説明

エレベータ用巻上機

【課題】 高効率、低トルクリップル、低騒音を達成することができる小型のエレベータ用巻上機を得る。
【解決手段】 主索が巻き掛けられる綱車9と、この綱車を駆動するためにロータが綱車に設けられ、かつステータが巻上機固定部に設けられたモータと、綱車に制動力を付与するためのブレーキ装置11とを備えたものにおいて、モータは、複数のトロイダル巻線を備えたトロイダル巻線モータであって、トロイダル巻線モータのロータ12は、綱車を構成する第1のロータ9の内周面及び第1のロータの内側に所定の間隔を置いて配置された第2のロータ7の外周面にそれぞれ配置され、トロイダル巻線モータのステータ13は、その一部が巻上機固定部に固定され、第1のロータ部の内周面と第2のロータの外周面との間に形成される空間内に収容配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータの乗りかごを昇降させるエレベータ用巻上機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータ用巻上機においては、径が幅よりも大きな薄型扁平ブラシレスDCモータを昇降路内に配置するエレベータ装置において、モータは固定子と回転子のギャップが径方向にあるラジアルギャップ型で、すべての固定子コイルを二つのティースにまたがらず一つのティースの回りに夫々巻いた所謂集中巻きとすることで、コイルエンドの張出しを小さくして薄型にしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、他のエレベータ用巻上機としては、例えば、特許文献2〜4等が知られている。
【0003】
【特許文献1】特許第3374700号公報
【特許文献2】特開平9−142761号公報
【特許文献3】特開平12−302360号公報
【特許文献4】特開平1−187187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のものは、集中巻モータの欠点であるトルクリップルを抑えるためにも極数を上げなければならないが、そうすると駆動周波数が高くなるため、制御が難しくなり、騒音が発生し易くなる。また、特許文献2記載のものは、薄型大径では、巻上機軸方向長さの中でコイルエンド長が占める割合が大きくなってしまい、銅損も大きくなる。また、特許文献3、4記載のものは、綱車の内側にアウターロータ形モータを内蔵する方式であるので、所要トルクが決まれば、通常のモータでは、効率と温度上昇、その他トルク特性を維持するためには、モータの径の2乗とその長さがほぼ決まってしまい、綱車の内側にモータを配置すると、現実的にはロープを巻き掛ける綱溝部の幅よりもモータが長くなってしまうという問題があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、高効率、低トルクリップル、低騒音を達成することができる小型のエレベータ用巻上機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベータ用巻上機においては、主索が巻き掛けられる綱車と、この綱車を駆動するためにロータが綱車に設けられ、かつステータが巻上機固定部に設けられたモータと、綱車に制動力を付与するためのブレーキ装置とを備えたものにおいて、モータは、複数のトロイダル巻線を備えたトロイダル巻線モータであって、トロイダル巻線モータのロータは、綱車を構成する第1のロータの内周面及び第1のロータの内側に所定の間隔を置いて配置された第2のロータの外周面にそれぞれ配置され、トロイダル巻線モータのステータは、その一部が巻上機固定部に固定され、第1のロータ部の内周面と第2のロータの外周面との間に形成される空間内に収容配置されたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、モータは、複数のトロイダル巻線を備えたトロイダル巻線モータであって、トロイダル巻線モータのロータは、綱車を構成する第1のロータの内周面及び第1のロータの内側に所定の間隔を置いて配置された第2のロータの外周面にそれぞれ配置され、トロイダル巻線モータのステータは、その一部が巻上機固定部に固定され、第1のロータ部の内周面と第2のロータの外周面との間に形成される空間内に収容配置されているので、綱車軸方向の長さを小さくすることができ、最高レベルの小型化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はこの発明を実施するための実施の形態1におけるエレベータ用巻上機の概略構造を示す縦断面図、図2はこの発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機に用いられるトロイダル巻線モータの巻線部の構造を示す斜視図である。
図において、この発明のエレベータ用巻上機は、ベース1上にそれぞれ間隔を置いて両側に立設固定された巻上機固定部である軸受台ハウジング2と、この各軸受台ハウジング2の中央部に固定された軸受3と、この各軸受3に両端部を回転自在に支持された回転軸4と、この回転軸4の中央部に設けられたボス部5と、このボス部5の外側に放射状に設けられたスポーク6を介して支持された第2のロータを構成する内側環状体7と、この内側環状体7の外側に放射状に設けられかつ正面視がボビン状(臼状)のスポーク8を介して支持された第1のロータを構成する外側環状体から成る綱車9と、この綱車9の外周面に形成され、主索(図示せず)が巻き掛けられる綱溝9aと、この綱車9の軸方向両端部にそれぞれ固定され、その外方周端部が制動面10aとなるブレーキディスク10と、上記軸受台ハウジング2の外周端部の外方内側面に取り付けられ、制動面10aと対向するブレーキシュー11aが設けられたブレーキ装置11と、上記綱車9の内周面の両端部及び内側環状体7の外周面の両端部にそれぞれ設けられたロータ磁石12と、外方端部が上記軸受台ハウジング2の外周部内側面にそれぞれ固定され、内方端部が上記綱車9と内側環状体7との間に位置するボビン状(臼状)のスポーク8の両側部の凹部に収納され、かつ上記ロータ磁石12間に配置されたトロイダル巻線モータのステータ13とを備えた構成である。なお、図中、14は回転軸4の一端部に取り付けられたエンコ−ダ、15はエンコーダ取り付け台である。
【0009】
上記トロイダル巻線モータのステータ13は、図2に示すような構造のトロイダル巻線13aを備えており、ステータコアにエナメル線を巻き付けるため、コイルエンドが短い構成で済むものである。従って、一般的な集中巻きモータのように、極数とスロット数の組み合わせにあまり制限が無いので、高性能を確保することが容易である。そして、ステータの内周側と外周側にはそれぞれロータ磁石12が配置されており、内外両側のギャップで駆動トルクを発生するので、従来の片側のみの場合に比べ、同じ径の通常のモータに対して、同じ効率で軸方向長さを約半分にすることができる。また、第1及び第2のロータから成る2つのロータの位相差を適切にずらせば、それぞれで発生するトルクリップルがキャンセルされて低トルクリップルとすることができる。
通常のモータでは、綱車の内側にモータを配置することは、現実的に困難であるが、トロイダル巻線モータのステータ13によれば、上記のような特徴を持つことから、それが比較的容易である。図1に示すように、綱車9内部の構造物を極力縮めることにより、その部分にステータとロータ磁石を配置することができる。ステータは巻上機固定部である2つの軸受台ハウジング2に取り付けられ、その軸方向は綱車9の内部に入り込んだ構造である。また、ステータの内周側と外周側に界磁極を構成する永久磁石を、それぞれ第1のロータを構成する綱車9の内周側両端部と、第2のロータを構成する内側環状体7の外周側両端部に配置したものである。トロイダル巻線モータのステータ13は、合計2つであり、それぞれの内周側と外周側に2つの界磁極が対応する構成であるので、位置関係や結線方法などにより、即ち、各2ロータのツインモータとして、高性能で多機能なものとなり得るものである。また、ブレーキディスク10を綱車9の軸方向両端部に2枚取り付けて、ブレーキを分散して配置しているので、各個のブレーキは小型のものとなり、巻上機の外径を小さくすることができる。
【0010】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2におけるエレベータ用巻上機の概略構造を示す縦断面図である。
図3において、この発明のエレベータ用巻上機は固定軸の片持ち構造であり、片持ち構造で耐えられるよう軸荷重しか掛らないエレベータに適用できる。ベース(図示せず)に立設固定された巻上機固定部である背面板16と、この背面板16の一側中央部に固定された主軸17と、この主軸17の外周部に設けられた軸受3と、この軸受3に回転自在に支持された内側環状体7と、この内側環状体7の外側に一体的に支持された外側環状体から成る綱車9と、この綱車9の外周面に形成された綱溝9aと、この綱車9の反背面板16側の端部に固定され、その外方周端部が制動面10aとなるブレーキディスク10と、制動面10aと対向するブレーキシュー11aが設けられたブレーキ装置11と、上記綱車9の内周面及び内側環状体7の外周面にそれぞれ設けられたロータ18と、外方端部が上記背面板16の内側面に固定され、内方端部が上記綱車9と内側環状体7との間に形成された凹部に収納され、かつ上記ロータ18間に配置されたトロイダル巻線モータのステータ13とを備えた構成である。なお、図中、14は主軸4の一端部に取り付けられたエンコ−ダである。
【0011】
従って、この発明の実施の形態2のエレベータ用巻上機は、片持ち構造で耐えられるよう軸荷重しか掛らないエレベータに適用することができる。なお、上記した以外は、実施の形態1における動作、効果とほぼ同様である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機の概略構造を示す縦断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベータ用巻上機に用いられるトロイダル巻線モータの巻線部の構造を示す斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態2におけるエレベータ用巻上機の概略構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1 ベース
2 軸受台ハウジング(巻上機固定部)
3 軸受
4 回転軸
5 ボス部
6 スポーク
7 内側環状体(第2のロータ)
8 ボビン状のスポーク
9 綱車(第1のロータ)
10 ブレーキディスク
10a 制動面
11 ブレーキ装置
11a ブレーキシュー
12 ロータ磁石
13 トロイダル巻線モータのステータ
13a トロイダル巻線
14 エンコーダ
15 エンコーダ取り付け台
16 背面板(巻上機固定部)
17 主軸
18 ロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主索が巻き掛けられる綱車と、この綱車を駆動するためにロータが綱車に設けられ、かつステータが巻上機固定部に設けられたモータと、綱車に制動力を付与するためのブレーキ装置とを備えたエレベータ用巻上機において、
前記モータは、複数のトロイダル巻線を備えたトロイダル巻線モータであって、
前記トロイダル巻線モータのロータは、前記綱車を構成する第1のロータの内周面及び第1のロータの内側に所定の間隔を置いて配置された第2のロータの外周面にそれぞれ配置され、
前記トロイダル巻線モータのステータは、その一部が前記巻上機固定部に固定され、前記第1のロータ部の内周面と前記第2のロータの外周面との間に形成される空間内に収容配置されたことを特徴とするエレベータ用巻上機。
【請求項2】
トロイダル巻線モータのロータは、綱車を構成する第1のロータの内周面両端部及び第2のロータの外周面両端部にそれぞれ配置され、
トロイダル巻線モータのステータは、その一部が巻上機固定部に両側にそれぞれ固定され、前記第1のロータ部の内周面両側と前記第2のロータの外周面両側との間に形成される少なくとも2つの空間内それぞれ収容配置されたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ用巻上機。
【請求項3】
綱車を構成する第1のロータの軸方向両端部に、それぞれブレーキディスクを取り付けたことを特徴とする請求項2記載のエレベータ用巻上機。
【請求項4】
綱車を挟んでその両側に軸受台を備え、トロイダル巻線モータのステータは、それぞれの軸受台に分割して取り付けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエレベータ用巻上機。
【請求項5】
綱車を挟んでその一方に軸受を、また他方に背面板を備え、トロイダル巻線モータのステータは、前記背面板側に取り付けたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ用巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−27803(P2006−27803A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208434(P2004−208434)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】