説明

インホイールモータ駆動装置およびモータの制御方法

【課題】 モータの水分による短絡異常を早期に検知し、車両走行上の問題を回避し得るインホイールモータ駆動装置およびモータの制御方法を提供する。
【解決手段】 このインホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4、モータ6、およびこのモータ6と車輪用軸受4との間に介在した減速機7を有する。モータ6の端子台6a付近に、モータ6内の水分を検出する水分検出手段Skを設け、水分検出手段Skによる水分の検出信号が設定状態になったか否かを監視し、設定状態になったと判定したときに、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する水分検出対応制御手段95を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、電気自動車等の駆動輪に用いられるインホイールモータ駆動装置およびモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、車両駆動のためのモータの故障は重大な影響を与える。特に、インホイールモータ駆動装置では、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受、減速機、およびモータは、材料使用量の削減、モータの高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。
インホイールモータ駆動装置において、信頼性確保のために、車輪用軸受、減速機、およびモータ等の温度を測定して過負荷を監視し、温度測定値に応じてモータの駆動電流の制限や、モータ回転数を低下させるものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−168790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インホイールモータ駆動装置では、モータが車輪付近にあって路面環境に曝され、またそのためモータが水没してしまうおそれがある。
バッテリ駆動の電気自動車駆動装置では、限られたバッテリ容量下で航続距離を向上させるため、ネオジウム系磁石を使った高効率性能を有するIPM型の同期モータ(埋込磁石型同期モータ)が利用される。この同期モータは、モータコイルの短絡異常が発生すると、モータ内での発電現象によるブレーキ力が生じる。特に、車両が高速走行している場合には、モータは高速回転状態にあり、その状況下でモータコイルの短絡異常が起こった場合には、走行上問題がある。
さらに、モータコイルの短絡異常が発生すると、モータの回転により常時ブレーキがかかる状態となるため、外部車両による牽引による車両移動も容易にできないといった問題もある。
さらには、モータ6を駆動するインバータ装置22のパワー回路部29を破損させる可能性もある。
【0005】
この発明の目的は、モータの水分による短絡異常を早期に検知し、車両走行上の問題を回避し得るインホイールモータ駆動装置およびモータの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のインホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4、モータ6、およびこのモータ6と前記車輪用軸受4との間に介在した減速機7を有するインホイールモータ駆動装置において、前記モータ6の端子台6a付近に、モータ6内の水分を検出する水分検出手段Skを設けたことを特徴とする。
【0007】
インホイールモータ駆動装置8におけるモータ6は、車輪付近にあり路面環境に曝される。この構成によると、モータ6の端子台6a付近に設けた水分検出手段Skは、常時、モータ6内つまりモータハウジング72内の水分を検出する。インホイールモータ駆動装置8は、この水分の検出信号に基づいて、例えば、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する。水分検出手段Skが水分を検出すると、モータ6の配線が短絡し易い状態になったと推定されるからである。これにより、モータ6について例えば高速回転状態で短絡異常が起こることを、未然に防止することができる。したがって、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。また、モータ6内の配線は、被覆を有しているが、端子台6aの付近では、接続のために露出していることがあり、モータ6内に水分が浸入した際に短絡が生じ易い。そのため、端子台6aの付近に水分検出手段Skを設けることで、効果的に短絡異常を検出することができる。
【0008】
前記端子台6aは複数の端子96を有し、これら端子96がモータ6のハウジング72内に収容されていても良い。このような箇所に設置される複数の端子付近に水分検出手段Skを設けることで、通電路100の露出部分の空間内の水分を正確に検出することができ、短絡を招く水分を確実に検出できると共に、誤検出を防ぐことが可能となる。
【0009】
前記水分検出手段Skによる水分の検出信号が設定した閾値を超える状態になったか否かを監視し、閾値を超える状態になったと判定したときに、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する水分検出対応制御手段95を有するものであっても良い。水分検出手段Skによる検出信号が設定した閾値を超える状態になった場合、車輪付近に設置されるモータ6が短絡し易い状態になっていると推定される。そのため、水分検出対応制御手段95は、閾値を超える状態になったと判定したときに、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する。このようにモータ6の異常を早期に検知し、車両走行上の問題を回避することができる。
【0010】
車両に搭載されるバッテリ19の直流電流を前記モータ6の駆動に用いる交流電流に変換するインバータ31を含むパワー回路部28と、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21の制御に従って少なくとも前記パワー回路部28を制御するモータコントロール部29とを有するインバータ装置22に、水分検出対応制御手段95を設けたものとしても良い。水分検出対応制御手段95をインバータ装置22に設けることで、ECU21に設ける場合に比べて迅速な制御が行え、車両走行上の問題を迅速に回避することができる。また高機能化により煩雑化が進むECU21の負担を軽減することができる。
前記水分検出対応制御手段95を、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21に設けても良い。
【0011】
前記水分検出手段Skは、導通センサまたは電気化学センサであっても良い。
前記モータ6はネオジウム系の永久磁石を用いた埋込磁石型同期モータであっても良い。オジウム系の永久磁石を用いた埋込磁石型同期モータは高効率性能を有するため、限られたバッテリ容量下で車両の航続距離を向上させることができる。また、埋込磁石型同期モータを用いる場合に、モータコイル78の短絡異常を未然に防止することができるので、モータ内の発電現象によるブレーキ力が生じることを回避し得る。
【0012】
前記減速機7は、サイクロイド型の高減速比を有するものであっても良い。減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/6以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、インホイールモータ駆動装置8のコンパクト化を図ることができる。しかし、高い減速比を有する減速機を利用すると、コンパクト化が図られる半面、減速比を高くした分、モータ6の回転トルクは拡大してタイヤ2に伝達されるため、モータコイル78の短絡異常による急ブレーキ状態を未然に防止することができるので、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。
【0013】
この発明のモータの制御方法は、車輪2をモータ6により駆動する電気自動車の前記モータ6の制御方法であって、前記モータ6のハウジング72内に水分が浸入したか否かを判断する過程と、前記過程で前記ハウジング72内に水分が浸入したと判断したとき、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する過程を有する。このようにモータ6のハウジング72内に水分が浸入したと判断したとき、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断することで、モータ6について例えば高速回転状態で短絡異常が起こることを、未然に防止することができる。したがって、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明のインホイールモータ駆動装置は、車輪用軸受、モータ、およびこのモータと前記車輪用軸受との間に介在した減速機を有するインホイールモータ駆動装置において、前記モータの端子台付近に、モータ内の水分を検出する水分検出手段を設けたため、モータの水分による短絡異常を早期に検知し、車両走行上の問題を回避することができる。
この発明のモータの制御方法は、車輪をモータにより駆動する電気自動車の前記モータの制御方法であって、前記モータのハウジング内に水分が浸入したか否かを判断する過程と、前記過程で前記ハウジング内に水分が浸入したと判断したとき、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する過程を有するため、モータの水分による短絡異常を早期に検知し、車両走行上の問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を有する電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車のインバータ装置に水分検出対応制御手段を設けた概念構成のブロック図である。
【図3】(A)は同インホイールモータ駆動装置の破断正面図、(B)は同インホイールモータ駆動装置のモータの端子台付近の断面図、(C)は、水分検出手段の一例を示す正面図である。
【図4】図3(A)のIV-IV 線断面となるモータ部分の断面図である。
【図5】図3(A)のV−V線断面となる減速機部分の断面図である。
【図6】図5の部分拡大断面図である。
【図7】この発明の他の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置における制御系の概念構成のブロック図である。
【図8】同インホイールモータ駆動装置におけるモータ駆動装置の回路構成例を示す概略図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置における制御系の概念構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を図1ないし図6と共に説明する。以下の説明はモータの制御方法についての説明をも含む。このインホイールモータ駆動装置は電気自動車に搭載される。この電気自動車は、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4,5は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。このインホイールモータ駆動装置8は、後述する水分検出手段と、水分検出対応制御手段とを有する。インホイールモータ駆動装置8は、インホイールモータユニットとも称される。各車輪2,3には、電動式のブレーキ9,10が設けられている。
【0017】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0018】
図3(A)に示すように、インホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪である車輪2(図2)のハブとモータ6(図3(A))の回転出力軸74とを同軸心上で連結してある。減速機7は、減速比が1/6以上のものであるのが良い。この減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0019】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0020】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0021】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0022】
モータ6は、円筒状のハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。
【0023】
図3(A)に示すように、前記モータ6の端子台6aの内部に、モータ6内の水分を検出する水分検出手段Skを設けている。前記モータ6内とは、図3(B)に示すように、モータ6のハウジング72内の空間である。またモータ6内の配線は被覆を有しているが、端子台6a付近では、配線や接続端子から成る導電路100が露出している。したがって導電路100が露出した端子台6aの付近では、モータ6内に水分が浸入した際に短絡が生じ易い。そのため、ハウジング72内の端子台6aの付近に、水分検出手段Skを設けることで、効果的に短絡異常を検出することができる。
水分検出手段Skとして、例えば、導通センサまたは電気化学センサ等が適用される。図3(C)に示すように、前記導通センサは、2個の端子Sk1,Sk2を有し、これらの端子Sk1,Sk2がいずれも水に浸った状態で導通する構造のセンサである。電気化学センサとしては、例えば、複数個の電極を有し、各電極間に生じる電気化学的電流ノイズに基づく測定データから水分を検出するセンサが適用される。この水分検出手段Skは、後述の水分検出対応制御手段95に電気的に接続されている。図3(B)に示すように、端子台6aは複数(この例では3つ)の端子96を有し、これら端子96がモータ6のハウジング72内に収容されている。これら複数の端子96は、モータ6内の各相の配線とモータ6外の配線とを接続する端子であって、モータ6内の配線と接続されており、モータ6外の配線の端部に設けられた配線側の端子101を、ねじ止めするものであっても、差込み接続するものであっても良い。複数の端子96は、ハウジング72内における油が掛からない箇所に設置される。このようなハウジング72内の箇所に設置される複数の端子6a付近に水分検出手段Skを設けることで、前記通電路100の露出部分の空間内の水分を正確に検出し得る。
【0024】
図4は、モータの断面図(図3(A)のIV-IV 断面)を示す。モータ6のロータ75は、軟質磁性材料からなるコア部79と、このコア部79に内蔵される永久磁石80から構成される。永久磁石80は、隣り合う2つの永久磁石がロータコア部79内の同一円周上で断面ハ字状に向き合うように配列される。永久磁石80にはネオジウム系磁石が用いられている。ステータ73は軟質磁性材料からなるコア部77とコイル78で構成される。コア部77は外周面が断面円形とされたリング状で、その内周面に内径側に突出する複数のティース77aが円周方向に並んで形成されている。コイル78は、ステータコア部77の前記各ティース77aに巻回されている。
【0025】
図3に示すように、モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。角度センサ36はレゾルバであっても良い。このモータ6では、その効率を最大にするため、角度センサ36の検出するモータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度に基づき、モータステータ73のコイル78へ流す交流電流の各波の各相の印加タイミングを、モータコントール部29のモータ駆動制御部33によってコントロールするようにされている。
【0026】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図5のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0027】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0028】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0029】
図6に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0030】
図3において、このインホイールモータ駆動装置8の車輪用軸受4は、減速機7のハウジング83bまたはモータ6のハウジング72の外周部で、ナックル等の懸架装置(図示せず)を介して車体に固定される。
【0031】
図1において、制御系を説明する。自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うインバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0032】
ECU21は、機能別に大別すると駆動制御部21aと一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令を生成し、インバータ装置22へ出力する。駆動制御部21aは、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4,5に設けられた回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0033】
ECU21の一般制御部21bは、前記ブレーキ操作部17の出力する減速指令をブレーキコントローラ23へ出力する機能、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示装置27に表示を行う機能などを有する。表示装置27は、液晶表示装置等の画像を表示可能なものである。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、アエバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0034】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される減速指令に従って、各車輪2,3のブレーキ9,10に制動指令を与える手段である。ECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。ブレーキコントローラ23は、電子回路やマイコン等により構成される。
【0035】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントール部29とで構成される。モータコントール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部28を、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントール部29は、このモータコントール部29が持つインホイールモータ駆動装置8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECUに出力する機能を有する。
【0036】
図2は、インバータ装置に水分検出対応制御手段を設けた概念構成のブロック図である。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ等からなる。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0037】
モータコントール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部33を有している。モータ駆動制御部33は、上位制御手段であるECUから与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部33は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流検出手段35から得て、電流フィードバック制御を行う。また、モータ駆動制御部33は、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御を行う。
【0038】
この実施形態では、インバータ装置22における上記構成のモータコントロール部29に、水分検出対応制御手段95および異常報告手段41を設けている。ECU21には異常表示手段42を設けている。水分検出対応制御手段95は、水分検出手段Skによる水分の検出信号が設定した閾値を超える状態になったか否かを監視する判定部39と、設定状態になったと判定したときに、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する制御部40とを有する。
【0039】
水分検出手段Skとして前記導通センサが適用される場合、モータ電流が流れている状態で導通センサの2個の端子がいずれも浸水すると導通し、導通センサは判定部39に検出信号を送る。判定部39は、例えば、この検出信号があったか、または定められた時間続いて検出されるか否か、または定められた時間内における検出信号の回数を監視する。導通センサが定められた時間を超えて導通する、または定められた時間内における検出信号の回数が所定回数以上となった場合、モータ6の配線が短絡し易い状態になったと推定されるからである。なお、このモータ6を水没させる試験を予め行い、ハウジング72内への浸水の影響によりモータコイルの短絡異常が発生した限界時間を複数サンプル調査する。これらの限界時間よりも短い、つまり余裕を持たせた時間を前記定められた時間とする。
【0040】
水分検出手段Skとして前記電気化学センサが適用される場合、電気化学センサは、モータ電流が流れている状態で各電極間に生じる電気化学的電流ノイズに基づくデータつまり検出信号を得る。検出信号は例えば電圧値によって表される。判定部39は、この検出信号があったか、または検出信号が閾値を超えるか否かを監視する。この場合にも、モータを水没させる試験を予め行い、ハウジング内への浸水の影響によりモータコイルの短絡異常が発生したときの、電気化学センサの電圧値を複数サンプル調査する。これらの電圧値よりも低い電圧値を、前記閾値とする。なお、この電気化学センサについて、前記導通センサの場合と同様に、判定部39は、例えば、電気化学センサからの検出信号が定められた時間続いて検出されるか否か、または定められた時間内における検出信号の回数を監視するようにしても良い。
【0041】
判定部39により検出信号が設定状態になったと判定されたとき、制御部40は、モータ6に流すモータ電流に制限を与える。つまりインバータ装置22の出力に制限を与える。これと共に、異常報告手段41がECU21に異常の報告を行い、その異常の報告により、ECU21の異常表示手段42が運転席の表示装置27に異常の表示を行う。ECU21は、この他に、制御部40によるインバータ装置22の出力に制限に対応した制御を行う。なお、導通センサまたは電気化学センサから、判定部39に検出信号が送られたとき、制御部40は、モータ6に流すモータ電流に制限を与えるようにしても良い。
判定部39により検出信号が設定状態になったと判定されたとき、制御部40は、モータ6に流すモータ電流を「0」Aとする、つまりモータ電流を遮断するようにしても良い。
【0042】
このように水分検出対応制御手段95は、水分検出手段Skによる検出信号に基づいて、モータ電流に制限を与えるか、またはモータ電流を遮断するため、モータ6について例えば高速回転状態で短絡異常が起こることを、未然に防止することができる。モータ電流を遮断した場合、モータ6の回転を早期に止めることでモータコイル78が焼付き等に至ることを未然に防止できる。したがって、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。このようにモータ6の異常を早期に検知し、車両走行上の問題を回避することができる。複数の端子付近に水分検出手段Skを設けることで、前記通電路100の露出部分の空間内の水分を正確に検出することができ、短絡を招く水分を確実に検出できると共に、誤検出を防ぐことが可能となる。
【0043】
水分検出対応制御手段95をインバータ装置22に設けることで、ECU21に設ける場合に比べて迅速な制御が行え、車両走行上の問題を迅速に回避することができる。また高機能化により煩雑化が進むECU21の負担を軽減することができる。前記モータ6がネオジウム系の永久磁石を用いた高効率性能を有する埋込磁石型同期モータであるため、限られたバッテリ容量下で車両の航続距離を向上させることができる。
異常報告手段41はECU21に異常の報告を行い、その異常の報告により、ECU21の異常表示手段42が運転席の表示装置27に異常の表示を行うため、運転者は、その異常を直ぐに認識することができて、車両の停止や徐行、修理工場への走行など、運転者により迅速に適切な処置を行うことができる。
【0044】
減速機7は、サイクロイド型の1/6以上の高減速比(より具体的には1/10以上の高減速比)を有するものであるため、モータ6の小型化を図り、インホイールモータ駆動装置8のコンパクト化を図ることができる。減速比を高くした場合、モータ6は高速回転するものが用いられる。モータ6が高速回転状態のとき、前記のように水分検出手段Skによる検出信号に基づきモータコイル78に短絡異常が起こることを、未然に防止することができるので、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。
【0045】
この発明の他の実施形態について説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0046】
図7は、他の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置における制御系の概念構成のブロック図であり、図8は、同インホイールモータ駆動装置におけるモータ駆動装置の回路構成例を示す概略図である。この例においては、インバータ31は、図8に示すように、スイッチングトランジスタ等の各駆動素子97に接続された各相の内部配線と出力端子98との間に、例えば、電磁接触器または電磁開閉器からなる開閉スイッチ99が設けられる。図7および図8に示すように、前記制御部40が各開閉スイッチ99に電気的に接続されている。
【0047】
モータ電流が流れている通常状態において、制御部40は、各開閉スイッチ99を開状態に制御している。判定部39により検出信号が設定状態になったと判定されたとき、制御部40は、各開閉スイッチ99を閉状態に切換えるようになっている。これによりモータ電流が遮断される。したがって、車両が急激に走行不能に陥ることを回避することができる。このようにモータ6の異常を早期に検知し、車両走行上の問題を回避することができる。
【0048】
図9に示すように、水分検出対応制御手段95を、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21に設けても良い。この場合に、図9(A)に示すように、制御部40が、モータ駆動制御部33に電気的に接続され、インバータ装置22の出力に制限を与えるようにしても良い。また、図9(B)に示すように、制御部40が、パワー回路部28におけるインバータ31の各電磁接触器99(図8参照)に電気的に接続され、各電磁接触器99の開閉位置を切換え制御するようにしても良い。
このインホイールモータ駆動装置は、電気自動車だけでなく燃料電池車、ハイブリッド車にも適応することができる。
【符号の説明】
【0049】
4,5…車輪用軸受
6…モータ
6a…端子台
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
19…バッテリ
21…ECU
28…パワー回路部
29…モータコントール部
31…インバータ
72…ハウジング
95…水分検出対応制御手段
Sk…水分検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪用軸受、モータ、およびこのモータと前記車輪用軸受との間に介在した減速機を有するインホイールモータ駆動装置において、
前記モータの端子台付近に、モータ内の水分を検出する水分検出手段を設けたことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、前記端子台は複数の端子を有し、これら端子がモータのハウジング内に収容されているインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記水分検出手段による水分の検出信号が設定状態になったか否かを監視し、設定状態になったと判定したときに、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する水分検出対応制御手段を有するインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
請求項3において、車両に搭載されるバッテリの直流電流を前記モータの駆動に用いる交流電流に変換するインバータを含むパワー回路部と、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部とを有するインバータ装置に、水分検出対応制御手段を設けたインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
請求項3において、前記水分検出対応制御手段を、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUに設けたインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記水分検出手段は、導通センサまたは電気化学センサであるインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記モータがネオジウム系の永久磁石を用いた埋込磁石型同期モータであるインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記減速機は、サイクロイド型の高減速比を有するインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
車輪をモータにより駆動する電気自動車の前記モータの制御方法であって、
前記モータのハウジング内に水分が浸入したか否かを判断する過程と、
前記過程で前記ハウジング内に水分が浸入したと判断したとき、モータ電流に制限を与えるかまたはモータ電流を遮断する過程
を有するモータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−176650(P2012−176650A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39853(P2011−39853)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】