インパネ補強材およびその取り付け方法
【課題】インパネ補強材に、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材を用いることを前提に、自動車車体幅方向中央部での、他の車体部品との干渉回避を簡便に可能とするとともに、ステイとの接合面精度をも確保できる、低コストで生産可能なインパネ補強材およびその取り付け方法を提供することを目的とする。
【解決手段】インパネ補強材1を、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材から構成し、前記中空閉断面部をプレス成形によって変形させた、他の車体部品との干渉防止用の凹部2と、ステイ4との接合用の凹部3とを各々表面に有し、前記ステイ4との接合用の凹部3に、車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部4aが接合されており、このステイ4を介してその軸方向の中央部1cが車体に取り付けられている。
【解決手段】インパネ補強材1を、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材から構成し、前記中空閉断面部をプレス成形によって変形させた、他の車体部品との干渉防止用の凹部2と、ステイ4との接合用の凹部3とを各々表面に有し、前記ステイ4との接合用の凹部3に、車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部4aが接合されており、このステイ4を介してその軸方向の中央部1cが車体に取り付けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用インパネ補強材に関し、インパネ補強材に中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材を用いることを前提にした、インパネ補強材およびその取り付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車体では、車室内前方にステアリングコラムを支持するためのインパネ補強材(インパネリーンフォース、ステアリングサポートビーム、ステアリングハンバービーム、クロスカービームなどとも言う)が車体幅方向に設けられている。
【0003】
このインパネ補強材は、周知の通り、車体に対し略水平方向で車幅方向に対し平行に延在するように配置され、直接あるいは車体幅方向の端部に設けられたブラケットを介して車体フレームに取り付けられる。また、これととともに、車体中央付近に設置され、車体下方向あるいは前方向に向かって延在するステイと呼ばれる部品により、車体フロアあるいはダッシュパネルと連結される。
【0004】
このようなインパネ補強材では、種々の断面形状が選択される。また、他の車体部品との干渉を回避するために、直線状の形状ではなく、軸方向(長手方向)に曲げたり、スェージング加工などが施される場合もある。更に、軽量化、コスト、性能面から、その素材についても、鋼板、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの様々な素材が選択される。
【0005】
インパネ補強材には高強度や高剛性であることが要求される。即ち、車体走行時のステアリングの振動を防止するために、高い剛性が要求される。また、車体の前面衝突時において、車体前方からステアリングを介して伝わる車体後方への荷重、乗員の前方移動による車体前方への荷重、加えて、側面衝突時におけるインパネ補強材の軸方向への荷重に対しても、高い強度が要求される。更に、近年では、自動車車体の軽量化の観点から、これらの強度、剛性を確保した上で、さらにインパネ補強材を軽量化することが望まれている.
【0006】
アルミニウム合金は、従来から汎用されている鋼板に比べて軽量であることから、このようなインパネ補強材などのフレーム部品への適用も期待されている。したがって、これまでに、プレス成形あるいはロール成形で形成したアルミニウム合金板材、アルミニウム合金鋳造品あるいはアルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材が検討あるいは実用化されている。しかし、鋼板に比べて素材コストが高いことから、加工あるいは接合コストを出来るだけ抑えることが課題となる。
【0007】
インパネ補強材のようなフレーム部品において、剛性、強度要件を満足した上でより軽量化するためには、中空断面などの閉断面構造(中空閉断面部)を採用することが望ましい。このため、アルミニウム合金板材からインパネ補強材を含むフレーム部品を製造する場合、プレスあるいはロール加工後に接合を行い、中空断面などの閉断面構造を形成することが多い。しかし、このような板材からの構造では、溶接線長が長くなるために、接合(製造)コストが高いことが問題になる。
【0008】
インパネ補強材を鋳造により製造する場合については、他部品との取り付け部などを一体的に形成可能という利点はあるものの、前記中空閉断面部を形成することが難しいという問題がある。このため、コの字型などの開断面形状を採用し、強度、剛性確保のために補強リブを設けることが一般的であるが、この分、前記中空閉断面部品に比べて重量が重くなるという問題がある。
【0009】
この点、アルミニウム合金押出形材は、板材のように溶接を伴わずに予め前記中空閉断面部(閉断面空間)を持った直線状部品を、押出によって一体に製造可能という大きな利点がある。そして、インパネ補強材は、重量軽減と車体幅方向の荷重を受け持つために、車体に対し略水平方向で、車幅方向に対し平行に、直線的に設けることが望まれる。このため、アルミニウム合金押出形材を適用しやすい部品といえる。
【0010】
そこで、従来から、特許文献1などに代表されるように、長手方向に同一断面のアルミニウム合金押出形材を用いたインパネ補強材構造が提案されている。また、前記インパネ補強材の軸方向両端部を車体フレームに対して強固に接合可能で、かつ施工面や位置決め等で取り付けやすくしたインパネ補強材構造も、特許文献2、3など、種々提案されている。
【0011】
ただ、このような直線状のアルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材を用いる場合、他の車体部品との干渉回避が問題になる。特に、インパネ補強材の車体幅方向中央部近傍では、カーナビゲーションシステムやオーディオなどの装置、あるいはエアコンユニット等が配置され、室内空間の充実と操作性確保の観点から、これらの設置位置が優先されることが多い。つまり、インパネ補強材の方に、これらの他の車体部品との干渉回避部を設けることが要求される。
【0012】
従来から用いられていた鋼管製インパネ補強材の場合、このような干渉を回避するために、補強材の車体幅方向中央部を曲げ加工することも行われてきた.しかし、強度、剛性確保のために大型、厚肉化されてきている現在のインパネ補強材では、この曲げ加工時の破断、断面変形などの成形不良が生じやすくなっている。そして、鋼板に比べて成形性に劣るアルミニウム合金材料では、さらに、この曲げ加工が困難になるといえる。また、この曲げ加工により、インパネ補強材自体の長手方向(軸方向)の線長が長くなり、その分重量が増加するという問題もある。
【0013】
このため、特許文献4のように,運転席側と助手席側で断面形状の異なる管材を用い、両者を互いに接合することで、他の車体部品との干渉回避と部品設計適性化の両立を図ることが一般的に行われている。しかし、この方法でも、インパネ補強材の分割による部品点数の増加によるコストアップは避けられない。
【特許文献1】特開2003−34266号公報
【特許文献2】特開2007−8187号公報
【特許文献3】特開2006−193090号公報
【特許文献4】特許第3734651号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記した通り、インパネ補強材にアルミニウム合金押出形材を用いることができれば、押出によって一体に製造可能という大きな利点があり、インパネ補強材の重量軽減と車体幅方向の荷重を受け持つという基本特性からも適用しやすい。しかし、これも前記した通り、インパネ補強材にアルミニウム合金押出形材を用いる場合には、曲げ加工の難しさから、インパネ補強材他の車体部品との干渉回避と部品設計適性化の両立を図ることが難しい。
【0015】
また、インパネ補強材にアルミニウム合金押出形材を用いる場合、押出加工の特性上、ダイスの磨耗や押出冷却時の変形などにより、素材の形状精度にバラツキが生じやすく、接合部の形状精度を確保しにくいという問題もある。このため、軸方向の端部位置での形状誤差が大きくなり、前述のようなインパネ補強材を分割した場合のインパネ補強材同士の軸方向の端部位置での接合や、ステイなどの比較的長尺部品の端部との接合や取り付けが困難になることが多い。
【0016】
このような接合面の精度を確保する方法として、アルミニウム合金押出形材を部分的に機械加工するなども行われているが、コストアップが問題になる。また、別の方法としては、ハイドロフォーミング(液圧成形)の適用により、アルミニウム合金押出形材の中空閉断面部(閉断面空間)の内側から、圧力を加えて金型に押し付けることにより、長手方向に断面形状を変化させて、干渉回避部を設けるとともに、形状精度を確保するという加工方法も行われている。しかし、加工時間の増大や、歩留まり悪化などによるコストアップが問題になり、一般に普及するには至っていない。
【0017】
したがって、本発明の目的は、インパネ補強材に、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材を用いることを前提に、車体幅方向中央部での、他の車体部品との干渉回避を簡便に可能とするとともに、ステイとの接合面精度をも確保できる、低コストで生産可能なインパネ補強材およびその取り付け方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的を達成するための本発明インパネ補強材の要旨は、軸方向が自動車の車体幅方向となるように軸方向両端部が車体フレームに各々取り付けられたインパネ補強材であって、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材からなり、前記中空閉断面部をプレス成形によって変形させた、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、ステイとの接合用の凹部とを各々表面に有し、前記ステイとの接合用の凹部に、車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部が接合されており、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けられたことである。
【0019】
ここで、前記ステイとの接合用の凹部の接合面が、前記ステイの長手方向に対して直交していることが好ましい。
【0020】
また、上記目的を達成するための本発明インパネ補強材の取り付け方法の要旨は、インパネ補強材の取り付け方法であって、インパネ補強材を中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材から構成し、この中空閉断面部をプレス成形によって変形させて、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを各々表面に形成し、インパネ補強材の軸方向が自動車の車体幅方向となるように、前記中空閉断面部からなる軸方向両端部を車体フレームに各々取り付ける一方で、前記ステイとの接合用の凹部に車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部を接合して、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けたことである。
【0021】
ここで、前記他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを同じプレス成形工程にて形成することが好ましい。また、前記ステイとの接合用の凹部の接合面を、前記ステイの長手方向に対して直交させることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、アルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材の中空閉断面部を、プレス成形によって変形させて(中空閉断面部の潰し変形によって)、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、ステイの端部と接合する凹部とを、各々表面に一体に形成する。
【0023】
このように、本発明では、従来のように、インパネ補強材を長手方向に曲げることで、他の車体部品との干渉防止用の空間を確保するのではなく、インパネ補強材の中空閉断面部自体を、プレス成形によって形成し、他の車体部品との干渉防止用の空間を確保する。これによって、本発明は、インパネ補強材の車体幅方向(軸方向)中央部などでの、他の車体部品との干渉回避を簡便に可能とする。
【0024】
また、本発明では、ステイとの接合用凹部(ステイの端部と接合する凹部)を、同じく、インパネ補強材の中空閉断面部自体をプレス成形によって形成する。これによって、ステイとの接合面精度をも確保でき、簡便に取り付けることができる。
【0025】
インパネ補強材におけるステイとの接合面を、従来のように、押出ままの部位とした場合、前記した押出材の特性上、ステイとの接合面の形状精度にバラツキが生じやすく、形状誤差が大きくなるという問題がある。これに対して、本発明では、インパネ補強材におけるステイとの接合面をプレス成形により形成した凹部に設ける。このため、押出ままの部位における形状精度のバラツキや形状誤差を、プレス成形によってキャンセル(除去)した上で、ステイ上端部の接合面形状に適合した形状に成形するため、ステイとの接合面精度を確保できる。この結果、インパネ補強材におけるステイとの接合面の、溶接接合での欠陥の発生頻度の低下、車体への組み付け時の寸法不良などの問題が著しく生じにくくなる。
【0026】
しかも、これらの凹部は、いずれも、アルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材の中空閉断面部のプレス成形による変形(成形)によって作成されるために、比較的簡便に、低コストで、成形(生産) が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態について、図を用いて、以下に詳細に説明する。先ず、図1、2を用いて、本発明の自動車用インパネ補強材の実施態様を説明する。図1は、アルミニウム合金押出中空形材からなるインパネ補強材1を示す斜視図である。図2は、図1のA−A線での断面図である。図2において、点線7(上部の半円形状および下部の斜め直線状点線)が、ステイとの接合用凹部3や干渉防止用の凹部2を成形する前の、
元の中形材形状を示している(図3、4、7、9、10、12、14などの断面図でも共通)。なお、図1では、図の斜め左上側が車体前方方向、図2では図の左側が車体前方方向である。
【0028】
インパネ補強材の基本構成:
本発明において、前提となるインパネ補強材の基本構成自体は通常のものと同じである。即ち、図1において、インパネ補強材1は、その軸方向(長手方向)が自動車の車体幅方向(図の左下方向から右上方向)に延在するように設置される。この設置の場合、インパネ補強材1の長手方向(軸方向)の両端部1a(運転席側)、1b(助手席側)が、取り付け金具であるブラケット20、20を介して、図示しない車体フレームに取り付けられている。ブラケット20、20は、これも図示はしないが、常法では、車体フレーム側のブラケットなどを介して、車体フレームに取り付けられている。
【0029】
また、インパネ補強材1は、これも通常通り、車体の下方向あるいは前方向に向かって、互いに車体幅方向に間隔を開けて延在する、左右のステイ4、4により、車体幅方向(軸方向、長手方向)の中央部1cにて、図示しない車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けられている。なお、本発明で言う、前記中央部1cとは、軸方向の中央部一点のみではなく、図1のように、インパネ補強材が通常ステイによって支持乃至接合される範囲(領域)を含めた中央部付近の意味である。
【0030】
前記ブラケット20、20は、鋼製でもよいが、アルミニウム合金であるインパネ補強材1とは異種材料となるので、電食を防止するための市販の絶縁塗装乃至絶縁皮膜が必要となる。この点で、ブラケット20、20は、インパネ補強材1と同じく、アルミニウム合金の鋳造材や押出材、加工材などからなることが好ましい。
【0031】
インパネ補強材:
図1に示す通り、アルミニウム合金押出中空形材からなるインパネ補強材1は、他の車体部品との干渉防止用の上向き凹部を有する。このため、従来のような、他の車体部品との干渉を回避するための、車体幅方向中央部などの曲げ加工は不要である。言い換えると、インパネ補強材1は、その車体幅方向(軸方向) の全長に亙って、図1に示す通り、前記した押出形材の特徴でもある、直線状とすることができる。
【0032】
このことが本発明の利点でもあって、インパネ補強材を前記直線状とすることで、車体に対し略水平方向で、車幅方向に対し平行に、かつ直線的に設けることができる。したがって、インパネ補強材を前記直線状とできることは、重量を軽くした上で、車体幅方向の荷重を受け持つ必要がある、インパネ補強材の基本性能を発揮させる点で有利である。ただ、本発明では、他の車体部品との干渉回避目的ではなく、車体部品や車体の設計上やデザイン上の問題で、インパネ補強材を、その車体幅方向(軸方向) に曲げ加工などによって湾曲させるあるいは曲線状とすることは許容される。また、インパネ補強材1を溶接を伴わずに長手方向に一部品で形成していることで、前記特許文献4に見られるような2部品を接合する構成に比して、比較的低コストで生産可能であるとともに、形状精度も確保しやすい。
【0033】
また、図1、2の態様では、インパネ補強材(アルミニウム合金押出形材)1は、その車体幅方向(軸方向) の全長に亙って、下側の壁が平ら、上側の壁が半円形、車体前方側の壁が垂直状、という略円管状中空閉断面部を有する。インパネ補強材1の中空閉断面部の断面形状は、これに限らず、前記した要求される高剛性や高強度を満足でき、前記各凹部を成形できるものであれば、種々の断面形状が選択されうる。例えば、真円、楕円、半円、不定形な円などの円管状や、三角、四角、多角などの角管状、あるいは、これら以外の不定形と呼ぶべき断面形状が適宜選択されうる。また、その厚みも、汎用される1〜5mm程度の厚みが選択される。
【0034】
ただ、後述するように、他の車体部品との干渉防止用の上向き凹部を形成するためには、この上向き凹部形状への、インパネ補強材1の中空閉断面部の凹部成形面のプレス成形を阻害しない断面形状が好ましい。即ち、インパネ補強材1における凹部の成形面に、角部(稜線)が無いような、あるいは角部(稜線)が来ないような、インパネ補強材(アルミニウム合金押出形材)1の断面形状が好ましい。
【0035】
インパネ補強材用のアルミニウム合金は、後述するステイと同様に、比較的高強度なA6000系あるいはA7000系合金を用いることが好ましい。但し、インパネ補強材とステイとを全く同じアルミニウム合金とする必要性は必ずしも無い。
【0036】
ステイ:
この図1では、インパネ補強材1の中央部近傍に、車体の下方向に向かって、互いに車体幅方向に間隔を開けて延在する、左右の、断面がL字状のステイ4、4が2本取り付けられている。このステイ4、4は、その下端部4b、4bにおいて、図示はしない、車体の下方向に存在する車体フロアと、機械的に接合および/または溶接接合されており、インパネ補強材1を車体フロアに接続、固定する。
【0037】
L字状ステイ4、4は、勿論、後述する図7の通り、車体の前方向に向かって延在していても良いが、この場合には、下向きの凹部の向きが、ステイの延在方向に合わせて、後述する図4の通り、車体の前方向に向かうこととなる。
【0038】
このステイ4の形状について、直交する二辺からなる図1のL字状の他に、他部品との干渉回避の観点で許容される形状の範囲内で、必要な強度や剛性、あるいは接合部の形状を確保するための肉厚や形状が選択される。例えば、断面形状は、矩形断面、ハット型、コの字型などが便宜選択される。また、ステイ用のアルミニウム合金は、前記インパネ補強材用のアルミニウム合金と同じく、比較的高強度なA6000系あるいはA7000系合金あるいは溶接性を考慮して5000系合金を用いることが好ましい。この場合、ステイとしては、アルミニウム合金板材をプレス成形したものを用いても、押出形材を用いても良い。また、ステイ4の厚みも、汎用される0.8〜5mm程度の厚みが選択される。
【0039】
また、ステイ4の本数は、通常は図1のように中央部の2箇所、2本が用いられるが、本数は特に限定されず、必要本数とすれば良く、例えば、図11にインパネ補強材の斜視図を示す通り、前記図1の内のいずれか1箇所のみに(1本のみを)ステイ4を設けても良い。
【0040】
更に、図12にインパネ補強材1の斜視図と、ステイ4との接合部の部分拡大断面図とを両方示す通り、このステイ4のインパネ補強材1との接合部4aから、車体上方向に延長した上部片4cを設けても良い。この上部片4cは、インパネ補強材1よりも車体後方側に設けられるインストルメントパネル30との接合ブラケット(22は上部片4cとインストルメントパネル30との接合用クリップ)として利用可能である。このように、取り付けブラケットとステイを一体的に設けることで部品点数および溶接点数の削減ができる。
【0041】
ステイとの接合用凹部:
一方、図1において、インパネ補強材1の中央部1c近傍には、前記各ステイ4、4の各上端部4a、4aに各々対応する補強材下部の位置に、ステイとの接合用凹部3が、下向きに(上に向かってへこむよう)、間隔を開けて1個設けられている。即ち、この下向きの凹部3は、車体の下方向に向かって互いに車体幅方向に間隔を開けて延在する、左右のL字状のステイ4、4に各々対応している。そして、この下向きの凹部3は、アルミニウム合金押出形材の中央部(近傍)の下部の位置において、その中空閉断面部を、プレス成形により断面潰し変形させ、インパネ補強材1の表面に一体に形成したものである。
【0042】
このステイとの接合用の下向き凹部3は、車体幅方向で素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)3a、3bに挟まれた、平坦な底部3cからなる形状を有している。この底部2cは平坦でなくても、曲面(曲線状の斜面)であって良いが、要は、ステイ4、4の各上端部4a、4aの面形状と係合できる面形状である必要がある。
ここで、接合用凹部3の形状は、各ステイ4、4の各上端部4a、4aと係合する形状、大きさ、深さを有している。図1の態様では、各ステイ4、4の各上端部4a、4aの両方を収容して、係合しうる大きさ(面積)を有するステイとの接合用凹部3を1個、補強材1の中央部の下部に延在させている。ただ、このステイとの接合用凹部3は1個でなくとも、長手方向に並列でない位置であれば、各ステイ4、4の各上端部4a、4aに対応する形で、ふたつ以上設けても良い。
【0043】
図2の態様のように、ステイ接合部となる下向きの凹部3の接合面3aは、ステイとの溶接接合強度(継ぎ手強度)を確保するために、各ステイ4、4の各上端部4a、4aとの接合面の方向が、ステイ4、4の長手方向に対して直交している(垂直な面、直角な面)となるように形成されていることが好ましい。また、このように、ステイ4、4との接合用の凹部3の接合面の方向が、ステイ4、4の長手方向に対して直交(直角に)していると、ステイ4、4の端部4a、4aの切削などの加工が不要となり、ステイ4、4の歩留まり向上と、端部4a、4aの加工コストの低減が可能となる。
【0044】
図2において、左右いずれかのステイ4の上端部4aと、これに対応する下向きの凹部3の下向きの面3aとを示すように、ステイ4の上端部4aは、下向きの凹部3の下向きの面3aと係合し、互いに溶接接合されている。なお、左右いずれのステイ4も、これと同様に係合し、互いに溶接接合されている。
【0045】
図4は、L字状ステイ4が、前記した通り、車体の前方向に向かって延在しており、ステイ4は、車体前側(図の左側)のダッシュパネル(図示せず)と接合している場合を示す。この場合には、凹部3は、下向きではなく、ステイの延在方向に合わせて、図4の通り、車体の前方向側に設けられ、この前方向側に(図の左方向)に向かうこととなる。そして、図4においても、左右いずれかのステイ4の上端部4a(図では右端部)と、これに対応する凹部3の左向きの面3aとを示すように、ステイ4の上端部4aは、凹部3の左向きの面3aと係合し、互いに溶接接合されている。
【0046】
これらの凹部3と、ステイ4、4の各上端部4a、4aとの溶接接合は、MIG溶接、レーザー溶接などの、この種の溶接に汎用される溶接方法や条件が便宜選択できる。
【0047】
このように、ステイとの接合用凹部3を、インパネ補強材1の中空閉断面部自体のプレス成形によって潰し変形して設けるため、ステイとの接合面精度をも確保でき、簡便に取り付けることができる。しかも、ステイとの接合用凹部3は、アルミニウム合金押出形材からなる中空閉断面部のプレス成形による変形(成形)によって作成されるために、比較的簡便に、低コストで、成形(生産) が可能である。なお、ステイとの接合用凹部3は、接合面の形状精度が確保できれば良く、他の車体部品との干渉防止用凹部2のような大きな形状変化を設ける必要は無い。つまり、張出量自体を小さく設定してよいため、干渉防止用凹部2のような後述する折れ線(部)などを有する断面形状を採用する必要は無い。また、張出量が小さくても良いため、鋼板に比べて伸びの低いアルミニウム合金であっても、破断せずに容易に凹部を形成できる。
【0048】
他の車体部品との干渉防止用凹部:
図1において、インパネ補強材1の車体幅方向の中央部1c近傍には、他の車体部品との干渉防止用の上向きの凹部2(下に向かってへこむ)が設けられている。インパネ補強材1は、自動車車内の車体幅方向の中央部寄りの車体上側の位置に配置された室内機器(図示せず)との間に干渉が生じることが最も多い。したがって、これら室内機器である他の車体部品との干渉防止用凹部2は、図1の態様のように、インパネ補強材1の中央部1c近傍であって、その断面中心に対して、車体上側あるいは後側の位置に凹部を設けることが好ましい。
【0049】
図1の態様では、この干渉防止用の上向きの凹部2は、車体幅方向でインパネ補強材1の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)2a、2bに挟まれた、なだらかな曲面(なだらかな曲線状の斜面)を有する底部2cからなる、標準的な形状あるいは汎用される形状を有している。この底部2cは平坦であっても良いが、他の部材と接合する必要はなく、また、成形も難しいので、平坦である必要はなく、前記曲面(曲線状の斜面)であって良い。ただ、この凹部2を設ける位置や大きさ、形状、深さなどは、干渉を防止する対象となる、カーナビゲーションシステムやオーディオ装置あるいはエアコンユニット等の室内機器の配置位置や大きさ、形状などによって定まる。このため、これら室内機器の配置位置や大きさ、形状などに応じて、凹部2の配置位置や大きさ、形状、深さを選択し、これらの他の車体部品との干渉を防止(回避)した上で、インパネ補強材の、特に車体幅方向の中央部近傍などを、直線状とできる凹部2の大きさや形状、深さ、そして設ける位置が選択される。
【0050】
干渉防止用凹部2の配置位置は、インパネ補強材1の軸方向(長手方向)の位置や、その断面中心に対する位置を設定する。このため、凹部2を設ける位置は、インパネ補強材1の車体幅方向の中央部1cからずれたり、その断面中心に対する位置が、車体後側の位置になる場合もある。また、この凹部2の配置位置は、インパネ補強材1への基本的な要求特性(強度、剛性)の点も考慮される。例えば、インパネ補強材1の長手方向(軸方向)では、インパネ補強材1にステアリングが接続される中央部1cから運転席側の端部1a側寄りの方が、中央部1cから助手席側の端部1b寄りよりも、高強度、高剛性が必要である。したがって、中央部1cから運転席側(端部1a側寄りの方)の凹部2の設け方には、インパネ補強材1の高強度、高剛性の特性を低下させない制約が当然ある。一方、中央部1cから助手席側(端部1b寄りの方)の凹部2の設け方には、インパネ補強材1の特性からの制約があまり無い。したがって、例えば、インパネ補強材1の助手席側には、中央部1cから助手席側の端部1bに亙って、大きく、長く延在するような凹部2を設けても良い。
【0051】
干渉防止用凹部2は、アルミニウム合金押出形材からなる中空閉断面部のプレス成形による潰し変形(成形)によって作成されるために、設ける凹部2の大きさ、形状、深さには、後述する通り、中空閉断面部の大きさからくる制約や成形限界からくる制約がある。したがって、これら室内機器の大きさ、形状にも勿論よるが、設ける凹部2は1個のみとせず、数を増して複数個として、室内機器の配置位置や大きさ、形状などの設計変更も考慮しつつ、互いの干渉を防止しても良い。
【0052】
このように、他の車体部品との干渉防止用の凹部2は、前記ステイとの接合用凹部3と同様、インパネ補強材1の中空閉断面部自体のプレス成形によって形成される。このため、干渉防止用には比較的大きな凹部2が必要である。
【0053】
しかし、アルミニウム合金押出形材の素材伸びは、鋼板に比べて小さいため、本発明における凹部形成のための、張出変形を伴うようなプレス加工では破断が生じやすい。しかし、凹部2の変形前後の断面線長(元の形状7の断面線長)に大きな差異(変化)が無いように潰し加工すれば、アルミニウム合金押出形材であっても、破断なく成形可能である。また、凹み部2はプレス成形で形成されるため、比較的簡便に、低コストで、成形(生産) が可能である。
【0054】
図3に他の車体部品との干渉防止用の凹部2の好ましい態様を、図2と同じ断面図で示す。図2と図3との凹部2の大きな違いは、図3の凹部2では、断面幅方向の両端の角部(コーナー部)に、曲率急変部=曲率が急角度で変化する、曲げRが小さい角部として、折れ線(折れ線部)5が形成されている点である。
【0055】
この場合、図3に示すように、折れ線(部)5に囲まれた部分の断面形状が、断面外側に凸となる、明瞭な稜線のない曲線形状で形成されていることが望ましい。この図3の凹部2は、折れ線5の間の断面外側方向に、元の中空閉断面部の凸となる曲線部7を断面内側方向に凹ませる(潰し変形させる)ことで形成されている。
【0056】
このような折れ線5を有する図3の断面形状の場合、プレス加工による潰し変形に際して、この折れ線を起点に変形が生じるために、折れ線よりも外側のプレス成形を施さない部分での変形が抑制される。このため、凹み部以外の部分での形状精度が確保しやすく、安定的に凹み部を形成することができる。
【0057】
凹部の成形方法:
図5に、インパネ補強材1本体(アルミニウム合金押出形材)のプレス成形工程の態様を断面図で示す。図5(a)、(b)、(c)は、各々プレス成形工程の時間の経過を示している。この図5の態様では、前記他の車体部品との干渉防止用の凹部2と、前記ステイとの接合用の凹部3を同じプレス成形工程にて形成している。図5では、前記2つのステイ4、4との接合用の凹部3を、各々のステイ4、4に対応する2個に分割はせずに、前記図1のように1個に統合して成形している。
【0058】
凹部のプレス成形は、まず、図5(a)に示すように、素材アルミニウム合金押出形材10の両端部10a、10bから、中空閉断面部内に向かって、矢印で示すように、各々、拘束工具(中子)11a、11bを挿入する。この中子11a、11bの先端部形状は、形成する凹部(2、3、4)の最も凹み変形の大きい部分と対応している。
【0059】
次いで、図5(b)に示すように、押え工具(金型)14に対して、パンチ工具12、13を、素材アルミニウム合金押出形材10に対して、相対的に押し込むようにプレス成形する。これによって、この中子11a、11bによって、素材アルミニウム合金押出形材10閉断面空間内部の必要な領域を拘束してプレス加工することが可能になる、この結果、素材形材10を金型14に押し付けるように成形でき、必要な形状精度が確保できる。また、凹部2が素材形材10の長手方向に並列でない位置であれば、ふたつ以上あっても成形できる。
【0060】
この結果、図5(c)に示すように、他の車体部品との干渉防止用の上向き凹部2、およびステイとの接合用の下向き凹部3が形成される。干渉防止用の上向き凹部2は、図1で示したように、車体幅方向で素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)2a、2bに挟まれた、なだらかな曲面(曲線状の斜面)を有する平坦な底部1cからなる形状を有している。一方、ステイとの接合用の下向き凹部3も、車体幅方向で素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)3a、3bに挟まれた、平坦な底部3cからなる形状を有している。
【0061】
図5のような工具構成とすることで、プレス成形終了後に、中子11a、11bを容易に引き抜くことができる。また、中子11a、11bは、その先端部で互いに面接触するようにしておくことで、プレス加工中に、これら中子が片持ち的に変形することなく、必要な工具剛性が確保できるため、精度の良いプレス加工が可能になる。また、凹部の形成に際して、断面外側に凸となる部位を断面内側に凹ませるようにプレス加工し、張出変形での伸びが大きくなり過ぎないように加工することもできる。
【0062】
図6に、素材アルミニウム合金押出形材10の長手方向に、干渉防止用の上向き凹部2を、凹部2が素材形材10の長手方向に並列に2個並べて、分割して形成する場合の態様を断面図で示す。このような場合、中央に、凹部2、2を隔てる張出部2dを形成するための空間11が、パンチ工具12側に設けられる。張出部2dを設けるためは、中子8a、8bの先端に、この形状に対応した凸部を設ける必要があるが、このような凸部を設けると、プレス成形終了後に中子を引き抜くことが困難になる。したがって、干渉防止用の凹部2および前記2つのステイ4、4との接合用の凹部3については、各々のステイ4、4に対応する2個に分割はせずに、前記図1のように1個に統合して成形する方が好ましい。
【0063】
また、凹部2や凹部3を分割して複数個設ける場合には、素材形材10の長手方向に並列でない位置に設けることが好ましい。長手方向に並列に凹み部を設けた場合には、前述のように、中間部分を金型で支持することができなくなり、所定の形状が得られない。
【0064】
素材アルミニウム合金押出形材の断面形状も凹部のプレス成形性に影響する。素材アルミニウム合金押出形材は、角管であるなど、角部を有していても良いが、特に、凹部2の形成部には、この角部が入ってこない断面形状を選択することが好ましい。凹部の形成部に、この角部が入った場合、この角部の部位が、プレス成形に対して抵抗することになり、成形性を低下させる。
【0065】
図7に、素材アルミニウム合金押出形材が角管であるなど、凹部2の形成部に、角部由来の稜線を有する場合の態様を、断面図と、一部を拡大した斜視図で示す。この場合、特に干渉防止用の凹部2の形成部には、素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の角部12に由来する、稜線12が入っている。このため、凹部2のプレス成形時に、一部拡大斜視図に、13で示す面ひずみ(凸変形)や、点線14で示す稜線12の曲げぐせなどの、形状不良が発生、残留しやすくなり、凹部2のプレス成形性を低下させる。このため、干渉防止用の凹部2を形成する素材アルミニウム合金押出形材の中空部分については、その断面形状が、明瞭な稜線の無い、緩やかな曲線形状であることが好ましい。
【0066】
また、前記図3では、干渉防止用の凹部2の断面幅方向の両端の角部に、急角度で変化する(曲げRが小さい)折れ線5が形成されている、好ましい態様を説明したが、この態様は、凹部2のプレス成形性を向上させる点でも好ましい。図8に、この折れ線5の無い場合の、円管状素材アルミニウム合金押出形材のプレス成形時の変形形態を示す。同図の通り、折れ線5を設けない場合には、凹み形成部の周辺部15が、本来の凹み変形させる位置16に対して、断面外側に意図せずに変形してしまう。このため、凹み変形させる位置を正確に規定(限定)するためには、前記図3の態様のように、凹部2を形成する、凹み変形部の断面幅方向端部に折れ線5を設けて、変形範囲を限定するようにした方が好ましい。
【0067】
本発明のその他の実施態様:
本発明の実施態様について、他の車体部品との干渉防止用凹部2やステイとの接合用凹部3以外の部位については、他の車体部品と接合のためのフランジや、他の目的の閉断面空間が設けられていても良い。また、前記ステイの設け方や、前記凹部の設け方自体も、前記図1〜4の態様だけには限定されない。図9〜図14に、これら本発明の他の実施態様を具体的に示す。
【0068】
図9は、インパネ補強材とステイとの、前記図2と同様の断面図である。この図9は、インパネ補強材1を、フレームとしての強度、剛性が同等で、より軽量化することを目的に、インパネ補強材1の車体前方側に(図の左側に)閉断面空間17を設けて、断面の外側部分の断面積を大きくしたものである。この閉断面空間17は、別途設ける必要はなく、押出材の断面形状設計と押出工程により、インパネ補強材1に一体に設けることができる。この閉断面空間17は一つであることが望ましい。
【0069】
図10も、インパネ補強材とステイとの、前記図3と同様の断面図である。この図10は、他の車体部品と接合のためのL字型フランジ18を、インパネ補強材1の車体前方側に(図の左側に)設けたものである。このL字型フランジ18も、別途設ける必要はなく、押出材の断面形状設計と押出工程により、インパネ補強材1に一体に設けることができる。
【0070】
図11は、図1と同様のインパネ補強材とステイとの斜視図であって、前記した通り、インパネ補強材1の運転席側1箇所のみにステイ4を1本のみ設けたものである。
【0071】
図12も、図1と同様のインパネ補強材とステイとの斜視図であって、前記した通り、このステイ4のインパネ補強材1との接合部4aから、車体上方向に延長した上部片4cを設け、インストルパネルとの接合のためのブラケットとして利用したものである。
【0072】
図13、14は、インパネ補強材1の中央部1cの中空閉断面部をプレス成形によって変形させ、干渉防止用の凹部2を設けるに際して、中空閉断面部に予め切り込みを設ける態様を示している。インパネ補強材1の中空閉断面部を潰し加工する場合には、形状の遷移領域が必要となる。このため、設けられる干渉防止用の凹部2の大きさや深さには限界がある。これに対して、中空閉断面部に予め、線状の切り込みを設け、その切り込み部の長さに応じてプレス成形した場合、形材軸方向に急激に断面形状を変化させることが可能である。つまり、切り込みが無い場合には、破断防止のために必要な定常部と凹み部2cの間の遷移領域2aをなくすことが可能になる。
【0073】
具体的には、図14の断面図とともに掲載した参考図(インパネ補強材1への切り込み、潰し加工過程を示す平面図)に示すように、中空閉断面部の凹部2を設ける部位に、軸方向と直角方向に、線状の切り込み19を2本、間隔を開けて平行に予め設ける。そして、この2本の切り込みによって挟まれた中空閉断面部の部分のプレス成形による潰し加工によって、凹部2を形成する。
【0074】
図13の斜視図、図14に断面図で、ステイ4、4を取り付けた態様を示す通り、図13、14で示すインパネ補強材1にステイ4を取り付ける態様は、前記図1などと同じである。但し、この図13、14のステイ4は、図13の部分拡大図に示す通り、前記図12と同じく、このステイ4のインパネ補強材1との接合部4aから、車体上方向に延長した上部片4cを設けている。ただ、この図13では、前記図12と違って、インパネ補強材1に向かう横方向に向いた上部片4dを設けている。この上部片4dは、インパネ補強材1の凹部3とステイ4との係合に伴い、前記切り込み19およびプレス成形で形成される開口部2eを塞いでいる。
【0075】
これらの係合は、ステイ4の上部片4dに、インパネ補強材1の凹部2と凹部3とを設けた部分の断面形状に適合する断面形状を有する切り込み空間4eを設けて、この切り込み空間4e内に、インパネ補強材1の凹部2と凹部3とを設けた部分を収容(差し込み)することによって行う。この切り込み部4eは、インパネ補強材1の凹部3の下向きの面3aと係合する上端部4aを下方に有している。このようにステイ4の上部片4dで、インパネ補強材1の前記開口部2eを塞ぎ、互いに溶接接合することによって、インパネ補強材1の必要強度が確保できる。
【0076】
但し、ステイ4の切り込み空間4e内に、インパネ補強材1の凹部2と凹部3とを設けた部分を収容(差し込み)するには、インパネ補強材1の凹部2の断面幅方向の両端の角部を、図3のような曲率急変の折れ線部5を形成せずに、図2のように鈍角に形成している方が差し込みやすい。
【0077】
素材アルミニウム合金:
インパネ補強材1あるいはステイ4などを構成する素材アルミニウム合金は、これら部材の断面形状や大きさ、あるいは厚みなどの形状要件に応じて、必要な曲げ強度と曲げ剛性とを確保するために高強度であることが好ましい。このため、この種構造部材用途に汎用される5000系、6000系、7000系等の高強度なアルミニウム合金、押出材用アルミニウム合金が適宜選択される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、インパネ補強材に、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材を用いることを前提に、自動車車体幅方向中央部での、他の車体部品との干渉回避を簡便に可能とするとともに、ステイとの接合面精度をも確保できる、低コストで生産可能なインパネ補強材およびその取り付け方法を提供することができる。したがって、本発明は、アルミニウム合金製インパネ補強材に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明インパネ補強材の取り付け例を示す斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】図1の別の態様の断面図である。
【図4】図1の別の態様の断面図である。
【図5】凹部をプレス成形にて形成する態様を示す断面図である。
【図6】凹部をプレス成形にて形成する別の態様を示す断面図である。
【図7】本発明の別の態様を示す断面図、一部拡大斜視図である。
【図8】本発明の別の態様を示す断面図である。
【図9】本発明の別の態様を示す断面図である。
【図10】本発明の別の態様を示す断面図である。
【図11】本発明の別の態様を示す斜視図である。
【図12】本発明の別の態様を示す斜視図、一部拡大断面図である。
【図13】本発明の別の態様を示す斜視図である。
【図14】本発明の別の態様を示す断面図、一部平面図である。
【符号の説明】
【0080】
1:インパネ補強材、2:干渉防止用凹部、3:ステイとの接合用凹部、4 :ステイ、 20:ブラケット、
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用インパネ補強材に関し、インパネ補強材に中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材を用いることを前提にした、インパネ補強材およびその取り付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車体では、車室内前方にステアリングコラムを支持するためのインパネ補強材(インパネリーンフォース、ステアリングサポートビーム、ステアリングハンバービーム、クロスカービームなどとも言う)が車体幅方向に設けられている。
【0003】
このインパネ補強材は、周知の通り、車体に対し略水平方向で車幅方向に対し平行に延在するように配置され、直接あるいは車体幅方向の端部に設けられたブラケットを介して車体フレームに取り付けられる。また、これととともに、車体中央付近に設置され、車体下方向あるいは前方向に向かって延在するステイと呼ばれる部品により、車体フロアあるいはダッシュパネルと連結される。
【0004】
このようなインパネ補強材では、種々の断面形状が選択される。また、他の車体部品との干渉を回避するために、直線状の形状ではなく、軸方向(長手方向)に曲げたり、スェージング加工などが施される場合もある。更に、軽量化、コスト、性能面から、その素材についても、鋼板、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの様々な素材が選択される。
【0005】
インパネ補強材には高強度や高剛性であることが要求される。即ち、車体走行時のステアリングの振動を防止するために、高い剛性が要求される。また、車体の前面衝突時において、車体前方からステアリングを介して伝わる車体後方への荷重、乗員の前方移動による車体前方への荷重、加えて、側面衝突時におけるインパネ補強材の軸方向への荷重に対しても、高い強度が要求される。更に、近年では、自動車車体の軽量化の観点から、これらの強度、剛性を確保した上で、さらにインパネ補強材を軽量化することが望まれている.
【0006】
アルミニウム合金は、従来から汎用されている鋼板に比べて軽量であることから、このようなインパネ補強材などのフレーム部品への適用も期待されている。したがって、これまでに、プレス成形あるいはロール成形で形成したアルミニウム合金板材、アルミニウム合金鋳造品あるいはアルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材が検討あるいは実用化されている。しかし、鋼板に比べて素材コストが高いことから、加工あるいは接合コストを出来るだけ抑えることが課題となる。
【0007】
インパネ補強材のようなフレーム部品において、剛性、強度要件を満足した上でより軽量化するためには、中空断面などの閉断面構造(中空閉断面部)を採用することが望ましい。このため、アルミニウム合金板材からインパネ補強材を含むフレーム部品を製造する場合、プレスあるいはロール加工後に接合を行い、中空断面などの閉断面構造を形成することが多い。しかし、このような板材からの構造では、溶接線長が長くなるために、接合(製造)コストが高いことが問題になる。
【0008】
インパネ補強材を鋳造により製造する場合については、他部品との取り付け部などを一体的に形成可能という利点はあるものの、前記中空閉断面部を形成することが難しいという問題がある。このため、コの字型などの開断面形状を採用し、強度、剛性確保のために補強リブを設けることが一般的であるが、この分、前記中空閉断面部品に比べて重量が重くなるという問題がある。
【0009】
この点、アルミニウム合金押出形材は、板材のように溶接を伴わずに予め前記中空閉断面部(閉断面空間)を持った直線状部品を、押出によって一体に製造可能という大きな利点がある。そして、インパネ補強材は、重量軽減と車体幅方向の荷重を受け持つために、車体に対し略水平方向で、車幅方向に対し平行に、直線的に設けることが望まれる。このため、アルミニウム合金押出形材を適用しやすい部品といえる。
【0010】
そこで、従来から、特許文献1などに代表されるように、長手方向に同一断面のアルミニウム合金押出形材を用いたインパネ補強材構造が提案されている。また、前記インパネ補強材の軸方向両端部を車体フレームに対して強固に接合可能で、かつ施工面や位置決め等で取り付けやすくしたインパネ補強材構造も、特許文献2、3など、種々提案されている。
【0011】
ただ、このような直線状のアルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材を用いる場合、他の車体部品との干渉回避が問題になる。特に、インパネ補強材の車体幅方向中央部近傍では、カーナビゲーションシステムやオーディオなどの装置、あるいはエアコンユニット等が配置され、室内空間の充実と操作性確保の観点から、これらの設置位置が優先されることが多い。つまり、インパネ補強材の方に、これらの他の車体部品との干渉回避部を設けることが要求される。
【0012】
従来から用いられていた鋼管製インパネ補強材の場合、このような干渉を回避するために、補強材の車体幅方向中央部を曲げ加工することも行われてきた.しかし、強度、剛性確保のために大型、厚肉化されてきている現在のインパネ補強材では、この曲げ加工時の破断、断面変形などの成形不良が生じやすくなっている。そして、鋼板に比べて成形性に劣るアルミニウム合金材料では、さらに、この曲げ加工が困難になるといえる。また、この曲げ加工により、インパネ補強材自体の長手方向(軸方向)の線長が長くなり、その分重量が増加するという問題もある。
【0013】
このため、特許文献4のように,運転席側と助手席側で断面形状の異なる管材を用い、両者を互いに接合することで、他の車体部品との干渉回避と部品設計適性化の両立を図ることが一般的に行われている。しかし、この方法でも、インパネ補強材の分割による部品点数の増加によるコストアップは避けられない。
【特許文献1】特開2003−34266号公報
【特許文献2】特開2007−8187号公報
【特許文献3】特開2006−193090号公報
【特許文献4】特許第3734651号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記した通り、インパネ補強材にアルミニウム合金押出形材を用いることができれば、押出によって一体に製造可能という大きな利点があり、インパネ補強材の重量軽減と車体幅方向の荷重を受け持つという基本特性からも適用しやすい。しかし、これも前記した通り、インパネ補強材にアルミニウム合金押出形材を用いる場合には、曲げ加工の難しさから、インパネ補強材他の車体部品との干渉回避と部品設計適性化の両立を図ることが難しい。
【0015】
また、インパネ補強材にアルミニウム合金押出形材を用いる場合、押出加工の特性上、ダイスの磨耗や押出冷却時の変形などにより、素材の形状精度にバラツキが生じやすく、接合部の形状精度を確保しにくいという問題もある。このため、軸方向の端部位置での形状誤差が大きくなり、前述のようなインパネ補強材を分割した場合のインパネ補強材同士の軸方向の端部位置での接合や、ステイなどの比較的長尺部品の端部との接合や取り付けが困難になることが多い。
【0016】
このような接合面の精度を確保する方法として、アルミニウム合金押出形材を部分的に機械加工するなども行われているが、コストアップが問題になる。また、別の方法としては、ハイドロフォーミング(液圧成形)の適用により、アルミニウム合金押出形材の中空閉断面部(閉断面空間)の内側から、圧力を加えて金型に押し付けることにより、長手方向に断面形状を変化させて、干渉回避部を設けるとともに、形状精度を確保するという加工方法も行われている。しかし、加工時間の増大や、歩留まり悪化などによるコストアップが問題になり、一般に普及するには至っていない。
【0017】
したがって、本発明の目的は、インパネ補強材に、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材を用いることを前提に、車体幅方向中央部での、他の車体部品との干渉回避を簡便に可能とするとともに、ステイとの接合面精度をも確保できる、低コストで生産可能なインパネ補強材およびその取り付け方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的を達成するための本発明インパネ補強材の要旨は、軸方向が自動車の車体幅方向となるように軸方向両端部が車体フレームに各々取り付けられたインパネ補強材であって、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材からなり、前記中空閉断面部をプレス成形によって変形させた、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、ステイとの接合用の凹部とを各々表面に有し、前記ステイとの接合用の凹部に、車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部が接合されており、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けられたことである。
【0019】
ここで、前記ステイとの接合用の凹部の接合面が、前記ステイの長手方向に対して直交していることが好ましい。
【0020】
また、上記目的を達成するための本発明インパネ補強材の取り付け方法の要旨は、インパネ補強材の取り付け方法であって、インパネ補強材を中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材から構成し、この中空閉断面部をプレス成形によって変形させて、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを各々表面に形成し、インパネ補強材の軸方向が自動車の車体幅方向となるように、前記中空閉断面部からなる軸方向両端部を車体フレームに各々取り付ける一方で、前記ステイとの接合用の凹部に車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部を接合して、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けたことである。
【0021】
ここで、前記他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを同じプレス成形工程にて形成することが好ましい。また、前記ステイとの接合用の凹部の接合面を、前記ステイの長手方向に対して直交させることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、アルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材の中空閉断面部を、プレス成形によって変形させて(中空閉断面部の潰し変形によって)、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、ステイの端部と接合する凹部とを、各々表面に一体に形成する。
【0023】
このように、本発明では、従来のように、インパネ補強材を長手方向に曲げることで、他の車体部品との干渉防止用の空間を確保するのではなく、インパネ補強材の中空閉断面部自体を、プレス成形によって形成し、他の車体部品との干渉防止用の空間を確保する。これによって、本発明は、インパネ補強材の車体幅方向(軸方向)中央部などでの、他の車体部品との干渉回避を簡便に可能とする。
【0024】
また、本発明では、ステイとの接合用凹部(ステイの端部と接合する凹部)を、同じく、インパネ補強材の中空閉断面部自体をプレス成形によって形成する。これによって、ステイとの接合面精度をも確保でき、簡便に取り付けることができる。
【0025】
インパネ補強材におけるステイとの接合面を、従来のように、押出ままの部位とした場合、前記した押出材の特性上、ステイとの接合面の形状精度にバラツキが生じやすく、形状誤差が大きくなるという問題がある。これに対して、本発明では、インパネ補強材におけるステイとの接合面をプレス成形により形成した凹部に設ける。このため、押出ままの部位における形状精度のバラツキや形状誤差を、プレス成形によってキャンセル(除去)した上で、ステイ上端部の接合面形状に適合した形状に成形するため、ステイとの接合面精度を確保できる。この結果、インパネ補強材におけるステイとの接合面の、溶接接合での欠陥の発生頻度の低下、車体への組み付け時の寸法不良などの問題が著しく生じにくくなる。
【0026】
しかも、これらの凹部は、いずれも、アルミニウム合金押出形材からなるインパネ補強材の中空閉断面部のプレス成形による変形(成形)によって作成されるために、比較的簡便に、低コストで、成形(生産) が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態について、図を用いて、以下に詳細に説明する。先ず、図1、2を用いて、本発明の自動車用インパネ補強材の実施態様を説明する。図1は、アルミニウム合金押出中空形材からなるインパネ補強材1を示す斜視図である。図2は、図1のA−A線での断面図である。図2において、点線7(上部の半円形状および下部の斜め直線状点線)が、ステイとの接合用凹部3や干渉防止用の凹部2を成形する前の、
元の中形材形状を示している(図3、4、7、9、10、12、14などの断面図でも共通)。なお、図1では、図の斜め左上側が車体前方方向、図2では図の左側が車体前方方向である。
【0028】
インパネ補強材の基本構成:
本発明において、前提となるインパネ補強材の基本構成自体は通常のものと同じである。即ち、図1において、インパネ補強材1は、その軸方向(長手方向)が自動車の車体幅方向(図の左下方向から右上方向)に延在するように設置される。この設置の場合、インパネ補強材1の長手方向(軸方向)の両端部1a(運転席側)、1b(助手席側)が、取り付け金具であるブラケット20、20を介して、図示しない車体フレームに取り付けられている。ブラケット20、20は、これも図示はしないが、常法では、車体フレーム側のブラケットなどを介して、車体フレームに取り付けられている。
【0029】
また、インパネ補強材1は、これも通常通り、車体の下方向あるいは前方向に向かって、互いに車体幅方向に間隔を開けて延在する、左右のステイ4、4により、車体幅方向(軸方向、長手方向)の中央部1cにて、図示しない車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けられている。なお、本発明で言う、前記中央部1cとは、軸方向の中央部一点のみではなく、図1のように、インパネ補強材が通常ステイによって支持乃至接合される範囲(領域)を含めた中央部付近の意味である。
【0030】
前記ブラケット20、20は、鋼製でもよいが、アルミニウム合金であるインパネ補強材1とは異種材料となるので、電食を防止するための市販の絶縁塗装乃至絶縁皮膜が必要となる。この点で、ブラケット20、20は、インパネ補強材1と同じく、アルミニウム合金の鋳造材や押出材、加工材などからなることが好ましい。
【0031】
インパネ補強材:
図1に示す通り、アルミニウム合金押出中空形材からなるインパネ補強材1は、他の車体部品との干渉防止用の上向き凹部を有する。このため、従来のような、他の車体部品との干渉を回避するための、車体幅方向中央部などの曲げ加工は不要である。言い換えると、インパネ補強材1は、その車体幅方向(軸方向) の全長に亙って、図1に示す通り、前記した押出形材の特徴でもある、直線状とすることができる。
【0032】
このことが本発明の利点でもあって、インパネ補強材を前記直線状とすることで、車体に対し略水平方向で、車幅方向に対し平行に、かつ直線的に設けることができる。したがって、インパネ補強材を前記直線状とできることは、重量を軽くした上で、車体幅方向の荷重を受け持つ必要がある、インパネ補強材の基本性能を発揮させる点で有利である。ただ、本発明では、他の車体部品との干渉回避目的ではなく、車体部品や車体の設計上やデザイン上の問題で、インパネ補強材を、その車体幅方向(軸方向) に曲げ加工などによって湾曲させるあるいは曲線状とすることは許容される。また、インパネ補強材1を溶接を伴わずに長手方向に一部品で形成していることで、前記特許文献4に見られるような2部品を接合する構成に比して、比較的低コストで生産可能であるとともに、形状精度も確保しやすい。
【0033】
また、図1、2の態様では、インパネ補強材(アルミニウム合金押出形材)1は、その車体幅方向(軸方向) の全長に亙って、下側の壁が平ら、上側の壁が半円形、車体前方側の壁が垂直状、という略円管状中空閉断面部を有する。インパネ補強材1の中空閉断面部の断面形状は、これに限らず、前記した要求される高剛性や高強度を満足でき、前記各凹部を成形できるものであれば、種々の断面形状が選択されうる。例えば、真円、楕円、半円、不定形な円などの円管状や、三角、四角、多角などの角管状、あるいは、これら以外の不定形と呼ぶべき断面形状が適宜選択されうる。また、その厚みも、汎用される1〜5mm程度の厚みが選択される。
【0034】
ただ、後述するように、他の車体部品との干渉防止用の上向き凹部を形成するためには、この上向き凹部形状への、インパネ補強材1の中空閉断面部の凹部成形面のプレス成形を阻害しない断面形状が好ましい。即ち、インパネ補強材1における凹部の成形面に、角部(稜線)が無いような、あるいは角部(稜線)が来ないような、インパネ補強材(アルミニウム合金押出形材)1の断面形状が好ましい。
【0035】
インパネ補強材用のアルミニウム合金は、後述するステイと同様に、比較的高強度なA6000系あるいはA7000系合金を用いることが好ましい。但し、インパネ補強材とステイとを全く同じアルミニウム合金とする必要性は必ずしも無い。
【0036】
ステイ:
この図1では、インパネ補強材1の中央部近傍に、車体の下方向に向かって、互いに車体幅方向に間隔を開けて延在する、左右の、断面がL字状のステイ4、4が2本取り付けられている。このステイ4、4は、その下端部4b、4bにおいて、図示はしない、車体の下方向に存在する車体フロアと、機械的に接合および/または溶接接合されており、インパネ補強材1を車体フロアに接続、固定する。
【0037】
L字状ステイ4、4は、勿論、後述する図7の通り、車体の前方向に向かって延在していても良いが、この場合には、下向きの凹部の向きが、ステイの延在方向に合わせて、後述する図4の通り、車体の前方向に向かうこととなる。
【0038】
このステイ4の形状について、直交する二辺からなる図1のL字状の他に、他部品との干渉回避の観点で許容される形状の範囲内で、必要な強度や剛性、あるいは接合部の形状を確保するための肉厚や形状が選択される。例えば、断面形状は、矩形断面、ハット型、コの字型などが便宜選択される。また、ステイ用のアルミニウム合金は、前記インパネ補強材用のアルミニウム合金と同じく、比較的高強度なA6000系あるいはA7000系合金あるいは溶接性を考慮して5000系合金を用いることが好ましい。この場合、ステイとしては、アルミニウム合金板材をプレス成形したものを用いても、押出形材を用いても良い。また、ステイ4の厚みも、汎用される0.8〜5mm程度の厚みが選択される。
【0039】
また、ステイ4の本数は、通常は図1のように中央部の2箇所、2本が用いられるが、本数は特に限定されず、必要本数とすれば良く、例えば、図11にインパネ補強材の斜視図を示す通り、前記図1の内のいずれか1箇所のみに(1本のみを)ステイ4を設けても良い。
【0040】
更に、図12にインパネ補強材1の斜視図と、ステイ4との接合部の部分拡大断面図とを両方示す通り、このステイ4のインパネ補強材1との接合部4aから、車体上方向に延長した上部片4cを設けても良い。この上部片4cは、インパネ補強材1よりも車体後方側に設けられるインストルメントパネル30との接合ブラケット(22は上部片4cとインストルメントパネル30との接合用クリップ)として利用可能である。このように、取り付けブラケットとステイを一体的に設けることで部品点数および溶接点数の削減ができる。
【0041】
ステイとの接合用凹部:
一方、図1において、インパネ補強材1の中央部1c近傍には、前記各ステイ4、4の各上端部4a、4aに各々対応する補強材下部の位置に、ステイとの接合用凹部3が、下向きに(上に向かってへこむよう)、間隔を開けて1個設けられている。即ち、この下向きの凹部3は、車体の下方向に向かって互いに車体幅方向に間隔を開けて延在する、左右のL字状のステイ4、4に各々対応している。そして、この下向きの凹部3は、アルミニウム合金押出形材の中央部(近傍)の下部の位置において、その中空閉断面部を、プレス成形により断面潰し変形させ、インパネ補強材1の表面に一体に形成したものである。
【0042】
このステイとの接合用の下向き凹部3は、車体幅方向で素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)3a、3bに挟まれた、平坦な底部3cからなる形状を有している。この底部2cは平坦でなくても、曲面(曲線状の斜面)であって良いが、要は、ステイ4、4の各上端部4a、4aの面形状と係合できる面形状である必要がある。
ここで、接合用凹部3の形状は、各ステイ4、4の各上端部4a、4aと係合する形状、大きさ、深さを有している。図1の態様では、各ステイ4、4の各上端部4a、4aの両方を収容して、係合しうる大きさ(面積)を有するステイとの接合用凹部3を1個、補強材1の中央部の下部に延在させている。ただ、このステイとの接合用凹部3は1個でなくとも、長手方向に並列でない位置であれば、各ステイ4、4の各上端部4a、4aに対応する形で、ふたつ以上設けても良い。
【0043】
図2の態様のように、ステイ接合部となる下向きの凹部3の接合面3aは、ステイとの溶接接合強度(継ぎ手強度)を確保するために、各ステイ4、4の各上端部4a、4aとの接合面の方向が、ステイ4、4の長手方向に対して直交している(垂直な面、直角な面)となるように形成されていることが好ましい。また、このように、ステイ4、4との接合用の凹部3の接合面の方向が、ステイ4、4の長手方向に対して直交(直角に)していると、ステイ4、4の端部4a、4aの切削などの加工が不要となり、ステイ4、4の歩留まり向上と、端部4a、4aの加工コストの低減が可能となる。
【0044】
図2において、左右いずれかのステイ4の上端部4aと、これに対応する下向きの凹部3の下向きの面3aとを示すように、ステイ4の上端部4aは、下向きの凹部3の下向きの面3aと係合し、互いに溶接接合されている。なお、左右いずれのステイ4も、これと同様に係合し、互いに溶接接合されている。
【0045】
図4は、L字状ステイ4が、前記した通り、車体の前方向に向かって延在しており、ステイ4は、車体前側(図の左側)のダッシュパネル(図示せず)と接合している場合を示す。この場合には、凹部3は、下向きではなく、ステイの延在方向に合わせて、図4の通り、車体の前方向側に設けられ、この前方向側に(図の左方向)に向かうこととなる。そして、図4においても、左右いずれかのステイ4の上端部4a(図では右端部)と、これに対応する凹部3の左向きの面3aとを示すように、ステイ4の上端部4aは、凹部3の左向きの面3aと係合し、互いに溶接接合されている。
【0046】
これらの凹部3と、ステイ4、4の各上端部4a、4aとの溶接接合は、MIG溶接、レーザー溶接などの、この種の溶接に汎用される溶接方法や条件が便宜選択できる。
【0047】
このように、ステイとの接合用凹部3を、インパネ補強材1の中空閉断面部自体のプレス成形によって潰し変形して設けるため、ステイとの接合面精度をも確保でき、簡便に取り付けることができる。しかも、ステイとの接合用凹部3は、アルミニウム合金押出形材からなる中空閉断面部のプレス成形による変形(成形)によって作成されるために、比較的簡便に、低コストで、成形(生産) が可能である。なお、ステイとの接合用凹部3は、接合面の形状精度が確保できれば良く、他の車体部品との干渉防止用凹部2のような大きな形状変化を設ける必要は無い。つまり、張出量自体を小さく設定してよいため、干渉防止用凹部2のような後述する折れ線(部)などを有する断面形状を採用する必要は無い。また、張出量が小さくても良いため、鋼板に比べて伸びの低いアルミニウム合金であっても、破断せずに容易に凹部を形成できる。
【0048】
他の車体部品との干渉防止用凹部:
図1において、インパネ補強材1の車体幅方向の中央部1c近傍には、他の車体部品との干渉防止用の上向きの凹部2(下に向かってへこむ)が設けられている。インパネ補強材1は、自動車車内の車体幅方向の中央部寄りの車体上側の位置に配置された室内機器(図示せず)との間に干渉が生じることが最も多い。したがって、これら室内機器である他の車体部品との干渉防止用凹部2は、図1の態様のように、インパネ補強材1の中央部1c近傍であって、その断面中心に対して、車体上側あるいは後側の位置に凹部を設けることが好ましい。
【0049】
図1の態様では、この干渉防止用の上向きの凹部2は、車体幅方向でインパネ補強材1の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)2a、2bに挟まれた、なだらかな曲面(なだらかな曲線状の斜面)を有する底部2cからなる、標準的な形状あるいは汎用される形状を有している。この底部2cは平坦であっても良いが、他の部材と接合する必要はなく、また、成形も難しいので、平坦である必要はなく、前記曲面(曲線状の斜面)であって良い。ただ、この凹部2を設ける位置や大きさ、形状、深さなどは、干渉を防止する対象となる、カーナビゲーションシステムやオーディオ装置あるいはエアコンユニット等の室内機器の配置位置や大きさ、形状などによって定まる。このため、これら室内機器の配置位置や大きさ、形状などに応じて、凹部2の配置位置や大きさ、形状、深さを選択し、これらの他の車体部品との干渉を防止(回避)した上で、インパネ補強材の、特に車体幅方向の中央部近傍などを、直線状とできる凹部2の大きさや形状、深さ、そして設ける位置が選択される。
【0050】
干渉防止用凹部2の配置位置は、インパネ補強材1の軸方向(長手方向)の位置や、その断面中心に対する位置を設定する。このため、凹部2を設ける位置は、インパネ補強材1の車体幅方向の中央部1cからずれたり、その断面中心に対する位置が、車体後側の位置になる場合もある。また、この凹部2の配置位置は、インパネ補強材1への基本的な要求特性(強度、剛性)の点も考慮される。例えば、インパネ補強材1の長手方向(軸方向)では、インパネ補強材1にステアリングが接続される中央部1cから運転席側の端部1a側寄りの方が、中央部1cから助手席側の端部1b寄りよりも、高強度、高剛性が必要である。したがって、中央部1cから運転席側(端部1a側寄りの方)の凹部2の設け方には、インパネ補強材1の高強度、高剛性の特性を低下させない制約が当然ある。一方、中央部1cから助手席側(端部1b寄りの方)の凹部2の設け方には、インパネ補強材1の特性からの制約があまり無い。したがって、例えば、インパネ補強材1の助手席側には、中央部1cから助手席側の端部1bに亙って、大きく、長く延在するような凹部2を設けても良い。
【0051】
干渉防止用凹部2は、アルミニウム合金押出形材からなる中空閉断面部のプレス成形による潰し変形(成形)によって作成されるために、設ける凹部2の大きさ、形状、深さには、後述する通り、中空閉断面部の大きさからくる制約や成形限界からくる制約がある。したがって、これら室内機器の大きさ、形状にも勿論よるが、設ける凹部2は1個のみとせず、数を増して複数個として、室内機器の配置位置や大きさ、形状などの設計変更も考慮しつつ、互いの干渉を防止しても良い。
【0052】
このように、他の車体部品との干渉防止用の凹部2は、前記ステイとの接合用凹部3と同様、インパネ補強材1の中空閉断面部自体のプレス成形によって形成される。このため、干渉防止用には比較的大きな凹部2が必要である。
【0053】
しかし、アルミニウム合金押出形材の素材伸びは、鋼板に比べて小さいため、本発明における凹部形成のための、張出変形を伴うようなプレス加工では破断が生じやすい。しかし、凹部2の変形前後の断面線長(元の形状7の断面線長)に大きな差異(変化)が無いように潰し加工すれば、アルミニウム合金押出形材であっても、破断なく成形可能である。また、凹み部2はプレス成形で形成されるため、比較的簡便に、低コストで、成形(生産) が可能である。
【0054】
図3に他の車体部品との干渉防止用の凹部2の好ましい態様を、図2と同じ断面図で示す。図2と図3との凹部2の大きな違いは、図3の凹部2では、断面幅方向の両端の角部(コーナー部)に、曲率急変部=曲率が急角度で変化する、曲げRが小さい角部として、折れ線(折れ線部)5が形成されている点である。
【0055】
この場合、図3に示すように、折れ線(部)5に囲まれた部分の断面形状が、断面外側に凸となる、明瞭な稜線のない曲線形状で形成されていることが望ましい。この図3の凹部2は、折れ線5の間の断面外側方向に、元の中空閉断面部の凸となる曲線部7を断面内側方向に凹ませる(潰し変形させる)ことで形成されている。
【0056】
このような折れ線5を有する図3の断面形状の場合、プレス加工による潰し変形に際して、この折れ線を起点に変形が生じるために、折れ線よりも外側のプレス成形を施さない部分での変形が抑制される。このため、凹み部以外の部分での形状精度が確保しやすく、安定的に凹み部を形成することができる。
【0057】
凹部の成形方法:
図5に、インパネ補強材1本体(アルミニウム合金押出形材)のプレス成形工程の態様を断面図で示す。図5(a)、(b)、(c)は、各々プレス成形工程の時間の経過を示している。この図5の態様では、前記他の車体部品との干渉防止用の凹部2と、前記ステイとの接合用の凹部3を同じプレス成形工程にて形成している。図5では、前記2つのステイ4、4との接合用の凹部3を、各々のステイ4、4に対応する2個に分割はせずに、前記図1のように1個に統合して成形している。
【0058】
凹部のプレス成形は、まず、図5(a)に示すように、素材アルミニウム合金押出形材10の両端部10a、10bから、中空閉断面部内に向かって、矢印で示すように、各々、拘束工具(中子)11a、11bを挿入する。この中子11a、11bの先端部形状は、形成する凹部(2、3、4)の最も凹み変形の大きい部分と対応している。
【0059】
次いで、図5(b)に示すように、押え工具(金型)14に対して、パンチ工具12、13を、素材アルミニウム合金押出形材10に対して、相対的に押し込むようにプレス成形する。これによって、この中子11a、11bによって、素材アルミニウム合金押出形材10閉断面空間内部の必要な領域を拘束してプレス加工することが可能になる、この結果、素材形材10を金型14に押し付けるように成形でき、必要な形状精度が確保できる。また、凹部2が素材形材10の長手方向に並列でない位置であれば、ふたつ以上あっても成形できる。
【0060】
この結果、図5(c)に示すように、他の車体部品との干渉防止用の上向き凹部2、およびステイとの接合用の下向き凹部3が形成される。干渉防止用の上向き凹部2は、図1で示したように、車体幅方向で素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)2a、2bに挟まれた、なだらかな曲面(曲線状の斜面)を有する平坦な底部1cからなる形状を有している。一方、ステイとの接合用の下向き凹部3も、車体幅方向で素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の中空閉断面部壁とつながる斜面からなる二つの周縁壁(端部壁)3a、3bに挟まれた、平坦な底部3cからなる形状を有している。
【0061】
図5のような工具構成とすることで、プレス成形終了後に、中子11a、11bを容易に引き抜くことができる。また、中子11a、11bは、その先端部で互いに面接触するようにしておくことで、プレス加工中に、これら中子が片持ち的に変形することなく、必要な工具剛性が確保できるため、精度の良いプレス加工が可能になる。また、凹部の形成に際して、断面外側に凸となる部位を断面内側に凹ませるようにプレス加工し、張出変形での伸びが大きくなり過ぎないように加工することもできる。
【0062】
図6に、素材アルミニウム合金押出形材10の長手方向に、干渉防止用の上向き凹部2を、凹部2が素材形材10の長手方向に並列に2個並べて、分割して形成する場合の態様を断面図で示す。このような場合、中央に、凹部2、2を隔てる張出部2dを形成するための空間11が、パンチ工具12側に設けられる。張出部2dを設けるためは、中子8a、8bの先端に、この形状に対応した凸部を設ける必要があるが、このような凸部を設けると、プレス成形終了後に中子を引き抜くことが困難になる。したがって、干渉防止用の凹部2および前記2つのステイ4、4との接合用の凹部3については、各々のステイ4、4に対応する2個に分割はせずに、前記図1のように1個に統合して成形する方が好ましい。
【0063】
また、凹部2や凹部3を分割して複数個設ける場合には、素材形材10の長手方向に並列でない位置に設けることが好ましい。長手方向に並列に凹み部を設けた場合には、前述のように、中間部分を金型で支持することができなくなり、所定の形状が得られない。
【0064】
素材アルミニウム合金押出形材の断面形状も凹部のプレス成形性に影響する。素材アルミニウム合金押出形材は、角管であるなど、角部を有していても良いが、特に、凹部2の形成部には、この角部が入ってこない断面形状を選択することが好ましい。凹部の形成部に、この角部が入った場合、この角部の部位が、プレス成形に対して抵抗することになり、成形性を低下させる。
【0065】
図7に、素材アルミニウム合金押出形材が角管であるなど、凹部2の形成部に、角部由来の稜線を有する場合の態様を、断面図と、一部を拡大した斜視図で示す。この場合、特に干渉防止用の凹部2の形成部には、素材アルミニウム合金押出形材10(インパネ補強材1)の角部12に由来する、稜線12が入っている。このため、凹部2のプレス成形時に、一部拡大斜視図に、13で示す面ひずみ(凸変形)や、点線14で示す稜線12の曲げぐせなどの、形状不良が発生、残留しやすくなり、凹部2のプレス成形性を低下させる。このため、干渉防止用の凹部2を形成する素材アルミニウム合金押出形材の中空部分については、その断面形状が、明瞭な稜線の無い、緩やかな曲線形状であることが好ましい。
【0066】
また、前記図3では、干渉防止用の凹部2の断面幅方向の両端の角部に、急角度で変化する(曲げRが小さい)折れ線5が形成されている、好ましい態様を説明したが、この態様は、凹部2のプレス成形性を向上させる点でも好ましい。図8に、この折れ線5の無い場合の、円管状素材アルミニウム合金押出形材のプレス成形時の変形形態を示す。同図の通り、折れ線5を設けない場合には、凹み形成部の周辺部15が、本来の凹み変形させる位置16に対して、断面外側に意図せずに変形してしまう。このため、凹み変形させる位置を正確に規定(限定)するためには、前記図3の態様のように、凹部2を形成する、凹み変形部の断面幅方向端部に折れ線5を設けて、変形範囲を限定するようにした方が好ましい。
【0067】
本発明のその他の実施態様:
本発明の実施態様について、他の車体部品との干渉防止用凹部2やステイとの接合用凹部3以外の部位については、他の車体部品と接合のためのフランジや、他の目的の閉断面空間が設けられていても良い。また、前記ステイの設け方や、前記凹部の設け方自体も、前記図1〜4の態様だけには限定されない。図9〜図14に、これら本発明の他の実施態様を具体的に示す。
【0068】
図9は、インパネ補強材とステイとの、前記図2と同様の断面図である。この図9は、インパネ補強材1を、フレームとしての強度、剛性が同等で、より軽量化することを目的に、インパネ補強材1の車体前方側に(図の左側に)閉断面空間17を設けて、断面の外側部分の断面積を大きくしたものである。この閉断面空間17は、別途設ける必要はなく、押出材の断面形状設計と押出工程により、インパネ補強材1に一体に設けることができる。この閉断面空間17は一つであることが望ましい。
【0069】
図10も、インパネ補強材とステイとの、前記図3と同様の断面図である。この図10は、他の車体部品と接合のためのL字型フランジ18を、インパネ補強材1の車体前方側に(図の左側に)設けたものである。このL字型フランジ18も、別途設ける必要はなく、押出材の断面形状設計と押出工程により、インパネ補強材1に一体に設けることができる。
【0070】
図11は、図1と同様のインパネ補強材とステイとの斜視図であって、前記した通り、インパネ補強材1の運転席側1箇所のみにステイ4を1本のみ設けたものである。
【0071】
図12も、図1と同様のインパネ補強材とステイとの斜視図であって、前記した通り、このステイ4のインパネ補強材1との接合部4aから、車体上方向に延長した上部片4cを設け、インストルパネルとの接合のためのブラケットとして利用したものである。
【0072】
図13、14は、インパネ補強材1の中央部1cの中空閉断面部をプレス成形によって変形させ、干渉防止用の凹部2を設けるに際して、中空閉断面部に予め切り込みを設ける態様を示している。インパネ補強材1の中空閉断面部を潰し加工する場合には、形状の遷移領域が必要となる。このため、設けられる干渉防止用の凹部2の大きさや深さには限界がある。これに対して、中空閉断面部に予め、線状の切り込みを設け、その切り込み部の長さに応じてプレス成形した場合、形材軸方向に急激に断面形状を変化させることが可能である。つまり、切り込みが無い場合には、破断防止のために必要な定常部と凹み部2cの間の遷移領域2aをなくすことが可能になる。
【0073】
具体的には、図14の断面図とともに掲載した参考図(インパネ補強材1への切り込み、潰し加工過程を示す平面図)に示すように、中空閉断面部の凹部2を設ける部位に、軸方向と直角方向に、線状の切り込み19を2本、間隔を開けて平行に予め設ける。そして、この2本の切り込みによって挟まれた中空閉断面部の部分のプレス成形による潰し加工によって、凹部2を形成する。
【0074】
図13の斜視図、図14に断面図で、ステイ4、4を取り付けた態様を示す通り、図13、14で示すインパネ補強材1にステイ4を取り付ける態様は、前記図1などと同じである。但し、この図13、14のステイ4は、図13の部分拡大図に示す通り、前記図12と同じく、このステイ4のインパネ補強材1との接合部4aから、車体上方向に延長した上部片4cを設けている。ただ、この図13では、前記図12と違って、インパネ補強材1に向かう横方向に向いた上部片4dを設けている。この上部片4dは、インパネ補強材1の凹部3とステイ4との係合に伴い、前記切り込み19およびプレス成形で形成される開口部2eを塞いでいる。
【0075】
これらの係合は、ステイ4の上部片4dに、インパネ補強材1の凹部2と凹部3とを設けた部分の断面形状に適合する断面形状を有する切り込み空間4eを設けて、この切り込み空間4e内に、インパネ補強材1の凹部2と凹部3とを設けた部分を収容(差し込み)することによって行う。この切り込み部4eは、インパネ補強材1の凹部3の下向きの面3aと係合する上端部4aを下方に有している。このようにステイ4の上部片4dで、インパネ補強材1の前記開口部2eを塞ぎ、互いに溶接接合することによって、インパネ補強材1の必要強度が確保できる。
【0076】
但し、ステイ4の切り込み空間4e内に、インパネ補強材1の凹部2と凹部3とを設けた部分を収容(差し込み)するには、インパネ補強材1の凹部2の断面幅方向の両端の角部を、図3のような曲率急変の折れ線部5を形成せずに、図2のように鈍角に形成している方が差し込みやすい。
【0077】
素材アルミニウム合金:
インパネ補強材1あるいはステイ4などを構成する素材アルミニウム合金は、これら部材の断面形状や大きさ、あるいは厚みなどの形状要件に応じて、必要な曲げ強度と曲げ剛性とを確保するために高強度であることが好ましい。このため、この種構造部材用途に汎用される5000系、6000系、7000系等の高強度なアルミニウム合金、押出材用アルミニウム合金が適宜選択される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、インパネ補強材に、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材を用いることを前提に、自動車車体幅方向中央部での、他の車体部品との干渉回避を簡便に可能とするとともに、ステイとの接合面精度をも確保できる、低コストで生産可能なインパネ補強材およびその取り付け方法を提供することができる。したがって、本発明は、アルミニウム合金製インパネ補強材に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明インパネ補強材の取り付け例を示す斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】図1の別の態様の断面図である。
【図4】図1の別の態様の断面図である。
【図5】凹部をプレス成形にて形成する態様を示す断面図である。
【図6】凹部をプレス成形にて形成する別の態様を示す断面図である。
【図7】本発明の別の態様を示す断面図、一部拡大斜視図である。
【図8】本発明の別の態様を示す断面図である。
【図9】本発明の別の態様を示す断面図である。
【図10】本発明の別の態様を示す断面図である。
【図11】本発明の別の態様を示す斜視図である。
【図12】本発明の別の態様を示す斜視図、一部拡大断面図である。
【図13】本発明の別の態様を示す斜視図である。
【図14】本発明の別の態様を示す断面図、一部平面図である。
【符号の説明】
【0080】
1:インパネ補強材、2:干渉防止用凹部、3:ステイとの接合用凹部、4 :ステイ、 20:ブラケット、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向が自動車の車体幅方向となるように軸方向両端部が車体フレームに各々取り付けられたインパネ補強材であって、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材からなり、前記中空閉断面部をプレス成形によって変形させた、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、ステイとの接合用の凹部とを各々表面に有し、前記ステイとの接合用の凹部に、車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部が接合されており、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けられたことを特徴とするインパネ補強材。
【請求項2】
前記ステイとの接合用の凹部の接合面が、前記ステイの長手方向に対して直交している請求項1に記載のインパネ補強材。
【請求項3】
インパネ補強材の取り付け方法であって、インパネ補強材を中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材から構成し、この中空閉断面部をプレス成形によって変形させて、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを各々表面に形成し、インパネ補強材の軸方向が自動車の車体幅方向となるように、前記中空閉断面部からなる軸方向両端部を車体フレームに各々取り付ける一方で、前記ステイとの接合用の凹部に車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部を接合して、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けたことを特徴とするインパネ補強材の取り付け方法。
【請求項4】
前記他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを同じプレス成形工程にて形成した請求項3に記載のインパネ補強材の取り付け方法。
【請求項5】
前記ステイとの接合用の凹部の接合面を、前記ステイの長手方向に対して直交させた請求項3または4に記載のインパネ補強材の取り付け方法。
【請求項1】
軸方向が自動車の車体幅方向となるように軸方向両端部が車体フレームに各々取り付けられたインパネ補強材であって、中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材からなり、前記中空閉断面部をプレス成形によって変形させた、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、ステイとの接合用の凹部とを各々表面に有し、前記ステイとの接合用の凹部に、車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部が接合されており、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けられたことを特徴とするインパネ補強材。
【請求項2】
前記ステイとの接合用の凹部の接合面が、前記ステイの長手方向に対して直交している請求項1に記載のインパネ補強材。
【請求項3】
インパネ補強材の取り付け方法であって、インパネ補強材を中空閉断面部を有するアルミニウム合金押出形材から構成し、この中空閉断面部をプレス成形によって変形させて、他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを各々表面に形成し、インパネ補強材の軸方向が自動車の車体幅方向となるように、前記中空閉断面部からなる軸方向両端部を車体フレームに各々取り付ける一方で、前記ステイとの接合用の凹部に車体の下方向あるいは前方向に向かって延在するステイの端部を接合して、このステイを介してその軸方向の中央部が車体フロアあるいはダッシュパネルに取り付けたことを特徴とするインパネ補強材の取り付け方法。
【請求項4】
前記他の車体部品との干渉防止用の凹部と、前記ステイとの接合用の凹部とを同じプレス成形工程にて形成した請求項3に記載のインパネ補強材の取り付け方法。
【請求項5】
前記ステイとの接合用の凹部の接合面を、前記ステイの長手方向に対して直交させた請求項3または4に記載のインパネ補強材の取り付け方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−52487(P2010−52487A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217078(P2008−217078)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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