説明

エネルギー吸収複合構造及び1つ又は複数の床スラブを含む建物の複合構造を形成する方法

【課題】床スラブに加わる水平力を耐震壁パネルに伝達する構造の提供。
【解決手段】耐震壁パネル10に床スラブ36に部分的に埋め込まれる少なくとも1つの水平に配置された構造部材14を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物が地震及び他の力の作用に耐えることができるように、床スラブからの水平力を耐震壁パネルに伝達するように構成されるエネルギー吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震は建物に横力及び鉛直力を加えるが、ランダムであり、多くの場合は急激であるこれらの力に耐える構造を造ることは複雑な課題である。耐震建物を設計する場合、技術者は、耐震壁、筋交いフレーム、ラーメンフレーム、ダイアフラム、及び水平トラス等、種々の構造構成要素を選択することができる。これらの建物要素は、エネルギーを吸収して振動構造の振動振幅を減らす減衰手段及び大きな非弾性変形に耐えることができる非弾性変形手段を含む手段の組み合わせによって、地震が誘発する運動に抵抗し、場合によってはこれを吸収して散逸させる能力を耐震構造に与える。これらの構造要素は、必要な強度とエネルギーの吸収及び散逸とを達成するために単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
【0003】
耐震壁は、耐震構造で用いられる構造要素の一例である。耐震壁は、水平力を上方のダイアフラムから下方のダイアフラム又は基礎に、鉛直下向きに伝達する建物横荷重抵抗システムの鉛直要素である。したがって、水平方向の風及び地震の力は、床又は屋根ダイアフラムレベルに集められて、耐震壁の強度及び剛性によって建物基礎に伝達される。建物横荷重抵抗システムでは、コンクリート床スラブがダイアフラムとしての役割を果たすことが多いため、横力を効果的に伝達するには床スラブと耐震壁パネルとの間の接続が重要である。この点で、耐震壁パネルと床スラブとの間の接続が強力であるほど、より効果的に建物横荷重抵抗システム全体が横荷重を基礎に伝達する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、建物横荷重抵抗システムが建物基礎に横荷重を伝達する効果を高めるために、建物横荷重抵抗システムにおいて床スラブと耐震壁パネルとを強力に接続する手段が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、床スラブに部分的に埋め込まれる耐震壁パネルが、床スラブから耐震壁に、又は1つの床スラブから隣接する床スラブに水平力を伝達する。具体的には、本発明の例示的な実施形態によるエネルギー吸収複合構造が、床スラブに少なくとも部分的に埋め込まれる少なくとも1つの水平に配置された構造部材を有する耐震壁パネルを含むことにより、床スラブに加わる水平力が上記構造部材を介して耐震壁パネルに伝達される。
【0006】
少なくとも1つの実施の形態では、構造部材は、アングル形状の断面並びに垂直脚及び水平脚をそれぞれが有する2つ以上の棒を備える。
【0007】
本発明は、建物の複合構造を形成する方法であって、構造部材を有する耐震壁パネルを形成し、構造部材を床スラブに少なくとも部分的に埋め込み、それにより、床スラブに加わる水平力が構造部材を介して耐震壁パネルに伝達されるようにする、建物の複合構造を形成する方法も包含する。
【0008】
本発明のこれら及び他の特徴は、本発明の種々の例示的な実施形態の以下の詳細な説明に記載されるか、又はそこから明らかとなる。
【0009】
添付図面を参照して、本発明の種々の例示的な実施形態を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の種々の例示的な実施形態は、例えば地震によって生じる力に耐える能力を建物に与える耐震壁を対象とする。耐震壁は、複数の耐震壁パネルを含み、これらはそれぞれ、構成要素として、床スラブに少なくとも部分的に埋め込まれて床スラブに加わる水平力を耐震壁パネルに伝達する構造部材を含む。本発明の種々の概念は、必ずしも耐震構造に限定されず、例えば爆発又は強風等の任意の他の要因が発生させる力に耐えるように設計される構造にも適用可能であることを理解されたい。本発明は、本明細書に明示される特定の耐震壁構造に限定されず、他の耐震壁構造を用いてもよいことも理解されたい。
【0011】
図1は、本発明の例示的な一実施形態による、参照符号10で全体的に示す耐震壁パネルを示す。耐震壁パネル10は、建物の1枚の耐震壁を構成するような多くのパネルのうちの1つであり得る。耐震壁パネル10は、2つの垂直に配置されたフレーム部材12及び2つの水平に配置された構造部材14を含む、ほぼ矩形のフレームから成る。耐震壁パネル10内には、フレーム部材12及び構造部材14によって開口16が画定される。フレーム部材12及び構造部材14は、例えばピン継手、溶接、ボルト、又はコネクタ要素18等の任意の適当な手段によって互いに取り付けることができる。
【0012】
耐震壁パネルは、任意の有用な形態を取ることができる剪断伝達手段も含む。図1は、剪断伝達手段を筋交い20として示す。別のタイプの剪断伝達手段は、図2に示し同時係属中の米国特許出願第10/941,159号に記載されているような剪断パネル又は適当なエネルギー吸収体を含むことができ、上記出願は参照により本明細書に援用される。具体的には、図2を参照すると、参照符号21で全体的に示すエネルギー吸収体は、延性部材22および4つの筋交い24を含む。筋交い24は、開口16のほぼ中心で延性部材22を支持する。延性部材22は、例えば鋼又はアルミニウム等の延性材料から形成される。筋交い24の一端は、例えば調整ナット26等の任意の適当な締結要素によって延性部材22に接続される。筋交い24の他端は、例えばピン継手、溶接、又はボルトによってコネクタ要素18の各角に取り付けられる。筋交い24の数は、4つに限定されず、本発明の種々の例示的な実施形態においていかなる数の筋交い24を用いてもよい。本発明のこの実施形態では、筋交い24はテンションロッドであるが、延性要素22に適した任意の剛性を有する他の構造支持体とすることもできる。さらに、延性部材22は、図2に示すようなリング形でなくてもよく、当業者が理解し得るような他の形状であってもよい。
【0013】
構造部材14は、任意の有用な形態、例えばアングル材又はIビームの形態を取ることができる。図1の線A−Aに沿った断面図である図3で最もよく分かるように、構造部材14はそれぞれ、参照符号26、28で全体的に示す2つの金属棒を含み得る。このような構造部材は、米国特許第4,592,184号に開示されており、当該特許は参照により本明細書に援用される。棒26、28はそれぞれ、アングル形状であり、垂直脚30及び水平脚32を含む。棒26の水平脚32は、棒28の水平脚32が延びる方向とは逆方向に延びる。棒26、28の垂直脚30の高さは、同じであることが好ましいが、他の実施形態では異なる高さであってもよい。2つの棒26、28の垂直脚30は、コネクタ要素18の幅の分だけ離間している。例えば突起又はスロット等のコンクリート係合手段34が、垂直脚30の長さに沿って間隔を置いて形成されることが好ましい。棒26、28は、任意の他の適当な形状であってもよいことを理解されたい。
【0014】
図4で最もよく分かるように、耐震壁パネル10は、耐震壁パネル10と密着させてコンクリート床スラブ36を形成することによって建物構造に組み込まれる。この点で、構造部材14が少なくとも部分的に、但し好ましくは完全に床スラブ36に埋め込まれるように、コンクリートが流し込まれ得る。床スラブ36は、米国特許第4,592,184号に開示されているフローリングシステム等のフローリングシステムの構成要素を形成することができる。耐震壁パネル10は、上階まで上方に延ばすこともでき、それにより、上側の構造部材14も上階のフローリングシステムの床スラブ36に埋め込むことができる。このような耐震壁パネルの多くは、建物の床スラブに埋め込まれて建物構造全体を形成する。
【0015】
床スラブ36を構造部材14と密着させることによって、床スラブ36に水平力が加わった場合にこれが構造部材14を介して耐震壁パネル10に、且つ/又は1つの床スラブから隣の床スラブに伝達されるようになる。構造部材14の変形によって、床スラブ36が、耐震壁パネル10又は隣の床スラブ36にエネルギーを伝達する際のダイアフラムとしての役割をより効果的に果たすことができるようになる。
【0016】
本発明は、上述の例示的な実施形態と共に説明したが、多くの代替形態、変更形態、及び変形形態が当業者には明らかであろうことは明白である。したがって、上述のように、本発明の例示的な実施形態は限定ではなく例示を意図している。本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、種々の変更を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の例示的な一実施形態による耐震壁を示す図である。
【図2】本発明の別の例示的な実施形態による耐震壁を示す図である。
【図3】図1に示す線A−Aに沿った断面図である。
【図4】床スラブに埋め込まれる構造部材を含む、図1の耐震壁を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床スラブに加わる水平力を耐震壁パネルに伝達するように、前記床スラブに少なくとも部分的に埋め込まれる少なくとも1つの水平に配置された構造部材を有する耐震壁パネル
を備える、エネルギー吸収複合構造。
【請求項2】
前記構造部材は、アングル形状の断面並びに垂直脚及び水平脚をそれぞれが有する2つ以上の棒を備える、請求項1に記載のエネルギー吸収複合構造。
【請求項3】
前記構造部材は、該構造部材に形成されて前記床スラブと前記耐震壁パネルとの間の接続を強化するコンクリート係合要素を含む、請求項2に記載のエネルギー吸収複合構造。
【請求項4】
前記2つ以上の棒は金属製である、請求項2に記載のエネルギー吸収複合構造。
【請求項5】
前記耐震壁パネルは、
開口を有するフレームと、
前記開口内に配置されるエネルギー吸収体と
をさらに備える、請求項1に記載のエネルギー吸収複合構造。
【請求項6】
前記エネルギー吸収体は、
1つ又は複数の延性部材と、
前記1つ又は複数の延性部材を前記開口内で支持する2つ以上の筋交い部材と
を備え、
前記エネルギー吸収体に力が加わると前記1つ又は複数の延性部材が変形してエネルギーを吸収する、請求項5に記載のエネルギー吸収複合構造。
【請求項7】
前記フレームは、
少なくとも1つの垂直に配置されたフレーム部材と、
前記少なくとも1つのフレーム部材を前記少なくとも1つの構造部材に接続するコネクタ要素と
をさらに備える、請求項5に記載のエネルギー吸収複合構造。
【請求項8】
1つ又は複数の床スラブを含む建物の複合構造を形成する方法であって、
構造部材を有する耐震壁パネルを形成するステップと、
前記構造部材を床スラブに少なくとも部分的に埋め込むステップであって、それにより、前記床スラブに加わる水平力が前記構造部材を介して前記耐震壁パネルに伝達されるようにする、少なくとも部分的に埋め込むステップと
を含む、1つ又は複数の床スラブを含む建物の複合構造を形成する方法。
【請求項9】
前記耐震壁パネルは、少なくとも2つの構造部材を有し、
前記方法は、前記構造部材のそれぞれを床スラブに埋め込むステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記耐震壁パネルを形成するステップは、
垂直に配置されたフレーム部材を前記構造部材に接続し、それにより、開口を有するフレームを形成すること、及び
エネルギー吸収体を前記開口内に配置すること
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記エネルギー吸収体を前記開口内に配置することは、
2つ以上の筋交い部材の第1の端それぞれを延性部材に接続すること、
前記延性部材を前記開口内に配置すること、及び
前記2つ以上の筋交い部材の第2の端それぞれを前記フレームに接続すること
を含む、請求項10に記載の1つ又は複数の床スラブを含む建物内の複合構造を形成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−45393(P2008−45393A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−195064(P2007−195064)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(507253107)エスエムアイ・パテント・ホールディングス・グループ・エルエルシー (1)
【氏名又は名称原語表記】SMI Patent Holdings Group LLC
【住所又は居所原語表記】20 West 64th Street, New York, New York 10023, United States of America
【Fターム(参考)】