説明

エアフィルター及びこのエアフィルターを用いた掃除機用エアフィルター

【課題】ePTFE膜と通気性支持材との密着性を向上させつつも、通気性支持材の機械的強度や通気性能を損なうことのないエアフィルターを提供することを目的とする。
【解決手段】繊維径の異なる繊維が交絡する領域を有する通気性支持材1と、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜2とが積層されたエアフィルターであって、通気性支持材1において多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜2が積層された側の表面の平均繊維径は、通気性支持材1の裏面の平均繊維径よりも小さいエアフィルターを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルターに関し、例えば、掃除機等において主として異物の除去を目的として使用されるエアフィルターの材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、集塵機や、エアクリーナー等の掃除機に用いられるエアフィルターの濾材として、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(以下、「ePTFE膜」と記載する。なお、下記特許文献の説明には、そこで使用されている用語に従うこととする。)が使用されている。これは、ePTFE膜が、圧力損失特性や捕集効率に優れているとともに、塵や埃等の異物によってエアフィルターの目詰まりが起きた場合、エアフィルターに振動を与えること等により、容易に異物を脱離させることができるためである。
【0003】
また、エアフィルターの低圧力損失と高捕集効率を両立させるため、ePTFE膜は、ごく薄く、かつ結節点の比較的少ない長いフィブリルで構成されたものが用いられている。そのため、ePTFE膜は外力に対して非常に弱く、簡単に穴が開いてしまう。これを防ぐためには、通気性を有する支持材をePTFE膜にラミネートする等して、ePTFE膜を補強する必要がある。
【0004】
しかし、上述のように、エアフィルターには周期的に圧力や振動が与えられるため、支持材にラミネートされたePTFE膜は剥離が生じ易い。
この対策として特許文献1には、PTFE多孔質膜と補強材である通気性基材とを含み、PTFE多孔質膜と通気性基材との間に、通気性基材よりも平滑な通気性保護層を介在させ、この剥離を抑える技術が記載されている。すなわち、特許文献1に記載された発明では、PTFE多孔質膜と通気性基材の接点を増やすことにより、PTFE多孔質膜と通気性支持材を強固に結合させるものであり、また、強度の弱いPTFE多孔質膜を確実に保護することができ、耐久性も向上するものである。
【0005】
また、特許文献2でも同様の技術が記載されている。すなわち、特許文献2には、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜と、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜と貼り合わされた、任意の方向における引張強度が1.5N/cm以上の第1の通気性支持材と、第1の通気性支持材のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が貼り合わされた面と反対側の面に貼り合わされた、表面に凹凸形状を含む第2の通気性支持材とを、ダストを含むエアーの流入側からこの順に含む集塵機用フィルターが記載されている。
【特許文献1】特開2000−176226号公報
【特許文献2】特開2004−097998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2のように、2枚の通気性基材(或いは通気性支持材)を貼り合わせると、通気性基材同士の密着性が弱い。また、加熱等により密着性を向上させようとすると、通気性基材の通気性能が低下するという問題がある。
【0007】
特許文献2では、第1の通気性支持材とポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を貼り合わせた後に、さらに第2の通気性支持材を貼り合わせるものであるが、このような後工程を追加させることは、フィルター材料のコストアップとなる。また、2種類の通気性支持材を後工程で強固に接着させることは困難で、構成する繊維を溶かすことによる熱融着では十分な強度が得られず、例えば濾材に射出成型等でフレームを形成する際の熱や圧力により層間が剥離し、漏れが生じる場合がある。そのような場合、強固に接着させようとすると通気性支持材自体を多く溶融する必要があり、通気性支持材の通気性能が損なわれてしまいエアフィルター(濾材)としての所定の性能が出せない。
【0008】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、通気性支持材とePTFE膜との間の接点を増やすことによりePTFE膜と通気性支持材との密着性を向上させつつも、通気性支持材の機械的強度や通気性能を損なうことのないエアフィルターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得た本発明のエアフィルターは、
繊維径の異なる繊維が交絡する領域を有する通気性支持材と、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜とが積層されたエアフィルターであって、前記通気性支持材において前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が積層された側の表面の平均繊維径は、前記通気性支持材の裏面の平均繊維径よりも小さいものである。
【0010】
前記通気性支持材において、繊維が交絡する領域の平均繊維径が、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜側に向かって減少する構成とすることが好ましい。
【0011】
前記通気性支持材において、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が積層された側の表面における平均繊維径を、前記通気性支持材の裏面における平均繊維径の0.8倍以下とすることが好ましい。
【0012】
前記通気性支持材を熱可塑性樹脂により構成することが好ましい。
前記通気性支持材が、繊維径の異なる繊維が水流または気流により交絡された領域を有することが好ましい。
【0013】
前記エアフィルターが、掃除機用エアフィルターに使用されることが一つの好ましい使用態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、通気性支持材においてePTFE膜が積層された側の表面の平均繊維径を、通気性支持材の裏面の平均繊維径よりも小さくすることにより、通気性支持材の表面を平坦化することができる。そのため、ePTFE膜と通気性支持材との接点が増加し、密着性を向上させることができる。また、通気性支持材は、繊維径の異なる繊維が交絡する領域を有するため、通気性支持材内部での耐剥離性は極めて高い。
【0015】
従って、本発明は、ePTFE膜と通気性支持材との剥離強度を向上させつつ、通気性支持材の機械的強度や通気性能を損なうことのないエアフィルターを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態におけるエアフィルターについて、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(1)エアフィルターの構成
図1は、本実施の形態におけるエアフィルターの断面を示すものである。図1において、通気性支持材1上に多孔質ポリテトラフルオロエチレンで構成されるePTFE膜2が積層されている。
【0018】
通気性支持材1においてePTFE膜2が積層された側の表面の平均繊維径は、通気性支持材1の裏面の平均繊維径よりも小さい。すなわち、通気性支持材1の表面のうち、ePTFE膜2側に対向する表面に存在する繊維の径は、通気性支持材1の裏面に存在する繊維の径よりも小さい。そのため、繊維がePTFE膜2に接する点が多くなり、通気性支持材1とePTFE膜2との密着性が向上する。
【0019】
ここで、通気性支持材1の「平均繊維径」は、通気性支持材1を50〜300倍に拡大して撮影した写真(例えば走査型電子顕微鏡(SEM)写真)に1本の対角線を入れ、その線を横切る繊維の径を20本以上読み取り、その算術平均値を平均繊維径とする。
【0020】
通気性支持材1において、ePTFE膜2が積層される側の表面における平均繊維径が、通気性支持材1の裏面における平均繊維径の0.8倍以下であることが、通気性支持材1とePTFE膜2の接点を増やす意味で好ましい実施態様であり、より好ましくは0.71倍以下、さらに好ましくは0.58倍以下である。
【0021】
また、通気性支持材1は、繊維径の大きい繊維と、繊維径の小さい繊維とが交絡する領域を有する。このような交絡により通気性支持材1の表面側と裏面側は強固に固定されているため、従来のように繊維を加熱により融着する必要はない。
【0022】
繊維自体を溶かすことがないので、通気性支持材1の通気性は損なわれない。ただし、繊維径の大きい繊維と、繊維径の小さい繊維とを交絡させた上で、両者の接合力を一層高めるため、補助的に加熱を加えることは可能である。
【0023】
通気性支持材1において、繊維が交絡する領域の平均繊維径が、ePTFE膜2側に向かって減少する態様とした場合、通気性支持材1の厚さ方向の密度が連続的につながり、構造上の急変点がないため、通気性支持材1自体の剥離又は分裂を防ぐ上で有利である。
【0024】
使用されるePTFE膜2は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン材料(ePTFE:expanded porous polytetrafluoroethylene)を使用することができ、厚さや空孔率に特に制限されることはないが、好ましい厚さは、1〜50μm(さらに好ましくは2〜40μm)、好ましい空孔率は、80〜99%(さらに好ましくは85〜98%)である。
【0025】
多孔質ポリテトラフルオロエチレンは、PTFEのファインパウダーと成形助剤を混合成形し、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することによって得られる。このePTFEは、1軸延伸されたものであってもよいが、好ましくは2軸延伸されたものである。1軸延伸PTFEは、ミクロ的には、延伸方向と略直交する細い島状のノード(折り畳み結晶)が存在し、このノード間を繋ぐようなすだれ状のフィブリル(前記折り畳み結晶が延伸により解けて引出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している点にミクロ的な特徴がある。また2軸延伸PTFEは、フィブリルが放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在して、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている点にミクロ的な特徴がある。
【0026】
多孔質ポリテトラフルオロエチレンは、圧力損失特性や捕集効率に優れているとともに、塵や埃等の異物によってエアフィルターの目詰まりが起きた場合、エアフィルターに振動を与えること等により、容易に異物を脱離させることができる。このため、掃除機に用いるエアフィルターの材料として優れている。
【0027】
(2)エアフィルターの製造例
以下、上記のようなエアフィルターの製造例について説明する。
通気性支持材1は、繊維径の異なる繊維が交絡する領域を有するものであるが、このような通気性支持材1は、繊維径の異なる2枚のウエブ状態の繊維シートを重ね合わせ、互いの繊維を交絡させることにより製造することができる。従って、まず、ウエブ状態の繊維シートを製造する方法について説明する。
【0028】
図2は、不織布を製造する一般的な設備の一部を示す鳥瞰図である。図2において、撹拌スペース3に原料となる短繊維を供給し、気流により開繊する。開繊された原料繊維4はカード機5により一定量・一定方向に送り出される。カード機5から送り出されるのは、ウエブ状態の繊維シート6である。
【0029】
不織布を製造する通常の工程であれば、ウエブ状態の繊維シート6を更に熱ロール7に通して不織布を形成し、巻取りロール8により巻き取られるが、本実施の形態におけるエアフィルターの製造例では、繊維径の異なるウエブ状態の繊維シート6を2種類用意し、これらの繊維シート6をウエブ状態のまま重ね合わせ、後述する方法により、双方の繊維が互いに交絡する領域を形成するものである。
【0030】
図3は、本実施の形態にかかるエアフィルターの製造工程例を示す図である。図3において、撹拌スペース3aに原料となる平均繊維径の小さい短繊維を供給し、気流により撹拌することにより短繊維を開繊する。開繊された原料繊維4aはカード機5aにより一定量・一定方向に送り出される。カード機5aから送り出されるのは、ウエブ状態の繊維シート6aである。
【0031】
同様に、撹拌スペース3bに、撹拌スペース3aに供給した短繊維と比較して平均繊維径の大きい短繊維を供給することにより、ウエブ状態の繊維シート6bを得る。
【0032】
そして、ウエブ状態の繊維シート6a及び6bを重ね合わせた状態でウォータージェット装置9に送給される。ウォータージェット装置9は、主として繊維シートを運ぶコンベア10、繊維シートに水を吹き付けるジェット水流発生部11、及びジェット水流発生部11から放出された水を回収するための水回収部12から構成される。コンベア10は、ワイヤーメッシュのような通気性材料からなる無端縁ベルト13と、この無端縁ベルト13を回転させるための回転軸14及び15を有しており、無端縁ベルト13がエンドレスに回転している。無端縁ベルト13は、水流を十分透過できる程度に網目の粗いものである。
【0033】
ウォータージェット装置9中では、繊維シート6a側からジェット水流を噴射することにより、繊維シート6aの繊維と繊維シート6bの繊維が互いに交絡される。
【0034】
さらに必要に応じて、カレンダー部16により繊維シート6aの繊維と繊維シート6bの繊維とを熱プレスし、繊維シート6aと繊維シート6bとの接合を強固にすることが好ましい。
以上の工程により、通気性支持材1が完成し、巻取りロール17により巻き取られる。
【0035】
図4は、図3に示したウォータージェット装置9の付近の拡大図である。図4において、ウエブ状態の繊維シート6a及び6bがウォータージェット装置9に入る前には、単に重ね合わされた状態であるが、ウォータージェット装置9から出てきた後には、ジェット水流の作用により、繊維シート6a及び6bの繊維が互いに交絡している領域が形成される。
【0036】
最後に、巻取りロール17から通気性支持材1を送給し、別途用意したePTFE膜2と熱及び圧力により融着させ、エアフィルターを作製する。
【0037】
図5は、作製された通気性支持材1を繊維シート6a側から観察したSEM画像であり、図6は、通気性支持材1を繊維シート6b側から観察したSEM画像である。通気性支持材1の断面拡大画像は、後述する実施例にて示す。
【0038】
本実施の形態では、ウォータージェットによる繊維の交絡について説明したが、ウォータージェットの方法の他、気流(好ましくは熱風)、ニードルパンチ、またはこれらの工程を複数組み合わせて、繊維シート6aの繊維と繊維シート6bの繊維を交絡させることもできる。熱風により繊維同士を交絡させる場合は、熱により繊維が軟化或いは溶融し、繊維同士の交点が結合する。
また、カレンダー部16により繊維シート6aの繊維と繊維シート6bの繊維とを熱プレスする方法について説明したが、その他にも、バインダ樹脂を含む液を含浸させ乾燥させる工程を必要に応じて追加することにより、繊維同士をより強固に固定することができる。
【0039】
また、繊維シート6aを構成するウエブに替えて、ネット素材や不織布、織布なども用いることができる。ただし、これらの素材を用いる場合は、繊維シート6aと繊維シート6bとの間での繊維同士の絡み合いが起こり難くなり、層間剥離を起こし易いので、単にカレンダ加工をするだけではなく、ウォータージェット、気流(好ましくは熱風)、ニードルパンチなどにより、確実に交絡領域を形成することが望ましい。
【0040】
用いられる短繊維、ネット素材、不織布、織布の素材は限定されるものではないが、ePTFE膜2との接着面となる側には、熱可塑性の樹脂によりなる繊維を用いることにより、ePTFE膜2と通気性支持材を通気性支持材の繊維を溶かすことにより融着を行う、熱融着法を用いることができる。この方法によると、接着剤を用いずに通気性支持材1にePTFE膜2を装着させることができ、製造費を削減できる。また、ヒータロールとニップロール(ゴムロール)等といった汎用装置で加工ができるため、設備費を削減できる。
【0041】
熱可塑性樹脂繊維とは、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはこれらの樹脂を複数組み合わせた、たとえば芯鞘構造などによりなる繊維を用いることができる。
【0042】
通気性支持材1の表裏の繊維密度を変えるには、繊維の本数や、繊維径を変えることにより実現できるが、後者の方法の具体的な方法を述べる。カード機は、通常、ある一定重量の繊維を供給することができるように設計されており、繊維径が大きいと繊維本数が少なく、また繊維径が小さいと繊維本数が多くなり、繊維密度差を作ることができる。したがって、後者の方法が現実的な方法である。
【0043】
繊維シート6aの平均繊維径と繊維シート6bの平均繊維径に差を設ける方法としては、繊維径の異なる2種類の短繊維材料α(繊維径小)、β(繊維径大)をそれぞれ撹拌スペース3a、撹拌スペース3bに供給する方法の他、撹拌スペース3a、撹拌スペース3bに短繊維材料α、βの双方をブレンドして供給し、ブレンド割合に違いを持たせることにより、作製される繊維シート6aの平均繊維径と繊維シート6bの平均繊維径に差を設ける方法も実施することができる。
【0044】
繊維は、断面が単純な円形のものばかりではないため、原料に用いる短繊維の繊維径に関する指標として、繊維10,000mあたりの質量[g](dtex:デシテックス)を用いることが多い。ePTFE膜2と繊維シート6aとの接点を増すためには、繊維シート6aはdtex値で繊維シート6bの1/2以下であることが望ましい。より望ましくは1/3以下である。
【0045】
これらの望ましい繊維重量の範囲から、繊維シート6aは、平均繊維径を指標とした場合、繊維シート6bの1/1.41以下(0.71以下)が望ましく、より望ましくは1/1.73以下(0.58以下)である。繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡による観察により、確かめることが可能である。
【0046】
ePTFE膜2の性能は、エアフィルターに求められる圧力損失、捕集効率、耐久性等を考慮して用途により適宜決められる。エアフィルターにおいて中性能と呼ばれる性能であれば、捕集効率は50%〜99.9%(粒子径:0.3μm、通風速度:5.3cm/sec)であり、圧力損失は150Pa以下、望ましくは100Pa以下である。
【0047】
HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)であれば、99.9%〜99.9995%の捕集効率(粒子径:0.3μm、通風速度:5.3cm/sec)で圧力損失は300Pa以下、望ましくは250Pa以下である。
【0048】
ULPAフィルター(Ultra Low Penetration Air Filter)であれば、捕集効率は99.9995%以上(粒子径:0.1〜0.2μm)、圧力損失は400Pa以下、望ましくは350Pa以下である。
【0049】
ePTFE膜2の厚さは、エアフィルターの耐久性、性能および信頼性を考慮して決定されるが、上記したように、1〜50μm、望ましくは2〜40μmとする。厚さの測定には、1/1000ダイヤルシックネスゲージ(テクロック社製SM1201)を使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
(実施例1)
繊維シート6aの原料にdtex値が2.2の繊維を使用し、繊維シート6bの原料にdtex値が16の繊維を使用して、目付け100g/mの通気性支持材1を作製した。使用した繊維は、芯鞘構造を持ったポリエステル繊維(ユニチカファイバー社製:メルティー)である。dtex値が小さければ平均繊維径も小さくなる。
【0052】
具体的には、図3に示すように2台のカード機5a、5bを用い、カード機5aでウエブ状態の繊維シート6aを、もう一台のカード機5bでウエブ状態の繊維シート6bを作製し、これらを重ねてウォータージェットにより、互いの繊維を交絡させた。その後、コーティング法により着色、撥水、抗菌、防カビ処理を実施した。
【0053】
ePTFE膜2には、孔径5μm、厚さ10μm、空孔率が95.5%のもの(ジャパンゴアテックス社製S2−A10012M)を用いた。これを上記の通気性支持材1と熱及び圧力により融着させ、エアフィルター試料を作製した。このフィルター試料の圧力損失は42.2Pa、捕集効率95%であった。
【0054】
なお、繊維シート6a、繊維シート6bの繊維を交絡させ、コーティング法により着色、撥水、抗菌、防カビ処理を実施した後に、乾燥を兼ねた加熱により繊維間結合を行なってもよい。加熱により繊維シート6a、6b間の耐剥離性が一層向上する。
【0055】
図7は、実施例1におけるエアフィルター試料の断面SEM画像(150倍)である。図7から、通気性支持材1において、繊維径が小さい側にePTFE膜2が貼り付けられており、通気性支持材1の裏面側の繊維径は大きい。そして、通気性支持材1の内部には、細い繊維と太い繊維が交絡した領域が形成されていることがわかる。
【0056】
繊維シート6aと繊維シート6bとを引き剥がすことによる剥離強度の測定を試みたが、繊維シート6a及び繊維シート6bに掴み代(両者を剥がすきっかけとする部分)を作製することができない程、両者が強固に一体化していた。
【0057】
また、ePTFE膜2と通気性支持材1の剥離試験では、ePTFE膜2に粘着させた剥離テープの端部より先でePTFE膜2が破断した。このことから、ePTFE膜2が十分に接着されており、ePTFE膜2と通気性支持材1の界面では剥離し難いことが確認された。
【0058】
(実施例2)
繊維シート6aの原料にdtex値が4.4の繊維を使用し、繊維シート6bの原料にdtex値が16の繊維を使用して、目付け100g/mの通気性支持材1を作製した。使用した繊維は、芯鞘構造を持ったポリエステル繊維(ユニチカファイバー社製:メルティー)である。
【0059】
実施例1と同様に、2台のカード機5a、5bを用い、カード機5aでウエブ状態の繊維シート6aを、もう一台のカード機5bでウエブ状態の繊維シート6bを作製し、これらを重ねてウォータージェットにより、互いの繊維を交絡させた。その後、コーティング法により着色、撥水、抗菌、防カビ処理を実施した。
【0060】
ePTFE膜2には、実施例1と同じものを用いた。これを上記の通気性支持材1と、熱と圧力により融着させ、エアフィルター試料を作製した。このフィルター試料の圧力損失は32Pa、捕集効率は96.4%であった。
【0061】
図8は、実施例2におけるエアフィルター試料の断面SEM画像(150倍)である。図8においても、図7と同様に、通気性支持材1の内部には細い繊維と太い繊維が交絡した領域が形成されていることがわかる。
【0062】
繊維シート6aと繊維シート6bとを引き剥がすことによる剥離強度試験を試みたが、繊維シート6a及び繊維シート6bに掴み代を作製することができないほど両者が一体化しており、測定ができなかった。
【0063】
また、ePTFE膜2と通気性支持材1の剥離性試験では、剥離テープの端部より先でePTFE膜2が破断した。このことから、実施例1と同様に、ePTFE膜2が通気性支持材1に強固に接着されていることが確認された。
【0064】
(比較例1)
ポリエステル繊維を用いたサーマルボンド不織布(倉敷繊維加工社製、TKC95)に着色、撥水、抗菌、防カビ処理を実施し、芯鞘構造を持ったPE/PET(ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート)のスパンボンド積層不織布(ユニチカ社製、エルベス(30g/m))と熱融着により張り合わせることにより2層構造の不織布を作製した。
【0065】
この2層構造の不織布のエルベス側に、実施例1で使用したePTFE膜2を熱と圧力で融着させ、エアフィルター試料を作製した。この試料の圧力損失は41Pa、捕集効率は97.9%であった。2層構造の不織布自体の剥離強度は0.23N/10mmであった。また、ePTFE膜2と不織布の剥離試験では、剥離テープ端部より先でePTFE膜2が破断しており、ePTFE膜2は不織布に十分に接着されており、ePTFE膜2と不織布の界面では剥離しないことが確認された。
【0066】
(比較例2)
ユニチカ製エルベス(目付け:30g/m)に着色、撥水、抗菌、防カビ処理を実施し、これに倉敷繊維加工製TKC95を熱融着により張り合わせて2層構造の不織布を作製した。
【0067】
この2層構造の不織布のエルベス側に、実施例1で使用したPTFE膜2を熱と圧力で融着させ、エアフィルター試料を作製した。この試料の圧力損失は45Pa、捕集効率は97.0%であった。2層構造の不織布自体の剥離強度は0.062N/10mmであった。
【0068】
また、SEM撮影のため、このサンプルを5mm角にカットしたところ、2層構造の不織布間で剥離が生じた。また、ePTFE膜2と不織布の剥離試験では、ePTFE膜2に粘着した剥離テープの端部より先でePTFE膜2が破断しており、ePTFE膜2が不織布に十分に接着されており、剥離しないことが確認された。
【0069】
(比較例3)
実施例1で使用した繊維シート6b(太い繊維で構成したもの)を熱ロールに通して形成した不織布に、実施例1で使用したePTFE膜2を熱と圧力により融着させることによりエアフィルター試料を作製した。ePTFE膜2と不織布の剥離試験では、剥離テープ端部より先でさらに10mm以上ePTFE膜のみ剥離し続け、ePTFE膜2の接着が十分ではないことが確認された。
【0070】
なお、上記何れの実施例、比較例においても、捕集効率の測定には、DOP(di−octyl−phthalate)法を使用した。DOP法では、DOP粒子を5.3cm/sの流速で、エアフィルター試料の上流側から供給し、エアフィルター試料の上流側のDOP粒子の濃度(粉じん濃度C)と、エアフィルター試料の下流側のDOP粒子の濃度(粉じん濃度C)を計測することにより行なうものである。
【0071】
具体的には、捕集効率η[%]=100−(C/C)×100により算出される。粉じんの濃度は、パーティクルカウンターにより測定される。
【0072】
圧力損失は、エアフィルター試料に面風速5.3cm/sの風速を与えた時の上流側と下流側の差圧を圧力メーターにより測定する。
【0073】
通気性支持材1(比較例では、2層不織布)の表面側と裏面側を剥離する試験は、エアフィルター試料から切り出した幅30mm、長さ250mmの長方形のサンプル片を用いて行なった。このサンプル片の端部に掴み代(両者を剥がすきっかけとする部分)を作り、剥離テープを用い、これを200mm/分の速度で剥がしていくときの引張応力を測定することにより行なう。なお、サンプル片の長辺方向と、通気性支持材1の長さ方向を一致させた。
【0074】
ePTFE膜2と通気性支持材1(比較例では、2層不織布)と間の耐剥離性測定には、リンテック製ネオクラフトテープを使用した。クラフトテープを50mm幅、長さ100mm以上の面積にて、ePTFE膜2にエアフィルター試料の長さ方向および幅方向に貼り付けた後、200mm/分以下の速度で引き剥がす。その際に、クラフトテープを剥がし終わった後にも、さらにePTFE膜2が通気性支持材1(比較例では、2層不織布)から剥離するかを観察する。ePTFE膜2が剥離する場合は、接着が十分ではないと判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、本実施の形態にかかるエアフィルターの断面図である。
【図2】図2は、不織布を製造する一般的な設備の一部を示す鳥瞰図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかるエアフィルターの製造工程例を示す図である。
【図4】図4は、図3に示した製造工程例の要部拡大図である。
【図5】図5は、作製された通気性支持材1を繊維シート6a側から観察したSEM画像である。
【図6】図6は、通気性支持材1を繊維シート6b側から観察したSEM画像である。
【図7】図7は、実施例1における通気性支持材1の断面SEM画像である。
【図8】図8は、実施例2における通気性支持材1の断面SEM画像である。
【符号の説明】
【0076】
1 通気性支持材
2 ePTFE膜
3 撹拌スペース
4 原料繊維
5 カード機
6 繊維シート
7 熱ロール
8 巻取りロール
9 ウォータージェット装置
10 コンベア
11 ジェット水流発生部
12 水回収部
13 無端縁ベルト
14、15 回転軸
16 カレンダー部
17 巻取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径の異なる繊維が交絡する領域を有する通気性支持材と、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜とが積層されたエアフィルターであって、前記通気性支持材において前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が積層された側の表面の平均繊維径は、前記通気性支持材の裏面の平均繊維径よりも小さいことを特徴とするエアフィルター。
【請求項2】
前記通気性支持材において、繊維が交絡する領域の平均繊維径が、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜側に向かって減少する請求項1に記載のエアフィルター。
【請求項3】
前記通気性支持材において、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が積層された側の表面における平均繊維径が、前記通気性支持材の裏面における平均繊維径の0.8倍以下である請求項1又は2に記載のエアフィルター。
【請求項4】
前記通気性支持材が熱可塑性樹脂により構成される請求項1〜請求項3のいずれかに記載のエアフィルター。
【請求項5】
前記通気性支持材が、繊維径の異なる繊維が水流または気流により交絡された領域を有する請求項1〜請求項4のいずれかに記載のエアフィルター。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のエアフィルターを用いた掃除機用エアフィルター。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−101254(P2009−101254A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273111(P2007−273111)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】