説明

エレベータ

【課題】巻上機のプランジャの吸引力をエレベータごとに個別に調整する必要がある。
【解決手段】一実施形態によれば、かごと、ロープと、シーブと、巻上機と、ブレーキドラムと、ブレーキ装置とを備え、ブレーキ装置は制動部材と、アームと、アームによるドラム外周面への制動力を弾性力によって発生させる弾性部材と、弾性部材が発生させる弾性力に対抗する吸引力によりアームを吸引するプランジャ22、23と、プランジャ22、23が挿通する空芯を有し、通電によりプランジャ22、23に吸引力を発生させるコイル28と、コイル28を保持し、コイル28のコイル長方向を長手方向とし、巻上機に対して固定されたコイル保持体29と、コイル保持体29の長手方向の端部に設けられ、コイル28内ヘ挿入されるプランジャ22、23の長手方向についての寸法を調整する調整機構20とを備えたことを特徴とするエレベータが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態はエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの巻上機ブレーキ装置は、電磁コイルを励磁することによってプランジャを吸引し、ライニングからブレーキドラムへ制動力を与えている。電磁コイルがプランジャを吸引する吸引力は調整可能である。エレベータが設置される物件に応じて吸引力は調整される。物件とは、エレベータが設置される建物の構造、フロア内での壁、床、躯体柱などの配置構造などを指す。
【0003】
従来、ブレーキ解除時の電磁石のプランジャ吸引移動速度を制御して、衝突騒音及び振動を抑制できる電磁ブレーキ装置が知られている(例えば特許文献1参照)。ブレーキ装置の点検作業を省力化することができるとともに、ブレーキ装置の制動性能を確実に維持することができるエレベータ用ブレーキ装置点検システムも知られている(特許文献2参照)。また、制動時のアーマチュア移動開始後、アーマチュア移動速度を抑えるようにブレーキコイル電圧を制御してブレーキシューがブレーキドラムに衝突するときに発生するブレーキ動作音を低減させるエレベータのブレーキ制御装置が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−200961号公報
【特許文献2】特開2010−18359号公報
【特許文献3】国際公開第2004/028945号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の従来技術では、物件ごとに巻上機のプランジャは吸引力を調整する必要がある。個別にばねの全長や伸縮量を調整する必要がある。ばねとは、ライニングをブレーキドラムに押圧させるブレーキアームに対して回動力を与えるブレーキスプリングを指す。
【0006】
また、プランジャのストロークに比して小さめの全長を有するブレーキスプリングが巻上機ブレーキ装置に設置されている場合、電磁コイルによる吸引動作の時に勢いよくプランジャがコイルフレームに向かって吸引される。プランジャのフランジがコイルフレームと激しくぶつかり騒音が大きくなる、騒音を改善する場合、巻線へ通電したときの電流値を電気的に調整する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、一実施形態によれば、昇降路を昇降するかごと、このかごおよびカウンタウェイトを懸架するロープと、このロープが巻掛けられるシーブと、このシーブを取付ける回転軸を有する巻上機と、この巻上機の前記回転軸に連結されたブレーキドラムと、このブレーキドラムの外周面に摩擦接触し、前記シーブに制動力を与えるブレーキ装置と、を備え、このブレーキ装置は、前記外周面に当接する位置および前記外周面から離れる位置のいずれかをとる制動部材と、この制動部材が取付けられ、前記制動部材をこれらの位置のいずれかに位置させるよう前記巻上機に枢支されたアームと、このアームに対し前記制動力を弾性力により発生させる弾性部材と、この弾性部材が発生させる前記弾性力に対抗する吸引力により前記アームを吸引するプランジャと、このプランジャが挿通する空芯を有し、通電により前記プランジャに前記吸引力を発生させるコイルと、このコイルを保持し、前記コイルのコイル長方向を長手方向とし、前記巻上機に対して固定されたコイル保持体と、このコイル保持体の前記長手方向の端部に設けられ、前記コイル内ヘ挿入される前記プランジャの前記長手方向についての寸法を調整する調整機構と、を備えたことを特徴とするエレベータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係るエレベータの構成例を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るエレベータの巻上機のブレーキ作動中の状態を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るエレベータの巻上機のブレーキ解放中の状態を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。
【図5】従来の巻上機のブレーキ装置の構成図である。
【図6】第2の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。
【図7】第3の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。
【図8】第4の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。
【図9】第5の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態に係るエレベータについて、図1乃至図9を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータの構成例を示す図である。エレベータ1は、昇降路2内を昇降するかご3と、このかご3に一端が連結され、かご3を吊上げるメインロープ4と、このメインロープ4の他端に連結されたカウンタウェイト5と、一対のガイドレール6の上部に設けられた巻上機7と、エレベータ1の運行制御を行う制御部8とを備える。巻上機7は、メインロープ4が巻掛けられるシーブ9と、このシーブ9を回転させるモータ10と、シーブ9の回転を制動する巻上機ブレーキ装置11(ブレーキ装置)とを有する。巻上機7は、制御部8が出力する制御信号によってシーブ9を回転させる。巻上機7が駆動されることによって、メインロープ4を介してかご3とカウンタウェイト5とが昇降路2内をつるべ式に移動する。
【0011】
巻上機ブレーキ装置11はブレーキドラム12を有する。ブレーキドラム12は、巻上機7の回転軸13に連結されている。このエレベータ1では、巻上機7の巻上機ブレーキ装置11がブレーキ吸引力を調整する構造を有する。
【0012】
図2は巻上機ブレーキ装置11のブレーキ作動中の状態を示す図である。図3は巻上機ブレーキ装置11のブレーキ解放中の状態を示す図である。これらの図中、同じ符号を有する要素は互いに同じ要素を表す。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。
【0013】
巻上機ブレーキ装置11は電磁式のドラム式ブレーキ装置である。巻上機ブレーキ装置11は、巻上機7の回転軸13に取付けられた円筒状のブレーキドラム12と、ブレーキドラム12を回転自在に軸支するベース46と、ブレーキドラム12の外周面に接離可能にされ、このブレーキドラム12に摩擦力を加えて制動する一対のライニング14(制動部材)と、これらのライニング14を保持する一対のブレーキシュー15とを備える。
【0014】
更に巻上機ブレーキ装置11は、これらのブレーキシュー15を保持する一対のブレーキアーム16(アーム)と、各ライニング14に圧力を与えるばね17(弾性部材)と、電磁ソレノイド18とを備える。電磁ソレノイド18は励磁によって力を発生させ、ライニング14をブレーキドラム12のドラム外周面から離し、ブレーキ制動力をなくしてエレベータ1を走行可能にする。
【0015】
ブレーキドラム12はドラム外周面に制動力の作用を受ける。ベース46はガイドレール6の上方に設けられた例えば梁構造物に支持される。各ライニング14は摩擦材から成り、ドラム外周面に摩擦接触する。これらのライニング14はドラム外周面上で互いに対向する位置にてそれぞれブレーキドラム12に接触する。各ブレーキアーム16は、それぞれアーム長手方向中央部にブレーキシュー15が取付けられ、それぞれ支点ピン19を介して上端部がプランジャ22、23に固定され、下端部が水平方向に可動にされている。これらのブレーキアーム16は支点ピン19を回動中心として回動可能になっている。
【0016】
ばね17はブレーキスプリングであり、各ライニング14がブレーキドラム12の外周面に接触する方向の回動力を各ブレーキアーム16に付与する。
【0017】
電磁ソレノイド18は、通電により電磁石を構成する電磁コイル部21と、それぞれ電磁コイル部21の貫通中空部内に軸芯方向に移動自在に設けられたプランジャ22、23と、これらのプランジャ22、23及び一対のブレーキアーム16を個々に連結する一対のプッシュロッド24、25とを備える。
【0018】
電磁コイル部21は空芯コイルを有する。空芯コイルの内側あるいはコイルフレーム29の内周面は貫通中空部を構成する。コイルフレーム29は鋳物等から成る円筒状のコイル保持体であり、コイルフレーム29の内周面がプランジャガイドとして用いられている。プランジャ22、23はばね17による弾性力に対抗する吸引力によってブレーキ16を吸引する。電磁コイル部21が通電されることによってプランジャ22、23は互いに相対的に接近移動し、電磁コイル部21は吸引動作を行う。プランジャ22、23にはそれぞれ、プッシュロッド24、25を介してブレーキアーム16が連結されている。また、電磁コイル部21の下方から各ブレーキアーム16側に向かって延びる一対の支持板26が設けられている。各ブレーキアーム16は、これらの支持板26に対して支点ピン19を介して回動可能に連結されている。各ブレーキアーム16はロッド27を介してベース46に固定されている。
【0019】
電磁ソレノイド18は、プランジャ22、23に吸引力を発生させる。電磁ソレノイド18は、2本のブレーキアーム16の各上端部の間に設けられている。プッシュロッド24、25はそれぞれ左右のブレーキアーム16の各上端部に固定されている。プッシュロッド24、25は、ブレーキドラム12によって吸引されている状態から釈放される際、各ブレーキシュー15を押し開く機能を有する。
【0020】
通電の直前まで2本のブレーキアーム16はばね17により制動力を与えられている。通電により電磁ソレノイド18はプランジャ22、23を互いに接近させる。電磁ソレノイド18はこれらのブレーキアーム16を制動力に逆らって回動させる。各ブレーキアーム16は各ばね17から一対のライニング14に加えられている力に対抗する力をこれらのライニング14に付勢する。
【0021】
図4は電磁ソレノイド18の正面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。電磁コイル部21は、線材が多重及び多層に巻回された巻線28(コイル)と、この巻線28を保持するコイルフレーム29(コイル保持体)と、このコイルフレーム29の左端に設けられた右向きカップ状のロックナット30(ナット)と、コイルフレーム29の右端に設けられた左向きカップ状のロックナット31(ナット)とを備えている。プランジャ22の左端には径方向外方に張り出した形状を有するフランジ(つば)32が形成されており、プランジャ23の右端にはフランジ33が形成されている。巻線28は、プランジャ22、23を覆い、通電によりこれらのプランジャ22、23に吸引力を発生させる。コイルフレーム29の長手方向の全幅はプランジャ22、23の移動方向の巻線28のコイル長よりも大きい寸法幅を有する。
【0022】
本実施形態では、コイルフレーム29の左右両端部の外周面にそれぞれねじ部34が刻設されており、ロックナット30の開口部の内壁面と、ロックナット31の開口部の内壁面とには、各ねじ部34と螺合するねじ部35がそれぞれ刻設されている。コイルフレーム29の両端部のねじ構造によって、このコイルフレーム29に対するロックナット30の位置と、コイルフレーム29に対するロックナット31の位置とがそれぞれ調節可能になっている。寸法Bを変えることにより、プランジャ22の外周面が巻線28内の貫通中空部ヘ挿入される左右方向の寸法と、プランジャ23の外周面が貫通中空部ヘ挿入される左右方向寸法とが調整可能になっている。この寸法Bは、コイルフレーム幅(コイルフレーム29の左右全幅)と、左右に挿入された調整寸法とを含む。
【0023】
また、フランジ32は左方を向くフランジ面32aと、このフランジ面32aと反対側の環状フランジ面32bとを有する。ロックナット30は開口部の外壁面に連続する外側の端面30aを有し、この端面30aが環状フランジ面32bに対峙する。コイルフレーム29に対して固定された端面30aに環状フランジ面32bが突き当たることにより、プランジャ22の巻線28内への挿入寸法が調節される。挿入寸法とは、貫通中空部のうち、プランジャ22が挿入された空間の左右方向の寸法を指す。この挿入寸法は例えばコイルフレーム29へプランジャ22が挿入された部分を示すL寸法によって表してもよい。フランジ33もフランジ面33a、環状フランジ面33bを有する。ロックナット31の端面31aは環状フランジ面33bに対峙する。コイルフレーム29に対して固定された端面31aに環状フランジ面33bが突き当たることにより、プランジャ23の巻線28内への挿入寸法が調節される。
【0024】
また、フランジ32、33と、ねじ部34、35と、ロックナット30、31とは調整機構20を構成する。調整機構20はコイルフレーム29の左右両端部に位置し、プランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法を調整する。ロックナット30はねじ部35及び端面30aの間に厚みを有する。ロックナット31もねじ部35及び端面31aの間に厚みを有する。
【0025】
左方の調整機構20について更に述べる。ロックナット30はコイルフレーム29と同軸状に設けられる。ロックナット内壁面の内径は、コイルフレーム外周面の外径と、径方向のねじ係合代とに応じて決められる。コイルフレーム29の左端の外周面には例えば螺旋状の雄ねじが形成され、ロックナット30の内壁面にはこの雄ねじに係合する螺旋状の雌ねじが形成されている。コイルフレーム29の外周面上に例えばけがき線を付しておき、このけがき線を寸法計測時の基準としてロックナット30を人が手で回すことにより、雌ねじの螺合量が大きく、あるいは小さくされる。螺合量を大きくすると、ロックナット30はコイルフレーム29に対して近づく。L寸法は小さくされ、ロックナット30の出代は小さくされる。螺合量を小さくすると、ロックナット30はコイルフレーム29から離れる。L寸法は大きくされ、出代は大きくされる。右方の調整機構20も左方の例と同じである。
【0026】
L寸法を調整すると、巻線28に対するプランジャ22、23の挿入寸法が変えられて、吸引力が調整される。強磁性体である鉄体の挿入寸法が大きければ大きいほど、鉄体の挿入容積が大きくされるため、小さい電流でも強い吸引力が得られるようになっている。また、左側のねじ部34のねじ山の巻き方向と、右側のねじ部34のねじ山の巻き方向とは互いに逆にされている。
【0027】
このような構成の本実施形態に係るエレベータ1は図2に示すように、各ブレーキシュー15がばね17の力により、ブレーキアーム16を介してブレーキドラム12のドラム外周面に対して押圧される。ドラム外周面と、ブレーキシュー15に固定された各ライニング14との摩擦力により、巻上機7の回転軸13を保持して、かご3の上下方向の移動を停止させる。
【0028】
また、巻上機ブレーキ装置11のブレーキドラム12によって吸引されている状態から釈放する場合、制御部8は電磁ソレノイド18に対して駆動電流を流す旨の制御信号を送る。電磁ソレノイド18の電磁力によりプッシュロッド24、25のうち一方又は両方をばね17の力に抗して水平外側に移動させる。ドラム外周面に各ブレーキシュー15が押圧された状態を解き放つことができる。これらのブレーキシュー15をドラム外周面から離すことにより、ブレーキドラム12の保持状態は開放される。
【0029】
また、エレベータ1が停止しているときにおいて、巻上機ブレーキ装置11がかご3の位置を保つために、各ライニング14と、ブレーキドラム12との間の当たりの大きさが決められた押圧力になるように予め電磁コイル部21のB寸法あるいはL寸法が調整される。調整は人の手により行われる。ライニング14及びブレーキドラム12間の間隔が狭くなり過ぎないように電磁コイル部21による吸引力の大きさが決められる。更にブレーキドラム12が開放した後もライニング14及びブレーキドラム12が接触し且つ保持力が巻上機7の回転トルクを下回ることが起きないように電磁コイル部21による吸引力の大きさが決められる。
【0030】
これによって、上記のねじ構造を有する電磁コイル部21へのプランジャ22、23の挿入寸法を調節でき、同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法を深くすることにより吸引力を上げることができる。同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法を浅くすることにより吸引力を下げることができる。例えばライニング14が回転しているブレーキドラム12と擦れ合って、ライニング14の接触箇所に磨耗が生じないようにできる。
【0031】
また、ライニング14及びブレーキドラム12間の間隔が広くならないように予め電磁コイル部21のB寸法あるいはL寸法が調整される。ライニング14がブレーキドラム12に対して停止時に必要な保持力が不足することが起きないように予め電磁コイル部21のB寸法あるいはL寸法が調整される。
【0032】
これによって、巻線28内へのプランジャ22、23の挿入寸法を調節でき、同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法を深くすることにより吸引力を上げることができる。同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法を浅くすることにより吸引力を下げることができる。万が一にもブレーキドラム12が滑ってかご3が動くことがないようにできる。保持力不足によって且つライニング14及びブレーキドラム12が接触せず、これらの接触箇所に磨耗が生じない。
【0033】
ロックナット30、31をそれぞれ所定量締め込むことにより、コイルフレーム29、ロックナット30間の幅寸法Bを小さくすることができる。ロックナット30、31をそれぞれ所定量緩めることにより、幅寸法Bを大きくすることができる。この操作により、コイルフレーム29とプランジャ22とが重なる部分の寸法Lを調整することができ、電磁コイル部21への通電時の吸引力も調整することができる。プランジャ23についても同様である。このようにして、巻上機ブレーキ装置11のブレーキ制動力を作動させるばね力に応じて吸引力を調整することができるようになる。
【0034】
B寸法あるいはL寸法を調整可能としておくことにより、制動力、すなわちばね力に応じた大きさの吸引力に電磁コイル部21を設定することができる。エレベータ1はこのエレベータ1が設置される物件の仕様に合わせて制動力を個別に調整することができるようになる。
【0035】
図5は従来のドラム式ブレーキの巻上機ブレーキ装置の構成図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。電磁コイル70は、コイルフレーム71と、このコイルフレーム71に巻回された巻線72とを有する。電磁コイル70の巻線72への通電と、非通電とを切替えることにより、プランジャ73を直線運動させる。プランジャ73は支点ピン74を介してブレーキアーム75をブレーキドラム78の外周面に対して回転運動させるようにしている。
【0036】
巻線72が通電されていない場合、ライニング76は、縮小されたばね77の弾性反発力によりブレーキドラム78に押し付けられトルクを発生させている。巻線72が通電されると、電磁吸引力によりプランジャ73はコイルフレーム71に吸引される。プランジャ73のフランジ79の部分とコイルフレーム71とは密着し、A寸法は0ミリメートルとなる。プランジャ73に吸引されたアーム75は支点ピン74を支点として回転運動し、ライニング76がブレーキドラム78から離れ、トルクがなくなる。
【0037】
この従来の技術では、ばね77が押し縮められているときのばね77の全長を小さめに設定している場合、電磁コイル70が吸引動作の時に、勢いよくプランジャ73が吸引される。フランジ79の環状フランジ面と、コイルフレーム71の端部とが激しくぶつかり騒音が大きくなる。ばね77によるばね力の調整値が十分でないと、エレベータ1が昇降を開始するときに、これらの環状フランジ面及びコイルフレーム端部が金属接触してガン、コーンといった騒音がかご室内に響くことがある。また騒音を改善する場合、巻線72へ通電したときの電流値を電気的に調整する必要がある。
【0038】
これに対して、本実施形態に係るエレベータ1は、ねじ構造と、ロックナット30、31の追加とにより挿入寸法を調整しているため、ばね17によるばね力とは別個に吸引力を調節することができる。ねじ構造により、吸引力を予め調節することができ、ばね17によるばね力の調整値が十分でないときに生じる騒音の発生が抑えられる。
【0039】
騒音を改善する場合、電磁コイル部21へ通電したときの電流値を制御部8は電気的に調整する必要があるが、本実施形態によれば、電気的に電流値を変えずに騒音発生を防止できる。本実施形態によれば、吸引力を調整する手法として、電磁コイル部21へのプランジャ22、23の挿入寸法を調節することによっても吸引力を調整することができるようになる。
【0040】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るエレベータは、電磁ソレノイドが電磁ソレノイド18と異なる構成を有する。このエレベータのそれ以外の構成は、エレベータ1の構成と実質同じである。
【0041】
図6は第2の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。
【0042】
電磁ソレノイド18Aはコイルフレーム29の左右両端部に設けられた調整機構20Aを有する。この調整機構20Aはフランジ32、33と、複数箇所のボス部36と、これらのボス部36に螺合するねじ37とを有する。ボス部36はコイルフレーム29の端面より穿設されている。ねじ37はねじ軸とねじ頭とを持つ。ねじ軸にはねじ部が刻設されている。各ねじ頭は環状フランジ面32b、33bに突き当たる。各ねじ37のねじ軸長さによって、調整機構20Aは、プランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法を調整する。
【0043】
このような構成の本実施形態に係るエレベータは、ねじ37を予め締め込み、あるいは緩めておくことにより、コイルフレーム29外方へ向かうねじ37の出代を調整することが可能となる。この構成により、コイルフレーム29へのプランジャ22、23の挿入寸法Lを調整することができ、電磁コイル部21の通電時の吸引力も調整することができる。
【0044】
見かけ上コイルフレーム幅、すなわちプランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法が調整可能になる。同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法を深くすることにより吸引力を上げることができ、挿入寸法を浅くすることにより吸引力を下げることができる。
【0045】
また、ばね17の弾性反発力に応じた吸引力に設定することができる。電磁コイル部21の電流値を変えずに騒音発生を防止できる。
【0046】
(第3の実施形態)
電磁ソレノイドの構成は種々変更可能である。図4の例のねじ構造をプランジャ22、23のフランジ部分にそれぞれ設け、プランジャ22、23の各外周面にねじ部を設けてもよい。
【0047】
図7は第3の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。電磁ソレノイド18Bはコイルフレーム29の左右両端部に設けられた調整機構20Bを有する。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。図7に示す要素以外の要素について本実施形態に係るエレベータは、第1の実施形態のエレベータ1の構成要素と同じ構成要素を有する。
【0048】
調整機構20Bは、それぞれねじ部38を周壁部に形成されたフランジ32、33と、それぞれねじ部39を内壁面に形成されたロックナット40、41とを備える。ねじ部38、39は互いに螺合する。コイルフレーム29の左端に設けられたロックナット40は左向きカップ状であり、右端のロックナット41は右向きカップ状である。これらのロックナット40、41はそれぞれコイルフレーム29の端部あるいは周縁部に突き当たる端面40a、41aを有する。ロックナット40はねじ部39及び端面40a間に厚みを有し、ロックナット41はねじ部39及び端面41a間に厚みを有する。これらの厚みによってプランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法が調整されるようにされている。
【0049】
このような構成の本実施形態に係るエレベータは、ロックナット40、41を人が手で回転させることによって、B寸法を調整することができる。同様にコイルフレーム29へのプランジャ22、23の各挿入寸法Lを調整することができ、電磁コイル部21の通電時の吸引力も調整することができる。ばね17の弾性反発力に応じた吸引力に設定することができ、電磁コイル部21の電流値を変えずに騒音発生を防止できる。
【0050】
フランジ32、33が周壁にねじ構造を設けることにより、プランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法が調整可能になる。同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法を深くすることにより、吸引力を上げることができ、挿入寸法を浅くすることにより、吸引力を下げることができる。
【0051】
(第4の実施形態)
図6の例の調整機構20Aの構造をプランジャ22、23のフランジ部分に設けてもよい。
【0052】
図8は第4の実施形態に係るエレベータの電磁ソレノイドの正面図である。電磁ソレノイド18Cはコイルフレーム29の左右両端部に設けられた調整機構20Cを有する。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。図8に示す要素以外の要素について本実施形態に係るエレベータは、第1の実施形態のエレベータ1の構成要素と同じ構成要素を有する。
【0053】
調整機構20Cは、フランジ32、33と、複数箇所のボス部42と、これらのボス部42に螺合するねじ43とを有する。ボス部42はフランジ32、33の環状フランジ面32b、33bより穿設されている。ねじ43のねじ頭はコイルフレーム29の端部又は周縁部に突き当たる。各ねじ43のねじ軸長さによって、調整機構20Cは、プランジャ22、23の巻線28内ヘの挿入寸法を調整する。
【0054】
このような構成の本実施形態に係るエレベータは、ねじ43を予め締め込み、あるいは緩めておくことにより、コイルフレーム29内方へ向かうねじ43の出代を調整することが可能となる。この構成により、コイルフレーム29へのプランジャ22、23の挿入寸法Lを調整することができ、電磁コイル部21の通電時の吸引力も調整することができる。
【0055】
環状フランジ面32b、33bに設けられたねじ43の出代により、プランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法が調整可能になる。同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法を深くすることにより、吸引力を上げることができ、浅くすることにより、吸引力を下げることができる。
【0056】
(第5の実施形態)
フランジ32、33と、コイルフレーム29との間にシムなどの寸法調整部材を挿入してもよい。
【0057】
図9は第5の実施形態に係るエレベータに用いられる電磁ソレノイドの正面図である。電磁ソレノイド18Dはコイルフレーム29の左右両端部に設けられ調整機構20Dを有する。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。図9に示す要素以外の要素について本実施形態に係るエレベータは、第1の実施形態のエレベータ1の構成要素と同じ構成要素を有する。
【0058】
調整機構20Dは、フランジ32、33と、多層に重ねられた複数枚のシム45とを有する。これらのシム45は、環状フランジ面32b、33bと、コイルフレーム29の端部又は周縁部との間の寸法を調整するシム45の枚数を調整することにより、所望する寸法が挿入されるようになっている。
【0059】
このような構成により、プランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法が調整可能になる。同じ電流値でも、プランジャ22、23の巻線28ヘの挿入寸法を深くすることにより、吸引力を上げることができ、挿入寸法を浅くすることにより、吸引力を下げることができる。
【0060】
コイルフレーム29の幅寸法を調整するとともに、電磁コイル部21の通電時の吸引力も調整することができる。
【0061】
(他の実施形態)
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。上記の実施形態では、ロックナット30、31等は手で回す例が示されていたが、これらのロックナット30、31等を回すための治具を用いてもよい。
【0062】
上記実施形態では、ばね17は1個であったが、ロッド27の両側にそれぞればね17を配置する構成を巻上機ブレーキ装置はとることができる。実施の形態に係るエレベータによれば、ばね17の個数や配置などの構成を種々変更しても、L寸法やB寸法を変えることによって直接吸引力を調整することができるようになる。
【0063】
上記実施形態では、弾性部材としてばね17の代わりにアクチュエータを用いてもよい。アクチュエータはブレーキアーム16による制動力を弾性力により発生させる。
【0064】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…エレベータ、2…昇降路、3…かご、4…メインロープ(ロープ)、5…カウンタウェイト、6…ガイドレール、7…巻上機、8…制御部、9…シーブ、10…モータ、11…巻上機ブレーキ装置(ブレーキ装置)、12…ブレーキドラム、13…回転軸、14…ライニング(制動部材)、15…ブレーキシュー、16…ブレーキアーム(アーム)、17…ばね(弾性部材)、18,18A,18B,18C,18D…電磁ソレノイド、19…支点ピン、20,20A,20B,20C,20D…調整機構、21…電磁コイル部、22,23…プランジャ、24,25…プッシュロッド、26…支持板、27…ロッド、28…巻線(コイル)、29…コイルフレーム(コイル保持体)、30,31,40,41…ロックナット、30a,31a,40a、41a…端面、32,33…フランジ、32a,33a、…フランジ面、32b,33b…環状フランジ面、34,35…ねじ部、36,42…ボス部、37,43…ねじ、38,39…ねじ部、45…シム、46…ベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路を昇降するかごと、
このかごおよびカウンタウェイトを懸架するロープと、
このロープが巻掛けられるシーブと、
このシーブを取付ける回転軸を有する巻上機と、
この巻上機の前記回転軸に連結されたブレーキドラムと、
このブレーキドラムの外周面に摩擦接触し、前記シーブに制動力を与えるブレーキ装置と、を備え、
このブレーキ装置は、
前記外周面に当接する位置および前記外周面から離れる位置のいずれかをとる制動部材と、
この制動部材が取付けられ、前記制動部材をこれらの位置のいずれかに位置させるよう前記巻上機に枢支されたアームと、
このアームに対し前記制動力を弾性力により発生させる弾性部材と、
この弾性部材が発生させる前記弾性力に対抗する吸引力により前記アームを吸引するプランジャと、
このプランジャが挿通する空芯を有し、通電により前記プランジャに前記吸引力を発生させるコイルと、
このコイルを保持し、前記コイルのコイル長方向を長手方向とし、前記巻上機に対して固定されたコイル保持体と、
このコイル保持体の前記長手方向の端部に設けられ、前記コイル内ヘ挿入される前記プランジャの前記長手方向についての寸法を調整する調整機構と、を備えたことを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
前記調整機構は、前記プランジャに設けられたフランジと、円筒状の前記コイル保持体の前記端部における外周面に形成されたねじ部と、前記ねじ部に螺合する他のねじ部および前記フランジの環状フランジ面に突き当たる端面を有するナットとを備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項3】
前記調整機構は、前記プランジャに設けられたフランジと、円筒状の前記コイル保持体の前記端面より穿設されたボス部と、前記ボス部に螺合するねじ部を持つねじ軸、および前記フランジの環状フランジ面に突き当たるねじ頭を有するねじとを備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項4】
前記調整機構は、前記プランジャに設けられたフランジと、前記フランジの周壁部に形成されたねじ部と、前記ねじ部に螺合する他のねじ部および前記コイル保持体の端部に突き当たる端面を有するナットとを備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項5】
前記調整機構は、前記プランジャに設けられたフランジと、前記フランジの環状フランジ面より穿設されたボス部と、前記ボス部に螺合するねじ部を持つねじ軸、および前記コイル保持体の端部に突き当たるねじ頭を有するねじとを備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項6】
前記調整機構は、前記プランジャに設けられたフランジと、前記フランジの環状フランジ面および前記コイル保持体の周縁部に突き当たるシムとを備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−41168(P2012−41168A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186282(P2010−186282)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】