説明

エラストマー性封止物品の滅菌方法

本発明は、シリンジまたは医療用容器で使用されるブチルゴム/スチレンブタジエンゴム(SBR)物品の滅菌方法を提供するものであり、該方法は、ブチルゴム/SBRエラストマー性コポリマー製ゴム物品(ここで、SBRエラストマー性コポリマーは、組成物総重量を基準にして約5%から約50%のゴム組成物を含有する)を、ガンマ線を用いて照射するステップ;次いで、照射されたゴム組成物を、該ゴム組成物を滅菌するのに十分な時間滅菌ガスに曝露するステップを含む。照射され滅菌された本発明のゴム組成物は、封止性、応力からの回復性、および弾性に関して優れた性能基準を維持する能力がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容を参照により本明細書で援用する、2005年8月26日出願の米国特許仮出願第60/711,845号の特典を請求する。
【0002】
本発明は、シリンジおよびその他の医療用容器デバイスで使用される封止物品を、該物品を照射またはオートクレーブ処理することによって滅菌する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エラストマーは、医療用デバイスおよび医薬包装における多くの重要で不可欠な用途で使用される。材料の部類として、柔軟性、弾性、延伸性、および封止性など、それらの独特な特性は、カテーテル、シリンジチップ、薬剤瓶物品、注入部位、チューブ、手袋およびホースなどの製品に特に適していることが証明されている。医療用途では、典型的には、3種の基本的な合成熱硬化性エラストマー、すなわち、ポリイソプレンゴム、シリコーンゴム、およびブチルゴムが使用される。これら3種のゴムの中で、ブチルゴムは、その高清浄度、ならびにそのゴムが酸素および水に感受性のある薬剤を保護できる透過抵抗性のため、物品として最も一般的に選択されるゴムである。
【0004】
シリンジのプランジャーチップまたはピストンは、加硫ゴムがプランジャーとシリンジ内側ハウジングの間の封止を提供できるので、ブチルゴムなどの圧縮性があり弾力のある材料から作製される。シリンジプランジャーは、患者のケアおよび治療で使用されるその他の器具と同様、シリンジのプランジャーと外筒の間の緊密な封止を提供できる能力などの高い性能基準に合致しなければならない。
【0005】
医療用デバイスを滅菌して、細菌、酵母、カビおよびウイルスなどの生存微生物を除去するために、現在、多くの滅菌技術が利用できる。医療用デバイスに対して一般的に使用される滅菌技術には、オートクレーブ処理、エチレンオキシド(EtO)またはガンマ線照射、ならびに、低温気体プラズマおよび気相滅菌剤を含むより最近に導入されたシステムが含まれる。
【0006】
1つの一般的な滅菌技術は、水蒸気滅菌またはオートクレーブ処理であり、これは、デバイスを、例えば、約120kPaの圧力で120℃を超える温度の飽和水蒸気に少なくとも20分間曝露する、比較的単純な方法である(非特許文献1参照)。該方法は、微生物をそれらの複製に必須の代謝および構造成分を破壊することによって殺すための高い温度および圧力に耐えるように設計された圧力容器中で通常は実施される。オートクレーブ処理は、効率的で、信頼性があり、迅速で、比較的単純で、毒性のある残留物をもたらさない方法なので、耐熱性外科用器具および静脈注射用流体の滅菌に対して選択される方法である。しかし、オートクレーブ処理は、多くの生体医療用ポリマーの加水分解、軟化または分解につながり、機械的特性の許容し難い変化に至る場合がある(非特許文献2参照)。
【0007】
イオン化放射線の形態での放射線滅菌は、カテーテル、外科用品および緊急ケア用具などの医療用デバイスに対して病院内で一般的に使用される。ガンマ線照射は、放射線滅菌の最も一般的な形態であり、材料がオートクレーブ処理の高温に対して感受性ではあるがイオン化放射線と適合性がある場合に、典型的に使用される。ガンマ線照射の殺菌効果は、生物組織を酸化することによってその殺微生物効果を発揮し、かくして、単純、迅速、かつ効果的な滅菌方法を提供する。ガンマ線は、コバルト−60(60Co)同位体源、または機械で発生、加速した電子源に由来するものが使用される。滅菌すべき材料を、露出した60Co源の周囲を規定された時間移動させると、十分な曝露が達成される。医療用デバイスを滅菌するのに最も一般的に使用される確認済みの線量は、25kGyである(例えば、非特許文献1参照)。しかし、ガンマ線照射の使用には、高い資本出費、および若干の医用材料における脆化、変色、臭気発生、硬化、軟化、溶融温度の上昇または低下、および分子量の低下などの物理的変化を始めとするいくつかの不都合が存在する。
【0008】
それゆえ、広範な範囲の滅菌技術が利用可能であるにもかかわらず、単一の滅菌処理は、医療用デバイスで使用される材料と滅菌処理パラメーターの間の不適合性に主として起因する有害な影響なしに、すべての医療用デバイスを滅菌する能力はない。純ブチルゴム製のシリンジプランジャーチップは、有害な影響なしにオートクレーブ処理を行うことができるが、それらのチップは、特に応力を加えた条件下で放射線に安定ではなく、シリンジのプランジャーチップと内側ハウジングの間の封止に、シリンジ内容物の漏洩を引き起こす欠陥を生じさせる結果になる。
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,959,402号明細書
【特許文献2】米国特許第4,994,552号明細書
【非特許文献1】Booth,A.F.「Sterilization of Medical Devices」Buffalo Grove,Illinois:Interpharm Press,1999
【非特許文献2】Anderson,J.M.ら、「Implants and Devices」Biomaterials Science,eds.Ratner,B.D.ら、Academic Press:London,pp.415〜420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、滅菌処理に耐えかつ高い性能基準を維持できる組成物を使用するシリンジプランジャーチップなどの医療用デバイスのための滅菌方法を提供することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ゴム物品(該ゴム物品は、ブチルゴム、および組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーを含有する組成物から調製されたものである)を照射すること、ならびに該照射されたゴム物品を、該ゴム物品を滅菌するのに十分な時間滅菌ガスに曝露することを含むゴム物品の滅菌方法を提供する。
【0012】
本発明は、容器およびゴム蓋材(ここで、該ゴム蓋材は、ブチルゴムと組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーとの組成物を含むものである)を、該容器およびゴム蓋材を滅菌するのに十分な時間、滅菌ガスに曝露するのに先立って、該容器およびゴム蓋材を照射することを含む、組み立てられたまたは組み立てられていない容器とゴム蓋材の滅菌方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、容器に治療用流体または非治療用流体を充填すること、該容器にゴム蓋材(ここで、該ゴム蓋材は、ブチルゴムと組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーとの組成物を含む)を挿入すること、および充填済み容器を、該充填済み容器を滅菌するのに十分な時間、滅菌ガスに曝露するのに先立って、充填済み容器を照射することを含む、充填済み容器の滅菌方法を提供する。
【0014】
さらになお、本発明は、ブチルゴムと組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーとの組成物を調製することを含む(該ゴム組成物は、照射に先立って架橋される)ゴム物品およびゴム蓋材を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、例えば医療用容器のためのストッパーまたはシリンジプランジャーチップとして使用できるゴム物品の改善された滅菌方法を提供する。該方法は、ゴム物品(該ゴム物品は、ブチルゴムおよび組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーを含有する組成物から調製されたものである)をイオン化放射線で照射するステップ、次いで照射されたゴム物品を、該ゴム物品を滅菌するのに十分な時間滅菌ガスに曝露するステップを含む。組み立てられたまたは組み立てられていない容器とゴム物品、あるいはこのようなゴム物品を含む充填済み容器は、同様の方法で滅菌できる。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「組み立てられた」容器とゴム物品とは、その中にゴム物品が挿入されている容器を指す。
【0017】
本発明の滅菌されたゴム物品または蓋材の適切な用途には、限定はされないが、シリンジプランジャーチップで使用されるようなストッパー、または医療用真空採血容器の開口部を閉じるのに使用される蓋材が含まれる。
【0018】
ゴム物品は、少なくとも1種のブチルゴムおよび少なくとも1種のエラストマー性ポリマーから調製される。本発明の方法で有用な適切なブチルゴムには、イソブチレン(約97〜98%)とイソプレン(約2〜3%)とのコポリマーが含まれる。ブチルゴムは、塩素または臭素でハロゲン化されていてもよい。適切な加硫ブチルゴムは、良好な摩擦抵抗性、気体に対する優れた不浸透性、高い比誘電率、老化および日光に対する優れた耐性、ならびにそれから形成される物品に対する優れた衝撃吸収および振動減衰特性を提供できる。
【0019】
本発明で使用できるエラストマー性コポリマーには、限定はされないが、スチレン−ブタジエン(SBRまたはSBS)コポリマー、スチレン−イソプレン(SIS)ブロックポリマーまたはスチレン−イソプレン/ブタジエン(SIBS)などのスチレンコポリマーが含まれ、スチレンブロックコポリマー中のスチレン含有量は、約10%から約70%、好ましくは約20%から約50%の範囲である。
【0020】
一般に、スチレンブロックコポリマー(SBC)は、少なくとも3種のブロック、すなわち、2種の硬質ポリスチレン末端ブロック、および1種の軟質エラストマー性(部分的に水素化されたまたはされていないポリブタジエン、ポリイソプレン)中間ブロックからなる。一般に、硬質および軟質ブロックは、非混和性であり、その結果、顕微鏡的スケールで、ポリスチレンブロックは、ゴムマトリックス中で別個の領域を形成し、それによって、ゴム中に物理的架橋を提供する。
【0021】
適切なSBCは、開始剤としてブチルリチウムなどの有機金属触媒を用いるアニオン性リビング重合などの、当業者に周知の任意の適切な方法によって調製できる。SBCの分子量は、典型的には、約100,000から300,000g/モルの範囲である。
【0022】
非極性媒体中での、典型的な開始剤濃度およびポリマー分子量の場合の非限定的例において、SBC中間ブロックの微小構造は、ほぼ次の通り、すなわち、ブタジエン中間ブロックは、35%のcis−1,4、55%のtrans−1,4、および9%の1,2(ビニル)挿入物を有し、イソプレン中間ブロックは、70%のcis−1,4、25%のtrans−1,4、および5%の1,2または3,4(ビニル)挿入物を有する。
【0023】
ポリジエン中間ブロック中に二重結合が存在するため、SBSおよびSISの双方は、熱および酸化分解に弱いことがある。分解は、典型的には、ポリブタジエンの場合、架橋により、ポリイソプレンの場合、鎖切断により発生する。中間ブロックを選択的に水素化することによって、SBCは、実質的により安定になる場合がある。本発明のエラストマー性コポリマーの熱−酸化安定性、UV安定性および/または引張強度を改善するために、コポリマーを、少なくとも部分的に水素化、すなわち、ポリジエン中間ブロック二重結合の約10%から約90%を水素化することができる。
【0024】
本発明のゴム組成物の架橋は、限定はされないが、例えば、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−クミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンもしくは−ヘキシン−3、t−ブチル−ペルオキシイソプロピルカルボナート、ベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,2’−ジ−t−ブチル−ペルオキシブタン、ジ−イソブチルペルオキシド、3−ベンゾイルペルオキシ−3−メチルブチルトリエチルシラン、ペルトリメリット酸トリ−t−ブチルエステル、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)−ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルペルオキシド、ペルオキシ安息香酸t−ブチル、または2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサンなどの適切な架橋剤を使用して実施できる。
【0025】
本発明のゴム組成物中における架橋剤の比率は、組成物総重量を基準にして約0.5重量%から約5重量%の範囲でよい。
【0026】
理論によって拘束されるものではないが、本発明のゴム組成物をガンマ線照射する最終処理ステップは、それに先立つゴム組成物の化学的架橋を最大限に利用すると考えられる。
【0027】
さらに、本発明のゴム組成物は、限定はされないが、ゴム組成物の安定性を保つための酸化防止剤および/または無機補強剤を含むことができる。
【0028】
適切な酸化防止剤は、限定されるものではないが、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸n−オクタデシル、またはテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチレン]メタンを、組成物総重量を基準にして約0.05重量%から約1重量%の範囲の比率で含む。酸化防止剤は自動酸化の分解過程を妨害する能力があるので、本発明のゴム組成物に対して1種または複数の酸化防止剤を添加することが望ましい。自動酸化は、熱、光、機械的応力、触媒残渣、または不純物との反応によって開始され、本発明のゴム組成物のような有機材料の変色、粘度変化、炭化物形成、および/または分解を生じさせる。
【0029】
本発明のゴム組成物中に添加できる適切な無機補強剤は、限定はされないが、例えば、シリカ型の充填剤、粘土、または酸化チタンを含むことができ、これらは、ゴム組成物を架橋する際の熱伝導度および電気伝導度を改善して、ゴム組成物の均一な架橋および変形の防止をもたらすために使用される。ゴム組成物に添加される無機補強剤の量は、組成物総重量を基準にして約3重量%から約7重量%の範囲でよい。
【0030】
本発明のゴム組成物に添加できる適切な有機補強剤は、限定はされないが、例えば、超高分子量ポリエチレン粉末、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリブタジエン(BR)、1,2−結合スチレン−ブタジエン(SBR)、またはポリスルホン型樹脂を組成物総重量を基準にして約20重量%から約30重量%の範囲の比率で含むことができる。
【0031】
本発明の照射され滅菌されたゴム物品は、滅菌に先立って照射されていない類似の滅菌されたゴム組成物に比較して、封止性、応力からの回復性、および弾性に関する優れた性能基準を維持できる能力がある。
【0032】
本発明の目的の場合、容器には、限定はされないが、各種の医療用デバイスおよび製品、シリンジ、バイアル瓶、真空採血チューブ、カートリッジ、ボトル、および媒体、特に流動性媒体を入れるための種々の大きさおよび形状のその他の容器が含まれることを意味する。容器は、再利用可能または使い捨てでよく、医療的、獣医学的、または非医療的目的を有することができる。本発明は、特にシリンジを対象とする。
【0033】
本発明の方法により使用できる適切な滅菌ガスには、限定はされないが、水蒸気またはエチレンオキシドが含まれる。
【0034】
本発明で使用できる適切な容器には、限定はされないが、放射線に安定であり、すなわち照射を受けた場合に、強度、漏洩、ガス透過性、および色などの特性に関するそれらの健全性を維持できる容器が含まれる。このことは、本来的に放射線に安定である、または該ポリマーに放射線安定性を付与するための添加剤を含むポリオレフィン組成物から容器を構成することによって達成できる。例えば、容器は、イオン化放射線に曝露した場合に本来的に安定であると考えられる環状オレフィンコポリマー(COC)から構成できる。
【0035】
より望ましくは、容器は、容器の放射線安定性に寄与する移動性添加剤などの、容器に対して放射線安定性を付与する放射線安定化添加剤を含むポリオレフィン組成物から構成できる。特に有用なのは、その双方ともBecton,Dickinson and Companyに譲渡され、その双方とも参照によりそれらの全体で本明細書に援用される特許文献1および特許文献2により調製される放射線に安定なポリマー組成物である。
【0036】
本発明の容器内に事前に充填される媒体は、フラッシュ溶液、造影剤、医薬、またはワクチンなどの材料を始めとする治療用流体または非治療用流体でよい。例えば、媒体は、生理食塩水溶液でよく、あるいは身体に対する非経口投与用の薬物でよい。媒体は、本発明の方法により充填済み容器を照射した後に、約4.5〜約7.0のpH、220〜340nmの波長で約0.2未満の紫外吸光度、および約3.4ppm未満の酸化性物質などの、薬局方が求める範囲内の具体的特性を維持すべきである。
【0037】
本発明の方法において、ゴム物品は、未充填または充填済み容器と場合によっては組み合わせて、イオン化放射線に曝露される。本発明のゴム組成物、容器および/または充填済み容器を処理するのに使用されるイオン化放射線としては、限定はされないが、コバルト60などの任意の周知ガンマ放射線デバイスを使用するガンマ線照射を挙げることができる。ガンマ放射線の線量は、存在する物体の量により左右され、したがって、約10kGyから約60kGy、好ましくは約35から55kGyの範囲でよい。
【0038】
充填済み容器の場合には、容器は、充填後の任意の時点で照射できる。望ましくは、容器を、媒体で満たした後に密閉し、その後に照射する。特に好ましい実施形態では、当技術分野で周知のように、医療用デバイスを個別容器またはブリスターパックなどの包装材内に包装する。このような場合、ガンマ線照射は、最終包装材内に入れた後のデバイスに対して実施できる。
【0039】
本発明の方法では、照射されたゴム物品、容器および/または充填済み容器を、物品、容器または充填済み容器を滅菌するのに十分なオートクレーブ装置などの滅菌装置内で滅菌ガスに曝露する。時間は、約30から40分の範囲でよく、水蒸気温度は少なくとも120℃であるが、約120℃から約130℃の範囲でよく、オートクレーブの内圧は約15psi(103.4kPa)から約30psi(206.8kPa)の範囲でよい。本発明の方法により使用できる適切なオートクレーブ装置には、限定はされないが、Alfa Medical製のVernitron2000Mオートクレーブが含まれる。
【0040】
本発明のゴム物品を滅菌に先立って本明細書で提供される方法により照射することの利点には、ゴム物品の歪み率を維持すること、および時間経過に伴う漏洩を防止することが含まれる。
【0041】
本明細書中で使用される場合、表現「歪み率」は、本発明で使用されるゴム組成物の封止性、応力からの回復性、および弾性の度合いを指すことを意味する。詳細には、材料の歪み率は、互いにばらばらに分離した後のエラストマーの変形を定量化し、すなわち、歪み率が大きいほど、材料の封止性、応力からの回復性、および弾性が大きい。
【0042】
本発明を、次の実施例中でより詳細に説明するが、その中での無数の修正および変形は当業者にとって明らかであるので、該実施例は、単に例示であると解釈される。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
実施例1では、歪み測定試験によって判定した場合の、事前照射処理を伴うまたは伴わない本発明によるブチルゴム/SBR製シリンジストッパーのオートクレーブ処理の利用可能性を立証する比較に基づく実施例を示す。試験目的は、シリンジにおける封止度を、ストッパー−外筒の干渉、すなわち、ストッパーとシリンジ外筒内壁との間の物理的接触によって生じる摩擦力の度合いの関数として定量化すること、ならびに組み立て前の歪み率および時間経過に伴う歪み率の低下を測定すること、次いでこれらの測定値をストッパー漏洩試験の結果と相互に関連させることによって、シリンジがその貯蔵寿命の間封止を維持する能力を判定することである。
【0044】
それぞれ10個のゴムストッパー、10mLシリンジの外筒、およびプランジャーロッドからなるセットを次群のそれぞれのために準備した。
群1:対照群−照射またはオートクレーブ滅菌を受けていない、ブロモブチルゴムとスチレン−ブタジエンコポリマーから調製したシリンジおよびストッパー(Helvoet Pharma製)、
群2:オートクレーブ滅菌のみ、および
群3:オートクレーブ滅菌に先立って本発明の方法により照射
また、Micro−Vu測定装置、ダイアルボアゲージ、シリンジのプランジャーを保持するためのストッパー保持ピン、およびシリンジ外筒を保持するためのv−ブロックを準備した。
【0045】
群2は、その中に本発明によるストッパーを有する充填シリンジからなる。群3では、未充填シリンジおよびストッパーに対して40〜45kGyの線量でのガンマ線照射を使用して照射を実施し、その後、シリンジに充填し、ストッパーを挿入した。次いで、群2および3のシリンジおよびストッパーを122℃で30分間オートクレーブ処理を行った。
【0046】
シリンジ外筒にストッパーを挿入するに先立って、ストッパー外径(OD)を、光学コンパレーターを使用してフロントリブを横切って2つの90°面で測定し、ストッパーを、ストッパー保持ピン上に置かれたネジ込みプランジャーロッド上に配置し、シリンジ外筒の内径(ID)を、ダイアルボアゲージを用い2つの90°面で測定した。
【0047】
2回の歪み試験測定、すなわち、群2および3をオートクレーブ処理した直後の初期試験(時刻0)、および12週間後の2回目試験を実施した。
【0048】
材料のパーセント歪みを計算するために、平均のストッパーODおよび外筒IDを次式
平均=(0°測定値+90°測定値)/2
を使用して計算した。
【0049】
各シリンジの干渉(摩擦力)および歪み率を次式
干渉=ストッパーOD−外筒ID
%歪み=(干渉/ストッパーOD)×100
を使用して計算した。
【0050】
この試験の結果を表1に示す。データは、時刻0で、パーセント歪みは、オートクレーブ処理だけのストッパー(群2)について0.35%、オートクレーブ処理に先立って本発明による照射処理に付したストッパー(群3)について0.92%、および対照ストッパー(照射およびオートクレーブ滅菌なし)について2.91%であったことを示している。したがって、対照と比較して、オートクレーブだけで処理したストッパーは、歪み率の88%の低下を示した。ストッパーをオートクレーブ処理に先だって照射した場合、対照と比較した歪み率の低下は68%であった。したがって、群2および群3の双方とも、対照群と比較した場合に歪み率の低下を示したが、オートクレーブ処理に先立って照射したゴムストッパーは、オートクレーブ処理に先立って照射しなかったゴムストッパーに比較して20%少ない歪み率の減少を示した。
【0051】
オートクレーブ処理の12週間後、パーセント歪みは、オートクレーブ処理だけのストッパー(群2)について0.65%、オートクレーブ処理に先立って照射したストッパー(群3)について0.96%であり、オートクレーブで処理しただけのストッパーについては対照に比較して78%の歪み率の低下、オートクレーブ処理に先だって照射処理に付したストッパーについては対照に比較して67%の歪み率の低下であった。したがって、オートクレーブ処理の12週間後に、群2および群3のゴムストッパーが示す歪み率は、時刻0で測定したそれらの初期値から、それぞれ46%および1%だけ増加した。
【0052】
この試験は、オートクレーブ滅菌に先立つ照射処理が、本発明のブチルゴム/SBR組成物製ゴムストッパーの封止性、応力からの回復性、および弾性を保持することに対して実質的な影響を与えたことを立証している。
【0053】
(実施例2)
実施例2では、ハンドブレークルーズ(Hand Breakloose)試験によって判定した場合の、事前照射処理を伴うまたは伴わない本発明によるブチルゴム/SBR製シリンジストッパーのオートクレーブ処理の利用可能性を立証する比較に基づく実施例を示す。この試験は、ブチルゴム/SBRストッパーの封止材特性を試験するために実施した。
【0054】
それぞれ70個のゴムストッパー、10mLシリンジの外筒およびプランジャーロッドからなるセットを上記実施例1で説明した3群のそれぞれのために準備した。
【0055】
試験は、ゴムストッパーのシールがそのまま完全に残るか、あるいは外れてしまうかを判定するために、シリンジの外筒チップを上方に向けてプランジャーロッドに対して手で前方に僅かな圧力を印加することからなる。
【0056】
この試験の結果を下表1に示す。データは、時刻0で、オートクレーブ処理のみを行ったゴムストッパー(群2)、およびオートクレーブ処理に先立って照射したゴムストッパー(群3)のすべてが、人力での圧力に応じたゴムストッパーの脱落なしに、それらの封止材特性を維持できたことを示す。しかし、オートクレーブ処理の12週間後、群2(オートクレーブ処理のみ)からのそれらのストッパーは、70分の38の不合格率を有し、一方、群3(オートクレーブ滅菌に先立って照射)からのそれらのストッパーは、不合格率が0であり、したがってそれらの封止材特性を維持した。
【0057】
この試験は、オートクレーブ処理に先立って照射したそれらのストッパーは、オートクレーブ滅菌の12週間後に、それらの封止材特性を維持することができ、一方、オートクレーブ処理のみを行ったストッパーの半分以上が、12週間後にそれらの封止材特性を失ったことを立証している。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、加圧漏洩試験によって判定した場合の、事前照射処理を伴うまたは伴わない本発明によるブチルゴム/SBR製シリンジストッパーのオートクレーブ処理の利用可能性を立証する比較に基づく実施例を示す。この試験は、組み立てた充填済みシリンジのゴムストッパーシールを通過する流体漏洩について試験するために実施した。
【0059】
それぞれ70個のゴムストッパー、10mLシリンジの外筒およびプランジャーロッドからなるセットを上記実施例1で説明した3群のそれぞれについて準備した。
【0060】
また、B−D/ISO加圧装置(当業者に周知であり、物体に対して指定の圧力をかけるのに一般的に使用され、国際標準化機構の基準により作動される装置)、圧力タンク、調整器およびゲージを備えた空気圧ライン、錘、および脱イオン水を準備した。
【0061】
充填済みシリンジを、試験に先立ってゴムストッパーリブ間の流体について検査した。検査は、良好な照明条件下に肉眼で約18インチの位置で実施した。
【0062】
時刻0で、ゴムストッパーシールを外し(前の「ブレークルーズ」試験で説明したように)、外筒を指で穏やかにタッピングしてゴムストッパー表面からすべての空気泡を追い出した。次いで、シリンジを、ストッパーリブ間の流体について調べた。ストッパー漏洩を有するシリンジは、いずれも漏洩試験を行わなかった。ストッパーの封止リブを最大容積尺度の読みに合わせ、プランジャーロッドを、末端から眺めてリブが「+」ではなく「X」を形成するようにリブの方向を修正し、シリンジの軸位置に対してプランジャーロッドの最大の歪みを達成した。プランジャーロッドの親指加圧端に側面荷重錘を吊り下げた。シリンジを次のように、すなわち、側面荷重圧力を3ニュートン、側面荷重錘を306g、および内圧を300kPAまたは43.5psiで加圧した。圧力を30秒間保持した。シリンジを加圧し錘を吊り下げた場合に最大尺度容積にゴムストッパーフロントリブの末端を配置した。試験中、空気泡がストッパー面と接触していないことに注意した。
【0063】
試験されるシリンジを、ゴムストッパーシールを通過した流体漏洩について、ゴムストッパーの最初のリブで検査した。シリンジを加圧装置から取り外し、チップキャップを取り替えた。シール領域中の異物または損傷したゴムストッパーなど、不合格の原因を確定するために、試験に不合格であったすべてのシリンジを調査した。
【0064】
この試験の結果を下表1に示す。データは、時刻0で、オートクレーブ処理のみを行ったゴムストッパー(群2)、およびオートクレーブ処理に先立って照射したゴムストッパー(群3)のすべてが、試験に合格し、流体はゴムストッパーシールを通過して漏洩しなかったことを示す。しかし、オートクレーブ処理の12週間後に、群2(オートクレーブ処理のみ)からの70個のストッパー中15個は、流体がストッパーシールを通過して漏洩し、一方、群3(オートクレーブ滅菌に先立って照射)からのストッパーは、どれも流体を漏洩しなかった。
【0065】
この試験は、ハンドブレークルーズ試験と同様、オートクレーブ処理に先立って照射したゴムストッパーは、オートクレーブ滅菌の12週後にそれらの封止を維持することができ、一方、オートクレーブのみで処理したストッパーの中の21%は、12週間後にそれらの封止材特性を失うことを立証した。
【0066】
(実施例4)
実施例4では、染料漏洩試験によって判定した場合の、事前照射処理を伴うまたは伴わない本発明によるブチルゴム/SBR製シリンジストッパーのオートクレーブ処理の利用可能性を立証する比較に基づく実施例を示す。この試験は、シリンジサンプルの外筒とチップキャップの界面での封止を試験するために実施した。
【0067】
それぞれ70個のゴムストッパー、10mLシリンジの外筒およびプランジャーロッドからなるセットを上記実施例1で説明した3群のそれぞれに対して準備した。また、メチルブルー染料(0.1%)、真空ポンプおよび圧力ゲージを取り付けた鐘状ジャーを準備した。
【0068】
鐘状ジャーを、シリンジ外筒を完全に覆うに十分なメチルブルー染料で満たした。空のシリンジ外筒の内径部にワイヤーを挿入した。すべての過剰な空気を逃がすことを可能にするワイヤーを用いて排気することによって、外筒中にフランジから4分の3下がってゴムストッパーを挿入した。次いで、シリンジ外筒からワイヤーを取り出した。シリンジを鐘状ジャーに入れ、シリンジが、すべて、メチルブルー染料中に完全に沈んでいることを確かめた。鐘状ジャーを75kPa±5kPa(26.3kPa、3.8psi、または水銀柱7.7インチの真空に相当)の残圧まで排気し、その圧力を30分間維持した。次いで真空チャンバーを大気圧に戻し、30分間維持した。次いで、染料溶液から洗い流さないでシリンジを取り出した。シリンジを紙タオルで注意して軽く押さえ、滴り落ちる染料をすべて除去した。チップキャップを動かさないようにまたは外さないように注意した。外筒の内部を、染料のすべての痕跡について眼で見て調べた。外筒の内部に染料が観察されたら、不合格と書き留めた。シリンジを140°F(60℃)のオーブン中、一晩から24時間乾燥させた。乾燥後、チップキャップを注意しながらネジを回して取り外し、外筒のテーパー部およびチップキャップの内径部を染料のすべての痕跡について調べた。外筒のテーパー部および/またはチップキャップの内径部に染料を観察したら不合格とした。
【0069】
この試験の結果を下表1に示す。データは、時刻0およびオートクレーブ滅菌の12週間後に、すべてのサンプルが、試験に合格し、群2または群3からのシリンジ外筒の外筒テーパー部またはチップキャップ内径部のいずれも、染料漏洩のいかなる痕跡も示さなかったことを示している。
【0070】
この試験は、すべてのゴムストッパーが、オートクレーブ滅菌の直後および12週間後に、シリンジ外筒とシリンジのチップキャップとの界面で良好な封止材特性を有したことを立証している。
【0071】
【表1】

【0072】
本発明をその特定の実施形態の具体的な詳細を参照して説明してきた。このような詳細は、それらが付随の特許請求の範囲に包含される程度の範囲を除いて、本発明の範囲に対する限定とみなされることを意味しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム物品の滅菌方法であって、
a)ブチルゴムおよび組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーを含有する組成物から調製されるゴム物品を照射するステップ、ならびに
b)照射された該ゴム物品を、該ゴム物品を滅菌するのに十分な時間、滅菌ガスに曝露するステップ、
を含むことを特徴とする滅菌方法。
【請求項2】
容器の滅菌方法であって、
a)組み立てられた又は組み立てられていない容器本体、およびブチルゴムおよび組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーを含有する組成物から調製されたゴム蓋材を含む容器を照射するステップ、ならびに
b)照射された該容器およびゴム蓋材を、該容器およびゴム蓋材を滅菌するのに十分な時間、滅菌ガスに曝露するステップ、
を含むことを特徴とする滅菌方法。
【請求項3】
充填済み容器の滅菌方法であって、
a)容器本体、ブチルゴムおよび組成物総重量を基準にして約5重量%から約50重量%のエラストマー性コポリマーを含有する組成物から調製されたゴム蓋材、およびその中に含まれた流動性媒体を含む充填済み容器を照射するステップ、ならびに
b)照射された該充填済み容器を、該充填済み容器を滅菌するのに十分な時間、滅菌ガスに曝露するステップ、
を含むことを特徴とする滅菌方法。
【請求項4】
前記ゴム物品は、ゴム蓋材であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ゴム物品は、ストッパーであることを特徴とする請求項1または4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ゴム物品は、シリンジチップストッパーであることを特徴とする請求項1または4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ブチルゴムは、ブロモブチルゴムおよびクロロブチルゴムからなる群から選択されることを特徴とする請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項8】
前記エラストマー性コポリマーは、スチレン−ブタジエンコポリマー(SBS)、スチレン−イソプレンコポリマー(SIS)、およびスチレン−イソプレン/ブタジエンコポリマー(SIBS)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項9】
前記エラストマー性コポリマーは、スチレン−ブタジエンコポリマーであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項10】
前記スチレン−ブタジエンコポリマー中のスチレンの百分率は、コポリマーの総重量を基準にして約20%から約50%の範囲であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記スチレン−ブタジエンコポリマーは、部分的に水素化されていることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は、架橋剤をさらに含有することを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
照射に先立って前記組成物を化学的に架橋するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記組成物は、酸化防止剤および無機補強剤からなる群から選択される少なくとも1種の配合剤をさらに含有することを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記滅菌ガスは、水蒸気およびエチレンオキシドからなる群から選択されることを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記滅菌ガスは、水蒸気であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
照射された前記ゴム物品が前記滅菌ガスに曝露される前記時間は、約30から約40分の範囲であることを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記滅菌ガスの温度は、約120℃から約130℃の範囲であることを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
ステップ(b)において、照射された前記ゴム組成物は、約15psi(103.4kPa)から約30psi(206.8kPa)の圧力で前記滅菌ガスに曝露されることを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記滅菌ガスは、少なくとも約120℃の温度であり、かつ照射された前記ゴム組成物は、約15psi(103.4kPa)の圧力の滅菌ガスに、少なくとも約30分間曝露されることを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記イオン化放射線は、ガンマ放射線であることを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記ゴム組成物は、約10kGyから約60kGyの範囲の線量で照射されることを特徴とする請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2009−505741(P2009−505741A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528114(P2008−528114)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/032930
【国際公開番号】WO2007/024957
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】