説明

エキソサイクリックジエンの異性化によるアセン類の製造方法

【課題】
鎖状に構築した環を芳香族化する一般的な方法の提供。
【解決手段】
下記式(2)で示されるジエンと、ルイス酸とを反応させることにより、上記課題を解決する。
【化1】


[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5及びA6は、それぞれ、同一又は異なって、炭化水素基等を表す。l、m及びnは、それぞれ、互いに独立し、0〜10の整数であり、但し、nとlが同時に0になることはない。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセン類の製造方法に関し、より詳しくは、エキソサイクリックジエンの異性化によるアセン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセン類は、有機機能性材料として極めて有用である。
従来、環構築法として、容易に置換基を導入することができるジエンを出発物質としたDiels-Alder反応による手法が知られている。しかしながら、この手法では、鎖状に構築した環の芳香族化が必要であるが、芳香族化がなかなか進行しないなどの大きな問題があった。
【非特許文献1】Cory, R. M.; McPhail, C. L.; Dikmans, A. J., Tetrahedron Lett. 1993, 34, 1533
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このため、鎖状に構築した環を芳香族化する一般的な方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明の第1態様では、下記式(2)で示されるジエンと、
【化9】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5及びA6は、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよいC1〜C20炭化水素基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシ基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシ基;置換基を有していてもよいアミノ基;置換基を有していてもよいシリル基;水酸基;置換基を有していてもよいC7〜C20アルキルアリールオキシ基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシカルボニル基;シアノ基(−CN);カルバモイル基(−C(=O)NH2);ハロホルミル基(−C(=O)−X、式中、Xはハロゲン原子を示す。);ホルミル基(−C(=O)−H);イソシアノ基;イソシアナト基;チオシアナト基又はチオイソシアナト基であり、ただし、R1及びR2は、互いに架橋してC4〜C20飽和環又は不飽和環を形成してもよく、前記環は、酸素原子、硫黄原子、珪素原子、スズ原子、ゲルマニウム原子又は式−N(B)−で示される基(式中、Bは水素原子又はC1〜C20炭化水素基である。)で中断されていてもよく、かつ、置換基を有していてもよく、l、m及びnは、それぞれ、互いに独立し、0〜10の整数であり、但し、nとlが同時に0になることはない。下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化10】


ルイス酸とを反応させて、下記式(1)で示されるアセン類を製造する、アセン類の製造方法が提供される。
【化11】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化12】


【0005】
本発明の第2態様では、下記式(3)で示されるジインと、
【化13】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化14】


遷移金属化合物とを反応させ、反応混合物を得る工程と、前記反応混合物と、ルイス酸とを反応させる工程とを含む、下記式(1)で示されるアセン類を製造する方法が提供される。
【化15】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化16】


【0006】
本発明の第1態様及び第2態様において、ルイス酸が、金属ハロゲン化物であることが好ましい。
【0007】
また、本発明の第1態様及び第2態様において、R1及びR2が、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、置換基を有していてもよいシリル基、C1〜C20アルキル基、C6〜C20アリール基、C1〜C20アルコキシ基、C6〜C20アリールオキシ基、又は、ハロゲンであることが好ましい。
【0008】
本発明の第2態様において、遷移金属化合物が、周期表第4族から第6族の遷移金属を含むことが好ましく、前記遷移金属はジルコニウムであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鎖状に構築した環を芳香族化する一般的な方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第1態様では、下記式(2)で示されるジエンと、ルイス酸とを反応させて、下記式(1)で示されるアセン類を製造する、アセン類の製造方法が提供される。
【化17】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。]
【0011】
本発明の第1態様では、下記式(2)で示されるジエンが用いられる。
【化18】

【0012】
上記式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5及びA6は、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよいC1〜C20炭化水素基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシ基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシ基;置換基を有していてもよいアミノ基;置換基を有していてもよいシリル基;水酸基;置換基を有していてもよいC7〜C20アルキルアリールオキシ基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシカルボニル基;シアノ基(−CN);カルバモイル基(−C(=O)NH2);ハロホルミル基(−C(=O)−X、式中、Xはハロゲン原子を示す。);ホルミル基(−C(=O)−H);イソシアノ基;イソシアナト基;チオシアナト基又はチオイソシアナト基である。
【0013】
本明細書において、「C1〜C20炭化水素基」の炭化水素基は、飽和若しくは不飽和の非環式であってもよいし、飽和若しくは不飽和の環式であってもよい。C1〜C20炭化水素基が非環式の場合には、線状でもよいし、枝分かれでもよい。「C1〜C20炭化水素基」には、C1〜C20アルキル基、C2〜C20アルケニル基、C2〜C20アルキニル基、C4〜C20アルキルジエニル基、C6〜C18アリール基、C7〜C20アルキルアリール基、C7〜C20アリールアルキル基、C4〜C20シクロアルキル基、C4〜C20シクロアルケニル基、(C3〜C10シクロアルキル)C1〜C10アルキル基などが含まれる。
【0014】
本明細書において、「C1〜C20アルキル基」は、C1〜C10アルキル基であることが好ましく、C1〜C6アルキル基であることが更に好ましい。アルキル基の例としては、制限するわけではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ドデカニル等を挙げることができる。
【0015】
本明細書において、「C2〜C20アルケニル基」は、C2〜C10アルケニル基であることが好ましく、C2〜C6アルケニル基であることが更に好ましい。アルケニル基の例としては、制限するわけではないが、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチルアリル、2−ブテニル等を挙げることができる。
【0016】
本明細書において、「C2〜C20アルキニル基」は、C2〜C10アルキニル基であることが好ましく、C2〜C6アルキニル基であることが更に好ましい。アルキニル基の例としては、制限するわけではないが、エチニル、プロピニル、ブチニル等を挙げることができる。
【0017】
本明細書において、「C4〜C20アルキルジエニル基」は、C4〜C10アルキルジエニル基であることが好ましく、C4〜C6アルキルジエニル基であることが更に好ましい。アルキルジエニル基の例としては、制限するわけではないが、1,3−ブタジエニル等を挙げることができる。
【0018】
本明細書において、「C6〜C18アリール基」は、C6〜C12アリール基であることが好ましい。アリール基の例としては、制限するわけではないが、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、インデニル、ビフェニリル、アントリル、フェナントリル等を挙げることができる。
【0019】
本明細書において、「C7〜C20アルキルアリール基」は、C7〜C12アルキルアリール基であることが好ましい。アルキルアリール基の例としては、制限するわけではないが、o−トリル、m−トリル、p−トリル、2,3−キシリル、2,4−キシリル、2,5−キシリル、o−クメニル、m−クメニル、p−クメニル、メシチル等を挙げることができる。
【0020】
本明細書において、「C7〜C20アリールアルキル基」は、C7〜C12アリールアルキル基であることが好ましい。アリールアルキル基の例としては、制限するわけではないが、ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、1−ナフチルメチル、2−ナフチルメチル、2,2−ジフェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル等を挙げることができる。
【0021】
本明細書において、「C4〜C20シクロアルキル基」は、C4〜C10シクロアルキル基であることが好ましい。シクロアルキル基の例としては、制限するわけではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等を挙げることができる。
【0022】
本明細書において、「C4〜C20シクロアルケニル基」は、C4〜C10シクロアルケニル基であることが好ましい。シクロアルケニル基の例としては、制限するわけではないが、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル等を挙げることができる。
【0023】
本明細書において、「C1〜C20アルコキシ基」は、C1〜C10アルコキシ基であることが好ましく、C1〜C6アルコキシ基であることが更に好ましい。アルコキシ基の例としては、制限するわけではないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ等がある。
【0024】
本明細書において、「C6〜C20アリールオキシ基」は、C6〜C12アリールオキシ基であることが好ましい。アリールオキシ基の例としては、制限するわけではないが、フェニルオキシ、ナフチルオキシ、ビフェニルオキシ等を挙げることができる。
【0025】
本明細書において、「C7〜C20アルキルアリールオキシ基」は、C7〜C12アルキルアリールオキシ基であることが好ましい。アルキルアリールオキシ基の例としては、制限するわけではないが、メチルフェニルオキシ、エチルフェニルオキシ、プロピルフェニルオキシ、ブチルフェニルオキシ、ジメチルフェニルオキシ、ジエチルフェニルオキシ、ジプロピルフェニルオキシ、ジブチルフェニルオキシ、メチルエチルフェニルオキシ、メチルプロピルフェニルオキシ、エチルプロピルフェニルオキシ等を挙げることができる。
【0026】
本明細書において、「C1〜C20アルコキシカルボニル基」は、C1〜C10アルコキシカルボニル基であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例としては、制限するわけではないが、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、2−メトキシエトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル等を挙げることができる。
【0027】
本明細書において、「C6〜C20アリールオキシカルボニル基」は、C6〜C12アリールオキシカルボニル基であることが好ましい。アリールオキシカルボニル基の例としては、制限するわけではないが、フェノキシカルボニル、ナフトキシカルボニル、フェニルフェノキシカルボニル等を挙げることができる。
【0028】
本発明の第1態様において、R1及びR2は、互いに架橋してC4〜C20飽和環又は不飽和環を形成してもよく、前記環は、酸素原子、硫黄原子、珪素原子、スズ原子、ゲルマニウム原子又は式−N(B)−で示される基(式中、Bは水素原子又はC1〜C20炭化水素基である。)で中断されていてもよく、かつ、置換基を有していてもよい。不飽和環は、ベンゼン環等の芳香族環であってもよい。
【0029】
Bは,水素原子またはC1〜C10炭化水素基であることが好ましく、水素原子またはC1〜C7炭化水素基であることが更に好ましく、Bは水素原子、C1〜C3アルキル基、フェニル基またはベンジル基であることが更になお好ましい。
【0030】
この飽和環又は不飽和環は、置換基を有していてもよく、例えば、C1〜C10炭化水素基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等)、C1〜C10アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等)、C6〜C12アリールオキシ基(例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ、ビフェニルオキシ等)、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)又はシリル基などの置換基が導入されていてもよい。
【0031】
本発明の第1態様において、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5及びA6で示される「C1〜C20炭化水素基」、「C1〜C20アルコキシ基」、「C6〜C20アリールオキシ基」、「アミノ基」、「シリル基」、「C7〜C20アルキルアリールオキシ基」、「C1〜C20アルコキシカルボニル基」、「C6〜C20アリールオキシカルボニル基」には、置換基が導入されていてもよい。この置換基としては、例えば、C1〜C10炭化水素基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、ナフチル、インデニル、トリル、キシリル、ベンジル等)、C1〜C10アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等)、C6〜C12アリールオキシ基(例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ、ビフェニルオキシ等)、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)又はシリル基などを挙げることができる。この場合、置換基は、置換可能な位置に1個以上導入されていてもよく、好ましくは1個〜4個導入されていてもよい。置換基数が2個以上である場合、各置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0032】
本発明の第1態様において、R1及びR2は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、置換基を有していてもよいシリル基、C1〜C20アルキル基、C6〜C20アリール基、C1〜C20アルコキシ基、C6〜C20アリールオキシ基、またはハロゲンであることが好ましく、少なくとも1つのC1〜C10アルキル基を有するシリル基;C1〜C6アルキル基;C6〜C12アリール基;C1〜C10アルコキシ基;C6〜C12アリールオキシ基、又は、ハロゲンであることが更に好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、フェニル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、またはジメチルシリルであることがより好ましい。
【0033】
本発明の第1態様において、A1、A2、A3、A4、A5及びA6は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子;C1〜C20アルキル基;C6〜C18アリール基;またはハロゲンであることが好ましく、水素原子;C1〜C6アルキル基;C6〜C12アリール基;またはハロゲンであることが更に好ましく、水素原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、フェニル、塩素、またはフッ素であることがより好ましい。
【0034】
本発明の第1態様において、l、m及びnは、それぞれ、互いに独立し、0〜10の整数であり、但し、nとlが同時に0になることはない。
lとしては、0〜7であることが好ましく、0〜5であることがより好ましい。
mとしては、0〜5であることが好ましく、0〜4であることがより好ましい。
nとしては、0〜6であることが好ましく、0〜3であることがより好ましい。
【0035】
本発明の第1態様において、下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化19】

単結合の場合には、単結合をしている炭素原子には、さらに水素原子が直接結合している。
【0036】
本発明の第1態様において、上記式(2)で示されるジエンとルイス酸とを反応させる。
【0037】
本発明の第1態様において、使用されるルイス酸としては、金属ハロゲン化物であることが好ましく、臭化マグネシウム、四塩化チタン、三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、または塩化スズであることがより好ましい。
例えば、上記式(2)で示されるジエンのR1及びR2が、置換基を有していてもよいシリル基である場合には、臭化マグネシウムのような温和なルイス酸を使用すると、速やかに反応が進み、収率が高まるため好ましい。他方、R1及びR2が、C1〜C20アルキル基である場合には、四塩化チタン、三フッ化ホウ素、または塩化スズのような有機溶媒に対する溶解性が高く、強いルイス酸を用いると、速やかに反応が進むため好ましい。
【0038】
本発明の第1態様において、ルイス酸の量は、上記式(2)で示されるジエン1モルに対し、0.01モル〜10モルであることが好ましく、より好ましくは0.05〜5モルであり、更に好ましくは0.2モル〜2モルである。
例えば、上記式(2)中のR1及びR2が、置換基を有していてもよいシリル基であって、臭化マグネシウムのような温和なルイス酸を使用する場合には、0.5モル〜1.5モルであることが特に好ましい。
また、R1及びR2が、C1〜C20アルキル基であって、四塩化チタンのような有機溶媒に対する溶解性が高く、強いルイス酸を用いる場合には、触媒量用いることが好ましく、0.1モル〜0.5モルであることが特に好ましい。
【0039】
本発明の第1態様において、典型的には、上記式(2)で示されるジエンの溶液に、ルイス酸を添加して攪拌し、次いで酸で処理することにより、上記式(1)で示されるアセン類を得ることができる。
【0040】
本明細書において、「酸」としては、広く有機酸、無機酸を挙げることができる。
本明細書において、「有機酸」としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、乳酸、グルコン酸等を挙げることができる。また、「無機酸」としては、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、炭酸、リン酸、アルミン酸、ジルコン酸等を挙げることができる。
【0041】
本発明の第1態様において、反応は、好ましくは−100℃〜100℃の温度範囲で行われ、より好ましくは−50℃〜50℃の温度範囲、更に好ましくは−30℃〜30℃の温度範囲で行われる。
本発明の第1態様において、圧力は、常圧であることが好ましい。
本発明の第1態様において、反応時間は、1時間〜48時間であることが好ましく、1時間〜24時間であることがより好ましく、1時間〜3時間であることが特に好ましい。
【0042】
本発明の第1態様において、使用する溶媒としては、上記式(2)で示されるジエンを溶解することができる溶媒が好ましい。溶媒は、脂肪族又は芳香族の有機溶媒が用いられ、例えば、テトラヒドロフラン又はジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素が用いられる。
【0043】
本発明の第2態様では、下記式(3)で示されるジインと、遷移金属化合物とを反応させ、反応混合物を得る工程(第1工程)と、前記反応混合物と、ルイス酸とを反応させる工程(第2工程)とを含む、下記式(1)で示されるアセン類を製造する方法が提供される。
【化20】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。]
【0044】
本発明の第2態様の第1工程では、下記式(3)で示されるジインを使用する。
【化21】

【0045】
上記式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnについての説明は、本発明の第1態様で説明したのと同様である。
【0046】
本発明の第2態様において、R1及びR2は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、置換基を有していてもよいシリル基、C1〜C20アルキル基、C6〜C20アリール基、C1〜C20アルコキシ基、C6〜C20アリールオキシ基、またはハロゲンであることが好ましく、少なくとも1つのC1〜C10アルキル基を有するシリル基;C1〜C6アルキル基;C6〜C12アリール基;C1〜C10アルコキシ基;C6〜C12アリールオキシ基、又は、ハロゲンであることが更に好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、フェニル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、またはジメチルシリルであることがより好ましい。
【0047】
本発明の第2態様において、A1、A2、A3、A4、A5及びA6は、それぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子;C1〜C20アルキル基;C6〜C18アリール基;またはハロゲンであることが好ましく、水素原子;C1〜C6アルキル基;C6〜C12アリール基;またはハロゲンであることが更に好ましく、水素原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、フェニル、塩素、またはフッ素であることがより好ましい。
【0048】
本発明の第2態様において、lとしては、0〜7であることが好ましく、0〜5であることがより好ましい。mとしては、0〜5であることが好ましく、0〜4であることがより好ましい。nとしては、0〜6であることが好ましく、0〜3であることがより好ましい。
【0049】
本発明の第2態様において、下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化22】

単結合の場合には、単結合をしている炭素原子には、さらに水素原子が直接結合している。
【0050】
本発明の第2態様の第1工程では、上記式(3)で示されるジインと、遷移金属化合物とを反応させ、反応混合物を得る。
【0051】
本発明の第2態様の第1工程において、使用される遷移金属化合物としては、パラジウム、ニッケル、ロジウム、ルテニウム、コバルト、鉄等の後周期遷移金属、周期表第4族から第6族の遷移金属を含むものであることが好ましく、周期表第4族の金属、即ち、チタン、ジルコニウム、又はハフニウムであることが更に好ましく、ジルコニウム、又はチタンであることが特に好ましい。
【0052】
本発明の第2態様の第1工程において、使用される遷移金属化合物が、ジルコニウム化合物、チタン化合物である場合には、例えば、下記式(4)で示される化合物を挙げることができる。
【化23】

[式中、Mは、ジルコニウム又はチタンを示す。]
【0053】
上記式(4)中、X1及びX2は、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、脱離基である。脱離基としては、例えば、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン原子、n−ブチル基等のC1−C20アルキル基、フェニル基等のC6−C20アリール基等が含まれる。
【0054】
上記式(4)中、L1及びL2は、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、アニオン性配位子を示す。ただし、L1及びL2は、架橋されていてもよい。
前記アニオン性配位子は、非局在化環状η5−配位系配位子、C1〜C20アルコキシ基、C6〜C20アリールオキシ基又はジアルキルアミド基であることが好ましく、非局在化環状η5−配位系配位子であることが更に好ましい。非局在化環状η5−配位系配位子としては、置換されていてもよいシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基又はアズレニル基を挙げることができ、無置換のシクロペンタジエニル基、及び置換されたシクロペンタジエニル基であることが好ましい。
【0055】
この置換シクロペンタジエニル基は、例えば、メチルシクロペンタジエニル、エチルシクロペンタジエニル、イソプロピルシクロペンタジエニル、n−ブチルシクロペンタジエニル、t−ブチルシクロペンタジエニル、ジメチルシクロペンタジエニル、ジエチルシクロペンタジエニル、ジイソプロピルシクロペンタジエニル、ジ−t−ブチルシクロペンタジエニル、テトラメチルシクロペンタジエニル、インデニル基、2−メチルインデニル基、2−メチル−4−フェニルインデニル基、テトラヒドロインデニル基、ベンゾインデニル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、オクタヒドロフルオレニル基及びアズレニル基である。
【0056】
非局在化環状η5−配位系配位子は、非局在化環状π系の1個以上の原子がヘテロ原子に置換されていてもよい。水素の他に、周期表第14族の元素及び/又は周期表第15、16及び17族の元素のような1個以上のヘテロ原子を含むことができる。
【0057】
非局在化環状η5−配位系配位子、例えば、シクロペンタジエニル基は、中心金属と、環状であってもよい、一つの又は複数の架橋配位子により架橋されていてもよい。架橋配位子としては、例えば、CH2、CH2CH2、CH(CH3)CH2、CH(C49)C(CH32、C(CH32、(CH32Si、(CH32Ge、(CH32Sn、(C652Si、(C65)(CH3)Si、(C652Ge、(C652Sn、(CH24Si、CH2Si(CH32、o−C64又は2、2'−(C642が挙げられる。
【0058】
本発明の第2態様の第1工程において、遷移金属化合物の量は、上記式(3)で示されるジイン1モルに対し、0.001モル〜10モルであることが好ましく、遷移金属化合物がチタン化合物およびジルコニウム化合物である場合には、好ましくは0.5〜5モルであり、更に好ましくは0.9モル〜2モルである。
【0059】
本発明の第2態様の第1工程において、典型的には、遷移金属化合物の溶液に、上記式(3)で示されるジインを添加して攪拌し、次いで酸で処理する。
【0060】
本発明の第2態様の第1工程により、下記式に示すように、本発明の第1態様の出発物質であるジエンが生成すると考えられる。
【化24】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。]
しかし、このような反応経路は推論に過ぎず、本発明はこのような反応経路に限定されるものではない。
【0061】
本発明の第2態様の第1工程において、反応は、好ましくは−100℃〜200℃の温度範囲で行われ、より好ましくは−90℃〜100℃の温度範囲、更に好ましくは−80℃〜60℃の温度範囲で行われる。
本発明の第2態様の第1工程において、圧力は、常圧であることが好ましい。
本発明の第2態様の第1工程において、反応時間は、1時間〜24時間であることが好ましく、1時間〜12時間であることがより好ましく、1時間〜3時間であることが特に好ましい。
【0062】
本発明の第2態様の第1工程において、使用する溶媒としては、遷移金属化合物を溶解することができる溶媒が好ましい。溶媒は、脂肪族又は芳香族の有機溶媒が用いられ、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素;テトラヒドロフラン又はジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が用いられる。
【0063】
本発明の第2態様の第2工程においては、第1工程で得られた反応混合物と、ルイス酸とを反応させる。
【0064】
本発明の第2態様の第2工程において使用するルイス酸についての説明は、本発明の第1態様において説明したのと同様である。
【0065】
本発明の第2態様の第2工程において、ルイス酸の量は、第1工程で得られた反応混合物中の反応生成物1モルに対し、0.01モル〜10モルであることが好ましく、より好ましくは0.05〜5モルであり、更に好ましくは0.2モル〜2モルである。
例えば、上記式(3)で示されるジインのR1及びR2が、置換基を有していてもよいシリル基であって、臭化マグネシウムのような温和なルイス酸を使用する場合には、0.5モル〜1.5モルであることが特に好ましい。
また、R1及びR2が、C1〜C20アルキル基であって、四塩化チタンのような有機溶媒に対する溶解性が高く、強いルイス酸を用いる場合には、触媒量用いることが好ましく、0.1モル〜0.5モルであることが特に好ましい。
【0066】
本発明の第2態様の第2工程において、典型的には、第1工程で得られた反応混合物から抽出して得られた反応生成物の溶液に、ルイス酸を添加して攪拌し、次いで酸で処理することにより、上記式(1)で示されるアセン類を得ることができる。
【0067】
本発明の第2態様の第2工程において、反応は、好ましくは−100℃〜100℃の温度範囲で行われ、より好ましくは−50℃〜50℃の温度範囲、更に好ましくは−30℃〜30℃の温度範囲で行われる。
本発明の第2態様の第2工程において、圧力は、常圧であることが好ましい。
本発明の第2態様の第2工程において、反応時間は、1時間〜48時間であることが好ましく、1時間〜24時間であることがより好ましく、1時間〜3時間であることが特に好ましい。
【0068】
本発明の第2態様の第2工程において、使用する溶媒としては、第1工程で得られた反応混合物を溶解することができる溶媒が好ましい。溶媒は、脂肪族又は芳香族の有機溶媒が用いられ、例えば、テトラヒドロフラン又はジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素が用いられる。
【0069】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
【0070】
有機金属試薬を用いた水や酸素に敏感な反応は、真空ラインテクニックを使った窒素気流下で行った。酸素と反応しやすいナフタセン誘導体は、窒素もしくはアルゴン下、グローブボックス内で取り扱った。THFおよびトルエンは関東化学から購入し、金属ナトリウムとベンゾフェノンから蒸留して無水とした。
1H NMRおよび13C NMRスペクトルはJEOL JNM-AL300を用いて測定した。このさい1H NMR、13C NMR:テトラメチルシランを基準物質とした。NMRにより収率を求めたときはジクロロメタンを内部標準として用いた。
質量分析は、JEOL JMS-FABmate、HX110およびJMS-700TZを用いて測定した。
元素分析器は、Yanako MT-6CHN CORDERを用いて測定した。
【0071】
ガスクロマトグラフィー(GC)は、SHIMADZU CBP1-M25-025石英ガラスキャピラリカラムを備えた SHIMADZU GC-14A もしくは GC-14B ガスクロマトグラフで行い、記録には SHIMADZU CR6A-Chromatopac integratorを用いた。GCにより収率を求めたときは、n-ヘキサデカンを内部標準として用いた。GCで分析できない生成物の場合、薄層クロマトグラフィー(TLC)を用い分析を行った。TLCには Merck Kiesel gel 60 PF254を使用した。分離精製のためのカラムクロマトグラフィーは、シリカゲルを充填剤としたフラッシュカラムクロマトグラフィーによって行った。このとき、カラム分離用充填剤として、関東化学 シリカゲル 60 N(球状, 中性, 40-50 μm)を使用した。
【0072】
すべての出発原料は、特に記載のない限り、市販品を精製せずにそのまま用いた。
DDQ、クロロトリメチルシランはACROSから、ヨウ化ナトリウム、四塩化スズ、三フッ化ホウ素エーテル錯体、二塩化エチルアルミニウム、水素化リチウムアルミニウム、アルミニウムトリ-sec-ブトキシド、n-ブチルリチウム、臭化エチルマグネシウムは関東化学から、トリメチルシリルアセチレンは東京化成から、塩化銅(I)、四塩化チタンは和光純薬から、ジルコノセンジクロリドは日亜化学からそれぞれ購入した。
【0073】
参考例1
2,3-ジ-(E)-ペンチリデン-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン (1b)
【化25】

-78 ℃に冷却したジルコノセンジクロリド (350 mg, 1.2 mmol) のTHF溶液にn-ブチリチウムのヘキサン溶液 (1.5 mL, 2.4 mmol, 1.54 M) を滴下し、-40 ℃で20分攪拌した。再び-78 ℃にして1,2-ジ-2-ヘプチニルベンゼン (266 mg, 1.0 mmol)を加え、-40 ℃で10分攪拌した後室温にて3時間攪拌した。3 M塩酸で処理して酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、無色の液体として表題化合物(1b)が得られた (250 mg, 単離収率93%)。
【0074】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 0.91 (t, J = 7.2 Hz, 6 H), 1.33-1.39 (m, 8 H), 2.14 (q, J = 7.2 Hz, 4 H), 3.51 (s, 4 H), 5.65 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 7.13 (s, 4 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) 13.79, 22.23, 27.46, 31.68, 32.24, 122.47, 125.70, 127.34, 136.28, 136.69; 高分解能質量分析 計算値C20H28 268.2191, 測定値268.2181.
【0075】
参考例2
2,3-ジ-(E)-ベンジリデン-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン (1c)
【化26】

-78 ℃に冷却したジルコノセンジクロリド (350 mg, 1.2 mmol) のTHF溶液にn-ブチリチウムのヘキサン溶液 (1.5 mL, 2.4 mmol, 1.54 M) を滴下し、-40 ℃で20分攪拌した。再び-78 ℃にして1,2-ビス-(3-フェニル-2-プロピニル)-ベンゼン (306 mg, 1.0 mmol)を加え、-40 ℃で10分攪拌した後室温にて3時間攪拌した。3 M塩酸で処理して酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、無色の液体として表題化合物(1c)が得られた (299 mg, 単離収率97%)。
【0076】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 3.93 (s, 4 H), 6.96 (s, 2 H), 7.05-7.13 (m, 4 H), 7.24-7.29 (m, 2 H), 7.40 (d, J = 3.9 Hz, 8 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) 33.47, 123.82, 126.17, 126.57, 127.65, 128.19, 129.28, 135.80, 137.72, 139.35; 高分解能質量分析 計算値 C24H20 308.1565, 測定値308.1555.
【実施例1】
【0077】
2,3-ビス(トリメチルシリルメチル)ナフタレン (2a)
【化27】

2,3-ビス[(E)-トリメチルシリルメチレン]-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(1a) (100 mg, 0.33 mmol) と臭化マグネシウム (73 mg, 0.40 mmol) をクロロホルムに懸濁し、室温で1時間攪拌した。3 M塩酸で処理して酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、黄色固体として表題化合物(2a)を得た。(90 mg, 単離収率90%)元素分析用に一部をエタノールから再結晶し無色針状結晶を得た。
【0078】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 0.01 (s, 18 H), 2.20 (s, 4 H), 7.33 (dd, J = 3.3, 6.3 Hz, 2 H), 7.38 (s, 2 H), 7.66 (dd, J = 3.3, 6.3 Hz, 2 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) -1.38, 24.50, 124.18, 126.02, 126.51, 131.49, 137.00; 元素分析 計算値C18H28Si2: C, 71.92; H, 9.39. 測定値C, 71.50; H, 9.23; m.p. 113.2-113.5.
【実施例2】
【0079】
2,3-ジペンチルナフタレン (2b)
【化28】

参考例1で得られた2,3-ジ-(E)-ペンチリデン-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(1b) (27 mg, 0.1 mmol) のトルエン溶液に四塩化チタン (2.2 μL, 20 μmol) を滴下し、室温で1時間攪拌した。3 M塩酸で処理して酢酸エチルで抽出し、有機層を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン) で精製することにより無色液体として表題化合物(2b)を得た(12 mg, NMR収率52%、単離収率43%)。
【0080】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 0.92 (t, J = 6.9 Hz, 6H), 1.38-1.46 (m, 8 H), 1.63-1.70 (m, 4H), 2.76 (t, J = 8.1 Hz, 4 H), 7.37(dd, J = 3.3, 6.0 Hz, 2 H), 7.59 (s, 2 H), 7.73 (dd, J = 3.3, 6.0 Hz, 2 H); 13C NMR (CDCl3) 14.08, 22.62, 30.82, 31.98, 32.84, 124.92, 126.91, 126.97, 132.18, 139.60; 高分解能質量分析 計算値 C20H28 268.2191, 測定値268.2184.
【実施例3】
【0081】
2,3-ジベンジルナフタレン (2c)
【化29】

参考例2で得られた2,3-ジ-(E)-ベンジリデン-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(1c) (31 mg, 0.1 mmol) のトルエン溶液に四塩化チタン (2.2 μL, 20 μmol) を滴下し、室温で1時間攪拌した。3 M塩酸で処理して酢酸エチルで抽出し、有機層を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去してNMRを測定した。1H NMRが文献(Cory, R. M.; McPhail, C. L.; Dikmans, A. J., Tetrahedron Lett. 1993, 34, 1533:非特許文献1)と一致したため表題化合物と同定した(NMR収率17%)。
【0082】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 4.04 (s, 4 H), 7.07-7.29 (m, 10 H), 7.40 (dd, J = 3.3, 6.3 Hz, 2 H), 7.56 (s, 2 H), 7.73 (dd, J = 3.3, 6.0 Hz, 2 H).
【0083】
試験例1〜13
次に、実施例2をベースとして、0.2当量の四塩化チタンの代わりに種々のルイス酸を用いて、2,3-ジペンチルナフタレンを得た。使用した各種ルイス酸及びその量、反応条件、収率を表1に示す。表1中、「試験例4」が実施例2に相当する。
【表1】

【0084】
参考例3
1,4-ジブチル-2,3-ビス(ヒドロキシメチル)-9,10-ジヒドロアントラセン (7)
【化30】

水素化リチウムアルミニウム (0.53 g, 14 mmol) のTHF懸濁液を0 ℃に冷却し、ジメチル 1,4-ジブチル-9,10-ジヒドロアントラセン-2,3-ジカルボキシレート(6) (2.86 g, 7 mmol)を加えて室温にて1時間攪拌した。注意深く水で処理し、1 M硫酸を加えてゲルを完全に溶解させ、酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去することで白色固体として表題化合物(7)を得た (2.43 g, 単離収率98%) 。
【0085】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 1.02 (t, J = 6.6 Hz, 6 H), 1.49-1.55 (m, 8 H), 2.49 (bs, 2 H), 2.87 (t, J = 8.1 Hz, 4 H), 3.94 (s, 4 H), 4.86 (s, 4 H), 7.20 (dd, J = 3.3, 5.4 Hz, 2 H), 7.30 (dd, J = 3.3, 5.7 Hz, 2 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) 14.00, 23.14, 29.06, 33.29, 33.74, 59.65, 126.14, 126.92, 135.84, 135.92, 136.74, 136.98; 元素分析. 計算値 C24H32O2: C, 81.77; H, 9.15. 測定値C, 81.45; H, 9.06; m.p. 125.2-126.0.
【0086】
参考例4
1,4-ジブチル-2,3-ビス(ヨードメチル)-9,10-ジヒドロアントラセン (8)
【化31】

参考例3で得られた1,4-ジブチル-2,3-ビス(ヒドロキシメチル)-9,10-ジヒドロアントラセン(7) (2.4 mg, 6.8 mmol) とヨウ化ナトリウム (2.2 g, 14.4 mmol)をアセトニトリルに懸濁させ、クロロトリメチルシラン (1.8 mL, 14.4 mmol) を滴下して1時間間攪拌した。水で処理してクロロホルムで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗って、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去し、黄色固体として表題化合物(8)を得た(3.8 g、単離収率95%)。
【0087】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 1.03 (t, J = 6.6 Hz, 6 H), 1.50-1.65 (m, 8 H), 2.79 (bs, 4 H), 3.83 (s, 4 H), 4.61 (s, 4 H), 7.17 (dd, J = 3.3, 5.4 Hz, 2 H), 7.28 (dd, J = 3.3, 5.4 Hz, 2 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) 2.42, 13.93, 23.24, 29.37, 32.32, 33.17, 126.20, 126.78, 132.73, 136.64, 136.90, 137.38; 元素分析 計算値 C24H30I2: C, 50.37; H, 5.28. 測定値C, 50.31; H, 5.41; m.p. 115.0-117.0.
【0088】
参考例5
1,4-ジブチル-2,3-ビス(3-トリメチルシリル-2-プロピニル)-9,10-ジヒドロアントラセン (9)
【化32】

トリメチルシリルアセチレン (3.4 mL, 24 mmol) のTHF溶液に臭化エチルマグネシウム (25 mL, 24 mmol, 0.96 M) のTHF溶液を滴下し、50 ℃に加温して1時間攪拌した。塩化銅(I)(297 mg, 3.0 mmol)、および、参考例4で得られた1,4-ジブチル-2,3-ビス(ヨードメチル)-9,10-ジヒドロアントラセン(8) (3.4 g, 6.0 mmol)を加え、6時間加熱還流した。塩化アンモニウム水溶液で処理し、1%のトリエチルアミンを含んだ酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル/トリエチルアミン=100:4:1)で精製することにより白色固体として表題化合物(9)を得た (1.0 g、 NMR収率48%、単離収率32%) 。
【0089】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 0.17 (s, 18 H), 1.10 (t, J = 6.9 Hz, 6 H), 1.61 (bs, 8 H), 2.89 (t, J = 7.8 Hz, 4 H), 3.78 (s, 4 H), 3.97 (s, 4 H), 7.25 (dd, J = 2.4, 5.4 Hz, 2 H), 7.36 (dd, J = 3.3, 5.1 Hz, 2 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) 0.04, 14.05, 20.78, 23.35, 29.71, 32.66, 33.26, 84.90, 104.85, 126.06, 126.82, 131.74, 134.64, 136.03, 137.39; 高分解能質量分析 計算値 C34H48Si2 512.3295, 測定値512.3295; m.p. 103.0-104.2.
【0090】
参考例6
5,12-ジブチル-2,3-ビス[(E)-トリメチルシリルメチレン]-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロナフタセン (10)
【化33】

-78 ℃に冷却したジルコノセンジクロリド (350 mg, 1.2 mmol) のTHF溶液にn-ブチリチウムのヘキサン溶液 (1.5 mL, 2.4 mmol, 1.56M) を滴下し、-40 ℃で20分攪拌した。再び-78 ℃にして、参考例5で得られた1,4-ジブチル-2,3-ビス(3-トリメチルシリル-2-プロピニル)-9,10-ジヒドロアントラセン(9) (513 mg, 1.0 mmol)を加え、-40 ℃で10分攪拌した後室温にて3時間攪拌した。3 M塩酸で処理して酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=40:1)で精製することにより黄色の粘い液体として表題化合物(10)が得られた(216 mg、 NMR収率51%、単離収率42%)。
【0091】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 0.22 (s, 18 H), 1.01 (t, J = 6.6 Hz, 6 H), 1.50-1.59 (m, 8 H), 2.79 (t, J = 7.5 Hz, 4 H), 3.68 (s, 4 H), 3.91 (s, 4 H), 5.95 (s, 2 H), 7.16 (dd, J = 3.3, 5.7 Hz, 2 H), 7.28 (dd, J = 3.6, 5.4 Hz, 2 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) 0.23, 14.10, 23.36, 29.02, 32.56, 33.12, 34.38, 121.74, 125.96, 126.94, 132.33, 133.08, 133.80, 137.45, 153.61; 高分解能質量分析 計算値 C34H50Si2 514.3451, 測定値512.3462.
【実施例4】
【0092】
5,12-ジブチル-2,3-ビス(トリメチルシリルメチル)-6,11-ジヒドロナフタセン (11)
【化34】

参考例6で得られた5,12-ジブチル-2,3-ビス[(E)-トリメチルシリルメチレン]-1,2,3,4,6,11-ヘキサヒドロナフタセン(10) (200 mg, 0.39 mmol) と臭化マグネシウム (73 mg, 0.40 mmol) をクロロホルムに溶解し、室温で1時間攪拌した。3 M塩酸で処理して酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=100:1)で精製することにより白色固体として表題化合物(11)を得た(91 mg, NMR収率50%、単離収率45%)。
【0093】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 0.13 (s, 18 H), 1.15 (t, J = 6.9 Hz, 6 H), 1.69-1.77 (m, 8 H), 2.33 (s, 4 H), 3.25 (t, J = 7.9 Hz, 4 H), 4.16 (s, 4 H), 7.28 (dd, J = 3.3, 5.7 Hz, 2 H), 7.43 (dd, J = 3.3, 5.4 Hz, 2 H), 7.70 (s, 2 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) -1.43, 14.13, 23.43, 24.54, 28.39, 32.92, 33.75, 123.05, 126.02, 126.77, 128.83, 131.27, 131.30, 135.40, 138.09; 高分解能質量分析 計算値 C34H50Si2 514.3451, 測定値; m.p. 105.0-106.3.
【0094】
参考例7
5,12-ジブチル-2,3-ビス(トリメチルシリルメチル)ナフタセン(12)
【化35】

【0095】
実施例4で得られた(11)(20.6 mg, 40 μmol) のトルエン溶液にDDQ (9.9 mg, 44 μmol) を加え、100 ℃で3時間攪拌した。窒素下で濾過をしてヒドロキノンを除き、エタノールから再結晶することにより橙色綿状結晶として表題化合物(12)を得た(6.5mg、NMR収率75%、単離収率26%)。
【0096】
1H NMR (CDCl3, Me4Si) 0.08 (s, 18 H), 1.08 (t, J = 7.2 Hz, 6 H), 1.64-1.73 (m, 8 H), 2.30 (s, 4 H), 3.68 (t, J = 8.1 Hz, 4 H), 7.33 (dd, J = 3.3, 6.9 Hz, 2 H), 7.82 (s, 2 H), 7.98 (dd, J = 3.36.6 Hz, 2 H), 8.82 (s, 2 H); 13C NMR (CDCl3, Me4Si) -1.35, 14.14, 23.68, 25.02, 28.33, 33.52, 122.50, 123.15, 214.51, 127.92, 128.13, 128.49, 130.40, 131.19, 136.50; 高分解能質量分析 計算値 C34H48Si2 512.3295, 測定値512.3284.


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で示されるジエンと、
【化1】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5及びA6は、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよいC1〜C20炭化水素基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシ基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシ基;置換基を有していてもよいアミノ基;置換基を有していてもよいシリル基;水酸基;置換基を有していてもよいC7〜C20アルキルアリールオキシ基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシカルボニル基;シアノ基(−CN);カルバモイル基(−C(=O)NH2);ハロホルミル基(−C(=O)−X、式中、Xはハロゲン原子を示す。);ホルミル基(−C(=O)−H);イソシアノ基;イソシアナト基;チオシアナト基又はチオイソシアナト基であり、
ただし、R1及びR2は、互いに架橋してC4〜C20飽和環又は不飽和環を形成してもよく、前記環は、酸素原子、硫黄原子、珪素原子、スズ原子、ゲルマニウム原子又は式−N(B)−で示される基(式中、Bは水素原子又はC1〜C20炭化水素基である。)で中断されていてもよく、かつ、置換基を有していてもよく、
l、m及びnは、それぞれ、互いに独立し、0〜10の整数であり、但し、nとlが同時に0になることはない。
下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化2】


ルイス酸とを反応させて、下記式(1)で示されるアセン類を製造する、アセン類の製造方法。
【化3】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。
下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化4】


【請求項2】
ルイス酸が、金属ハロゲン化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1及びR2が、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、置換基を有していてもよいシリル基、C1〜C20アルキル基、C6〜C20アリール基、C1〜C20アルコキシ基、C6〜C20アリールオキシ基、又は、ハロゲンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
下記式(3)で示されるジインと、
【化5】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5及びA6は、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよいC1〜C20炭化水素基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシ基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシ基;置換基を有していてもよいアミノ基;置換基を有していてもよいシリル基;水酸基;置換基を有していてもよいC7〜C20アルキルアリールオキシ基;置換基を有していてもよいC1〜C20アルコキシカルボニル基;置換基を有していてもよいC6〜C20アリールオキシカルボニル基;シアノ基(−CN);カルバモイル基(−C(=O)NH2);ハロホルミル基(−C(=O)−X、式中、Xはハロゲン原子を示す。);ホルミル基(−C(=O)−H);イソシアノ基;イソシアナト基;チオシアナト基又はチオイソシアナト基であり、
ただし、R1及びR2は、互いに架橋してC4〜C20飽和環又は不飽和環を形成してもよく、前記環は、酸素原子、硫黄原子、珪素原子、スズ原子、ゲルマニウム原子又は式−N(B)−で示される基(式中、Bは水素原子又はC1〜C20炭化水素基である。)で中断されていてもよく、かつ、置換基を有していてもよく、
l、m及びnは、それぞれ、互いに独立し、0〜10の整数であり、但し、nとlが同時に0になることはない。
下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化6】


遷移金属化合物とを反応させ、反応混合物を得る工程と、
前記反応混合物と、ルイス酸とを反応させる工程とを含む、下記式(1)で示されるアセン類を製造する方法。
【化7】

[式中、R1、R2、A1、A2、A3、A4、A5、A6、l、m及びnは、上記の意味を有する。
下記式に示される結合は、単結合又は二重結合を示す。
【化8】


【請求項5】
ルイス酸が、金属ハロゲン化物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1及びR2が、それぞれ、互いに独立し、同一または異なって、C1〜C20アルキル基、C6〜C20アリール基、C1〜C20アルコキシ基、C6〜C20アリールオキシ基、又は、ハロゲンである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
遷移金属化合物が、周期表第4族から第6族の遷移金属を含むものである、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記遷移金属が、ジルコニウムである、請求項7に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−248924(P2006−248924A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64442(P2005−64442)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】