説明

エレベータ制御装置

【課題】停電時における非常用バッテリ電源の消費電力を抑えながら、乗りかごを最寄り階まで救出運転させることができるエレベータ制御装置の提供。
【解決手段】本発明は、永久磁石モータ4の巻き線を短絡させるモータ巻き線短絡手段13を備え、停電時に制御部1は、負荷演算部11で演算される乗りかご8の負荷が、40%以上、60%以下であるときだけ、永久磁石モータ4の巻き線を短絡させるようにモータ巻き線短絡手段13を作動させ、電磁ブレーキ6を開放させ、乗りかご8の運転方向を検出させ、その後に永久磁石モータ4の巻き線短絡を開放させるようにモータ巻き線短絡手段13を作動させ、この状態にあって、乗りかご8の運転方向検出手段14で検出される運転方向となるように永久磁石モータ4を駆動させる制御処理を行う構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停電時に非常用バッテリ電源によって乗りかごを最寄り階まで救出運転させるエレベータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として特許文献1,2に示されるものがある。特許文献1に示される従来技術は、停電時に、負荷検出器によって検出される軽負荷方向に非常用バッテリ電源で乗りかごを運転させる構成になっている。
【0003】
また特許文献2に示される従来技術は、停電によって閉じられた電磁ブレーキを一旦開放して不平衡荷重を検出するとともに、乗りかごを昇降させるトラクションマシン、及びこのトラクションマシンを駆動するトラクションモータの回転方向を検出し、その検出した回転方向と逆方向にトラクションモータを駆動させ、これによってトラクションマシンの回転を停止させた後、電磁ブレーキを再び閉じ、その後に電磁ブレーキを再び開放してトラクションモータを軽負荷方向に再起動して、乗りかごを最寄り階まで救出運転させる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−116360号公報
【特許文献2】特開2000−38265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1に示される従来技術は、停電時に乗りかごと釣り合い錘が平衡状態付近にあるときに、不平衡負荷を検出する検出装置の誤差により重負荷方向に運転を行う懸念があるため、誤差に相応するバッテリ容量を確保する必要がある。したがって、バッテリ容量を大きくしなければならない問題がある。
【0006】
また、前述した特許文献2に示される従来技術は、停電時に、電磁ブレーキを開−閉−開と制御するために大きな電流を確保する必要があり、また、トラクションモータにそれまでの回転方向とは逆方向に回転させるトルクをかけるための大きな電流を確保する必要があることから、バッテリ容量を大きくしなければならない問題がある。
【0007】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、停電時における非常用バッテリ電源の消費電力を抑えながら、乗りかごを最寄り階まで救出運転させることができるエレベータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係るエレベータ制御装置は、乗りかごの負荷を演算する負荷演算部と、乗りかごの運転方向を検出する運転方向検出手段と、乗りかごを昇降させるトラクションマシンを駆動するトラクションモータを制動する電磁ブレーキを開放させるブレーキ開放手段とを含む制御部を備えるとともに、非常用バッテリ電源を備え、停電時に、前記非常用バッテリ電源によって前記制御部を駆動させ、この制御部の制御処理により前記乗りかごを最寄り階に救出運転させるエレベータ制御装置において、前記トラクションモータの巻き線を短絡させるモータ巻き線短絡手段を備え、停電時に、前記制御部は、前記負荷演算部で演算される前記乗りかごの負荷が、前記トラクションモータが重負荷方向に起動する可能性のある所定範囲内の負荷であるときだけ、前記トラクションモータの巻き線を短絡させるように前記モータ巻き線短絡手段を作動させ、前記ブレーキ開放手段によって前記電磁ブレーキを開放させ、前記運転方向検出手段によって前記乗りかごの運転方向を検出させ、その後に前記トラクションモータの巻き線短絡を開放させるように前記モータ巻き線短絡手段を作動させ、この状態にあって、前記乗りかごが前記運転方向検出手段で検出される運転方向となるように前記トラクションモータを駆動させる制御処理を行うことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明は、停電時には非常用バッテリ電源によって制御部が駆動され、この制御部の負荷演算部で演算される乗りかごの負荷が、トラクションモータが重負荷方向に起動する可能性のある所定範囲内の負荷でないときには、制御部は電磁ブレーキ開放手段を作動させて、停電に伴って閉じられた電磁ブレーキを開放させ、トラクションモータを再起動させる制御処理を行う。これにより、乗かごを軽負荷方向に運転し、最寄り階に到着させることができる。
【0010】
また、制御部の負荷演算部で演算される負荷がトラクションモータが重負荷方向に起動する可能性のある所定範囲内の負荷であるときには、制御部は、トラクションモータの巻き線を短絡させるようにモータ巻き線短絡手段を作動させ、この状態で電磁ブレーキ開放手段によって停電に伴って閉じられた電磁ブレーキを開放させる制御処理を行う。このときのトラクションモータの回転方向、すなわち乗りかごの運転方向が制御部の運転方向検出手段で検出される。このように乗りかごの運転方向が検出されたとき、制御部は、トラクションモータの巻き線を開放させるようにモータ巻き線短絡手段を作動させて、トラクションモータを再起動させる制御処理を行う。これにより、トラクションモータが、乗りかごを電磁ブレーキが開放されたときの運転方向に、すなわち軽負荷方向に継続的に駆動され、乗りかごを最寄り階に到着させることができる。
【0011】
このように本発明は、停電時に電磁ブレーキを作動させる動作は、この電磁ブレーキを1回開放させる動作だけで済み、また、トラクションモータをそれまでの回転方向とは逆方向に駆動させる動作を要することがなく、確実に軽負荷方向に乗りかごを運転させて最寄り階に到着させることができる。すなわち本発明は、電磁ブレーキの制御に要する電力、及びトラクションモータの制御に要する電力を少なくし、停電時における非常用バッテリ電源の消費電力を抑えながら、乗りかごを最寄り階まで救出運転させることができる。
【0012】
また本発明は、前記発明において、前記トラクションモータが重負荷方向に起動する可能性のある所定範囲内の負荷は、40%以上、60%以下の負荷であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、停電時に、非常用バッテリ電源で駆動させた制御部によって、トラクションモータの巻き線を短絡させるようにモータ巻き線短絡手段を作動させる処理制御を行う構成にしてあることから、停電時における非常用バッテリ電源の消費電力を抑えながら、乗りかごを最寄り階まで救出運転させることができる。これにより本発明は、従来に比べて非常用バッテリ電源の容量小型化を実現させることができるとともに、非常用バッテリ電源の容量低下による乗りかごの運転不能の発生を抑えて乗りかごを最寄り階まで救出運転させることができ、乗客の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るエレベータ制御装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るエレベータ制御装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0016】
本実施形態に係るエレベータ制御装置は、図1に示すように、乗りかご8の負荷を検出する負荷検出器10から出力される信号に基づいて、乗かご8の負荷を演算する負荷演算部11と、乗りかご8の運転方向、及び速度、すなわち乗りかご8を昇降させるトラクションマシン5を駆動するトラクションモータを形成する永久磁石モータ4の回転方向、及び速度を検出する速度検出手段7から出力される信号に基づいて、乗かご8の運転方向を検出する運転方向検出手段14と、永久磁石モータ4を制動する電磁ブレーキ6を開放させるブレーキ開放手段12とを含む制御部1を備えている。永久磁石モータ4は、制御部1から出力される制御信号によって駆動が制御され、乗りかご8と釣り合い錘9とを連絡するワイヤロープを移動させる。
【0017】
また本実施形態は、停電時に制御部1を駆動させる非常用バッテリ電源2と、制御部1から出力される制御信号によって制御され、非常用バッテリ電源2から供給される電力を永久磁石モータ4を駆動する電力に変換するインバータ装置3とを備えている。
【0018】
また本実施形態は、インバータ装置3と永久磁石モータ4との間に設けられ、前述したブレーキ開放手段12から出力される信号に応じて作動し、永久磁石モータ4の巻き線を短絡させるモータ巻き線短絡手段13を備えている。
【0019】
また本実施形態は、停電時に制御部1は、負荷演算部11で演算される乗りかご8の負荷が、永久磁石モータ4が重負荷方向に起動する可能性のある所定範囲内の負荷であるときだけ、例えば乗りかご8の負荷が40%以上、60%以下の負荷であるときだけ、ブレーキ開放手段12を介して永久磁石モータ4の巻き線を短絡させるようにモータ巻き線短絡手段13を作動させ、また、ブレーキ開放手段12によって、停電によって閉じられた電磁ブレーキ6を開放させ、運転方向検出手段14によって乗りかご8の運転方向を検出させ、その後に永久磁石モータ4の巻き線を開放させるようにモータ巻き線短絡手段13を作動させ、この状態にあって、乗りかご8が運転方向検出手段14で検出される運転方向となるように永久磁石モータ4を駆動させる制御処理を行う構成にしてある。
【0020】
以下、本実施形態の動作を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。停電が発生すると、永久磁石モータ4が電磁ブレーキ6によって制動され、停止する。このとき、非常用バッテリ電源2が制御部1に制御用電源を供給する。
【0021】
したがって制御部1は、停電時に負荷検出器10から出力された信号に基づいて負荷演算部11で演算される乗りかご8の負荷が、40%以上、60%以下の範囲内の負荷かどうか判別する(手順S1)。この判別で、乗りかご8の負荷が40%に満たない負荷、または60%を超える負荷であると判別されたときには、制御部1は、ブレーキ開放手段12を介して電磁ブレーキ6を開放させ、永久磁石モータ4を再起動させる制御処理、すなわち電磁ブレーキ6を開放させた際に、永久磁石モータ4が回転する方向である軽負荷方向に永久磁石モータを駆動させる制御処理を行って、乗かご8を運転させる(手順S2)。これにより、乗りかご8を最寄り階まで救出運転させることができる。
【0022】
また、前述した手順S1の判別で、乗りかご8の負荷が40%以上、60%以下の範囲内に含まれる負荷と判別されたときには、制御部1によって、インバータ装置3の作動を一旦停止させる制御が行われる(手順S3)。また、制御部1は、ブレーキ開放手段12を介して、永久磁石モータ4の巻き線を短絡させるようにモータ巻き線短絡手段13を作動させ(手順S4)、この状態で電磁ブレーキ開放手段12によって停電に伴って閉じられた電磁ブレーキ6を開放させる制御処理を行う(手順S5)。
【0023】
このときの永久磁石モータ4の回転方向、すなわち乗りかご8の運転方向が、速度検出手段7から出力される信号に基づいて制御部1の運転方向検出手段14で検出される(手順S6)。このように乗りかご8の運転方向が検出されたとき、制御部1は、ブレーキ開放手段12を介してモータ巻き線短絡手段13に信号を出力して、永久磁石モータ4の巻き線を開放させるようにモータ巻き線短絡手段13を作動させるとともに(手順S7)、インバータ装置3を起動して、永久磁石モータ4を再起動させる制御処理を行う。これにより、永久磁石モータ4が、乗りかご8を電磁ブレーキ6が開放されたときの運転方向に、すなわち軽負荷方向に継続的に駆動される(手順S8)。したがって、乗りかご8を最寄り階まで救出運転させ、この最寄り階に到着させることができる。
【0024】
このように構成した本実施形態によれば、停電時に電磁ブレーキ6を作動させる動作は、この電磁ブレーキ6を1回開放させる動作だけで済み、また、永久磁石モータ4をそれまでの回転方向とは逆方向に駆動させる動作を要することなく、確実に軽負荷方向に乗りかご8を運転させて最寄り階に到着させることができる。
【0025】
すなわち本実施形態は、電磁ブレーキ6の制御に要する電力、及び永久磁石モータ4の制御に要する電力を少なくし、停電時における非常用バッテリ電源2の消費電力を抑えながら、乗りかご8を最寄り階まで救出運転させることができる。これにより本実施形態は、非常用バッテリ電源2の容量小型化を実現させることができるとともに、非常用バッテリ電源2の容量低下による乗りかご8の運転不能の発生を抑えて乗りかご8を最寄り階まで救出運転させることができ、乗客の安全性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 制御部
2 非常用バッテリ電源
3 インバータ装置
4 永久磁石モータ(トラクションモータ)
5 トラクションマシン
6 電磁ブレーキ
7 速度検出手段
8 乗りかご
9 釣り合い錘
10 負荷検出器
11 負荷演算部
12 ブレーキ開放手段
13 モータ巻き線短絡手段
14 運転方向検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごの負荷を演算する負荷演算部と、乗りかごの運転方向を検出する運転方向検出手段と、乗りかごを昇降させるトラクションマシンを駆動するトラクションモータを制動する電磁ブレーキを開放させるブレーキ開放手段とを含む制御部を備えるとともに、非常用バッテリ電源を備え、停電時に、前記非常用バッテリ電源によって前記制御部を駆動させ、この制御部の制御処理により前記乗りかごを最寄り階に救出運転させるエレベータ制御装置において、
前記トラクションモータの巻き線を短絡させるモータ巻き線短絡手段を備え、
停電時に、前記制御部は、前記負荷演算部で演算される前記乗りかごの負荷が、前記トラクションモータが重負荷方向に起動する可能性のある所定範囲内の負荷であるときだけ、前記トラクションモータの巻き線を短絡させるように前記モータ巻き線短絡手段を作動させ、前記ブレーキ開放手段によって前記電磁ブレーキを開放させ、前記運転方向検出手段によって前記乗りかごの運転方向を検出させ、その後に前記トラクションモータの巻き線短絡を開放させるように前記モータ巻き線短絡手段を作動させ、この状態にあって、前記乗りかごが前記運転方向検出手段で検出される運転方向となるように前記トラクションモータを駆動させる制御処理を行うことを特徴とするエレベータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータ制御装置において、
前記トラクションモータが重負荷方向に起動する可能性のある所定範囲内の負荷は、40%以上、60%以下の負荷であることを特徴とするエレベータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−39996(P2013−39996A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176957(P2011−176957)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】