説明

エレベータの荷重検出装置の調整方法ならびにエレベータ監視装置

【課題】かご内が無負荷状態であるか否かを識別できてゼロ点調整を正確に行うことが容易なエレベータの荷重検出装置の調整方法と、かかるゼロ点調整を実施するうえで好適なエレベータ監視装置とを提供すること。
【解決手段】エレベータ監視装置15の制御部13は、エレベータ制御装置11に指令を与えて、ブレーキ開放状態でかご2とカウンターウェイト3とが釣り合うときのモータ4のトルク値を取得すると共に、この取得トルク値を、過去にかご2を無負荷状態にしてカウンターウェイト3と釣り合わせたときに計測済みで記憶部12に記憶されているモータトルクの値(基準トルク値)と比較する。そして、取得トルク値が基準トルク値と同等の場合、制御部13は、かご2内が無負荷状態であるものと判定して、荷重検出装置6のゼロ点調整を実施させる指令をエレベータ制御装置11に与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのかご内の積載荷重を計測する荷重検出装置の調整方法と、該荷重検出装置の調整処理が可能なエレベータ監視装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、つるべ式と称されるエレベータは、綱車に巻き掛けられた主ロープの両端にかごとカウンターウェイトを吊り下げており、ブレーキを備えたモータで綱車を回転させることによってかごが昇降するようになっている。カウンターウェイトの重量は、かご内の荷重状態が定格積載荷重の50%(45%の場合もある)のときに釣り合うように設定されている。かごには、かご内の積載荷重を計測する荷重検出装置が設けられており、この荷重検出装置が検出した荷重データの信号はエレベータ制御部に入力される。そして、エレベータ制御部がかご内の荷重状態に応じたモータトルクを発生させるための信号を作成してモータを制御するため、かご内の荷重状態に拘らず常に良好な乗り心地が維持できるようになっている。
【0003】
しかしながら、エレベータのかごに設けられている荷重検出装置は、経年変化によって伸縮特性が変化するため、適切な調整を行わないと次第に正しい積載荷重を検出できなくなってしまう。そこで従来より、経年変化によって変動した荷重検出装置の出力値を補正する調整処理を定期的に実施することが必要とされている。かかる調整処理は「ゼロ点調整」と称され、かご内が無負荷状態のときに、荷重検出装置の出力値を過去のデータと比較するなどして補正するという手法が一般的であった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−168434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した荷重検出装置のゼロ点調整は、保守作業員がわざわざ現地へ出向いて調整作業を行わなくても、エレベータ監視装置からの指令信号によって自動的に実施することが可能である。すなわち、エレベータが一定時間利用されていないときに、かご内が無負荷状態であると判定して、荷重検出装置の出力値などに基づきゼロ点調整を行うことが可能なため、調整に伴う労力や費用を大幅に削減できる。しかるに、ゼロ点調整を実施する場合、かご内が無負荷状態であるか否かを正確に把握できないという問題があった。すなわち、エレベータが一定時間利用されていなくても、かご内に乗客や物品等が存する可能性があり、その場合、かご内を無負荷状態と判定してしまうと誤った補正が実施されることになる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、かご内が無負荷状態であるか否かを識別できてゼロ点調整を正確に行うことが容易なエレベータの荷重検出装置の調整方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、荷重検出装置のゼロ点調整が容易かつ正確に行えるエレベータ監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の第1の目的を達成するために、本発明は、モータによって回転駆動される綱車に主ロープが巻き掛けられ、この主ロープの両端にかごとカウンターウェイトが吊り下げられているエレベータで、前記かご内の積載荷重を計測する荷重検出装置のゼロ点調整を行う調整方法において、前記モータのブレーキを開放した状態で、前記かごと前記カウンターウェイトとが釣り合うように制御した前記モータのトルク値を取得すると共に、この取得トルク値を、過去に前記かごを無負荷状態にして前記カウンターウェイトと釣り合わせたときに計測済みの前記モータのトルク値と比較することによって、前記かご内が無負荷状態であるか否かを判定し、無負荷状態と判定された場合に前記ゼロ点調整を行うようにした。
【0008】
このようにモータのブレーキを開放した状態でかごとカウンターウェイトとが釣り合うように制御したモータのトルク値を取得すれば、この取得トルク値に基づいて、かご内が無負荷状態であるか否かを正確に判定することができる。すなわち、無負荷状態のかごとカウンターウェイトとを釣り合わせるために必要なモータトルクは、エレベータが設置された初期段階などに基準トルク値として計測されているので、前記取得トルク値が基準トルク値と同等であれば、かご内が無負荷状態であるものと判定でき、同等でなければかご内に乗客や物品等が存する負荷状態であるものと判定できる。それゆえ、無負荷状態が前提となる荷重検出装置のゼロ点調整を容易かつ正確に行うことができる。
【0009】
上記の調整方法において、モータのブレーキを開放する前の制動状態のときに、荷重検出装置の出力値に基づく不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生させておくと、不平衡荷重を検出した理由がかご内に乗客や物品が存するためであっても、あるいは無負荷状態を荷重検出装置が正しく検出していないためであっても、ブレーキを開放したときにかごが勢い良く動き出す虞がなくなるため好ましい。
【0010】
また、上記の第2の目的を達成するために、本発明は、エレベータ制御装置に制御されるモータが綱車を回転駆動すると共に、この綱車に巻き掛けられた主ロープの両端にかごとカウンターウェイトが吊り下げられているエレベータの前記エレベータ制御装置を介して、前記かご内の積載荷重を計測する荷重検出装置のゼロ点調整を行うことが可能なエレベータ監視装置において、過去に前記かごを無負荷状態にして前記カウンターウェイトと釣り合わせたときに計測済みの前記モータのトルク値を基準トルク値として記憶する記憶部と、前記モータのブレーキを開放した状態で前記かごと前記カウンターウェイトとが釣り合うように該モータを制御する指令を前記エレベータ制御装置に与えて、この釣合い状態で該モータのトルク値を該エレベータ制御装置から取得する制御部とを備え、前記制御部が、前記取得トルク値を前記基準トルク値と比較することによって前記かご内が無負荷状態であるか否かを判定し、無負荷状態と判定した場合に前記ゼロ点調整を実施させる指令を前記エレベータ制御装置に与えるように構成した。
【0011】
このように構成されたエレベータ監視装置では、エレベータ制御装置に指令を与えて、ブレーキ開放状態でかごとカウンターウェイトとが釣り合うときのモータのトルク値を取得すると共に、この取得トルク値を、エレベータが設置された初期段階などに計測されて記憶部に記憶されている無負荷時のモータトルク(基準トルク値)と比較するので、かご内が無負荷状態であるか否かを正確に判定することができる。すなわち、エレベータが一定時間利用されていないときに、前記取得トルク値が前記基準トルク値と同等であれば、かご内が無負荷状態であるものと判定でき、同等でなければ、かご内に乗客や物品等が存する負荷状態であるものと判定できる。それゆえ、無負荷状態が前提となる荷重検出装置のゼロ点調整を容易かつ正確に行うことができる。
【0012】
上記のエレベータ監視装置において、モータのブレーキを開放する前の制動状態のときに、制御部がエレベータ制御装置に指令を与えて、荷重検出装置の出力値に基づく不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生させるようにしてあると、不平衡荷重を検出した理由がかご内に乗客や物品が存するためであっても、あるいは無負荷状態を荷重検出装置が正しく検出していないためであっても、ブレーキを開放したときにかごが勢い良く動き出す虞がなくなるため好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエレベータの荷重検出装置の調整方法によれば、ブレーキ開放状態でかごとカウンターウェイトとが釣り合うときのモータのトルク値を、過去にかごを無負荷状態にしてカウンターウェイトと釣り合わせたときに計測済みのモータのトルク値と比較するので、かご内が無負荷状態であるか否かを正確に判定することができ、無負荷状態が前提となる荷重検出装置のゼロ点調整を容易かつ正確に行うことができる。
【0014】
また、本発明のエレベータ監視装置によれば、エレベータ制御装置に荷重検出装置のゼロ点調整を実施させる指令を与える制御部が、ブレーキ開放状態でかごとカウンターウェイトとが釣り合うときのモータのトルク値を取得すると共に、この取得トルク値を、過去にかごを無負荷状態にしてカウンターウェイトと釣り合わせたときに計測済みのモータのトルク値(基準トルク値)と比較するので、かご内が無負荷状態であるか否かを正確に判定することができ、無負荷状態が前提となる荷重検出装置のゼロ点調整を容易かつ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態例に係るエレベータの制御システムを示す説明図である。
【図2】図1の荷重検出装置のゼロ点調整が必要かつ実施可能であるか否かを判定する際の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】該荷重検出装置の出力特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態例について図面を参照しながら説明する。図1に示すエレベータは、主ロープ1の一端にかご2が吊り下げられ、他端にカウンターウェイト3が吊り下げられている。主ロープ1は綱車5とそらせ車51に巻き掛けられており、ブレーキと一体構造のモータ4が綱車5を回転駆動することによって、かご2が昇降するようになっている。かご2には、かご2内の積載荷重を計測するための荷重検出装置6が設けられている。また、かご2の速度は速度検出器7によって検出される。
【0017】
モータ4はエレベータ制御装置11によって制御され、このエレベータ制御装置11にはトルク発生部8とエレベータ制御部9および送受信部10とが設けられている。トルク発生部8は、モータ4に電力を供給してモータトルクを発生させる。エレベータ制御部9は、トルク発生部8やモータ4のブレーキに制御信号を与えてかご2の走行や制動を制御する。送受信部10は、エレベータ監視装置15からの指令を受信すると共に、該指令に基づきエレベータ制御部9が取得した情報を該監視装置15に送信する。
【0018】
エレベータ監視装置15はエレベータの動作状態を監視しており、このエレベータ監視装置15には記憶部12と制御部13および送受信部14とが設けられている。記憶部12には監視対象のエレベータに関する各種の情報が記憶されており、例えば、荷重検出装置6の調整処理を行うためのコンピュータプログラムも記憶部12に格納されている。制御部13は、エレベータ制御装置11のエレベータ制御部9に対する制御を行う。送受信部14は、エレベータ制御装置11の送受信部10に対して信号を送信したり、該送受信部10からの信号を受信する。
【0019】
次に、図2のフローチャートを参照しながら、本実施形態例における荷重検出装置6の調整処理方法について説明する。この調整処理は、エレベータ監視装置15に対して所定の操作を施して、該監視装置15の動作モードを調整処理モードに設定することによって開始される。調整処理モードに設定されたエレベータ監視装置15は、荷重検出装置6のゼロ点調整が必要かつ実施可能な場合にこれを行うように、図2に示す一連の処理を行う。なお、前記所定の操作としては、例えば、保守作業者が携帯する携帯端末をエレベータ監視装置15に接続して、該携帯端末から該監視装置15に処理開始指令を与えれば良い。また、図2に示す一連の処理を開始する際に、エレベータのかご2は停止状態、つまりモータ4が駆動停止してブレーキが制動状態となっている。
【0020】
図2のフローチャートでは、まずステップS1において、エレベータが予め設定した一定時間(例えば3分間)利用されていないことを確認し、確認できた場合(Yesの場合)は、ステップS2へ進んで処理を継続する。具体的には、エレベータ監視装置15が調整処理モードに設定されると、その送受信部14がエレベータ制御装置11の送受信部10を介してエレベータ制御部9からエレベータの動作に関する信号を受信する。そして、この受信した信号に基づいてエレベータ監視装置15の制御部13が、前記一定時間内にエレベータの呼びが無ければ、エレベータが利用されていないものと判定する。また、ステップS1で前記一定時間内に呼びが検出された場合(Noの場合)には、エレベータが利用されているものと判定して処理を終了する。
【0021】
なお、ステップS1において、エレベータの呼びの有無を検出する代わりに、かご2内に設けたカメラや赤外線センサなどによって、かご2内に乗客や物品が存するか否かを検出するようにしても良い。
【0022】
次なるステップS2で、エレベータ監視装置15は、荷重検出装置6の出力信号をエレベータ制御装置11から取得する。すなわち、トルク発生部8とエレベータ制御部9および送受信部10を介して、エレベータ監視装置15の送受信部14が荷重検出装置6の出力信号を受信する。さらに、この受信した出力信号に基づき、エレベータ監視装置15の制御部13が荷重検出装置6の出力値を計測して、計測された出力値が無負荷時の値と同等でないことを確認し、確認できた場合(Yesの場合)にステップS3へ進む。前記ステップS1でエレベータが一定時間利用されていないと判定されてステップS2へ進んでいるため、荷重検出装置6の出力値が無負荷時の値と同等でない場合、かご2内が無負荷状態であることを荷重検出装置6が正しく検出していないか、あるいは、エレベータが利用されていなくてもかご2内は乗客や物品の存する負荷状態になっているものと判断できる。また、ステップS2で荷重検出装置6の出力値が無負荷時の値と同等と判定された場合(Noの場合)には、かご2内が無負荷状態であることを荷重検出装置6が正しく検出しているものと判断できるため、処理を終了する。
【0023】
ステップS2でYesと判定された場合、ステップS3,S4,S5およびS6へ順次進む。まず、ステップS3では、エレベータ監視装置15の制御部13が、荷重検出装置6の出力値に基づく不平衡荷重に合わせたモータトルクを発生させるための指令信号を、送受信部14を介してエレベータ制御装置11の送受信部10に送信する。この指令信号によってエレベータ制御装置11のエレベータ制御部9が、不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生させるためのトルク指令信号を作成して、これをトルク発生部8に与える。トルク発生部8は、トルク指令信号に相当するモータトルクを発生するようにモータ4に電力を供給する。なお、不平衡荷重とは、荷重検出装置6の出力値が示すかご2内の積載荷重およびかご2の自重を合算した重量と、カウンターウェイトの重量との重量差に相当する荷重のことである。また、この不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクとは、不平衡荷重によって綱車5の軸に作用する負荷トルクと大きさが等しく向きが逆なモータトルクのことである。
【0024】
次なるステップS4では、エレベータ監視装置15の制御部13が、モータトルクを発生させたままモータ4のブレーキを開放させるための指令信号を、送受信部14を介してエレベータ制御装置11の送受信部10に送信する。この指令信号によってエレベータ制御装置11のエレベータ制御部9が、モータ4のブレーキを制御して制動状態から開放状態へ移行させる。このように予めブレーキ制動状態において不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生(ステップS3)させておくので、このステップS4でブレーキを開放したときにかご2が勢い良く動き出す虞はない。つまり、エレベータが一定時間利用されていないときに荷重検出装置6が負荷を検出(ステップS2)しているので、かご2内に乗客や物品が存する可能性はあるが、予め負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生させた状態でブレーキを開放すれば、かご2を停止状態に維持しやすくなり、仮に荷重検出装置6の検出結果に誤差があってもブレーキ開放時にかご2が勢い良く動き出すことはない。また、かご2内の無負荷状態を荷重検出装置6が正しく検出していないために負荷が検出された場合にも、極端に大きな検出誤差は考えにくいため、やはりブレーキ開放時にかご2が勢い良く動き出すことはない。それゆえ、次なるステップS5において、かご2とカウンターウェイト3とを釣り合わせる制御が安定して行える。
【0025】
ステップS5では、かご2とカウンターウェイト3とを釣り合わせるために、エレベータ監視装置15の制御部13が、エレベータ制御部9を介してモータ4を制御する。すなわち、所定のモータトルクを発生させた状態でブレーキを開放(ステップS4)させたときに、かご2は停止状態に保たれる場合もあるが動き出す場合もあり、かご2が動き出したときにもモータ4を制御してカウンターウェイト3と釣り合わせることによって、このステップS5では確実にかご2を停止状態に維持する。かご2を停止状態に維持させるためには、例えば、速度検出器7が検出するかご2の速度が0に保たれるようにモータ4を制御すれば良い。その際、制御部13は、かご2とカウンターウェイト3とを釣り合わせるために必要なモータトルクを発生させるための指令信号を、送受信部14を介してエレベータ制御装置11の送受信部10に送信し、この指令信号によってエレベータ制御部9がトルク制御指令をトルク発生部8に与える。なお、ブレーキを開放したときにかご2が停止状態に保たれている場合にも、前述したようにモータ4は負荷トルクに釣り合うモータトルクを出力している。
【0026】
次なるステップS6において、エレベータ監視装置15は、前記ステップS5でかご2とカウンターウェイト3とが釣り合っているときにエレベータ制御部9がトルク発生部8に与えているトルク制御指令を、送受信部10,14を介して取得する。そして、エレベータ監視装置15の制御部13が、このトルク制御指令に相当するモータトルク(取得トルク値)と、過去に計測されて記憶部12に記憶されている無負荷時のモータトルク(基準トルク値)とを比較して、取得トルク値が基準トルク値と同等であるか否かを判定し、同等であれば(Yesの場合)ステップS7へ進む。すなわち、基準トルク値とは、過去にかご2を無負荷状態にしてカウンターウェイト3と釣り合わせたときに計測済みのモータ4のトルク値のことであり、このステップS6でエレベータ監視装置15が取得したモータトルク(取得トルク値)が、記憶部12に記憶されている基準トルク値と同等であれば、前記ステップS2で荷重検出装置6が負荷を検出してはいるものの、かご2内は実際は無負荷状態であって荷重検出装置6のゼロ点調整を必要とすることがわかる。しかるに、この取得トルク値が基準トルク値と同等でなければ(Noの場合)、かご2内は乗客や物品等が存する負荷状態であることがわかるため、処理を終了して荷重検出装置6のゼロ点調整は行わない。
【0027】
なお、前記基準トルク値は、例えば、エレベータが設置された初期段階などに計測されて記憶部12に記憶されている。具体的には、荷重検出装置6が経年変化していない段階において、ブレーキを開放してかご2とカウンターウェイト3とを釣り合わせた状態でモータ4が出力するトルク値が基準トルク値として記憶部12に格納されている。また、基準トルク値と前記取得トルク値との差異が予め設定した許容範囲内であれば、その取得トルク値は基準トルク値と同等であると見なす。
【0028】
ステップS6での判定が「Yes」でステップS7へ進んだ場合は、かご2内が無負荷状態で荷重検出装置6のゼロ点調整を必要とすると判定された場合なので、エレベータ監視装置15の制御部13が、荷重検出装置6のゼロ点調整を実行するようにエレベータ制御装置11の送受信部10に指令信号を送信する。この指令信号によってエレベータ制御装置11のエレベータ制御部9は、その時点で荷重検出装置6が出力している値、すなわちゼロ点調整前の荷重検出装置6が無負荷時に出力する値をゼロ点調整後の補正値として記憶し、以後、荷重検出装置6の出力値から該補正値を差し引いた値をかご2内の積載荷重の計測値としてモータ4の制御に用いる。このように荷重検出装置6の出力値を補正することでゼロ点調整が行えるため、ゼロ点調整後の通常運転時には、荷重検出装置6の出力値に基づいてかご2内の積載荷重を正確に検出できるようになる。
【0029】
図3は、ゼロ点調整の実施前(A)と実施後(B)における荷重検出装置6の出力特性を概念的に示したものである。荷重検出装置6の伸縮特性が経年変化によって変化すると、その出力特性は特性直線Aのようになり、点aに示すように、かご2内が無負荷状態のときにも荷重検出装置6は所定の負荷(かご内荷重)が存するかの如き値を出力する。ただし、負荷に応じてリニアに変化する出力値の特性直線の傾き自体は長期に亘って一定とみなせるので、荷重検出装置6の出力値を補正するというゼロ点調整を実施すれば、図3の特性直線Aを破線で示す特性直線Bのように修正することができる。この特性直線Bでは無負荷状態でかご内荷重を検出せず、しかも直線の傾きが特性直線Aと同じなので、特性直線Bのデータを参照することによって、補正済みの出力値から正確なかご内荷重を検出できるようになる。
【0030】
以上説明したように本実施形態例においては、ブレーキを開放してかご2とカウンターウェイト3とを釣り合わせた状態でモータ4が出力するトルク値を取得し、この取得トルク値を、エレベータが設置された初期段階などに計測されて記憶部12に記憶されている無負荷時のモータトルク(基準トルク値)と比較するので、かご2内が無負荷状態であるか否かを正確に判定することができる。すなわち、エレベータが一定時間利用されていないときに、取得トルク値が基準トルク値と同等であれば、かご2内が無負荷状態であるものと判定でき、同等でなければかご2内に乗客や物品等が存する負荷状態であるものと判定できる。それゆえ、無負荷状態が前提となる指令(エレベータ制御装置11に対するエレベータ監視装置15の指令)による荷重検出装置6のゼロ点調整を容易かつ正確に行うことができる。
【0031】
このようにエレベータ監視装置15の指令によって荷重検出装置6のゼロ点調整を行えば、調整に伴う労力や費用を大幅に削減できる。また、荷重検出装置6のゼロ点調整を正確に行えることから、かご2内の荷重状態に拘らず常に良好な乗り心地が維持できる。
【0032】
また、本実施形態例においては、モータ4のブレーキを開放する前の制動状態のときに、荷重検出装置6の出力値に基づく不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生させておくので、不平衡荷重を検出した理由がかご2内に乗客や物品が存するためであっても、あるいは無負荷状態を荷重検出装置6が正しく検出していないためであっても、ブレーキを開放したときにかご2が勢い良く動き出す虞がない。それゆえ、ブレーキ開放状態でかご2とカウンターウェイト3とを釣り合わせる制御が安定して行える。
【符号の説明】
【0033】
1 主ロープ
2 かご
3 カウンターウェイト
4 モータ
5 綱車
6 荷重検出装置
7 速度検出器
8 トルク発生部
9 エレベータ制御部
10 送受信部
11 エレベータ制御装置
12 記憶部
13 制御部
14 送受信部
15 エレベータ監視装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって回転駆動される綱車に主ロープが巻き掛けられ、この主ロープの両端にかごとカウンターウェイトが吊り下げられているエレベータで、前記かご内の積載荷重を計測する荷重検出装置のゼロ点調整を行う調整方法において、
前記モータのブレーキを開放した状態で、前記かごと前記カウンターウェイトとが釣り合うように制御した前記モータのトルク値を取得すると共に、この取得トルク値を、過去に前記かごを無負荷状態にして前記カウンターウェイトと釣り合わせたときに計測済みの前記モータのトルク値と比較することによって、前記かご内が無負荷状態であるか否かを判定し、無負荷状態と判定された場合に前記ゼロ点調整を行うようにしたことを特徴とするエレベータの荷重検出装置の調整方法。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記モータのブレーキを開放する前の制動状態のときに、前記荷重検出装置の出力値に基づく不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生させておくことを特徴とするエレベータの荷重検出装置の調整方法。
【請求項3】
エレベータ制御装置に制御されるモータが綱車を回転駆動すると共に、この綱車に巻き掛けられた主ロープの両端にかごとカウンターウェイトが吊り下げられているエレベータの前記エレベータ制御装置を介して、前記かご内の積載荷重を計測する荷重検出装置のゼロ点調整を行うことが可能なエレベータ監視装置において、
過去に前記かごを無負荷状態にして前記カウンターウェイトと釣り合わせたときに計測済みの前記モータのトルク値を基準トルク値として記憶する記憶部と、前記モータのブレーキを開放した状態で前記かごと前記カウンターウェイトとが釣り合うように該モータを制御する指令を前記エレベータ制御装置に与えて、この釣合い状態で該モータのトルク値を該エレベータ制御装置から取得する制御部とを備え、前記制御部が、前記取得トルク値を前記基準トルク値と比較することによって前記かご内が無負荷状態であるか否かを判定し、無負荷状態と判定した場合に前記ゼロ点調整を実施させる指令を前記エレベータ制御装置に与えるように構成したことを特徴とするエレベータ監視装置。
【請求項4】
請求項3の記載において、前記モータのブレーキを開放する前の制動状態のときに、前記制御部が前記エレベータ制御装置に指令を与えて、前記荷重検出装置の出力値に基づく不平衡荷重の負荷トルクに釣り合うモータトルクを発生させるように構成したことを特徴とするエレベータ監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−101919(P2012−101919A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253143(P2010−253143)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】