説明

インスリン分泌促進薬のスクリーニング方法

【課題】インスリン分泌促進薬又はその評価方法を提供する。
【解決手段】 SOX5、SOX6及び/又はSOX13の、発現又は機能を抑制する物質を有効成分として含有するインスリン分泌促進薬;及び被験物質が、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現又は機能を抑制するか否かを指標として、被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン分泌促進薬、及びインスリン分泌促進薬の評価方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、持続的高血糖状態を伴う疾患であり、多くの環境因子と遺伝的因子とが作用した結果、発症すると言われている。血糖の主要な調節因子はインスリンであり、高血糖は、インスリン欠乏、あるいは、その作用を阻害する諸因子(例えば、遺伝的素因、運動不足、肥満、又はストレス等)が過剰となって生じることが知られている。糖尿病には主として2つの種類があり、自己免疫疾患などによる膵インスリン分泌機能の低下によって生じるインスリン依存性糖尿病(IDDM)と、持続的な高インスリン分泌に伴う膵疲弊による膵インスリン分泌機能の低下が原因であるインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)とに分けられる。日本人の糖尿病患者の95%以上は、NIDDMと言われており、生活様式の変化に伴い、患者数の増加が問題となっている。
糖尿病の治療は、軽症においては、食事療法、運動療法、及び肥満の改善等が主として行われ、更に進行すると、経口糖尿病薬(例えば、スルホニルウレア剤等のインスリン分泌促進剤)の投与が行われ、更に重症の場合は、インスリン製剤の投与が行われている。
スルホニルウレア剤は、膵β細胞を刺激し、内因性インスリン分泌を促進するが、インスリン分泌のタイミング及び分泌量は、血糖値とは関係なく、薬物の投与タイミング及び投与量によって決まる。このため、副作用として薬剤の作用持続に起因する低血糖を呈する場合がある。また、食欲不振等の消化器症状が現れる。更に、重症ケトーシス又は肝若しくは腎機能障害のある患者には禁忌である。一方、インスリン製剤は、確実に血糖値を低下させるが、注射により投与しなければならない上に、低血糖になるおそれもある。そこで、より優れた血糖降下剤、が切望されていた。
一方、インスリン分泌量を調節する因子としては、現在PDX−1[非特許文献1を参照]、HNF−3β[非特許文献2を参照]、TCF−1[非特許文献3を参照 ]などが知られている。しかし、これらの因子の生理作用だけでインスリン分泌機構を十分に説明することは出来ない。そのため、インスリン分泌量の調節に関与する未知の因子が存在すると考えられていた。
一方、SOX5,6,13は転写因子の1種であり、HMG Boxスーパーファミリーの1員である[非特許文献4を参照]。HMG Box蛋白質はtestis決定因子であるSRYタンパクのDNA結合領域として同定されたHMGドメインを持つ遺伝子群のことであり、DNA結合コンセンサス配列は5'-(A/T)(A/T)CAA(A/T)G-3'である。HMG Boxスーパーファミリーはヒトでは20種類の遺伝子により構成されており、その1次配列の特徴によりグループA,B1,B2,C,D,E,F,G,Hと9つのグループに細分化されている。SOX5,6,13はグループDに属しており、ロイシンジッパーモチーフやポリQドメインといった他のHMG Boxタンパクは持っていない機能ドメインを有しているのが特徴である。SOX5,6は主にKO動物を使った解析から軟骨の発生に関与すると考えられており[非特許文献5を参照]、SOX9と協調的に働くとされている。生化学的な特徴としてはホモダイマーや他の転写因子とのヘテロダイマーを形成し、標的DNAに結合することが知られている[非特許文献6を参照]。
しかしながら、SOX5、6又は13とインスリン分泌又は糖尿病等の疾患との関係は全く知られていなかった。
【非特許文献1】Brissova Mら,J.B.C.,29(13),11225−11232 (2002)
【非特許文献2】Yamada,Sら、Diabetologia 43 (1), 121−124 (2000)
【非特許文献3】Shih,D.Q.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 (6), 3818−3823 (2002)
【非特許文献4】Wegner, M、Nucleic Acids Res 27, 1409−1420 (1999)
【非特許文献5】Smits, P.ら、Dev Cell 1, 277−290(2001)
【非特許文献6】Lefebvre, V.ら、Embo J 17, 5718−5733 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の解決すべき課題は、インスリン分泌促進薬、及びインスリン分泌促進薬の評価方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、新たなインスリン分泌量を制御する因子を同定することが出来れば、その因子は全く新しい作用機序を有するインスリン分泌促進薬のターゲットとなり得ると考え、鋭意検討を行った。すなわち、糖尿病発症モデル動物の膵臓β細胞において発現が変動する遺伝子を探索し、その機能解析を検討した。その結果、SOX5、SOX6、及びSOX13が膵臓β細胞において、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を抑制することがわかった。さらに、SOX5、SOX6及びSOX13に対するsiRNAが、インスリンプロモーター活性を亢進することがわかった。本発明は上記の知見を元に完成するに至ったものである。
即ち本発明は、
〔1〕 SOX5、SOX6及び/又はSOX13の、発現又は機能を抑制する物質を有効成分として含有する、インスリン分泌促進薬;
〔2〕 SOX5、SOX6及び/又はSOX13が下記のいずれかのアミノ酸配列を有する蛋白質である、〔1〕に記載のインスリン分泌促進薬;
<アミノ酸配列>
SOX5:
(a-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列、
(b-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列、
(c-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列;
SOX6:
(a-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列、
(b-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列、
(c-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列;
SOX13:
(a-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列、
(b-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列、
(c-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列;
〔3〕 SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現又は機能を抑制する物質が、それぞれSOX5、SOX6及びSOX13に対するアンチセンス核酸である、〔1〕又は〔2〕に記載のインスリン分泌促進薬;
〔4〕 SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現又は機能を抑制する物質が、それぞれSOX5、SOX6及びSOX13に対するsiRNAである、〔1〕又は〔2〕に記載のインスリン分泌促進薬;
〔5〕 SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現又は機能を抑制する物質が、それぞれSOX5、SOX6及びSOX13と特異的に結合する抗体である、〔1〕又は〔2〕に記載のインスリン分泌促進薬;
〔6〕 インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13をコードする遺伝子を発現可能な細胞と、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法;
〔7〕 インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞と、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の蛋白質の発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるSOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がSOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法;
〔8〕 インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13をコードする遺伝子の発現調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞に、被験物質を接触させる第一工程、及び、
(2)被験物質を接触させた前記細胞における、レポーター遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記レポーター遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記レポーター遺伝子の発現を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法;
〔9〕 インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞と、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるSOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がSOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法;
〔10〕 SOX5、SOX6又はSOX13の機能が、インスリン分泌抑制機能である、〔9〕に記載の評価方法;
〔11〕 インスリン分泌抑制機能がインスリンプロモーターの転写活性の抑制機能である、〔10〕に記載の評価方法;
〔12〕 以下の工程:
(1)インスリンをコードする遺伝子の発現調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子並びに、SOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた前記細胞における、レポーター遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記レポーター遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記レポーター遺伝子の発現を促進するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、〔11〕に記載の評価方法;
〔13〕 インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)インスリン、並びにSOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、インスリン遺伝子の発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がインスリン遺伝子の発現を促進するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、〔10〕に記載の評価方法;
〔14〕 インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)インスリン、並びにSOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、インスリンの発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるインスリンの発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がインスリンの発現を促進するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、〔10〕に記載の評価方法;
〔15〕 以下の工程:
(1)インスリン、並びにSOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、インスリン分泌量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるインスリン分泌量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がインスリン分泌量を増大させるか否かを指標として、被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、〔10〕に記載の評価方法;
〔16〕 〔6〕〜〔15〕のいずれかに記載の評価方法で評価されたインスリン分泌促進能力に基づき、インスリン分泌促進薬の候補物質を選別することを特徴とする、インスリン分泌促進薬の探索方法;
〔17〕 〔16〕に記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とするインスリン分泌促進薬;
に関するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能又は発現を抑制する物質を有効成分として含有するインスリン分泌促進薬、及びSOX5、SOX6、及び/又はSOX13の機能又は発現を指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を検定する評価方法等を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、及び当該分野における慣用記号に従う。
【0007】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
【0008】
本明細書において「蛋白質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列で示される「蛋白質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その断片、同族体(ホモログ)、誘導体、および変異体が包含される。
【0009】
以下本明細書において「SOX5」とは、配列番号:2で表されるヒトSOX5だけでなく、それらの相同物、すなわち同族体(ホモログ)や前記変異体をも包含する。「SOX6」とは、配列番号:4で表されるヒトSOX6だけでなく、それらの相同物、すなわち同族体(ホモログ)や前記変異体をも包含する。「SOX13」とは、配列番号:6で表されるヒトSOX13のみならず、それらの相同物、すなわち同族体(ホモログ)や前記変異体をも包含する。
【0010】
同族体(ホモログ)としては、ヒトの蛋白質に対応するマウスやラットなど他生物種の蛋白質が例示でき、これらはHomoloGene(http: //www. ncbi. nlm. nih. gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。具体的には、配列番号:NP_008871で表されるヒトSOX5、配列番号:NP_035574で表されるマウスSOX5、配列番号:XP_342785で表されるラットSOX5を挙げることができる。
また変異体とはヒト由来の蛋白質もしくはその同族体の変異体をあらわし、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。
【0011】
なお、蛋白質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その生物学的機能及び/または免疫学的活性が保持される限り制限はない。生物学的機能や免疫学的活性を喪失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個欠失、付加、挿入あるいは置換されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られる蛋白質が本発明の蛋白質の生物学的機能及び/または免疫学的活性を保持している限り、特に制限されないが、蛋白質の構造保持の観点から、残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性並びに両親媒性など、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe及びTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn及びGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Asp及びGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、Arg及びHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。
【0012】
本明細書においてSOX5遺伝子とは、前記SOX5をコードする遺伝子を表す。SOX6遺伝子とは、前記SOX6をコードする遺伝子を表す。SOX13遺伝子とは、前記SOX13をコードする遺伝子を表す。
すなわち、本明細書において、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子もしくはSOX13遺伝子には、特定の塩基配列(配列番号:1、3、5)で示される遺伝子(DNA)だけでなく、これらによりコードされる蛋白質と生物学的機能が同等である蛋白質をコードする遺伝子(DNA)などが包含される。
具体的には、「SOX5遺伝子」は配列番号:1で表されるヒトSOX5遺伝子のみならず、配列番号:1において任意のアミノ酸をコードするコドンが、同一のアミノ酸をコードする縮重コドンに置換された塩基配列、ヒトSOX5遺伝子の同族体(ホモログ)、又はストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1で示される特定塩基配列もしくは前記同族体の塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列からなる「遺伝子」または「DNA」を包含する。また、「SOX6遺伝子」は配列番号:3で表されるヒトSOX6遺伝子のみならず、配列番号:3において任意のアミノ酸をコードするコドンが、同一のアミノ酸をコードする縮重コドンに置換された塩基配列、ヒトSOX6遺伝子の同族体(ホモログ)、又はストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:3で示される特定塩基配列もしくは前記同族体の塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列からなる「遺伝子」または「DNA」を包含する。また、「SOX13遺伝子」は配列番号:5で表されるヒトSOX13遺伝子のみならず、配列番号:5において任意のアミノ酸をコードするコドンが、同一のアミノ酸をコードする縮重コドンに置換された塩基配列、ヒトSOX13遺伝子の同族体(ホモログ)、又はストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:5で示される特定塩基配列もしくは前記同族体の塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列からなる「遺伝子」または「DNA」を包含する。
なお、本明細書において、ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1XSSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5XSSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1XSSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0013】
本明細書において、SOX5として、具体的には以下のアミノ酸配列からなる蛋白質を挙げられる:
(a-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列、
(b-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列、
(c-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列。
本明細書において、SOX6として、具体的には以下のアミノ酸配列からなる蛋白質を挙げられる:
(a-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列、
(b-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列、
(c-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列。
本明細書において、SOX13として、具体的には以下のアミノ酸配列からなる蛋白質を挙げられる:
(a-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列、
(b-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列、
(c-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列。
【0014】
本発明において用いられるSOX5、SOX6又はSOX13(以下「本発明の蛋白質」と称する場合がある)としては、精製された本発明の蛋白質、部分的に精製された本発明の蛋白質、本発明の蛋白質を含有する核画分等の細胞由来画分、又は本発明の蛋白質を含有する細胞が挙げられる。例えば、本発明の蛋白質を含む膵臓組織を単離し、通常の細胞分画法により、本発明の蛋白質を調製することができ、具体的には、Methods Enzymol., 1992, 209, 366-374に記載された方法等をあげることができる。また、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子(以下「本発明の遺伝子」と称する場合がある)が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物から取得することができる。以下詳細に説明する。
本発明の遺伝子は通常の遺伝子工学的方法[例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法]に準じて取得することができる。
具体的には、まず、ヒト、マウス又はラット等の組織、細胞やこれらに由来する培養細胞などからRNAを調製する。例えば、ラット肝臓を塩酸グアニジンやグアニジンチオシアネート等の強力な蛋白質変性剤を含む溶液中で粉砕し、さらに該粉砕物にフェノール、クロロホルム等を加えることにより蛋白質を変性させる。変性蛋白質を遠心分離等により除去した後、回収された上清画分から塩酸グアニジン/フェノール法、SDS−フェノール法、グアニジンチオシアネート/CsCl法等の方法により全RNAを抽出する。なお、これらの方法に基づいた市販の試薬としては、例えばISOGEN(ニッポンジーン製)、トリゾル試薬(Gibco BRL)等がある。
得られた全RNAを鋳型としてオリゴdTプライマーをRNAのポリA配列にアニールさせ、逆転写酵素を作用させることにより一本鎖cDNAを合成する。次いで、該一本鎖cDNAを鋳型とし、かつSOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1、3又は5に記載の塩基配列)に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)を行うことにより、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子を増幅し、取得することができる。また、上記の一本鎖cDNAを鋳型としてDNAポリメラーゼを作用させることにより二本鎖のcDNAを合成する。得られた二本鎖cDNAを、例えばプラスミドpUC118やファージλgt10などのベクターに挿入することによりcDNAライブラリーを作製する。このようにして得られるcDNAライブラリーや市販のcDNAライブラリーから、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1、3又は5で示される塩基配列)の部分塩基配列を有するDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法や、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1、3又は5で示される塩基配列)に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRにより、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子を取得することもできる。
PCRに用いるプライマーとしては、例えば、約15bpから約50bp程度の長さでかつGまたはC塩基の割合が約40%から約60%程度の塩基配列を、上記のような本蛋白質をコードする既知の塩基配列から選択し、該塩基配列に基いてオリゴヌクレオチドを設計し、合成するとよい。
【0015】
得られた本発明の遺伝子の塩基配列は、Maxam Gilbert法 (例えば、Maxam,A.M & W.Gilbert, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 560, 1977 等に記載の方法)やSanger法(例えばSanger,F. & A.R.Coulson, J.Mol.Biol., 94, 441, 1975、Sanger,F, & Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 5463, 1977等に記載の方法)により確認することができる。
上記のようにして得られた本発明の遺伝子は、例えば、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラー クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年等記載の遺伝子工学的方法に準じてベクターにクローニングすることができる。すなわち、本発明の遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することができる。
【0016】
前記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、SOX5、SOX6又はSOX13のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子が導入されたものを挙げることができる。
具体的には、大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えばプラスミドpUC119(宝酒造(株)製)や、ファージミドpBluescriptII(ストラタジーン社製)等をあげることができる。出芽酵母を宿主細胞とする場合には、プラスミドpACT2(Clontech社製)などをあげることができる。また、哺乳類動物細胞を宿主細胞とする場合には、pRC/RSV、pRC/CMV(Invitrogen社製)等のプラスミド、ウシパピローマウイルスプラスミドpBPV(Amersham Bioscience社製)、EBウイルスプラスミドpCEP4(Invitrogen社製)等のウイルス由来の自律複製起点を含むベクター、ワクシニアウイルス等のウイルスなどをあげることができる。昆虫類動物細胞(以下、昆虫細胞と記す。)を宿主細胞とする場合には、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスをあげることができる。
【0017】
本発明の遺伝子の上流に、宿主細胞で機能可能なプロモーターを機能可能な形で結合させ、これを上述のようなベクターに組み込むことにより、本発明の遺伝子を宿主細胞で発現させることの可能な発現プラスミドを構築することができる。ここで、「機能可能な形で結合させる」とは、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子が宿主細胞に導入された際に、宿主細胞においてプロモーターの制御下に発現されるように、当該プロモーターと本発明の遺伝子とを結合させることを意味する。
ここで用いられるプロモーターは、本発明の遺伝子が導入される細胞で機能可能なものであればよく、宿主細胞が動物細胞もしくは分裂酵母ある場合には、SV40ウイルスプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター(CMVプロモーター)、Raus Sarcoma Virusプロモーター(RSVプロモーター)、βアクチン遺伝子プロモーター、aP2遺伝子プロモーター、又はマウス乳頭腫ウイルス(MMTV)プロモーター等が挙げられる。また、宿主細胞が大腸菌である場合には、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター(lacP)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trpP)、アルギニンオペロンのプロモーター(argP)、ガラクトースオペロンのプロモーター(galP)、tacプロモーターもしくはtrcプロモーター等の大腸菌内で機能可能な合成プロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、λファージのプロモーター(λ-pL、λ-pR)等をあげることができる。また、宿主細胞が出芽酵母である場合には、ADH1プロモーター(尚、ADH1プロモーターは、例えばADH1プロモーター及び同ターミネーターを保持する酵母発現ベクターpAAH5 〔Washington Research Fundation から入手可能、Ammerer ら、Method in Enzymology、101 part(p.192-201)〕から通常の遺伝子工学的方法により調製することができる。)などをあげることができる。
【0018】
尚、発現ベクターに本発明の遺伝子を導入するために用いられる制限酵素も宝酒造等から市販されているものを適宜用いればよい。又、このようなプロモーターをマルチクローニング部位の上流に含む市販のベクターを利用してもよい。
一般的には、宿主細胞で機能可能なプロモーターと本発明の遺伝子とが機能可能な形で接続されてなるDNAを、宿主細胞で利用可能なベクターに組込んで、これを宿主細胞に導入する。宿主細胞において機能可能なプロモーターをあらかじめ保有するベクターを使用する場合には、ベクター保有のプロモーターと本発明の遺伝子とが機能可能な形で結合するように、該プロモーターの下流に本発明の遺伝子を挿入すればよい。例えば、前述のプラスミドpRC/RSV,pRC/CMV等は、動物細胞で機能可能なプロモーターの下流にクローニング部位が設けられており、該クローニング部位に本発明の遺伝子を挿入し動物細胞へ導入することにより、本発明の遺伝子を発現させることができる。また、前述の酵母用プラスミドpACT2はADH1プロモーターを有しており、該プラスミドまたはその誘導体のADH1プロモーターの下流に本発明の遺伝子を挿入すれば、本発明の遺伝子を例えばCG1945(Clontech社製)等の出芽酵母内で発現させることが可能な発現ベクターが構築できる。
さらなる高発現を導くことが必要な場合には、本発明の遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
【0019】
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞等を挙げることができる。例えば、SOX5、SOX6又はSOX13の本来の構造を維持することが期待できるという観点では、MIN6やRIN5F等の哺乳動物細胞を好ましく挙げることができる。
細胞への導入法としては、哺乳類動物細胞もしくは昆虫細胞を宿主とする場合には、例えば、リン酸カルシウム法、電気導入法、DEAEデキストラン法、ミセル形成法、エレクトロポレーション法、又はリポフェクション法等を挙げることができる。リン酸カルシウム法としてはGrimm, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 10923-10927等に記載される方法、電気導入法及びDEAEデキストラン法としてはTing, A. T. et al., EMBO J., 15, 6189-6196等に記載される方法、ミセル形成法としてはHawkins, C. J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 13786-13790等に記載される方法を挙げることができる。ミセル形成法を用いる場合には、リポフェクトアミン(インビトロジェン製)やフュージーン(ベーリンガー製)等の市販の試薬を利用するとよい。
【0020】
又、大腸菌を宿主細胞とする場合には、「モレキュラー・クローニング」(J.Sambrookら、コールド・スプリング・ハーバー、1989年)等に記載される塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法等の通常の方法を用いることにより前記発現ベクターを宿主細胞へ導入することができる。また、酵母菌を宿主細胞とする場合には、例えば、リチウム法を基にしたYeast transformation kit(Clontech社製)などを用いて導入することができる。
前記発現ベクターが導入された形質転換体を選抜するには、例えば、前記発現ベクターと同時に下記のようなマーカー遺伝子を宿主細胞に導入し、導入されたマーカー遺伝子の性質に応じた方法で前記発現ベクターが導入された宿主細胞を培養すればよい。例えば、当該マーカー遺伝子が、宿主細胞に致死活性を示す選抜薬剤に対する薬剤耐性を付与する遺伝子(薬剤耐性付与遺伝子)である場合には、該薬剤を添加した培地を用いて、前記発現ベクターが導入された宿主細胞を培養すれば良い。薬剤耐性付与遺伝子と選抜薬剤との組み合わせとしては、例えば、ネオマイシン耐性付与遺伝子とネオマイシンとの組み合わせ、ハイグロマイシン耐性付与遺伝子とハイグロマイシンとの組み合わせ、ブラストサイジンS耐性付与遺伝子とブラストサイジンSとの組み合わせ、カナマイシン耐性付与遺伝子とカナマイシンとの組み合わせ、G418耐性付与遺伝子とG418との組み合わせ、ゼオシン耐性付与遺伝子とゼオシンとの組み合わせ等をあげることができる。
また、当該マーカー遺伝子が宿主細胞の栄養要求性を相補する遺伝子である場合には、該栄養素を含まない最少培地を用いて、前記発現ベクターが導入された細胞を培養すればよい。
【0021】
上述のようにして得られた前記発現ベクターが導入された形質転換体(以下、本形質転換体と記すこともある。)を培養することにより本発明の遺伝子を発現させることができる。
前記プラスミドの導入処理を施した細胞を、例えば、当該ベクターに予め含まれる選抜マーカー遺伝子を利用し、当該選抜マーカー遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を選抜することができる。さらに選抜を続けて、本発明の遺伝子が染色体に導入されてなる安定形質転換体となった当該形質転換細胞を取得してもよい。導入された本発明の遺伝子が細胞中に存在する染色体上に組込まれたことを確認するには、当該細胞のゲノムDNAを通常の遺伝子工学的方法に準じて調製し、本発明の遺伝子の部分塩基配列を有するDNAをプライマーとして用いるPCRや、本発明の遺伝子の部分塩基配列を有するDNAをプローブとして用いるサザンハイブリダイゼーション等の方法を利用して、ゲノムDNA中の本発明の遺伝子の存在を検出・確認すればよい。
形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
SOX5、SOX6又はSOX13の取得は、一般の蛋白質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて実施することができる。例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離等で集め、該形質転換体を破砕または溶解させればよい。必要であれば蛋白質の可溶化を行い、イオン交換、疎水、ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を単独で、もしくは組み合わせることにより精製すればよい。必要であれば、精製された蛋白質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。
尚、SOX5、SOX6又はSOX13は、後記配列表に記載するアミノ酸配列の情報(配列番号2、4、6)等に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0022】
本明細書において、「インスリン分泌促進薬」としては、膵臓ランゲルハンス島β細胞等のインスリン分泌が可能な細胞におけるインスリン分泌を促進する薬剤を表す。本発明のインスリン分泌促進薬が適用可能な疾患としては、例えば、I型糖尿病、インスリン抵抗性に伴う耐糖能低下、II型糖尿病、高脂血症、高コレステロール血症、高血圧、動脈硬化等の代謝性疾患や、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞等の心血管障害等の疾患等をあげることができる。すなわち、本発明のインスリン分分泌促進薬はこれらの疾患の治療薬または予防薬となり得る。
【0023】
本発明の蛋白質の発現を抑制する物質は、本発明の蛋白質のmRNAの発現量又は本発明の蛋白質の発現量を抑制する物質であれば特に限定は無く、後述する本発明の探索方法によって得られる物質等が挙げられる。具体的には、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子もしくはSOX13遺伝子のアンチセンス核酸又はsiRNA、あるいは、SOX5、SOX6もしくはSOX13を認識する抗体等を例示することができる。
本明細書において、「抗体」としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。本明細書におけるSOX5、SOX6又はSOX13を認識する抗体は、好ましくはSOX5、SOX6又はSOX13を特異的に認識することができる抗体を表す。
【0024】
本明細書において、「アンチセンス核酸」とは、アンチセンスDNA、及びアンチセンスRNAを共に含む概念である。アンチセンスDNA及びアンチセンスRNAは、例えば合成機を用いて人工的に合成したり、通常と逆の向き(すなわちアンチセンスの向き)にDNAを転写させたりすることによって得ることができる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、前記本発明のポリヌクレオチドに相補的な塩基配列を有し、該ポリヌクレオチドの発現を抑制し得る作用を有するものであれば、特に限定はないが、前記アンチセンスDNA及びアンチセンスRNAの長さは、通常15〜30塩基であり、通常20塩基程度が好ましい。
作製したアンチセンスDNAまたはアンチセンスRNAは、細胞外からアンチセンスDNAまたはアンチセンスRNAを直接導入したり、該アンチセンスRNAを転写によって生成することが可能なベクターを、本発明の蛋白質を発現し得る細胞に導入したりすることによって、使用することもできる。
【0025】
また、本発明のsiRNAとしては、SOX5、SOX6又はSOX13をコードするポリヌクレオチドの部分配列である、21〜23塩基の二本鎖RNAが挙げられる。具体的には、スタートコドンから、75塩基以上下流に存在する塩基配列「AA」に続く19〜21塩基を選択することができる。ここで、選択した21〜23塩基の配列がSOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子特異的であることは、NCBI( http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ )のBLAST検索を用いて確認することができる。あるいは、siRNAの設計には、「Jack Lin's siRNA sequence finder」(http://www.sinc.sunysb.edu/Stu/shilin/rnai.html)又は「siDirect」(http://133.11.210.226/sidirect/index.php)(等の設計用ソフトウェアを適宜用いることができる。siRNAは、例えば合成機を用いて人工的に合成することによって得ることができる。
【0026】
本明細書における「SOX5、SOX6又はSOX13の機能」としては、哺乳類動物の膵アイレット細胞、具体的にはマウス若しくはラット膵アイレット細胞におけるインスリン分泌を抑制する能力、又はインスリンプロモーター転写活性の抑制能力(インスリンの転写抑制能力)が挙げられる。
インスリン分泌を抑制する能力とは、本明細書実施例に示される方法で測定されるインスリン分泌を抑制する能力を表す。すなわち、SOX5、SOX6又はSOX13を発現するべく形質転換された膵アイレット細胞、MIN6細胞又はINS1細胞等のインスリン分泌能を有する細胞を30分間から3時間、より好ましくは1時間、低グルコース溶液(0から8mM、より好ましくは4mM)若しくは高グルコース溶液(10から50mM、より好ましくは30mM)中に静置する。その後、当該溶液中のインスリン量を市販のインスリン測定キットを用いて測定することで、インスリン分泌量の定量を行うことが出来る。市販のインスリン測定キットとして、例えばレビス インスリン−ラット-T(シバヤギ社製)や超高感度ラットインスリン測定キット(モリナガ社製)をあげることが出来る。測定されたインスリン分泌量が、形質転換されていない細胞よりも少ない場合、すなわち形質転換されている細胞のインスリン分泌量が形質転換されていない細胞のインスリン分泌量の3/4以下、好ましくは1/2以下、更に好ましく1/4以下であれば、SOX5、SOX6又はSOX13がインスリン分泌を抑制する能力を有すると判断することができる。
SOX5、SOX6又はSOX13の機能を抑制する物質としては、特に限定は無く、後述する本発明の探索方法によって得られる物質等が挙げられる。
【0027】
前記〔6〕に記載されているとおり、本発明は、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子及び/又はSOX13遺伝子の発現量を指標として、インスリン分泌促進能力を評価する方法を提供する。
【0028】
ここで「SOX5、SOX6及び/又はSOX13をコードする遺伝子を発現可能な細胞」としては、特に限定は無く、膵臓組織から調製した膵アイレット細胞や、精巣細胞、筋肉細胞等を挙げることができる。ここで、細胞の集合体である組織(例えば膵臓組織片)も、「細胞」の範疇に含まれる。由来動物種としては、ラット、マウス、モルモット等のげっ歯類哺乳動物、イヌ、サル、ヒト等が挙げられる。例えば、ラット膵臓細胞は当業者に公知のコラゲナーゼ潅流法を用いて単離することができる(Mol. Cell. Biochem., 37, 43-61;1981)。
前記のSOX5、SOX6及び/又はSOX13をコードする遺伝子を含有する細胞と被験物質との接触は、当該細胞が成育可能な条件で培養しながら行えばよく、例えば、哺乳動物細胞を宿主とする本発明形質転換細胞の場合、適宜ウシ胎児血清等の哺乳動物由来の血清を添加したD−MEM、OPTI−MEM、RPMI1640培地(Gibco−BRL製)等の市販の培地中で培養できる。
SOX5、SOX6又はSOX13をコードする遺伝子、すなわち本発明の遺伝子の検出及び発現量の定量は、前記細胞から調製したRNA又はそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法で実施できる。具体的には、本発明の遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることによって、前記RNA中の本発明の遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。そのようなプローブもしくはプライマーは、本発明の遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3(http://www.genome.wi. mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合、前記プライマーもしくはプローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プライマーもしくはプローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プライマーもしくはプローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labeling and Detection System (Amersham Bioscience社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Bioscience社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
RT-PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的の本発明の遺伝子の領域が増幅できるように、本発明の遺伝子の配列に基づき調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0029】
前記〔7〕に記載されているとおり、本発明は、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現量を指標として、インスリン分泌促進能力を評価する方法を提供する。
ここで、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現を検出し、発現量を測定する方法としては、SOX5、SOX6及び/又はSOX13を認識する抗体(以下本発明の抗体と称する場合がある)を用いたウェスタンブロット法等の公知の方法に従って定量できる。ウェスタンブロット法は、一次抗体としてSOX5、SOX6又はSOX13抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAI-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明の抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System(Amersham Bioscience社製)を利用して該プロトコールに従って検出し、マルチバイオメージャーSTORM860(Amersham Bioscience社製)で測定することもできる。
抗体は、その形態に特に制限はなく、前記SOX5、SOX6及び/又はSOX13を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよく、さらには当該SOX5、SOX6及び/又はSOX13を構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。本発明の抗体として、例えばヒトSOX5、SOX6及び/又はSOX13またはそのホモログを認識する抗体を例示することができる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したSOX5、SOX6及び/又はSOX13を用いて、あるいは常法に従って当該いずれかのSOX5、SOX6及び/又はSOX13の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したSOX5、SOX6及び/又はSOX13、あるいはこれら蛋白質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
【0030】
また、抗体の作製に使用される蛋白質は、SOX5、SOX6又はSOX13の配列情報(配列番号2、4、6)等に基づいて、前述のとおり、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からの蛋白質の回収の操作等、通常の遺伝子工学的方法により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法[例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press;DM. Gloverら著、DNA クローニング( IRL プレス発行、1985)等に記載されている方法]などに準じて行うことができる。
【0031】
また本発明の抗体は、SOX5、SOX6又はSOX13の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかる抗体誘導のために用いられるオリゴペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、SOX5、SOX6又はSOX13と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはかかる特性を有し、SOX5、SOX6又はSOX13のアミノ酸配列において少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドを例示することができる。
なお、ここで「SOX5、SOX6又はSOX13と同様な免疫原特性を有するオリゴペプチド」とは、免疫学的活性においてSOX5、SOX6又はSOX13と同等の活性を有するオリゴペプチドを表し、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつSOX5、SOX6又はSOX13に対する抗体と特異的に結合する能力を有する蛋白質を挙げることができる。
かかるポリペプチドに対する抗体の生成は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントなどがある。
【0032】
前記〔8〕に記載されているとおり、本発明は、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子及び/又はSOX13遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞における当該レポーター遺伝子の発現量を指標として、インスリン分泌促進能力を評価する方法(レポータージーンアッセイ)を提供する。
ここで、本発明のSOX5、SOX6又はSOX13遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される方法に準じてSOX5、SOX6又はSOX13遺伝子を含むプラスミドから、プロモーター活性を維持している発現制御領域を含む部分配列を適当な制限酵素を用いて切り出し、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。前記発現制御領域とは具体的には、開始メチオニンの5'上流3−5kbpの塩基配列を指す。
【0033】
レポーター遺伝子としては、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ及びグリーン蛍光蛋白質(GFP)等が挙げられる。
調製したSOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。レポーター遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を得ることができる。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
前記の本発明の遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞と被験物質との接触は、当該細胞が成育可能な条件で培養しながら行えばよく、例えば、哺乳動物細胞を宿主とする本発明形質転換細胞の場合、適宜ウシ胎児血清等の哺乳動物由来の血清を添加したD−MEM、OPTI−MEM、RPMI1640培地(Gibco−BRL製)等の市販の培地中で培養できる。
本発明の遺伝子の発現制御領域の調製方法としては、例えば、化学合成法、PCR、ハイブリダイゼーション法等が挙げられる。化学合成法を用いて調製する場合、DNA自動合成機、例えばDNA合成機モデル380A(ABI社製)等を用いることができる。
次に、PCRを用いて本発明の遺伝子の発現制御領域を調製する方法について説明する。鋳型とするゲノムライブラリーは、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition (1989、Cold Spring Harbor Laboratory Press) 」等に記載されている方法に準じてヒト、マウス等の哺乳動物の組織から調製することができる。また、ヒトゲノムDNA(クローンテック製)等の市販のゲノムDNAや、ヒトゲノムウォーカーキット(クローンテック製)等の市販ゲノムライブラリーを用いることができる。次いで、増幅させるプロモーターに対応したプライマーを用いてPCRを行う。前記のようにして増幅されたDNAは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons,Inc.ISBN0-471-50338-X等に記載される通常の方法に準じてベクターにクローニングすることができる。具体的には例えばInvitrogen製のTAクローニングキットに含まれるプラスミドベクターやStratagene製のpBluescriptIIなどのプラスミドベクターを用いてクローニングすることができる。クローニングされたDNAの塩基配列は、F.Sanger,S.Nicklen,A.R.Coulson著、Proceedings of National Academy of Science U.S.A.(1977),74,5463-5467等に記載されるダイデオキシターミネーティング法などにより分析することができる。
【0034】
次に、ハイブリダイゼーション法を用いて本発明の遺伝子の発現制御領域を調製する方法について説明する。
まず、プローブに用いるDNAを標識する。プローブに用いるDNAとしては、調製しようとするプロモーターの塩基配列の少なくとも一部を有するDNA、例えば本発明の遺伝子の開始メチオニンの5'上流5kbpで示される塩基配列もしくはその連続した一部の塩基配列からなるDNAであってその鎖長が20塩基以上160塩基以下であるDNA、前記DNAの塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなるDNA、前記DNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズするDNA等を挙げることができる。
具体的には、本発明の遺伝子の、開始メチオニンの5'上流1kbpから2kbpで示される塩基配列からなるDNAをあげることが出来る。
プローブに用いる前記DNAは、例えば、化学合成法、PCR、ハイブリダイゼーション法等、前述した通常のDNAの調製方法によって得ることができる。
なお、プローブに用いる前記DNAは、それ自身が配列番号2、4又は6で示されるアミノ酸配列を有するSOX5、SOX6又はSOX13をコードする遺伝子の転写を制御する能力を有していても良い。
プローブに用いる前記DNAを放射性同位元素により標識するには、例えば、ベーリンガー製、宝酒造製のRandom Labelling Kit等を用いることができ、通常のPCR反応組成中のdCTPを[α−32P]dCTPに替えて、プローブに用いる前記DNAを鋳型にしてPCR反応を行うことにより、標識を行うこともできる。また、プローブに用いるDNAを蛍光色素で標識する場合には例えば、ECL Direct Nucleic Acid Labelling and Ditection System(Amersham Pharmacia Biotech製)等を用いることができる。プローブをハイブリダイズさせるDNAライブラリーとしては、例えば、ラットなどのげっ歯類等の動物由来のゲノムDNAライブラリー等を使用することができる。当該DNAライブラリーには、市販のゲノムDNAライブラリーを用いることもできるし、また「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Pressや「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.ISBN0-471-50338-X等に記載される通常のライブラリー作製法に従い、例えば、Stratagene製のλ FIX II、λEMBL3、λEMBL4、λDASH II等のλベクターを用い、Gigapack packaging Extracts(Stratagene製)等をin vitroパッケージングに用いてゲノムDNAライブラリーを作製し、これを用いることもできる。
【0035】
ハイブリダイゼーション方法としては、コロニーハイブリダイゼーションやプラークハイブリダイゼーションをあげることができ、ライブラリーの作製に用いられたベクターの種類に応じて方法を選択するとよい。例えば、使用されるライブラリーがプラスミドベクターで構築されたライブラリーである場合には、コロニーハイブリダイゼーションを行うことができる。具体的にはまず、ライブラリーのDNAを宿主微生物に導入して形質転換細胞を取得し、得られた形質転換細胞を希釈して寒天培地にまき、コロニーが現れるまで37℃で培養を行う。また、使用されるライブラリーがファージベクターで構築されたライブラリーである場合には、プラークハイブリダイゼーションを行うことができる。具体的にはまず、宿主微生物とライブラリーのファージを感染可能な条件下で混合した後さらに軟寒天培地と混合し、これを寒天培地上にまく。その後プラークが現れるまで37℃で培養を行う。より具体的には、例えば、Molecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook, E.F.Frisch, T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989年)2.60から2.65等に記載されている方法に準じて、NZY寒天培地に寒天培地1mm2当り0.1〜1.0pfuの密度で、約9.0X105pfuのファージライブラリーを広げ、37℃で6〜10時間培養する。
【0036】
次いで、前記のいずれのハイブリダイゼーション法を用いた場合も、前述の培養を行った寒天培地の表面にメンブレンフィルターをのせ、プラスミドを保有する形質転換細胞やファージを当該メンブレンフィルターに転写する。このメンブレンフィルターをアルカリ処理した後、中和処理し、次いで、DNAを当該フィルターに固定する処理を行う。より具体的には例えば、プラークハイブリダイゼーションの場合には、クローニングとシークエンス:植物バイオテクノロジー実験マニュアル(渡辺、杉浦編集、農村文化社1989年)等に記載の通常の方法に準じて、前記寒天培地の上にニトロセルロースフィルター又はナイロンフィルター等、例えば、Hybond−N+(Amersham Pharmacia Biotech製)を置き、約1分間静置してファージ粒子をメンブレンフィルターに吸着させる。次に、当該フィルターをアルカリ溶液(1.5M塩化ナトリウム、0.5N水酸化ナトリウム)に約3分間浸してファージ粒子を溶解させてファージDNAをフィルター上に溶出させた後、中和溶液(1.5M塩化ナトリウム、0.5Mトリス塩酸、pH7.5)に約5分間浸す処理を行う。当該フィルターを洗浄溶液(300mM塩化ナトリウム、30mMクエン酸ナトリウム、200mMトリス塩酸)で約5分間洗った後、例えば、約80℃で約90分間ベーキングすることによりファージDNAをフィルターに固定する。このように調製されたフィルターと、前記プローブとを用いてハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーションを行う際の試薬及び温度条件は、例えば、D.M.Glover編「DNA cloning, a practical approach」 IRL PRESS(1985) ISBN 0−947946−18−7、クローニングとシークエンス:植物バイオテクノロジー実験マニュアル(渡辺、杉浦編集、農村文化社1989年)、または、Molecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)等の記載の方法に準じて行うことができる。例えば、450〜900mMの塩化ナトリウム、45〜90mMのクエン酸ナトリウムを含み、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1〜1.0%(W/V)の濃度で含み、変性した非特異的DNAを0〜200μg/mLの濃度で含み、場合によってはアルブミン、フィコール、ポリビニルピロリドン等をそれぞれ0〜0.2%(W/V)の濃度で含んでいてもよいプレハイブリダイゼーション溶液、好ましくは、900mMの塩化ナトリウム、90mMのクエン酸ナトリウム、1%(W/V)のSDSおよび100μg/mLの変性Calf−thymus DNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液を、前記のようにして作製したフィルター1cm2当り50〜200μLの割合で準備し、当該溶液に前記フィルターを浸して42〜68℃で1〜4時間、好ましくは、45℃で2時間保温する。次いで、例えば、450〜900mMの塩化ナトリウム、45〜90mMのクエン酸ナトリウムを含み、SDSを0.1〜1.0%(W/V)の濃度で含み、変性した非特異的DNAを0〜200μg/mLの濃度で含み、場合によってはアルブミン、フィコール、ポリビニルピロリドン等をそれぞれ0〜0.2%(W/V)の濃度で含んでいてもよいハイブリダイゼーション溶液、好ましくは、900mMの塩化ナトリウム、90mMのクエン酸ナトリウム、1%(W/V)のSDSおよび100μg/mLの変性Calf−thymus DNAを含むハイブリダイゼーション溶液と、前述の方法で調製して得られたプローブ(フィルター1cm2当り1.0X104〜2.0X106cpm相当量)とを混合した溶液をフィルター1cm2当り50〜200μLの割合で準備し、当該溶液にフィルターを浸し42〜68℃で4〜20時間、好ましくは、45℃で16時間保温しハイブリダイゼーション反応を行う。当該ハイブリダイゼーション反応後、フィルターを取り出し、15〜300mMの塩化ナトリウム、1.5〜30mMのクエン酸ナトリウム、および0.1〜1.0%(W/V)のSDS等を含む42〜68℃の洗浄溶液等、好ましくは、300mMの塩化ナトリウム、30mMのクエン酸ナトリウム、および1%(W/V)のSDSを含む55℃の洗浄溶液で、10〜60分間のフィルター洗浄を1〜4回、好ましくは15分間の洗浄を2回行う。さらに、フィルターを2XSSC溶液(300mM塩化ナトリウム、および30mMクエン酸ナトリウムを含む。)で軽くすすいだのち乾燥させる。このフィルターを、例えば、オートラジオグラフィーなどに供してフィルター上のプローブの位置を検出することにより、用いたプローブとハイブリダイズするDNAのフィルター上の位置を検出する。検出されたDNAのフィルター上の位置に相当するクローンをもとの寒天培地上で特定しこれを釣菌することにより、当該DNAを有するクローンを単離することができる。具体的には例えば、フィルターをイメージングプレート(富士フィルム)に4時間露光させ、次いで当該プレートをBAS2000(富士フィルム)を用いて解析し、シグナルを検出する。フィルターの作製に用いた寒天培地のうち、シグナルが検出された位置に相当する部分を約5mm角にくり抜き、これを約500μLのSMバッファー(50mMトリス−塩酸pH7.5、0.1M塩化ナトリウム、7mM硫酸マグネシウム、および0.01%(W/V)ゼラチンを含む。)に2〜16時間、好ましくは3時間浸してファージ粒子を溶出させる。得られたファージ粒子溶出液をMolecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)2.60から2.65に記載の方法に準じて寒天培地に広げ、37℃で6〜10時間培養する。この寒天培地を用いて前述の方法と同様の方法でファージDNAをフィルターに固定し、このフィルターと前述のプローブを用いてハイブリダイゼーションを行う。フィルターの作製に用いた寒天培地のうちの、シグナルが検出された位置に相当する部分からファージ粒子を溶出し、これを寒天培地に広げ、前述の方法と同様にフィルターを作製し、ハイブリダイゼーションを行う。このようなファージクローンの特定と純化を繰り返すことにより、用いたプローブとハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを含むファージクローンが得られる。前述のようなハイブリダイゼーションによるスクリーニングを行うことにより得られたクローンの保有するDNAは、DNA調製や解析が容易なプラスミドベクター、例えば市販のpUC18、pUC19、pBLUESCRIPT KS+、pBLUESCRIPT KS- 等にサブクローニングして、プラスミドDNAを調製し、F.Sanger,S.Nicklen,A.R.Coulson著、Proceedings of National Academy of Science U.S.A.(1977),74,5463-5467等に記載されるダイデオキシターミネーティング法を用いてその塩基配列を決定することができる。塩基配列分析に用いる試料の調製は、例えば、Molecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)13.15等に記載されているプライマーエクステンション法に準じて行うことができる。また、ファージクローンをMolecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)2.60から2.65等に記載の方法に準じてNZYM液体培地で増幅し、ファージ液を調製して、これから例えば、Lambda-TRAPPLUS DNA Isolation Kit(Clontech製)等を用いてファージクローンDNAを抽出し、当該DNAを鋳型として、例えば、前述のプライマーエクステンション法により塩基配列分析用の試料を調製し、塩基配列を分析することもできる。このようにして得られるDNAの、配列番号2、4又は6で示されるアミノ酸配列を有するSOX5、SOX6又はSOX13をコードする遺伝子の転写を制御する能力を後述のようにして確認することもできる。尚、本願において「転写を制御する能力」とは、例えば、プロモーターの下流に位置する遺伝子の転写を開始させる活性等を意味する(以下、プロモーター活性と記すこともある。)。
【0037】
SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の発現制御領域は、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の開始メチオニンの5'上流5kbpで示される塩基配列もしくはその連続した一部の塩基配列からなるDNAを含むプロモーター等に変異を導入することによって作製しても良い。具体的には、例えば、A.Greener,M.Callahan、Strategies(1994)7,32-34等に記載される方法を用いてランダムに変異を導入することによって取得することができ、W.Kramer,et al.、Nucleic Acids Research(1984)12,9441もしくはW.Kramer,H.J.Frits、Methods in Enzymology(1987)154,350等に記載のギャップド・デュープレックス(gapped duplex)法、またはT.A.Kunkel、Proc. of Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1985)82,488もしくはT.A.Kunkel,et al.、Methods in Enzymology(1987)154,367等に記載のクンケル(Kunkel)法を用いて部位特異的に変異を導入することによって取得することができる。あるいは、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の開始メチオニンの5'上流5kbpで示される塩基配列からなるDNAを含むプロモーター等のうち1ヶ所ないし数カ所の部分塩基配列を、他のプロモーターのDNAの一部と入れ換えたキメラDNAを作製することによって取得することができ、例えば、S.Henikoff,et al.、Gene(1984)28,351、C.Yanisch-Perron, et al.、Gene(1985)33,103等に記載された方法を用いることができる。
【0038】
前記の種々の方法で調製されるSOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の発現制御領域を、通常の方法、例えば、「田村隆明著(羊土社刊)、新転写制御のメカニズム(2000年)」33〜40頁、「野村慎太郎、渡辺俊樹監修著(秀潤社刊)、脱アイソトープ実験プロトコール(1998年)」等に記載された方法に準じて、プロモーター活性を維持したまま、その一部分の塩基を欠失させて得られる(即ち、適当な制限酵素を用いて切り出すことにより調製される)DNAもSOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の発現制御領域として使用することができる。得られたDNAの、配列番号2、4又は6で示されるアミノ酸配列を有するSOX5、SOX6又はSOX13をコードする遺伝子の転写を制御する能力は後述する方法により確認することができる。
【0039】
本発明の遺伝子の発現制御領域を挿入するためのプラスミドとしては、所望の細胞内で機能可能なプラスミドであれば良く、当該プラスミドが導入された細胞を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、G418耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子等)を含んでいてもよい。また、前記プラスミドにおいて、本発明の遺伝子の発現制御領域および所望の遺伝子がプラスミド上で機能可能な形で連結されるような位置、例えば当該プロモーターを挿入する部位の下流に遺伝子挿入部位がさらに有ると、所望の遺伝子を細胞内で発現させるためのプラスミドの構築等に好ましく利用できる。ここで遺伝子挿入部位とは、例えば、遺伝子工学的手法で通常用いられる制限酵素が特異的に認識切断可能な塩基配列であり、本発明の遺伝子の発現制御領域を有するプラスミド上に唯一存在する種類の制限酵素認識配列が好ましい。当該プラスミドとして具体的には、例えば、pUC系プラスミド[pUC118,pUC119(宝酒造製)など]、pSC101系プラスミド、pBR322プラスミド(Boehringer Mannheim製)、pcDNA3プラスミド(Invitrogen製)等が挙げられる。
本発明の遺伝子の発現制御領域の前記プラスミドへの挿入は、通常の方法、例えば「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.ISBN0−471−50338−X等に記載される方法に準じて行うことができる。
【0040】
前記の本発明の遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含む形質転換細胞の調製方法について以下に説明する。
【0041】
まず本発明の遺伝子の発現制御領域を、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ及びグリーン蛍光蛋白質(GFP)等のレポーター遺伝子(その発現を解析することができる遺伝子)に機能可能な形で連結することにより、本発明の遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を調製する。ここで「機能可能な形で連結する」とは、ある遺伝子と一つまたはそれ以上の調節配列とが、適した外来性のシグナル又は因子が調節配列に結合した時に遺伝子発現が可能となるような様式で連結することを意味する。次に、本発明の遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入することにより、プラスミドを作製する。当該プラスミドの調製には、レポーター遺伝子を含む市販のプラスミドを使用することができる。レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合、例えば、pGL3-basic(Promega製)、PicaGene Basic Vector(東洋インキ製)等のプラスミドが例示される。
具体的には、pGL3−basic等の遺伝子挿入部位に通常の方法により本発明の遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で挿入することにより、本発明の遺伝子の発現制御領域の制御下にレポーター遺伝子を含むプラスミドを作製することができる。
次いで、前記プラスミドを細胞へ導入する。SOX5遺伝子、SOX6遺伝子又はSOX13遺伝子の発現制御領域を導入ことができる。ここで用いられる宿主細胞としては、大腸菌、酵母、植物細胞、動物細胞等の細胞を挙げることができ、本発明の遺伝子の発現制御領域が細胞内で増幅可能な形態を保てる細胞であればよい。好ましくは動物細胞、特に好ましくは膵臓組織から調製した膵臓細胞を挙げることができる。本発明の遺伝子の発現制御領域の宿主細胞への導入法としては、細胞に応じた導入方法を適用することができ、例えば、リン酸カルシウム法、電気導入法、DEAEデキストラン法、ミセル形成法等を挙げるリン酸カルシウム法としてはGrimm, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 10923-10927等に記載される方法、電気導入法及びDEAEデキストラン法としてはTing, A. T. et al., EMBO J., 15, 6189-6196等に記載される方法、ミセル形成法としてはHawkins, C. J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 13786-13790等に記載される方法を挙げることができる。ミセル形成法を用いる場合には、リポフェクトアミン(ギブコ製)やフュージーン(ベーリンガー製)等の市販の試薬を利用するとよい。
【0042】
前記〔9〕に記載されているとおり、本発明は、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能を指標として、インスリン分泌促進能力を評価する方法を提供する。
ここで、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能としては、前記〔10〕に記載のインスリン分泌量を測定する方法、又は前記〔11〕に記載のインスリンプロモーター転写活性の抑制能力が挙げられる。
【0043】
すなわちインスリン分泌抑制能力は、本発明の3遺伝子を発現し、かつインスリン分泌可能な細胞における、インスリン分泌量、インスリン遺伝子もしくはインスリンの発現量、又はインスリン遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞における当該レポーター遺伝子の発現量を指標として測定することができる。
ここで用いられる細胞としては、上述の方法で本発明の遺伝子が導入された膵臓組織から調製した膵アイレット細胞を挙げることができる。また、細胞の集合体である組織(例えば膵臓組織片)も、ここで用いられ得る「細胞」の範疇に含まれる。由来動物種としては、ラット、マウス、モルモット等のげっ歯類哺乳動物、イヌ、サル、ヒト等が挙げられる。例えば、ラット膵臓細胞は当業者に公知のコラゲナーゼ潅流法を用いて単離することができる(Mol. Cell. Biochem. 37, 43-61;1981)。
【0044】
インスリン遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される方法に準じてインスリン遺伝子を含むプラスミドから、プロモーター活性を維持している発現制御領域を含む部分配列を、適当な制限酵素を用いて切り出し、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。
レポーター遺伝子としては、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ及びグリーン蛍光蛋白質(GFP)等が挙げられる。
調製したインスリン遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を有する形質転換細胞の調製及びレポーター遺伝子の発現量を測定する方法については、上記〔8〕の場合と同様である。
【0045】
インスリン遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNA又はそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法で実施できる。これについては、上記〔6〕の場合と同様に行えばよい。
また、インスリンの発現レベルの検出及び定量は、インスリンを認識する抗体(以下インスリン抗体と称する場合がある)を用いたウェスタンブロット法等の公知方法に従って定量できる。これについては、上記〔7〕の場合と同様に行えばよい。
【0046】
インスリン分泌量の定量は、グルコース濃度依存的なインスリン分泌量を測定する公知方法に従って行うことが出来る。例えば、SOX5、SOX6及び/又はSOX13遺伝子を含有することでインスリン分泌量が低下している細胞を30分間から3時間、より好ましくは1時間、低グルコース溶液(0から8mM、より好ましくは4mM)若しくは高グルコース溶液(10から50mM、より好ましくは30mM)中に静置する。その後、当該溶液中のインスリン量を市販のインスリン測定キットを用いて測定することで、インスリン分泌量の定量を行うことが出来る。市販のインスリン測定キットとして、例えばレビス インスリン−ラット-T(シバヤギ社製)や超高感度ラットインスリン測定キット(モリナガ社製)をあげることが出来る。
【0047】
前記〔6〕〜〔13〕に記載の評価方法において、被験物質となりえるものとしては、特に制限されないが、核酸(SOX5、SOX6及び/又はSOX13遺伝子のアンチセンス核酸、siRNAを含む)、ペプチド、蛋白質(SOX5、SOX6及び/又はSOX13に対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などが挙げられる。スクリーニングは、具体的にはこれらの候補物質となり得る物質を被験物質として含む試料(被験試料)を上記組織/または細胞と接触させて行うことができる。かかる被験試料としては細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられる。
前記〔6〕〜〔13〕に記載の評価方法において、「被験物質を接触させない対照細胞」とは、被験物質の代わりに、対照、すなわちブランク(例えば、被験物質を溶解させるために用いる溶媒のみを用いる場合等が挙げられる)、又は、ネガティブコントロールもしくはポジティブコントロール等の基準物質となり得る物質を接触させる場合を表す。
本発明の評価方法において、被験物質を接触させた細胞における測定値と対照細胞における測定値とを、比較する場合には、対照としてインスリン分泌促進能力を有さない物質(例えば、溶媒、バックグランドとなる試験系溶液等のネガティブコントロールであってもよい。)を用いることにより、被験物質が有するインスリン分泌促進能力を評価してもよいし、対照として、インスリン分泌促進能力を有する基準物質(すなわちポジティブコントロール)における測定値を基準としながら被験物質が有するインスリン分泌促進能力を評価してもよい。対照細胞における測定値として、ネガティブコントロールもしくブランク及びポジティブコントロールの両方を用いて評価することも、本発明の態様に含まれる。
より具体的には、例えば、対照としてネガティブコントロールを用いた場合には、下記の式に従ってインスリン分泌促進能力(インスリン分泌活性化率)を求めるとよい。

インスリン分泌促進率(%)={測定(被験物質)値−対照(ネガティブコントロール)値}x100/対照(ネガティブコントロール)値

そして算出されたインスリン分泌促進率によりインスリン分泌促進能力を評価すればよい。
また、被験物質の存在下における測定値、すなわちインスリン分泌促進活性が、ネガティブコントロールの存在下(被験物質非存在下)における測定値と比較して1.5倍以上、好ましくは2倍以上、更に好ましく3倍以上であれば、該被験物質はSOX5、SOX6もしくはSOX13のインスリンの分泌を抑制する能力を阻害する薬剤、すなわちインスリン分泌促進薬の候補物質として選択することができる。
【0048】
本発明の評価方法及び探索方法によって選別されるSOX5、SOX6又はSOX13の発現もしくは機能を抑制する物質の中から、さらにII型糖尿病(インスリン抵抗性糖尿病)等のインスリン分泌の異常を伴う疾患の治療薬又は予防薬の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を選別する方法としては、従来公知である如何なる選別方法をも用いることができる。代表的な方法として、例えばラットやマウス等のげっ歯類モデル動物を用いたインスリン負荷試験、ブドウ糖負荷試験を挙げることができる。
【0049】
本発明は、SOX5、SOX6又はSOX13の発現又は機能を阻害する能力を有する物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、インスリン分泌促進薬を提供する。すなわち、SOX5、SOX6又はSOX13の発現又は機能を阻害する能力を有する物質またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物は、インスリン分泌促進薬として有用であり、その有効量を経口的または非経口的にヒト等の哺乳動物に対し投与することができる。例えば、経口的に投与する場合には、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の通常の形態で使用することができる。また、非経口的に投与する場合には、本発明インスリン分泌促進剤を溶液、乳剤、懸濁液等の通常の液剤の形態で使用することができる。前記形態の本発明インスリン分泌促進剤を非経口的に投与する方法としては、例えば注射する方法、坐剤の形で直腸に投与する方法等を挙げることができる。
前記の適当な投与剤型は許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤等にSOX5、SOX6及び/又はSOX13の転写、発現及び/又は機能を阻害する能力を有する物質またはその薬学的に許容される塩を配合することにより製造することができる。また注射剤型で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
投与量は、投与される哺乳動物の年令、性別、体重、疾患の程度、本インスリン分泌促進剤の種類、投与形態等によって異なるが、通常は経口の場合には成人で1日あたり有効成分量として約1mg〜約2g、好ましくは有効成分量として約5mg〜約1gを投与すればよく、注射の場合には成人で有効成分量として約0.1mg〜約500mgを投与すればよい。また、前記の1日の投与量を1回または数回に分けて投与することができる。
【0050】
又、本発明のSOX5、SOX6又はSOX13の発現又は機能を抑制する物質が核酸又は蛋白質である場合、遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。これらの場合も、投与量、投与方法は患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
上記遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えば核酸またはそれらの化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはこれらの遺伝子を患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
【0051】
ここで前記化学修飾体としては、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36, 1923-1937, (1993)) が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
【0052】
上記核酸又はその化学修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
上記核酸又はその化学修飾体を患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるポリヌクレオチドは、SOX5遺伝子、SOX6遺伝子もしくはSOX13遺伝子の発現抑制活性を有する蛋白質を発現するもの、又はSOX5遺伝子、SOX6遺伝子もしくはSOX13遺伝子のアンチセンス核酸が好ましい。また、この方法は、生体内の細胞に遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞に遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
【0053】
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムに核酸を組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
【0054】
遺伝子治療用製剤組成物は、核酸又はこれを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、核酸を含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)-リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、本遺伝子を含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、患者成人1人当たり約0.0001-100mg、好ましくは約0.001-10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。本遺伝子を含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1x103pfu-1x1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。本遺伝子を導入した細胞の場合は、1x104細胞/body-1x1015細胞/body程度を投与すればよい。
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
実施例1 ヒト由来のSOX6のクローニング
Human Testis Marathon−Ready cDNA (CLONTECH社)1μL、配列番号7で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、配列番号8で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ(宝酒造社)2U、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、更に72℃で2分間からなる保温サイクルを30回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約2.5kbpを示すPCR産物を回収した。回収されたPCR産物をpT7−Blue vector(Novagen社)にサブクローニングした後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からQIAGEN Plasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、配列番号3で示されるヒト由来のhSOX6の塩基配列を含むプラスミドを得た。
【実施例2】
【0056】
実施例2 マウス由来のSOX6のクローニング
Mouse Testis Marathon−Ready cDNA(CLONTECH社)1μL、配列番号9で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、配列番号10で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ(宝酒造社)2U、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、更に72℃で2分間からなる保温サイクルを30回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約2.5kbpを示すPCR産物を回収した。回収されたPCR産物をpT7−Blue vector(Novagen社)にサブクローニングした後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からQIAGEN Plasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、配列番号11で示されるマウス由来のmSOX6の塩基配列を含むプラスミドを得た。
【実施例3】
【0057】
実施例3 ヒト由来のSOX5のクローニング
Human Testis Marathon−Ready cDNA (CLONTECH社)1μL、配列番号12で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、配列番号13で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ(宝酒造社)2U、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、更に72℃で2分間からなる保温サイクルを30回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約2.5kbpを示すPCR産物を回収した。回収されたPCR産物をpT7−Blue vector(Novagen社)にサブクローニングした後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。当該形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からQIAGEN Plasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、配列番号1で示されるヒト由来の本遺伝子(hSOX5)の塩基配列を含むプラスミドを得た。
【実施例4】
【0058】
実施例4 マウス由来のSOX13のクローニング
Human Testis Marathon−Ready cDNA (CLONTECH社)1μL、配列番号14で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、配列番号15で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ(宝酒造社)2U、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、更に72℃で2分間からなる保温サイクルを30回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約2.5kbpを示すPCR産物を回収した。回収されたPCR産物をpT7−Blue vector(Novagen社)にサブクローニングした後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。当該形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からQIAGEN Plasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、配列番号16で示されるマウス由来の本遺伝子(mSOX13)の塩基配列を含むプラスミドを得た。
【実施例5】
【0059】
実施例5 pcDNA3/ヒトSOX6の構築
実施例1で得られたヒトSOX6遺伝子を含むプラスミド5μgをEcoRI 5U及びScaI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。一方、pcDNA3 (Invitrogen社)5μgをEcoRI 5U及びEcoRV 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。上記の両酵素反応物をそれぞれアガロースゲル電気泳動に供して、目的とするDNAを切り出した。切り出されたDNAをQIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。精製されたヒト由来の本遺伝子断片、pcDNA3の消化物をそれぞれ水20μLに溶解した。ヒト由来のSOX6断片2μLとpcDNA3消化物の水溶液0.5μLとを混合した後、DNA ligation kit Ligation High(東洋紡社)を用いて16℃で1時間ライゲーション反応した。反応後、当該ライゲーション反応液5μL及びE.coliJM109株(東洋紡社)コンピテントセルを用いた通常の方法により、E.coliJM109形質転換細胞を得た。当該形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からPlasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、ヒト由来のSOX6をCMVプロモーターの制御下に置いたプラスミドpcDNA3/hSOX6を得た。
【実施例6】
【0060】
実施例6 pcDNA3/マウスSOX6の構築
実施例2で得られたマウスSOX6を含むプラスミド5μgをEcoRI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。一方、pcDNA3(Invitrogen社)5μgをEcoRI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。上記の両酵素反応物をそれぞれアガロースゲル電気泳動に供して、目的とするDNAを切り出した。切り出されたDNAをQIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。精製されたヒト由来の本遺伝子断片、pcDNA3の消化物をそれぞれ水20μLに溶解した。ヒト由来の本遺伝子断片2μLとpcDNA3消化物の水溶液0.5μLとを混合した後、DNA ligation kit Ligation High(東洋紡社)を用いて16℃で1時間ライゲーション反応した。反応後、当該ライゲーション反応液5μL及びE.coliJM109株(東洋紡社)コンピテントセルを用いた通常の方法により、E.coliJM109形質転換細胞を得た。当該形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からPlasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、マウス由来のSOX6をCMVプロモーターの制御下に置いたプラスミドpcDNA3/mSOX6を得た。
【実施例7】
【0061】
実施例7 pcDNA3/ヒトSOX5の構築
実施例3で得られたヒトSOX5を含むプラスミド5μgをEcoRI 5UとNotI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。一方、pcDNA3 (Invitrogen社)5μgをEcoRI 5UとNotI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。上記の両酵素反応物をそれぞれアガロースゲル電気泳動に供して、目的とするDNAを切り出した。切り出されたDNAをQIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。精製されたヒト由来の本遺伝子断片、pcDNA3の消化物をそれぞれ水20μLに溶解した。ヒト由来の本遺伝子断片2μLとpcDNA3消化物の水溶液0.5μLとを混合した後、DNA ligation kit Ligation High(東洋紡社)を用いて16℃で1時間ライゲーション反応した。反応後、当該ライゲーション反応液5μL及びE.coliJM109株(東洋紡社)コンピテントセルを用いた通常の方法により、E.coliJM109形質転換細胞を得た。当該形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からPlasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、ヒト由来のSOX5をCMVプロモーターの制御下に置いたプラスミドpcDNA3/hSOX5を得た。
【実施例8】
【0062】
実施例8 pcDNA3/マウスSOX13の構築
実施例4で得られたマウスSOX13を含むプラスミド5μgをEcoRI 5UとNotI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。一方、pcDNA3(Invitrogen社)5μgをEcoRI 5UとNotI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。上記の両酵素反応物をそれぞれアガロースゲル電気泳動に供して、目的とするDNAを切り出した。切り出されたDNAをQIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。精製されたヒト由来の本遺伝子断片、pcDNA3の消化物をそれぞれ水20μLに溶解した。ヒト由来の本遺伝子断片2μLとpcDNA3消化物の水溶液0.5μLとを混合した後、DNA ligation kit Ligation High(東洋紡社)を用いて16℃で1時間ライゲーション反応した。反応後、当該ライゲーション反応液5μL及びE.coliJM109株(東洋紡社)コンピテントセルを用いた通常の方法により、E.coliJM109形質転換細胞を得た。当該形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からPlasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、マウス由来のSOX13をCMVプロモーターの制御下に置いたプラスミドpcDNA3/mSOX13を得た。
【実施例9】
【0063】
実施例9 pGL3/rInspの構築
ラットゲノムライブラリー(BD Biosciences社)1μL、配列番号17で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、配列番号18で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ(宝酒造社)2U、TaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex−Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで50℃で30秒間、更に72℃で1分間からなる保温サイクルを30回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約0.5kbpを示すPCR産物を回収した。次いで回収されたPCR産物をKpnI、SmaIで消化した後、消化物をpGL3−basic(Promega社)のKpnI、XhoIにサブクローニングした。その後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。当該形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からPlasmid Maxi kitを用いて分離・精製することにより、ラットインスリン遺伝子のプロモーター配列を含むレポータープラスミドpGL3/rInspを得た。
【実施例10】
【0064】
実施例10 本発明遺伝子群のインスリンプロモーターへの影響測定
MIN6細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり1.0×104細胞になるように播種した。各ウェルに、15%FBS(Invitrogen社)、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地(Invitrogen社)を添加した後、この状態で当該細胞を37℃、5%二酸化炭素下で一晩培養した。次いで、pGL3/rInsp 12.5ngとベータガラクトシダーゼ遺伝子を含んだベクターpCMV/LacZ(Invitrogen社)12.5ngとpcDNA3/hSOX6若しくはmSOX6、hSOX5、mSOX13 12.5ngとを混合した混合物に、DMEM培地25μLおよびプラス試薬(Invitrogen社)0.56μLを添加し、これを混合し、15分間室温で放置した。当該混合液に0.5μLのリポフェクトアミン試薬(Invitrogen社)を含む25uL DMEM培地を添加し、更に15分間室温で放置した。当該混合液を96ウェルプレート1ウェル分のトランスフェクション用DNA液とした。このDNA液を前記の培養された細胞に添加した後、さらに当該細胞を2日間培養した。培養後、当該細胞が有するホタル・ルシフェラーゼ活性をBlight−Glo luciferase assay kit(Promega社)によって、ベータガラクトシダーゼ活性をLuminescent beta−galactosidase Detection Kit II(BD Biosciences社)によって測定した。ホタル・ルシフェラーゼ活性測定値(測定値A)、ベータガラクトシダーゼ活性測定値(測定値B)とし、測定値Aを測定値Bで除した値(A/B値)を算出した後、各細胞のA/B値を対照細胞のA/B値で除して、各細胞の相対ルシフェラーゼ活性(相対値)を算出した。ここで対照細胞とは、pcDNA3/hSOX6もしくはmSOX6、hSOX5、mSOX13の代わりにpcDNA3(対照:本遺伝子を含まない、CMVプロモーター含有プラスミド)を同様の方法で、トランスフェクションした細胞を意味する。その結果を図1に示す。図1から明らかなように、哺乳動物のβ細胞内において、本遺伝子群:mSOX5遺伝子、mSOX6遺伝子及びmSOX13遺伝子が転写され、そして本蛋白質群:SOX5、SOX6及びSOX13が発現されることにより、インスリンプロモーターを利用したレポーター遺伝子の発現量が低下している。これは本蛋白質群(又は本遺伝子群)がインスリン産生を減少させる能力を有することを示している。
【実施例11】
【0065】
実施例11 本発明遺伝子群を含有するレトロウイルスの作製
(11−1) ヒト由来のhSOX6を含有するpMXの構築
実施例5記載のプラスミドpcDNA3/hSOX6 1μgをEcoRI 5U及びXhoI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。一方、pMX 1μgをEcoRI 5U及びSalI 5Uを用いて20μLの反応液中で37℃で1時間消化した。上記の両酵素反応物をそれぞれアガロースゲル電気泳動に供して、目的とするDNAを切り出した。切り出されたDNAをQIAEXII Gel Extraction Kitを用いて精製した。精製されたDNA、即ちヒト由来の本遺伝子(hSOX6)のDNA断片及びpMX消化物をそれぞれ水15μLに溶解した。ヒト由来の本遺伝子(hSOX6)のDNA断片の水溶液2μLとpMX消化物の水溶液0.5μLとを混合した後、これをDNA ligation kit Ligation Highを用いて16℃で1時間ライゲーション反応した。反応後、当該ライゲーション反応液5μL及びE.coliJM109株コンピテントセルを用いた通常の方法により、E.coliJM109形質転換細胞を得た。得られたE.coliJM109形質転換細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からPlasmid Maxi kitを用いて分離・精製することにより、pMX/hSOX6を得た。
(11−2) ヒト由来のhSOX6のレトロウイルス溶液の作製
293細胞(ATCC社)をFalcon3002培養皿(BD Biosciences社)に一皿あたり2.0×106細胞ずつ播種した。10%FBSが添加されたDMEM培地を用い、37℃で5%二酸化炭素存在下一晩培養した。次いで、FuGENE6(ベーリンガーマンハイム社)6μLとDMEM培地100μLとを混合し、これを5分間放置した。5分後、当該混合物に上記(9−1)で得られたpMX−hSOX6 3μgを混合し、これを15分間放置した。15分後、当該混合物をFalcon3002培養皿1枚分のトランスフェクション用DNA液として、当該DNA液を前記293細胞に添加し、さらに3晩培養した後、上清を回収した。回収された上清を0.45μmフィルターを用いて濾過することにより、ヒト由来のhSOX6のレトロウイルス溶液を得た。
(11−3) ヒト由来のhSOX6のレトロウイルスによる感染
3.0×105個のMIN6細胞をPRIMARIA組織培養用フラスコ(BD Biosciences社)で、10μg/mLのポリブレン(シグマ社)を含む上記(11−2)で得られたヒト由来の本遺伝子(hSOX6)のレトロウイルス溶液1.5mL中で37℃、5時間培養した。5時間後に溶液を除き、15%FBS、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地 3mL中で37℃、2晩培養した細胞をヒト由来のhSOX6が導入されたMIN6細胞とした。
mSOX6、hSOX5、mSOX13が導入された細胞も上記した方法で得た。
【実施例12】
【0066】
実施例12 MIN6細胞を用いた本発明遺伝子群のインスリン分泌への影響測定
(12−1)本発明遺伝子群を発現上昇させたMIN6細胞のインスリン分泌への影響
実施例11で得られた細胞を播種し(0.5×105個/ウェル、24ウェルプレート)、15%FBS、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地中で2日間培養した。2日後に、細胞を、0.1%の牛血清アルブミン(BSA)を含有するHEPES平衡Krebs−Ringer重炭酸塩緩衝液(KRBB:129mMの塩化ナトリウム、4.7mMの塩化カリウム、2.0mMの塩化カルシウム、1.2mMの硫酸マグネシウム、1.2mMのリン酸二水素カリウム、5mMの炭酸水素ナトリウム、及び10mMのHEPES、pH7.4)(BSA−KRBB)で一回洗浄した。同じ緩衝液中で細胞を37℃、1時間保温した後、細胞を種々濃度のグルコースを含有するBSA−KRBB中で1時間保温した。1時間後、BSA−KRBBの一部を用いて、レビスインスリン測定キット(シバヤギ社)により実施例11で得られた細胞のインスリン分泌量の測定を行った。同時に、対照細胞についても同様の方法でインスリン分泌量を定量した。ここで対照細胞とは、本発明遺伝子群の代わりにアルカリフォスファターゼ遺伝子を同様の方法で、レトロウイルスを用いて感染させた細胞を意味する。この結果(図2)は本発明遺伝子群はインスリン分泌量を低下させる能力を有することを示す。
(12−2)本発明遺伝子群を発現低下させたMIN6細胞のインスリン分泌への影響
3.0×105個のMIN6細胞に配列番号19、20で示されるマウスSOX6に対するsiRNAを各2.5μgずつHVJ Envelope Vector Kit(石原産業社)を用いて導入した。まず、当該キット添付のHVJ−E 40μLと当該キット添付の試薬A 10μLを混合し、氷上にて5分間静置した。次いで、5μgのsiRNA及び当該キット添付の試薬Bを添加した後、12,000rpm、4℃、5分間遠心分離を行った。上清を除去した後、当該キット添付の緩衝液 30μLに懸濁した。続いて、当該キット添付の試薬C 5μLを添加、混合した後、3.0×105個のMIN6細胞に添加した。翌日、本細胞を播種し(0.5×105個/ウェル、24ウェルプレート)、15%FBS、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地中で2日間培養した。2日後に、細胞を、0.1%の牛血清アルブミン(BSA)を含有するHEPES平衡Krebs−Ringer重炭酸塩緩衝液(KRBB:129mMの塩化ナトリウム、4.7mMの塩化カリウム、2.0mMの塩化カルシウム、1.2mMの硫酸マグネシウム、1.2mMのリン酸二水素カリウム、5mMの炭酸水素ナトリウム、及び10mMのHEPES、pH7.4)(BSA−KRBB)で一回洗浄した。同じ緩衝液中で細胞を37℃、1時間保温した後、細胞を種々濃度のグルコースを含有するBSA−KRBB中で1時間保温した。1時間後、BSA−KRBBの一部を用いて、レビスインスリン測定キット(シバヤギ社)によりsiRNAを導入した細胞のインスリン分泌量の測定を行った。同時に、対照細胞についても同様の方法でインスリン分泌量を定量した。ここで対照細胞とは、SOX6に対するsiRNAの代わりにNon−specific Control Duplex(Darmacon社)を同様の方法で、導入した細胞を意味する。この結果(図3)はマウスSOX6はインスリン分泌量を増加させる能力を有することを示す。hSOX6、hSOX5、mSOX13についても同様の手法で発現低下させたときに、インスリン分泌量が増加することを確認することができる。
【実施例13】
【0067】
実施例13 本発明遺伝子群の転写・発現調節によりインスリン転写及び分泌を調節する能力を有する物質の探索方法
(13−1) RNAの調製
MIN6細胞を1.4×105細胞/mLになるように15%FBS、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地を加えて希釈する。当該希釈液を96ウェルプレート(接着細胞培養用。岩城硝子社)に1ウェルあたり100μLずつ分注し、5%二酸化炭素存在下、37℃にて培養する。2〜3日後、被験物質50μM(被験物質添加区の場合)もしくは0μM(被験物質無添加区の場合)、および0.5%ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記す。)(和光純薬工業社)を含む15%FBS、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地100μLを各ウェルに添加して5%二酸化炭素存在下、37℃にて2日間培養する。被験物質添加区および被験物質無添加区の細胞から以下に示す方法によりtotalRNAを調製する。各ウェルにTRIZOL Reagent(Gibco−BRL社)を1ウェル当たり0.1mL加えて細胞を溶解する。得られた細胞溶解液をエッペンドルフチューブに集め、これに20μLのクロロホルム(関東化学社)を添加する。この混合溶液を15秒間上下に激しく攪拌した後、5分間室温で静置する。次いで、当該混合溶液を4℃、9,000rpm、10分間遠心分離した後、水層を新しいエッペンドルフチューブに回収する。回収された水層に、50μLの2−プロパノール(関東化学社)を添加した後、この混合溶液を混和する。その後、室温で10分間静置する。次いで当該混合溶液を4℃、8,000rpm、10分間遠心分離した後、上清を除去しペレットを得る。得られたペレットを、0.1mLのDEPC処理滅菌蒸留水(和光純薬工業社)で溶解する。得られた溶解液に、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)添付の350μL RLT buffer(10μL β−メルカプトエタノール/mL RLT buffer)を添加し、この混合溶液を混和する。更に、当該混合溶液に250μLのエタノール(関東化学社)を添加し、これを混和する。当該混和液をRNeasy Mini Kit添付のRNeasy Spin Columnに添加し、当該カラムを室温、10,000rpm、15秒間遠心分離した。遠心分離後、当該カラムからの溶出液を再度同じRNeasy Spin Columnに添加し、当該カラムを室温、10,000rpm、15秒間遠心分離する。遠心分離後、当該カラムからの溶出液を捨て、次いで当該カラムにエタノールで4倍希釈したRNeasy Mini Kit添付のRPE bufferを500μL添加し、当該カラムを室温、10,000rpm、15秒間遠心分離する。遠心分離後、当該カラムからの溶出液を捨て、再度当該カラムにエタノールで希釈したRPE bufferを500μL添加し、当該カラムを室温、14,000rpm、2分間遠心分離する。その後、カラムを新しいエッペンドルフチューブに移してRNeasy Mini Kit添付の蒸留水を50μL添加し、これを1分間室温で静置する。静置後、当該チューブを室温、10,000rpm、1分間遠心分離することによって、被験物質添加細胞及び無添加細胞由来のtotal RNAを得ることが出来る。
(13−2)cDNAの調製
上記した方法で得られたtotal RNA 10μg、T7−(dT)24プライマー(Amersham社)100pmolを含む11μLの混合液を、70℃、10分間加熱後、氷上で冷却する。冷却後、当該混合液に、Super Script Choice System for cDNA Synthesis(Gibco−BRL社)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4μL、当該キットに含まれる0.1M DTT 2μL及び当該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLを添加し、この混合液を42℃、2分間加熱する。更に、当該混合液に、当該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μL(400U)を添加し、この混合液を42℃、1時間加熱後、氷上で冷却する。冷却後、当該混合液にDEPC処理滅菌蒸留水91μL、当該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer 30μL、10mM dNTP Mix 3μL、当該キットに含まれるE.coli DNA Ligase 1μL(10U)、当該キットに含まれるE.coli DNA Polymerase I 4μL(40U)及び当該キットに含まれるE.coli RNaseH 1μL(2U)を添加し、この混合液を16℃、2時間反応させる。次いで、当該混合液に当該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μL(10U)を加え、この混合液を16℃、5分間反応させた後、当該混合液に0.5M EDTA・Na 10μLを添加する。次いで、この混合液にフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社)162μLを添加し、混合する。当該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社)に移し、これを室温、14,000rpm、2分間遠心分離する。遠心分離後、145μLの水層をエッペンドルフチューブに回収する。回収された水層に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μL及びエタノール362.5μLを加え混合した後、この混合液を4℃、14,000rpm、20分間遠心分離する。遠心分離後、上清を捨て、DNAペレットを得ることが出来る。その後、DNAペレットに80%エタノール0.5mLを添加する。この混合液を4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨て、DNAペレットを再び得ることが出来る。得られたDNAペレットに再度80%エタノール0.5mLを添加する。この混合液を4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨て、DNAペレットを得る。得られたDNAペレットを乾燥させた後、DEPC処理滅菌蒸留水12μLに溶解することにより、cDNA溶液を得ることができる。
(13−3) 定量的RT−PCR
被験物質添加細胞と無添加細胞について、マウス由来の本発明遺伝子群を有するmRNAの発現量を以下の方法で定量することが出来る。
マウスSOX6遺伝子の発現量を測定するために、上記(15−2)で得られたcDNA含有溶液が200倍希釈された液(cDNA希釈液) 1μL、SYBR Green Master Mix(PE systems社) 25μL、SOX6遺伝子を定量するために用いられる配列番号21で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol及びSOX6遺伝子を定量するために用いられる配列番号22で示される塩基配列からなるプライマー 20pmolからなる50μLの反応液(反応液A)を調製する。
マウスSOX5遺伝子の発現量を測定するために、cDNA希釈液 1μL、SYBR Green Master Mix 25μL、SOX5遺伝子を定量するために用いられる配列番号23で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol及びSOX5遺伝子を定量するために用いられる配列番号24で示される塩基配列からなるプライマー 20pmolからなる50μLの反応液(反応液B)を調製する。
マウスSOX13遺伝子の発現量を測定するために、cDNA希釈液 1μL、SYBR Green Master Mix 25μL、SOX13遺伝子を定量するために用いられる配列番号25で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol及びSOX13遺伝子を定量するために用いられる配列番号26で示される塩基配列からなるプライマー 20pmolからなる50μLの反応液(反応液C)を調製する。
次に、内部標準としてマウス36B4遺伝子(mRNA)の発現量を測定するために、上記のcDNA希釈液 1μL、SYBR Green Master Mix 25μL、配列番号27で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol及び配列番号28で示される塩基配列からなるプライマー 20pmolからなる50μLの反応液(反応液D)を調製する。
PCRは、ABI7900(PE systems社)を用いて実施することが出来る。まず各反応液を50℃で2分間、次いで95℃で10分間保温する。その後、95℃で15秒間、60℃で1分間の保温サイクルを40回繰り返す。当該PCRにより増幅されたPCR産物を定量することにより、各細胞における、マウス由来の本発明遺伝子群を有するmRNAの発現量を測定することが出来る。反応液Aを用いた場合における発現量を測定値A、反応液Bを用いた場合における発現量を測定値B、反応液Cを用いた場合における発現量を測定値C、反応液Dを用いた場合における発現量を測定値Dとする。
次に、内部標準による補正を行った。マウス36B4遺伝子(mRNA)の発現量は各細胞においてほぼ一定であることが知られている。そこで、測定値A、測定値B、測定値Cを測定値Dで除した値(A/D値=SOX6の補正発現量、B/D値=SOX5の補正発現量、C/D値=SOX13の補正発現量)を算出することにより、各細胞におけるマウス由来の本発明遺伝子群を有するmRNAの補正発現量を得ることが出来る。次に被験物質添加細胞由来の補正発現量と無添加細胞由来の補正発現量の比をとり、当該比に基づき前記被験物質のインスリンの転写・分泌調節能力を評価する。例えば、SOX6、SOX5、SOX13当該比のどれか1つが1より大きい場合には、前記被験物質がインスリンの転写・分泌調節促進能力を有すると判断される。一方、SOX6、SOX5、SOX13当該比のどれか1つが1より小さい場合には、前記被験物質がインスリンの転写・分泌減少能力を有すると判断される。
【実施例14】
【0068】
実施例14 本発明遺伝子群の機能調節によりインスリン転写及び分泌を調節する能力を有する物質の探索方法
(14−1)被験物質の添加
実施例11記載の方法で得られた本発明遺伝子群が導入された細胞を播種し(0.5×105個/ウェル、24ウェルプレート)、15%FBS、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地中で1日間培養する。翌日、被験物質50μM(被験物質添加区の場合)もしくは0μM(被験物質無添加区の場合)、および0.5%ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記す。)を含む15%FBS、20mM Hepes、5.5μM 2−メルカプトエタノールが添加されたDMEM培地500μLに各ウェルの培地を交換して5%CO2存在下、37℃にて2日間培養する。
(14−2)インスリン遺伝子転写量の測定
2日後に、実施例15記載の方法で被験物質添加細胞と無添加細胞のcDNAを調製した後、インスリン遺伝子を定量するために用いられる配列番号29で示される塩基配列からなるプライマー 20pmol及びインスリン遺伝子を定量するために用いられる配列番号30で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例13記載の方法でRT−PCRを行い、被験物質添加細胞由来のインスリン遺伝子補正発現量と無添加細胞由来のインスリン遺伝子補正発現量の比を得た後、当該比に基づき前記被験物質のインスリンの転写調節能力を評価する。例えば、当該比が1より大きい場合には、前記被験物質がインスリンの転写・分泌調節促進能力を有すると判断される。一方、当該比が1より小さい場合には、前記被験物質がインスリンの転写減少能力を有すると判断される。
(14−3)インスリン遺伝子分泌量の測定
14−1記載の細胞をBSA−KRBBで一回洗浄する。同じ緩衝液中で細胞を37℃、1時間保温した後、細胞を種々濃度のグルコースを含有するBSA−KRBB中で1時間保温する。1時間後、BSA−KRBBの一部を用いて、レビスインスリン測定キットにより被験物質添加細胞と無添加細胞のインスリン分泌量の測定を行う。次に被験物質添加細胞由来のインスリン分泌量と無添加細胞由来のインスリン分泌量の比をとり、当該比に基づき前記被験物質のインスリンの分泌調節能力を評価する。例えば、当該比が1より大きい場合には、前記被験物質がインスリンの分泌調節促進能力を有すると判断される。一方、当該比が1より小さい場合には、前記被験物質がインスリンの分泌減少能力を有すると判断される。
【実施例15】
【0069】
実施例15 インスリン分泌不全動物への本発明遺伝子群のアンチセンス核酸、siRNAの投与
インスリン分泌不全動物への本遺伝子アンチセンス核酸、siRNAの投与はアデノウイルスにより行うことができる。本発明遺伝子群のアンチセンス鎖あるいは本発明遺伝子群のDNA配列より設計されるsiRNAを含有するアデノウイルスは実施例13記載の方法で得ることが出来る。
インスリン分泌不全動物である10週齢の雌性のNOD/Shi Jicマウス(日本クレア社)に対して、アデノウイルス投与量1×109(1群10匹)の割合になるように、上述した方法で作製された組換えアデノウイルスを生理食塩水で希釈することにより調製された水溶剤を、マウス1匹当たり0.2mLずつシリンジを用いて尾静脈より投与する。投与4週間後に被験インスリン分泌不全動物であるNOD/Shi Jicマウスの静脈血を採取し、インスリン測定キットを用いて血中インスリン値を測定する。得られた測定値を各個体の血中インスリン値とし、各群の平均値を算出する(以下、測定値5と記す。)。尚、対照群として、前記組換えアデノウイルスの代わりにコントロールウィルスを投与した群についても同様な試験を行うことにより血中インスリン値を測定し、平均値を算出する(以下、測定値6と記す。)。これらの測定値から下記の式に従って、本発明遺伝子群のアンチセンス核酸及びsiRNAによる血中インスリン値制御率を算出する。
血中インスリン値制御率(%)={(測定値6−測定値5)/測定値6}×100
当該血中インスリン値制御率が統計学上有効である負の値であることを確認することにより当該供試アンチセンス核酸及び、siRNAが血中インスリン値上昇効果を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ヒトSOX6、マウスSOX6、ヒトSOX5、マウスSOX13のインスリンプロモーター活性抑制効果を示す。縦軸はSOX5、SOX6、SOX13を導入していない細胞のインスリンプロモーター活性を1とした時の各遺伝子を導入した細胞の相対活性を表す。
【図2】ヒトSOX6、マウスSOX6、ヒトSOX5、マウスSOX13のインスリン分泌抑制効果を示す。縦軸は各細胞のインスリン分泌量を表す。横軸の対照とは本発明遺伝子を導入していない細胞を示す。
【図3】siRNAを用いてSOX6を発現抑制することでインスリン分泌量が増加することを示す。縦軸は各細胞のインスリン分泌量を表す。横軸の対照とはSOX6のsiRNAを導入していない細胞を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0071】
配列番号7:PCRプライマー
配列番号8:PCRプライマー
配列番号9:PCRプライマー
配列番号10:PCRプライマー
配列番号12:PCRプライマー
配列番号13:PCRプライマー
配列番号14:PCRプライマー
配列番号15:PCRプライマー
配列番号17:PCRプライマー
配列番号18:PCRプライマー
配列番号19:siRNA
配列番号20:siRNA
配列番号21:PCRプライマー
配列番号22:PCRプライマー
配列番号23:PCRプライマー
配列番号24:PCRプライマー
配列番号25:PCRプライマー
配列番号26:PCRプライマー
配列番号27:PCRプライマー
配列番号28:PCRプライマー
配列番号29:PCRプライマー
配列番号30:PCRプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SOX5、SOX6及び/又はSOX13の、発現又は機能を抑制する物質を有効成分として含有する、インスリン分泌促進薬。
【請求項2】
SOX5、SOX6及び/又はSOX13が下記のいずれかのアミノ酸配列を有する蛋白質である、請求項1に記載のインスリン分泌促進薬。
<アミノ酸配列>
SOX5:
(a-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列、
(b-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列、
(c-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-1)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列;
SOX6:
(a-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列、
(b-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列、
(c-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-2)配列番号4で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列;
SOX13:
(a-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列、
(b-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列、
(c-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、
(d-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列、及び
(e-3)配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列であり、かつインスリン分泌を抑制する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列
【請求項3】
SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現又は機能を抑制する物質が、SOX5、SOX6又はSOX13に対するアンチセンス核酸である、請求項1又は2に記載のインスリン分泌促進薬。
【請求項4】
SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現又は機能を抑制する物質が、SOX5、SOX6又はSOX13に対するsiRNAである、請求項1又は2に記載のインスリン分泌促進薬。
【請求項5】
SOX5、SOX6及び/又はSOX13の、発現又は機能を抑制する物質が、SOX5、SOX6又はSOX13と特異的に結合する抗体である、請求項1又は2に記載のインスリン分泌促進薬。
【請求項6】
インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13をコードする遺伝子を発現可能な細胞と、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法。
【請求項7】
インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞と、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるSOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がSOX5、SOX6及び/又はSOX13の発現を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法。
【請求項8】
インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13をコードする遺伝子の発現調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞に、被験物質を接触させる第一工程、及び、
(2)被験物質を接触させた前記細胞における、レポーター遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記レポーター遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記レポーター遺伝子の発現を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法。
【請求項9】
インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)SOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞と、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、SOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるSOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がSOX5、SOX6及び/又はSOX13の機能を抑制するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする評価方法。
【請求項10】
SOX5、SOX6又はSOX13の機能が、インスリン分泌抑制機能である、請求項9に記載の評価方法。
【請求項11】
インスリン分泌抑制機能がインスリンプロモーターの転写活性の抑制機能である、請求項10に記載の評価方法。
【請求項12】
以下の工程:
(1)インスリンをコードする遺伝子の発現調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子並びに、SOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた前記細胞における、レポーター遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記レポーター遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記レポーター遺伝子の発現を促進するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、請求項11に記載の評価方法。
【請求項13】
インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)インスリン、並びにSOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、インスリン遺伝子の発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がインスリン遺伝子の発現を促進するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、請求項10に記載の評価方法。
【請求項14】
インスリン分泌促進能力を有する物質の評価方法であって、
(1)インスリン、並びにSOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、インスリンの発現量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるインスリンの発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がインスリンの発現を促進するか否かを指標として被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、請求項10に記載の評価方法。
【請求項15】
以下の工程:
(1)インスリン、並びにSOX5、SOX6及び/又はSOX13を発現可能な細胞に、被験物質を接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、インスリン分泌量を測定し、該発現量を、被験物質を接触させない対照細胞におけるインスリン分泌量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質がインスリン分泌量を増大させるか否かを指標として、被験物質のインスリン分泌促進能力を評価する第三工程、
を有することを特徴とする、請求項10に記載の評価方法。
【請求項16】
請求項6〜15のいずれかに記載の評価方法で評価されたインスリン分泌促進能力に基づき、インスリン分泌促進薬の候補物質を選別することを特徴とする、インスリン分泌促進薬の探索方法。
【請求項17】
請求項16に記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とするインスリン分泌促進薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−169200(P2006−169200A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366967(P2004−366967)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】