説明

エレベータ乗場の操作装置

【課題】エレベータ乗場に火災の煙が流れ込み、その煙を吸わないように避難しようとする人が低い姿勢をとるときでも、その低い姿勢のままかご呼びの操作を行なうことができるエレベータ乗場の操作装置を提供する。
【解決手段】建屋のエレベータ乗場1には、かご呼びボタンを備える通常の乗場操作盤11a,11bとは別に、その乗場操作盤11a,11bよりも下方で、エレベータ乗場1の床面の近傍の高さ位置に非常用操作盤15が設けられ、この非常用操作盤15に少なくともかご呼びボタン16が設けられている。非常用操作盤15には、かご呼びボタン16と併せて、かごの移動状況や避難用の情報などを表示するインジケータ17を設けることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、建屋の各階のエレベータ乗場に設けられる操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建屋の各階のエレベータ乗場には、エレベータのかごに対して乗客が乗り降りするための乗降口が設けられている。各階の乗降口の周辺部には乗場操作盤が設けられ、その操作盤にエレベータ乗場の階床にかごを呼ぶためのかご呼びボタンが配設されている。また、乗降口の周辺部には、かごの現在位置や移動方向を表示するためのインジケータが設けられている。
【0003】
エレベータ乗場で乗客が操作盤のかご呼びボタンを操作すると、かごの運行を制御する制御盤にそのかご呼びの指令が登録され、かごがそのエレベータ乗場に移動するように制御される。このとき、インジケータにはかごの現在位置や移動方向が表示される。そしてかごがそのエレベータ乗場に到着し、着床したときに乗降口のドア装置が開き、かごへの乗り込みが可能となる。
【0004】
乗場操作盤やインジケータは、乗客が操作したり目視しやすいように、エレベータ乗場の床面から比較的高い位置に配設されている。また、車いす利用の乗客が操作する専用の操作盤が一般用の操作盤と別に設けられる場合もあるが、その車いす専用の操作盤も一般用よりも下方の位置ではあるが床面からは比較的大きく離れた高い位置に配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−173381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、建屋のある階で火災が発生したときには、その階の人は一般的には非常階段を使用して他の階に避難する。しかしながら、非常階段の付近で火災が発生した場合には非常階段を使用できない。非常階段はエレベータとは逆の方向となる位置に設置されているのが普通であり、したがって非常階段付近が火災発生場所であるときには、エレベータを他の安全な階へ避難するための移動手段として利用することが有効となる。
【0007】
この場合、避難者はまずエレベータ乗場に移動し、乗場操作盤のかご呼びボタンを操作してかご呼びを登録し、かごの到着を待つことになる。ところが、火災発生による煙がエレベータ乗場に流れ込むことが当然予想される。エレベータ乗場に煙が流れ込むと、その煙はエレベータ乗場の天井部から徐々に下層部にまで充満し、そのため避難者は煙を吸引しないように腰をかがめたり腹這いになる低い姿勢で移動せざるを得ない。
【0008】
ところが、従来では、かご呼びボタンが床面から比較的大きく離れる高い位置にあり、このためそのかご呼びボタンが煙で霞んで見えずらくなるばかりでなく、低い姿勢をとるため手が届かず、操作ができなくなり、またインジケータを見ることもできなくなる恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、請求項1の発明は、建屋のエレベータ乗場に設けられ、かご呼びボタンを備える通常の乗場操作盤とは別に、その乗場操作盤よりも下方で、前記エレベータ乗場の床面の近傍の高さ位置に配置される非常用操作盤を備え、前記非常用操作盤に少なくともかご呼び用の操作部が設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、前記非常用操作盤には、前記かご呼び用の操作部と併せて、避難用の情報を表示することが可能な情報表示部が設けられていることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、前記エレベータ乗場には、前記非常用操作盤と併せて、避難用の情報を音声により報知することが可能な報知手段が設けられていることを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、前記エレベータ乗場の床面には、前記かご呼び用の操作部に対する操作に応じてかごが前記エレベータ乗場に到着した際に、その到着を振動動作により報知することが可能な振動部が設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項5の発明は、前記エレベータ乗場の非常用操作盤におけるかご呼び用の操作部が操作されたときに、かごをそのエレベータ乗場に移動させ、その後にそのかごを自動的にそのエレベータ乗場から離れる避難階に移動させる誘導用の制御を行なう制御手段を備えることを特徴としている。
【0014】
請求項6の発明は、前記エレベータ乗場の非常用操作盤におけるかご呼び用の操作部が操作され、かごが前記エレベータ乗場に到着する際に、前記報知手段及び振動部を動作させる報知用の制御を行なう制御手段を備えることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るエレベータ乗場の操作装置を示す斜視図。
【図2】この発明の第2の実施形態に係るエレベータ乗場の操作装置を示す斜視図。
【図3】その操作装置における非常用操作盤の正面図。
【図4】その操作装置の制御回路の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1には第1の実施形態を示してある。建屋のエレベータ乗場1の壁面2には乗降口3が設けられている。乗降口3には門形の三方枠4が据え付けられている。乗降口3はその背方側の昇降路に通じており、通常時にはドア装置5により閉鎖され、昇降路を上下に移動するかごがエレベータ乗場1に着床停止したときに、ドア装置5が開き、乗降口3を通してそのかごに対する乗降が可能となる。
【0018】
三方枠4の上部には、例えば光学式のインジケータ10が設けられ、このインジケータ10にかごの現在位置及び移動方向が表示される。また、三方枠4の脇の壁面2には、一般用の通常の操作盤11aと、車いす利用者用の通常の操作盤11bとが取り付けられ、これら操作盤11a,11bにそれぞれかご呼びボタン12が配設されている。車いす利用者用の操作盤11bは、車いすに乗ったまま操作することができるように、一般用の操作盤11aより低い位置に配置されている。
【0019】
さらに、三方枠4の脇の壁面2には前記通常の操作盤11a,11bとは別に、非常用操作盤15が設けられている。この非常用操作盤15は、通常の操作盤11a,11bよりも下方で、エレベータ乗場1の床面の近傍の位置、例えば床面から10〜20cm程度の高さ位置に配置されている。そしてこの非常用操作盤15には、かご呼び用の操作部としてのかご呼びボタン16と、かごの現在位置及び移動方向を光学的に表示するインジケータ17とが設けられている。
【0020】
次に、この実施形態の作用について述べる。
【0021】
通常時には、乗客はエレベータ乗場1において一般用や車いす利用者用の通常の操作盤11a,11bのかご呼びボタン12を操作する。この操作に応じて、かごの運行を制御する制御盤にそのかご呼びの指令が登録され、かごがエレベータ乗場1に移動するように制御される。
【0022】
かごがエレベータ乗場1に到着して着床すると、乗降口3のドア装置5が開き、したがってエレベータ乗場1の乗客が乗降口3を通ってかごに乗り込む。この後、ドア装置5が閉じ、かごが次の行先階に向って移動する。
【0023】
一方、ある階のエレベータ乗場1の階床の非常階段付近などで火災が発生したときには、その階の人はエレベータで他の安全な階に避難すべく、エレベータ乗場1に移動する。この際、火災による煙がエレベータ乗場1に流れ込んでいるときには、その煙を吸い込まないように低い姿勢をとることになるが、この実施形態ではエレベータ乗場1の床面近傍の低い位置に非常用操作盤15が設けられているから、その低い姿勢のまま非常用操作盤15のかご呼びボタン16を操作することができる。
【0024】
そしてかご呼びボタン16を操作することにより、かごがそのエレベータ乗場1に向って移動する。かごの現在位置と移動方向は非常用操作盤15のインジケータ17に表示され、したがってその表示を目視するにより確認することができ、不安なくかごの到着を待つことができる。
【0025】
エレベータ乗場1にかごが到着して着床したときには、乗降口3のドア装置5が開く。したがってその乗降口3からかごに乗り込み、そのかごで安全な階に移動して避難することができる。
なお、他の階で火災が発生し、その火災の煙が当該エレベータ乗場1に流れ込んだような場合においても同様の行動で避難することができる。
【0026】
このように、この実施形態によれば、火災が発生し、煙の吸引を避けるために低い姿勢をとるときでも、その低い姿勢のままかご呼びボタン16を操作してかごを呼び、そのかごで安全な階に避難することができる。
【0027】
次に、第2の実施形態について図2乃至図4を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0028】
この第2の実施形態においては、図2に示すように、エレベータ乗場1の壁面2に非常用操作盤15とともに、報知手段としてのスピーカー19が設けられている。これら非常用操作盤15及びスピーカー19はエレベータ乗場1の床面の近傍の低い位置に配置されている。
【0029】
この実施形態における非常用操作盤15においては、図3に示すように、インジケータ17として、かごの移動方向を表示する方向表示部17aと、かごの位置を表示する位置表示部17bと、所要の情報を文字で表示する情報表示部17cとを備え、さらにこのインジケータ17と並んでかご呼びボタンとして機能する避難階誘導ボタン20が設けられている。
【0030】
また、この実施形態では、図2に示すように、エレベータ乗場1の床面に振動部21が設けられている。この振動部21は、非常用操作盤15及びスピーカー19の近傍の位置に配置されている。この振動部21は、前記床面の下に敷設された一定の広がりをもつ振動板22と、この振動板22を振動させる駆動機構23とを備えて構成されている。
【0031】
さらにこの実施形態においては、三方枠4にエアカーテン装置25が設けられている。このエアカーテン装置25は、三方枠4の上枠4aに形成された複数のエア噴出孔26と、前記上枠4aの内側に配設されたエアブロー27とを備え、複数のエア噴出孔26は上枠4aの長手方向に沿う横方向に緻密にかつ均等的に並んで形成されている。そして、エアブロー27の動作で各エア噴出孔26からその下方に向けてエアが噴出され、その噴出されるエアにより乗降口3にエアカーテンが形成されるようになっている。
【0032】
図4にはこのエレベータの制御回路の構成を示してあり、このエレベータはかごの運行を制御する制御手段としての制御盤30を有し、この制御盤30に建屋の各階に配設された火災感知器31、各階のエレベータ乗場1に設けられたインジケータ17の方向表示部17a、位置表示部17b、情報表示部17c、かご呼びボタンとしての避難階誘導ボタン20、報知手段としてのスピーカー19、振動部21の駆動機構23、エアカーテン装置25のエアブロー27が電気的に接続されている。制御盤30は、かごが昇降する昇降路内、あるいは昇降路の上方の機械室内などに設置されている。
【0033】
次にこの実施形態の作用について説明する。
【0034】
建屋のある階で火災が発生し、その火災が火災感知器31により感知されると、その信号が制御盤30に送られ、火災の発生が制御盤30において認識される。火災が発生した階の人は、エレベータで安全な階に避難すべく、その階のエレベータ乗場1に移動する。
【0035】
この際、火災による煙がエレベータ乗場1に流れ込んでいるときには、その煙を吸い込まないように低い姿勢をとりながら、非常用操作盤15の近くまで移動し、振動部21の上に乗り、非常用操作盤15の避難階誘導ボタン20を操作する。この操作の信号は制御盤30に送られ、この信号に基づいて制御盤30によりかごが火災発生階に移動するように制御されるともに、スピーカー19を介して、かごが火災発生階に向って移動していることや、消防隊の救助活動の状況や、かごの到着後にそのがごが安全な避難階に自動的に移動することなどの避難用の情報が音声により火災発生階のエレベータ乗場1に流され、さらに同様の内容の避難情報が非常用操作盤15の情報表示部17cに文字で例えばテロップ式に表示される。
【0036】
そして、かごが火災発生階に到着する直前に、制御盤30による制御で火災発生階における振動部21の駆動機構23が駆動され、この駆動でエレベータ乗場1の床面の振動部21が振動し、この振動でかごの到着が知らされる。また、かごが火災発生階に到着する直前に、制御盤30による制御で火災発生階におけるエアカーテン装置25のエアブロー27が駆動され、この駆動で三方枠4の各エア噴出孔26からエアが噴出し、乗降口3にエアカーテンが形成される。
【0037】
さらに、かごが火災発生階に到着すると、制御盤30による制御でその到着がスピーカー19を介して音声によりエレベータ乗場1に報知され、さらに非常用操作盤15の情報表示部17cに文字で表示される。
【0038】
そして、乗降口3のドア装置5が開き、これに応じてエレベータ乗場1からその乗降口3を通って人がかごに乗り込む。この際、乗降口3はエアカーテンで遮蔽されており、したがって人の乗り込みは可能であるがエレベータ乗場1に充満する煙がかごに流入することがほとんどない。
【0039】
その後、乗降口3のドア装置5が閉じ、前記避難階誘導ボタン20の操作に基づく情報によりかごが安全な避難階に自動的に移動するように制御盤30により制御される。そして、かごが安全な避難階に到着し、その避難階の乗降口3のドア装置5が開くことで、かご内の人がその避難階に降りて避難することができる。
【0040】
このように、この実施形態では、前記第1の実施形態の場合と同様に、火災が発生し、煙の吸引を避けるために低い姿勢をとるときでも、その低い姿勢のまま非常用操作盤15の避難階誘導ボタン20を操作してかごを呼び、そのかごで安全な階に避難することができる。
【0041】
そして、避難する人が火災発生階のエレベータ乗場1でかごの到着を待つときに、避難誘導の情報がスピーカー19を介して音声で報知されるとともに、非常用操作盤15の情報表示部17cに文字で表示され、したがって混乱することなく安心してかごを待つことができ、かごの到着後に落ち着いてそのかごに乗り込むことが可能で、また避難情報が文字のみでなく音声でも報知されるため、例えば視覚障害者などであっても容易にその内容を把握することができる。
【0042】
さらに、かごが火災発生階に到着する直前に、エレベータ乗場1の床面の振動部21が振動するため、非常用操作盤15や乗降口3の状況が煙でよく見えないような場合であっても、かごの到着を容易に知ることができる。
【0043】
なお、非常用操作盤15やスピーカー19は床面の近傍の低い位置に設けられているため、平常時に台車などが当ったり、足で蹴られたりする恐れがある。そのため、これら非常用操作盤15やスピーカー19を平常時には保護用のカバー部材で覆い、火災感知器が火災を感知したときに、その信号に基づいてそのカバー部材を自動的に開いて非常用操作盤15やスピーカー19を露出させるように構成することも可能である。
【0044】
以上、この発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1…エレベータ乗場
3…乗降口
4…三方枠
5…ドア装置
10…インジケータ
11a.11b…乗場操作盤
12…かご呼びボタン
15…非常用操作盤
16…かご呼びボタン
17…インジケータ
17c…情報表示部
17a…方向表示部
17b…位置表示部
19…スピーカー
20…避難階誘導ボタン
21…振動部
22…振動板
23…駆動機構
25…エアカーテン装置
26…エア噴出孔
27…エアブロー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋のエレベータ乗場に設けられ、かご呼びボタンを備える通常の乗場操作盤とは別に、その乗場操作盤よりも下方で、前記エレベータ乗場の床面の近傍の高さ位置に配置される非常用操作盤を備え、前記非常用操作盤に少なくともかご呼び用の操作部が設けられていることを特徴とするエレベータ乗場の操作装置。
【請求項2】
前記非常用操作盤には、前記かご呼び用の操作部と併せて、避難用の情報を表示することが可能な情報表示部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ乗場の操作装置。
【請求項3】
前記エレベータ乗場には、前記非常用操作盤と併せて、避難用の情報を音声により報知することが可能な報知手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベータ乗場の操作装置。
【請求項4】
前記エレベータ乗場の床面には、前記かご呼び用の操作部に対する操作に応じてかごが前記エレベータ乗場に到着した際に、その到着を振動動作により報知することが可能な振動部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータ乗場の操作装置。
【請求項5】
前記エレベータ乗場の非常用操作盤におけるかご呼び用の操作部が操作されたときに、かごをそのエレベータ乗場に移動させ、その後にそのかごを自動的にそのエレベータ乗場から離れる避難階に移動させる誘導用の制御を行なう制御手段を備えることを特徴とする請求項1乃至4に記載のエレベータ乗場の操作装置。
【請求項6】
前記エレベータ乗場の非常用操作盤におけるかご呼び用の操作部が操作され、かごが前記エレベータ乗場に到着する際に、前記報知手段及び振動部を動作させる報知用の制御を行なう制御手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5に記載のエレベータ乗場の操作装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−35972(P2012−35972A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177843(P2010−177843)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】