説明

ウレタン発泡成形体およびその製造方法

【課題】 新しい構造を持つウレタン発泡成形体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ウレタン発泡成形体は、一端から他端に向かって連通するよう配向された空孔を持つ発泡本体を有する。このウレタン発泡成形体は、発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とを混合した混合材料を発泡型に注入し、該発泡型の一端から他端に向かう磁場中で発泡させることにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン発泡成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン発泡成形体は、クッション材、吸音材、振動吸収材等として、日用品、自動車、建築等の様々な分野で多用されている(例えば、特許文献1、2参照)。ウレタン発泡成形体の特性は、セルと呼ばれる小さな気泡の大きさ、形状、開口性等により異なる。このため、セルの構造は、ウレタン発泡成形体の設計において重要である。
【0003】
例えば、特許文献3には、原料となるポリイソシアネート成分およびポリオール成分の配合量や、発泡剤や整泡剤の配合量等により、セルの大きさを調整できる旨記載されている。また、特許文献4には、磁性体を配合した発泡ウレタン樹脂原料を用い、一方向から磁場をかけて磁性体を引きつけながら発泡させることにより、密度が偏ったウレタン発泡成形体を得る技術が紹介されている。
【特許文献1】特表2002−511917号公報
【特許文献2】特開2005−48023号公報
【特許文献3】特開平11−230157号公報
【特許文献4】特開2006−181777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、自動車等に搭載される衝撃吸収部材にウレタン発泡成形体を使用した場合には、必要な剛性を確保しつつ、衝撃により自身が座屈等で変形することにより、衝撃エネルギーを吸収することが要求される。また、サスペンションを車体に支持するためのアッパーサポートにウレタン発泡成形体を使用した場合には、乗り心地という観点から車両上下方向の柔らかさが、操縦安定性の観点から水平方向の硬さが要求される。このように、用途に応じて、ウレタン発泡成形体には多様な特性が求められている。
【0005】
しかしながら、従来はセルの大きさや密度等を調整できるにとどまり、セル構造そのものを制御することはできなかった。よって、所望の特性を得ることが難しかった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、新しい構造を持つウレタン発泡成形体、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明のウレタン発泡成形体は、一端から他端に向かって連通するよう配向された空孔を持つ発泡本体を有することを特徴とする(請求項1に対応)。すなわち、発泡本体は、従来のように規則性、方向性を有しないセルではなく、配向された空孔を持つ。ここで、「配向された空孔」とは、ある規則性を持って所定の方向に配置された空孔をいう。「一端」と「他端」とは、必ずしも180度対向している必要はない。例えば、空孔は、一端と他端との間に直線状に形成されていても、曲線状に形成されていてもよい。また、中心から外周に向かって放射状に形成されていてもよい。また、これらの形状を組み合わせた形状に形成されていてもよい。また、空孔は、一端から他端に向かって連通している。このため、発泡本体の一端または他端を平面視すると、発泡本体を貫いている空孔の開口部が観察される。
【0008】
このような発泡本体を有する本発明のウレタン発泡成形体は、上述した空孔構造を持つことによる特性と、ウレタン発泡材料由来の特性と、が複合された特性を発揮する。例えば、本発明のウレタン発泡成形体は、空孔の配向方向において剛性が高い。これは、空孔の配向性によると考えられる。また、空孔の配向方向に荷重を加えると、ある荷重において座屈し、エネルギー減衰性を示す。これは、ウレタン発泡材料由来の特性に空孔構造による特性が加わったことによると考えられる。さらに、加えた荷重を取り除くと復元する。これは、ウレタン発泡材料由来の特性によると考えられる。
【0009】
また、空孔の配向方向における特性と、該配向方向と交差する方向における特性とが異なる。つまり、本発明のウレタン発泡成形体は、異方性を有する。したがって、異方性が要求される用途、例えば、車両のサスペンション用アッパーサポートのゴム部材、衝撃吸収用のバウンドストッパー等として好適である。
【0010】
(2)また、本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とを混合し混合材料を調製する混合材料調製工程と、該混合材料を発泡型に注入し、該発泡型の一端から他端に向かう磁場中で発泡させる発泡工程と、を有することを特徴とする(請求項9に対応)。
【0011】
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法では、発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とを混合した混合材料を使用する。磁気粘性流体は、溶媒中に強磁性を有する微粒子が高濃度で分散された流体である。磁気粘性流体に磁場が加わると、分散していた磁性体粒子が磁界の方向に沿って連結し、鎖状のクラスターを形成する。このため、磁気粘性流体の粘度は急激に上昇する。磁場中での発泡成形時には、磁気粘性流体は増粘すると共に、磁界の方向、すなわち発泡型の一端から他端の方向に配向する。
【0012】
発泡工程における反応は以下のように考えられる。図11に、発泡工程における反応の一部をモデル図で示す。図11(a)に示すように、発泡工程では、発泡ウレタン樹脂原料90中に気泡92が生成される。気泡92の膜(泡膜)920表面は、発泡ウレタン樹脂原料90に含まれる整泡剤900により安定化されている。発泡ウレタン樹脂原料90には磁気粘性流体91が混合されている。磁気粘性流体91は、溶媒910中に磁性体粒子911が分散されてなる。気泡92が生成されると、磁気粘性流体91は、泡膜920に侵入する。つまり、溶媒910がキャリアとなり、磁性体粒子911が泡膜920に侵入する。一方、溶媒910は破泡作用を有する。よって、泡膜920に侵入した溶媒910により、図11(b)に示すように、気泡92は破壊される。ここで、磁場が加わると(図中、磁場は上下方向)、磁性体粒子911の配向により泡膜920が流動し、ウレタン発泡成形体の骨格が形成される。その結果、一端から他端に向かって連通するよう配向された空孔が形成される。
【0013】
このように、本発明の製造方法によると、上記本発明のウレタン発泡成形体を簡便に製造することができる。また、発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とは共に液体である。よって、両者の混合状態は良好であり、粉末の磁性体を使用する場合に生じる粉末粒子の沈降、分散性不良という問題は生じない。また、粉末の磁性体を使用する場合に比べて取り扱いも容易であり、設備への負担も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のウレタン発泡成形体およびその製造方法の実施形態について説明する。なお、本発明のウレタン発泡成形体およびその製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0015】
<ウレタン発泡成形体>
上述したように、本発明のウレタン発泡成形体は、一端から他端に向かって連通するよう配向された空孔を持つ発泡本体を有する。発泡本体の空孔は、一端から他端に向かって連通していればよく、個々の空孔同士が途中で連通していても構わない。また、発泡本体の端面に表出している空孔(開口部)の形状、大きさ、単位面積当たりの数等は、特に限定されるものではない。これらは、原料や発泡の方法、条件等により調整することができるため、用途に応じて、適宜調整すればよい。
【0016】
また、本発明のウレタン発泡成形体は、発泡本体の一端および他端の少なくとも一方に、空孔を封止するスキン層を有していてもよい。スキン層は、通常、発泡ウレタン樹脂原料を密閉された発泡型内で発泡成形した時に、発泡ウレタン樹脂原料が発泡型の内壁と接触し、発泡が抑制されることより形成される。この場合、発泡本体の一端から他端に向かって連通する空孔は、スキン層により封止される。本発明のウレタン発泡成形体は、空孔の配向方向における流れ抵抗が小さい。このため形成されたスキン層は、比較的自由に振動することができる。したがって、例えばスキン層が形成された側から音波が入射された場合には、スキン層の膜振動による吸音効果を得ることができる。スキン層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば20μm以下とすればよい。スキン層の形成の有無、厚さ等は、発泡型への原料の充填量、発泡時間、発泡温度等により調整すればよい。
【0017】
本発明のウレタン発泡成形体は、配向された空孔を持つ発泡本体を有するため、空孔の配向方向と、該配向方向に対して交差する方向と、で特性が異なる。つまり、異方性を有する。例えば、本発明のウレタン発泡成形体における荷重−変位曲線から、空孔の配向方向における静ばね定数が、該配向方向と略垂直方向における静ばね定数の2倍以上であることが望ましい。4倍以上、さらには10倍以上であるとより好適である。なお、本発明における静ばね定数は、厚さ20mmの試料を、厚さ方向へ2mm(10%)圧縮した時の荷重を変位で除して算出した値とする。
【0018】
本発明のウレタン発泡成形体は、発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とを含む混合材料を発泡成形して製造することができる。
【0019】
(1)発泡ウレタン樹脂原料
発泡ウレタン樹脂原料は、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分等の既に公知の原料から調製すればよい。ポリイソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えばポリオール類との反応により得られるプレポリマー類、変成ポリイソシアネート類等)等の中から適宜選択すればよい。また、ポリオール成分としては、多価ヒドロキシ化合物、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリマーポリオール類、ポリエーテルポリアミン類、ポリエステルポリアミン類、アルキレンポリオール類、ウレア分散ポリオール類、メラミン変性ポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、アクリルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、フェノール変性ポリオール類等の中から適宜選択すればよい。
【0020】
さらに、触媒、発泡剤、整泡剤、架橋剤、難燃剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤等を適宜配合してもよい。例えば、触媒としては、テトラエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン系触媒や、ラウリン酸錫、オクタン酸錫等の有機金属系触媒が挙げられる。また、発泡剤としては水が好適である。水以外には、塩化メチレン、フロン、COガス等が挙げられる。また、整泡剤としてはシリコーン系整泡剤が、架橋剤としてはトリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が好適である。
【0021】
(2)磁気粘性流体
磁気粘性流体は、溶媒中に磁性体粒子が分散された流体であればよく、例えば、ミクロンサイズの磁性体粒子を含有する磁気粘性流体(Magneto−Rheological流体;MR流体)や、ナノサイズの磁性体粒子を含有する磁性流体(Magnetic fluid;MF)にミクロンサイズの磁性体粒子を混合した磁気混合流体(Magnetic compound fluid;MCF)等が挙げられる。なお、ここでいう磁気混合流体(MCF)とは、例えば特開2002−170791号公報に記載されている粒子分散型混合機能性流体のようなものである。具体的には、シグマハイケミカル社製の商品「E−600」、ロード社製の商品「MRF−122−2ED」、「MRF−132DG」、「MRF−140CG」等を用いることができる。
【0022】
また、発泡性を向上させ、より軽量なウレタン発泡成形体を製造する等の観点から、発泡を阻害するような添加剤(例えば破泡効果を有する安定剤等)の含有量が少ないものが望ましい。また、磁性体粒子は、溶媒中に略均一に分散していることが望ましい。このような要求を満たすため、例えば、磁気粘性流体を、溶媒と、該溶媒に分散された磁性体粒子と、該磁性体粒子の沈降を抑制するための沈降防止剤と、を含んで構成するとよい。なお、本構成の磁気粘性流体には、発泡を阻害しない他の添加剤(例えば着色剤等)が配合されていても構わない。本構成によれば、上記MR流体やMCFを用いた場合と比較して、発泡率を向上させることができると共に、例えば、密度が0.2g/cm以下の軽量なウレタン発泡成形体を製造することができる。さらに、溶媒と、該溶媒に分散された磁性体粒子と、該磁性体粒子の沈降を抑制するための沈降防止剤と、のみから磁気粘性流体を構成すると、ウレタン発泡成形体の軽量化、低コスト化により好適である。
【0023】
ここで、磁性体粒子を分散させる溶媒としては、例えばケロシン、イソパラフィン、ポリαオレフィン等の油ベースのものが挙げられる。なかでも、常温や高温雰囲気下で揮発しにくいという理由から、ポリαオレフィンが好適である。磁性体粒子の粒子径は、1μm以上10μm以下であることが望ましい。ここでは、磁性体粒子の最大径を粒子径として採用する。粒子径が1μm未満の場合には、磁場が加わった際の、泡膜に対する磁性体粒子の影響が小さくなる。このため、セルの骨格となる泡膜をコントロールすることが難しい。一方、粒子径が10μmを超えると、溶媒と磁性体粒子とが分離して、磁性体粒子が沈降しやすくなる。このため、磁性体粒子のみが配向するおそれがあり、泡膜をコントロールすることが難しくなる。また、沈降防止剤としては、スメクタイト等が好適である。以下に、本発明のウレタン発泡成形体の好適な製造方法について詳述する。
【0024】
<ウレタン発泡成形体の製造方法>
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、混合材料調製工程と発泡工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0025】
(1)混合材料調製工程
本工程は、発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とを混合し混合材料を調製する工程である。発泡ウレタン樹脂原料および磁気粘性流体については上述したので、ここでは説明を省略する。発泡ウレタン樹脂原料に対する磁気粘性流体の配合量は、所望の空孔が形成されるよう、また、得られるウレタン発泡成形体の物性を考慮して、適宜調整すればよい。例えば、磁場に対する応答性を確保するためには、磁気粘性流体を、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを合わせたものの100重量部に対して10重量部以上配合することが望ましい。15重量部以上配合するとより好適である。反対に、ウレタン発泡成形体の物性や、反応状態への影響を考慮すると、磁気粘性流体の配合量を、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを合わせたものの100重量部に対して70重量部以下とすることが望ましい。40重量部以下とするとより好適である。発泡ウレタン樹脂原料、磁気粘性流体を秤量、混合して調製された混合材料は、速やかに次の発泡工程に供される。
【0026】
(2)発泡工程
本工程は、上記混合材料調製工程にて調製した混合材料を発泡型に注入し、発泡型の一端から他端に向かう磁場中で発泡させる工程である。磁場を直線状に形成する場合、発泡型の内部の磁力線が発泡型の一端から他端に向かって略平行になるよう形成することが望ましい。例えば、発泡型を挟むよう、発泡型の一端および他端の両面近傍に磁石を配置すればよい。磁石には、永久磁石または電磁石を用いればよい。電磁石を用いると、磁場形成のオン、オフを瞬時に切り替えることができ、磁場の強さの制御が容易である。このため、発泡成形を制御しやすい。この場合、発泡型の外部に配置した磁石により、発泡型の内部に磁場を形成させるため、発泡型としては透磁率の低い材質、つまり非磁性の材質のものを使用するとよい。例えば、通常ポリウレタンの発泡成形に使用されるアルミニウムやアルミニウム合金製の発泡型であれば問題ない。この場合、電磁石等の磁力源から発生する磁場、磁力線が影響を受けにくく、磁場状態のコントロールがしやすい。ただし、必要とする磁場、磁力線の状態に応じて適宜、磁性材料のものを使用してもよい。
【0027】
磁場は、発泡ウレタン樹脂原料の粘度が比較的低い間にかけられることが望ましい。発泡ウレタン樹脂原料が増粘し、発泡成形がある程度終了した時に磁場をかけても、磁気粘性流体による発泡流動の制御効果は得られにくく、所望の空孔を形成することは難しい。なお、発泡成形を行う時間のすべてにおいて磁場をかける必要はない。
【0028】
また、磁場を直線状に形成する場合、発泡型に作用する磁場の磁束密度は、発泡型の一端から他端に向かう磁力方向、および該磁力方向に対する垂直方向において略同じであることが望ましい。例えば、発泡型の内部における磁束密度の差が、±10%以内であるとよい。±5%以内、さらには±3%以内であるとより好適である。発泡型の内部に一様な磁場を形成することで、発泡本体の全体において同じように配向した空孔を形成することができる。
【0029】
本工程にて発泡成形が終了した後、脱型して、本発明のウレタン発泡成形体を得る。この際、発泡成形の仕方により、発泡本体の一端および他端の少なくとも一方に、スキン層が形成される。スキン層が形成された発泡本体の端面では、スキン層により空孔が封止される。なお、当該スキン層は、用途に応じて切除してもよい(勿論切除しなくてもよい)。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0031】
(1)ウレタン発泡成形体の製造
発泡本体の一端または両端にスキン層を有する二種類のウレタン発泡成形体を製造した。まず、発泡ウレタン樹脂原料を以下のように調製した。ポリオール成分のポリエーテルポリオール(住化バイエルウレタン社製「S−0248」、平均分子量6000、官能基数3、OH価28mgKOH/g)100重量部と、架橋剤のジエチレングリコール(三菱化学社製)2重量部と、発泡剤の水2重量部と、テトラエチレンジアミン系触媒(花王社製「No.31」)1重量部と、シリコーン系整泡剤(日本ユニカ社製「SZ−1313」)0.5重量部と、カーボン系顔料(大日精化工業社製「FT−1576」)2重量部と、を配合し、プレミックスポリオールを調製した。調製したプレミックスポリオールに、ポリイソシアネート成分のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(BASFINOACポリウレタン社製「NE1320B」、NCO=44.8wt%)を加えて混合し、発泡ウレタン樹脂原料とした。ここで、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との配合比(PO:ISO)は、両者の合計重量を100%として、PO:ISO=78.5:21.5とした。
【0032】
次に、調製した発泡ウレタン樹脂原料に、MR流体(シグマハイケミカル社製「E−600」)を混合し、混合材料とした。MR流体は、ポリオール成分のポリエーテルポリオールとポリイソシアネート成分のMDIとを合わせたものの100重量部に対して29.2重量部配合した。
【0033】
その後、混合材料をアルミニウム製の発泡型(後述する図1、図2参照。キャビティは直径100mm×厚さ20mmの円筒形。)に注入し、密閉した。この際、混合材料の注入量を変えて、二種類準備した。一つは、発泡終了時に発泡成形体がキャビティの天井面まで達しないように混合材料を注入した(オープン状態)。もう一つは発泡終了時に発泡成形体がキャビティの天井面まで達するように混合材料を注入した(クローズ状態)。前者のオープン状態の場合には、発泡本体の下面にのみスキン層が形成される。一方、後者のクローズ状態の場合には、発泡本体の上下両面にスキン層が形成される。
【0034】
続いて、発泡型を磁場発生装置に設置して、発泡成形を行った。図1に、磁場発生装置の斜視図を示す。図2に、磁場発生装置の部分断面図を示す。図1、図2に示すように、磁場発生装置1は、一対の電磁石部2U、2Dと、ヨーク部3と、を備えている。
【0035】
電磁石部2Uは、芯部20Uとコイル部21Uとを備えている。芯部20Uは、強磁性体製であって、上下方向に延びる円柱状を呈している。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に配置されている。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に巻装された導線210Uにより、形成されている。導線210Uは、電源(図略)に接続されている。
【0036】
電磁石部2Dは、発泡型4を挟んで、上記電磁石部2Uの下方に配置されている。電磁石部2Dは、上記電磁石部2Uと同様の構成を備えている。すなわち、電磁石部2Dは、芯部20Dとコイル部21Dとを備えている。コイル部21Dは、芯部20Dの外周面に巻装された導線210Dにより、形成されている。導線210Dは、電源(図略)に接続されている。
【0037】
ヨーク部3は、C字状を呈している。ヨーク部3のC字上端は、電磁石部2Uの芯部20U上端に接続されている。一方、ヨーク部3のC字下端は、電磁石部2Dの芯部20D下端に接続されている。
【0038】
前記発泡型4は、上型40Uと下型40Dとを備えている。発泡型4は、電磁石部2Uの芯部20Uと電磁石部2Dの芯部20Dとの間に、介装されている。上型40Uは、角柱状を呈している。上型40Uの下面には、円筒状の凹部が形成されている。同様に、下型40Dは、角柱状を呈している。下型40Dの上面には、円筒状の凹部が形成されている。上型40Uと下型40Dとは、互いの凹部の開口同士が向き合うように配置されている。上型40Uと下型40Dとの間には、上記凹部同士が合体することにより、キャビティ41が区画されている。キャビティ41には、前述したように、混合材料が充填されている。
【0039】
導線210Uに接続された電源および導線210Dに接続された電源を、共にオンにすると、上方の電磁石部2Uの芯部20Uの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Uに、上方から下方に向かって磁力線L(図2に点線で示す)が発生する。また、下方の電磁石部2Dの芯部20Dの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Dに、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。また、芯部20U下端はN極であり、芯部20D上端はS極である。このため、芯部20Uと芯部20Dとの間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。以上説明したように、電磁石部2U、2D間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。下方の電磁石部2Dの芯部20D下端から放射された磁力線Lは、ヨーク部3を通って、上方の電磁石部2Uの芯部20U上端に流入する。このように、磁力線Lは閉ループを構成するため、磁力線Lの漏洩を抑制することができる。
【0040】
前述したように、発泡型4は、芯部20Uと芯部20Dとの間に介装されている。このため、発泡型4のキャビティ41内には、上方から下方に向かって略平行な磁力線Lにより一様な磁場が形成されている。発泡型4を磁場発生装置1に設置した後、最初の約2分間は、磁場をかけながら発泡成形を行った。続く約5分間は、磁場をかけないで、発泡成形を行った。
【0041】
発泡成形が終了した後、脱型して、二種類のウレタン発泡成形体を得た。発泡本体の下面にのみスキン層が形成されているウレタン発泡成形体を、実施例1の発泡成形体、発泡本体の上下両面にスキン層が形成されているウレタン発泡成形体を、実施例2の発泡成形体とした。実施例1、2の発泡成形体の写真を図3〜図5に示す。図3は、実施例1の発泡成形体の上面写真である。図4は、実施例1の発泡成形体を手前側上方から撮影した写真である。図5は、実施例2の発泡成形体を手前側上方から撮影した写真である。
【0042】
図3に示すように、実施例1の発泡成形体の上面には、様々な形状の空孔の開口部が多数観察される。なお、本写真は、実施例1の発泡成形体の下面側(紙面奥側)から光を照射して撮影されているため、空孔の開口部は白く写っている。下面側からの光が空孔を通して上面に達していることからわかるように、空孔は上下方向に連通し配向している。但し、実施例1の発泡成形体は下面側にスキン層を有する。このため、実施例1の発泡成形体の下面側では、スキン層により空孔が封止されている。一方、図4に示すように、実施例1の発泡成形体の上面側には、スキン層は形成されていない。実施例1の発泡成形体の上面は、空孔を区画する区画壁が迷路のように連なっており、ラビリンス模様を呈している。
【0043】
図5に示すように、実施例2の発泡成形体は、上面側にスキン層を有する。また、本写真では見ることができないが、下面側にも同様のスキン層を有する。このため、上下方向に連通する空孔は、スキン層により封止されている。また、実施例2の発泡成形体の側部断面を見ると、空孔は上下方向に連通し配向していることがわかる。また、上下方向に伸びる区画壁が樹皮のように観察される。
【0044】
(2)荷重試験
製造した実施例2の発泡成形体について、上方(空孔の配向方向)から上面(直径100mmの面積≒78.5cm)に対して荷重を加え、荷重に対する変位量を測定した。また、比較のため、上記と同じ組成の発泡ウレタン樹脂原料を、上記混合材料におけるMR流体の重量分だけ増量して、磁場をかけずに発泡成形し、ウレタン発泡成形体を製造した(以下、比較例1の発泡成形体と称す)。また、上記同様の混合材料を、磁場をかけずに発泡成形し、ウレタン発泡成形体を製造した(以下、比較例2の発泡成形体と称す)。MR流体を配合していない比較例1の発泡成形体にはもちろん、MR流体を配合しても磁場をかけずに発泡成形した比較例2の発泡成形体にも、一端から他端に向かって連通するよう配向された空孔は形成されなかった。これら比較例1、2の発泡成形体についても同様に、荷重に対する変位量を測定した。ここでは、所定の荷重を加えて除去するまでを1サイクルの荷重試験とする。図6に、各発泡成形体についての荷重−変位曲線を示す。
【0045】
図6に示すように、比較例1、2の発泡成形体に対して、実施例2の発泡成形体は剛性が高いことがわかる。また、実施例2の発泡成形体では、変位量が2mmを超えた辺りから荷重が一旦減少し、エネルギーの減衰性が見られた。にも関わらず、実施例2の発泡成形体は、比較例1、2の発泡成形体と同様に、荷重を除去すると略元の形状に戻った。また、実施例2の発泡成形体について、1サイクルの荷重試験を行った1時間後に再度同様の荷重試験を行った(2回目)。2回目の荷重試験における荷重−変位曲線を、図6に併せて示す。図6に示すように、最大荷重はやや小さくなったが、剛性の高さ、エネルギー減衰性、復元性は、維持されていることがわかる。
【0046】
また、復元性を評価するため、1サイクルの荷重試験の前後で、各発泡成形体の厚さを測定した。結果を図7に示す。図7に示すように、いずれの発泡成形体においても、荷重試験の前後で厚さの変化はほとんどなかった。
【0047】
このように、本発明のウレタン発泡成形体によると、本来のウレタン発泡材料由来の特性と、特有の空孔構造により得られる特性と、が複合された特性が発揮される。例えば、本発明のウレタン発泡成形体は、エネルギー減衰性と高剛性とを共に発揮する。このため、本発明のウレタン発泡成形体は、衝撃吸収材部等として有用である。
【0048】
(3)異方性試験
上記実施例2の発泡成形体から、20mm角のブロック状のサンプルを切り出した。サンプルの上下面にはスキン層が形成されている。このサンプルの上面(20mm×20mm=4cm)に対して荷重を加え(圧縮方向は空孔の配向方向と同じ)、荷重に対する変位量を測定した。同様に、サンプルの右面(20mm×20mm=4cm)に対して荷重を加え(圧縮方向は空孔の配向方向に対して略垂直方向)、荷重に対する変位量を測定した。図8に、各々の測定における荷重−変位曲線を示す。
【0049】
比較のため、上記比較例1、2の発泡成形体から、同様に20mm角のブロック状のサンプルを切り出した。これらのサンプルの上面に対して荷重を加え、荷重に対する変位量を測定した。また、サンプルの右面に対して荷重を加え、荷重に対する変位量を測定した。図9、図10に、各々の測定における荷重−変位曲線を示す。
【0050】
図8に示すように、実施例2のサンプルは、上下方向(空孔の配向方向)において剛性が高いことがわかる。また、上面から圧縮した場合と、右面から圧縮した場合と、について変位が2mmの時(圧縮率10%)における静ばね定数を比較したところ、前者は後者の18.83倍となった。一方、図9、図10に示すように、比較例1、2のサンプルでは、圧縮方向の違いにより剛性にほとんど差はなかった。各々のサンプルについて、実施例2と同様に、上面から圧縮した場合の静ばね定数と、右面から圧縮した場合の静ばね定数とを比較した。その結果、比較例1のサンプルでは0.99倍、比較例2のサンプルでは1.58倍であった。以上より、本発明のウレタン発泡成形体では、空孔の配向方向における特性と、該配向方向と略垂直方向における特性とが大きく異なることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のウレタン発泡成形体は、日用品、自動車等の分野において様々な用途に用いることができる。特に、エネルギー減衰性を生かした衝撃吸収部材や、異方性を必要とするサスペンション用アッパーサポート等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例のウレタン発泡成形体の製造に使用した磁場発生装置の斜視図である。
【図2】同磁場発生装置の部分断面図である。
【図3】実施例1の発泡成形体の上面写真である。
【図4】実施例1の発泡成形体を手前側上方から撮影した写真である。
【図5】実施例2の発泡成形体を手前側上方から撮影した写真である。
【図6】実施例2および比較例1、2の各発泡成形体についての荷重−変位曲線である。
【図7】実施例2および比較例1、2の各発泡成形体について、荷重試験前後の厚さの測定結果である。
【図8】実施例2の発泡成形体から作製したサンプルにおける荷重−変位曲線である。
【図9】比較例1の発泡成形体から作製したサンプルにおける荷重−変位曲線である。
【図10】比較例2の発泡成形体から作製したサンプルにおける荷重−変位曲線である。
【図11】本発明のウレタン発泡成形体の製造過程における反応の一部を示すモデル図である。
【符号の説明】
【0053】
1:磁場発生装置
2U、2D:電磁石部 20U、20D:芯部 21U、21D:コイル部
210U、210D:導線 3:ヨーク部 4:発泡型 40U:上型 40D:下型
41:キャビティ L:磁力線
90:発泡ウレタン樹脂原料 900:整泡剤
91:磁気粘性流体 910:溶媒 911:磁性体粒子 92:気泡 920:泡膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端に向かって連通するよう配向された空孔を持つ発泡本体を有するウレタン発泡成形体。
【請求項2】
さらに、前記発泡本体の前記一端および前記他端の少なくとも一方に、前記空孔を封止するスキン層を有する請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項3】
前記空孔の配向方向における静ばね定数は、該配向方向と略垂直方向における静ばね定数の2倍以上である請求項1または請求項2に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項4】
前記空孔の配向方向における静ばね定数は、該配向方向と略垂直方向における静ばね定数の10倍以上である請求項1または請求項2に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項5】
発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とを含む混合材料が発泡成形されてなる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のウレタン発泡成形体。
【請求項6】
前記磁気粘性流体は、溶媒と、該溶媒に分散された磁性体粒子と、該磁性体粒子の沈降を抑制するための沈降防止剤と、を含み、
発泡成形後の密度が0.2g/cm以下である請求項5に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項7】
前記磁気粘性流体は、溶媒と、該溶媒に分散された磁性体粒子と、該磁性体粒子の沈降を抑制するための沈降防止剤と、のみからなる請求項5または請求項6に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項8】
前記磁性体粒子の粒子径は、1μm以上10μm以下である請求項6または請求項7に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項9】
発泡ウレタン樹脂原料と磁気粘性流体とを混合し混合材料を調製する混合材料調製工程と、
該混合材料を発泡型に注入し、該発泡型の一端から他端に向かう磁場中で発泡させる発泡工程と、
を有するウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項10】
前記発泡型に作用する前記磁場の磁束密度は、該発泡型の一端から他端に向かう磁力方向、および該磁力方向に対する垂直方向において略同じである請求項9に記載のウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項11】
前記発泡ウレタン樹脂原料は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを含み、
前記磁気粘性流体の配合量は、該ポリイソシアネート成分と該ポリオール成分とを合わせたものの100重量部に対して10重量部以上70重量部以下である請求項9または請求項10に記載のウレタン発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−73160(P2009−73160A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301856(P2007−301856)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】