジェットヘッド20は、図3にも拡大して示した如く、内部にヘッド駆動回路21が設けられていると共に、複数のノズル22nを主走査方向(Y軸方向)に有するヘッドブロック22が二次元的に複数配置されている。この実施例では、ヘッドブロック22が、主走査方向(Y軸方向)に沿った一のライン上に沿って複数個配置され、且つ、副走査方向(X軸方向)に計2ラインに分けて配置されており、且つ、隣り合うライン1,2では各ヘッドブロック22が一部重なりあうように互い違いに千鳥状に配置されている。
【0048】
この際、二次元的に複数配置されたヘッドブロック22は、ライン1,2に沿って図示の都合上例えば3個づつ千鳥状に配置されているが、一のライン上の数量は3個に限定されるものではなく、且つ、一のライン上に例えば3個配置した場合に各ヘッドブロック22に対してライン1,2上でヘッド番号Hn=1〜6が付与されている。
【0049】
そして、図3に示した複数のヘッドブロック22の情報は、図4に示した如く、制御部13(図1)に設けたテーブル13d内にヘッド番号Hn=1〜6と対応して一覧表形式で格納されている。具体的には、ヘッド番号Hnごとに、ライン番号(1,2)と、ライン上の位置(左端,中央,右端)と、温度上昇率αn,温度低下傾向情報(温度低下しやすいヘッド,温度低下しにくいヘッド)とが格納されている。
【0050】
更に、ヘッドブロック22に設けた複数のノズル22nからインクを選択的に吐出させる場合に、インクジェット方式では、各ノズル22nと対応して設けられた各ピエゾ素子に駆動信号を印加して振動板を変位させてインク溜室内のインクをノズルから吐出させるピエゾ方式や、静電ギャップに駆動信号を印加して振動板を変位させてインク溜室内のインクをノズルから吐出させる静電方式や、インク溜室内の微小ヒータでインクを加熱して膜沸騰状態となって生じた気泡による圧力変化でインクをノズルから吐出させる膜沸騰インクジェット方式などがあり、本発明ではいずれの方式を用いても良いが、この実施例では構造が簡単であり且つ信頼性が良好なピエゾ方式を適用している。
【0051】
即ち、ヘッドブロック22にピエゾ方式を適用した場合には、図5(a),(b)に拡大して示した如く、ヘッドブロック22では、ノズルプレート22npに複数のノズル22nが例えば1インチ当たり300個の密度(300dpi)で主走査方向(Y軸方向)に沿って形成されており、且つ、各ノズル22nと対応してインクIKを一時的に貯溜するための各インク溜室22irが両側を隔壁22kで囲まれて形成されている。
【0052】
また、ノズルプレート22npと各インク溜室22irを隔てて対向した振動板22s上に複数のピエゾ素子22pが各ノズル22nごとに固着されている。
【0053】
従って、例えば図示左から2番目に配置した一のピエゾ素子22pに駆動信号を加えると、振動板22sが一のピエゾ素子22pと対応した一のノズル22nに向かって変位するので、一のピエゾ素子22p及び一のノズル22nと対応した一のインク溜室22ir内で体積変化が生じることによりインクIKが一のノズル22nから吐出されるようになっている。
【0054】
図2及び図3に戻り、ライン型インクジェットヘッド20に設けた複数のヘッドブロック22には、各ヘッドブロック22内のインク温度を最適な目標インク温度TM(図8)に制御するためのヘッドブロック内インク温度制御部30が各ヘッドブロック22ごとに設けられている。
【0055】
上記したヘッドブロック内インク温度制御部30は、この実施例の要部となるものであり、ヘッドブロック22内のインク温度を計測する第2温度計31と、ヘッドブロック22内のインク温度が目標インク温度TM(図8)よりも低い場合にインクIK(図5)を加熱するための第2加熱手段(以下、第2ヒータと記す)32とで構成されているが、このヘッドブロック内インク温度制御部30の動作については後で詳述する。
【0056】
次に、図2に示した如く、記録紙PAを搬送する記録紙搬送部40は、複数のライン型インクジェットヘッド20C,20K,20M,20Yの下方に設けられている。
【0057】
上記した記録紙搬送部40は、複数のエアー吸引孔(図示せず)を略等間隔で貫通して形成した帯状のベルトプラテン41と、帯状のベルトプラテン41を掛け渡すための第1〜第3プーリ42〜44と、帯状のベルトプラテン41を回転させるために第1プーリ42に連結したモータ45と、ベルトプラテン41に形成した複数のエアー吸引孔からエアーを吸引するサクションボックス46とで構成されている。
【0058】
そして、帯状のベルトプラテン41上に例えばA3サイズの記録紙PAを搭載したときに、この記録紙PAをベルトプラテン41に形成した複数のエアー吸引孔からエアーを吸引して、記録紙PAをベルトプラテン41上に固定した状態でベルトプラテン41の回転より記録紙PAを副走査方向(矢印X1方向)に搬送しながら複数のライン型インクジェットヘッド20C,20K,20M,20Yにより印刷データをカラーで記録できるようになっている。
【0059】
次に、図6に示した如く、インクIKを循環させるためのインク循環経路部50では、インクIKを充填したインクボトル51が接続管52に着脱自在に装着されており、この接続管52を介してインクボトル51内のインクIKが第1インクタンク(以下、上部インクタンクと記す)53内に貯蔵されている。尚、この実施例では、交換可能なインクボトル51により上部インクタンク53内にインクIKを補給しているが、インクボトル51を取り付けることなく、上部インクタンク53にインク補給口(図示せず)を設けてこのインク補給口からインクIKを補給しても良い。
【0060】
また、上部インクタンク53と、ライン型インクジェットヘッド20内の上流側に設けたインク供給室23との間にインク供給経路55が配管されていると共に、このインク供給経路55をオン/オフ制御するために第1電磁弁54が設けられている。
【0061】
また、ライン型インクジェットヘッド20内の下流側に設けたインク回収室24と、このインク回収室24から回収したインクIKを貯蔵する第2インクタンク(以下、下部インクタンクと記す)59及びポンプ60並びに熱交換器61を経由して上部インクタンク53との間にインク回収経路56が配管されていると共に、このインク回収経路56をオン/オフ制御するために第2電磁弁58が設けられている。
【0062】
従って、インクIKをインク供給経路55とインク回収経路56とによるインク循環経路57内を循環させる場合に、インク循環経路部50内に設けた第1,第2電磁弁54,58をオン動作させると、上部インクタンク53内に貯蔵されたインクIKはインク供給経路55内を通ってライン型インクジェットヘッド20のインク供給室23内に供給され、このインク供給室23からインクIKが2次元的に配置した複数のヘッドブロック22に分配され、各ヘッドブロック22からインクIKが記録紙PA上に選択的に吐出された後に、各ヘッドブロック22からの余剰のインクIKがインク回収室24内に集められて、インク回収室24からのインクIKがインク回収経路56内を通って下部インクタンク59内に一時的に貯蔵される。
【0063】
この後、下部インクタンク59内のインクIKをポンプ60で吸い上げて熱交換器61に送り、この熱交換器61内でインク循環経路57内のインク温度が所定の温度になるように制御しながらインクIKを上部タンク53に戻している。
【0064】
この際、熱交換器61には、インク循環経路57内のインク温度を所定の温度として目標インク温度TM近傍に制御するためのインク循環経路内インク温度制御部70が設けられている。
【0065】
上記インク循環経路内インク温度制御部70は、インク循環経路57内のインク温度を計測する第1温度計71と、インク循環経路57内のインクIKを加熱するための第1加熱手段(以下、第1ヒータと記す)72と、インク循環経路57内のインクIKを冷却するための冷却手段(以下、冷却用ファンと記す)73とで構成されているが、このインク循環経路内インク温度制御部70の動作については後で詳述する。
【0066】
ここで、上記のように構成したインクジェット記録装置10において、使用するインクIKのインク温度を制御する技術的思想について、図1〜図8を併用して説明する。
【0067】
この実施例では、使用するインクIKのインク温度を、先に説明したように、ヘッドブロック内インク温度制御部30と、インク循環経路内インク温度制御部70とにより制御している。
【0068】
この際、インク循環経路内温度制御部70によるインク温度制御は、後述の図10で説明するように、インク循環経路57内のインク温度を下限インク温度TLと上限インク温度THとの間の所定の温度に制御している。
【0069】
一方、ヘッドブロック内インク温度制御部30によるインク温度制御は、ライン型インクジェットヘッド20内に二次元的に配置した複数のヘッドブロック22ごとに設けた第2温度計31と第2ヒータ32とにより、下限インク温度TLと上限インク温度THとの間に設定した目標インク温度TM(図8)又は目標インク温度TM,TM’(図8)になるように制御している。
【0070】
ここで、複数のヘッドブロック22が、先に図3を用いて説明したように、ライン1,2に沿って千鳥状に配列されているときに、複数のヘッドブロック22のうちで各ライン1,2の中央部位近傍に配置されたヘッドブロック22はこれと同一ライン上で左右に隣り合って配置されたヘッドブロック22からの温度の影響を受けて、図7に示したようなインク温度が低下しにくいインク温度特性を持ったヘッドブロック22となる。
【0071】
一方、複数のヘッドブロック22のうちで各ライン1,2の左右端部位に配置された各ヘッドブロック22は片側の端にヘッドブロック22が配置されていないので、図7に示したようなインク温度が低下しやすいインク温度特性を持ったヘッドブロック22となる。
【0072】
この際、複数のヘッドブロック22に対してインク温度が低下しにくいインク温度特性を持ったヘッドブロック22であるか、それとも、インク温度が低下しやすいインク温度特性を持ったヘッドブロック22であるかの情報は、図4を用いて前述したように、制御部13のテーブル13d内に格納されている。
【0073】
そして、この実施例では、複数のヘッドブロック22それぞれに対してインク温度を、下記の第1〜第5のヘッド内インク温度制御方法のいずれかの方法により制御している。
【0074】
まず、第1のヘッド内インク温度制御方法では、後述の図11で説明するように、複数のヘッドブロック22それぞれに設けた第2温度計31でインク温度を計測し、インク温度が予め設定した目標インク温度TMに達していないヘッドブロック22に対してこのヘッドブロック22に設けた第2ヒータでインクIKを目標インク温度TMになるように所定時間加熱する方法である。
【0075】
この第1のヘッド内インク温度制御方法によれば、複数のヘッドブロック22それぞれに第2温度計31と第2ヒータ32とが設置されているので、インク循環経路内だけでインク温度を全体的に制御する方法に比べて、各ヘッドブロック22ごとにインク温度を目標インク温度TMに制御できるので、各ヘッドブロック22で吐出不良が発生せず、しかも、装置10内のインクIKに対してインク温度を制御するためのウォームアップ時間を短縮できると共に、大きな全体ヒータに頼らないので省電力化が可能となる。
【0076】
この際、第1のヘッド内インク温度制御方法により記録紙PA上に記録を開始したときに、図8に示したように、各ヘッドブロック22内のインク温度は目標インク温度TMに達しているが、記録時間が経過するに伴ってインク温度が徐々に低下していき、インク温度が下限インク温度TLまで降下した場合には印刷中断になるが、通常、目標インク温度TMは、印刷データDの記録が終了するまでの時間内でヘッドブロック22内のインク温度が下限インク温度TLに至らないように予め設定している。
【0077】
尚、図8中に二点鎖線で示したインク温度が低下しやすいヘッドブロック22の方が、図8中に実線で示したインク温度が低下しにくいヘッドブロック22よりも早く印刷中断状態に追い込まれる傾向がある。
【0078】
そこで、第2のヘッド内インク温度制御方法では、後述の図12で説明するように、図4に示したテーブル13d内に格納したヘッドブロック22の情報のうちで温度低下傾向情報を基にして、複数のヘッドブロック22を、温度低下しにくいヘッドブロック22の組と、温度低下しやすいヘッドブロック22の組とに分け、温度低下しにくいヘッドブロック22の組は、インク温度が予め設定した目標インク温度TMよりも低い場合にこの目標インク温度TMになるように第2ヒータでインクIKを所定時間加熱する一方、温度低下しやすいヘッドブロック22の組は、前記した目標インク温度TMよりも高めの目標インク温度TM’を設定して、インク温度が予め設定した目標インク温度TM’よりも低い場合にこの目標インク温度TM’になるように第2ヒータでインクIKを所定時間加熱する方法である。
【0079】
この第2のヘッド内インク温度制御方法により記録紙PA上に記録を開始したときに、図8に示したように、時間の経過に伴ってインク温度が徐々に低下したときに、温度低下しにくいヘッドブロック22の組と温度低下しやすいヘッドブロック22の組とが略同じ傾向で下限インク温度TLに至るので、上記した第1のヘッド内インク温度制御方法よりも温度低下しやすいヘッドブロック22の組に対して印刷中断状態に至るまでの時間を改善することができる。
【0080】
次に、第3のヘッド内インク温度制御方法では、図4に示したテーブル13d内に格納したヘッドブロック22の情報のうちで温度上昇率αnに応じて各ヘッドブロック22内のインク温度を制御している。
【0081】
この際、温度上昇率αnは、ヘッドブロック22の配置位置によって予め実験などにより求められた値であり、各ヘッドブロック22内のインク温度が、第1のヘッド内インク温度制御方法による目標インク温度TM、又は、第2のヘッド内インク温度制御方法による目標インク温度TM,TM’よりも低い場合に、この温度上昇率αnの傾きに基いて第2温度計31で計測した温度に対して第2ヒータ32でインクIKを加熱する時間を演算により設定するとか、又は、温度上昇率αnの傾きに応じて各ヘッドブロック22の目標インク温度TMを設定することができ、これにより、インクIKへの無駄な加熱を防止できるので省電力化が可能になる。
【0082】
次に、第4のヘッド内インク温度制御方法では、複数のヘッドブロック22ごとに第2ヒータ32を設けずに、図5に示した各ヘッドブロック22内に設けた複数のピエゾ素子22pをインクIKが吐出しない程度に微小に振動させて複数のインク溜室22ir内のインクIKを加熱させる方法であり、複数のピエゾ素子22pをインクIKが吐出しない程度に微小に振動させる方法は一般的に「プリカーサ」と呼称されている。
【0083】
従って、第4のヘッド内インク温度制御方法は、上記した第1〜第3のヘッド内インク温度制御方法にも適用可能であり、記録紙PAへの記録を開始する前にインクIKの加熱をプリカーサによって行なうことにより、複数のヘッドブロック22ごとに第2ヒータ32が必要なくなるために、ライン型インクジェットヘッド20内を小型化できると共に、コストダウンを図ることができる。
【0084】
次に、第5のヘッド内インク温度制御方法は、上記した第1〜第4のヘッド内インク温度制御方法にも適用可能であり、印刷データDに対して一の記録ジョブを行なう間に各ヘッドブロック22内のインクIKの温度が徐々に低下しても一の記録ジョブが終了可能な値に目標インク温度TMを設定した上で、各ヘッドブロック22内のインク温度が記録条件を満足した場合に、第1,第2ヒータ72,32のうち少なくとも一方のヒータを遮断することにより、ヒータに用いる電力をインク吐出用の電力にまわすことができるので、省電力化を図ることができる。
【0085】
ここで、実施例のインクジェット記録装置10における全体動作及びインク温度制御動作について、図1,図6,図9〜図12を併用して説明する。
【0086】
図9に示した如く、インクジェット記録装置10の全体動作を開始すると、まず、ステップS1で電源11を投入して、制御部13を始動させる。
【0087】
次に、ステップS2で制御部13はインク循環経路57内に設けた第1,第2電磁弁54,58をオン動作させるので、上部インクタンク53内のインクIKがインク供給経路55を通ってライン型インクジェットヘッド20に供給されると共に、インク供給経路55とインク回収経路55とによるインク循環経路57に沿ってインクIKを循環させる。
【0088】
次に、ステップS10で制御部13のROM13bに記憶されたインク循環経路内インク温度制御サブルーチンが処理され、インク循環経路57内のインク温度が所定の温度に制御される。
【0089】
次に、ステップS20(S20A又はS20B)で制御部13のROM13bに記憶されたヘッドブロック内インク温度制御サブルーチンが処理され、ライン型インクジェットヘッド20内に設けた複数のヘッドブロック22内のインク温度が、ステップS20Aの場合に目標インク温度TM、又は、ステップS20Bの場合に目標インク温度TM,TM’にそれぞれ制御される。
【0090】
次に、ステップS3でライン型インクジェットヘッド20内に設けた複数のヘッドブロック22により、記録紙PA上に印刷データDを記録し、記録が終了したらインクジェット記録装置10の全体動作フローを終了させる。
【0091】
尚、この実施例では、上述したように、インク循環経路内インク温度制御サブルーチンを処理した後に、ヘッドブロック内インク温度制御サブルーチンを処理しているが、これに限ることなく、ヘッドブロック内インク温度制御サブルーチンを先に処理しても良く、又は、両サブルーチンを略同時に処理しても良い。
【0092】
更に、図10に示した如く、ステップS10で循環経路内インク温度制御サブルーチンを実施する場合には、まず、ステップS11において、インク循環経路57内に設けた第1温度計71でインク循環経路57内のインク温度T1を計測し、この結果を制御部13に知らせる。
【0093】
次に、ステップS12では、第1温度計71で計測したインク温度T1が、制御部13内のRAM13cに記憶されている下限インク温度TLよりも低いか否かを制御部13内の演算部13aで比較する。
【0094】
この際、ステップS12でインク温度T1が下限インク温度TLよりも低い場合(YESの場合)には、ステップS13でインク循環経路57内に設けた第1ヒータ72によりインク循環経路57内のインクIKを所定時間に加熱し、その後、ステップS11に戻ってこのステップS11を再び行なう。
【0095】
一方、ステップS12でインク温度T1が下限インク温度TLよりも高い場合(NOの場合)には、ステップS14に移行する。このステップS14では、第1温度計71で計測したインク温度T1が、制御部13内のRAM13cに記憶されている上限インク温度THよりも低いか否かを制御部13内の演算部13aで比較する。
【0096】
この際、ステップS14でインク温度T1が上限インク温度THよりも高い場合(NOの場合)には、ステップS15でインク循環経路57内に設けた冷却用ファン73によりインク循環経路57内のインクIKを所定時間に冷却し、その後、ステップS11に戻ってこのステップS11を再び行なう。
【0097】
一方、ステップS14でインク温度T1が上限インク温度THよりも低い場合(YESの場合)には、インク循環経路57内のインク温度が下限インク温度TL≦インク温度T1≦上限インク温度THとなり、使用可能温度範囲内に入っているので、ステップS20(S20A又はS20B)に移行するが、図11に示したようなステップS20Aのヘッドブロック内インク温度制御サブルーチン(その1)、又は、図12に示したようなステップS20Bのヘッドブロック内インク温度制御サブルーチン(その2)のいずれか一方のサブルーチン処理が行なわれる。
【0098】
即ち、図11に示した如く、ステップS20Aでヘッドブロック内インク温度制御サブルーチン(その1)を実施する場合には、まず、ステップS21において、ライン型インクジェットヘッド20内に設けた複数のヘッドブロック22に対してヘッド番号Hn(但し、n=1,2,3,………,n)に対応するヘッドブロック22内のインク温度T2を、複数のヘッドブロック22ごとに設けた第2温度計31で計測し、この結果を制御部13に知らせる。
【0099】
次に、ステップS22では、第2温度計31で計測したインク温度T2が、制御部13内のRAM13cに記憶されている目標インク温度TMよりも低いか否かを制御部13内の演算部13aで比較する。
【0100】
この際、ステップS22でインク温度T2が目標インク温度TMよりも低い場合(YESの場合)には、ステップS23において、ヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22に設けた第2ヒータ32によりこのヘッドブロック22内のインクIKを所定時間に加熱し、その後、加熱したヘッドブロック22のみに対してステップS21に戻ってこのステップS21を再び行なう。
【0101】
一方、ステップS22でインク温度T2が目標インク温度TMよりも高い場合(NOの場合)には、ヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22内のインクIKが最適な温度に至る。そして、複数のヘッドブロック22内のインク温度が全て最適な目標インク温度TM以上になったらこのサブルーチンを終了して、図9に示したステップS3により記録を行なう。
【0102】
更に、図12に示した如く、ステップS20Bでヘッドブロック内インク温度制御サブルーチン(その2)を実施する場合には、まず、ステップS25において、ライン型インクジェットヘッド20内に設けた複数のヘッドブロック22を温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とに分ける。
【0103】
次に、ステップS26では、温度低下しにくいヘッドの組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22内のインクIKインク温度T2を、この組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22に設けた第2温度計31で計測し、この結果を制御部13に知らせる。
【0104】
次に、ステップS27では、上記した組の第2温度計31で計測したインク温度T2が、制御部13内のRAM13cに記憶されている目標インク温度TMよりも低いか否かを制御部13内の演算部13aで比較する。
【0105】
この際、ステップS27でインク温度T2が目標インク温度TMよりも低い場合(YESの場合)には、ステップS28において、温度低下しにくいヘッドの組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22に設けた第2ヒータ32によりこのヘッドブロック22内のインクIKを所定時間に加熱し、その後、加熱したヘッドブロック22のみに対してステップS26に戻ってこのステップS26を再び行なう。
【0106】
次に、ステップS29では、温度低下しやすいヘッドの組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22内のインクIKインク温度T2を、この組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22に設けた第2温度計31で計測し、この結果を制御部13に知らせる。
【0107】
次に、ステップS30では、上記した組の第2温度計31で計測したインク温度T2が、制御部13内のRAM13cに記憶されている前記した目標インク温度TMに対して高めに設定した目標インク温度TM’よりも低いか否かを制御部13内の演算部13aで比較する。
【0108】
この際、ステップS30でインク温度T2が目標インク温度TM’よりも低い場合(YESの場合)には、ステップS31において、温度低下しやすい組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22に設けた第2ヒータ32によりこのヘッドブロック22内のインクIKを所定時間に加熱し、その後、加熱したヘッドブロック22のみに対してステップS29に戻ってこのステップS29を再び行なう。
【0109】
更に、ステップS27でインク温度T2が目標インク温度TMよりも高い場合(NOの場合)には、温度低下しにくいヘッドの組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22内のインクIKが最適な温度に至り、且つ、ステップS30でインク温度T2が目標インク温度TM’よりも高い場合(NOの場合)には、温度低下しやすいヘッドの組のヘッド番号Hnに対応するヘッドブロック22内のインクIKが最適な温度に至る。
【0110】
そして、ライン型インクジェットヘッド20内に設けた複数のヘッドブロック22内のインクIKが全て最適な目標インク温度TM,TM’以上になったらこのサブルーチンを終了して、図9に示したステップS3により記録を行なう。
【0111】
尚、上記した実施例のインクジェット記録装置10では、粘性を有する液剤としてインクIKを用いた例について説明したが、粘性を有する液剤としてクリーム半田や接着剤などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0112】
10…実施例のインクジェット記録装置、
11…電源、12…インターフェース、13…制御部、13a…演算部(CPU)、
13b…ROM、13c…RAM、13d…テーブル、
20(20C,20K,20M,20Y)…ライン型インクジェットヘッド、
21…ヘッド駆動回路、22…ヘッドブロック、22n…ノズル、
22np…ノズルプレート、22ir…インク溜室、22k…隔壁、
22s…振動板、22p…ピエゾ素子、
23…インク供給室、24…インク回収室、
30…ヘッドブロック内インク温度制御部、31…第2温度計、
32…第2加熱手段(第2ヒータ)、
40…記録紙搬送部、41…ベルトプラテン、42〜44…第1〜第3プーリ、
45…モータ、46…サクションボックス、
50…インク循環経路部、51…インクボトル、52…接続管、
53…第1インクタンク(上部インクタンク)、55…第1電磁弁、
55…インク供給経路、56…インク回収経路、57…インク循環経路、
58…第2電磁弁、59…第2インクタンク(下部インクタンク)、
60…ポンプ、61…熱交換器、
70…インク循環経路内インク温度制御部、
71…第1温度計、72…第1加熱手段(第1ヒータ)、
73…冷却手段(冷却用ファン)、
D…印刷データ、IK…インク、PA…記録紙、
TL…下限インク温度、TH…上限インク温度、TM,TM’…目標インク温度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドと、
前記ライン型インクジェットヘッドと前記インクを貯蔵したインクタンクとの間で前記インクを循環させるインク循環経路部と、
インク循環経路内のインクの温度を計測する第1温度計と、前記インク循環経路内の前記インクを加熱する第1加熱手段とが前記インク循環経路中に設置され、前記インク循環経路内の前記インクの温度を所定のインク温度に制御するインク循環経路内インク温度制御部と、
前記ヘッドブロック内のインクの温度を計測する第2温度計と、前記ヘッドブロック内の前記インクを加熱する第2加熱手段とが各ヘッドブロックごとに設置され、前記各ヘッドブロック内の前記インクの温度を目標インク温度に制御するヘッドブロック内インク温度制御部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドと、
複数の前記ヘッドブロックを、ライン上の位置に基いて温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とに分けた情報を格納したテーブルを有する制御部と、
前記ライン型インクジェットヘッドと前記インクを貯蔵したインクタンクとの間で前記インクを循環させるインク循環経路部と、
インク循環経路内のインクの温度を計測する第1温度計と、前記インク循環経路内の前記インクを加熱する第1加熱手段とが前記インク循環経路中に設置され、前記インク循環経路内の前記インクの温度を所定のインク温度に制御するインク循環経路内インク温度制御部と、
前記ヘッドブロック内のインクの温度を計測する第2温度計と、前記ヘッドブロック内の前記インクを加熱する第2加熱手段とが各ヘッドブロックごとに設置され、前記テーブルを参照して前記温度低下しにくいヘッドの組と、前記温度低下しやすいヘッドの組とをそれぞれ異なる目標インク温度に制御するヘッドブロック内インク温度制御部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記温度低下しやすいヘッドの組の目標インク温度を、前記温度低下しにくいヘッドの組の目標インク温度よりも高めに設定することを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記テーブル内に前記各ヘッドブロックの温度上昇率を記憶させ、前記各ヘッドブロックの温度上昇率に応じて前記各ヘッドブロック内の前記インクの温度を制御することを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第2加熱手段は、ヒータ、又は、前記複数のノズルと対応した複数の吐出手段を前記インクが吐出しない程度に微振動させるプリカーサのいずれか一方であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記印刷データに対して一の記録ジョブを行なう間に前記各ヘッドブロック内の前記インクの温度が徐々に低下しても前記一の記録ジョブが終了可能な値に前記目標インク温度を設定した上で、前記各ヘッドブロック内のインク温度が記録条件を満足した場合に、前記第1,第2加熱手段のうち少なくとも一方の加熱手段を遮断することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
インクジェット方式によりインクを吐出させる複数のノズルを有するヘッドブロックが複数配置されたライン型インクジェットヘッドを用い、且つ、前記ライン型インクジェットヘッドとインクを貯蔵したインクタンクとの間で前記インクを循環させながら印刷データに応じて各ヘッドブロック内に設けた複数のノズルから前記インクを記録紙に向かって選択的に吐出させて前記印刷データを記録するインクジェット記録方法において、
複数の前記ヘッドブロックを、ライン上の位置に基いて温度低下しにくいヘッドの組と、温度低下しやすいヘッドの組とに分け、且つ、前記温度低下しにくいヘッドの組のインク温度を目標インク温度に制御する一方、前記温度低下しやすいヘッドの組のインク温度を前記目標インク温度よりも高めの目標インク温度に制御することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−264689(P2010−264689A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118830(P2009−118830)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】