説明

エポキシドの硬化のための触媒

本発明は、エポキシ化合物含有組成物を硬化させるための潜在性触媒としての、式(I)[式中、R1及びR3は、相互に無関係に、1〜20個のC原子を有する有機基を表し、R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子又は1〜20個のC原子を有する有機基を表し、その際、R4及びR5は一緒になって脂肪族環又は芳香環を形成することもでき、かつ、Xは、リンの酸素酸のアニオンを表し、かつ、nは1、2又は3を表す]の1,3置換イミダゾリウム塩の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物含有組成物を硬化させるための潜在性触媒としての、式I
【化1】

[式中、
R1及びR3は、相互に無関係に、1〜20個のC原子を有する有機基を表し、
R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子又は1〜20個のC原子を有する有機基を表し、その際、R4及びR5は一緒になって脂肪族環又は芳香環を形成することもでき、かつ、
Xは、リンの酸素酸のアニオンを表し、かつ、
nは1、2又は3を表す]
の1,3置換イミダゾリウム塩の使用に関する。
【0002】
エポキシ化合物は、被覆剤の製造のため、接着剤として、成形体の製造のため、及び他の多数の目的のために使用される。そのために、エポキシ化合物は、加工の間に一般に液状で存在する(好適な溶剤中の溶液として、又は、液体の溶剤不含の100%系として)。エポキシ化合物は、一般に低分子量である。エポキシ化合物は、使用の際に硬化される。硬化のための種々の方法が公知である。少なくとも2のエポキシ基を有するエポキシ化合物から出発して、少なくとも2のアミノ−ないし少なくとも1の無水物基を有するアミノ化合物又は酸無水物化合物と、重付加反応(鎖延長)による硬化が生じ得る。高い反応性を有するアミノ−ないし酸無水物化合物は、一般に所望の硬化の直前に初めて添加される。従って、これはいわゆる二成分(2K)系である。
【0003】
更に、エポキシ化合物の単独−及び共重合のために触媒を使用することができる。高温で初めて活性となる触媒は公知である(潜在性触媒)。この種の潜在性触媒は、単一成分(1K)系が可能であり、即ち、エポキシ化合物が不所望な早期の硬化を招くことなく潜在性触媒を含有しうるという利点を有する。
【0004】
潜在性触媒として、特に、アミンへの三フッ化ホウ素の付加物(BF3−モノエチルアミン)、4級ホスホニウム化合物及びジシアンジアミド(DICY)が商業的に入手可能である。
【0005】
Journal of Polymer Science: Polymer Letters Edition, Vol. 21 , 633-638 (1983)には、前記目的のための1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩の使用が記載されている。175℃超での該塩の分解の際に1−アルキルイミダゾールが遊離し、その後、この1−アルキルイミダゾールが硬化を引き起こす。カチオンの構造は変化されており、アニオンとして、ハロゲン化物クロリド及びヨージドが使用されている。
【0006】
DE-A 2416408から、イミダゾリウムボレート、例えば、イミダゾリウムテトラフェニルボレート、又は、イミダゾリウム−テトラn−ブチルボレートが公知である。
【0007】
US 3 635 894には、エポキシ化合物のための潜在性触媒としての、クロリド、ブロミド及びヨージドから選択されたアニオンを有する1,3−ジアルキル−イミダゾリウム塩が記載されている。
【0008】
Kowalczyk and Spychaj, Polimery (ポーランド、ワルシャワ) (2003), 48(11/12), 833-835には、エポキシ化合物のための潜在性触媒としての、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウムテトラフルオロボレートの使用が記載されている。前記触媒の作用は190℃で初めて生じる。
【0009】
Sun, Zhang and Wong, Journal of Adhesion Science and Technology (2004), 18(1), 109-121には、潜在性触媒としての、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートの使用が開示されている。作用は196℃で初めて生じる。
【0010】
JP 2004217859では、イミダゾリウム−テトラアルキル−ボレート又はイミダゾリウム−ジアルキル−ジチオカルバメートが使用されている。活性化はエネルギーに富む光の照射により行われる。
【0011】
EP 0 458 502には、エポキシ化合物のための多数の種々の触媒が開示されている。列記中には、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム−アセテート(式I中で、R1=エチル、R2=メチル及びR3=メチル)及び1−エチル−2,3−ジメチル−イミダゾリウム−アセテート−酢酸錯体も記載されている。
【0012】
好適な潜在性触媒は、エポキシ化合物と十分に混和性であることが望ましい。混合物は、室温でかつ通常の貯蔵条件で、可能な限り長時間安定であって、貯蔵可能な1K系として好適であることが望ましい。しかしながら、使用の際には、硬化のために必要な温度がそれほど高くないこと、該温度が特に200℃を明らかに下回ることが望ましい。より低い硬化温度によって、エネルギー費用の削減及び不所望な副反応の回避が可能となる。硬化温度が比較的低くとも、硬化された系の機械的及び応用技術的特性が出来る限り悪化しないことが望ましい。前記特性(例えば、硬度、柔軟性、接着力等)が少なくとも同程度に良好であるか、もしくはより良好であることが望ましい。
【0013】
従って本発明の課題は、上記要求を満足する、潜在性触媒としてのイミダゾリウム塩、及び、前記イミダゾリウム塩とエポキシ化合物との混合物を提供することであった。
【0014】
それに応じて、式Iの潜在性触媒の上記で定義された使用、及び、前記の潜在性触媒を含有する組成物が見い出された。
【0015】
イミダゾリウム塩に関して
本発明によれば、式I
【化2】

[式中、
R1及びR3は、相互に無関係に、1〜20個のC原子を有する有機基を表し、
R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子、又は、1〜20個のC原子、特に1〜10個のC原子を有する有機基を表し、その際、R4及びR5は一緒になって脂肪族環又は芳香環を形成することもでき、かつ、
Xは、リンの酸素酸のアニオンを表し、かつ、
nは1、2又は3を表す]
の1,3置換イミダゾリウム塩が使用される。
【0016】
R1及びR3は、相互に無関係に有利に、1〜10個のC原子を有する有機基を表す。有機基は、更に他のヘテロ原子、特に酸素原子、有利にヒドロキシ基、エーテル基、エステル基又はカルボニル基をも含有することができる。
【0017】
特に、R1及びR3は、相互に無関係に、炭化水素基を表し、前記炭化水素基は、炭素及び水素の他に、必要な場合には更にヒドロキシ基、エーテル基、エステル基又はカルボニル基をも含有することができる。
【0018】
R1及びR3は、有利に、相互に無関係に、1〜20個のC原子、特に1〜10個のC原子を有し、その他のヘテロ原子、例えば酸素又は窒素を含有しない炭化水素基を表す。炭化水素基は、脂肪族(その際、不飽和脂肪族基も含まれる)又は芳香族であるか、又は、芳香族基と脂肪族基の双方を含有することができる。
【0019】
炭化水素基として、例えば、フェニル基、ベンジル基、1以上のC1〜C4アルキル基により置換されたフェニル基又はベンジル基、アルキル基及びアルケニル基、特にアリル基が挙げられる。
【0020】
特に有利に、R1及びR3は、相互に無関係に、C1〜C10アルキル基、アリル基又はベンジル基を表す。アルキル基として、C1〜C6アルキル基が特に有利であり、特別な一実施態様において、アルキル基はC1〜C4アルキル基である。
【0021】
極めて特に有利に、R1及びR3は、相互に無関係に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基又はt−ブチル基、アリル基又はベンジル基を表し、その際、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びn−ブチル基が特に重要である。
【0022】
特別な一実施態様において、
R1及びR3はメチル基を表す、
R1及びR3はエチル基を表す、
R1はメチル基を表し、かつR3はエチル基を表す、
R1はメチル基を表し、かつR3はnプロピル基を表す、
R1はメチル基を表し、かつR3はnブチル基を表す、
R1はメチル基を表し、かつR3はアリル基を表す、
R1はエチル基を表し、かつR3はアリル基を表す、
R1はメチル基を表し、かつR3はベンジル基を表す、
R1はエチル基を表し、かつR3はベンジル基を表す。
【0023】
R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子又は1〜20個のC原子を有する有機基を表し、その際、R4及びR5は一緒になって脂肪族環又は芳香環を形成することもできる。有機基は、炭素及び水素の他に、ヘテロ原子、例えば窒素又は酸素をも含有することができ;有利に、酸素を、特にヒドロキシ基、エステル基、エーテル基又はカルボニル基の形で含有することができる。
【0024】
特に、R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子又は炭化水素基を表し、前記炭化水素基は、炭素及び水素の他に、必要な場合には更にヒドロキシ基、エーテル基、エステル基又はカルボニル基をも含有することができる。
【0025】
R2、R4及びR5は、有利に、相互に無関係に、水素原子を表すか、又は、1〜20個のC原子、特に1〜10個のC原子を有し、その他のヘテロ原子、例えば酸素又は窒素を含有しない炭化水素基を表す。炭化水素基は、脂肪族(その際、不飽和脂肪族基も含まれる)又は芳香族であるか、又は、芳香族基からのみならず脂肪族基からもなることができ、その際、R4及びR5は、芳香族又は脂肪族炭化水素環を形成することもでき、前記環は場合により他の芳香族又は脂肪族炭化水素基により置換されていてよい(場合により置換された炭化水素環のC原子の数(置換基を含む)は、この場合、有利に最大で40、特に最大で20、特に有利に最大で15ないし最大で10である)。
【0026】
炭化水素基として、例えば、フェニル基、ベンジル基、1以上のC1〜C4アルキル基により置換されたフェニル基又はベンジル基、アルキル基、アルケニル基が挙げられ、かつ、R4及びR5が環を形成する場合には、R4及びR5により形成される芳香五員−又は六員環、シクロヘキセン又はシクロペンテンが挙げられ、その際、前記環系は、特に1以上のC1〜C10、特にC1〜C4アルキル基により置換されていてよい。
【0027】
特に有利に、R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子、C1〜C8アルキル基、C1〜C8アルケニル基、例えば、アリル基、フェニル基又はベンジル基を表す。
【0028】
極めて特に有利に、R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基又はt−ブチル基を表し、その際、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びn−ブチル基が特に重要である。
【0029】
特別な一実施態様において、R2は、他の基R4及びR5及び残りの基R1及びR3とは無関係に、H原子を表す。R2がH原子を表す式Iのイミダゾリウム塩は、本発明の範囲内で特に有利であり、該塩は、エポキシ化合物中での良好な溶解性及び潜在性触媒としての高い有効性を有する。
【0030】
特別な一実施態様において、
R2、R4及びR5はH原子を表し、
R2は、H原子又はC1〜C4アルキル基を表し、かつR4及びR5は、H原子又はC1〜C4アルキル基を表す。
【0031】
式Iの化合物のカチオンのための具体例として、以下のものが挙げられる:
1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム(R1=ブチル、R3=メチル)
1−ブチル−3−エチル−イミダゾリウム(R1=ブチル、R3=エチル)
1,3−ジ−メチル−イミダゾリウム(R1=メチル、R3=メチル)
1−エチル−3−メチル−イミダゾリウム(R1=エチル、R3=メチル)
1−エチル−2,3ジメチルイミダゾリウム(R1=エチル、R2=メチル、R3=メチル)。
【0032】
式Iにおいて、nは1、2又は3を表し、アニオンは相応して、1、2又は3の負電荷を有し、かつ相応して、塩中に1、2又は3のイミダゾリウムカチオンが存在する。
【0033】
有利に、nは1又は2を表し、特に有利にnは1を表し、従ってアニオンは特に有利に一価である。
【0034】
Xは、リンの酸素酸のアニオンを表す。
【0035】
Xは、純粋な無機アニオン、例えば、次亜リン酸イオン(PH22-、亜リン酸イオン(PHO32-又はリン酸イオン(PO43-、又は、上記アニオンの相応する酸からの水素脱離により生じる二量体又はオリゴマー化合物、例えば、メタ亜リン酸イオン又はメタリン酸イオンを表すことができる。
【0036】
Xは、少なくとも1の有機基、例えば、1〜20個のC原子を有する、特に1〜10個のC原子を有する、特に有利に1〜4個のC原子を有する有機基を含有することもできる。有機基は有利に酸素原子を介してリン原子に結合しており、前記酸素原子を除いて、有機基は更に他のヘテロ原子、例えば更なる酸素原子を、有利にヒドロキシ基、エーテル基、エステル基又はカルボニル基として含むことができる。特別な一実施態様において、有機基は他のヘテロ原子を含まない炭化水素基である。炭化水素基として、脂肪族又は芳香族基が該当し、特に有利に、脂肪族基、特にアルキル基が該当する。
【0037】
特に有利な有機基は、C1〜C20アルキル基、極めて特に有利にC1〜C10アルキル基、特にC1〜C4アルキル基である。
【0038】
有利に、Xは1又は2、特に有利に2の有機基を含有する。
【0039】
少なくとも1の、有利に2の有機基を含有するリンの酸素酸のアニオンは、リンの相応する酸素酸のエステルとして入手可能である。しかしながら、前記エステルの場合、全ての酸性基がエステル化されているわけではなく、少なくとも1のエステル化されていない酸性基が残存しており、ここで、前記基は解離によりアニオンを形成する。従って、相応するアニオンとして、モノアルキル亜リン酸イオン(1の負電荷、即ち、n=1)、モノアルキルリン酸イオン(n=2)又はジアルキルリン酸イオン(n=1)並びに場合により、上記アニオンの相応する酸からの水素脱離により生じる二量体又はオリゴマー化合物が該当する。
【0040】
極めて特に有利に、Xはジアルキルリン酸イオン、例えば、ジメチルリン酸イオン、ジエチルリン酸イオン、ジプロピルリン酸イオン又はジブチルリン酸イオン、特にジメチルリン酸イオン又はジエチルリン酸イオンである。
【0041】
式Iのイミダゾリウム塩は、例えば、BASF社、Sigma Aldrich社又はMerck社から商業的に入手可能である。得られる塩のアニオンは、所望の場合には、イオン交換によって他のアニオンと容易に交換することができる。
【0042】
エポキシ化合物に関して
硬化性組成物はエポキシ化合物を含有する。特に、1〜10個のエポキシ基、有利に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物が該当する。
【0043】
特に有利に、硬化性組成物は、2〜6個、極めて特に有利に2〜4個、特に2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有する。
【0044】
エポキシ基は、特に、アルコール基とエピクロロヒドリンとの反応の際に生じるようなグリシジルエーテル基である。
【0045】
エポキシ化合物は、一般に1000g/モル未満の平均分子量Mnを有する低分子化合物であるか、又は、より高分子の化合物(ポリマー)であることができる。前記化合物は、脂肪族、また、脂環式化合物又は芳香族基を有する化合物であることができる。
【0046】
特に、エポキシ化合物は、2個の芳香族又は脂肪族六員環を有する化合物又はそのオリゴマーである。
【0047】
エピクロロヒドリンと、少なくとも2個の反応性H原子を有する化合物、特にポリオールとの反応により得られるエポキシ化合物は、工業的に重要である。
【0048】
エピクロロヒドリンと、少なくとも2個、有利に2個のヒドロキシ基及び2個の芳香族又は脂肪族六員環を有する化合物との反応により得られるエポキシ化合物は、工業的に重要であり、この種の化合物として、特に、ビスフェノールA及びビスフェノールF、並びに水素化ビスフェノールA及びビスフェノールFが挙げられる。
【0049】
エピクロロヒドリンと他のフェノール、例えばクレゾール又はフェノール−アルデヒド−付加物、例えばフェノールホルムアルデヒド樹脂、特にノボラックとの反応生成物も該当する。
【0050】
当然のことながら、エピクロロヒドリンから誘導されていないエポキシ化合物も好適である。例えば、グリシジル(メタ)アクリレートとの反応、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートとのラジカル共重合によるエポキシ基を含有するエポキシ化合物も該当する。これに関連して、Dow社のERL−4221(CAS番号2386−87−0)も該当する。
【0051】
【化3】

【0052】
組成物の使用のために、特に、20〜100℃、特に有利に20〜40℃、極めて特に有利に20℃の加工温度で液体のエポキシ化合物が好適である。
【0053】
組成物のその他の成分に関して
本発明による組成物は、潜在性触媒及びエポキシ化合物に加えて、他の成分を含有してよい。
【0054】
組成物は、1K系か、又は、貯蔵可能な成分として2K系にも好適である。
【0055】
2K系の場合、使用の直前に初めて、第二の極めて反応性の高い成分が添加され、第二の成分の添加後に、得られた混合物はもはや貯蔵安定性でない。なぜならば、架橋反応ないし硬化が生じ、かつ、粘度上昇が生じるためである。
【0056】
1K系は、必要な全ての成分をすでに含有しており、貯蔵安定性である。
【0057】
個々の事例において他に記載がない限り、組成物に関する以下の記載は、1K系についても2K系についても該当する。
【0058】
エポキシ化合物の他に、組成物は他の反応性又は非反応性成分を含有してよい。
【0059】
例えば、フェノール樹脂が該当するが、ここで、フェノール樹脂の定義は、フェノール又はフェノールの誘導体、例えば、o−、m−又はp−クレゾールと、アルデヒド又はケトン、特にホルムアルデヒドとの縮合生成物であると解釈される。フェノール樹脂として、特に、レゾール及び特にいわゆるノボラックが好適であり、これは、フェノール又はクレゾールとホルムアルデヒドとの、特にフェノールの1モル過剰での酸性縮合により得られるフェノール樹脂である。ノボラックは有利にアルコール又はアセトン中で可溶性である。
【0060】
無水物架橋剤、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチル−テトラヒドロフタル酸無水物、3−メチル−テトラヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物又は3−メチル−ヘキサヒドロフタル酸無水物も該当する。
【0061】
フェノール樹脂及び無水物硬化剤は、エポキシ化合物と重付加の形で架橋する。前記重付加反応、特に、エポキシ化合物とフェノール樹脂との重付加反応も、式Iのイミダゾリウム塩で促進される。
【0062】
従って、式Iのイミダゾリウム塩、エポキシ化合物の他に、さらに、少なくとも1のフェノール樹脂、有利にノボラックをも含有する本発明による組成物も特に好適である。
【0063】
非反応性成分として、他の架橋反応を生じない樹脂、並びに無機充填剤又は顔料も挙げられる。
【0064】
組成物は溶剤を含有してもよい。所望の粘度に調節するために、場合により、有機溶剤が該当する。
【0065】
有利な一実施態様において、組成物は、溶剤を、せいぜい副次的な量(エポキシ化合物100質量部に対して、20質量部未満、特に10質量部未満ないし5質量部未満)で含有し、特に有利に溶剤を含有しない(100%系)。
【0066】
有利な組成物は、少なくとも30質量%、有利に少なくとも50質量%、極めて特に有利に少なくとも70質量%がエポキシ化合物からなる(場合により併用される溶剤を除く)。
【0067】
式Iのイミダゾリウム塩の含分は、エポキシ化合物100質量部に対して、有利に0.01〜10質量部、特に有利に、エポキシ化合物100質量部に対して、少なくとも0.1、特に少なくとも0.5、極めて特に有利に少なくとも1質量部であり、有利に、前記含分は、エポキシ化合物100質量部に対して8質量部を上回らず、特に6質量部を上回らず、特に前記含分は、エポキシ化合物100質量部に対して1〜6質量部又は3〜5質量部であってもよい。
【0068】
式Iのイミダゾリウム塩の他に、組成物は、当然のことながら、他の、従来すでに公知である潜在性触媒、例えば、アミンへの三フッ化ホウ素の付加物(BF3−モノエチルアミン)、4級ホスホニウム化合物及びジシアンジアミド(DICY)をも含有することができる。硬化剤としての窒素含有成分とは、芳香族及び脂肪族ポリアミン、例えば、N−アミノエチルピペラジン、ポリエチレンアミン、特に、芳香族及び脂肪族ジアミン、例えば、イソホロンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、特に、メタ−キシリレンジアミン、4,4’−メチレン−ジアニリン、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ピペラジン、4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、ネオペンタンジアミン、2,2’−オキシビス(エチルアミン)、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、1,12−ジアミノ−ドデカン、1,10−ジアミノ−デカン、ノルボルナン−ジアミン、メンテン−ジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−メチル−2,4−ジアミノシクロヘキサン、ポリエールアミン、例えば、エチレンオキシド、ブチレンオキシド、ペンチレンオキシド又は前記アルキレンオキシドとプロピレンオキシドとの混合物と、アンモニアをベースとしたアミン、4,7,10−トリオキサトリデカン−1,3−ジアミン、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン、Huntsman社 XTJ−568、1,8−ジアミノ−3,6−ジオキサオクタン(Huntsman社 XTJ 504)、1,10−ジアミノ−4,7−ジオキサデカン(Huntsman社 XTJ 590)、4,9−ジオキサドデカン−1,12−ジアミン(BASF社)、4,7,10−トリオキサテリデカン−1,3−ジアミン(BASF社)、Huntsman社のXTJ 566、アンモニア、プロピレン−及びエチレンオキシドをベースとしたポリエーテルアミン、例えば、Huntsman社のXTJ 500、XTJ 501、XTJ 511、ポリ(1,4−ブタンジオール)ないしポリ(THF)、プロピレンオキシド及びアンモニアをベースとしたポリエーテルアミン:Huntsman社のXTJ 542、XTJ 559、ポリエーテルアミン T 403、ポリエーテルアミン T 5000であると解釈され、その際、トリエチレンテトラアミン及びジエチレントリアミン、プロピレンオキシドとアンモニアとをベースとしたポリエーテルアミンは除外される。
【0069】
他の窒素含有成分の選択例は、置換されたイミダゾール、例えば、1−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール、イミダゾリン、例えば、2−フェニル−イミダゾリン、3級アミン、例えば、N,N−ジメチル−ベンジルアミン、DMP 30(2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)−フェノール)、DABCO(1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン)、ケチミン、例えば、Epi−Cure 3502、ポリアミドアミン、例えば、Cognis社のVersamid(R) 140、ウロン、例えば、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(モヌロン)、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(ジウロン)、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素(フェヌロン)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素(クロロトルロン)、トリル−2,4ビス(N,Nジメチルカルバミド)Amicure UR2T(Air Products)、テトラアルキル−グアニジン、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルグアニジン、DICYとアミンとの反応生成物、いわゆるビグアニジン、例えば、Vantico社のHT 2844である。
【0070】
組成物は、有利に20〜100℃、特に有利に20〜40℃、極めて特に有利に20℃の加工温度で液体である。
【0071】
50℃までの温度での組成物全体の粘度の増加は、10時間の期間にわたって、特に(潜在性触媒の添加から)100時間後に、潜在性触媒なしの組成物の粘度に対して、21℃、1バールで、20%未満、特に有利に10%未満、極めて特に有利に5%未満、特に2%未満である。
【0072】
上記組成物は1K系として好適である。
【0073】
上記組成物は、2K系の貯蔵可能な成分としても好適である。
【0074】
2K系の場合、高反応性の成分、例えば極めて反応性の高い通常のアミン硬化剤又は反応性の高い無水物硬化剤のみが使用前に添加され、その後、硬化が生じ、この硬化は粘度上昇により認めることができる。
【0075】
例えば、通常、エポキシ化合物のための架橋剤として2K系において使用される反応性ポリアミン又はポリ酸無水物が該当する。公知のアミン架橋剤は、特に、脂肪族ポリアミン、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、又は、プロピレンオキシドとアンモニアとをベースとしたアミン(ポリエーテルアミン、例えばD 230、D 2000、D 400)である。
【0076】
硬化及び使用に関して
式Iのイミダゾリウム塩を含有する組成物は、貯蔵安定性である。式Iのイミダゾリウム塩は、エポキシ化合物中及び本発明による組成物で十分に可溶性である。式Iのイミダゾリウム塩は、組成物中で潜在性触媒として作用する。前記塩の、エポキシ化合物の重合又は架橋の際の有効性は極めて良好である。
【0077】
40℃未満、特に30℃未満の通常の貯蔵温度で、組成物の粘度の上昇は認められないか、又はほとんど認められない。従って、組成物は1K系として好適である。1K系は、使用前に、硬化又は架橋を生じさせる第二の成分の添加を必要としない。
【0078】
組成物は、当然のことながら、2K系のための貯蔵可能な成分としても好適である(上記参照)。
【0079】
1K系としてか又はさらに2K系としての組成物の硬化は、従来公知である潜在性イミダゾリウム触媒を用いて可能であった温度よりも低い温度で行うことができる。硬化は、常圧で、かつ250℃未満の温度で、特に200℃未満の温度で、有利に175℃未満の温度で、特に有利に150℃未満の温度で、極めて特に有利に125℃未満の温度で、さらには100℃未満の温度で行うことができる。80℃未満の温度での硬化も可能である。硬化は、特に、40〜175℃、特に60〜150℃、ないし60〜125℃の温度範囲内で行うことができる。
【0080】
本発明による組成物は、被覆剤又は含浸剤として、接着剤として、複合材として、成形体を製造するため、又は、成形体の埋込み、結合又は固化のための注型材料として好適である。これに関して、上記記載及び下記記載は、1K系のみならず2K系にも当てはまり、有利な系は、上記のすべての使用において1K系である。
【0081】
被覆剤として、例えば塗料が挙げられる。特に、本発明による組成物(1K又は2K)を用いて、耐引掻性の保護塗料が、例えば金属、プラスチック又は木材からの任意の基材上に得られる。組成物は、電子工学的適用における絶縁性被覆として、例えばワイヤ及びケーブルのための絶縁性被覆としても好適である。フォトレジストの製造のための使用も挙げられる。組成物は、特に、例えば管を分解せずに管を補修する際の補修用塗料としても好適である(現場硬化型管(CIPP)更正)。組成物は、床板の目止めにも好適である。
【0082】
接着剤として、1K−又は2K−構造用接着剤が挙げられる。構造用接着剤は、成形体を一緒に持続的に結合するために利用される。成形体は任意の材料からなることができ;プラスチック、金属、木材、皮革、セラミック等からの材料が挙げられる。該接着剤は、比較的高温で初めて流動性でかつ加工可能であるホットメルト接着剤であってもよい。該接着剤は、床板用接着剤であってもよい。組成物は、特にSMT法(表面実装技術)による電子回路の製造のための接着剤としても好適である。
【0083】
複合材では、種々の材料、例えば、プラスチック及び補強材料(繊維、炭素繊維)が一緒になって結合されている。
【0084】
組成物は、例えば、予備含浸された繊維、例えばプリプレグの製造及び該繊維から複合材へのさらなる加工にも好適である。
【0085】
複合材のための製造法として、予備含浸された繊維又は繊維織物(例えばプリプレグ)の、貯蔵後の硬化、又は、押出、引抜成形、巻取り及びレジントランスファ成形、レジンインフュージョン技術が挙げられる。
【0086】
特に、繊維に、本発明による組成物が含浸され、その後、比較的高温で硬化されることができる。含浸及び場合により引き続く貯蔵の間には、硬化が生じるか又はわずかに生じるにすぎない。
【0087】
成形体の埋込み、結合又は固化のための注型材料として、組成物は、例えば、電子工学的適用において使用することができる。該組成物は、フリップチップアンダーフィルとして、又は、注封、注型及び(グローブトップ)封入のための電気的な注型用樹脂として好適である。
【実施例】
【0088】
出発物質
エポキシ化合物として、Nan Ya社からNPEL 127Hの名称で市販品として入手可能なビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBAと略記)を使用した。
【0089】
試験した組成物
それぞれイミダゾリウム塩又はイミダゾリウム塩の混合物5質量部とエポキシ化合物100質量部とを混合した。第1表に、組成及び結果を列挙する。1X及び1XXの場合、他の成分との混合物も試験した(第2表の下方の脚注を参照のこと)。
【0090】
測定方法
硬化の開始及び進行を、示差走査熱量測定(DSC)を用いて試験した。そのために、組成物5〜15ミリグラムを、DSC熱量計(DSC 822, Mettler Toledo)中で、10℃/分の一定速度で加熱した。
【0091】
o(発熱重合反応の開始、開始温度)、Tmax(発熱ピークの温度極大、最高反応加速度に相当)及びΔH(DSC曲線の積分、重合反応の全放出熱量に相当)を測定した。
【0092】
更に、硬化された、完全に反応された試料のガラス転移温度(Tg)を、以下のようにDSC測定により測定した:
未硬化の組成物20gを3〜4mmのフィルム厚でアルミニウムボートに入れ、160℃で1時間、次いで180℃でさらに3時間、次いで200℃でさらに1時間硬化させた。硬化した試料のTgを、DSC測定により、30℃/分の加熱速度で、3つの無関係な測定の平均値として測定した。
【0093】
貯蔵安定性(ポットライフ)を、相対粘度の測定により(GEL−NORM(R)−RVN粘度計)試験した。種々の温度で(25℃、80℃、100℃及び120℃)、時間を日(d)又は分(min)で測定した。混合物は、示された時間の経過後になおも注型可能である。
【0094】
【表1】

【0095】
X 試験した混合物は、無水物硬化剤MHHPSA(メチルヘキサヒドロ無水フタル酸)をも含有していた。
モル比 エポキシド:無水物 1:0.9
エポキシド100質量部に対してイミダゾリウム塩1質量部
硬化条件:100℃で3時間、及び150℃で2時間
【0096】
XX 試験した混合物は、Hexion Specialty GmbH社のNovolak PHS 6000 IZ04をも含有していた。
モル比 エポキシド:ヒドロキシ 1:0.9
エポキシド+Novolak100質量部に対してイミダゾリウム塩1質量部
硬化条件:140℃で2時間、及び100℃で2時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物含有組成物を硬化させるための潜在性触媒としての、式I
【化1】

[式中、
R1及びR3は、相互に無関係に、1〜20個のC原子を有する有機基を表し、
R2、R4及びR5は、相互に無関係に、H原子又は1〜20個のC原子を有する有機基を表し、その際、R4及びR5は一緒になって脂肪族環又は芳香環を形成することもでき、かつ、
Xは、リンの酸素酸のアニオンを表し、かつ、
nは1、2又は3を表す]
の1,3置換イミダゾリウム塩の使用。
【請求項2】
R1及びR3が、相互に無関係に、C1〜C10アルキル基、アリル基又はベンジル基を表す、請求項1記載の使用。
【請求項3】
R2、R4及びR5が、相互に無関係に、H原子又はC1〜C8アルキル基、C1〜C8アルケニル基、特にアリル基、フェニル基又はベンジル基を表す、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
R2がH原子を表す、請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
アニオンXが、1〜20個のC原子を有する少なくとも1の有機基を含有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
アニオンXがジアルキルリン酸イオンである、請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
nが1を表す、請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
硬化性組成物が、少なくとも2のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
硬化性組成物が、平均で2のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
組成物が、エピクロロヒドリンとアルコールとの反応により得られるエポキシ化合物を含有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
組成物が、水及び有機溶剤を除いて、少なくとも30質量%、有利に少なくとも50質量%がエポキシ化合物からなる、請求項1から10までのいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
組成物が、更に、他の成分、例えば無水物硬化剤又はフェノール樹脂、特にノボラックを含有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
潜在性触媒の含分が、エポキシ化合物100質量部に対して0.01〜10質量部である、請求項1から12までのいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
エポキシ化合物及び式Iの潜在性触媒を含有する、硬化性組成物。
【請求項15】
DICY及び/又はアミン架橋剤を含有する、請求項14記載の硬化性組成物。
【請求項16】
窒素含有成分を硬化剤として含有する、請求項14又は15記載の硬化性組成物。
【請求項17】
イミダゾリウム塩中のDICYの、室温で液体でありかつ均質な混合物を含有する、請求項16記載の硬化性組成物。
【請求項18】
水及び有機溶剤を除いて、少なくとも30質量%がエポキシ化合物からなる、請求項14から17までのいずれか1項記載の硬化性組成物。
【請求項19】
請求項14から17までのいずれか1項記載の組成物を硬化するための方法において、硬化を200℃未満の温度で行うことを特徴とする方法。
【請求項20】
被覆剤又は含浸剤としての、接着剤としての、複合材における、成形体を製造するための、又は、成形体の埋込み、結合又は固化のための注型材料としての、請求項14から17までのいずれか1項記載の硬化性組成物の使用。
【請求項21】
予備含浸された繊維又は繊維織物の硬化により、又は、押出、引抜成形、巻取り及びレジントランスファ成形、レジンインフュージョン技術により複合材を製造するための、請求項14から17までのいずれか1項記載の硬化性組成物の使用。

【公表番号】特表2010−530908(P2010−530908A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511597(P2010−511597)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057115
【国際公開番号】WO2008/152002
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】