説明

エコー消去装置

【課題】受信信号がモノラル信号の場合でも高いエコー消去性能を有するエコー消去装置を得る。
【解決手段】エコー消去装置は、Left側およびRight側スピーカ1,2から音声として出力されたLeftおよびRightチャンネルの受信信号を収音して送信入力信号を生成するマイク3と、受信入力された各受信信号を、和信号および差信号に変換する和・差信号生成部101と、和信号を和信号適応フィルタ係数によってフィルタリングし、和信号成分擬似エコー信号を生成する和信号適応フィルタ102と、差信号を差信号適応フィルタ係数によってフィルタリングし、差信号成分擬似エコー信号を生成する差信号適応フィルタ103と、和信号成分擬似エコー信号および差信号成分擬似エコー信号を加算して擬似エコー信号を生成する加算器104と、送信入力信号から擬似エコー信号を減算して、エコーが消去された送信出力信号を生成する減算器105とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声信号に混入する音響エコーを消去するエコー消去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来のステレオエコー消去装置の構成図である。図3に示すステレオエコー消去装置は、受信入力されたステレオチャンネルの音声信号を出力するLeft側およびRight側スピーカ1,2、これらスピーカ1,2の出力を受けて送信入力信号とするマイク3、Leftチャンネル4およびRightチャンネル5の受信信号時系列ベクトルを入力とする適応フィルタ301,302を備えている。ただし、Leftチャンネル4の受信信号時系列ベクトルを、太字lin(n)(電子出願の関係上、強調文字のアルファベット文字を太字アルファベットと表記する)、Rightチャンネル5の受信信号時系列ベクトルを太字rin(n)とし、Left側およびRight側スピーカ1,2−マイク3間の伝達関数のインパルス応答をそれぞれ太字hL、太字hRとする。
エコー以外の入力音声がないと仮定した場合、マイク3に入力される送信入力信号sin(n)は、下記式(1)のように表される。ここで、NはN>0であり、エコーの残響時間に対して十分大きいとする。また、太字hL太字lin(n),太字hR太字rin(n)は、それぞれLeftチャンネルによるエコー、Rightチャンネルによるエコーを表している。
【数1】

【0003】
従来のステレオエコー消去装置では、lin(n)を入力とする適応フィルタ301と、rin(n)を入力とする適応フィルタ302によって太字hL,太字hRを適応化学習して、Left側およびRight側スピーカ1,2−マイク3間の伝達関数のインパルス応答の推定値太字hLハット、太字hRハットを求める。そして、適応フィルタ301,302は、各推定値から擬似エコー信号太字hLハット太字lin(n)、太字hRハット太字rin(n)を生成し、減算器304が送信入力信号sin(n)からこれらの擬似エコー信号を引き去ることによってエコーを消去している。
【0004】
このようなステレオエコー消去を行う技術としては、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5828756号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のステレオエコー消去装置は以上のように構成されているので、ステレオ音声の受信信号が入力されたときと比較して、モノラル音声の受信信号が入力されたときには十分なエコー消去性能が得られないという課題があった。
【0007】
図4は、従来のステレオエコー消去装置のスピーカとマイクの配置関係を示す説明図である。以下、図3および図4を用いて、上記課題をより詳細に説明する。従来のステレオエコー消去装置は、図4に示すように、Left側スピーカ1からマイク3までの距離とRight側スピーカ2からマイク3までの距離とが異なる場合、受信信号としてステレオ音声が入力されたときと比較して、モノラル音声が入力されたときにエコー消去量が低下していた。図3に示す従来のステレオエコー消去装置にモノラル音声が入力された場合、モノラル音声は太字lin(n)=太字rin(n)であるので、それぞれの適応フィルタ301,302に同じ受信信号が入力されることとなる。このときの適応フィルタ301の出力をdL(n)、適応フィルタ302の出力をdR(n)とすると、各出力は下記式(2)で表される。なお、適応フィルタ301,302のフィルタ係数列を太字a1(n),太字a2(n)とする。
【数2】

【0008】
よって、減算器304が、加算器303により加算された適応フィルタ301,302の出力(dL(n)+dR(n))を送信入力信号sin(n)から引いて求めた残差信号sout(n)は、下記式(3)で表すことができる。
ここで、受信信号はモノラル音声であるので、太字lin(n)=太字rin(n)=太字u(n)とすれば、sout(n)は下記式(4)のようになる。
【数3】

【0009】
また、このときの適応フィルタ301,302の係数更新式は、例えばNLMS(Normalized Least Mean Square)アルゴリズムを用いた場合、下記式(6)で表される。ただし、αは係数更新ステップゲインである。さらに、下記式(6)において太字a1(n),太字a2(n)をまとめれば、下記式(7)が得られる。
【数4】

【0010】
このように、式(4)および式(7)から、同じ受信信号が入力される2つの適応フィルタ301,302は、倍の係数更新ステップゲインを持った1つの適応フィルタと同じ振る舞いをすることがわかる。
【0011】
一般に、エコーキャンセラにおいて適応フィルタの係数更新ステップゲインを大きくした場合、エコーの伝播経路の変化による追従性が向上する利点がある反面、係数が収束した後でもエコー消去量が安定しないという欠点がある。これは、係数の修正量が大きくなる分、送信入力信号に含まれる雑音や話者音声成分による影響を受けやすくなり、適応化誤差が大きくなる為である。一方で、係数更新ステップゲインを小さくした場合、係数収束後のエコー消去量は安定するがエコーの伝播経路の変化に対する追従性は低下する。
従って、従来のエコーキャンセラは、モノラル音声が入力された場合に実効的な係数更新ステップゲインが大きくなることにより、ステレオ音声が入力されたときより適応化誤差が大きくなる問題がある。また、もしモノラル音声入力時の適応化誤差を抑える為に係数更新ステップゲインを小さく設定すれば、逆にステレオ音声入力時のエコーの伝播経路の変化に対する追従は遅くなる。
【0012】
さらに、図4に示すような、各スピーカ1,2とマイク3との距離が異なる配置であった場合におけるフィルタ適応について説明する。説明を簡単にする為、スピーカ−マイク間の伝達関数のインパルス応答である太字hL,太字hRをそれぞれ下記式(8)のように仮定する。即ち、Left側スピーカ1−マイク3間の伝達関数のインパルス応答太字hLは、pサンプルの遅延を持ったインパルスであり、Right側スピーカ2−マイク3間の伝達関数のインパルス応答太字hRはqサンプルの遅延を持ったインパルスである。
【数5】

【0013】
ここで、受信信号がモノラル音声のときは、太字lin(n)=太字rin(n)=太字u(n)であるので、送信入力信号sin(n)は下記式(9)となる。このとき、p≠qであれば下記式(9)からわかるように、sin(n)には各スピーカ1,2から異なる信号u(n−p)およびu(n−q)が入力されていることと等価となる。即ち受信信号がモノラル音声であっても、マイク3には実質上「ステレオ音声」が入力されていることとなる。
【数6】

【0014】
前述の通り、従来のステレオエコー消去装置にモノラル音声が入力された場合、2の適応フィルタであっても1つの適応フィルタを持つ装置と同じ振る舞いとなる。そのため、受信信号がモノラル信号である場合に、実質上「ステレオ音声」である入力に対して、1つの適応フィルタによりLeft側およびRight側スピーカ1,2−マイク3間それぞれの伝達関数のインパルス応答を学習同定することとなる。このため、ステレオ音声入力時と比較して、モノラル音声入力時にはエコー消去量の低下が起こっていた。
【0015】
以上のように、従来のステレオエコー消去装置では、モノラル音声とステレオ音声が混在するような受信信号が入力された場合に、ステレオ音声が入力されたときと比較してモノラル音声が入力されたときにはエコー消去量が低下してしまい、十分なエコー消去性能が得られなかった。
【0016】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、受信信号がモノラル信号の場合でも高いエコー消去性能を有するエコー消去装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るエコー消去装置は、各チャンネルの受信信号を入力し和信号および差信号を生成する和・差信号生成部と、和信号を和信号適応フィルタ係数でフィルタリングして和信号成分擬似エコー信号を生成する和信号適応フィルタと、差信号を差信号適応フィルタ係数でフィルタリングして差信号成分擬似エコー信号を生成する差信号適応フィルタと、マイクに入力された送信入力信号から和信号成分擬似エコー信号および差信号成分擬似エコー信号を減算し、送信出力信号として出力する減算部と、送信出力信号を残差信号として用いて和信号適応フィルタ係数の適応化更新を行う和信号適応フィルタ係数更新部と、送信出力信号を残差信号として用いて差信号適応フィルタ係数の適応化更新を行う差信号適応フィルタ係数更新部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、ステレオチャンネルの受信信号を和信号および差信号に変換してそれぞれ適応フィルタに入力するようにしたので、受信信号がモノラル音声の場合には和信号がモノラル音声そのものとなり、和信号適応フィルタがステレオ音声入力時と同じ和信号適応フィルタ係数を用いてエコー消去を行うことができるため、エコーの収束性能が低下することがない。この結果、モノラル音声入力においても高いエコー消去性能を有するエコー消去装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るエコー消去装置の構成を示すブロック図である。図1に示すエコー消去装置は、Left側スピーカ1、Right側スピーカ2、マイク3、Leftチャンネル4、Rightチャンネル5、和・差信号生成部101、和信号適応フィルタ102、和信号適応フィルタ係数更新部102a、差信号適応フィルタ103、差信号適応フィルタ係数更新部103a、加算器104、減算器105を備える。なお、以下の実施の形態の説明において、先立って説明した従来技術(図3および図4)の構成要素と同一または相当するものには同一の符号を付し、説明を省略する。
【0020】
和・差信号生成部101は、Leftチャンネル4およびRightチャンネル5から受信入力された受信信号を受け、各受信信号を加減算して和信号および差信号をそれぞれ生成し、和信号を和信号適応フィルタ102へ、差信号を差信号適応フィルタ103へ出力する。
和信号適応フィルタ102は、和・差信号生成部101から和信号を受け、和信号を和信号適応フィルタ係数でフィルタリングした和信号成分擬似エコー信号を生成して加算器104へ出力する。また、差信号適応フィルタ103は、和・差信号生成部101から差信号を受け、差信号を差信号適応フィルタ係数でフィルタリングした差信号成分擬似エコー信号を生成して加算器104へ出力する。和信号および差信号適応フィルタ係数の適応化更新は、和信号適応フィルタ係数更新部102aおよび差信号適応フィルタ係数更新部103aが行う。
加算器104は、和信号適応フィルタ102から和信号成分擬似エコー信号を、差信号適応フィルタ103から差信号成分擬似エコー信号をそれぞれ受け、これらの擬似エコー信号を加算して擬似エコー信号d(n)を生成し、減算器105へ出力する。
減算器105は、マイク3の送信入力信号sin(n)と加算器104の擬似エコー信号d(n)を受け、送信入力信号から擬似エコー信号を減算した送信出力信号sout(n)を出力する。
【0021】
次に、エコー消去装置の動作を説明する。
先ず、Leftチャンネル4は受信信号であるLeftチャンネル受信信号時系列ベクトル太字lin(n)を、Rightチャンネル5は受信信号であるRightチャンネル受信信号時系列ベクトル太字rin(n)を、それぞれ和・差信号生成部101ならびにLeft側およびRight側スピーカ1,2に出力する。
次に、和・差信号生成部101が、下記式(10)に従って受信信号時系列ベクトル太字lin(n),太字rin(n)を加算および減算し、和信号太字xS(n)および差信号xD(n)をそれぞれ算出する。
【数7】

【0022】
次いで、和信号適応フィルタ102は、和・差信号生成部101から和信号太字xS(n)を受けると、和信号適応フィルタ係数太字aS(n)によって和信号太字xS(n)をフィルタリングし、和信号成分擬似エコー信号dS(n)を出力する。
また、差信号適応フィルタ103は、和・差信号生成部101から差信号太字xD(n)を受けると、差信号適応フィルタ係数太字aD(n)によって差信号太字xD(n)をフィルタリングし、差信号成分擬似エコー信号dD(n)を出力する。
即ち、和信号適応フィルタ102および差信号適応フィルタ103は、下記式(11)に従うフィルタリングを行い、和成分および差成分擬似エコー信号dS(n),dD(n)をそれぞれ出力する。
【数8】

【0023】
続いて、加算器104が和成分および差成分擬似エコー信号dS(n),dD(n)を受けて、下記式(12)に従って両者を加算して擬似エコー信号d(n)を出力する。
そして、減算器105が、マイク3の送信入力信号sin(n)と加算器104の擬似エコー信号d(n)を受け、下記式(13)に従って、送信入力信号sin(n)から擬似エコー信号d(n)を引き去った送信出力信号sout(n)を出力する。
d(n)=dS(n)+dD(n) (12)
out(n)=sin(n)−d(n) (13)
なお、この送信出力信号sout(n)は、和信号適応フィルタ係数更新部102aおよび差信号適応フィルタ係数更新部103aそれぞれにも出力される。
【0024】
ここで、和信号適応フィルタ102の和信号適応フィルタ係数更新部102aおよび差信号適応フィルタ103の差信号適応フィルタ係数更新部103aは、送信出力信号sout(n)を残差信号sout(n)として用いて、和信号適応フィルタ102の和信号適応フィルタ係数太字aS(n)および差信号適応フィルタ103の差信号適応フィルタ係数太字aD(n)の更新を行う。
和信号適応フィルタ係数更新部102aおよび差信号適応フィルタ係数更新部103aが係数更新に用いる適応化アルゴリズムとしては、NLMSアルゴリズムのような一般的なアルゴリズムがある。一例として、NLMSアルゴリズムを用いた場合の係数更新式を下記式(14)に示す。ここで、α1,α2は、各々の適応フィルタ係数更新ステップゲインである。
【数9】

【0025】
以上のように、実施の形態1によれば、エコー消去装置は、和信号適応フィルタ102および差信号適応フィルタ103へ入力する信号を、和・差信号生成部101が和信号および差信号に変換した信号としている。そのため、受信信号がモノラル信号である場合、即ち太字lin(n)=太字rin(n)となる場合、上記式(10)より和信号はモノラル信号そのものになり、差信号は0になる。この結果、和信号適応フィルタ102および差信号適応フィルタ103は、1つの適応フィルタ、即ち和信号適応フィルタ102と同じ振る舞いとなるが、和信号適応フィルタ102はステレオ信号時と同じ適応フィルタ係数を用いることができるために収束が遅くなることはない。
従って、受信信号にモノラル音声とステレオ音声が混在する場合に、ステレオ音声入力時と比較してモノラル音声入力時にエコーの収束性能が低下することがなくなり、安定したエコー消去効果が得られる。
【0026】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係るエコー消去装置の構成を示すブロック図である。図2に示すエコー消去装置は、Left側スピーカ1、Right側スピーカ2、マイク3、Leftチャンネル4、Rightチャンネル5、遅延制御部201、遅延量決定部202、和・差信号生成部203、和信号適応フィルタ102、和信号適応フィルタ係数更新部102a、差信号適応フィルタ103、差信号適応フィルタ係数更新部103a、加算器104、減算器105を備える。なお、以下の実施の形態の説明において、先立って説明した従来技術(図3および図4)および上記実施の形態1(図1)の構成要素と同一または相当するものには同一の符号を付し、説明を省略する。
【0027】
遅延制御部201は、Leftチャンネル4およびRightチャンネル5の受信信号と遅延制御部201の遅延量信号を受け、各受信信号に所定の遅延量(または遅延挿入量)を挿入して遅延させたLeftチャンネル遅延挿入信号およびRightチャンネル遅延挿入信号を生成し、それぞれ和・差信号生成部203へ出力する。
遅延量決定部202は、受信信号に挿入する遅延量を示す遅延量信号を遅延制御部201へ出力する。
和・差信号生成部203は、遅延制御部201からLeftチャンネル遅延挿入信号およびRightチャンネル遅延挿入信号を受け、和信号および差信号をそれぞれ生成し、和信号を和信号適応フィルタ102へ、差信号を差信号適応フィルタ103へ出力する。
【0028】
次に、エコー消去装置の動作を説明する。
先ず、遅延量決定部202が遅延挿入量を決定し、遅延量信号として遅延量決定部202に出力する。ここで、Leftチャンネル受信信号への遅延挿入量をpサンプル、Rightチャンネル受信信号への遅延挿入量をqサンプルとする。遅延量決定部202は、遅延挿入量p,qを外部から受け付けてもよいし、あるいは遅延挿入量p,qを求める式を持ち、その式から計算してもよい。一例として、Left側スピーカ1とマイク3との距離およびRight側スピーカ2とマイク3との距離を基に遅延挿入量p,qを求める式(15)を下記に示す。ただし、LengthLは図4に示すLeft側スピーカ1とマイク3との距離[m]、LengthRはRight側スピーカ2とマイク3との距離[m]、Fsは受信信号のサンプリング周波数、Cは音の速度[m/sec]とする。
p=Fs×(LenghtL/C) (15)
q=Fs×(LenghtR/C)
【0029】
Leftチャンネル4は受信信号であるLeftチャンネル受信信号時系列ベクトル太字lin(n)を、Rightチャンネル5は受信信号であるRightチャンネル受信信号時系列ベクトル太字rin(n)を、それぞれ遅延制御部201ならびにLeft側およびRight側スピーカ1,2に出力する。
次いで、遅延制御部201が遅延量決定部202から受けた遅延量信号に従って、受信信号時系列ベクトル太字lin(n)に遅延挿入量pサンプルを挿入したLeftチャンネル遅延挿入信号太字lin(n−p)を算出すると共に、太字rin(n)にqサンプルを挿入したRightチャンネル遅延挿入信号太字rin(n−q)を算出する。遅延制御部201の遅延挿入方法は、例えばFIR(Finite Impulse Response)の遅延フィルタを用いて実現すればよい。
【0030】
続いて、和・差信号生成部203は、遅延制御部201からLeftチャンネル遅延挿入信号太字lin(n−p)およびRightチャンネル遅延挿入信号太字rin(n−q)を受けると、下記式(16)に従って和信号太字xS(n)および差信号太字xD(n)をそれぞれ生成する。和信号太字xS(n)は和信号適応フィルタ102に出力され、差信号太字xD(n)は差信号適応フィルタ103に出力される。
【数10】

【0031】
和信号適応フィルタ102、和信号適応フィルタ係数更新部102a、差信号適応フィルタ103、差信号適応フィルタ係数更新部103a、加算器104および減算器105の各動作は上記実施の形態1と同様である。
【0032】
以上のように、実施の形態2によれば、エコー消去装置は、和信号適応フィルタ102および差信号適応フィルタ103へ入力する信号を、遅延制御部201が受信信号に任意サンプル数の遅延量を挿入した後で和・差信号生成部203が和信号および差信号に変換した信号としている。そのため、受信信号がモノラル信号である場合、遅延サンプル数がLeftチャンネルとRightチャンネルとで互いに等しいときには、上記式(16)より和信号はモノラル信号そのものになり、差信号は0になる。この結果、上記実施の形態1と同様に和信号適応フィルタ102および差信号適応フィルタ103は、1つの適応フィルタ、即ち和信号適応フィルタ102と同じ振る舞いとなるが、ステレオ信号時と同じ適応フィルタ係数を用いることができるために収束が遅くなることはない。
また、遅延サンプル数が互いに異なるときには、実質上「ステレオ音声」である入力に対して、2つの適応フィルタ、即ち和信号適応フィルタ102および差信号適応フィルタ103を用いてLeft側およびRight側スピーカ1,2−マイク3間それぞれの伝達関数のインパルス応答を学習同定することが可能となる。
従って、受信信号に対して和信号適応フィルタ102および差信号適応フィルタ103の学習同定のための遅延を挿入することにより、ステレオ音声が入力された場合と比較して、モノラル音声が入力された場合にエコー消去性能が低下することがなくなり、安定したエコー消去効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエコー消去装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係るエコー消去装置の構成を示すブロック図である。
【図3】従来のエコー消去装置の構成を示す構成図である。
【図4】従来のエコー消去装置におけるスピーカとマイクとの位置関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 Left側スピーカ、2 Right側スピーカ、3 マイク、4 Leftチャンネル、5 Rightチャンネル、101,203 和・差信号生成部、102 和信号適応フィルタ、102a 和信号適応フィルタ係数更新部、103 差信号適応フィルタ、103a 差信号適応フィルタ係数更新部、104,303 加算器、105,304 減算器(減算部)、201 遅延制御部、202 遅延量決定部、301,302 適応フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオチャンネルの音声信号を受信入力とするエコー消去装置において、
各チャンネルの受信信号を入力し和信号および差信号を生成する和・差信号生成部と、
前記和信号を和信号適応フィルタ係数でフィルタリングして和信号成分擬似エコー信号を生成する和信号適応フィルタと、
前記差信号を差信号適応フィルタ係数でフィルタリングして差信号成分擬似エコー信号を生成する差信号適応フィルタと、
マイクに入力された送信入力信号から前記和信号成分擬似エコー信号および前記差信号成分擬似エコー信号を減算し、送信出力信号として出力する減算部と、
前記送信出力信号を残差信号として用いて前記和信号適応フィルタ係数の適応化更新を行う和信号適応フィルタ係数更新部と、
前記送信出力信号を残差信号として用いて前記差信号適応フィルタ係数の適応化更新を行う差信号適応フィルタ係数更新部とを備えたことを特徴とするエコー消去装置。
【請求項2】
各チャンネルの受信信号のそれぞれに対して遅延を与える遅延制御部を備え、
和・差信号生成部は、前記遅延制御部によって遅延された前記受信信号の和信号および差信号を生成することを特徴とする請求項1記載のエコー消去装置。
【請求項3】
遅延制御部は、受信信号に遅延を与える遅延フィルタを備えたことを特徴とする請求項2記載のエコー消去装置。
【請求項4】
マイクと各チャンネルに対応するスピーカとの距離に基づいて各チャンネルの受信信号に与える遅延量を決定する遅延量決定部を備え、
遅延制御部は、前記受信信号に対して前記遅延決定部で決定した遅延量を与えることを特徴とする請求項2または請求項3記載のエコー消去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−68213(P2010−68213A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232249(P2008−232249)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】