説明

エタノール製造方法、およびエタノール製造システム

【課題】バイオマスをガス化して得られた水素と一酸化炭素とを含む合成ガスから低コストでエタノールを合成するエタノール製造方法、および該方法に用いることのできるエタノール製造システムの提供。
【解決手段】少なくとも水素と一酸化炭素とを含むバイオマスガスと、少なくともロジウムとマンガンとを含む触媒とを用いて、エタノールを含む生成物を得ることを特徴とするエタノール製造方法、バイオマスをガス化して少なくとも水素と一酸化炭素とを含むバイオマスガスを得る浮遊外熱式ガス化装置と、前記バイオマスガスを精製する圧力スイング吸着式精製装置と、精製された前記バイオマスガスを少なくともロジウムとマンガンとを含む触媒が充填された反応管に流通させることによりエタノールを製造するエタノール製造装置とを有するエタノール製造システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスをガス化して得られた水素と一酸化炭素とを含む合成ガス(バイオマスガス)から低コストでエタノールを合成することのできるエタノール製造方法、および該方法に用いることのできるエタノール製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールは石油代替燃料として、その「カーボンニュートラル」という特性から地球温暖化対策のために普及が進められている。また、昨今の原油価格の急激な変動や供給不安定性、将来的な枯渇の問題を鑑みても代替燃料あるいは化成品原料としてのバイオエタノールは極めて重要である。
バイオエタノールは主にサトウキビやトウモロコシの糖化および発酵により生産されているが、本来食料となるものを原料に用いることで世界的な食糧問題を引き起こす可能性がある。そこで廃木材や、稲わら等の作物の未利用部分といった木質系および草本系バイオマス(セルロース系バイオマスともいう)からバイオエタノールを生産する技術開発が各方面で行われている。しかし、木質系・草本系バイオマスから従来のエタノール発酵法を用いてバイオエタノールを生産するためには、セルロースを糖化させる必要があり、濃硫酸糖化法、希硫酸・酵素糖化法、水熱糖化法など多くの検討がなされているが、安価なバイオエタノールを生産するためにはいまだ多くの課題が残されている。
【0003】
一方、木質系・草本系等のバイオマスを水素と一酸化炭素とを含む合成ガスに変換した後、この合成ガスから化学的にエタノールを合成する方法が考えられる。この方法によれば、エタノール発酵法の適用が難しいセルロース系バイオマスからも高効率にバイオエタノールを生産できる可能性がある。さらに、この方法によれば、木質系・草本系バイオマスに限らず、動物の死骸や糞等由来の動物バイオマス、生ゴミ、廃棄紙、廃繊維といった多様なバイオマスを原料に用いることができる。
バイオマスをガス化して得られた水素と一酸化炭素とを含む合成ガス(バイオマスガスともいう)からエタノールを合成する従来技術としては、特許文献1が挙げられる。この公報では、バイオマスから水素と一酸化炭素との混合ガスを合成し、これからジメチルエーテル(DME)を合成した後、DMEのカルボニル化反応により酢酸メチルを合成し、酢酸メチルの水素化反応によりエタノールを合成する方法が開示されている。この公報では、H−MORゼオライト触媒を用いてDMEから酢酸メチルを合成し、続いてシリカ担持銅触媒を用いて酢酸メチルからエタノールを合成する技術が開示されている。ここで、DME転化率:6〜20%、エタノール選択率:32〜60%であることが開示されている。
【0004】
別の従来技術としては、特許文献2に、合成ガスを介してバイオマスをエタノールに変換するための方法が開示されている。この公報では、合成ガスから触媒の存在下、メタノールを合成した後、金属触媒を用いたメタノールのカルボニル化反応により酢酸メチルを合成し、酢酸メチルの水素化反応によりエタノールを合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239539公報
【特許文献2】特表2009−532483公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の方法では、合成ガスからエタノールを合成する反応が3ステップからなるため、総合的な転化率、選択率が低くなるとともに、設備費用も高くなり、エタノールの製造コストが高くなる問題がある。
また、上記特許文献2に記載の方法では、合成ガスからエタノールを合成する反応が3ステップからなるためエタノールの製造効率が低くなり、コストが高くなる問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するため、すなわち、バイオマスをガス化して得られた水素と一酸化炭素とを含む合成ガス(バイオマスガス)から低コストでエタノールを合成するエタノール製造方法、および該方法に用いることのできるエタノール製造システムを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、バイオマスをガス化して得られた水素と一酸化炭素とを含むバイオマスガスから1ステップまたは2ステップの反応によりエタノールを合成する方法を鋭意検討した結果達成されたものである。
さらに、本発明は、低コストでエタノールを製造するために適したバイオマスガス化方式およびバイオマスガス精製方式を鋭意検討した結果達成されたものである。
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するエタノール製造方法およびエタノール製造システムを提供するものである。
(1)少なくとも水素と一酸化炭素とを含むバイオマスガスと、少なくともロジウムとマンガンとを含む触媒とを用いて、エタノールを含む生成物を得ることを特徴とするエタノール製造方法、
(2)前記触媒が、さらに、リチウムとイリジウムの少なくとも一つを含む(1)に記載のエタノール製造方法、
(3)さらに、前記生成物と、水素化触媒とを用いて、エタノールを得る(1)又は(2)に記載のエタノール製造方法、
(4)前記水素化触媒が少なくとも銅を含む(3)に記載のエタノール製造方法。
(5)前記水素化触媒が銅と亜鉛とを含む(4)に記載のエタノール製造方法、
(6)前記バイオマスガスが、浮遊外熱式ガス化方法により得られたものである(1)〜(5)のいずれかに記載のエタノール製造方法、
(7)前記バイオマスガスが、硫黄分を除去して精製されたものである(1)〜(6)のいずれか一項に記載のエタノール製造方法、
(8)前記バイオマスガスが、圧力スイング吸着法により硫黄分を除去されたものである(7)に記載のエタノール製造方法、
(9)バイオマスをガス化して少なくとも水素と一酸化炭素とを含むバイオマスガスを得る浮遊外熱式ガス化装置と、前記バイオマスガスを精製する圧力スイング吸着式精製装置と、精製された前記バイオマスガスを少なくともロジウムを含む触媒が充填された反応管に流通させることによりエタノールを製造するエタノール製造装置とを有するエタノール製造システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエタノール製造方法によれば、バイオマスをガス化して得られた水素と一酸化炭素とを含む合成ガス(バイオマスガス)から、1ステップまたは2ステップの反応により、低コストでエタノールを合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のエタノール製造システムにおける、浮遊外熱式ガス化装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のエタノール製造システムの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<バイオマスガスからのエタノール合成方法>
1.ロジウムとマンガンとを含む触媒
本発明において用いられる触媒は少なくともロジウムとマンガンとを含む触媒であり、ロジウムおよびマンガンからなる触媒、より好ましくは、ロジウム、マンガンに加え、リチウムとイリジウムの少なくとも一つからなる触媒である。通常貴金属触媒において行われるように、担体上に上記の成分を分散した触媒を用いることができる。
ロジウムにマンガンや、リチウム又はイリジウムを添加することでエタノールの生成速度が向上したり、競争反応であるメタン生成反応、エタン生成反応等が抑制され、エタノールの収率が向上する。また、水素化してエタノールに変換することができるアセトアルデヒドや酢酸の生成速度を向上させる効果もある。
【0012】
本発明において用いられる触媒は、貴金属触媒の調製における常法を用いて調製することができる。例えば、含浸法、浸漬法、イオン交換法、共沈法、混練法等によって調製できる。
触媒調製のための原料化合物としては、上記金属の、酸化物、塩化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩等の有機塩またはキレート化合物、カルボニル化合物、シクロペンタジエニル化合物、アンミン錯体、アルコキシド化合物、アルキル化合物等の、通常貴金属触媒を調製する際に用いられる金属化合物を使用することができる。
【0013】
以下に含浸法を例にとり触媒の調製法を説明する。
上記の金属化合物を水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の溶媒に溶解し、その溶液に担体を浸漬した後、多孔質担体を用いる場合においては、金属化合物溶液を担体の細孔内に十分浸透させた後、溶媒を蒸発させ、担体に金属化合物を担持させる。
担体に金属化合物を担持させる方法としては、金属化合物を同一溶媒に同時に溶解した混合溶液を作り、担体に同時に担持させる方法、各成分を別個に溶解した溶液を作り、逐次的に担体に担持させる方法、あるいは各成分を必要に応じて還元、熱処理等の処理を行いながら逐次的、段階的に担持させる方法などを用いることができる。
その他の調製法、例えば担体のイオン交換能を利用したイオン交換によって金属を担持させる方法、共沈法によって触媒を調製する方法なども採用することができる。
【0014】
上述の方法によって調製された触媒は通常還元処理を行うことによって活性化させた後、反応に使用される。還元処理の方法としては、触媒を、水素を含有する気体に接触させることが簡便であって好ましい。この際、還元温度としては、ロジウムが還元される程度の温度、すなわち100℃程度の温度条件でも還元処理が可能であるが、200℃〜600℃の温度下で還元処理を行うことが好ましい。この際、触媒の各成分を十分に分散させる目的で、低温より徐々にあるいは段階的に昇温しながら水素還元を行ってもよい。また、還元剤を用いて化学的に還元を行ってもよい。例えば、一酸化炭素と水とを用いたり、ヒドラジン、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物などの還元剤を用いたりすることにより、還元処理を行ってもよい。
【0015】
本発明に用いられる担体は、通常担体として知られているものを使用できるが、比表面積が10〜1000m/gであり、且つ1nm以上の細孔径を有する担体であることが好ましい。例えば、シリカ、珪酸塩、シリカゲル、モレキュラーシーブ、ケイソウ土等のシリカ系担体、アルミナ、活性炭などが挙げられるが、シリカ系担体が好ましい。
【0016】
本発明において用いられる触媒では、触媒中の各成分の濃度と組成比とは広い範囲で変えることができる。
ロジウムの担体に対する比率は、担体の比表面積を考慮して適宜決定することができるが、好ましくは重量比で0.001〜0.1であり、より好ましくは0.005〜0.05である。マンガンの比率は、好ましくはロジウムに対して原子比で各々0.001〜2であり、より好ましくは0.01〜1の範囲である。また、さらにリチウム、イリジウムを添加する場合の比率は、好ましくはロジウムに対して原子比で各々0.001〜2であり、より好ましくは0.01〜1の範囲である。
【0017】
また、ロジウムとマンガンとを含む触媒により得られたエタノールを含む生成物には、エタノールと、エタノール以外の生成物とが含まれる。エタノール以外の生成物として具体的には、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチルなどが挙げられる。
本発明では、これらエタノール以外の生成物を水素化してエタノールに変換する工程を入れてもよい。例えば、第1ステップとして、少なくともロジウムを含む触媒により、バイオマスガスをエタノールを含む生成物に変換する工程と、第2ステップとして、これらエタノールを含む生成物を水素化触媒に流通させることにより、エタノールを含む生成物中のアセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル等をエタノールに変換する工程とからなるエタノールの製造方法を採用できる。
【0018】
ここで、水素化触媒としては、当該技術分野で知られる触媒が使用でき、銅、銅−亜鉛、銅−クロム、銅−亜鉛−クロム、鉄、ロジウム−鉄、ロジウム−モリブデン、パラジウム、パラジウム−鉄、パラジウム−モリブデン、イリジウム−鉄、ロジウム−イリジウム−鉄、イリジウム−モリブデン、レニウム−亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化白金、酸化ルテニウム等が挙げられる。これらの金属触媒は前述と同様の担体に担持させた担持触媒であってもよい。
好ましくは、銅、銅−亜鉛、銅−クロム、銅−亜鉛−クロムをシリカ系担体に担持させた銅系触媒が使用できる。担持させる方法はロジウム系触媒と同様に常法を用いることができる。
前述の水素化触媒中の各成分の濃度と組成比とは広い範囲で変えることができる。水素化触媒が銅系触媒の場合、銅の担体に対する比率は、好ましくは重量比で0.001〜0.5であり、より好ましくは0.01〜0.3である。また、銅系触媒にさらに亜鉛、クロムを添加する場合の亜鉛、クロムの比率は、好ましくは銅に対して原子比で各々0.1〜10であり、より好ましくは0.5〜2の範囲である。
【0019】
2.エタノールの製造条件
本発明のエタノール製造方法は、例えば固定床流通式反応装置に適用できる。すなわち反応管内に上記のような触媒を充填し、バイオマスガスを流通させて反応を行わせる。反応生成物を分離し、未反応のバイオマスガスを循環再使用することもできる。
また、本発明のエタノール製造方法は、流動床式反応装置にも適用できる。すなわちバイオマスガスと流動化した触媒を同伴させて反応を行わせることもできる。さらに、本発明のエタノール製造方法は、溶媒中に触媒を分散させ、バイオマスガスを流通させて反応を行わせる液相不均一反応装置にも適用できる。
【0020】
本発明におけるエタノールの製造条件は、エタノールを高収率・高選択率・低エネルギーで製造し、その結果として低コストのエタノールを得ることを目的として種々の反応条件を有機的に組み合わせて選択される。
反応圧力としては、常圧でもエタノールを高収率・高選択率で製造できるが、より好ましくは加圧下で反応を行うことができ、好ましくは0.1MPa〜20MPa、より好ましくは0.5MPa〜10MPaの圧力下で反応を行う。さらに反応圧力が0.5MPa以上1.0MPa未満の場合、比較的高い収率・選択率でエタノールが得られるとともに、エタノール製造装置の各部品、部材に高圧ガス保安法に従った認定品を使用する必要がないため低コストでエタノール製造装置が製造でき、比較的小規模のバイオマス収集−エタノール製造システムにおいてより好適に使用できる。
【0021】
反応温度は、好ましくは150℃〜450℃であり、より好ましくは180℃〜350℃である。反応温度が高い場合には、炭化水素の副生量が増加するため原料の流通速度を速くする必要がある。従って、空間速度(単位時間あたりバイオマスガス流通量×触媒容量)は、標準状態換算で10h−1〜100000h−1の範囲から、用いる反応圧力および反応温度、ならびにバイオマスガス組成に応じて、適宜選択される。
本発明に用いられるバイオマスガスは、後述のようにして得ることができる、水素と一酸化炭素とを主成分として含む合成ガスであるが、水素と一酸化炭素との他にメタン、エタン、エチレン、窒素、二酸化炭素、水等を含有してもよい。水素と一酸化炭素との存在比はH/CO比(容積比)で好ましくは0.1〜10であり、より好ましくは0.5〜3.0であり、さらに好ましくは1.5〜2.5である。
【0022】
<バイオマスのガス化方法>
本発明のバイオマスガスは、例えば、バイオマスを、ガス化して得ることができる。
1.バイオマス
本発明で用いられるバイオマスとしては、特に限定されず、サトウキビ、トウモロコシ、パームヤシ、米などの資源作物、間伐材、稲わら、バガス(サトウキビの搾りかす)、トウモロコシの茎芯葉、藻などの未利用バイオマス、生ゴミ、廃食油、剪定枝、廃木材、廃繊維、家畜のし尿、下水汚泥などの廃棄物系バイオマスが挙げられる。好ましくは、間伐材、稲わら、バガス、トウモロコシの茎芯葉、藻などの未利用バイオマスである。
バイオマスは、そのままで用いてもよく、細断や粉砕した後に用いてもよい。細断や粉砕等の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができるが、ディスクミル等を好適に用いることができる。また、細断や粉砕後のバイオマスの粒径は、長辺が10mm以下であることが好ましく、より好ましくは5mm以下である。
【0023】
2.ガス化方式
バイオマスのガス化は、ガス化を行う圧力、温度、用いるガス化剤の種類、加熱方式、ガス化炉形式により様々な形式がある。
圧力としては、常圧(0.1〜0.12MPa)と加圧(0.5〜2.5MPa)に、温度としては、低温(700℃以下)、高温(700℃以上)、高温溶融(灰融点以上)に、ガス化剤としては、空気、酸素、水蒸気およびこれらの組み合わせに、それぞれ分類される。
また、加熱方式(温度場形成方式)としては、ガス化原料となるバイオマスの一部を酸素と反応させて発熱させる直接ガス化と、原料となるバイオマスとガス化剤を外部より加熱する間接ガス化がある。
ガス化炉形式としては、固定床、流動床、循環流動床、噴流床、移動床、かくはん床、ロータリーキルン、二塔式、溶融炉等が挙げられる。これらの形式を組み合わせて目的とするガス組成を経済的に得られるガス化炉形式を選択できる。
前記触媒を用いたエタノール合成において特に好ましいH/CO比(容積比)は、1.5〜2.5であり、水素生成率が比較的高いバイオマスガスを生成することが望ましい。さらに、水素、一酸化炭素以外の副生成物が少ないことも経済性を高める上で重要となる。これらの観点から加圧下、高温で水蒸気をガス化剤とした間接ガス化・噴流床ガス化方式(浮遊外熱式ガス化方式ともいう)がより好ましい。この方法によれば、空気、酸素をガス化剤として用いていないので二酸化炭素、水といった副生成物が少なく、水蒸気量を調整することでH/CO比を1.5〜2.5の範囲に容易に調整できる。さらに外熱を、バイオマスを燃焼させた熱ガスにより供給することでより経済性、環境性が高まるため好適に利用できる。
【0024】
図1に一例として浮遊外熱式ガス化装置の概要を示した。3mm程度に粉砕されたバイオマスと水蒸気とを反応管内で800℃〜1000℃の雰囲気において化学反応させる。このとき、反応管は別途に燃焼させたバイオマス熱ガス発生燃焼炉からの高温ガスで反応管外壁を加熱しておく。供給された粉体の原料バイオマスは灰を残すだけで、有機成分はほぼ全量ガス化し、水素と一酸化炭素とを主成分としたバイオマスガスに変換される。
【0025】
3.ガス精製方式
本発明では、バイオマスガスに含まれうるタール分、硫黄分、窒素分、塩素分、水分等の不純物を除去する目的でガス精製工程をいれてもよい。ガス精製方式としては、湿式法、乾式法等、当該技術分野で知られる各方式を採用できる。本発明においては、少なくともロジウムを含む触媒を用いるため、特に硫黄分の除去(脱硫ともいう)工程を入れることが好ましい。
脱硫方式としては、湿式法として水酸化ナトリウム法、アンモニア吸収法、石灰・石膏法、水酸化マグネシウム法等が、乾式法として活性炭吸着法、電子ビーム法等が挙げられる。これらのうち活性炭吸着法の一つである圧力スイング吸着法(PSA法ともいう)は、圧力を高くすることにより気体を吸着材に吸着させ、圧力を低くすることで吸着材から気体を脱着させることにより、気体の分離・回収を行う方法であり、他の方式に比べ、比較的小型の装置で、低エネルギーにて運転ができる利点があり、適切な装置・条件で運転すればガス中の硫黄分を1ppm以下に低減できる。
なお、PSA法における吸着材としては活性炭の他、ゼオライト、アロフェン、ハイドロタルサイト等を用いることもできる。
図2に本発明において好適に使用できる浮遊外熱式ガス化装置、圧力スイング吸着式ガス精製装置およびエタノール製造装置からなるバイオマスガス化−エタノール製造システムのフロー図を示した。
【0026】
上記のようにして得られたエタノールは、粗エタノールであるため、分離及び回収することにより、精製エタノールを得ることができる。分離及び回収する方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
塩化ロジウム(RhCl・3HO)28.80g、塩化マンガン(MnCl・4HO)3.3g、塩化リチウム(LiCl・HO)9.9gを溶解させたエタノール溶液中に、あらかじめ400℃2時間大気中で焼成したシリカゲル(Davcat#57、Grace Davison社製、比表面積約300m/g、平均細孔径約10nm)240gを投入し、浸漬した。次いでロータリーエバポレーターを用いて、減圧乾燥によりエタノールを除去し、乾燥した。これをガラス反応管に充填し、常圧で水素および窒素の混合ガス(H:1L/min、N:2.8L/min)の通気下、400℃で5.5時間水素還元活性化処理を行った。
また、硝酸銅(Cu(NO・3HO)91.2g、硝酸亜鉛(Zn(NO・6HO)109.2gを溶解させた水溶液中に、焼成したシリカゲル240gを投入し、浸漬した。上記と同様の方法による水の除去・乾燥および活性化処理を行った。
このようにして調整したロジウム系触媒600mlをチタン製反応管に充填し、第1ステップ反応管とし、これと直列に接続したステンレス製反応管に銅−亜鉛系触媒(担体:Davcat#57、Cu:Zn=1:1)600mlを充填し、第2ステップ反応管とし、二本の反応管をエタノール製造装置に設置した。
バイオマスガスの原料として粉砕された杉(粉砕後粒径1〜5mm)を用いて、浮遊外熱式ガス化装置にてガス化し(950℃、0.9Mpa、ガス化炉形式:農林バイオマス3号機)、得られたH/CO=1.9(容積比)のバイオマスガスをPSA式ガス精製装置(吸着剤:活性炭)にて精製した後、圧力0.70MPa、流量30L/minにてエタノール反応装置の第1ステップ反応管、次いで第2ステップ反応管に流通、反応させた。第1ステップ反応管の温度250〜275℃、第2ステップ反応管の温度250〜280℃にて、3時間反応を行った。
【0029】
(実施例2)
バイオマスガスの原料として粉砕されたソルガム(粉砕後粒径1〜10mm)を用いて、実施例1と同様にしてガス化、精製して得られたバイオマスガス(H/CO=1.8(容積比))を圧力0.68MPa、流量25L/minにてエタノール反応装置の第1ステップ反応管、次いで第2ステップ反応管に流通、反応させた。第1ステップ反応管の温度250〜275℃、第2ステップ反応管の温度250〜290℃にて、4.5時間反応を行った。
【0030】
(実施例3)
バイオマスガスの原料として粉砕されたバガス(サトウキビ搾りかす;粉砕後粒径5〜10mm)を用いて、実施例1と同様にしてガス化、精製して得られたバイオマスガス(H/CO=1.8(容積比))を圧力0.68MPa、流量30L/minにてエタノール反応装置の第1ステップ反応管、次いで第2ステップ反応管に流通、反応させた。第1ステップ反応管の温度250〜275℃、第2ステップ反応管の温度250〜290℃にて、1.5時間反応を行った。
【0031】
(実施例4)
バイオマスガスの原料として粉砕された稲わら(粉砕後粒径1〜5mm)を用いて、実施例1と同様にしてガス化、精製して得られたバイオマスガス(H/CO=1.7(容積比))を圧力0.68MPa、流量25L/minにてエタノール反応装置の第1ステップ反応管、次いで第2ステップ反応管に流通、反応させた。第1ステップ反応管の温度250〜275℃、第2ステップ反応管の温度250〜290℃にて、5時間反応を行った。
【0032】
(評価方法)
ガス化装置にてガス化したバイオマスガスの組成および精製装置にて精製した後のバイオマスガスの組成をガスクロマトグラフまたはガス検知管にて測定し、表1に示した。バイオマスガスからエタノール製造装置により製造された粗エタノールを気液分離器にて分離・回収し、単位時間あたりの収量を収率として算出するとともに、エタノール濃度を気化式エタノール濃度計にて測定した値を表2に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
(結果)
表2のように本発明を用いれば、バイオマスガス(水素と一酸化炭素)からエタノールを2ステップで合成できることが示された。また、本実施例では示していないが、第1ステップでの生成物ガスをガスクロマトグラフにより分析した結果から、第1ステップのみでもエタノールが得られることがわかった。
従来技術では合成ガスから3ステップでエタノールを合成しているため反応管が3本必要となり、それぞれの反応効率を考慮すると設備費が多くかかる上に、採取できるエタノールは本実施例より少量である。
本実施例における粗エタノール収率は気液分離器にて分離・回収された量であり、工業プラント設計時に気液分離器をより高性能にすることで収率は増加する。また、粗エタノール中のエタノール濃度は43〜53vol%と高く、残りの成分は水:45〜51vol%と不純物(アセトアルデヒド、酢酸エチル等):1〜3vol%であり、有機生成物中のエタノール選択率が非常に高いことがわかった。
また、本実施例における浮遊外熱式ガス化装置およびPSA式ガス精製装置による各種バイオマスを用いた実験により水素と一酸化炭素とを主成分とした、H/CO比=1.7〜1.8のバイオマスガスが得られ、かつ硫黄分が0ppmに除去されたバイオマスガスが得られることがわかった。これによりロジウムを含む触媒を用いたエタノール製造に適したバイオマスガスが得られることが示された。また、PSA式ガス精製装置で硫黄分を除去していないバイオマスガスによりエタノール合成を試みたが、十分なエタノール量が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のエタノール製造方法、およびエタノール製造システムは、バイオエタノール製造の分野で好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水素と一酸化炭素とを含むバイオマスガスと、少なくともロジウムとマンガンとを含む触媒とを用いて、エタノールを含む生成物を得ることを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、さらに、リチウムとイリジウムの少なくとも一つを含む請求項1に記載のエタノール製造方法。
【請求項3】
さらに、前記生成物と、水素化触媒とを用いて、エタノールを得る請求項1又は2に記載のエタノール製造方法。
【請求項4】
前記水素化触媒が少なくとも銅を含む請求項3に記載のエタノール製造方法。
【請求項5】
前記水素化触媒が銅と亜鉛とを含む請求項4に記載のエタノール製造方法。
【請求項6】
前記バイオマスガスが、浮遊外熱式ガス化方法により得られたものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のエタノール製造方法。
【請求項7】
前記バイオマスガスが、硫黄分を除去して精製されたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のエタノール製造方法。
【請求項8】
前記バイオマスガスが、圧力スイング吸着法により硫黄分を除去されたものである請求項7に記載のエタノール製造方法。
【請求項9】
バイオマスをガス化して少なくとも水素と一酸化炭素とを含むバイオマスガスを得る浮遊外熱式ガス化装置と、前記バイオマスガスを精製する圧力スイング吸着式精製装置と、精製された前記バイオマスガスを少なくともロジウムを含む触媒が充填された反応管に流通させることによりエタノールを製造するエタノール製造装置とを有するエタノール製造システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−1441(P2012−1441A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134923(P2010−134923)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、農林水産省、稲わら等の作物の未利用部分や資源作物、木質バイオマスを効率的にエタノール等に変換する技術の開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【出願人】(502435889)学校法人長崎総合科学大学 (20)
【Fターム(参考)】