説明

エレベータ装置

【課題】かごの停止時における被検出体検出器の被検出体に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができ、コストの低減化を図ることができるエレベータ装置を得る。
【解決手段】ドアゾーン位置検出装置26は、昇降路1内に設けられたプレート27と、かご2に設けられ、プレート27を検出するプレート検出器28とを有している。巻上機5には、かご2の移動距離及び速度のそれぞれを検出するための巻上機エンコーダ15が設けられている。診断装置41の演算比較部は、位置検出装置26及び巻上機エンコーダ15からの情報に基づいて、かご2の速度が0であるときと、プレート検出器28の検出及び非検出が切り替わるときとの間におけるかご2の移動距離を求め、求めた移動距離と基準値とを比較する。診断装置41は、演算比較部の算出結果に基づいて、かご2の停止時におけるプレート検出器28のプレート27に対する位置を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、昇降路内及びかごのいずれか一方に設けられた被検出体と、昇降路内及びかごのいずれか他方に設けられ、被検出体を検出する被検出体検出器とを有し、被検出体検出器が被検出体を検出することによりかごの位置を検出するエレベータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータ装置では、かごがドア開閉ゾーン内で停止されているときに、かごの戸が乗場の戸に係合してエレベータ出入口が開閉可能になるようになっている。従来、かごがドア開閉ゾーン内に停止されているか否かを検出するために、ドア開閉ゾーンに応じた長さを持つドアゾーンプレートを昇降路内の各階床に応じた位置に設け、ドアゾーンプレートを検出するドアゾーンプレート検出器をかごに設けたエレベータが知られている。このような従来のエレベータでは、例えばドアゾーンプレートの位置がずれている場合やブレーキ装置の不具合がある場合等に、階床に対するかごの停止位置がずれてかご床と乗場床との間に段差が生じてしまうおそれがある。
【0003】
従来、かごの停止位置がずれることを防止するために、かごが停止しているときから、かごを移動させて、ドアゾーンプレート検出器によるプレートの検出が解除されるときまでのかごの移動距離を測定し、測定した移動距離と理論値とを比較することにより、ドアゾーンプレートの位置が正常であるか否かを診断するエレベータの調整保守装置が提案されている。
【0004】
従来のエレベータにおける診断は、以下のようにして行われる。即ち、まず保守員が、かごを移動させながらかご床を乗場床に正確に一致させてかごを階床に停止させる。かごが階床に停止している状態では、検出器がドアゾーンプレートを検出している。この後、保守員は、かご床を乗場床に正確に一致させたことを示すレベル確認信号を調整保守装置に入力した後、ドアゾーンプレート検出器によるドアゾーンプレートの検出が解除されるまで、かごを低速で移動させる。調整保守装置では、レベル確認信号を受信したときから、ドアゾーンプレート検出器によるドアゾーンプレートの検出が解除されるまでのかごの移動距離が測定され、測定された移動距離とあらかじめ設定された理論値とが比較される。これにより、ドアゾーンプレートの位置が正常であるか否かが診断される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−252479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような従来のエレベータでは、レベル確認信号を発生させる信号発生装置を新たに追加し、レベル確認信号を受けるための入力回路を調整保守装置に設ける必要があるので、装置全体として高価となり、コストの低減化を図ることができない。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、かごが階床に停止しているときの被検出体検出器の被検出体に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができ、コストの低減化を図ることができるエレベータ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るエレベータ装置は、所定の長さを持ちかごの移動方向に沿って配置される被検出体と、被検出体を検出する被検出体検出器とを有し、被検出体及び被検出体検出器のいずれか一方がかごに設けられ、他方が複数の階床のそれぞれに対応する昇降路内の位置に設けられた位置検出装置、かごの移動距離を検出する距離検出装置、かごの速度を検出する速度検出装置、及び位置検出装置、距離検出装置及び速度検出装置のそれぞれからの情報に基づいて、かごの速度が0となっているときと、被検出体に対する被検出体検出器の検出及び非検出が切り替わるときとの間におけるかごの移動距離を求め、求めた移動距離とあらかじめ設定された基準値とを比較する演算比較部を有し、演算比較部による算出結果に基づいて、かごが階床に停止しているときの被検出体検出器の被検出体に対する位置が正常であるか否かを診断する診断装置を備えている。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係るエレベータ装置では、診断装置の演算比較部が、かごの速度が0になっているときに、かごが階床に着床しているものと判断するようになっているので、従来のような専用の信号発生装置を設けずに、かごの停止時における被検出体検出器の被検出体に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができる。これにより、部品点数の削減を図ることができ、エレベータ装置全体の簡素化を図ることができる。従って、かごが階床に停止しているときの被検出体検出器の被検出体に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができるとともに、コストの低減化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1によるエレベータ装置を示す構成図である。
【図2】図1のドアゾーン位置検出装置の構成を示す拡大図である。
【図3】図2のドアゾーン位置検出装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるエレベータ装置を示す構成図である。図において、昇降路1内には、かご2及び釣合おもり3が上下方向へ移動可能に設けられている。かご2は昇降路1内に設置された一対のかごガイドレール(図示せず)により案内され、釣合おもり3は昇降路1内に設置された一対の釣合おもりガイドレール(図示せず)により案内される。また、かご2及び釣合おもり3は、懸架体4により昇降路1内に吊り下げられている。懸架体4としては、例えばロープやベルト等が用いられている。
【0012】
昇降路1内の底部(ピット)には、かご2及び釣合おもり3を移動させる駆動力を発生する巻上機(駆動装置)5が設けられている。巻上機5は、モータを含む巻上機本体6と、懸架体4が巻き掛けられ、巻上機本体6により回転される駆動シーブ7とを有している。
【0013】
かご2の下部には一対のかご吊り車8が設けられ、釣合おもり3の上部には釣合おもり吊り車9が設けられている。昇降路1内の上部には、2つのかご側返し車10、釣合おもり側返し車11、第1の綱止め装置12及び第2の綱止め装置13が設けられている。
【0014】
懸架体4の一端部は第1の綱止め装置12に接続され、懸架体4の他端部は第2の綱止め装置13に接続されている。懸架体4は、第1の綱止め装置12から、かご吊り車8、かご側返し車10、駆動シーブ7、釣合おもり側返し車11及び釣合おもり吊り車9の順に巻き掛けられ、第2の綱止め装置13に達している。かご2及び釣合おもり3は、駆動シーブ7の回転により昇降路1内を移動される。
【0015】
巻上機本体6には、駆動シーブ7に制動力を与えるブレーキ装置14と、駆動シーブ7の回転に応じた信号(パルス信号)を発生する巻上機エンコーダ(移動距離検出器)15とが設けられている。
【0016】
昇降路1内の上部には調速機16が設けられ、昇降路1内の下部には張り車17が設けられている。調速機16は、調速機シーブ18を有している。調速機シーブ18及び張り車17間には、調速機ロープ19が巻き掛けられている。調速機ロープ19の一端部及び他端部は、かご2の下部に設けられた共通の接続レバー20に接続されている。これにより、調速機ロープ19は、昇降路1内にループ状に張られている。
【0017】
調速機ロープ19は、かご2とともに移動される。調速機シーブ18は、調速機ロープ19の移動に応じて回転される。調速機16には、調速機シーブ18の回転に応じた信号(パルス信号)を発生する調速機エンコーダ(移動距離検出器)21が設けられている。従って、調速機エンコーダ21からの信号は、かご2の移動に応じた信号となっている。
【0018】
調速機16は、調速機シーブ18の回転速度が所定の第1の設定過速度に達したときに巻上機5への給電を停止する停止動作を行い、調速機シーブ18の回転速度が第1の設定過速度よりも大きな第2の設定過速度に達したときに調速機ロープ19を把持するロープ把持動作を行う。調速機16が停止動作を行うことにより、巻上機本体6のモータの駆動が停止され、ブレーキ装置14が駆動シーブ7に制動力を与える制動動作を行う。また、かご2の移動中に調速機16がロープ把持動作を行うことにより、接続レバー20がかご2に対して変位される。
【0019】
かご2の下部には、接続レバー20と連動する非常止め装置22が設けられている。非常止め装置22は、接続レバー20のかご2に対する変位により動作され、各かごガイドレールを把持する。非常止め装置22によるかごガイドレールの把持により、制動力がかご2に直接与えられる。
【0020】
かご2には、かご出入口(エレベータ出入口)23が設けられている。かご出入口23は、一対のかごの戸24の移動により開閉される。各かごの戸24は、かご2に搭載されたドア駆動装置(図示せず)の駆動力によりかご2に対して移動される。また、かご2には、かご出入口23が閉じている状態であるか否かを検出する戸閉検出器25が設けられている。
【0021】
各階床の乗場には、図示しない乗場出入口(エレベータ出入口)が設けられている。各乗場出入口は、一対の乗場の戸(図示せず)の移動により開閉される。
【0022】
かごの戸24及び乗場の戸には、かごの戸24及び乗場の戸を互いに係合させるための係合装置(図示せず)が設けられている。かごの戸24及び乗場の戸は、階床ごとに設定されたドア開閉ゾーン内にかご2があるときにのみ、係合装置により係合される。従って、かご2がドア開閉ゾーン内に停止しているときには、乗場の戸は係合装置によりかごの戸24に係合されながら、かごの戸24とともに移動可能になっている。かご出入口23及び乗場出入口は、乗場の戸がかごの戸24に係合されながらかごの戸24とともに移動されることにより開閉される。かご出入口23及び乗場出入口は、乗場の戸及びかごの戸24の移動によって開くことにより、かご2内及び乗場を連通する。
【0023】
かご2がドア開閉ゾーン内にあるか否かの検出は、ドアゾーン位置検出装置26により行われる。ドアゾーン位置検出装置26は、昇降路1内の各階床に対応する位置にそれぞれ設けられた複数のドアゾーンプレート(被検出体)27と、かご2に設けられ、かご2がドア開閉ゾーン内にあるときにドアゾーンプレート27を検出するドアゾーンプレート検出器(被検出体検出器)28とを有している。
【0024】
各ドアゾーンプレート27は、ドア開閉ゾーンの長さに応じた長さ(所定の長さ)を持つプレートである。各ドアゾーンプレート27は、かご2の移動方向に沿った共通の直線上に配置されている。各ドアゾーンプレート27は、昇降路1の内壁に固定されている。
【0025】
ドアゾーンプレート検出器28は、かご2がドア開閉ゾーン内にあるときに、かご2が存在するドア開閉ゾーンに対応するドアゾーンプレート27を検出する。かご2がドア開閉ゾーンから外れると、ドアゾーンプレート検出器28はドアゾーンプレート27を検出しなくなる。即ち、ドアゾーンプレート検出器28は、かご2がドア開閉ゾーン内にあるときに検出状態となり、かご2がドア開閉ゾーン外にあるときに非検出状態となる。ドアゾーンプレート検出器28が検出状態であるときにはドアゾーン検出信号がドアゾーンプレート検出器28から発生し、ドアゾーンプレート検出器28が非検出状態であるときにはドアゾーンプレート検出器28からのドアゾーン検出信号は発生しない。
【0026】
ここで、図2は、図1のドアゾーン位置検出装置26の構成を示す拡大図である。また、図3は、図2のドアゾーン位置検出装置26を示す平面図である。図に示すように、ドアゾーンプレート検出器28は、一対のドアゾーンセンサ(上部ドアゾーンセンサ29及び下部ドアゾーンセンサ30)を有している。各ドアゾーンセンサ29,30は、かご2の移動方向について互いに間隔を置いて配置されている。
【0027】
各ドアゾーンセンサ29,30のそれぞれは、光を照射する投光部31と、投光部31からの光を受ける受光部32とを有している。投光部31及び受光部32は、水平方向について互いに対向している。
【0028】
ドアゾーンプレート27は、かご2の移動方向に沿ってドアゾーン位置検出装置26を見たとき、投光部31と受光部32との間に配置されている(図3)。従って、ドアゾーンプレート27は、かご2の移動により投光部31と受光部32との間に挿入可能になっている。
【0029】
投光部31からの光は、投光部31と受光部32との間にドアゾーンプレート27が挿入されることにより遮蔽される。各ドアゾーンセンサ29,30は、投光部31からの光が遮蔽されることによりドアゾーンプレート27を検出する。即ち、各ドアゾーンセンサ29,30のそれぞれは、光学式のセンサとされている。従って、各ドアゾーンセンサ29,30のそれぞれにおいて投光部31と受光部32との間の領域は、ドアゾーンプレート27を検出する検出領域となっている。
【0030】
かご2が上方へ移動しながらドア開閉ゾーン内に入るときには、上部ドアゾーンセンサ29及び下部ドアゾーンセンサ30の順にドアゾーンプレート27を検出する。かご2が下方へ移動しながらドア開閉ゾーン内に入るときには、下部ドアゾーンセンサ30及び上部ドアゾーンセンサ29の順にドアゾーンプレート27を検出する。かご2がドア開閉ゾーン内にあるときには、各ドアゾーンセンサ29,30のいずれもドアゾーンプレート27を検出している。即ち、ドアゾーンプレート検出器28は、各ドアゾーンセンサ29,30がいずれもドアゾーンプレート27を検出することにより検出状態となり、ドアゾーン検出信号を発生する。
【0031】
昇降路1内の上部には、図1に示すように、最上階におけるかご2の行き過ぎを検出する上方ファイナルリミットスイッチ(上方行過ぎ制限スイッチ)33と、上方ファイナルリミットスイッチ33の位置よりも下方の位置である上方基準位置に配置され、かご2が上方基準位置に達したことを検出する上方基準位置スイッチ34とが設けられている。
【0032】
昇降路1内の下部には、最下階におけるかご2の行き過ぎを検出する下方ファイナルリミットスイッチ(下方行過ぎ制限スイッチ)35と、下方ファイナルリミットスイッチ35の位置よりも上方の位置である下方基準位置に配置され、かご2が下方基準位置に達したことを検出する下方基準位置スイッチ36とが設けられている。
【0033】
上方ファイナルリミットスイッチ33、上方基準位置スイッチ34、下方ファイナルリミットスイッチ35及び下方基準位置スイッチ36のそれぞれは、かご2に設けられた図示しないカムに操作されることにより、かご2の位置を検出する。即ち、上方ファイナルリミットスイッチ33、上方基準位置スイッチ34、下方ファイナルリミットスイッチ35及び下方基準位置スイッチ36のそれぞれは、接触式のスイッチとされている。
【0034】
なお、最上階における行き過ぎを検出する位置、上方基準位置、下方基準位置及び最下階における行き過ぎを検出する位置のそれぞれの位置にカムを設け、各カムに操作される共通の接触式のスイッチをかご2に設けるようにしてもよい。
【0035】
昇降路1内の底部には、かご2の下方に位置するかご緩衝器37と、釣合おもり3の下方に位置する釣合おもり緩衝器38とが設けられている。
【0036】
巻上機エンコーダ15、調速機エンコーダ21、戸閉検出器25、ドアゾーンプレート検出器28、上方ファイナルリミットスイッチ33、上方基準位置スイッチ34、下方ファイナルリミットスイッチ35及び下方基準位置スイッチ36のそれぞれからの情報は、昇降路1内に設けられた制御盤39へ送られる。制御盤39は、巻上機エンコーダ15、調速機エンコーダ21、戸閉検出器25、ドアゾーンプレート検出器28、上方ファイナルリミットスイッチ33、上方基準位置スイッチ34、下方ファイナルリミットスイッチ35及び下方基準位置スイッチ36のそれぞれからの情報に基づいて、エレベータの運転を制御する。制御盤39には、駆動制御装置40及び診断装置41が搭載されている。
【0037】
駆動制御装置40は、かご2内に設けられた行き先階釦(図示せず)及び各乗場に設けられた乗場釦(図示せず)の少なくともいずれかの操作によって呼び登録が行われることにより、呼び登録による目的階へかご2を移動させ、目的階に対応するドア開閉ゾーン内にかご2を停止させる。駆動制御装置40は、ドアゾーンプレート検出器28からの情報に基づいて、かご2がドア開閉ゾーン内にあるか否かを判断する。
【0038】
また、駆動制御装置40は、かご2を目的階に停止させた後、各かごの戸24を移動させてかご出入口23を開く戸開動作を行い、所定の時間の経過後に、各かごの戸24を移動させてかご出入口23を閉じる戸閉動作を行う。駆動制御装置40は、戸閉検出器25からの情報に基づいて、かごの戸24の戸閉動作が完了したか否かを判断する。駆動制御装置40は、かごの戸24の戸閉動作の完了後、次回停止階へかご2を移動させる。
【0039】
診断装置41は、かご2が階床に停止しているときのドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かを診断する。診断装置41は、巻上機エンコーダ15からの情報に基づいて、かご2の移動距離及びかご2の速度を求める。従って、この例では、巻上機エンコーダ15が、かご2の移動距離を検出する距離検出装置と、かご2の速度を検出する速度検出装置とを兼ねている。
【0040】
また、診断装置41は、演算比較部を有している。演算比較部は、ドアゾーンプレート検出器28がドアゾーンプレート27を検出している状態でかご2の速度が0になっているとき、及びドアゾーンプレート検出器28がドアゾーンプレート27を検出している状態でかごの戸24の戸閉動作が完了したときの少なくともいずれかのときに、かご2が階床に着床しているものと判断する。
【0041】
演算比較部は、かご2が階床に着床しているものと判断したときから、かご2の移動によりドアゾーンプレート検出器28の状態が検出から非検出に切り替わるときまでのかご2の移動距離を求め、求めた移動距離とあらかじめ設定された基準値とを比較する。
【0042】
診断装置41は、演算比較部による算出結果に基づいて、かご2が階床に停止しているときのドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かを診断する。即ち、診断装置41は、演算比較部により求めた移動距離と基準値との差が所定の閾値よりも小さいときにエレベータが正常であるとの診断(正常診断)を行い、演算比較部により求めた移動距離と基準値との差が所定の閾値以上であるときにエレベータが異常であるとの診断(異常診断)を行う。診断装置41が異常診断を行ったときには、中断信号が診断装置41から駆動制御装置40へ送られ、駆動制御装置40によりエレベータの運転が中断される。
【0043】
次に、診断手順について説明する。エレベータの診断は、保守員による保守作業時に行われる。まず保守員は、図示しない運転モード切替キーを操作することにより、エレベータの運転モードを通常運転モードから保守運転モードに切り替える。これにより、保守員の手動操作でかご2を移動させる手動運転が可能となる。
【0044】
この後、保守員は、乗場からかご2内に乗車し、かご2内の手動運転スイッチを操作しながらかご2を最下階へ移動させ、かご2を最下階に停止させる。このとき、ドアゾーンプレート検出器28はドアゾーンプレート27を検出している検出状態となる。保守員は、かご2を階床に停止させるときに、かご床が乗場床に一致するように手動運転スイッチの操作によりかご2の停止位置を調整する。この後、保守員は、かご2を階床に停止させた状態で、かご2内の操作スイッチの操作によりかごの戸24の戸開動作を行った後、戸閉動作を行う。
【0045】
かごの戸24の戸閉動作が完了すると、保守員は、かご2を上方へ移動させる。これにより、最下階に対応するドアゾーンプレート27の範囲内からドアゾーンプレート検出器28が外れ、ドアゾーンプレート検出器28が検出状態から非検出状態に切り替わる。
【0046】
この後、保守員は、最下階よりも直上の階床にかご2を停止させる。このときにも、保守員は、かご床が乗場床に一致するようにかご2の停止位置を調整する。これにより、直上の階床に対応するドアゾーンプレート27の範囲内にドアゾーンプレート検出器28が入り、ドアゾーンプレート検出器28は非検出状態から検出状態に切り替わる。
【0047】
保守員による上記の手動運転が行われることにより、診断装置41では、かご2が最下階に停止しているときのドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かの診断が行われる。
【0048】
ドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるとの診断(正常診断)が診断装置41により行われた場合には、直上の階床にかご2が着床した後にも、エレベータの保守運転が継続される。一方、昇降路1内におけるドアゾーンプレート27の位置が正常位置からずれている等の原因によって異常診断が診断装置41により行われた場合には、直上の階床にかご2が停止した後に、エレベータの保守運転が中断される。
【0049】
エレベータの保守運転が継続される場合には、保守員は、一階床ずつかご2を順次停止させながらかごの戸24の開閉動作を行う手動運転を繰り返し行う。一方、エレベータの保守運転が中断された場合には、かご2が着床されている階床の直下の階床における異常が特定される。
【0050】
次に、診断装置41の診断動作について説明する。診断装置41では、かご2が階床に停止されてかご2の速度が0になるか、又はかごの戸24の戸閉動作が完了すると、かご2が階床に着床していると判断される。
【0051】
この後、かご2の移動によってドアゾーンプレート検出器28の状態が検出から非検出に切り替わると、診断装置41の演算比較部では、かご2が階床に着床していると判断したときから、ドアゾーンプレート検出器28の状態が検出から非検出に切り替わるときまでのかご2の移動距離が求められ、求められた移動距離とあらかじめ設定された基準値とが比較されて、その差が算出される。
【0052】
この後、診断装置41では、演算比較部により求められた移動距離と基準値との差が所定の閾値よりも小さいときにエレベータが正常であるとの診断が行われ、移動距離と基準値との差が所定の閾値以上であるときにエレベータが異常であるとの診断が行われる。
【0053】
このようなエレベータ装置では、診断装置41の演算比較部が、かご2の速度が0になっているとき、及びかごの戸24の戸閉動作が完了したときの少なくともいずれかのときに、かご2が階床に着床しているものと判断するようになっているので、かご2が階床に着床していることを確認するために保守員の操作によってレベル確認信号を発生させる従来のような専用の信号発生装置を設けずに、かご2の停止時におけるドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができる。これにより、部品点数の削減を図ることができ、エレベータ装置全体の簡素化を図ることができる。従って、かご2が階床に停止しているときのドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができるとともに、コストの低減化も図ることができる。
【0054】
なお、かご2の停止位置の調整時には、同一階床でかご2を少しずつ移動させながら何度も停止させることも考えられる。この場合、かご2の速度が何度も0になることから、かご2の着床が誤って判断されるおそれがある。従って、かご2の着床についての誤った判断を防止するために、かご2の速度が同一階床で何度も0になったときには、かご2の速度が最後に0になったときにかご2が階床に着床したものと判断するようにしてもよい。
【0055】
実施の形態2.
なお、実施の形態1では、保守員の操作による手動運転によってかご2を移動させながら診断装置41による診断が行われるようになっているが、エレベータの保守運転時に手動ではなくかご2を自動的に移動させながら診断装置41による診断を行うようにしてもよい。
【0056】
実施の形態2において、保守員は、乗場からかご2内に乗車した後、かご2内の行き先階釦を操作して全階床についての呼び登録を行う。この後、かご2が最下階から上方の階床へ順に自動的に停止され、かご2が階床に停止しているときのドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かの診断が診断装置41により行われる。診断装置41による診断結果が正常である場合には、エレベータの運転が継続される。
【0057】
例えばブレーキ装置14による制動力の低下等の原因により、かご2が階床に停止しているときにドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常位置からずれてしまっている場合には、診断装置41による診断結果が異常となる。この場合には、エレベータの運転が中断される。他の構成及び動作は実施の形態1と同様である。
【0058】
このように、かご2を階床に自動的に停止させる運転を行うことにより、ドアゾーンプレート27の位置のずれだけでなく、例えばブレーキ装置14等の異常の有無も診断することができる。
【0059】
実施の形態3.
各上記実施の形態では、かご2が階床に着床していると判断したときから、ドアゾーンプレート検出器28の状態が検出から非検出に切り替わるときまでのかご2の移動距離を演算比較部が求めるようになっているが、ドアゾーンプレート検出器28の状態が非検出から検出に切り替わったときから、かご2が階床に着床していると判断するときまでのかご2の移動距離を演算比較部が求めるようにしてもよい。
【0060】
即ち、かご2が移動されてドアゾーンプレート検出器28によるドアゾーンプレート27の検出が非検出から検出に切り替わったときから、かご2が次回停止階に着床したと判断するときまでのかご2の移動距離を演算比較部が求めるようにしてもよい。
【0061】
演算比較部により求められたかご2の移動距離は、あらかじめ設定された基準値と比較され、かご2の移動距離と基準値との差が演算比較部により算出される。他の構成及び動作は実施の形態1と同様である。
【0062】
このようにしても、かご2が階床に着床していることを確認するために保守員の操作によってレベル確認信号を発生させる従来のような専用の信号発生装置を設けずに、かご2が階床に停止しているときのドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができる。
【0063】
実施の形態4.
この実施の形態では、診断装置41による診断結果を階床ごとに表示する報知装置である表示装置(インジケータ)がかご2内に設けられている。
【0064】
診断装置41による診断が行われるときのエレベータの運転は、診断装置41による診断結果が正常及び異常のいずれであっても継続される。従って、診断装置41による診断が全階床について一度に行われる。
【0065】
表示装置は、診断装置41からの情報を受ける。表示装置には、診断結果である正常及び異常のいずれかの情報と各階床とが関連付けて表示される。診断装置41による診断結果は、表示装置による表示によりかご2内に報知される。他の構成及び動作は実施の形態1と同様である。
【0066】
このようなエレベータ装置では、診断装置41による診断結果を階床ごとに表示する表示装置がかご2内に設けられているので、エレベータの運転を途中で中断しなくても、全階床についての診断結果を確認することができる。従って、複数の箇所での不具合を一括して修理することができ、保守作業の効率化を図ることができる。
【0067】
なお、上記の例では、診断装置41による診断結果がかご2内の表示装置に表示されるようになっているが、かご2内に設けられたスピーカ(報知装置)から診断装置41による診断結果を音声によって報知するようにしてもよい。
【0068】
実施の形態5.
この実施の形態では、診断装置41が各階床について診断結果を記憶する記憶部をさらに有している。記憶部に蓄積された診断結果の情報は、エレベータが運転されて診断装置41による診断が再度行われることにより書き換え可能になっている。
【0069】
診断装置41は、各階床についての診断結果の少なくともいずれかに異常があるときに、通常運転禁止指令を駆動制御装置40へ出力する。また、診断装置41は、各階床についての診断結果がすべて正常であるときにのみ、通常運転禁止指令の出力を停止する。
【0070】
駆動制御装置40は、通常運転禁止指令を受けているときにはエレベータの通常運転の実行を禁止する。また、エレベータの通常運転の禁止は、駆動制御装置40による通常運転禁止指令の受信が停止されることにより解除される。他の構成及び動作は実施の形態1と同様である。
【0071】
このようなエレベータ装置では、各階床について診断結果を記憶する記憶部を診断装置41が有しているので、エレベータの運転を途中で中断しなくても、全階床についての診断結果を確認することができる。従って、複数の箇所での不具合を一括して修理することができ、保守作業の効率化を図ることができる。また、記憶部に蓄積された各階床についての診断結果がすべて正常にならない限り通常運転の実行を禁止するようにすることにより、ヒューマンエラー(例えば保守員による修理ミスや保守員による診断結果の見逃しのミス等)の発生を防止することができる。
【0072】
実施の形態6.
この実施の形態において、診断装置41は、複数(この例では、2つ)の演算比較部と、各演算比較部による算出結果のそれぞれを比較する自己診断部とを有している。
【0073】
診断装置41には、巻上機エンコーダ15、戸閉検出器25及びドアゾーンプレート検出器28のそれぞれからの情報を受ける入力部が各演算比較部のそれぞれについて個別に設けられている。各演算比較部は、互いに異なる入力部で受けた情報に基づいて、診断のための演算を独立して行う。
【0074】
自己診断部は、各演算比較部による算出結果が互いに一致するときに診断装置41の処理動作が正常であると判断し、各演算比較部による算出結果が互いに異なるときに診断装置41の処理動作に異常があると判断する。自己診断部が異常を判断した場合には、例えばエレベータの運転の中断や診断装置41の異常を示す表示等が行われる。他の構成及び動作は実施の形態1と同様である。
【0075】
このようなエレベータ装置では、診断装置41が、複数の演算比較部と、各演算比較部による算出結果のそれぞれを比較する自己診断部とを有しているので、診断装置41による誤診断を防止することができ、診断装置41による診断の信頼性の向上を図ることができる。
【0076】
なお、各上記実施の形態では、巻上機エンコーダ15からの情報に基づいて、かご2の移動距離及びかご2の速度が求められるようになっているが、調速機エンコーダ21からの情報に基づいて、かご2の移動距離及びかご2の速度を求めるようにしてもよい。この場合、調速機エンコーダ21が速度検出装置及び距離検出装置を兼ねることとなる。
【0077】
また、各上記実施の形態では、巻上機エンコーダ15が速度検出装置及び距離検出装置を兼ねているが、かご2の速度を検出する速度検出装置と、かご2の移動距離を検出する距離検出装置とが互いに独立していてもよい。例えば、巻上機エンコーダ15を距離検出装置とし、調速機エンコーダ21を速度検出装置としてもよい。
【0078】
また、各上記実施の形態では、かご2の速度が0になっているとき、及びかごの戸24の戸閉動作が完了したときの少なくともいずれかのときに、かご2が階床に着床していると判断されるようになっているが、かご2の速度が0になっているときにのみ、かご2が階床に着床していると判断するようにしてもよいし、かごの戸24の戸閉動作が完了したときにのみ、かご2が階床に着床していると判断するようにしてもよい。このようにしても、従来のような専用の信号発生装置を設けずに、かご2が階床に停止しているときのドアゾーンプレート検出器28のドアゾーンプレート27に対する位置が正常であるか否かの診断を行うことができる。
【0079】
また、各上記実施の形態では、かご出入口23用の戸閉検出器25からの情報が診断装置41へ送られるようになっているが、乗場出入口が閉じている状態であるか否かを検出する乗場出入口用の戸閉検出器からの情報が診断装置41へ送られるようにしてもよい。また、かご出入口23及び乗場出入口のそれぞれが閉じている状態であるか否かを検出する戸閉検出器からの情報が診断装置41へ送られるようにしてもよい。
【0080】
また、各上記実施の形態では、ドアゾーンプレート27が昇降路1内に設けられ、ドアゾーンプレート検出器28がかご2に設けられているが、ドアゾーンプレート27をかご2に設け、ドアゾーンプレート検出器28を昇降路1内に設けてもよい。この場合、ドアゾーンプレート検出器28は各階床に対応する位置のそれぞれに配置される。
【0081】
また、各上記実施の形態では、診断装置41による診断の対象が、ドア開閉ゾーン内にかご2があるか否かを検出するドアゾーン位置検出装置26とされているが、かご床と乗場床との間の段差補正が可能なリレベルゾーン内にかご2があるか否かを検出するリレベルゾーン位置検出装置を診断装置41による診断の対象としてもよい。この場合、リレベルゾーン位置検出装置は、ドアゾーンプレートよりも短いリレベルゾーンプレート(被検出体)と、リレベルゾーンプレートを検出するリレベルゾーンプレート検出器(被検出体検出器)とを有している。リレベルゾーンプレート及びリレベルゾーンプレート検出器は、ドアゾーンプレート及びドアゾーンプレート検出器に対して水平方向へずらして配置される。
【符号の説明】
【0082】
1 昇降路、2 かご、15 巻上機エンコーダ(距離検出装置及び速度検出装置)、25 戸閉検出器、26 ドアゾーン位置検出装置(位置検出装置)、27 ドアゾーンプレート(被検出体)、28 ドアゾーンプレート検出器(被検出体検出器)、41 診断装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の長さを持ちかごの移動方向に沿って配置される被検出体と、上記被検出体を検出する被検出体検出器とを有し、上記被検出体及び上記被検出体検出器のいずれか一方が上記かごに設けられ、他方が複数の階床のそれぞれに対応する昇降路内の位置に設けられた位置検出装置、
上記かごの移動距離を検出する距離検出装置、
上記かごの速度を検出する速度検出装置、及び
上記位置検出装置、上記距離検出装置及び上記速度検出装置のそれぞれからの情報に基づいて、上記かごの速度が0となっているときと、上記被検出体に対する上記被検出体検出器の検出及び非検出が切り替わるときとの間における上記かごの移動距離を求め、求めた上記移動距離とあらかじめ設定された基準値とを比較する演算比較部を有し、上記演算比較部による算出結果に基づいて、上記かごが上記階床に停止しているときの上記被検出体検出器の上記被検出体に対する位置が正常であるか否かを診断する診断装置
を備えていることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
所定の長さを持ちかごの移動方向に沿って配置される被検出体と、上記被検出体を検出する被検出体検出器とを有し、上記被検出体及び上記被検出体検出器のいずれか一方が上記かごに設けられ、他方が複数の階床のそれぞれに対応する昇降路内の位置に設けられた位置検出装置、
上記かごの移動距離を検出する距離検出装置、
上記かご内と乗場とを連通するエレベータ出入口が閉じているか否かを検出する戸閉検出器、及び
上記位置検出装置、上記距離検出装置及び上記戸閉検出器のそれぞれからの情報に基づいて、上記エレベータ出入口における戸閉動作が完了したときと、上記被検出体に対する上記被検出体検出器の検出及び非検出が切り替わるときとの間における上記かごの移動距離を求め、求めた上記移動距離とあらかじめ設定された基準値とを比較する演算比較部を有し、上記演算比較部による算出結果に基づいて、上記かごが上記階床に着床しているときの上記被検出体検出器の上記被検出体に対する位置が正常であるか否かを診断する診断装置
を備えていることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項3】
上記かご内に設けられ、上記診断装置による診断結果を上記階床ごとに報知する報知装置をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項4】
上記診断装置は、各上記階床について診断結果を記憶する記憶部を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエレベータ装置。
【請求項5】
上記診断装置は、複数の上記演算比較部と、各上記演算比較部による算出結果のそれぞれを比較する自己診断部とを有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−180132(P2012−180132A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153398(P2009−153398)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】