説明

インクジェット記録装置

【課題】インクカートリッジの交換後や新規装着後、噴射ノズル内に気泡を残留させることのないインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】噴射ノズルを有する記録ヘッドにインクカートリッジが装着されたことを検知すると(S30:YES)、上記噴射ノズルのノズル面側からインクを吸引するパージ動作を行う(S70)インクジェットプリンタにおいて、パージ動作を開始する前に、噴射ノズルを、インクカートリッジと記録ヘッドとの間の接続通路の容積よりも多くのインクを噴射するのに要する時間だけ駆動してインクの噴射動作を行う(S50)。この結果、インクカートリッジのインク供給口と記録ヘッドのインク受給口とに各々取り付けられたフィルタ部材の両面に空気が無い状態にしてからパージ動作を行うこととなり、インクカートリッジの交換後あるいは新規装着後にパージ動作を行う際の気泡の発生を、抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にインクを噴射して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙等の記録媒体にインクを噴射して印字等の記録を行うインクジェット記録装置として、例えばインクジェットプリンタが知られている。インクジェットプリンタでは、例えば図8に示す様に、インクを収容するインクカートリッジP1を、記録ヘッドP2を備えた記録ヘッドユニットP3に対して取り付け・取り外し自在に設け、その記録ヘッドユニットP3にインクカートリッジP1を取り付けることにより、記録ヘッドP2にインクカートリッジP1が装着されるようになっている。そして、このように装着されたインクカートリッジP1から記録ヘッドP2にインクを供給し、そのインクを記録ヘッドP2に設けられた噴射ノズルP4により噴射して、印字等の記録を行っている。
【0003】
また、インクジェットプリンタの使用途中などにおいて、例えば自動的に或いは使用者がスイッチ操作する等、所定の条件が満たされた場合に、噴射ノズルP4の噴射側、即ち噴射孔(図示せず)が開口するノズル面P5の側からインクを吸引するいわゆるパージ動作が行われる。
【0004】
このパージ動作とは、具体的には、ノズル面P5に吸引キャップP6をかぶせて、吸引ポンプ(図示せず)により吸引キャップP6内に負圧をかけることで、吸引キャップP6を通じてインクカートリッジP1及び記録ヘッドP2内からインクを吸引し、そのインクを外部に除去する動作である。
【0005】
そして、このようなパージ動作は、インクカートリッジP1の交換時や新規装着時において、その新たに装着されたインクカートリッジP1内のインクを記録ヘッドP2内へ初期導入するために行われたり、また、インクジェットプリンタの使用中における噴射不良を防止するために行われ、前者の目的で行われるパージ動作は、特にイニシャルパージ或いは初期導入パージと呼ばれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、使用者がインクカートリッジP1を交換した場合、或いは、インクカートリッジP1を新規に装着した場合には、インクカートリッジP1と記録ヘッドP2との間に空気が入り込む。即ち、記録ヘッドP2にインクカートリッジP1が装着された状態では、インクカートリッジP1側のインク供給口と記録ヘッドP2側のインク受給口との間に接続通路が形成されることとなるが、記録ヘッドP2にインクカートリッジP1を装着する作業の過程で上記接続通路に空気が入るのである。
【0007】
そして、記録ヘッドP2のインク受給口には、一般に、記録ヘッドP2内への異物の侵入防止を主な目的としたフィルタ部材が取り付けられている。よって、インクカートリッジP1の交換作業が行われた後に、前述したパージ動作(イニシャルパージ)を実行して、吸引キャップP6を通じて噴射ノズルP4のノズル面P5側からインクを急激に吸引すると、上記接続通路内の空気が、記録ヘッドP2のインク受給口に取り付けられたフィルタ部材を一気に通過して気泡が発生したり、更に、そのフィルタ部材の接続通路とは反対側にある液体(つまり、記録ヘッドP2内のインク)と急激に混ざり合い、その結果、多量の気泡が発生して、噴射ノズルP4内に気泡が残ってしまう。
【0008】
また、通常、この種のインクジェットプリンタが工場から出荷される時には、記録ヘッドP2の内部に、インクの染料や顔料を除いたインクと同様な特性を有する保存用の液体(以下、保存液という)が入れられている。よって、記録ヘッドP2にインクカートリッジP1を新規に装着する作業が行われた後に、前述したパージ動作を実行した時にも、上記接続通路内の空気が、記録ヘッドP2のインク受給口に取り付けられたフィルタ部材を一気に通過したり、更に、そのフィルタ部材の接続通路とは反対側にある液体(つまり、記録ヘッドP2内の保存液)と急激に混ざり合ったりして、その結果、多量の気泡が発生して、噴射ノズルP4内に気泡が残ってしまう。
【0009】
一方更に、この種のインクジェットプリンタにおいては、インクカートリッジP1のインク供給口にも、インクの漏出防止を主な目的としたフィルタ部材が取り付けられる場合がある。そして、この場合にも、パージ動作の実行に伴い、インクカートリッジP1内のインクが、インク供給口に設けられたフィルタ部材を一気に通過して、空気の入った上記接続通路へ進入する時に、やはり多量の気泡が発生し、その結果、噴射ノズルP4内に気泡が残ってしまうこととなる。
【0010】
そして、上記のように噴射ノズルP4内に気泡が残留すると、その気泡が噴射圧力を吸収してしまい、噴射不良や記録品質の低下を招くこととなる。尚、パージ動作を行う際の吸引ポンプによる負圧を小さく設定することも考えられるが、前述したような気泡の発生を抑えるのには限界がある。
【0011】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、インクカートリッジの交換後や新規装着後、噴射ノズル内に気泡を残留させることのないインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、請求項1記載のインクジェット記録装置は、記録媒体にインクを噴射して記録を行う噴射ノズルを有すると共に、前記噴射ノズルに供給するためのインクを収容したインクカートリッジが着脱される記録ヘッドと、前記噴射ノズルのノズル面に対して接離可能に接触する吸引キャップと、前記記録ヘッドに装着されたインクカートリッジ内のインクを、前記吸引キャップを通じて前記噴射ノズルのノズル面側から吸引する吸引ポンプと、予め定められたパージ動作実行条件が成立すると、前記吸引キャップを前記噴射ノズルのノズル面に接触させると共に、前記吸引ポンプを駆動して前記インクカートリッジ内のインクを吸引させるパージ動作を制御するパージ制御手段とを備えたインクジェット記録装置において、前記パージ動作実行条件が成立して前記パージ制御手段が前記パージ動作の制御を開始する前に、前記噴射ノズルを駆動してインクの噴射動作を行わせる疑似噴射制御手段を備えたこと、を特徴とする。
【0013】
また、請求項2記載のインクジェット記録装置は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、前記インクカートリッジのインク供給口からインクの供給を受けるために設けられた前記記録ヘッドのインク受給口に、フィルタ部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3記載のインクジェット記録装置は、請求項2に記載のインクジェット記録装置において、前記インクカートリッジのインク供給口にも、フィルタ部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4記載のインクジェット記録装置は、請求項2又は請求項3に記載のインクジェット記録装置において、前記疑似噴射制御手段は、前記記録ヘッドに前記インクカートリッジが装着されることで形成される前記インク供給口と前記インク受給口との間の接続通路の容積よりも多くのインクが噴射されるように、前記噴射ノズルを駆動するよう構成されていること、を特徴とする。
【0016】
また、請求項5記載のインクジェット記録装置は、請求項1ないし請求項4の何れかに記載のインクジェット記録装置において、前記疑似噴射制御手段は、前記記録ヘッドに前記インクカートリッジが装着されてから、前記パージ制御手段が最初に前記パージ動作の制御を行う場合にのみ、前記噴射ノズルを駆動するよう構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載のインクジェット記録装置によれば、インクカートリッジの交換後、或いは、インクカートリッジの新規装着後に、噴射ノズル内に気泡を残留させることなくインクの初期導入を完了することができる。
【0018】
即ち、前述したように、この種のインクジェット記録装置では、記録ヘッドにインクカートリッジを装着する際に、インクカートリッジのインク供給口と、そのインク供給口からインクの供給を受けるために設けられた記録ヘッドのインク受給口との間の接続通路に空気が入り込むため、インクカートリッジの交換後、或いは、インクカートリッジの新規装着後に、従来装置の如くいきなりパージ動作を行うと、上記接続通路に入り込んだ空気が、記録ヘッドのインク受給口に取り付けられたフィルタ部材を一気に通過したり、記録ヘッド内の液体(インク又は前述した保存液)と急激に混ざり合ったりして、多量の気泡が発生してしまう。また更に、インクカートリッジのインク供給口にもフィルタ部材が取り付けられている場合には、インクカートリッジ内のインクが、インクカートリッジのインク供給口に取り付けられたフィルタ部材を一気に通過して上記接続通路内の空気と急激に混ざり合い、一層多量の気泡が発生してしまう。
【0019】
これに対して、請求項1に記載のインクジェット記録装置では、パージ動作を開始する前に、疑似噴射制御手段により噴射ノズルを駆動してインクの噴射動作を行うようにしているため、記録ヘッドへのインクカートリッジの装着作業に伴いインクカートリッジのインク供給口と記録ヘッドのインク受給口との間の接続通路に空気が入り込んでも、その接続通路内の空気とインクカートリッジ内のインクとを、パージ動作に先立ち行われるインクの噴射動作により、吸引ポンプでは実現不能な極めて緩やかな速さで記録ヘッド側へ移動させることができる。
【0020】
また、請求項2に記載のインクジェット記録装置によれば、インクカートリッジのインク供給口からインクの供給を受けるために設けられた記録ヘッドのインク受給口にフィルタ部材(以下、フィルタ部材Faともいう)が取り付けられている場合に、疑似噴射制御手段により噴射ノズルを駆動してインクの噴射動作を行うことで、上記接続通路に入り込んだ空気を、気泡を発生させることのない緩やかな速さで上記フィルタ部材Faを通過させて記録ヘッド内へ移動させ、そのフィルタ部材Faの両面に空気が存在しない状態にした後で、パージ動作を行うことができるようになる。その結果、パージ動作の実行時にフィルタ部材Faの前後で空気と液体とが急激に混ざり合ってしまうことを防止でき、インクカートリッジの交換後、或いは、インクカートリッジの新規装着後にパージ動作を行う際の気泡の発生を、大幅に抑制することができるようになるのである。
【0021】
すなわち、記録ヘッドのインク受給口にフィルタ部材Faが取り付けられたことで、記録ヘッド内への異物の侵入をフィルタ部材Faによって防止しつつ、インクカートリッジの交換後、或いは、インクカートリッジの新規装着後にパージ動作を行う際の気泡の発生を、大幅に抑えることができる。
【0022】
また、請求項3に記載のインクジェット記録装置によれば、インクカートリッジのインク供給口にもフィルタ部材(以下、フィルタ部材Fbともいう)が取り付けられている場合に、疑似噴射制御手段により噴射ノズルを駆動してインクの噴射動作を行うことで、インクカートリッジ内のインクを、気泡を発生させることのない緩やかな速さで上記フィルタ部材Fbを通過させて記録ヘッド内へ移動させ、そのフィルタ部材Fbの両面に空気が存在しない状態にした後で、パージ動作を行うことができるようになる。その結果、パージ動作の実行時にフィルタ部材Fbの前後で空気と液体とが急激に混ざり合ってしまうことを防止でき、インクカートリッジの交換後、或いは、インクカートリッジの新規装着後にパージ動作を行う際の気泡の発生を、大幅に抑制することができるようになるのである。
【0023】
すなわち、インクカートリッジのインク供給口にフィルタ部材Fbが取り付けられたことで、インクカートリッジの装着前において、インクカートリッジからのインクの漏出をフィルタ部材Fbによって防止しつつ、インクカートリッジの交換後、或いは、インクカートリッジの新規装着後にパージ動作を行う際の気泡の発生を、大幅に抑えることができる。
【0024】
また、請求項4に記載のインクジェット記録装置によれば、パージ動作を開始する前に、インクカートリッジのインク供給口と記録ヘッドのインク受給口との間の接続通路内の空気を確実に記録ヘッド内へ引き込んで、記録ヘッドのインク受給口に取り付けられたフィルタ部材Faの両面、或いは更に、インクカートリッジのインク供給口に取り付けられたフィルタ部材Fbの両面を、インクで満たすことができ、パージ動作を行った際の気泡の発生を確実に抑えることができる。
【0025】
また、請求項5に記載のインクジェット記録装置によれば、インクカートリッジの交換後、或いは、インクカートリッジの新規装着後といった、インクカートリッジと記録ヘッドとの間の接続通路に空気が入り込んだ状況でのみ、疑似噴射制御手段による噴射ノズルの駆動が行われることとなり、記録媒体への記録を目的とせずに噴射ノズルから噴射されるインクの量を、最小限に抑え、且つパージ動作のための時間を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明が適用された実施形態のインクジェットプリンタについて、図面を用いて説明する。尚、本発明は、下記の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0027】
まず図1は、本実施形態のインクジェットプリンタ1の内部構造を示す説明図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1において、キャリッジ8は、ガイドロッド11及びガイド部材12に、各々スライド可能に支持されていると共に、ベルト13に固着されており、CRモータ(キャリッジ駆動用モータ)16により駆動されて往復移動される。そして、前記キャリッジ8には、印字等の記録を行うための記録ヘッド18を有する記録ヘッドユニット17が取り付けられている。
【0028】
この記録ヘッドユニット17は、4色(シアンc、マゼンタm、イエローy、ブラックbの4色であり、以下、添字のcはシアンを、mはマゼンタを、yはイエローを、bはブラックを表す)のインクを記録媒体である記録用紙P上に噴射して記録動作を行うインクジェット式のものである。
【0029】
このため、記録ヘッドユニット17の記録側に配置された記録ヘッド18には、図2に示す様に、各色のインクを各々噴射するために、4つの噴射ノズル21y,21m,21c,21b(以下、噴射ノズル21と総称する)が設けられており、各噴射ノズル21のノズル面23には、多数(例えば64個)の噴射孔24が開口している。また、図2の2点鎖線で示すように、使用時には、記録ヘッドユニット17の記録ヘッド18とは反対側(図2の左側)に形成されたカートリッジ装着部に、各噴射ノズル21へ各色のインクを供給する4つのインクカートリッジ22y,22m,22c,22b(以下、インクカートリッジ22と総称する)が、着脱可能に取り付けられる。
【0030】
ここで、図3に示すように、記録ヘッドユニット17の記録ヘッド18に設けられた各噴射ノズル21は、圧電素子である材料を削って形成された周知のアクチュエータであり、その内部には多数のチャンネル41と呼ばれるインクの噴射通路が形成されている。そして、そのチャンネル41のノズル面23側の端部(図3における左側の端部)が、インクの噴射孔24になっている。
【0031】
また、噴射ノズル21の全てのチャンネル41は、そのインク流入側(図3の右側)が、記録ヘッド18の内部に設けられたマニホールド42に連通しており、このマニホールド42の開口部であって記録ヘッド18のインク受給口43には、記録ヘッド18内へゴミ等の異物が侵入することを防止するための網状のフィルタ部材44が取り付けられている。そして、フィルタ部材44の外側の縁部には、ゴム等の弾性材料により略リング状に形成された接続部材45が固定されている。
【0032】
尚、記録ヘッドユニット17の記録ヘッド18には、前述したマニホールド42,インク受給口43,フィルタ部材44,及び接続部材45が、各噴射ノズル21に対応して各々設けられている。一方、図3に示すように、インクカートリッジ22のインク供給口46には、接続部材45と接続する前において、インクの漏出防止を主な目的とした網状のフィルタ部材47が、略リング状に形成された樹脂製のアダプタ48により押し付け固定されている。
【0033】
このような記録ヘッドユニット17においては、インクカートリッジ22が取り付けられると、図3に示す如く、インクカートリッジ22側のアダプタ48と記録ヘッド18側の接続部材45とが密着して、記録ヘッド18へのインクカートリッジ22の装着が行われる。そして、インクカートリッジ22のインク供給口46から、アダプタ48の中空部と接続部材45の中空部とからなる接続通路49を経由して、記録ヘッド18のインク受給口43へインクが供給され、その供給されたインクが、記録ヘッド18内のマニホールド42から噴射ノズル21の全てのチャンネル41に供給される。そして、噴射ノズル21に電圧が印加されてチャンネル41の通路幅が変化することにより、噴射孔24からインクが噴射される。
【0034】
尚、本実施形態において、記録ヘッド18の内部に設けられたマニホールド42の容積は、記録ヘッド18にインクカートリッジ22が装着されることで形成される上記接続通路49の容積よりも大きく設定されている。また、インクジェットプリンタ1が工場から出荷される時には、記録ヘッド18の内部、即ち各噴射ノズル21のチャンネル41及びマニホールド42内に、保存液が充填されている。
【0035】
一方、図1に示すように、記録ヘッド18と対向する位置には、記録用紙Pを搬送するための搬送機構LFが配設されており、この搬送機構LFは、LFモータ(搬送用モータ)30(図5参照)の駆動によりプラテンローラ25を回転させ、その回転によって、記録用紙Pを搬送する。
【0036】
また、搬送機構LFの側方には、記録ヘッド18のインク噴射動作の維持・回復を行う維持・回復機構RMが設けられている。この維持・回復機構RMは、インクカートリッジ22の交換時や新規装着時において、その新たに装着されたインクカートリッジ22内のインクを記録ヘッド18内へ初期導入するため、また、当該インクジェットプリンタ1の使用中において、インクが乾燥したり、インク内に気泡が混入したり、噴射ノズル21のノズル面23にインク液滴が付着したりする等の原因で発生する噴射不良を解消するために設けられた吸引機構26と、インクジェットプリンタ1の不使用時に各噴射ノズル21のノズル面23を覆ってインクの乾燥を防止する保存キャップ27と、噴射ノズル21のノズル面23を拭うワイパ部材28とを備えている。
【0037】
吸引機構26は、図1及び図4に示す様に、記録ヘッド18の各噴射ノズル21のノズル面23に対して密着・離隔可能な吸引キャップ33と、該吸引キャップ33が記録ヘッド18に密着しているときに、吸引キャップ33を通じてインクを吸引する吸引ポンプ34とを備えている。そして、この吸引機構26は、カム駆動モータ35(図5参照)で駆動されるカム部材36により、吸引キャップ33及びワイパ部材28を記録ヘッド18に向けて前進させ、更に、吸引ポンプ34を駆動して吸引キャップ33を介し吸引動作(即ちパージ動作)を行う。
【0038】
また、ワイパ部材28は、図1及び図4に示す様に、吸引キャップ33側方に設けられており、このワイパ部材28によって、噴射ノズル21のノズル面23に付着したインクを払拭する。一方更に、図1に示すように、搬送機構LFを挟んで、維持・回復機構RMの反対側には、廃インクを収容する多孔質材製の収容部材29が設けられている。そして、この収容部材29に噴射ノズル21を向けた状態でインクの噴射動作を行うことにより、記録ヘッド18内部や噴射ノズル21内部の気泡や混色したインクを除去するフラッシングを行う。
【0039】
次に、インクジェットプリンタ1の電気的構成について、図5に基づき説明する。図5に示す様に、インクジェットプリンタ1の動作を制御する制御装置50は、CPU50a,ROM50b,RAM50c,及び入出力部50d等を備えた周知のマイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0040】
そして、入出力部50dには、使用者がインクカートリッジ22を交換したり、インクカートリッジ22を新規に装着しようとする場合に押すカートリッジ交換ボタン51や、使用者が吸引機構26による吸引動作を指示するために押すパージボタン等のスイッチ類、インクカートリッジ22の装着状態の有無を検出するカートリッジ検出スイッチ52、吸引ポンプ34が原点位置にあることを検知するパージHPセンサ53、記録用紙Pの先端を検知するPEセンサ54、キャリッジ8の位置を検知するCR位置センサ56等が接続されている。
【0041】
尚、カートリッジ検出スイッチ52は、記録ヘッドユニット17の前述したカートリッジ装着部に、各噴射ノズル21毎に各々対応して設けられており、インクカートリッジ22が装着されてインクカートリッジ22側のアダプタ48と記録ヘッド18側の接続部材45とが密着した状態になるとオンする。
【0042】
更に、入出力部50dには、インクを噴射するアクチュエータである噴射ノズル21、キャリッジ8を移動させるCRモータ16、搬送機構LFを駆動するLFモータ30、吸引機構26を作動させるためのカム部材36を駆動するカム駆動モータ35、現在の操作状態等を表示するインジケータ類57、吸引キャップ33を通じてインクを吸引する吸引ポンプ34等が接続されている。
【0043】
次に、以上の様に構成された本実施形態のインクジェットプリンタ1において、使用者が、何れかの噴射ノズル21に対応したインクカートリッジ22を交換する場合、或いは、何れかの噴射ノズル21に対応するインクカートリッジ22を新規に装着する場合に、制御装置50にて実行される処理について、図6及び図7のフローチャートに基づき説明する。
【0044】
制御装置50は、図6に示す制御処理を所定時間毎に繰り返し実行しており、この制御処理の実行を開始すると、まずステップ(以下、単に「S」と記す)10にて、カートリッジ交換ボタン51が使用者により押されてオンしたか否かを判定し、オンしていないと判定した場合には(S10:NO)、そのまま当該制御処理を一旦終了する。
【0045】
これに対し、上記S10にて、カートリッジ交換ボタン51がオンしたと判定すると(S10:YES)、続くS20にて、キャリッジ8をカートリッジ交換ポジションに移動させる。具体的には、CR位置センサ56からの信号に基づきキャリッジ8の位置を検知しつつ、CRモータ16を駆動することにより、キャリッジ8を予め定められたカートリッジ交換ポジションに移動させる。
【0046】
こうしてキャリッジ8をカートリッジ交換ポジションに移動させると、次のS30にて、カートリッジ検出スイッチ52の何れかが、オフ状態からオン状態へ変化するまで待つ。そして、S30にて、カートリッジ検出スイッチ52の何れかがオフ状態からオン状態に変化したと判定すると(S30:YES)、そのオン状態に変化したカートリッジ検出スイッチ52に対応する噴射ノズル21に対し、インクカートリッジ22が交換されたか、或いは、インクカートリッジ22が新規に装着されたと判断して、S40に進み、前述したS20と同様の手順で、キャリッジ8を、噴射ノズル21が図1に示した収容部材29と対向する位置(以下、フラッシングポジションという)に移動させる。
【0047】
こうしてキャリッジ8をフラッシングポジションに移動させると、次のS50にて、上記S30でオン状態に変化したと判定したカートリッジ検出スイッチ52に対応する噴射ノズル21(即ち、インクカートリッジ22の交換或いは新規装着が行われた噴射ノズル21であり、以下、この噴射ノズル21を、イニシャルパージ対象の噴射ノズル21という)の全チャンネル41を、予め設定された設定時間Tだけ駆動して、そのイニシャルパージ対象の噴射ノズル21から収容部材29に向けてインクを噴射させる、フラッシングを行う。尚、本実施形態において、上記設定時間Tは、マニホールド42の容積と同じ量のインクを噴射するのに要する時間に設定されている。
【0048】
次にS60にて、前述したS20と同様の手順で、キャリッジ8を、イニシャルパージ対象の噴射ノズル21が吸引キャップ33と対向する位置(以下、パージポジションという)に移動させる。そして、キャリッジ8をパージポジションに移動させた後、続くS70にて、イニシャルパージ対象の噴射ノズル21に対してパージ動作(イニシャルパージ)を行うために、図7に示すパージ処理を実行する。
【0049】
このパージ処理の実行が開始されると、図7に示すように、まずS121にて、カム駆動モータ35を駆動することにより、吸引キャップ33をイニシャルパージ対象の噴射ノズル21のノズル面23に密着させる。そして、続くS122にて、吸引ポンプ34を駆動することにより、吸引キャップ33内に負圧を発生させる。すると、イニシャルパージ対象の噴射ノズル21のノズル面23から、吸引キャップ33を通じて、吸引ポンプ34内へインクが吸引されることとなる。
【0050】
次に、S124にて、マイクロコンピュータ内部のタイマーをスタートさせることにより、インクの吸引時間の計時を開始し、続くS125にて、所定時間(本実施形態では5秒)が経過するまで待機する。そして、上記S125にて、5秒が経過したと判定すると、S126に進んで、吸引ポンプ34の駆動を停止すると共に、カム駆動モータ35を駆動して、吸引キャップ33をイニシャルパージ対象の噴射ノズル21のノズル面23から離す。そして最後に、続くS127にて、上記S122〜S125の処理で噴射ノズル21のノズル面23から吸い出したインクを、吸引ポンプ34内から外部へ排出して、当該パージ処理を終了する。
【0051】
こうして、図7のパージ処理を終了すると、図6のS80に進み、前述したS20と同様の手順で、キャリッジ8を保存キャップポジションに移動させる。尚、保存キャップポジションとは、記録ヘッド18の全ての噴射ノズル21が、図1に示した4つの保存キャップ27と対向するキャリッジ8の位置である。そして、キャリッジ8を保存キャップポジションに移動させた後、当該制御処理を終了する。
【0052】
ところで、図6のS20の処理によりキャリッジ8がカートリッジ交換ポジションに移動された状態で、使用者が複数の噴射ノズル21に対応するインクカートリッジ22を交換或いは新規に装着した場合には、図6のS50にて、インクカートリッジ22の交換或いは新規装着が行われた全ての噴射ノズル21が設定時間Tだけ駆動され、次いで、その噴射ノズル21の各々について、図6のS60とS70によるイニシャルパージのための処理が順次実行される。
【0053】
一方、本実施形態のインクジェットプリンタ1において、図7に示したパージ処理は、図6のS70のタイミング以外に、例えば、前述したパージボタンの操作によって何れかの噴射ノズル21に対するパージ動作の実行が指示されたり、当該インクジェットプリンタ1の累積使用時間が予め定められた時間に達したり、といった他のパージ動作実行条件が成立した場合にも実行される。
【0054】
尚、本実施形態では、図7のパージ処理がパージ制御手段に相当し、図6のS50の処理が疑似噴射制御手段に相当している。以上詳述したように、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、カートリッジ検出スイッチ52のオン/オフ状態に基づき、インクカートリッジ22が交換されたこと、或いは、インクカートリッジ22が新規に装着されたことを検知すると(S30:YES)、インクカートリッジ22の交換或いは新規装着が行われた噴射ノズル21に対して、吸引機構26によるパージ動作(イニシャルパージ)を行うのであるが(S60,S70)、特に、そのイニシャルパージを開始する前に、噴射ノズル21を設定時間Tだけ駆動してインクの噴射動作を行うようにしている(S40,S50)。
【0055】
このため、本実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、インクカートリッジ22の交換後、或いは、インクカートリッジ22の新規装着後に、噴射ノズル21内に気泡を残留させることなくインクの初期導入を完了することができる。
【0056】
即ち、使用者により記録ヘッド18へのインクカートリッジ22の装着が行われた際には、インクカートリッジ22のインク供給口46と記録ヘッド18のインク受給口43との間の接続通路49(図3参照)に空気が入り込むため、インクカートリッジ22の交換後、或いは、インクカートリッジ22の新規装着後に、いきなりパージ動作を行うと、上記接続通路49に入り込んだ空気が、記録ヘッド18のインク受給口43に取り付けられたフィルタ部材44を一気に通過したり、記録ヘッド18内の液体(即ち、マニホールド42内のインク又は前述した保存液)と急激に混ざり合ったりして、多量の気泡が発生してしまう。また更に、インクカートリッジ22内のインクが、インクカートリッジ22のインク供給口46に取り付けられたフィルタ部材47を一気に通過して上記接続通路49内の空気と急激に混ざり合い、一層多量の気泡が発生してしまう。
【0057】
これに対して、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、パージ動作を開始する前に、噴射ノズル21を、上記接続通路49の容積よりも大きいマニホールド42の容積と同じ量のインクを噴射するのに要する設定時間Tだけ駆動するようにしているため、噴射によって発生した記録ヘッド18内の負圧により、インクカートリッジ22の装着時に入った上記接続通路49内の空気を、気泡を発生させることのない緩やかな速さでフィルタ部材44を通過させて記録ヘッド18内(詳しくはマニホールド42内)へ移動させ、これと同時に、新たに装着されたインクカートリッジ22内のインクを、気泡を発生させることのない緩やかな速さでフィルタ部材47及びフィルタ部材44を通過させて記録ヘッド18内へ移動させることができる。
【0058】
そして、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、上記フィルタ部材44,47の両面に空気が存在しない状態になった後で、パージ動作を行うこととなるため、パージ動作の実行時に両フィルタ部材44,47の前後で空気と液体とが急激に混ざり合ってしまうことを防止でき、インクカートリッジ22の交換後、或いは、インクカートリッジ22の新規装着後にパージ動作(イニシャルパージ)を行う際の気泡の発生を、大幅に抑制することができるようになるのである。
【0059】
従って、本実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、記録ヘッド18内への異物の侵入を、記録ヘッド18のインク受給口43に取り付けられたフィルタ部材44によって防止しつつ、また、インクカートリッジ22からのインクの漏出を、インクカートリッジ22のインク供給口46に取り付けられたフィルタ部材47によって防止しつつ、インクカートリッジ22の交換後、或いは、インクカートリッジ22の新規装着後にパージ動作を行う際の気泡の発生を、大幅に抑えることができる。
【0060】
また更に、図6のS40及びS50(噴射ノズル21の駆動)の処理は、図7のパージ処理が実行される全ての場合に、そのパージ処理の実行に先立ち行うように構成しても良いが、本実施形態のように、インクカートリッジ22の交換後、或いは、インクカートリッジ22の新規装着後にパージ動作を行う場合にのみ(即ち、記録ヘッド18にインクカートリッジ22が装着されてから最初にパージ動作を行う場合にのみ)、図6のS40及びS50の処理を行うようにすれば、インクカートリッジ22と記録ヘッド18との間の接続通路49に空気が入り込んだ状況でのみ、噴射ノズル21の駆動が行われることとなり、記録用紙Pへの記録を目的とせずに噴射ノズル21から噴射されるインクの量を最小限に抑えることができ、有利である。
【0061】
尚、上記実施形態は、本発明をインクジェットプリンタに適用したものであったが、本発明は、インクジェット式の記録装置を有する他の装置(例えば、ファクシミリ装置)に対しても、全く同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態のインクジェットプリンタの内部構造を示す説明図である。
【図2】実施形態の記録ヘッドユニットを示す斜視図である。
【図3】記録ヘッドユニットにインクカートリッジが取り付けられた状態を破断して示す説明図である。
【図4】実施形態の吸引機構等の構成を示す説明図である。
【図5】実施形態のインクジェットプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図6】実施形態の制御装置で実行される制御処理を表すフローチャートである。
【図7】実施形態の制御装置で実行されるパージ処理を表すフローチャートである。
【図8】従来のインクジェットプリンタの吸引機構等の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0063】
1…インクジェットプリンタ
17…記録ヘッドユニット
18…記録ヘッド
21…噴射ノズル
22…インクカートリッジ
23…ノズル面
26…吸引機構
33…吸引キャップ
34…吸引ポンプ
42…マニホールド
43…インク受給口
44,47…フィルタ部材
45…接続部材
46…インク供給口
48…アダプタ
49…接続通路
50…制御装置
51…カートリッジ交換ボタン
52…カートリッジ検出スイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを噴射して記録を行う噴射ノズルを有すると共に、前記噴射ノズルに供給するためのインクを収容したインクカートリッジが着脱される記録ヘッドと、前記噴射ノズルのノズル面に対して接離可能に接触する吸引キャップと、前記記録ヘッドに装着されたインクカートリッジ内のインクを、前記吸引キャップを通じて前記噴射ノズルのノズル面側から吸引する吸引ポンプと、予め定められたパージ動作実行条件が成立すると、前記吸引キャップを前記噴射ノズルのノズル面に接触させると共に、前記吸引ポンプを駆動して前記インクカートリッジ内のインクを吸引させるパージ動作を制御するパージ制御手段と、を備えたインクジェット記録装置において、前記パージ動作実行条件が成立して前記パージ制御手段が前記パージ動作の制御を開始する前に、前記噴射ノズルを駆動してインクの噴射動作を行わせる疑似噴射制御手段を備えたこと、を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、前記インクカートリッジのインク供給口からインクの供給を受けるために設けられた前記記録ヘッドのインク受給口に、フィルタ部材が取り付けられていること、を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録装置において、前記インクカートリッジのインク供給口にも、フィルタ部材が取り付けられていること、を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のインクジェット記録装置において、前記疑似噴射制御手段は、前記記録ヘッドに前記インクカートリッジが装着されることで形成される前記インク供給口と前記インク受給口との間の接続通路の容積よりも多くのインクが噴射されるように、前記噴射ノズルを駆動するよう構成されていること、を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れかに記載のインクジェット記録装置において、前記疑似噴射制御手段は、前記記録ヘッドに前記インクカートリッジが装着されてから、前記パージ制御手段が最初に前記パージ動作の制御を行う場合にのみ、前記噴射ノズルを駆動するよう構成されていること、を特徴とするインクジェット記録装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−205747(P2006−205747A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133462(P2006−133462)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【分割の表示】特願平9−215157の分割
【原出願日】平成9年8月8日(1997.8.8)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】