説明

インサート成形金型及びインサート成形品の製造方法並びにインサート成形品

【課題】 インサート成形品におけるウエルドラインの発生を確実に防止でき、穴形状を有する成形品やサイズの大きな成形品も効率よく製造することができるインサート成形金型及び該インサート成形金型を使用したインサート成形品の製造方法並びに該製造方法によって製造したインサート成形品を提供する。
【解決手段】 キャビティ面にインサートフィルム17を配置し、キャビティ13内に樹脂を射出して樹脂成形品を成形するとともに、成形品表面にインサートフィルムから模様を転写するインサート成形金型におけるキャビティ面の近傍に、キャビティ面を加熱するための加熱媒体及び冷却するための冷却媒体が供給される温調通路21,22を設け、射出時には温調通路に加熱媒体を供給してキャビティ面を樹脂の熱変形温度より高い温度に加熱し、射出終了後には温調通路に冷却媒体を供給してキャビティ面を熱変形温度より低い温度に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形金型及びインサート成形品の製造方法並びにインサート成形品に関し、詳しくは、射出成形によるインサート成形法(転写成形法、フィルム一体成形法)によってインサート成形品を製造するためのインサート成形金型の構造、及び、該インサート成形金型を使用したインサート成形品の製造方法、並びに、該製造方法によって製造したインサート成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
金型のキャビティ面にインサートフィルムを配置して射出成形を行うことにより、射出成形と同時に、成形品の表面に文字や記号を含む模様を形成するインサート成形法が知られている。一般に、インサート成形法における転写成形法やフィルム一体成形法では、箔薄膜又はパターン等が形成された層と剥離層とを有する転写フィルムや、箔薄膜又はパターン等が形成された層を有するフィルム一体成形フィルムを、射出する熱可塑性樹脂の熱変形温度よりも低く設定した金型に沿うように配置した状態で、溶融樹脂を金型のキャビティ内に射出して樹脂成形品を成形するとともに、転写フィルムや一体成形フィルムの箔薄膜やパターン等の模様を成形品の表面に形成するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−191362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような転写成形法やフィルム一体成形法では、金型温度を熱可塑性樹脂の熱変形温度より低く設定した状態で溶融樹脂をキャビティ内に射出するため、ハイサイクルで所定の模様を有する成形品を得ることが可能である。しかしながら、成形品に通孔等の穴形状(通孔や開口部)が存在する場合や、製品サイズが大きくて多くの樹脂射出口を必要とする場合等では、金型温度が低いことから、キャビティ内で溶融樹脂の流れが合流する部分にウエルドラインが発生してしまい、製品となる成形品の外観が著しく損なわれてしまう。
【0004】
このため、家庭電気製品や日用雑貨製品等、高品質の美観を求められる製品で、穴形状を有する製品を製造する場合は、ウエルドラインを発生させないために、穴形状を設けない状態の成形品をインサート成形した後、該成形品に対して穴空け加工(トリミング)を行うことにより、所定位置に所定の大きさの穴形状を有する製品を得るようにしていた。したがって、製造工程が増加し、製造コストが増加する要因となっている。一方、製品サイズが大きいものでは、ウエルドラインが製品の目立たない位置に発生するように樹脂射出口の位置を設定することも行われているが、これにも限界がある。
【0005】
そこで本発明は、インサート成形品におけるウエルドラインの発生を確実に防止でき、穴形状を有する成形品やサイズの大きな成形品も効率よく製造することができるインサート成形金型及び該インサート成形金型を使用したインサート成形品の製造方法並びに該製造方法によって製造したインサート成形品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のインサート成形金型は、樹脂射出口を有する固定型と可動型とを型締めして形成されるキャビティの少なくとも一方のキャビティ面に沿ってインサートフィルムを配置し、前記キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出して樹脂成形品を成形するとともに、成形品表面に前記インサートフィルムから模様を転写するインサート成形金型において、前記固定型及び可動型の少なくとも一方のキャビティ面の少なくとも一部、特に、成形品にウエルドラインが発生しやすい部位に対応した位置のキャビティ面の近傍に、該キャビティ面を加熱するための加熱媒体及び冷却するための冷却媒体が供給される温調通路を設けたことを特徴としている。前記温調通路の周囲には、キャビティ面側を除いて断熱部を設けることが好ましい。
【0007】
また、本発明のインサート成形品の製造方法は、上記構造のインサート成形金型を使用したインサート成形品の製造方法であって、前記インサートフィルムを配置したキャビティ内に樹脂を射出する際には、前記温調通路に加熱媒体を供給してキャビティ面の温度を射出する熱可塑性樹脂の熱変形温度より高い温度に加熱し、射出終了後には、前記温調通路に冷却媒体を供給してキャビティ面の温度を前記熱変形温度より低い温度に冷却することを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明のインサート成形品は、上記製造方法によってインサート成形されたインサート成形品であって、高品質外観を有するインサート製品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、キャビティ面全体、あるいは、キャビティ面の一部、例えば、ウエルドラインの発生する位置に対応させたキャビティ面の近傍に温調通路を設け、該温調通路に所定温度の加熱媒体や冷却媒体を供給してキャビティ面を所定の温度に加熱・冷却することにより、ウエルドラインの発生を防止できる。さらに、キャビティ面側を除く温調通路の周囲に断熱部を設けることにより、加熱・冷却時の熱損失を抑制することができ、少量の加熱媒体及び冷却媒体によって所定のキャビティ面を短時間に効率よく加熱・冷却することができる。また、部分的に加熱する場合の温調通路は、樹脂流動解析で求めたウエルドライン等の発生位置に対応させて設ければよいから、加熱・冷却媒体の供給・排出用の配管等も単純化でき、可動型への対応も容易であり、可動型の作動や成形品の取り出しに悪影響を与えることはない。これにより、ウエルドラインがなく、高品質外観を有するインサート製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1及び図2は、本発明のインサート成形金型の第1形態例を示すもので、図1は断面図、図2は固定型をキャビティ側から見た正面図である。なお、本形態例に示すインサート成形金型は、2個取り金型の一例を示すものであるが、一方のみを図示して他方の図示は省略している。
【0011】
このインサート成形金型は、可動型11と固定型12とを有するものであって、固定型12には、薄板状の成形品を成形するためのキャビティ13を有する入子14が組み込まれており、キャビティ13には、製品の穴形状部分を形成するための複数の穴形状形成部15が所定位置に突設され、一端にはキャビティ13内に溶融樹脂を射出するための樹脂射出口(ゲート)16が設けられている。また、可動型11及び固定型12には、インサートフィルム17、17を所定位置に固定するための真空吸着用の穴(図示省略)や位置決め固定用のピン等が所定位置に設けられている。
【0012】
さらに、可動型11及び固定型12は、一般的な射出成形用金型と同様に、断熱材18を介してベースプレートに固定されており、固定型12には、溶融樹脂が供給されるスプル19、ランナ20及び前記ゲート16が設けられ、可動型11には、成形品を取り出すためのエジェクターピンが設けられている。
【0013】
そして、可動型11及び固定型12の内部には、キャビティ面を所定温度に加熱・冷却するための温調通路21,22がキャビティ面に近い位置に設けられている。この温調通路21,22には、キャビティ面を所定温度に加熱するための加熱媒体が供給されるとともに、昇温状態のキャビティ面を所定温度に冷却するための冷却媒体が供給される。固定型12の温調通路22は、入子14の反キャビティ側に溝を形成するとともに、この溝の開口をシール材22aを介して温調通路カバー22bで覆うことによって形成されており、可動型11では、金型内に温調通路21となる通孔を直接形成している。
【0014】
また、入子14は、その反キャビティ側が断熱材23を介して固定型本体部に固着され、両側部分には固定型本体部との間に隙間を設け、断熱部となる空気層24を形成するようにしている。このように、温調通路21の周囲に断熱材23や空気層24のような断熱部を設けることにより、温調通路21に加熱媒体や冷却媒体を供給してキャビティ面を加熱・冷却する際に、キャビティ面を除く金型部分に加熱・冷却の際の熱エネルギーが伝達されるのを抑えることができ、加熱媒体や冷却媒体が有する熱エネルギーの損失を抑えて有効に利用することができ、少量の加熱媒体や冷却媒体で特定のキャビティ面を効果的に加熱・冷却することができる。
【0015】
図3は、本発明のインサート成形金型の金型構造における第2形態例を示す要部の断面図である。本形態例は、可動型や固定型(以下、単に金型31という)において、射出成形時にウエルドラインの発生する位置に対応したキャビティ面32に近い位置に温調通路33を設けている。この温調通路33は、金型31の反キャビティ面側に開口した凹部34内に装着される入子35内に設けられている。入子35のキャビティ面側の先端面35aは、前記凹部34の底壁34aに密着した状態となっており、入子35の側面35bと凹部34の壁面34bとの間には、断熱部となる空気層36が設けられている。
【0016】
このように、金型31の全体に温調通路を設けずに、ウエルドラインの発生箇所等に対応させたキャビティ面32の一部分のみを加熱・冷却するように温調通路33を設けることにより、金型31の全体に温調通路を設ける場合に比べて配管等の配置数が少なくなり、金型31の周辺機器の増加も最小限に抑えることができる。なお、符号37は、ベースプレートとの間に設けられる断熱材である。
【0017】
図4は、本発明のインサート成形金型の第3形態例を示す要部の断面図である。なお、以下の説明において、前記第2形態例で示した金型構造における構成要素と同一の構成要素には、それぞれ同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0018】
本形態例は、金型31の反キャビティ面側に開口した凹部34内に装着される入子35のキャビティ面側の先端面35aに凹溝35cを設け、先端面35aを凹部34の底壁34aに密着させることにより、凹溝35cと底壁34aとによって囲まれた部分に温調通路33を形成している。また、温調通路33の周囲には、加熱媒体や冷却媒体の漏れを防止するためのシール材38が設けられており、入子35の側面35bと凹部34の壁面34bとの間には、断熱部となる空気層36が設けられている。このように形成することによっても、前記同様にキャビティ面32を効率よく加熱・冷却することができる。
【0019】
図5は、本発明のインサート成形金型の第4形態例を示す要部の断面図である。本形態例は、金型31の内部に、温調通路33となる1列又は複数の通孔を穿設するとともに、該温調通路33の周囲に断熱部となる空気層を形成するための溝39を設けている。このように、金型31の内部に温調通路33を直接形成することによっても、前記同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
図6は、本発明のインサート成形金型の第5形態例を示す要部の断面図である。本形態例は、金型31の凹部34に装着した入子35のベースプレート側に、前記断熱材に代えて低熱伝導率金属からなる補強材40を設けた例を示している。このように、入子35のベースプレート側に補強材40を設けたり、入子35のベースプレート側や第4形態例で示した温調通路33となる通孔を設けた部分のベースプレート側をベースプレートに接するように延長したりすることにより、入子35の装着部や温調通路33を設けた部分を補強することができ、金型31の全体的な強度を確保することができる。
【0021】
なお、各形態例に示した金型構造における温調通路は、可動型11及び固定型12のいずれか一方に設けてもよく、双方に設けるようにしてもよい。また、温調通路の形状等は、加熱・冷却するキャビティ面の位置や面積、金型の大きさ、加熱温度や冷却速度の各種条件に応じて適当に設定することが可能である。また、各形態例では、断熱部として空気層を設けるようにしているが、この部分に断熱材を充填してもよい。
【0022】
さらに、インサートフィルム17は、可動型11及び固定型12のいずれか一方に配置するようにしてもよく、インサートフィルム17の形態は、長尺で連続的に成形を行えるものあっても、所定形状に切断されたものでバッチ方式で成形を行うものであってもよい。また、金型の細部の構造は、従来から用いられている射出成形用金型と同様に形成することができ、成形品の形状や使用する熱可塑性樹脂の種類等の条件に応じて適当な構造を採用することができる。
【0023】
上述のように形成したインサート成形金型を使用してインサート成形品を製造するに際しては、図1に示すように、所定の箔薄膜やパターン等を形成した各インサートフィルム17を可動型11及び固定型12の所定位置に配置固定して型締めし、温調通路21,22に加熱媒体を供給して金型温度、すなわち、キャビティ面の温度を熱可塑性樹脂の熱変形温度より高い温度に加熱する。この状態でゲート16から溶融樹脂をキャビティ13内に射出して樹脂成形品を成形するとともに、成形品表面に前記インサートフィルム17から模様を転写する。射出終了後は、温調通路21,22に冷却媒体を供給してキャビティ面の温度を前記熱変形温度より低い温度に冷却する。
【0024】
このように、成形品にウエルドラインが発生しやすい部位のキャビティ面を射出成形時に熱可塑性樹脂の熱変形温度より高い温度に加熱することにより、樹脂の流動性を高めてウエルドラインの発生を防止することができる。また、射出成形後に直ちにキャビティ面を冷却することにより、成形サイクルを短縮できるので、生産効率を大幅に向上させることができる。特に、穴形状等によってウエルドラインが発生する部位のみを加熱・冷却するので、少量の加熱媒体及び冷却媒体によって短時間に効率よく加熱・冷却することができる。
【0025】
このようにして得られたインサート成形品は、穴形状を有するものやサイズの大きなものであっても、ウエルドラインによる外観不良がなく、高品質な外観を有するものとなり、ポリカーボネートのような透明樹脂の場合でも、透明性に優れ、外観良好で高品質な成形品となることから、家庭電気製品や日用雑貨製品等、高品質の美観を求められる製品に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のインサート成形金型の第1形態例を示す断面図である。
【図2】同じく固定型をキャビティ側から見た正面図である。
【図3】本発明のインサート成形金型の金型構造における第2形態例を示す要部の断面図である。
【図4】本発明のインサート成形金型の第3形態例を示す要部の断面図である。
【図5】本発明のインサート成形金型の第4形態例を示す要部の断面図である。
【図6】本発明のインサート成形金型の第5形態例を示す要部の断面図である。
【符号の説明】
【0027】
11…可動型、12…固定型、13…キャビティ、14…入子、15…穴形状形成部、16…ゲート、17…インサートフィルム、18…断熱材、19…スプル、20…ランナ、21,22…温調通路、22a…シール材、22b…温調通路カバー、23…断熱材、24…空気層、31…金型、32…キャビティ面、33…温調通路、34…凹部、34a…底壁、34b…壁面、35…入子、35a…先端面、35b…側面、35c…凹溝、36…空気層、37…断熱材、38…シール材、39…溝、40…補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂射出口を有する固定型と可動型とを型締めして形成されるキャビティの少なくとも一方のキャビティ面に沿ってインサートフィルムを配置し、前記キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出して樹脂成形品を成形するとともに、成形品表面に前記インサートフィルムから模様を転写するインサート成形金型において、前記固定型及び可動型の少なくとも一方のキャビティ面の近傍に、該キャビティ面を加熱するための加熱媒体及び冷却するための冷却媒体が供給される温調通路を設けたことを特徴とするインサート成形金型。
【請求項2】
請求項1記載のインサート成形金型を使用したインサート成形品の製造方法であって、前記インサートフィルムを配置したキャビティ内に樹脂を射出する際には、前記温調通路に加熱媒体を供給してキャビティ面の温度を射出する熱可塑性樹脂の熱変形温度より高い温度に加熱し、射出終了後には、前記温調通路に冷却媒体を供給してキャビティ面の温度を前記熱変形温度より低い温度に冷却することを特徴とするインサート成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法によってインサート成形されたことを特徴とするインサート成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−76276(P2006−76276A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313445(P2004−313445)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】