説明

インバータ一体型電動圧縮機

【課題】インバータ装置を構成する制御回路基板として熱伝導性基板を実用化し、制御回路基板に搭載される発熱電気部品の冷却性と絶縁性とを両立させ、且つインバータ装置の小型軽量化、低コスト化、組立ばらつきの低減、組立工数の低減を図る。
【解決手段】本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機は、インバータ装置を構成する制御回路基板(下部基板25)を、絶縁体からなる基板本体41と、この基板本体41の厚さ方向に貫通充填された良熱伝導体からなる熱伝導貫通部材42とを備えてなる熱伝導性基板とし、この制御回路基板25の一方の面に発熱電気部品39を熱伝達可能に設置し、他方の面を放熱用平面部31に対し放熱空間34を介して対向させ、放熱空間34内に柔軟で電気絶縁性および熱伝導性のある熱伝導充填部材36を充填した。伝導充填部材は当初は流動性があり、放熱空間34内に充填された後に硬化して弾性体となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング外周に設けられるインバータボックスの内部にインバータ装置を設置して構成される、特に車両用空調装置に用いて好適なインバータ一体型電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車、あるいは燃料電池自動車のように、電動機の動力で走行する電動車両の開発および市場への投入が急速に進んでいる。このような電動車両における空調装置の多くは、冷媒を圧縮して送出する圧縮機についても電動機を用いた電動圧縮機が用いられている。
【0003】
また、内燃機関の動力で走行する自動車の空調装置においても、走行用の内燃機関により電磁クラッチを介して駆動される圧縮機に替え、電磁クラッチの断続に伴うドライバビリティーの低下を改善するため、電動圧縮機が使用されるものがある。
【0004】
こうした電動圧縮機としては、圧縮機構および電動機をハウジング内に一体的に内蔵した密閉型電動圧縮機が採用され、さらには、電源から入力される電力を、インバータ装置を介して電動機に供給するようにし、空調負荷に応じて圧縮機の回転数を可変制御できるようにしたものが多く採用されている。
【0005】
このようにインバータ装置を介して駆動される電動圧縮機において、インバータ装置を構成する制御回路基板等を、電動圧縮機のハウジング外周に一体成形されたインバータボックス内に収納設置してインバータ装置を電動圧縮機と一体化し、さらに電磁ノイズ抑える平滑コンデンサやコイル等の電気部品を上記インバータボックス内部に収容したものがある。
【0006】
この場合、インバータ装置のスイッチング素子(IGBT,Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)のような発熱性の高い電気部品を冷却する必要がある。インバータボックスは完全な密閉構造であり、外部から冷却空気等を導入できないため、例えば特許文献1〜2に開示されているように、インバータボックスの内部にハウジングの外壁を構成する放熱用平面部(ヒートシンク)を形成し、ここに発熱電気部品を当接させて、ハウジング内部を流れる冷媒の冷熱により電気部品の熱を放熱および冷却している。
【0007】
特許文献1に記載されているインバータ一体型電動圧縮機は、インバータボックスの底面に放熱用平面部が形成され、この放熱用平面部の上面にIGBT等の発熱電気部品が設置され、その上方にスペースを介して制御回路基板が平行に設置され、発熱電気部品から上方に延びるピン端子が制御回路基板にハンダ付けされている。
【0008】
また、特許文献2に記載されているインバータ一体型電動圧縮機は、インバータボックスの底面に形成された放熱用平面部の上に金属基板が固定され、この金属基板の上に発熱電気部品が搭載され、この発熱電気部品の上方にスペースを介して制御回路基板が平行に設置されており、発熱電気部品の熱が金属基板を経て放熱用平面部側に放熱されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−131792号公報
【特許文献2】特開2009−207310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような従来のインバータ一体型電動圧縮機は、いずれも放熱用平面部側に熱を放熱するように設置された発熱電気部品と、制御回路基板との間にスペースが設けられており、このスペースによってインバータ装置の高さ寸法が大きくなり、ひいてはインバータ一体型電動圧縮機の大型化に繋がっていた。発熱電気部品と制御回路基板との間にスペースが設けられるのは、発熱電気部品から制御回路基板に向かって延びるピン端子を制御回路基板にハンダ付けし易くするためと、ピン端子に繰り返し加わる熱応力や振動等によってピン端子が金属疲労を起こさないように、ピン端子に所定の長さを付与するためである。
【0011】
ところで、最近実用化がなされた銅インレイ基板と呼ばれる熱伝導性基板がある(例えば特開2011−159727号公報参照)。これは、絶縁体からなる板状の基板本体と、この基板本体の厚さ方向に貫通充填された、銅等の良熱伝導体からなる熱伝導貫通部材とを備えてなる基板である。この熱伝導性基板をインバータの制御回路基板として用いれば、制御回路基板の熱伝導貫通部材の一方の面にスペースを空けずに発熱電気部品を搭載できる。また、熱伝導貫通部材の他方の面をインバータボックス側の放熱用平面部に近接させて発熱電気部品の冷却性を向上させることができる。
【0012】
この構成によれば、熱伝導性基板である制御回路基板が放熱用平面部の上に多大なスペースを介すことなく載置され、さらにこの制御回路基板の上に発熱電気部品がスペースを介さずに設置されるため、放熱用平面部と制御回路基板と発熱電気部品との間に無駄なスペースが存在せず、これによりインバータ装置の高さ方向の寸法を格段に小型化することができる。しかしながら、この熱伝導性基板をインバータ一体型電動圧縮機の制御回路基板として用いるには、以下の課題が残されている。
【0013】
即ち、高電圧・高電流が流れるインバータ装置においては、制御回路基板と放熱用平面部と間の絶縁性確保の面から、両者の間に絶縁部材を介してある一定の絶縁距離を確保する必要がある。しかし、この絶縁距離を大きくし過ぎると、発熱電気部品の冷却性が損なわれてしまう。そこで、絶縁性と冷却性とを両立させることができる絶縁距離を算出する必要がある。
【0014】
一方、熱伝導性基板は、その基板本体の両面から熱伝導貫通部材が僅かに突出しており、他部品との接触性の向上が図られているが、その製法上から熱伝導貫通部材の突出量がばらつく傾向がある。このように熱伝導貫通部材の突出量がばらつくと、上述の絶縁距離を算出することが困難になる。この熱伝導貫通部材の突出量のばらつきに左右されることなく、絶縁性と冷却性とを両立させることが課題となっている。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、インバータ装置を構成する制御回路基板として熱伝導性基板を実用化し、制御回路基板に搭載される発熱電気部品の冷却性と絶縁性とを両立させ、且つインバータ装置の小型軽量化、低コスト化、組立ばらつきの低減、組立工数の低減を図ることのできるインバータ一体型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
即ち、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第1の態様は、冷媒の圧縮機構および該圧縮機構を駆動する電動機が内蔵されるハウジングの外面に設けられたインバータボックスと、制御回路基板を有して前記インバータボックス内に収納設置されるインバータ装置と、前記制御回路基板に搭載されて前記インバータ装置を構成する発熱電気部品とを備え、前記インバータボックスの内部に、前記ハウジングの外壁を構成する放熱用平面部が形成され、前記発熱電気部品の熱を、前記放熱用平面部側に放熱させることによって冷却するように構成されたインバータ一体型電動圧縮機であって、前記制御回路基板を熱伝導性基板とし、該制御回路基板の一方の面に前記発熱電気部品を熱伝達可能に設置し、該制御回路基板の他方の面を前記放熱用平面部に対し放熱空間を介して対向させ、前記放熱空間内に柔軟で電気絶縁性および熱伝導性のある熱伝導充填部材を充填したことを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、熱伝導性基板である制御回路基板の一方の面に発熱電気部品が熱伝達可能に設置され、制御回路基板の他方の面が柔軟な熱伝導充填部材を介して放熱用平面部に対向する。柔軟な熱伝導充填部材は制御回路基板の他方の面と放熱用平面部に隙間無く密着するため、制御回路基板の一方の面に設置された発熱電気部品の熱が熱伝導充填部材を経て放熱用平面部側に良好に放熱される。このため、発熱電気部品の放熱性を高めることができる。しかも、熱伝導充填部材は電気絶縁性があるため、発熱電気部品と放熱用平面部との間の絶縁性を高めることができる。したがって、発熱電気部品の絶縁性と冷却性とを両立させることができる。
【0018】
さらに、制御回路基板と放熱用平面部との間に形成した放熱空間に電気絶縁性のある熱伝導充填部材を充填することにより、放熱空間の絶縁距離、即ち制御回路基板と放熱用平面部との間隔を狭めることができる。このため、制御回路基板が収容されるインバータボックスの高さ方向の寸法を小さくすることができ、インバータ装置の小型軽量化を図ることができる。
【0019】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第2の態様は、前記第1の態様において、前記制御回路基板は、絶縁体からなる基板本体と、前記基板本体の厚さ方向に貫通充填された良熱伝導体からなる熱伝導貫通部材と、を備えてなり、前記熱伝導貫通部材の一方の端面が前記発熱電気部品に熱伝達可能に接触し、前記熱伝導貫通部材の他方の端面が前記熱伝導充填部材に接触していることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、熱伝導貫通部材と放熱用平面部との間に柔軟な熱伝導充填部材が介在するため、熱伝導貫通部材の基板本体からの突出量にばらつきがあっても、このばらつきが熱伝導充填部材の柔軟性により吸収される。このため、熱伝導貫通部材の突出量のばらつきに拘わらず、発熱電気部品の熱を放熱用平面部側に良好に放熱させることができる。したがって、基板本体に熱伝導貫通部材が設けられた構成の熱伝導性基板を、インバータ装置の制御回路基板として実用化することができる。
【0021】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第3の態様は、前記第1または第2の態様において、前記熱伝導充填部材は、当初は流動性があり、前記放熱空間内に充填された後に硬化して弾性体となる性質であることを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、熱伝導充填部材がその充填時には流動性を有するため、例えば制御回路基板を構成する熱伝導性基板の、基板本体の裏面から突出する複数の熱伝導貫通部材の突出量にばらつきがあっても、これら全ての熱伝導貫通部材と、基板本体と、放熱用平面部とに熱伝導充填部材が隙間無く接触した状態で充填される。その後、熱伝導充填部材が硬化することで、上記充填状態が維持される。このため、制御回路基板に搭載される発熱電気部品の冷却性と絶縁性を高い状態で維持することができる。
【0023】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第4の態様は、前記第1から第3のいずれかの態様において、前記制御回路基板に、前記放熱空間に連通する貫通孔が穿設されていることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、放熱用平面部に熱伝導充填部材を塗布した後、その上に制御回路基板を設置した際に、放熱空間内に残留する空気が、制御回路基板に形成された貫通孔から排出される。このため、制御回路基板の裏面に熱伝導充填部材が隙間無く接触することができ、これによって制御回路基板に搭載される発熱電気部品の冷却性を良好に保つことができる。さらに、貫通孔から余剰な熱伝導充填部材が出てくるのを組立作業者が目視して確認できるため、熱伝導充填部材の充填量が足りずに放熱空間内に隙間が発生することを効果的に防止することができ、確実な冷却性を得るとともに、組立のばらつきを排除することができる。
【0025】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第5の態様は、前記第1から第4のいずれかの態様において、前記放熱空間は、前記制御回路基板に前記発熱電気部品が搭載されている付近にのみ形成されていることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、熱伝導充填部材の充填量を必要最低量にできるため、インバータ装置の低コスト化に貢献することができる。
【0027】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第6の態様は、前記第1から第5のいずれかの態様において、前記放熱用平面部と前記制御回路基板との間にスペーサ部材が介装され、前記制御回路基板に前記発熱電気部品が搭載されている部位では前記スペーサ部材が省略されることによって前記放熱空間が形成されていることを特徴とする。
【0028】
上記構成によれば、制御回路基板に発熱電気部品が搭載されている部位のみスペーサ部材を省略することによって放熱空間を形成し、熱伝導充填部材の充填量を必要最低量にするとともに、放熱用平面部の面形状を平坦にして切削加工を容易にし、インバータ装置およびインバータ一体型電動圧縮機の低コスト化を図ることができる。なお、スペーサ部材を板状に形成し、発熱電気部品が設けられる位置のみ穴を開ければ、簡単に形成することができる。
【0029】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第7の態様は、前記第1から第6のいずれかの態様において、前記放熱空間の絶縁距離をdとした場合、前記絶縁距離dは下記の式から求められることを特徴とする。
min/β+d1_max≦d≦Rmax・α・S+d1_min
但し、dは制御回路基板からの熱伝導貫通部材の突き出し量、Sは熱伝導貫通部材の放熱用平面部側への放熱面積、Rは熱伝導充填部材の熱抵抗、Vはインバータ装置に必要な熱伝導充填部材の絶縁電圧値、αは熱伝導充填部材の熱伝導率、βは熱伝導充填部材の絶縁破壊電圧である。
【0030】
上記構成によれば、放熱空間の絶縁距離dが過大になって制御回路基板に搭載される発熱電気部品の冷却性が低下したり、逆に絶縁距離dが過小になって発熱電気部品の絶縁性が低下したりすることを防止でき、発熱電気部品の冷却性と絶縁性とを最適な状態で両立させることができる。
【0031】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第8の態様は、前記第1から第7のいずれかの態様において、前記放熱用平面部の、前記熱伝導貫通部材と対向する部位に、前記熱伝導貫通部材の端部形状に沿う凹部形状を形成したことを特徴とする。
【0032】
上記構成によれば、熱伝導貫通部材から発せられる熱を、放熱用平面部に形成された凹部形状に広い面積で受熱させることができるため、制御回路基板に搭載された発熱電気部品の冷却性を向上させることができる。また、上記凹部形状の深さ寸法を大きくすることにより、熱伝導貫通部材と放熱用平面部との距離を広げて発熱電気部品の絶縁性を確保しつつ、放熱空間の絶縁距離を小さくしてインバータボックスの高さ方向の寸法を小さくし、インバータ装置の小型軽量化を図ることができる。
【0033】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第9の態様は、前記第1から第8のいずれかの態様において、前記熱伝導貫通部材の、前記放熱用平面部と対向する面に凹凸形状を設けたことを特徴とする。
【0034】
上記構成によれば、熱伝導貫通部材の、放熱用平面部と対向する面の表面積が大きくなり、熱伝導充填部材と広い面積で接することができるため、熱伝導貫通部材の反対側に設置された発熱電気部品の放熱性、即ち冷却性を向上させることができる。
【0035】
また、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の第10の態様は、前記第1、第2、第5、第6、第7、第8、第9のいずれかの態様において、前記熱伝導充填部材は、柔軟なシート状であることを特徴とする。
【0036】
上記構成によれば、熱伝導充填部材を放熱空間に流し込むことなく設置することができるため、インバータ装置の組立工数の低減を図ることができ、インバータ一体型電動圧縮機の製造コストダウンにも貢献することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機によれば、インバータ装置を構成する制御回路基板として熱伝導性基板を実用化し、制御回路基板に搭載される発熱電気部品の冷却性と絶縁性とを両立させ、且つインバータ装置の小型軽量化、低コスト化、組立ばらつきの低減、組立工数の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態であるインバータ一体型電動圧縮機の概略構成を説明する縦断面図である。
【図2】図1のII部を拡大したインバータ装置の縦断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿うインバータ装置の縦断面により、本発明の第1実施形態を示す図である。
【図4】インバータ装置の斜視図である。
【図5】図3のV部を拡大した熱伝導貫通部材付近の縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態を示すインバータ装置の縦断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態を示すインバータ装置の縦断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態を示すインバータ装置の縦断面図である。
【図9】本発明の第5実施形態を示す熱伝導貫通部材付近の縦断面図である。
【図10】本発明の第6実施形態を示す熱伝導貫通部材付近の縦断面図である。
【図11】本発明の第7実施形態を示すインバータ装置の縦断面図である。
【図12】本発明の第8実施形態を示すインバータ一体型電動圧縮機の概略構成を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の複数の実施形態について、図1〜図12を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜図5は本発明の第1実施形態を示しており、図1は本発明の第1実施形態であるインバータ一体型電動圧縮機の概略構成を説明する縦断面図である。このインバータ一体型電動圧縮機1は、車両用空気調和機に用いられる圧縮機であって、インバータ装置により駆動回転数が制御されるものである。
【0040】
インバータ一体型電動圧縮機1は、その外殻をなすアルミニウム合金製のハウジング2を有し、このハウジング2は、圧縮機側ハウジング3と電動機側ハウジング4とを、その間に軸受ハウジング5を挟んでボルト6により締め付け固定して構成されている。
【0041】
圧縮機側ハウジング3内には、公知のスクロール圧縮機構8が組み込まれる。また、電動機側ハウジング4内には、電動機10を構成するステータ11およびロータ12が組み込まれる。このスクロール圧縮機構8と電動機10は、主軸14を介して連結され、電動機10を回転させることにより、スクロール圧縮機構8が駆動されるよう構成されている。主軸14は、軸受ハウジング5に保持されたメインベアリング15と、電動機側ハウジング4の端部に保持されたサブベアリング16とによって回転自在に軸支されている。
【0042】
また、電動機側ハウジング4の端部には、図示しない冷媒吸入口が設けられており、該冷媒吸入口には冷凍サイクルの吸入配管が接続され、低圧の冷媒ガスが電動機側ハウジング4内に吸入されるようになっている。この冷媒ガスは、電動機側ハウジング4内を流通して電動機10を冷却した後にスクロール圧縮機構8に吸い込まれ、そこで圧縮されて高温高圧の冷媒ガスとなり、圧縮機側ハウジング3の端部に設けられている図示しない吐出口から冷凍サイクルの吐出配管へと吐出されるように構成されている。
【0043】
電動機10は、インバータ装置21を介して駆動され、空調負荷に応じて回転数が可変制御されるものである。この第1実施形態において、インバータ装置21は、ハウジング2の外周、例えばハウジング2の上面に一体形成された平面視で矩形のインバータボックス23の内部に、例えば制御回路基板である下部基板25と上部基板26とが上下に重なるように収納設置されて構成されており、インバータ一体型電動圧縮機1と一体化されている。
【0044】
インバータ装置21は、バスバー27、ガラス絶縁端子28、モータ端子29、リード線30等を介して電動機10に電気的に接続されている。なお、本実施形態においては、例えば下部基板25が、後述する多数の発熱性のある電気部品(発熱素子)が搭載されたパワーモジュール基板とされ、上部基板26は、図示しないCPU等の低電圧で動作する素子が搭載されたCPU基板とされている。
【0045】
インバータボックス23は、例えば電動機側ハウジング4の上部に周壁23aが一体に形成されて、その上部開口部が蓋部材23bにより液密的に閉塞される構造である。インバータボックス23の深さは、その内部に下部基板25と上部基板26とを上下に所定間隔を保って収納設置でき、さらに下部基板25の上面に背の高い平滑コンデンサ37等の電気部品を設置可能な深さとされている。
【0046】
図2にも示すように、インバータボックス23の底部は電動機側ハウジング4の外壁を構成しており、ここには下部基板25と上部基板26に対して平行な放熱用平面部31(ヒートシンク)が形成されている。一方、下部基板25は熱伝導性基板であり、その一方の面(ここでは上面)に、平滑コンデンサ37と、コイル38と、6個のスイッチング素子(IGBT)39といった発熱電気部品が下部基板25に対して熱伝達可能に搭載されている。平滑コンデンサ37とコイル38は電磁ノイズを抑制するものである。
【0047】
また、下部基板25の他方の面(ここでは下面)が、放熱用平面部31に対して放熱空間34を介して対向するように配置され、例えば複数のビス35でインバータボックス23内に固定されている(図3参照)。ビス35が締結される締結ボス部35aの上面が放熱用平面部31よりも寸法dだけ高くなっているため、下部基板25の下面と放熱用平面部31との間に寸法dの間隔が空く。この寸法dが放熱空間34の高さ、即ち後述する絶縁距離dとなる。
【0048】
放熱空間34には、柔軟で電気絶縁性のある熱伝導充填部材36が充填されている。熱伝導充填部材36の材質としては、例えばシリコン系やエラストマー系等を用いることができる。このため、下部基板25の下面が熱伝導充填部材36を介して放熱用平面部31に対し熱伝達可能となっている。熱伝導充填部材36は、当初は流動性があり、放熱空間34内に充填された後に硬化して弾性体となる性質である。
【0049】
一方、上部基板26は、例えば図示しないスペーサ部材を介して下部基板25の上に所定の間隔を有して平行に設置され、ビス等で下部基板25に固定されている。この上部基板26は、下部基板25の上面に搭載された背の高い平滑コンデンサ37とコイル38を避けて、背の低い6個のスイッチング素子39の上部を覆うように設けられている。
【0050】
熱伝導性基板である下部基板25は、ガラスエポキシやフェノール樹脂等の絶縁体からなる基板本体41と、この基板本体41の厚さ方向に貫通充填された、例えば銅等の良熱伝導体からなる熱伝導貫通部材42とを備えて構成されている。また、下部基板25は、基板本体41の内部に複数層の回路パターン43が積層埋設された多層基板である。図3に示すように、これらの回路パターン43が熱伝導貫通部材42の貫通によって電気的に接続されている。なお、熱伝導貫通部材42は回路パターン43に対して絶縁されていてもよい。
【0051】
熱伝導貫通部材42は、平滑コンデンサ37とコイル38と6個のスイッチング素子39の搭載位置に整合するように下部基板25に位置付けられており、その一方の端面(上面)が各電気部品37,38,39の下面に熱伝達可能に接触し、他方の端面(下面)が熱伝導性と弾力性とを備えた熱伝導充填部材36を介して放熱用平面部31に対して熱伝達可能に接している。
【0052】
図3および図5に示すように、熱伝導貫通部材42の厚みは、基板本体41の厚みよりも若干大きく設定され、熱伝導貫通部材42の放熱用平面部31側(放熱空間34側)の端面(下端面)が基板本体41の下面から僅かに突出している。そして、放熱空間34の高さ、即ち熱伝導充填部材36の厚みが前述の絶縁距離dとなる。
【0053】
以下に、絶縁距離d〔mm〕の設定方法について説明する。
図5に示すように、絶縁距離をd、熱伝導貫通部材42の下部基板25(基板本体41)からの突き出し量をd〔mm〕、熱伝導貫通部材42の先端から放熱用平面部31までの距離をd〔mm〕、熱伝導貫通部材42の放熱用平面部31側への放熱面積をS〔mm〕、熱伝導充填部材36の熱伝導率をα〔W/(mm・K)〕、熱伝導充填部材36の熱抵抗をR〔K/W〕、熱伝導充填部材36の絶縁破壊電圧をβ〔kV/mm〕、熱伝導充填部材36の絶縁電圧をV〔kV〕とすると、下部基板25と放熱用平面部31との間の絶縁距離dにおける熱伝導充填部材36の熱抵抗Rは次式で表わされる。
R=d/(α・S)・・・式(1)
なお、d=d+dとなるが、dには製造上のばらつきがあるため、dの最小値をd1_minとしたときのdをd2_max、dの最大値をd1_maxとしたときのdをd2_minとする。
インバータ装置21の放熱に必要な熱抵抗をRmaxとすると、
R=d2_max/(α・S)≦Rmax・・・式(2)
式(1)と式(2)より、
d≦Rmax・α・S+d1_min・・・式(3)
【0054】
次に、下部基板25と放熱用平面部31との間における絶縁可能な距離について検討する。熱伝導充填部材36の絶縁破壊電圧βと絶縁電圧Vは次式で表わされる。
V=β・d
インバータ装置21に必要とされる絶縁電圧の最小値をVminとすると、
V=β・d2_min≧Vmin・・・式(4)
式(1)と式(4)より、
d≧Vmin/β+d1_max・・・式(5)
よって、式(3)と式(5)より、下部基板25と放熱用平面部31との間の絶縁距離dを次の式(6)の範囲内に設定することで、放熱性と電気絶縁性を両立させることができる。
min/β+d1_max≦d≦Rmax・α・S+d1_min・・・式(6)
【0055】
このように絶縁距離dを算出することにより、絶縁距離dが過大になって下部基板25に搭載される発熱電気部品37,38,39の冷却性が低下したり、逆に絶縁距離dが過小になって発熱電気部品37,38,39の放熱用平面部31に対する絶縁性が低下したりすることを防止でき、発熱電気部品37,38,39の冷却性と絶縁性とを最適な状態で両立させることができる。
【0056】
このインバータ装置21を組み立てる時は、最初に放熱用平面部31の上に熱伝導充填部材36を塗布し、次に下部基板25をビス35で締結ボス部35aに締結する。この時、余剰な熱伝導充填部材36は、放熱用平面部31の周囲を堀り下げるように形成された逃げ溝45に膨出する。その後、熱伝導充填部材36が放熱空間34内で硬化する。なお、上部基板26は、予め下部基板25に取り付けられた状態で下部基板25と共にインバータボックス23内に組み込まれるか、あるいは下部基板25の後から組み付けられる。
【0057】
以上のように構成されたインバータ一体型電動圧縮機1が作動すると、冷凍サイクル中を循環した後の低圧冷媒ガスが、図示しない冷媒吸入口から電動機側ハウジング4内に吸入され、電動機側ハウジング4内を流通してスクロール圧縮機構8に吸い込まれる。スクロール圧縮機構8で圧縮され、高温高圧となった冷媒ガスは、圧縮機側ハウジング3の端部に設けられている図示しない吐出口から吐出配管を経て冷凍サイクルへと循環される。
【0058】
この間、電動機側ハウジング4内を流通する低温な低圧冷媒ガスは、インバータボックス23内で、インバータ装置21から発せられる作動熱に対し、電動機側ハウジング4のハウジング外壁でもある放熱用平面部31を介して吸熱作用を行う。これにより、パワー基板である下部基板25を強制的に冷却することができる。
【0059】
特に、下部基板25に搭載される発熱電気部品である平滑コンデンサ37、コイル38、スイッチング素子39は、その各々の下面が、熱伝導性基板である下部基板25の厚さ方向に貫通充填された良熱伝導体である熱伝導貫通部材42の上面に密着しており、この熱伝導貫通部材42の下面が、柔軟で熱伝導性のある熱伝導充填部材36を介して放熱用平面部31に対し熱伝達可能に接しているため、各電機部品37,38,39の熱が熱伝導貫通部材42と熱伝導充填部材36を経て速やかに放熱用平面部31側に伝達され、効率良く冷却される。中でも6個のスイッチング素子39は特に発熱量が多いため、その熱が熱伝導充填部材36を経て速やかに放熱用平面部31側に放熱されることにより、インバータ装置21全体が効率良く冷却され、インバータボックス23の内部温度上昇が防止される。また、熱伝導充填部材36は電気絶縁性があるため、高電圧・高電流が印加されるパワーモジュール基板である下部基板25を、放熱用平面部31(ハウジング2)側に対して確実に絶縁することができる。
【0060】
本実施形態の構成では、下部基板25を熱伝導性基板とし、この下部基板25の上面に発熱電気部品37,38,39を熱伝達可能に設置し、下部基板25の下面を放熱用平面部31に対し放熱空間34を介して対向させ、放熱空間34内に柔軟で電気絶縁性および熱伝導性のある熱伝導充填部材36を充填したため、柔軟な熱伝導充填部材36が下部基板25の下面と放熱用平面部31とに隙間無く密着する。したがって、下部基板25の上面に設置された発熱電気部品37,38,39の熱が熱伝導充填部材36を経て放熱用平面部31側に良好に放熱され、発熱電気部品37,38,39の冷却性を高めることができる。しかも、熱伝導充填部材36は電気絶縁性があるため、発熱電気部品37,38,39と放熱用平面部31との間の絶縁性を高めることができる。したがって、発熱電気部品37,38,39の絶縁性と冷却性とを両立させることができる。
【0061】
さらに、下部基板25と放熱用平面部31との間に形成した放熱空間34に電気絶縁性のある熱伝導充填部材36を充填することにより、熱伝導充填部材36を充填しない場合に比べて電気絶縁性を格段に高めることができるため、放熱空間34の絶縁距離d、即ち下部基板25と放熱用平面部31との間隔を狭めることができる。このため、下部基板25が収容されるインバータボックス23の高さ方向の寸法を小さくすることができ、インバータ装置21の小型軽量化を図ることができる。
【0062】
また、下部基板25が、絶縁体からなる基板本体41と、この基板本体41の厚さ方向に貫通充填された良熱伝導体からなる熱伝導貫通部材42とを備えてなる熱伝導性基板であり、熱伝導貫通部材42の一方の端面が発熱電気部品37,38,39に熱伝達可能に接触し、他方の端面が熱伝導充填部材36に接触している。
【0063】
このため、熱伝導貫通部材42と放熱用平面部31との間に柔軟な熱伝導充填部材36が介在して、基板本体41からの熱伝導貫通部材42の突出量にばらつきがあっても、このばらつきが熱伝導充填部材36の柔軟性により吸収される。したがって、熱伝導貫通部材42の突出量のばらつきに拘わらず、発熱電気部品37,38,39の熱を放熱用平面部31側に良好に放熱させることができる。これにより、基板本体41に熱伝導貫通部材42が設けられた構成の熱伝導性基板を、インバータ装置21の制御回路基板として実用化することができる。
【0064】
さらに、熱伝導充填部材36は、当初は流動性があり、放熱空間34内に充填された後に硬化して弾性体となる性質があるため、例えば下部基板25を構成する基板本体41の裏面から突出する複数の熱伝導貫通部材42の突出量にばらつきがあっても、これら全ての熱伝導貫通部材42と、基板本体41と、放熱用平面部31とに熱伝導充填部材36が隙間無く接触した状態で充填される。その後、熱伝導充填部材36が硬化することで、上記の充填状態が維持される。このため、下部基板25に搭載される発熱電気部品37,38,39の冷却性と絶縁性を高い状態で維持することができる。
【0065】
〔第2実施形態〕
図6は、本発明の第2実施形態を示すインバータ装置21の縦断面図である。この実施形態においては、下部基板25(基板本体41)に、放熱空間34に連通する複数の貫通孔51が穿設されている点以外は、図3に示す第1実施形態と同一の構成であるため、各部に同一の符号を付して説明を省略する。貫通孔51は、例えば複数のスイッチング素子39が載置されている熱伝導貫通部材42の間を通るように形成されている。平面視で各スイッチング素子39を取り囲むように貫通孔51を形成してもよい。
【0066】
このような貫通孔51を下部基板25に形成した場合、下部基板25の組み付け時において、放熱用平面部31の上に熱伝導充填部材36を塗布してから締結ボス部35aの上に下部基板25を設置してビス35で締結する時に、放熱空間34内に残留する空気が貫通孔51から排出される。さらに、余剰な熱伝導充填部材36が貫通孔51から押し出されて出てくる。このため、下部基板25の裏面側に空気を残留させることなく、熱伝導充填部材36が下部基板25の裏面側に隙間無く接触することができ、これによって下部基板25に搭載される発熱電気部品37,38,39の冷却性を良好に保つことができる。
【0067】
しかも、上記のように熱伝導充填部材36の余剰分が貫通孔51から出てくるため、これを組立作業者が目視で確認することができ、これによって熱伝導充填部材36の充填量が不足することを防止し、確実な冷却性を得るとともに、組立のばらつきを排除することができる。
【0068】
なお、放熱用平面部31の周囲には、余剰な熱伝導充填部材36を膨出させるための逃げ溝45が形成されているが、この逃げ溝45は省略してもよい。逃げ溝45を省略することにより、放熱用平面部31および放熱空間34の形状をシンプルにしてインバータボックス23(電動機側ハウジング4)の加工を容易にし、製造コストダウンを図ることができる。
【0069】
〔第3実施形態〕
図7は、本発明の第3実施形態を示すインバータ装置21の縦断面図である。この実施形態においては、下部基板25に発熱電気部品であるスイッチング素子39が搭載されている付近に対応した位置にのみ放熱空間34が形成されている。即ち、下部基板25がビス35で締結される締結面52の、スイッチング素子39に整合する部分のみが下方に切削されて複数の放熱空間34が凹設され、その各々の底面が放熱用平面部31となっている。また、これら複数の放熱空間34に連通するように、第2実施形態と同様に下部基板25(基板本体41)に複数の貫通孔51が穿設され、放熱空間34の内部には熱伝導充填部材36が充填されている。
【0070】
下部基板25の組み付け時には、まず各放熱空間34に熱伝導充填部材36を充填する。この時には熱伝導充填部材36が締結面52よりもやや盛り上がるように充填する。そして、締結面52の上に下部基板25を設置してビス35で締結する。この時に、第2実施形態の場合と同様に、放熱空間34内に残留する空気が貫通孔51から排出され、さらに、余剰な熱伝導充填部材36が貫通孔51から押し出される。このため、各放熱空間34内に空気が残留することを防止してスイッチング素子39の冷却性を良好に保つことができる。
【0071】
上記の構造によれば、放熱空間34の容積、即ち熱伝導充填部材36の充填量を必要最低量にできるため、インバータ装置21の低コスト化に貢献することができる。
【0072】
〔第4実施形態〕
図8は、本発明の第4実施形態を示すインバータ装置21の縦断面図である。この実施形態においては、放熱用平面部31と下部基板25との間に厚さ数ミリ程度の板状のスペーサ部材54が介装されている。このスペーサ部材54には、下部基板25に搭載された発熱電気部品であるスイッチング素子39の位置に整合する位置で省かれている。即ち、例えばスペーサ部材54に整合する位置に穴55が穿設されており、この穴55の内側に放熱空間34が形成されている。放熱空間34の形状や容積は、第3実施形態と同様である。また、各放熱空間34に連通するように下部基板25に複数の貫通孔51が穿設され、放熱空間34の内部に熱伝導充填部材36が充填される点も第3実施形態と同様である。
【0073】
スペーサ部材54の厚みは、第1実施形態で述べた絶縁距離d〔mm〕を基準とし、仮に組み付け後にビス35の締結力等に起因する潰れ等でスペーサ部材54の厚みが薄くなるような材質をスペーサ部材54に用いる場合には、その潰れ代量d〔mm〕を考慮して、スペーサ部材54の厚みをd+d〔mm〕とする。
【0074】
下部基板25の組み付け時には、放熱用平面部31の上にスペーサ部材54を載置し、仮押さえしながら穴55の内側、即ち放熱空間34内に熱伝導充填部材36を充填する。この時には熱伝導充填部材36がスペーサ部材54の上面よりもやや盛り上がるように充填する。そして、スペーサ部材54の上に下部基板25を設置してビス35で締結する。この時、第2、第3実施形態の場合と同様に、放熱空間34内に残留する空気が貫通孔51から排出され、さらに、余剰な熱伝導充填部材36が貫通孔51から押し出される。このため、各放熱空間34内に空気が残留することを防止してスイッチング素子39の冷却性を良好に保つことができる。
【0075】
上記の構成によれば、下部基板25にスイッチング素子39が搭載されている部位のみスペーサ部材54を省略することによって放熱空間34を形成し、熱伝導充填部材36の充填量を必要最低量にするとともに、放熱用平面部31の面形状を平坦な形状にしてその切削加工を容易にし、インバータ装置21およびインバータ一体型電動圧縮機1の低コスト化を図ることができる。スペーサ部材54は、板状に形成されてスイッチング素子39に整合する位置にのみ穴55が開いた構成であるため、簡単に製造することができる。さらに、スペーサ部材54の厚みを変更することにより、下部基板25と放熱用平面部31との間の間隔(絶縁距離)を自由に調整することができる。
【0076】
〔第5実施形態〕
図9は、本発明の第5実施形態を示す熱伝導貫通部材42付近の縦断面図である。この実施形態において、放熱用平面部31には、下部基板25から下方に突出する熱伝導貫通部材42と対向する部位に、熱伝導貫通部材42の端部形状に沿う凹部形状58が形成されている。この凹部形状58は、放熱用平面部31から突出して熱伝導貫通部材42の先端の周囲を取り巻く形状を有しており、その内面と熱伝導貫通部材42の先端部との間には、熱伝導貫通部材42の冷却性と絶縁性を両立できるように所定の絶縁距離dが設けられている。下部基板25と放熱用平面部31との間、および熱伝導貫通部材42と凹部形状58との間には熱伝導充填部材36が充填される。
【0077】
上記の構成によれば、熱伝導貫通部材42から発せられる熱が、凹部形状58によって広い面積で受熱され、放熱用平面部31側に放熱される。このため、下部基板25に搭載された図示しない発熱電気部品の冷却性を向上させることができる。
【0078】
また、凹部形状58の周壁部の高さ寸法を大きくすることにより、熱伝導貫通部材42の絶縁性を確保しながら、熱伝導貫通部材42の先端形状の全体に亘って放熱用平面部31との距離、つまり絶縁距離dを小さくしてインバータ装置21およびインバータボックス23の高さを低くし、ひいてはインバータ一体型電動圧縮機1の小型、軽量化を図ることができる。
【0079】
〔第6実施形態〕
図10は、本発明の第6実施形態を示す熱伝導貫通部材42付近の縦断面図である。この実施形態では、熱伝導貫通部材42の、放熱用平面部31と対向する面、即ち下端面に凹凸形状42aが設けられている。こうすれば、熱伝導貫通部材42の下端面の表面積が大きくなり、熱伝導充填部材36と広い面積で接することができるため、熱伝導貫通部材42の反対側に設置された発熱電気部品の放熱性、即ち冷却性を向上させることができる。
【0080】
〔第7実施形態〕
図11は、本発明の第7実施形態を示すインバータ装置の縦断面図である。この実施形態においては、放熱空間34に設けられている熱伝導充填部材60が柔軟なシート状である点以外は、図3に示す第1実施形態と同一の構成であるため、各部に同一の符号を付して説明を省略する。熱伝導充填部材60の自由時の厚みは、放熱空間34の絶縁距離dよりも若干大きくするのが好ましい。こうすることにより、放熱用平面部31に熱伝導充填部材60を敷設し、その上から下部基板25を載置してビス35で締結する際に、ビス35の締結力によって熱伝導充填部材60が放熱用平面部31と下部基板25との間で圧迫され、熱伝導充填部材60の上下両面が下部基板25と放熱用平面部31の両面に隙間なく密着する。このため、下部基板25に搭載されたスイッチング素子39等の発熱電気部品の熱が熱伝導充填部材60を経て放熱用平面部31側に良好に放熱され、発熱電気部品の冷却性が高められる。
【0081】
熱伝導充填部材60は柔軟なシート状であるため、第1実施形態の熱伝導充填部材36のように放熱空間34に流し込むことなく設置することができる。このため、インバータ装置の組立工数の低減を図ることができ、インバータ一体型電動圧縮機の製造コストダウンにも貢献することができる。
【0082】
〔第8実施形態〕
図12は本発明の第8実施形態を示すインバータ一体型電動圧縮機の縦断面図である。このインバータ一体型電動圧縮機61において、インバータ装置62周り以外の構成は、図1に示す第1実施形態のインバータ一体型電動圧縮機1と同様であるため、各部に同符号を付して説明を省略する。
【0083】
このインバータ一体型電動圧縮機61は、インバータ装置62が収容されるインバータボックス63が、ハウジング2(電動機側ハウジング4)の後端面に設けられているタイプである。このようにインバータボックス63をハウジング2の後端面に設ける主な理由は、ハイブリッド車両や電動車両等のエンジンルーム内にインバータ一体型電動圧縮機61を設置する場合に、略円柱形状であるハウジング2の外周面にインバータボックス63が突出していないスリムな形状であった方がレイアウト的に搭載しやすいからである。
【0084】
電動機側ハウジング4の外壁を構成する後端面には平坦な放熱用平面部64が形成されており、この放熱用平面部64を覆うようにして、金属または樹脂で形成されたカバー状のインバータボックス63が気密的に被装され、放熱用平面部64とインバータボックス63との間の空間にインバータ装置62が収容されている。インバータ装置62の基本構成は、第1実施形態におけるインバータ装置21と同様であるため、各部に同符号を付して説明を簡略する。
【0085】
インバータ装置62を構成する下部基板25と上部基板26の面方向は放熱用平面部64の面方向に平行しており、第1実施形態におけるインバータ装置21と同様に、基板本体41と熱伝導貫通部材42とを備えてなる熱伝導性基板である下部基板25が、放熱用平面部64との間に放熱空間34を介して設置され、放熱空間34の内部には熱伝導充填部材36が充填されている。熱伝導充填部材36の性質等は第1実施形態のものと同様である。
【0086】
下部基板25には、発熱電気部品である平滑コンデンサ37やスイッチング素子39等が下部基板25に対して熱伝達可能に搭載されている。そして、これらの電気部品37,39の熱が下部基板25の熱伝導貫通部材42と熱伝導充填部材36を経て放熱用平面部64側に放熱され、電気部品37,39が冷却されるようになっている。
【0087】
上記構成によれば、インバータ装置62がインバータ一体型電動圧縮機61の後端面に設けられている場合において、インバータ一体型電動圧縮機61の長さ方向のコンパクト化と軽量化を図ることができる。
【0088】
なお、本発明は上記の第1から第8実施形態の構成のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更や改良を加えることができ、このように変更や改良を加えた実施形態も本発明の権利範囲に含まれるものとする。例えば、第1から第8実施形態の構成を組み合わせる等してもよい。
【0089】
また、上記の第1から第8実施形態に記載した基板の冷却構造は、インバータ一体型電動圧縮機への適用以外に、例えば温水ヒータ、車両走行用インバータ、車両・家庭・店舗・事務所等の空調用インバータおよび空調用ファンモータ制御装置、各種電気機器の電源装置等にも幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1,61 インバータ一体型電動圧縮機
2 ハウジング
8 圧縮機構
10 電動機
21 インバータ装置
23 インバータボックス
25 下部基板(制御回路基板)
31 放熱用平面部
34 放熱空間
36,60 熱伝導充填部材
37 平滑コンデンサ(発熱電気部品)
38 コイル(発熱電気部品)
39 スイッチング素子(発熱電気部品)
41 基板本体
42 熱伝導貫通部材
42a 凹凸形状
51 貫通孔
54 スペーサ部材
58 凹部形状
d 絶縁距離
制御回路基板からの熱伝導貫通部材の突き出し量
R 熱伝導充填部材の熱抵抗
S 熱伝導貫通部材の放熱用平面部側への放熱面積
V 熱伝導充填部材の絶縁電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の圧縮機構および該圧縮機構を駆動する電動機が内蔵されるハウジングの外面に設けられたインバータボックスと、
制御回路基板を有して前記インバータボックス内に収納設置されるインバータ装置と、
前記制御回路基板に搭載されて前記インバータ装置を構成する発熱電気部品と、を備え、
前記インバータボックスの内部に、前記ハウジングの外壁を構成する放熱用平面部が形成され、
前記発熱電気部品の熱を、前記放熱用平面部側に放熱させることによって冷却するように構成されたインバータ一体型電動圧縮機であって、
前記制御回路基板を熱伝導性基板とし、
該制御回路基板の一方の面に前記発熱電気部品を熱伝達可能に設置し、
該制御回路基板の他方の面を前記放熱用平面部に対し放熱空間を介して対向させ、
前記放熱空間内に柔軟で電気絶縁性および熱伝導性のある熱伝導充填部材を充填したことを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項2】
前記制御回路基板は、
絶縁体からなる基板本体と、
前記基板本体の厚さ方向に貫通充填された良熱伝導体からなる熱伝導貫通部材と、を備えてなり、
前記熱伝導貫通部材の一方の端面が前記発熱電気部品に熱伝達可能に接触し、
前記熱伝導貫通部材の他方の端面が前記熱伝導充填部材に接触していることを特徴とする請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
前記熱伝導充填部材は、当初は流動性があり、前記放熱空間内に充填された後に硬化して弾性体となる性質であることを特徴とする請求項1または2に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項4】
前記制御回路基板に、前記放熱空間に連通する貫通孔が穿設されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項5】
前記放熱空間は、前記制御回路基板に前記発熱電気部品が搭載されている付近にのみ形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項6】
前記放熱用平面部と前記制御回路基板との間にスペーサ部材が介装され、前記制御回路基板に前記発熱電気部品が搭載されている部位では前記スペーサ部材が省略されることによって前記放熱空間が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項7】
前記放熱空間の絶縁距離をdとした場合、前記絶縁距離dは下記の式から求められることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
min/β+d1_max≦d≦Rmax・α・S+d1_min
但し、dは制御回路基板からの熱伝導貫通部材の突き出し量、Sは熱伝導貫通部材の放熱用平面部側への放熱面積、Rは熱伝導充填部材の熱抵抗、Vはインバータ装置に必要な熱伝導充填部材の絶縁電圧値、αは熱伝導充填部材の熱伝導率、βは熱伝導充填部材の絶縁破壊電圧。
【請求項8】
前記放熱用平面部の、前記熱伝導貫通部材と対向する部位に、前記熱伝導貫通部材の端部形状に沿う凹部形状を形成したことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項9】
前記熱伝導貫通部材の、前記放熱用平面部と対向する面に凹凸形状を設けたことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項10】
前記熱伝導充填部材は、柔軟なシート状であることを特徴とする請求項1,2,5,6,7,8,9のいずれかに記載のインバータ一体型電動圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−106421(P2013−106421A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247972(P2011−247972)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】