説明

エポキシ樹脂組成物および半導体装置

【課題】本発明はハロゲン化合物やアンチモン化合物などの難燃剤を使用することなく、その硬化物において難燃性を示す半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
以下の条件を有することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物
エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂組成物において、以下の条件を有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物
(I)ジシクロペンタジエン−フェノール縮合型エポキシ樹脂(a)、および50℃で100Pa・s以下の粘度を有する常温液状のビスフェノール型エポキシ樹脂(b)を必須成分とする。
(II)エポキシ樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の重量比が0.5≦a/(a+b)<0.98である。
(III)無機充填剤を内割りで60〜95重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性、流動性、耐熱性に優れた硬化物を与える半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は作業性及びその硬化物の優れた電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性(耐水性)等により電気・電子部品、構造用材料、接着剤、塗料等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
しかし近年、電気・電子分野においてはその発展に伴い、樹脂組成物の高純度化をはじめ耐湿性、密着性、誘電特性、フィラー(無機または有機充填剤)を高充填させるための低粘度化、成型サイクルを短くするための反応性のアップ等の諸特性の一層の向上が求められている。又、構造材としては航空宇宙材料、レジャー・スポーツ器具用途などにおいて軽量で機械物性の優れた材料が求められている。特に半導体封止分野、基板(基板自体、もしくはその周辺材料)においては薄型化が年々高度になり、材料に求められる特性として耐熱性はもちろんのこと、柔軟性が求められるようになってきている。更に環境問題から、近年、難燃剤としてハロゲン系エポキシ樹脂と三酸化アンチモンが特に電気電子部品の難燃剤として多用されているが、これらを使用した製品はその廃棄後の不適切な処理により、ダイオキシン等の有毒物質の発生に寄与することが指摘されている。
上記の問題を解決する方法の一つとして、リン原子を骨格に有するエポキシ樹脂が提案されている。特に、通常のリン酸エステルタイプの化合物はその安定性が低いため、安定性の良い、環状リン酸エステル化合物が使用されている。またリン酸エステル化合物を使用しなくても、樹脂骨格を選ぶことで従来のエポキシ樹脂に比べ難燃性に優れたものが開発されてきている。しかしながら、現在、特に半導体封止材の分野においては、リン系難燃剤も使用せずに難燃化できるようなシステムの開発が検討されており、一般にノンハロゲン、ノンアンチモン、ノンリンと呼ばれる難燃性が求められていている。
特許文献1にはエポキシ樹脂と硬化剤が共にフェノールアラルキル構造を有するエポキシ樹脂組成物の硬化物がノンハロゲン・ノンアンチモンで難燃性を発現出来る事が記載されている。一方同文献ではジシクロペンタジエン・フェノール重合体の構造は比較例において難燃性が著しく劣ることが記載されている。
ジシクロペンタジエン・フェノール重合体の構造を持ったエポキシ樹脂はその硬化物において優れた耐熱性、強靭性、低吸湿性、電気特性から、注目されているエポキシ樹脂である。しかしながらその骨格は炭化水素基を主骨格とし、その構造の大部分を炭化水素基が占めるため従来、難燃性が大きく劣ると考えられてきた。例えば理論的な指標として一般に知られているCFT(熱分解残渣率)を基準にすれば、芳香族炭化水素に比べ、脂肪族炭化水素は基本的にCFTを減じる方向に寄与するため、ジシクロペンタジエン・フェノール重合体の構造を持ったエポキシ樹脂は、他の芳香族系のエポキシ樹脂に比べ、一般に難燃性が劣るという判断がされている(非特許文献1)。
また、特許文献2にはジシクロペンタジエン・フェノール重合体の構造を持ったエポキシ樹脂とアルキル基を有するp、p´−ビスフェノールF型エポキシ樹脂との混合物が記載されている。同文献に開示されている技術はビスフェノールA型エポキシ樹脂や、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が常温で液状である、半導体封止のような技術分野では取り扱いが困難であることを課題とし、特定のビスフェノール型エポキシ樹脂とジシクロペンタジエン・フェノール重合体の構造を有するエポキシ樹脂とを混合し、結晶化させることを解決手段としている。したがって、その目的のため大量の結晶性ビスフェノールF型エポキシ樹脂を添加する必要があり、ジシクロペンタジエン・フェノール重合体の構造を持ったエポキシ樹脂が持つ本来の特性を損ねてしまうという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特許第3349963号公報
【特許文献2】特開平11−001544号公報
【非特許文献1】ポリマーの難燃化 西沢仁 著 (大成社) p53−57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はハロゲン化合物やアンチモン化合物、リン系化合物などの難燃剤を使用することなく、その硬化物において難燃性を示し、且つ優れた流動性・耐熱性を有するエポキシ樹脂組成物および半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成させるに到った。
【0007】
すなわち本発明は
(1)
エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂組成物において、以下の条件を有することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物
(I)エポキシ樹脂はジシクロペンタジエンと、フェノールまたはクレゾールから選ばれる1種以上との重縮合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂(a)、および50℃で100Pa・s以下の粘度を有する常温液状のビスフェノール型エポキシ樹脂(b)を必須成分とする。
(II)エポキシ樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の重量比が0.5≦a/(a+b)<0.98である。
(III)無機充填剤を内割りで60〜95重量%含有する。
(2)
エポキシ樹脂(b)が下記式(1)
【化1】

(式中、複数存在するRはそれぞれ独立して存在し、水素原子あるいはメチル基を表す。)で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載のエポキシ樹脂組成物
(3)
エポキシ樹脂(b)が下記式(2)
【化2】

(式中、Rは式(1)におけるのと同様の意味を表す。)で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂であって、その構造が下記に定義するオルソ配向とパラ配向の両者を示し、パラ配向の割合が80%以下(高速液体クロマトグラフィーのピーク面積%で比較)であるか、オルソ配向のみを示すエポキシ樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載のエポキシ樹脂組成物
オルソ配向:オキシグリシジル基またはその開環結合に対して、メチレン結合がオルソ位である結合
パラ配向 :オキシグリシジル基またはその開環結合に対して、メチレン結合がパラ位である結合
(4)
硬化剤が、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂またはフェノールアラルキル樹脂から選ばれることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物
(5)エポキシ樹脂組成物中、無機充填剤の含有割合が75〜90重量%である請上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止した半導体装置
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂組成物は難燃剤、リン系化合物を使用しなくても難燃性を発現するエポキシ樹脂組成物であり、電気電子部品用絶縁材料及び積層板(プリント配線板、ビルドアップ基板など)やCFRPを始めとする各種複合材料、接着剤、塗料等に有用である。特に半導体素子を保護する半導体封止材料にきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のエポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填剤を必須成分とし、半導体の封止材に好適である。
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物において必須成分であるエポキシ樹脂(a)はフェノールジシクロペンタジエンと、フェノールまたはクレゾールから選ばれる1種以上との重合物(以下、TCDフェノール樹脂と称す)をエピハロヒドリンと反応させることにより得られる。
エポキシ樹脂(a)の原料となるTCDフェノール樹脂は、フェノール(および/またはクレゾール、以下これらを総称してフェノール類という。)とジシクロペンタジエンを酸触媒によって重合させることにより得られる。TCDフェノール樹脂を製造する際、フェノール類の仕込み割合を多くすると、低分子量物の含有割合が多くなり、結果として得られるエポキシ樹脂の軟化点が低くなる。本発明においては、エポキシ樹脂(a)として、軟化点が50〜100℃のものを用いる。軟化点が低い方が流動性は向上するが、耐熱性を上げるには軟化点が高いものを使用することが好ましい。
また、エポキシ樹脂(a)は市販品を使用することも可能であり、例えば日本化薬株式会社製 XD−1000、XD−1000−L、XD−1000−2L、や大日本インキ工業株式会社製 HP−7200HH、HP−7200H、HP−7200、HP−7200−Lなどが使用できる。
【0011】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(b)としては、50℃で100Pa・s以下の粘度を有し、常温で液状のビスフェノール型エポキシ樹脂であれば特に制限はなく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。前記において常温液状とは、25℃で流動性を有する状態をさすが、本発明においては25℃の粘度が、200Pa・s以下、好ましくは100Pa・s以下、特に好ましくは30Pa・s以下のエポキシ樹脂(b)が好ましい。
具体的にはビスフェノールA型エポキシ樹脂(前記式(1)、例えばビスフェノールAまたはテトラメチルビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応物)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(前記式(2)、例えばビスフェノールFまたはビスクレゾールFとエピハロヒドリンの反応物)が挙げられる。本発明においては特にビスフェノールAまたはビスフェノールFを原料とするビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。また、硬化性の問題から、使用するビスフェノール型エポキシ樹脂は低分子量であることが好ましい。
特にビスフェノールF型エポキシ樹脂の場合、その芳香族基間の結合がオキシグルシジル基(またはその開環結合)に対し、パラ位で結合している割合が多い場合、その結晶性が非常に高くなる傾向がある。特にパラ配向性の強いビスフェノールF型エポキシ樹脂を多く使用した場合、部分的に結晶が出てくる等の問題が生じる。このような問題を解決するため、パラ配向が80%以下(高速液体クロマトグラフィーのピーク面積%)とすることが好ましく、より好ましくは60%以下のエポキシ樹脂を使用する。なお、ビスフェノールF型エポキシ樹脂における他の配向は、その芳香族基間の結合がオキシグルシジル基(またはその開環結合)に対し、オルソ位で結合しているオルソ配向である。
【0012】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としてはRE−310S、RE−410S(日本化薬株式会社製)、jER−827、jER−828、jER−828ELなど(ジャパンエポキシレジン株式会社製)、YD−127、YD−128、YD−128S、YD−128G、YD−8125など(東都化成株式会社製)、EPICLON−840、EPICLON−840−S、EPICLON−850、EPICLON−850−LCなど(大日本インキ工業株式会社製)などが市場から入手可能である。
また、前記パラ配向の割合が80%以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂としてはRE−304S、RE−403Sなど(日本化薬株式会社製)、YDF−170、YDF−175S、YDF−8170Cなど(東都化成株式会社製)、jER−806、jER−806L、jER−807など(ジャパンエポキシレジン株式会社製)、EPICLON−830、EPICLON−840−S、EPICLON−835、EPICLON−830CRPなど(大日本インキ工業株式会社製)などが市場から入手可能である。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の重量割合は0.5≦a/a+b<0.98であるが、0.7≦a/(a+b)≦0.93が好ましい。なお、前記においてa/(a+b)はエポキシ樹脂(a)と(b)の総量に対するエポキシ樹脂(a)の占める割合を意味する。a/(a+b)の値が0.5未満の場合、そのエポキシ樹脂組成物からエポキシ樹脂(b)がブリードアウトする形となり、樹脂のべた付きが激しく、取扱いが困難であるばかりでなく、その硬化物においても耐熱性が低くなりすぎる、誘電率が高くなる等の面で問題となる。またa/(a+b)が0.98以上の場合、混合することによる効果はほとんど見られない。
またエポキシ樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の混合物の軟化点が45〜70℃となる組み合わせを選択するのが好ましい。該混合物の軟化点が低い方が流動性及び難燃性は向上する傾向があるが、耐熱性を上げるには軟化点が高いもの使用することが好ましい。軟化点の調整は、エポキシ樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の軟化点及び割合を調整すればよい。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物にはエポキシ樹脂(a)、エポキシ樹脂(b)の以外の他のエポキシ樹脂を含有させることができる。他のエポキシ樹脂を併用する場合、全エポキシ樹脂中、エポキシ樹脂(a)、(b)の総量の占める割合は50重量%以上が好ましく、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上である。
前記他のエポキシ樹脂としてはノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂などが挙げられる。特にフェノールアラルキル型のエポキシ樹脂の添加は、本発明のエポキシ樹脂組成物の難燃性を阻害する効果が少ないため好ましい。またハロゲン化フェノール化合物(もしくはフェノール樹脂)のエポキシ化物は環境問題、および電気特性の問題(電気特性が悪くなる)からからその使用は好ましくなく、使用したとしても全エポキシ樹脂中で5重量%以下、好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは5000ppm以下、である。
【0015】
使用できる他のエポキシ樹脂の具体例としては、チオジフェノール、フルオレンビスフェノール、テルペンジフェノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシアセトフェノン、o−ヒドロキシアセトフェノン、トリシクロペンタジエン、フルフラール、4,4’−ビス(クロルメチル)−1,1’−ビフェニル、4,4’−ビス(メトキシメチル)−1,1’−ビフェニル、1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メトキシメチル)ベンゼン等との重縮合物及びこれらの変性物、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類、アルコール類から誘導されるグリシジルエーテル化物、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等の固形または液状エポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物が含有する硬化剤としては、例えばアミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、フェノール系化合物、カルボン酸系化合物などが挙げられる。用いうる硬化剤の具体例としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン等のアミン系化合物;ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンより合成されるポリアミド樹脂等のアミド系化合物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系化合物;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、テルペンジフェノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや、フェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシアセトフェノン、o−ヒドロキシアセトフェノン、フルフラールとの重縮合物であるノボラック樹脂や、フェノールまたはクレゾールとフェニレンジメチロール体、ジメトキシメチル体もしくはハロゲン化メチル体との反応物または、フェノールまたはクレゾールとビスクロロメチルビフェニル、ビスメトキシメチルビフェニルもしくはビスヒドロキシメチルビフェニルとの反応物または、フェノールとベンゼンジイソプロパノール、ベンゼンジイソプロパノールジメチルエーテルもしくはベンゼンビス(クロロイソプロパン)との反応物であるフェノールアラルキル樹脂及びこれらの変性物や、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類や、テルペンとフェノール類の縮合物等のフェノール系化合物、イミダゾール、トリフルオロボラン−アミン錯体、グアニジン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本発明においては、耐熱性、耐薬品性、電気信頼性の面から、フェノール系化合物を硬化剤とすることが好ましく、特に難燃性から、ノボラック樹脂、中でもフェノールノボラック樹脂またはクレゾールノボラック樹脂や、フェノールアラルキル樹脂が好ましい。また本発明においては、その軟化点が50〜100℃の硬化剤を用いのが好ましい。軟化点が低い方が流動性及び難燃性は向上する傾向があるが、耐熱性を上げるには軟化点が高いもの使用することが好ましい。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.8〜1.1当量が好ましい。エポキシ基1当量に対して、0.8当量に満たない場合、あるいは1.1当量を超える場合、いずれも硬化が不完全となり良好な硬化物性が得られない恐れがある。また本発明においてエポキシ樹脂と硬化剤の好ましい組み合わせとしては軟化点45〜70度のエポキシ樹脂(より好ましくは50〜65℃)と軟化点50〜100℃(好ましくは55〜85℃)の硬化剤である。流動性、難燃性、耐熱性の面でバランスの取れた特性を有する樹脂組成物となる。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、硬化促進剤を含有させても差し支えない。使用できる硬化促進剤の具体例としては2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾ−ル類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物等が挙げられる。硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部が必要に応じ用いられる。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、リン含有化合物を難燃性付与成分として含有させることもできる。リン含有化合物としては反応型のものでも添加型のものでもよい。リン含有化合物の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジル−2,6−ジキシリレニルホスフェート、1,3−フェニレンビス(ジキシリレニルホスフェート)、1,4−フェニレンビス(ジキシリレニルホスフェート)、4,4'−ビフェニル(ジキシリレニルホスフェート)等のリン酸エステル系化合物;9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のホスファン類;エポキシ樹脂と前記ホスファン類の活性水素とを反応させて得られるリン含有エポキシ化合物、赤リン等が挙げられるが、リン酸エステル類、ホスファン類またはリン含有エポキシ化合物が好ましく、1,3−フェニレンビス(ジキシリレニルホスフェート)、1,4−フェニレンビス(ジキシリレニルホスフェート)、4,4'−ビフェニル(ジキシリレニルホスフェート)またはリン含有エポキシ化合物が特に好ましい。
しかしながら、環境問題、および電気特性の懸念から前述のようなリン酸エステル系化合物の使用量はリン酸エステル系化合物/エポキシ樹脂≦0.1(重量比)が好ましい。さらに好ましくは0.05以下である。特に好ましくは硬化促進剤として添加する以外は、リン系化合物は添加しないことが良い。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は無機充填剤を含有する。無機充填剤としては溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化鉄、酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、マイカ、ガラス、石英、雲母などが上げられるがこれらに限定されない。また2種以上を混合して使用しても良い。これら無機充填剤のうち、溶融シリカや結晶性シリカなどのシリカ類はコストが安く、電気信頼性も良好なため好ましい。本発明のエポキシ樹脂組成物において、無機充填剤の使用量は内割りで通常60重量%〜95重量%、好ましくは70重量%〜90重量%の範囲である。少なすぎると難燃性の効果が得られず、多すぎると封止する半導体素子が銅系リードフレームに搭載されている場合に封止樹脂とフレームの線膨張率が合わなくて、ヒートショックなどの熱応力による不具合が発生する可能性がある。
れる。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物には成形時の金型との離型を良くするために離型剤を配合することができる。離型剤としては従来公知のものいずれも使用できるが、例えばカルナバワックス、モンタンワックスなどのエステル系ワックス、ステアリン酸、パルチミン酸などの脂肪酸およびこれらの金属塩、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレンなどのポリオレフィン系ワックスなどが挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。これら離型剤の配合量は全有機成分に対して0.5〜3重量%が好ましい。これより少なすぎると金型からの離型が悪く、多すぎるとリードフレームなどとの接着が悪くなる。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂組成物には無機充填剤と樹脂成分との接着性を高めるためにカップリング剤を配合することができる。カップリング剤としては従来公知のものをいずれも使用できるが、例えばビニルアルコキシシラン、エポキアルコキシシラン、スチリルアルコキシシラン、メタクリロキシアルコキシシラン、アクリロキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、イソシアナートアルコキシシランなどの各種アルコキシシラン化合物、アルコキシチタン化合物、アルミニウムキレート類などが挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。カップリング剤の添加方法は、カップリング剤であらかじめ無機充填剤表面を処理した後、樹脂と混練しても良いし、樹脂にカップリング剤を混合してから無機充填剤を混練しても良い。
【0023】
更に本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて公知の添加剤を配合することが出来る。用いうる添加剤の具体例としては、ポリブタジエン及びこの変性物、アクリロニトリル共重合体の変性物、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、フッ素樹脂、マレイミド系化合物、シアネートエステル系化合物、シリコーンゲル、シリコーンオイル、並びにカーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の着色剤などが挙げられる。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、各成分を均一に分散混合できる従来公知のいかなる手法を用いても製造することができる。例えば各成分を全て粉砕して粉砕化しヘンシェルミキサーなどで混合後、加熱ロールによる溶融混練、ニーダーによる溶融混練、特殊混合機による混合、あるいはこれら各方法の適切な組み合わせを用いることで調製される。また、本発明の半導体装置はリードフレームなどに搭載された半導体素子を、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いてトランスファー成形などにより樹脂封止することで製造することができる。
【0025】
本発明の半導体装置は前記の本発明のエポキシ樹脂組成物で封止されたもの等の本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物を有する。半導体装置としては、例えばDIP(デュアルインラインパッケージ)、QFP(クワッドフラットパッケージ)、BGA(ボールグリッドアレイ)、CSP(チップサイズパッケージ)、SOP(スモールアウトラインパッケージ)、TSOP(シンスモールアウトラインパッケージ)、TQFP(シンクワッドフラットパッケージ)等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例、比較例により本発明を具体的に説明する。
【0027】
<エポキシ樹脂成分の調製>
エポキシ樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)を表1の割合で配合し、150℃で溶融、均質化を行い、均一の樹脂として取り出し、これらの混合樹脂を用いて評価して用いた
【0028】
【表1】

注)
(E1):TCDフェノール樹脂のエポキシ化物(商品名:XD−1000 日本化薬製 エポキシ当量254g/eq 軟化点74℃)
(E2):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:jER-827 ジャパンエポキシレジン製 粘度 9800mPa・s /25℃ E型 エポキシ当量 180g/eq.)
(E3):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:jER-807 ジャパンエポキシレジン製 粘度 3460mPa・s /25℃ E型 エポキシ当量 172g/eq. パラ配向の割合は59.9%;カラム温度 40℃でグラジエント条件をアセトニトリル/水で測定。流速 1mL/min、検出 UV 274nm )
【0029】
実施例1〜8および比較例1〜4
<難燃性試験>
前記で得られたエポキシ樹脂混合物(EP1〜EP11)を、表2の割合(重量部)で他の成分とミキシングロールを用いて均一に混合・混練し、本発明及び比較用の封止用エポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物をミキサーにて粉砕し、更にタブレットマシーンにてタブレット化した。このタブレット化されたエポキシ樹脂組成物をトランスファー成型(175℃×60秒)し、更に脱型後160℃×2時間+180℃×6時間の条件で硬化、評価用試験片を得た。難燃性試験結果を表2に示す。
なお、硬化物の物性は以下の要領で測定した。
・難燃性:UL94に準拠して行った。ただし、サンプルサイズは幅12.5mm×長さ150mmとし、厚さは0.8mmと1.6mmの2種類で試験を行った。
・残炎時間:5個1組のサンプルに10回接炎したあとの残炎時間の合計
【0030】
【表2】

【0031】
(H1):フェノールアラルキル型フェノール樹脂(商品名:ミレックス XLC−3L 三井化学製 軟化点71℃ 水酸基当量172g/eq)
(H2):フェノールノボラック(商品名:H1 明和化成工業製 軟化点83℃ 水酸基当量106g/eq)
【0032】
硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学工業製)
無機充填剤:溶融シリカ(商品名:MSR−2212、龍森製)
離型剤:カルナバワックス1号(セラリカ野田製)
カップリング剤:KBM−303(信越化学製)
【0033】
表2から、本発明のエポキシ樹脂組成物は、ハロゲンやアンチモン化合物等の難燃剤を用いることなく、難燃性に優れた硬化物を与える。硬化剤H1を使用した場合は本発明のエポキシ樹脂組成物ではUL-94 V-0相当の特性を有するが比較例では同V-1相当、さらに硬化剤H2を用いた場合、特にTCDフェノール樹脂のエポキシ化物とビスフェノール型エポキシ樹脂の総重量に対するTCDフェノール樹脂の量が98重量%未満で良好な難燃性を示すことが確かめられた。また60重量%程度で残炎時間が徐々に長くなっていっていることからこれ以上の量のビスフェノール類の添加は難燃性を低下させるだけでなく、表2の結果からも過剰のビスフェノール類の添加はその軟化点が40℃程度もしくはそれ以下、といった、常温で半固形状態となり、取り扱いの非常に困難な樹脂となりことが明瞭である。
【0034】
実施例9、10、比較例5
<接着性試験>
表3に示す組成割合の配合物を、ミキシングロールを用いて均一に混合・混練し、封止用エポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物をミキサーにて粉砕し、更にタブレットマシーンにてタブレット化した。つづいて、図1に示すような接着性評価用リードフレーム(図1の3つのリードフレームは同一平面状で一体化している。)をトランスファー成型金型にセットし、上記タブレット化されたエポキシ樹脂組成物をトランスファー成型(175℃×60秒)、更に脱型後160℃×2時間+180℃×6時間の条件で硬化し、評価用試験片を得た。得られたリードフレーム付試験片を下記に示す様な試験方法で評価した。結果を表3に示す。
【0035】
<接着性試験方法>
図2に示すようにリードフレームの一部(5mm)が封止用エポキシ樹脂組成物3で封止されるように型枠を調整して、前記条件で硬化したのち、3つのリードフレームどうしをそれぞれ図2の切断部2で切断して試験片(図3)とした。得られた接着性評価用試験片を、図4のように封止された引き抜き部の両端(図3における係止部4)を治具5で固定し、引き抜き部を万能引っ張り試験機によりクロスヘッドスピード3mm/分にて引き抜く事により行った。尚この時の接着面積は74.25平方ミリメートルで、表中の数値単位はN/mmである。
【0036】
【表3】

【0037】
以上の結果により、本発明のエポキシ樹脂組成物はリードフレームとの接着性に優れており、特に半導体封止材に有効であり、半導体装置用途に有用であることがわかる。
【0038】
実施例11〜15、比較例6
表4の割合(重量部)の配合物を実施例1〜8と同様にして調製し、硬化して評価用試験片を得た。実施例1〜8と同様に評価した難燃性試験結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
(H3):フェノールアラルキル型フェノール樹脂(商品名:KAYAHARD GPH−65 日本化薬製 軟化点65℃ 水酸基当量199g/eq)
【0041】
表4より難燃性の高い硬化物を与える硬化剤として公知の硬化剤H3を使用した場合は、難燃性のレベルはV−0でほぼ同等であるが、残炎時間を比較すると、比較用のエポキシ樹脂組成物より本発明のエポキシ樹脂組成物のほうが短い。したがって、このことからも本発明のエポキシ樹脂組成物は、よりハロゲンやアンチモン化合物等の難燃剤を用いることなく、難燃性に優れた硬化物を与えることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】接着性評価用リードフレーム
【図2】接着性評価用試験片製造模式図
【図3】接着性評価用試験片
【図4】接着性評価試験模式図
【符号の説明】
【0043】
1:接着性評価用引き抜き部
2:切断部
3:半導体封止用樹脂組成物
4:係止部
5:治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂組成物において、以下の条件を有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物
(I)エポキシ樹脂はジシクロペンタジエンと、フェノールまたはクレゾールから選ばれる1種以上との重縮合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂(a)、および50℃で100Pa・s以下の粘度を有する常温液状のビスフェノール型エポキシ樹脂(b)を必須成分とする。
(II)エポキシ樹脂(a)とエポキシ樹脂(b)の重量比が0.5≦a/(a+b)<0.98である。
(III)無機充填剤を内割りで60〜95重量%含有する。
【請求項2】
エポキシ樹脂(b)が下記式(1)
【化1】

(式中、複数存在するRはそれぞれ独立して存在し、水素原子あるいはメチル基を表す。)で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物
【請求項3】
エポキシ樹脂(b)が下記式(2)
【化2】

(式中、Rは式(1)におけるのと同様の意味を表す。)で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂であって、その構造が下記に定義するオルソ配向とパラ配向の両者を示し、パラ配向の割合が80%以下(高速液体クロマトグラフィーのピーク面積%で比較)であるか、オルソ配向のみを示すエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物
オルソ配向:オキシグリシジル基またはその開環結合に対して、メチレン結合がオルソ位である結合
パラ配向 :オキシグリシジル基またはその開環結合に対して、メチレン結合がパラ位である結合
【請求項4】
硬化剤が、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂またはフェノールアラルキル樹脂から選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物
【請求項5】
無機充填剤の含有割合が75〜90重量%である請請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で半導体素子を封止した半導体装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−120815(P2009−120815A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235351(P2008−235351)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】