説明

エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、多層プリント配線板

【課題】燃焼時に有害な物質を生成しないで難燃性を確保することができると共に落下衝撃による耐クラック性を高く得ることができるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を含有すると共にハロゲン元素を含有しないエポキシ樹脂組成物に関する。エポキシ樹脂として、エポキシ当量が400以上であってリン原子を含有する2官能エポキシ樹脂を用いる。硬化剤として、エポキシ基と反応する反応基の当量が50未満であるものを用いる。無機充填剤として、平均粒子径10μm以下のシリカを用いる。エポキシ樹脂全量に対して2官能エポキシ樹脂の含有量が30質量%以上90質量%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、このエポキシ樹脂組成物を材料として用いて製造されるプリプレグ、このプリプレグを材料として用いて製造される多層プリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂は、その優れた接着性、電気絶縁性、耐薬品性等から、プリント配線板の材料や半導体の封止材料として広く用いられている。通常、このような用途に用いられる場合には、火災に対する安全性を確保するため、臭素に代表されるハロゲン元素を含む化合物を上記材料に配合することによって難燃化が図られている。このように、臭素等のハロゲンを導入すると、優れた難燃性を示す成形物(硬化物)が得られることは広く知られている。
【0003】
しかしながら、上記のような成形物は燃焼時においてポリ臭素化されたジベンゾダイオキシン及びフランなどの人体に悪影響を及ぼす化合物を生成させるおそれがある。しかも臭素を含む化合物は、加熱される際に臭素が分解して、長期における耐熱性が悪くなるものである。そこで、このような問題を解決すべく、ハロゲン元素を含有しないで優れた難燃性を示すエポキシ樹脂やその組成物の開発が広く行われている。
【0004】
ところで、電子機器の小型化・高性能化は著しく、携帯電話に代表される電子機器の多くは広く一般に常時携帯・使用されている。このような携帯機器において不意の落下は常に起こり得る事態であり、そのため落下による衝撃が加わった際に機器が破損しないことが必要とされている。電子機器の破損の要因は様々であるが、プリント配線板に対しては、クラック(亀裂)の発生に伴う断線や、絶縁層の破断による部品の脱落が生じないことが求められる。
【0005】
ここで、ハロゲン元素を含有しない難燃化については、主としてリン元素を使用した系が検討されている。例えば、リン酸エステル系の化合物であるトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)等の添加型リン系難燃剤をエポキシ樹脂組成物中に適正量配合することによって、難燃性を確保することができる。しかしながら、上記のような添加型リン系難燃剤はエポキシ樹脂と反応しないため、成形物の吸湿後のはんだ耐熱性や耐アルカリ性等の耐薬品性が大幅に低下するなどといった問題が生じる。
【0006】
これに対し、例えば、エポキシ樹脂との反応性を有するリン化合物を採用することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。しかしながら、ノボラック型のような多官能エポキシ樹脂を主成分とする場合には、その成形物の架橋密度は高く、硬く脆くなることから、落下衝撃に対する耐クラック性が悪化するものである。
【特許文献1】特開平11−124489号公報
【特許文献2】特開2001−151991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、燃焼時に有害な物質を生成しないで難燃性を確保することができると共に落下衝撃による耐クラック性を高く得ることができるエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、多層プリント配線板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係るエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を含有すると共にハロゲン元素を含有しないエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂として、エポキシ当量が400以上であってリン原子を含有する2官能エポキシ樹脂を用い、硬化剤として、エポキシ基と反応する反応基の当量が50未満であるものを用い、無機充填剤として、平均粒子径10μm以下のシリカを用いると共に、エポキシ樹脂全量に対して2官能エポキシ樹脂の含有量が30質量%以上90質量%未満であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、2官能エポキシ樹脂が、2つのフェノール性水酸基を有するリン化合物と、エポキシ当量が150以上である2官能エポキシ化合物とを反応させて得られるものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2において、リン化合物が下記式(1)で示されるものであることを特徴とするものである。
【0011】
【化1】

【0012】
請求項4の発明は、請求項2において、リン化合物が下記式(2)で示されるものであることを特徴とするものである。
【0013】
【化2】

【0014】
請求項5の発明は、請求項2において、リン化合物が下記式(3)で示されるものであることを特徴とするものである。
【0015】
【化3】

【0016】
請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、硬化剤がジシアンジアミドであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれかにおいて、エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分全量に対してリン元素の含有量が0.8質量%以上3.5質量%未満であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の請求項8に係るプリプレグは、請求項1乃至7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸させると共にこれを加熱することによって半硬化状態にして成ることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の請求項9に係る多層プリント配線板は、表面に回路パターンが形成された内層用基板に請求項8に記載のプリプレグを積層成形して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に係るエポキシ樹脂組成物によれば、燃焼時に有害な物質を生成しないで難燃性を確保することができると共に落下衝撃による耐クラック性を高く得ることができるものである。
【0021】
請求項2の発明によれば、エポキシ当量が400以上であってリン原子を含有する2官能エポキシ樹脂を容易に調製することができるものである。
【0022】
請求項3の発明によれば、成形物の難燃性をさらに高めることができると共に、成形物の耐熱性をも高めることができるものである。
【0023】
請求項4の発明によれば、成形物の難燃性をさらに高めることができると共に、成形物の耐熱性をも高めることができるものである。
【0024】
請求項5の発明によれば、成形物の難燃性をさらに高めることができると共に、成形物の耐熱性をも高めることができるものである。
【0025】
請求項6の発明によれば、2官能エポキシ樹脂を硬化させて、良好な電気的特性に加え、強靭性、可撓性、接着力及び加熱時の応力緩和に優れた成形物を得ることができるものである。
【0026】
請求項7の発明によれば、ハロゲン化合物を用いなくても十分な難燃性を確保することができるものである。
【0027】
本発明の請求項8に係るプリプレグは、燃焼時に有害な物質を生成しないで難燃性を確保することができると共に落下衝撃による耐クラック性を高く得ることができるものである。
【0028】
本発明の請求項9に係る多層プリント配線板は、燃焼時に有害な物質を生成しないで難燃性を確保することができると共に落下衝撃による耐クラック性を高く得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、2官能エポキシ樹脂(2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂)、硬化剤、無機充填剤を必須成分として含有すると共に、ハロゲン元素を含有しないものである。すなわち、2官能エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤としては、いずれもハロゲン元素を含有しないものを用いるものである。これにより、ハロゲン元素に基づく有害な物質を燃焼時に生成させないことができるものである。
【0031】
本発明において2官能エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が400以上(実質上の上限は10000)であってリン原子を含有するものであれば、特に限定されるものではないが、極端に長い側鎖や大きな置換基を有しないものを用いるのが好ましい。このように、2官能エポキシ樹脂においてエポキシ当量が400以上であることによって、成形物の架橋密度が高くならず、落下衝撃による耐クラック性を高く得ることができるものであり、また、リン原子を含有することによって、難燃性を確保することができるものである。エポキシ当量が400未満であると、成形物の架橋密度が高く、硬く脆くなり、落下衝撃時における耐クラック性が悪化するものである。なお、エポキシ当量は種々の方法で求めることができるが、一例としてJIS K 7236による測定方法を挙げることができる。
【0032】
そして、エポキシ樹脂全量に対して2官能エポキシ樹脂の含有量は30質量%以上90質量%未満である。この範囲内で2官能エポキシ樹脂を後述する硬化剤で硬化させることによって、難燃性を有し、落下衝撃時における耐クラック性に優れた成形物を得ることができるものである。しかし、2官能エポキシ樹脂の含有量が30質量%未満であると、落下衝撃時における耐クラック性が悪化すると共に難燃性も悪化するものであり、逆に、2官能エポキシ樹脂の含有量が90質量%以上であると、十分なガラス転移温度を得ることができないものである。
【0033】
また、エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分全量に対してリン元素の含有量は0.8質量%以上3.5質量%未満であることが好ましい。これにより、ハロゲン化合物を用いなくても十分な難燃性を確保することができるものである。しかし、リン元素の含有量が0.8質量%未満であると、リン元素による難燃性を十分に得ることが困難となるおそれがあり、逆に、リン元素の含有量が3.5質量%以上であると、成形物の吸湿率が増加したり、耐熱性が低下したりするおそれがある。
【0034】
ここで、上記のような2官能エポキシ樹脂は、次のようにして容易に調製することができる。すなわち、メトキシプロパノール(MP)等の溶媒の存在下又は不存在下において、2つのフェノール性水酸基を有するリン化合物と、エポキシ当量が150以上(実質上の上限は5000)である2官能エポキシ化合物とを加熱撹拌し、さらにトリフェニルフォスフィン等の硬化促進剤を添加して加熱撹拌することによって、上記リン化合物と2官能エポキシ化合物とを反応させると、上述した2官能エポキシ樹脂を得ることができる。
【0035】
2官能エポキシ樹脂を調製するためのリン化合物としては、2つのフェノール性水酸基を有するものであれば、特に限定されるものではないが、上記式(1)〜(3)で示されるリン化合物を用いるのが好ましい。このようなリン化合物を用いると、成形物の難燃性をさらに高めることができると共に、成形物の耐熱性をも高めることができるものである。
【0036】
2官能エポキシ樹脂を調製するための2官能エポキシ化合物としては、エポキシ当量が150以上であれば、特に限定されるものではないが、極端に長い側鎖や大きな置換基を有しないものを用いるのが好ましい。このような2官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物やビフェニル型エポキシ化合物等の線状化合物を用いることができるが、特にビスフェノール型エポキシ化合物を用いるのが好ましい。このビスフェノール型エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型2官能エポキシ樹脂である油化シェルエポキシ(株)製「エピコート828」等を挙げることができる。
【0037】
本発明において硬化剤としては、エポキシ基と反応する反応基の当量が50未満(実質上の下限は10)であるものを用いる。上記当量は、具体的には、硬化剤の理論活性水素当量や水酸基当量等を意味するものであり、このような当量が50未満であることによって、硬化剤周囲の架橋密度が低くならず、十分なガラス転移温度を得ることができるものである。しかし、上記当量が50以上であると、硬化剤周囲の架橋密度が低くなり、十分なガラス転移温度が得られないおそれがある。
【0038】
特に硬化剤としては、ジシアンジアミド(理論活性水素当量21)を用いるのが好ましい。これにより、上述した2官能エポキシ樹脂を硬化させて、良好な電気的特性に加え、強靭性、可撓性、接着力及び加熱時の応力緩和に優れた成形物を得ることができるものである。
【0039】
本発明において無機充填剤としては、平均粒子径10μm以下のシリカを用いる。これにより、落下衝撃時における耐クラック性を改善することができると共に、成形物の吸湿率(吸水率)を低下させたり、はんだ処理等の高温加熱時における強度を増加させたり、加熱に伴う寸法変化率を低下させたりすることができるものである。しかし、平均粒子径が10μmを超えるシリカを用いると、成形物の電気絶縁性が低下したり、応力低減効果が不均一となって吸湿後のはんだ耐熱性の低下等が起こったりするものである。なお、シリカの平均粒子径の下限は0.05μmであり、これよりも平均粒子径が小さいシリカを用いると、エポキシ樹脂組成物が増粘するおそれがある。
【0040】
また、平均粒子径10μm以下のシリカの添加量は、樹脂固形分100質量部に対して、15質量部以上100質量部未満であることが好ましく、35質量部以上100質量部未満であることがより好ましい。これにより、成形物の吸湿率を低下させたり、はんだ処理等の高温加熱時における強度を増加させたり、加熱に伴う寸法変化率を低下させたりすることができるものである。しかし、上記シリカの添加量が15質量部未満であると、吸湿率が増加したり、はんだ耐熱性が低下したり、加熱に伴う寸法変化率が増加したりするおそれがあり、逆に、上記シリカの添加量が100質量部以上であると、このような充填剤を均一に分散させることが困難となったり、成形物の接着力が低下したりするおそれがある。
【0041】
本発明においては、ハロゲン元素を含有しない化合物であって、エポキシ樹脂組成物やこれを用いて製造されるプリプレグの特性を低下させないものであれば、上述した2官能エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤以外のエポキシ樹脂、無機充填剤、硬化促進剤、改質剤、添加剤等を任意成分として用いることができる。
【0042】
例えば、上述した2官能エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂等をそれぞれ単独で使用したり、又は複数組み合わせて使用したりすることができる。ただし、汎用ノボラック型エポキシ樹脂は、硬化後の成形物を堅くするものであり、強靱性等の点では劣るため、多官能エポキシ樹脂を併用する場合には、強靱性をあらかじめ付与した多官能エポキシ樹脂を用いるのが好ましい。
【0043】
また、上述した無機充填剤(シリカ)以外の無機充填剤としては、アルミナ、タルク、マイカ、クレー、酸化チタン、窒化珪素、ガラスビーズ、ガラス中空球、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を用いることができる。
【0044】
また、硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類や三級アミン類等を用いることができる。
【0045】
また、改質剤としては、ポリビニルアセタール樹脂、SBR、BR、ブチルゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム等のゴム成分を用いることができる。
【0046】
そして、上述した必須成分を溶媒に投入し、必要に応じて上述した任意成分も投入し、これを撹拌混合することによって、本発明に係るエポキシ樹脂組成物をワニスとして調製することができる。上記溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、メトキシプロパノール(MP)、ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができる。
【0047】
次に、上記のようにして得たワニスを基材に含浸させた後、これを乾燥機中で120〜190℃、3〜15分間程度加熱して乾燥させることによって、半硬化状態(B−ステージ)にしたプリプレグを製造することができる。上記基材としては、ガラスクロス、ガラスペーパー、ガラスマット等のガラス繊維布のほか、クラフト紙、リンター紙、天然繊維布、有機合成繊維布等を用いることができる。
【0048】
次に、表面に回路パターンがあらかじめ形成された内層用基板に上記のようにして得たプリプレグを積層成形することによって、多層プリント配線板を製造することができる。具体的には、まず、銅張積層板等の金属張積層板の表面にサブトラクティブ法等で回路パターンを形成することによって、内層用基板を製造する。ここで形成した回路パターンには黒化処理等の化学処理を施しておくのが好ましい。これにより、プリプレグとの接着性を高く得ることができるからである。次に、この内層用基板の片面又は両面に上記のプリプレグを所要枚数重ねて配置すると共に、さらにその外側に金属箔を重ねて配置し、これを150〜180℃、0.98〜4.9MPaの条件で加熱加圧して積層成形することによって、多層プリント配線板に加工される多層積層板を製造することができる。上記金属箔としては、銅箔、銀箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等を用いることができる。なお、成形温度が150℃未満であると、硬化が不十分で所望の耐熱性を得ることが困難となったり、プリプレグと内層用基板の金属箔との接着力が不十分となったりするおそれがあり、逆に、成形温度が180℃を超えると、あらかじめ化学処理された内層用基板の金属箔表面の凹凸が消失し、プリプレグと内層用基板の金属箔との接着力が不十分となるおそれがある。
【0049】
そして、上記のようにして得た多層積層板の表面にサブトラクティブ法等で回路パターンを形成するなどして、多層プリント配線板を製造することができる。この多層プリント配線板にあっては、燃焼時に有害な物質を生成しないで難燃性を確保することができると共に落下衝撃による耐クラック性を高く得ることができるものである。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0051】
<原材料>
まず、使用したエポキシ樹脂、硬化剤、リン化合物、無機充填剤、溶媒をこの順に示す。
【0052】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂として以下の3種類のものを使用した。
【0053】
エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型2官能エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ(株)製「エピコート828」(エポキシ基平均2.0個、エポキシ当量190)
エポキシ樹脂2:ビスフェノールA型2官能エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業(株)製「EPICLON1055」(エポキシ基平均2.0個、エポキシ当量475)
エポキシ樹脂3:フェノールノボラック型エポキシ樹脂、大日本インキ工業(株)製「EPICLO−N770」(エポキシ基平均5.0個、エポキシ当量190)
(硬化剤)
硬化剤として以下の2種類のものを使用した。
【0054】
硬化剤1:ジシアンジアミド(分子量84、理論活性水素当量21)
硬化剤2:フェノールノボラック樹脂、群栄化学工業(株)製「PSM6200」(融点約80℃、水酸基当量105)
(リン化合物)
リン化合物として以下の3種類のものを使用した。
【0055】
リン化合物1:フェノール性水酸基を平均2.0個有する上記式(1)で示される化合物、三光(株)製「HCA−HQ」(リン含有量約9.6質量%、水酸基当量約162)
リン化合物2:フェノール性水酸基を平均2.0個有する上記式(2)で示される化合物、三光(株)製「HCA−NQ」(リン含有量約8.2質量%、水酸基当量約188)
リン化合物3:フェノール性水酸基を平均2.0個有する上記式(3)で示される化合物(ジフェニルフォスフィニルハイドロキノン)、北興化学工業(株)製「PPQ」(リン含有量約10.1質量%、水酸基当量約155)
(無機充填剤)
無機充填剤として以下の3種類のものを使用した。
【0056】
無機充填剤1:球状シリカ、(株)アドマテックス製「SO−C3」(平均粒子径約1μm)
無機充填剤2:破砕シリカ、(株)龍森製「RD−120」(平均粒子径約30μm)
無機充填剤3:水酸化アルミニウム、住友化学工業(株)製「C302A」(平均粒子径約2μm)
(溶媒)
溶媒として以下の3種類のものを使用した。
【0057】
溶媒1:メチルエチルケトン(MEK)
溶媒2:メトキシプロパノール(MP)
溶媒3:ジメチルホルムアミド(DMF)
次に、2官能エポキシ化合物として上記のエポキシ樹脂1(エポキシ当量190)を用い、リン化合物として上記のリン化合物1〜3を用いて、以下の3種類の2官能エポキシ樹脂A〜Cを調製した。
【0058】
(2官能エポキシ樹脂A)
エポキシ樹脂1(70質量部)とリン化合物1(30質量部)を130℃の溶媒2(20質量部)中で加熱撹拌し、その後、トリフェニルフォスフィンを0.2質量部添加し、約3時間加熱撹拌を継続することにより、2官能エポキシ樹脂Aを得た。この2官能エポキシ樹脂Aにおいて、固形分中のエポキシ当量は約503、固形分は83.33質量%、固形分中のリン含有量は約3.1質量%であった。
【0059】
(2官能エポキシ樹脂B)
エポキシ樹脂1(70質量部)とリン化合物2(30質量部)を無溶媒下、130℃で加熱撹拌し、その後、トリフェニルフォスフィンを0.2質量部添加し、約4時間加熱撹拌を継続することにより、2官能エポキシ樹脂Bを得た。この2官能エポキシ樹脂Bにおいて、エポキシ当量は約528、150℃における溶融粘度は約100poise、リン含有量は約2.9質量%であった。
【0060】
(2官能エポキシ樹脂C)
エポキシ樹脂1(70質量部)とリン化合物3(30質量部)を無溶媒下、130℃で加熱撹拌し、その後、トリフェニルフォスフィンを0.2質量部添加し、約4時間加熱撹拌を継続することにより、2官能エポキシ樹脂Cを得た。この2官能エポキシ樹脂Cにおいて、エポキシ当量は約496、150℃における溶融粘度は約100poise、リン含有量は約3.1質量%であった。
【0061】
<エポキシ樹脂組成物>
2官能エポキシ樹脂A〜C、エポキシ樹脂2、3、硬化剤1、2、無機充填剤1〜3を下記[表1]に示す配合量で所定の溶媒(溶媒1:溶媒2:溶媒3=3:3:1(質量比))に投入し、これを特殊機化工業(株)製「ホモミキサー」を用いて約1000rpmで約90分間混合した。さらに、この混合物に硬化促進剤(2−エチル−4−メチルイミダゾール)を添加し、再度約15分間撹拌し、その後、脱気することによって、25℃で約5〜10poiseのエポキシ樹脂組成物をワニスとして調製した。
【0062】
そして、上記のようにして得たワニスを用いて以下のようにプリプレグを製造し、このプリプレグを用いて銅張積層板及び多層積層板を製造した。
【0063】
<プリプレグ>
上記ワニスをガラスクロス(日東紡(株)製「WEA7628」、厚さ0.18mmガラスクロス)に含浸させた後、これを乾燥機中で120〜190℃の範囲で5〜10分間程度加熱して乾燥させることによって、半硬化状態(B−ステージ)にしたプリプレグを製造した。
【0064】
<銅張積層板>
上記のようにして得たプリプレグを4枚重ね、さらにこの両面に銅箔を重ね、これを140〜180℃、0.98〜3.9MPaの条件で加熱加圧して積層成形することによって、厚さ約0.75mmの銅張積層板を製造した。ここで、加熱時間は、プリプレグ全体が160℃以上となる時間が少なくとも60分間以上となるように設定した。また、この際、プレス内が133hPa以下の減圧状態となるようにした。こうすることによって、プリプレグの吸着水を効率よく除去することができ、成形後に空隙(ボイド)が残存するのを防ぐことができるからである。なお、銅箔は古河サーキットフォイル(株)製「GT」(厚さ0.018mm)を用いた。
【0065】
<多層積層板>
まず、内層用基板(松下電工(株)製「CR1766」、厚さ0.2mm)の表面の銅箔(厚さ35μm)に回路パターンを形成した。次にこの回路パターンに黒化処理を施した。黒化処理は、亜塩素酸ナトリウム50g/l、水酸化ナトリウム10g/l、リン酸三ナトリウム10g/lからなる水溶液を処理液として用い、95℃、60秒間の条件で施した。次に、黒化処理後の内層用基板の両面にプリプレグを1枚ずつ重ね、さらにこの外側に銅箔を重ね、上述した銅張積層板の成形条件と同様の成形条件で、加熱加圧して積層成形することによって、多層積層板を製造した。
【0066】
<物性評価>
上記のようにして得た成形品(銅張積層板及び多層積層板)について以下に示すような物性評価を行った。
【0067】
(1)難燃性、消炎平均時間
銅張積層板の銅箔をエッチングにより除去した後、これを長さ125mm、幅13mmに切断することにより、試験片を得た。そして、この試験片を用いてUnder Writers Laboratoriesの「Test for Flammability of Plastic Materials−UL94」に従って、燃焼挙動のテストを実施した。また、消炎性の差異をみるため、着火から消炎までの平均時間を計測した。
【0068】
(2)多層積層板の耐クラック性
多層積層板の銅箔をエッチングにより除去した後、これを長さ50mm、幅25mmに切断することにより、試験片を得た。次に、この試験片を支点間距離30mmの台に架け渡して静置した後、高さ200mmから、重さ200mg、先端形状が2.0mmφのおもりを多層積層板の中央に自然落下させて衝突させた。そして、おもりが衝突した後の多層積層板の表面を観察した。観察結果は、亀裂が生じなかったものを「○」、亀裂が3本以下生じかつ全ての亀裂の長さが2mm以下であるものを「△」、それ以上の亀裂が生じたものを「×」として示す。
【0069】
上記の物性評価の結果を下記[表1]にまとめて示す。
【0070】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を含有すると共にハロゲン元素を含有しないエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂として、エポキシ当量が400以上であってリン原子を含有する2官能エポキシ樹脂を用い、硬化剤として、エポキシ基と反応する反応基の当量が50未満であるものを用い、無機充填剤として、平均粒子径10μm以下のシリカを用いると共に、エポキシ樹脂全量に対して2官能エポキシ樹脂の含有量が30質量%以上90質量%未満であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
2官能エポキシ樹脂が、2つのフェノール性水酸基を有するリン化合物と、エポキシ当量が150以上である2官能エポキシ化合物とを反応させて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
リン化合物が下記式(1)で示されるものであることを特徴とする請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【請求項4】
リン化合物が下記式(2)で示されるものであることを特徴とする請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】

【請求項5】
リン化合物が下記式(3)で示されるものであることを特徴とする請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化3】

【請求項6】
硬化剤がジシアンジアミドであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分全量に対してリン元素の含有量が0.8質量%以上3.5質量%未満であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸させると共にこれを加熱することによって半硬化状態にして成ることを特徴とするプリプレグ。
【請求項9】
表面に回路パターンが形成された内層用基板に請求項8に記載のプリプレグを積層成形して成ることを特徴とする多層プリント配線板。

【公開番号】特開2006−36936(P2006−36936A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219307(P2004−219307)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】