説明

エネルギービーム加工装置,エネルギービーム加工方法

【課題】 イオンビーム等のエネルギービームの収束状態や被加工物への照射方向等を維持すると共に,被加工物の加工深さなどの加工条件等に応じて被加工物へ照射するエネルギービームのエネルギーを変更する際の作業を簡略化すること。
【解決手段】 被加工物7にプロトンビームL1(エネルギービーム)を照射させて該被加工物7を加工するエネルギービーム加工装置Xにおいて,イオン発生源1及びイオン加速装置2からなるエネルギービームの発生源と上記被加工物7との間の上記プロトンビーム1の光路上に,上記プロトンビームL1の持つエネルギーを変更させるエネルギー変更手段10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,所定のエネルギーを有するエネルギービームを被加工物に照射させて該被加工物を加工するエネルギービーム加工装置及びエネルギービーム加工方法に関し,特に,上記被加工物の加工条件等に応じて該被加工物に照射するエネルギーを変更する際の作業を簡略化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,イオンビーム等のエネルギービームを用いて,鉄,非鉄,セラミックス,プラスチックス,木材,布,紙,複合材等の多種にわたる材料を対象に,自由曲線切断,穴あけ,表面処理,微細加工などの多岐にわたる加工を行う加工技術(加工方法,加工装置)の開発が多数行われている(特許文献1及び2参照)。
ここで,従来の加工技術を用いた典型的なエネルギービーム加工装置Y(以下「加工装置Y」と略す)の構成例を図6に示す。図示するように,上記加工装置Yは,PIG(Penning Ionization Gauge)型のイオン発生源1と,コッククロフト・ウォルトン回路等を有する高圧電源及び加速管等から構成されるイオン加速装置2と,該イオン加速装置2から出射されたイオンビームL2の軌道を修正するアライメント電極3(3a,3b,3c)と,イオンビームL2の広がりを抑制するコンデンサレンズ4と,イオンビームL2の軌道を90度偏向する偏向電磁石5と,偏向されたイオンビームL2を直径100nm〜10μm程度に収束して被加工物7に焦点を合わせる四重極磁気レンズ等の対物レンズ6と,その他,図示しないアインツェルレンズやE×Bフィルタ等を備えて概略構成されている。
このように構成された従来の加工装置Yでは,上記イオン発生源1で発生したイオンが上記イオン加速装置2へ放出されると,この放出されたイオンは上記イオン加速装置2において高圧電源から高電圧が供給されることにより,この高電圧に対応したエネルギーが蓄積されて加速されて高エネルギーのイオンビームL2となる。なお,上記イオン発生源1と上記イオン加速装置2とを併せてエネルギービーム発生源の一例である。そして,上記イオンビームL2は,アライメント電極3a,コンデンサレンズ4,アライメント電極3bを順次経て偏向電磁石5に導かれ,該偏向電磁石5により90度に軌道が偏向された後に,アライメント電極3cを通過し,そして,対物レンズ6により収束されて,上記被加工物7に照射される。
【特許文献1】特表2001−503569号公報
【特許文献2】特開平8−318386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで,上記加工装置Y(上記特許文献1,2の加工装置も同様)では,上記被加工物7の加工深さ,即ち,被加工物7へのイオンビームL2の進入深さ(以下「飛程」と称す)は,上記被加工物7へ照射されるイオンビームL2のエネルギーによって決定される。従って,被加工物7の加工深さは,照射されるイオンビームL2のエネルギーを変更することにより調整することができ,従来,このエネルギーの変更は,前記イオン加速装置2において供給される高電圧(加速電圧)を調整(変更)することにより行われていた。
しかしながら,上記加速電圧が変化すると,上記イオン加速装置2と上記被加工物7との間に介在する各光学系機器(アライメント電極3,コンデンサレンズ4,偏向電磁石5,対物レンズ6,E×Bフィルタ等)の設定パラメータも変化するため,被加工物7へ照射されるイオンビームの収束状態やイオンビームの照射方向等が変化するおそれがある。そのため,上記加速電圧を変化させた場合は,該加速電圧の変化量に応じて,複数の光学系機器の設定パラメータの調整をやり直す必要があるが,その調整には長時間を要し,その作業は非常に煩雑である。なお,上記設定パラメータの調整には,例えば,上記偏向電磁石5のコイル電流の調整,対物レンズ6に四重極磁気レンズを用いている場合はそのコイル電流の調整等がある。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,イオンビーム等のエネルギービームの収束状態や被加工物への照射方向等に変化を与えることなく,被加工物の加工深さなどの加工条件等に応じて被加工物へ照射するエネルギービームのエネルギーを変更することができ,それによる調整作業を簡略化することのできるエネルギービーム加工装置及びエネルギービーム加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は,被加工物にエネルギービームを照射させて該被加工物を加工するエネルギービーム加工装置に適用され,上記エネルギービームの発生源(エネルギービーム発生源)と上記被加工物との間の上記エネルギービームの光路上に,上記エネルギービームの持つエネルギーを変更させるエネルギー変更手段を設けるよう構成されている。
このように構成されることにより,上記エネルギービームを発生させる際に印加する高電圧を変化させることなく,上記エネルギービームのエネルギーを変更させることが可能となる。その結果,上記エネルギービーム発生源と上記被加工物との間に介在する光学系機器の煩雑な調整作業を省略することが可能となる。
この場合,上記エネルギー変更手段を,上記被加工物の近傍,望ましくは,上記被加工物の直前の光路上に設けることが好ましい。これにより,上記エネルギービーム発生源と上記被加工物との間に介在する全ての光学系機器の調整作業を省略することが可能となる。
【0005】
また,上記エネルギー変更手段としては,上記被加工物の加工深さに応じた厚さに形成された一又は複数の薄膜状物質を少なくとも含んでなるものが考えられる。これにより,上記薄膜状物質を適宜変更することで,被加工物の加工深さの設定を容易に行うことができる。
また,上記薄膜状物資を用いる場合は,複数の薄膜状物質がそれぞれ異なる厚さに形成されてなり,該複数の薄膜状物質のいずれか一又は複数が上記エネルギービームの光路上に選択的に配置されてなることが望ましい。これにより,複数の薄膜状物質の中から上記被加工物の加工深さに応じた薄膜状物質を選択的に採用することで,上記被加工物の加工深さの設定を容易に行うことが可能となる。
また,一の上記薄膜状物質が,連続的或いは段階的に異なる厚さに形成されてなり,上記エネルギービームの光路上に上記厚さの異なる方向に移動可能に配置されてなるものであっても,被加工物の加工深さの設定が容易化され得る。
また,上記薄膜状物質は,比較的元素番号の低い軽元素からなるものであることが好ましく,具体的には,C(炭素)以下の元素を材料とするものであることが望ましい。例えば,薄膜状物質として,カーボン膜やベリリウム膜等が考えられる。その中でも,エネルギービームとの相互作用が小さく,エネルギービームの広がりを最小限に抑制することができる点において,上記薄膜状物質の材料として,ダイヤモンドを用いることが最も好適である。また,ダイヤモンドは物質中最大の熱伝導性と硬度を有し,安定性にも優れている点においても,上記薄膜状物質の材料として好適である。もちろん,上記軽元素を含む化合物からなる薄膜や,他の有機膜を上記薄膜状物質として用いてもかまわない。
なお,上記エネルギービームとしては,同エネルギーを持つ他のエネルギービームと比べて飛程が大きく,最も軽量のイオンからなるプロトンビームを用いることが望ましい。
【0006】
ここで,本発明は,被加工物にエネルギービームを照射させて該被加工物を加工するエネルギービーム加工方法として捉えることもできる。即ち,エネルギービーム発生源から出射されたエネルギービームを被加工物に照射させて該被加工物を加工するエネルギービーム加工方法であって,上記エネルギービーム発生源と上記被加工物との間の上記エネルギービームの光路上に配置された上記エネルギービームの持つエネルギーを減衰させる薄膜状物質に,上記エネルギービームを透過させ,エネルギーが減衰されたエネルギービームを用いて上記被加工物を加工することを特徴とするエネルギービーム加工方法として捉えることが可能である。
このようなエネルギービーム加工方法により上記被加工物を加工することによっても,上記エネルギービーム加工装置と同じ効果,即ち,上記エネルギービーム発生源と上記被加工物との間に介在する光学系機器の煩雑な調整作業を省略することが可能となる。
この場合,上記薄膜状物質が,上記被加工物の加工深さに応じた厚さに形成された一又は複数の薄膜状物質であれば,被加工物の加工深さに応じた薄膜状物質を選択的に採用することで,被加工物の加工深さの設定を容易に行うことが可能となる。
また,上記薄膜状物質が,連続的或いは段階的に異なる厚さに形成され,上記エネルギービームの光路上に上記厚さの異なる方向に移動可能に配置された薄膜状物質であれば,上記薄膜状物質を上記方向へ移動させるだけで被加工物に照射されるエネルギーの減衰量を変更させることができるため,被加工物の加工深さの設定を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば,エネルギービーム発生源と被加工物との間のエネルギービームの光路上に,上記エネルギービームの持つエネルギーを変更させるエネルギー変更手段が設けられているため,上記エネルギービームを発生させる際に印加する高電圧を変化させることなく,上記エネルギービームのエネルギーを変更させることが可能となる。その結果,上記エネルギービーム発生源と上記被加工物との間に介在する光学系機器の煩雑な調整作業を省略することができる。
また,上記エネルギー変更手段として,被加工物の加工深さに応じた厚さに形成された一又は複数の薄膜状物質を少なくとも含むものを採用し,上記薄膜状物質を適宜変更することで,被加工物の加工深さの設定を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下添付図面を参照しながら,本発明の一実施形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係るエネルギービーム加工装置Xの概略構成を示す全体模式図,図2はエネルギー変更手段一例である回転体を示す模式図,図3はエネルギー変更手段の他の例である回転体を示す模式図,図4は連続的に異なる厚さに形成されたダイヤモンド薄膜を示す模式図,図5は段階的に異なる厚さに形成されたダイヤモンド薄膜を示す模式図,図6は従来のエネルギービーム加工装置Yの概略構成を示す全体模式図である。
本発明の実施の形態に係るエネルギービーム加工装置X(以下「加工装置X」と略す)は,前記加工装置Y(図6参照)と略同様に構成されており,図1に示すように,PIG型のイオン発生源1と,イオン加速装置2と,アライメント電極3(3a,3b,3c)と,コンデンサレンズ4と,偏向電磁石5と,対物レンズ6と,その他,図示しないE×Bフィルタ等を備えて概略構成されている。なお,上記加工装置Xにおいて,前記加工装置Yと同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
上記イオン発生源1は,ヘリウム或いは水素等のイオンを発生(生成)して上記イオン加速装置2へ放出するものであるが,とりわけ,本実施の形態では,一つの陽子(プロトン)からなる正の電荷を持つ水素イオンH+を発生(生成)するものを用いる。もちろんこれに限られず,例えばHe(ヘリウム),Li(リチウム),Be(ベリリウム),B(ホウ素),C(炭素),N(窒素),F(フッ素),Ne(ネオン)等の陽イオン(正イオン)或いは陰イオン(負イオン)等を発生するものであってもよい。
更に,上記加速装置Xには,上記イオン加速装置2と上記被加工物7との間のプロトンビームL1の光路上に,上記プロトンビームの持つエネルギーを変更させるエネルギー変更手段10が設けられており,この点において従来のものとはその構成が異なる。
上記エネルギー変更手段10の具体例としては,例えば,上記被加工物7の加工深さに応じた厚さに形成された一又は複数の薄膜状物質を少なくとも含んで構成されており,該薄膜状物質の略中心を上記プロトンビームL1が透過するように上記薄膜状物質を支持するものが挙げられる。
【0009】
このように構成された当該加工装置Xでは,上記イオン発生源1で発生したプロトンが上記イオン加速装置2に放出されると,この放出されたプロトンは上記イオン加速装置2から供給される高電圧を受けて加速されて高エネルギーのプロトンビームL1となる。そして,上記プロトンビームL1は,アライメント電極3a,コンデンサレンズ4,アライメント電極3b,偏向電磁石5,アライメント電極3cを順次経て,上記対物レンズ6により収束される。その後,この収束されたプロトンビームL1は上記エネルギー変更手段10を構成する上記薄膜状物質を透過することによってプロトンビームL1のエネルギー量が所定量減衰されて,上記被加工物7に照射される。このように上記イオン加速装置2の印加電圧を変化させることなく上記プロトンビームL1のエネルギーを減衰(変更)させることができるため,上記イオン加速装置2と上記被加工物7との間に介在するアライメント電極3,コンデンサレンズ4,偏向電磁石5,対物レンズ6等の光学系機器の煩雑な調整作業を省略することができる。
なお,図1に示すように,本実施の形態では,上記エネルギー変更手段10が,上記被加工物の近傍,即ち,上記対物レンズ6と上記被加工物7との間の光路上(被加工物7の直前の光路上)に設けられた例について説明するが,特にこれに限られず,例えば,上記アライメント3cと対物レンズ6との間に設けられていても良い。この場合は,上記対物レンズ6を除く他の光学系機器の調整作業を省略することができる。
【実施例1】
【0010】
上記エネルギー変更手段10としては種々のものが考えられるが,本実施例1では,図2に示すように,上記プロトンビームL1の光路に平行な回転軸12を中心にして回転可能に支持された円盤11を有する回転体10a(エネルギー変更手段の一例)を採用している。ここに,図2(a)は上記回転体10aの斜視図,(b)は上記回転体10aの平面図である。なお,上記回転体10aは,上記円盤11を回転させることにより,上記プロトンビームL1が後記する貫通口13a,13b,13c,13dの略中心を透過(通過)するような位置関係を保つように支持されている。
上記回転体10aは,上記円盤11に,4つの貫通口13a,13b,13c,13dが形成されており,そのうちの3つの貫通口13b,13c,13dそれぞれはリボルバタイプのホルダを形成し,該貫通口13b,13c,13dそれぞれには,ダイヤモンドで形成された厚さの異なる薄膜状物質(以下「ダイヤモンド薄膜」と称す)14b,14c,14dがこの順で上記貫通口13aから時計回りに装着されている。
このように構成された本加工装置Xでは,上記貫通口13a及び上記複数のダイヤモンド薄膜14b,14c,14dの中から選択された一の貫通口13a又はダイヤモンド薄膜を上記回転体11を回転させて上記プロトンビームL1の光路上に選択的に配置させ,上記プロトンビームL1を該選択的に配置された貫通口13a又はダイヤモンド薄膜に透過させることによりエネルギーが減衰されたプロトンビームL1を用いて上記被加工物7を所望する加工深さに加工することができる。
【0011】
ここで,1000〔keV〕又は600〔keV〕のプロトンビームL1を使用して,レジスト剤PMMA(ポリメチルメタクリレート,密度1.2g/cm3)からなる被加工物7を加工したときの上記ダイヤモンド薄膜の膜厚と,平均飛程と,プロトンビームL1の横方向への広がり平均との関係を下記表1に示す。なお,上記各ダイヤモンド薄膜の膜厚は,それぞれ上記ダイヤモンド薄膜14bが1〔μm〕,14cが2μm,14dが3μmに形成されているものとする。
【表1】

上記表1に示すように,1000〔keV〕のプロトンビームL1を上記ダイヤモンド薄膜14bに透過させた場合は,何も透過させなかった場合(貫通口13aを通過させた場合)と比べて上記被加工物7における飛程が20.4〔μm〕から18.6〔μm〕に減少しており,約1.8〔μm〕だけ小さくなっている。この傾向は,上記ダイヤモンド薄膜の膜厚を厚くすればそれに応じて減少していることが分かる。また,600〔keV〕のプロトンビームL1を使用した場合も同じ傾向にあることが分かる。
このような傾向を利用して,上記各ダイヤモンド薄膜を上記被加工物7の加工深さに応じて異なる厚さに形成することが考えられる。このように形成されたダイヤモンド薄膜を用いれば,複数のダイヤモンド薄膜の中から上記被加工物7の加工深さに応じたダイヤモンド薄膜を選択的に採用することで,上記被加工物7の加工深さの設定を容易に行うことが可能となる。
一方,上記表1に表されるように,上記ダイヤモンド薄膜を異ならせても上記プロトンビームの横方向への広がり平均はさほど大きく変化しておらず,却って,上記ダイヤモンド薄膜の膜厚に応じて小さくなっていることがわかる。これは,比較的軽い元素であり,プロトンビームL1との相互作用の小さいダイヤモンドで形成されたダイヤモンド薄膜を用いているためである。もちろん,上記ダイヤモンド薄膜に代えて,他の材質(材料)で形成された薄膜状物質を用いてもかまわないが,プロトンビームL1の横方向への広がりの抑制効果を高めるべくダイヤモンド製の薄膜状物質を用いることが好ましい。また,薄膜状物質においてエネルギー減衰による発熱(ジュール熱)が生じるため,該薄膜状物質は熱伝導性の高い素材であることが好ましいが,この点においても,物質中最大の熱伝導性を有するダイヤモンドが好適である。また,言うまでもないが,熱伝導性が高く,更に物質中最大の硬度を有するダイヤモンドで形成された薄膜状物質であれば,熱による組成変化や,衝撃による破損等の心配もなく,高寿命が期待できる。
【実施例2】
【0012】
上述の実施例1では,それぞれ異なる厚さに形成された複数のダイヤモンド薄膜14b,14c,14dから選択された一つのダイヤモンド薄膜にプロトンビームを透過させる例について説明した。しかし,上述の実施例1では,上記ダイヤモンド薄膜を複数用意する必要がある。
本実施例2では,一つのダイヤモンド薄膜で上記プロトンビームのエネルギーを適宜変更させて所望の加工厚さを得ることのできる例について説明する。
即ち,本実施例2では,図3に示すように,上記回転体10aに代えて回転体10b(エネルギー変更手段の他の一例)を用いる。ここに,図3(a)は上記回転体10bの斜視図,(b)は上記回転体10bの平面図である。
図示されるように,上記回転体10bは上記回転体10aとは異なり,円盤11に上記複数のダイヤモンド薄膜14b,14c,14dを設けず,円盤11に,その外周に内径が略一致するドーナツ状のダイヤモンド薄膜14eが設けられている。上記ダイヤモンド薄膜14eは,連続的或いは段階的に異なる厚さに形成されており,図3(b)に示すように,回転方向(図中の矢印)に行くにつれてその膜厚が厚く形成され(最大厚さ:約3〔μm〕),最も厚い部分を過ぎると,その膜厚が最も薄くなるよう形成されている(最小厚さ:約0〔μm〕)。
このように構成された回転体10bを用いた場合でも,上記回転体11を回転させて上記プロトンビームL1が透過する上記ダイヤモンド薄膜14eの厚さを変更することで,エネルギーが減衰されたプロトンビームL1を用いて上記被加工物7を所望する加工深さに加工することができ,被加工物7の加工深さの設定を容易に行うことが可能となる。
【0013】
また,一つのダイヤモンド薄膜で上記プロトンビームのエネルギーを適宜変更させて所望の加工厚さを得ることのできる他の例としては,例えば,図4に示すダイヤモンド薄膜14fを有して構成されたエネルギー変更手段を用いることが考えられる。ここに,図4(a)はダイヤモンド薄膜14fの側面図,(b)は該ダイヤモンド薄膜14fの平面図である。上記ダイヤモンド薄膜14fは,連続的に異なる厚さに形成されており,図4(b)に示すように,図面右方向へ行くにつれてその膜厚が厚く形成され(右端部の厚さd:約3〔μm〕),図面左方向へ行くにつれてその膜厚が薄く形成されている。このような上記ダイヤモンド薄膜14fを上記プロトンビームL1の光路上に上記厚さの異なる方向(図3の左右方向)へ移動可能に支持するよう前記エネルギー変更手段が構成されておれば,上記プロトンビームL1を上記ダイヤモンド薄膜14fに透過させることによってエネルギーが減衰されたプロトンビームL1を用いることで,上記被加工物7を所望の加工深さで加工することができ,被加工物7の加工深さの設定も容易に行うことが可能となる。
また,上記ダイヤモンド薄膜14fに代えて,図5に示すように,段階的に異なる厚さに形成されたダイヤモンド薄膜14gを用いた場合でも,複数のダイヤモンド薄膜を用いることなく所望の加工厚さを得ることができ,且つ,被加工物7の加工深さの設定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るエネルギービーム加工装置Xの概略構成を示す全体模式図。
【図2】エネルギー変更手段の一例である回転体を示す模式図。
【図3】エネルギー変更手段の他の例である回転体を示す模式図。
【図4】連続的に異なる厚さに形成されたダイヤモンド薄膜を示す模式図。
【図5】段階的に異なる厚さに形成されたダイヤモンド薄膜を示す模式図。
【図6】従来のエネルギービーム加工装置Yの概略構成を示す全体模式図。
【符号の説明】
【0015】
1…イオン発生源
2…イオン加速装置
3(3a,3b,3c)…アライメント電極
4…コンデンサレンズ
5…偏向電磁石
6…対物レンズ
7…被加工物
10…エネルギー変更手段
10a,10b…回転体(エネルギー変更手段の一例)
11…円盤
12…回転軸
13a,13b,13c,13d…貫通口
14b,14c,14d,14e,14f,14g…ダイヤモンド薄膜(薄膜状物質の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギービーム発生源から出射されたエネルギービームを被加工物に照射させて該被加工物を加工するエネルギービーム加工装置であって,
上記エネルギービーム発生源と上記被加工物との間の上記エネルギービームの光路上に,上記エネルギービームの持つエネルギーを変更させるエネルギー変更手段が設けられてなることを特徴とするエネルギービーム加工装置。
【請求項2】
上記エネルギー変更手段が,上記被加工物の近傍に設けられてなる請求項1に記載のエネルギービーム加工装置。
【請求項3】
上記エネルギー変更手段が,上記被加工物の加工深さに応じた厚さに形成された一又は複数の薄膜状物質を少なくとも含んでなる請求項1又は2のいずれかに記載のエネルギービーム加工装置。
【請求項4】
複数の上記薄膜状物質がそれぞれ異なる厚さに形成されてなり,該複数の薄膜状物質のいずれか一又は複数が上記エネルギービームの光路上に選択的に配置されてなる請求項3に記載のエネルギービーム加工装置。
【請求項5】
一の上記薄膜状物質が,連続的或いは段階的に異なる厚さに形成されてなり,上記エネルギービームの光路上に上記厚さの異なる方向に移動可能に配置されてなる請求項3に記載のエネルギービーム加工装置。
【請求項6】
上記薄膜状物質の材料が,ダイヤモンドである請求項2〜5のいずれかに記載のエネルギービーム加工装置。
【請求項7】
上記エネルギービームがプロトンビームである請求項1〜6のいずれかに記載のエネルギービーム加工装置。
【請求項8】
エネルギービーム発生源から出射されたエネルギービームを被加工物に照射させて該被加工物を加工するエネルギービーム加工方法であって,
上記エネルギービーム発生源と上記被加工物との間の上記エネルギービームの光路上に配置された上記エネルギービームの持つエネルギーを減衰させる薄膜状物質に,上記エネルギービームを透過させ,エネルギーが減衰されたエネルギービームを用いて上記被加工物を加工することを特徴とするエネルギービーム加工方法。
【請求項9】
上記薄膜状物質が,上記被加工物の加工深さに応じた厚さに形成された一又は複数の薄膜状物質である請求項8に記載のエネルギービーム加工方法。
【請求項10】
上記薄膜状物質が,連続的或いは段階的に異なる厚さに形成され,上記エネルギービームの光路上に上記厚さの異なる方向に移動可能に配置された薄膜状物質である請求項8に記載のエネルギービーム加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−142315(P2006−142315A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332343(P2004−332343)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】