説明

エクオール生産能を持つ微生物及び飲食品、医薬品、動物飼料およびその製造法

【課題】エクオール生産能を有する微生物これを用いたエクオールの製造方法並びに飲食品、医薬品、動物飼料を提供する。
【解決手段】ダイゼインを基質として、エクオールへと変換できるdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)を提供する。また、ダイゼインをdo03株によって予めエクオールへと変換した飲食品やサプリメント、医薬品、飼料。
【効果】エクオールは、イソフラボン類の最終的な有効物質であり、腸管吸収も良好である。食品中のエクオールを増やすことで、乳ガン、前立腺ガンなどエストロジェンが関与する種々の病気の予防や進行遅延作用を期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康増進、なかでも骨粗鬆症の予防、前立腺癌の予防、乳ガン等女性ホルモンの係わる疾病を予防するためのエクオール高含有素材の製造および飲食品、動物飼料およびその素材に関するものである。

本発明は、イソフラボン類であるダイゼイン(daidzein)を基質にエクオール(equol)(7−ヒドロキシ−3−(4′−ヒドロキシフェニル)−クロマン)を作る新発見の微生物であるグラム陽性細菌do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)を技術の基としている。当該微生物は、まだ分類学的な学術名の命名はされておらず、本明細書では、do03株として表現する。
豆類特に大豆に多く含有されるイソフラボン類であるダイゼインおよびその配糖体は、そのままでは、腸管から体内への吸収効率は悪く機能性の発現はむつかしい。しかし、本発明のdo03株によってダイゼインが、エクオールへと変換されると効率的に腸管吸収が進み、機能性を発揮できる。

【背景技術】
【0002】
イソフラボンは、フラボノイドの一種で、さまざまな植物に含有され、特に、大豆の胚芽には多く含まれ、女性ホルモンのエストロゲン様物質として実験的も疫学的にも効果が解明されている。
イソフラボン摂取と健康との関係の疫学調査により、イソフラボンの摂取は、乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害などの予防効果があることが示されている(非特許文献1〜6参照)。
イソフラボンは、植物内では、糖と共有結合した配糖体の形で存在している。主な化合物としては、ダイジン(daidzin)とゲニスチン(genistin)であり、ヒトや動物の体内に入ると消化酵素や腸内細菌の産生する酵素であるβグルコシダーゼの働きにより、ダイジンは糖が脱離して、ダイゼイン(daidzein)になる。さらに、腸内細菌の働きにより、dihydrodaidzeinジヒドロダイゼインを経て、O-desmethylangolensin (以下O-DMAと称する) またはエクオール(equol)へと酵素的に変換される。
エクオールは、これらの代謝産物の中でもっともエストロゲン活性が高いことが知られている(非特許文献7および8参照)。ダイゼインからエクオールへは、腸内細菌の作用によって変換されることから腸内細菌叢の違いによってエクオールを生産できるかどうかが決まる。エクオール生産能のあるヒトのほうが乳癌や前立腺癌に罹りにくいことが判っている(非特許文献9および10参照)。様々な動物、特にげっ歯類では、よくエクオールを産生するが、ヒトでは個体、食生活によって差があり、30-50%のヒトでしか産出しない(非特許文献11から14参照)。長期に大豆を摂取しても、エクオール生産菌を腸内に持たないヒトはエクオールを産出するようにならない(非特許文献15参照)。
ダイゼイン を代謝する腸内細菌の報告は少ない。Hurらはダイゼインをジヒドロダイゼインにする嫌気性グラム陽性菌1株(非特許文献16参照)とダイゼインをO-DMAにするClostridium sp. 1株をヒトから単離した(非特許文献17参照)。Wangらはジヒドロダイゼイン をエクオールに変換するグラム陰性桿菌Human intestinal bacterium SNU-Julong 732をヒトから単離した。この株はEggerthella
hongkongenesis HKU10 と16S rDNA全長の配列で92.8%の相同性を持っている細菌だった(非特許文献18参照)。またUenoらはEscherichia coli, Bacteroides ovatus,
Ruminococcus productus, Streptococcus intermediusの混合菌がエクオールを生産すると報告している(非特許文献19参照)。しかし、本発明のような単一の微生物でのエクオールを生産できるエクオール生産菌は、知られていなかった。

従来の知識では、ダイゼイン(または他の関連イソフラボン)を中間体を通じてエクオールへ変換するために、複数の細菌種が必要であった(特許文献3)。本発明の微生物do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)は、当該微生物のみで、ダイゼインからエクオールを産生する能力を持っている。

【0003】
【非特許文献1】Adlercreutz, H., and Lancet Oncol., 3, 364-373, 2002.
【非特許文献2】Duncan, A. M. et. al., Best Pract. Res. Clin. Endocrinol.Metab., 17, 253-271, 2003.
【非特許文献3】Wu, A. H., et al., Carcinogenesis, 23, 1491-1496, 2002.
【非特許文献4】Yamamoto, S. et al., J. Natl. Cancer Inst., 95,906-913, 2003.
【非特許文献5】Onozawa, M., et al., Jpn. J. Cancer Res., 90,393-398, 1999.
【非特許文献6】Ridges, L. et al., Asia Pac. J. Clin. Nutr., 10,204-211, 2001.
【非特許文献7】Schmitt, E. et al., Toxicol. In Vitro, 15, 433-439,2001.
【非特許文献8】Sathyamoorthy, N. and Wang, T. T., Eur. J. Cancer,33, 2384-2389, 1997.
【非特許文献9】Duncan, A. M. et al., Cancer Epidemiol. Biomark.Prev., 9, 581-586, 2000.
【非特許文献10】Akaza, H. et al., Jpn. J. Clin. Oncol., 34, 86-89,2004.
【非特許文献11】Setchell, K. D. et al., J. Nutr. 133, 1027-1035,2003.
【非特許文献12】Arai, Y. et al., J. Epidemiol., 10, 127-135, 2000.
【非特許文献13】Hutchins, A. M., et al., J. Am. Diet Assoc., 95,545-551, 1995.
【非特許文献14】Lampe,J. W., et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 217, 335-339, 1998.
【非特許文献15】Lampe,J. W., et al., J. Nutr. 131, 740-744, 2001.
【非特許文献16】Hur,H. G., et al., Arch. Microbiol. 174, 422-428, 2000.
【非特許文献17】Hur,H. G., et al., Arch. Microbiol. 178, 8-12, 2002.
【非特許文献18】Wang,X. L., et al., Appl. Environ. Microbiol. 71, 214-219, 2005.
【非特許文献19】Ueno,T., et al., J. Nutr. 132, 594S, 2002.
【特許文献1】P2001-253829A
【特許文献2】P2001-97870A
【特許文献3】P2006−504409A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生体有用物質であるエクオールを提供するために、前駆体であるダイゼインの酵素変換を促進しエクオールに効率よく転換し、エクオールを高含有する飲食品、動物飼料を提供すること、およびダイゼインを含む飲食品と特定微生物を含有し合わせて摂取することで、腸管内においてエクオールを生成せしめるプロビオティクス食品を提供することを課題とする。単独菌でダイゼインからエクオールに転換できる微生物を発見して、用いることによって、上記の目的は、より確実・効率的にかつ安定して行なうことが出来る。エクオールを摂取することによって乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害などの予防に寄与できる。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ダイゼインを高効率でエクオールに変換できる酵素を持った微生物の探索に取り組んだ。すなわち、腸内細菌からダイゼインをエクオールに変換できる微生物を鋭意探索した。ヒトの30〜50%程度が、食事として摂ったダイゼインからエクオールへの変換能を持つと考えられている(非特許文献11から14参照)。今までは、混合菌がエクオールを生産するとの報告(非特許文献19参照)はあるが、単一の微生物でのエクオール生産菌は、知られていなかった。多数の腸内細菌のサンプルから探索を行った。
【0006】
今般、発明者らは、イソフラボンであるダイゼインを微生物によって、迅速かつ簡便に生体内有効成分であるエクオールに変換する新規微生物を発見し、この単一の微生物を用いてエクオール高含有素材の製造および当該微生物を含有するプロバイオティック食品に係る発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、豆類に含有されているイソフラボン類であるダイゼインを新発見の微生物であるdo03株 (AHU-1763)(FERM AP-20905)を用いて、エクオールに変換し、腸管内で速やかに吸収させる。そのための方法として、イソフラボン類を含んだ食品を摂取することに加えて、本発明の微生物do03株を併せて摂取して、腸管内でダイゼインがdo03株の代謝反応によって、エクオールに転換するので、速やかな腸管吸収が起こることを特徴としている。あるいは、イソフラボン類を予め本願微生物do03株に曝して変換反応を進めて、エクオールになったものを飲食品として摂取することもできる。微生物do03株を用いた発酵食品を製造でき、発酵に伴ってイソフラボン類は、エクオールへと転換されて、予防効果を持った飲食品の製造が可能である。食品改善のためにエクオールは、シリアル、ヨーグルト、豆乳、スープ、チーズ、パスタ、スプレッド、キャンディーバー、スポーツバー、飲料水または乳製品を含む広範囲の食品に混合できる、または食品成分として混合して使用できる。

【発明の効果】
【0008】
(1)本発明のダイゼインを基質としてエクオールを製造できる微生物を用いて、ダイゼインを摂取するともに当該微生物(プロバイオティック微生物製剤)あるいは、当該微生物の生産する酵素(酵素製剤)を摂取すると腸管内でエクオール生成が促進され、エクオールの腸管からの速やかな吸収起こり、乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害などの予防が、期待できる。
(2)本発明の微生物をもちいてダイゼインを含有する植物を基質として反応させて製造したエクオール含有素材を食品素材として用いた飲食品を製造することによって、それらの飲食品を摂取すれば、エクオールの腸管からの速やかな吸収が期待できる。その結果、乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害などの予防が、期待できる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)当該微生物をプロバイオティック微生物製剤として用いる際は、当該微生物は、生きている必要があり、生菌製剤として用いる。あるいは、当該微生物をスターターとして、もしくは、スターターの一つとして発酵させたヨーグルトなどの発酵食品として摂取する。
(2)該微生物の生産する酵素を用いて酵素製剤として摂取する際には、微生物は死んでいても使用することが出来る。あるいは、微生物破砕物として用いることも出来る。
(3)当該微生物を用いてダイゼインを含有する植物を基質として反応させた反応物を素材とした食品を製造すれば、食品そのものにエクオールが、高濃度含有された食品となり、摂取によってエクオールは、消化管で速やかに吸収される。エクオールの摂取は、粉末のままでも水に溶いた状態でも、どんな状態でも良く、さらに、他の食品と同時に摂取するのも問題はない。

【実施例1】
【0010】
当該微生物do03株 (AHU-1763)(FERM AP-20905)の分離の経過について述べる。
ダイゼイン及びエクオールは、LC laboratories 社 (Woburn, MA, USA)の試薬を、
ジヒドロダイゼインは、Toronto
Research Chemicals 社 (North York, Canada) の試薬を使用した。
エクオール生産菌を単離するために具体的には以下のように行った。スクリーニング用変換培地は、1リットルの蒸留水に、GAM培地(日水)29.5 g、炭酸カルシウム 10 g、フジフラボンP10(フジッコ社) 2 gを入れ、115℃で15分間滅菌後、嫌気チャンバー
(Coy社製) 内で、嫌気状態になるように嫌気ガス(二酸化炭素、水素、窒素の混合ガス)で置換した。この培地に、凍結保存しておいたSD系雄ラットの盲腸内容物を添加し、2日間、37℃で嫌気培養した。その培養液を塗沫用培地(1リットルの蒸留水に、GAM培地14.75 g、フジフラボンP10 2 g、寒天15 gをいれ、115℃で15分間滅菌後、嫌気チャンバー内で嫌気ガスで置換した)に塗沫し、2日間37℃で嫌気培養した。出現したコロニーまたはコロニー群、合計233種類をそれぞれ個別に新規に調製したスクリーニング用変換培地にいれ、2日間37℃で嫌気培養した。
それぞれの培養液を後の述べる方法でエクオールの含量を定量した。その中で、エクオールが検出された培養液を選択した。その培養液を1白金耳の分量を採って、再び新鮮な塗沫用培地に塗沫した。単菌になるまで、以上の操作を繰り返した。
単離した微生物は、ダイゼインからエクオールへの変換能力を定量し、より性能の高い微生物を探索した。変換能力の測定には、変換培地(1リットルの蒸留水に、GAM培地 59 g、炭酸カルシウム 10 g、ダイゼイン(最終濃度200μM) をいれ、115℃で15分間滅菌後、嫌気チャンバー内で嫌気ガスで置換した)を使用し、5日間37℃で嫌気培養後、下記の方法で溶媒抽出して、HPLCで定量分析を行った。
【0011】
エクオールの定量は、次の様に行った。変換培地の培養液10mlを、15mlの酢酸エチルで3回抽出し、乾燥させ、0.5mlのメタノールに溶かし、フィルター(Millex-LH、ミリポア社) でろ過してから、HPLCで分析した。HPLCは、次の条件で行った。使用カラム Mightysil RP-18 GP、
250mm、内径3mm、関東化学社製、カラム温度60℃、移動相は、水、アセトニトリル:酢酸=75:25:0.1、流速0.4ml/分、紫外線検出器280nm。
【0012】
ダイゼインからエクオールへ変換する能力を持つ微生物do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)を分離した。本株の微生物学的分類を行った。本株は、アルギニンの共存下で生育は促進されたので、本株の一般的な培養や継体には、次の培地を用いた。GAMブロス(日水製薬)+アルギニン(0.1%)+炭酸カルシウム(1%)。
GAM培地で、2日間37℃で嫌気培養した培養液を位相差顕微鏡で観察し形態観察を行った。グラム染色も行った。16S rDNA配列を定法に従って調べ、ブラスト検索、系統樹解析を行った。

【0013】
do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の分類学的性質を以下に述べる。

表現形質
細胞形態 桿菌(大きさ:0.5-0.6× 0.8-2.0 μm)
運動性 なし
グラム染色 陽性
内生胞子 なし

生理的性質
カタラーゼ 陰性
酸素に対する態度 絶対嫌気性
生育温度 20-40℃で良好な生育
至適pH 7.0

糖の分解 酸の生成 ガスの発生 (+: 陽性、−:陰性)
アラビノース − −
キシロース − −
グルコース − −
マンノース − −
フラクトース − −
ガラクトース − −
マルトース − −
スクロース − −
ラクトース − −
トレハロース − −
ソルビトール − −
マンニトール − −
イノシトール − −
グリセリン − −
デンプン − −

イコール生成能 +
アルギニン添加による増殖促進 陽性

【0014】
do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の化学分類的性質について以下に述べる。
分析方法:菌体の主なる脂肪酸の分析は、脂肪酸メチルエステルは湿潤菌体40 mgをケン化後、メチル化し、GCによって測定した(非特許文献20および21)。
GC含量(GC%)は、菌体からDNAを抽出して、DNAをデオキシリボヌクレオシドに酵素分解後、HPLCで測定した(非特許文献20)。定量用の標準物質としてヤマサ GC キット (ヤマサ醤油)を使用した。

測定結果:do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の分類学的性質
G+C % 63 mol%
主な脂肪酸 C18:1cis−9、 54.0%

【0015】
16S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析
do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)から、DNAを抽出して、16SrDNAの特異的プライマーを用いて、16SrDNAの全長をPCRで増幅して、do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の16S rDNAの塩基配列を決定した(配列表)。DNAデータベース(NCBI)のBLASTプログラムを用いて、相同性検索を行った結果、human intestinal bacterium SNU-Julong 732 (AY310748) と99%の相同性、Eggerthella lenta ATCC 25559T (AF292375) と93%の相同性があった。また、DNAデータベースより入手した相同性の高いEggerthella属とDenitrobacterium属の代表的な細菌種の塩基配列を多重整列後、NJ法により分子系統解析を行った結果、本菌株の分子系統樹の位置は、human intestinal bacterium SNU-Julong 732と同じクラスターで、Eggerthella属とDenitrobacterium属とは別のクラスターであった。

【0016】
以上の分類および同定試験の結果、do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)は、分子系統樹の位置は既存の属には、属さない。即ち新属新種と判断した。新属新種に関する分類学的研究結果は、別途論文として発表する。

【0017】
【非特許文献20】Kuykendall, L. D.et. al,. Int J Syst Bacteriol 38,358-361. 1988.
【非特許文献21】Miller, L. T、J Clin Microbiol 16, 584-586. 1982
【非特許文献22】Tamaoka, J. and Komagata, K. FEMS Microbiol Lett25, 125-128. 1984
【実施例2】
【0018】
do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)のダイゼインからエクオールへの変換能力を定量した。変換能力の測定には、変換培地(1リットルの蒸留水に、GAM培地 59 g、炭酸カルシウム 10 g、ダイゼイン(最終濃度200μM、LC
laboratories 社) をいれ、115℃で15分間滅菌後、嫌気チャンバー内で嫌気ガスによって置換した)を使用し、5日間37℃で嫌気培養後、酢酸エチルで溶媒抽出して、HPLCで定量した。また。変換培地に酪酸(終濃度50μM) を添加した変換培地を用いて、同様に定量した。
培養37℃5日後に、培地成分を分析したところ、添加したダイゼインは、エクオールに変換されていた。変換培地(GAM培地)での変換率は0.15だった(図1)。酪酸を変換培地に添加した実験区では、変換率は大幅に向上し0.71まで上がった。変換培地にアルギニンを添加添加した実験区では、生育(OD)は、大幅に向上したが、エクオールへの変換率は、0.67と大きな差はなかった。また、変換培地にアルギニンと酪酸をともに添加した実験区では、変換率は、0.58と向上はなく、生育も低くなった。エクオールの変換には、少なくとも2種類の酵素が関与しており、それらの酵素の発現や酵素活性には、酪酸との関係が示唆された。

【実施例3】
【0019】
フジフラボンP10(フジッコ社)を原料としてdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)を用いて、エクオール高含有サプリメントの製造。
フジフラボンP10(フジッコ社)50gを1リットルのリン酸緩衝液(50mM、pH7.0)に溶解し、βグルコシダーゼを添加して、フジフラボンP10中のダイジンから糖が乖離してダイゼインになるまで40℃、6時間反応させた。その反応液に、グルコース10g、酪酸500mgを添加し、115℃、15分で滅菌して、37℃まで冷却した。別に培養したdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)溶液を100ml添加して、嫌気条件下で2日間培養した。反応後の培養液では、ダイゼインの66%が、エクオールに変換された。
反応液をスプレードライヤーで乾燥して、エクオール高含有の乾燥物を得た。このパウダーをカプセル化してサプリメントとした。一方、この乾燥物を食品に加えることによってエクオールを高含有した食品や菓子を制作した。

【実施例4】
【0020】
大豆を原料とするエクオール高含有食品
大豆を洗浄後、130℃で20分間高圧蒸気で蒸煮する。柔らかくなった大豆に納豆菌もしくは、麹菌をかけて1日発酵させる。この行程で、納豆菌もしくは麹菌の産生するβグルコシダーゼによって、配糖体のダイジンは、ダイゼインへと変換される。次に、嫌気環境に移して、予め培養したdo03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の培養液をかけて、1日発酵を進める。これによって、エクオール高含有の大豆食品素材ができた。

【実施例5】
【0021】
do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)を凍結乾燥などにより生きたまま製材としたもの、あるいは、do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)の発酵液を含有した飲料は、プロビオティック食品として提供できる。これらと大豆などダイジンを含む食品を合わせて摂取すれば、


【産業上の利用可能性】
【0022】
通常の食生活の中で本発明の飲食品、あるいは食素材を摂取することによって種々のガンをはじめとした重大な病気のリスク低減が可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】doダイゼインからエクオールへの変換率(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイゼインを基質としてエクオールを生産することのできるグラム陽性細菌 do03株(AHU-1763)(FERM AP-20905)。

【請求項2】
請求項1の微生物を含有し、消化管内でダイゼインをエクオールに変換することを目的とした飲食品、サプリメントまたは医薬品などの形状をとったエクオール変換促進剤。

【請求項3】
ダイゼインおよびその配糖体を含むイソフラボン類を含有する大豆など豆科植物を原料として、あるいは、ダイゼインおよびその配糖体を含有する植物を原料として、請求項1の微生物を用いたエクオールの製造方法。

【請求項4】
請求項3の方法で製造されたエクオール高含有素材を用いた飲食品、サプリメントまたは医薬品あるいは動物用飼料。

【請求項5】
請求項1の微生物を発酵スターターの一つとし、発酵基質としてイソフラボン含有食素材を用いて製造したエクオール高含有の発酵食品。



【図1】
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【公開番号】特開2008−61584(P2008−61584A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243491(P2006−243491)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(593013074)
【Fターム(参考)】