説明

エンジンの制御装置

【課題】空燃比の気筒間ばらつきの検出精度を向上させる。
【解決手段】本発明は、複数の気筒を有し、複数の気筒ごとに燃料が噴射されるエンジンにおいて、複数の気筒からの排気が集合する集合部において排気の空燃比を検出して検出信号として出力する空燃比センサと、検出信号の時系列データからエンジンの回転周波数とは異なる周波数域の信号である判定パラメータの時系列データを抽出する判定パラメータ抽出手段(S1)と、判定パラメータの時系列データの中に所定値より大きいデータがあるとき、複数の気筒間に空燃比のばらつきがあると判定する気筒間ばらつき判定手段(S2)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒を有するエンジンの気筒間における空燃比のばらつきを検出する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の気筒を有するエンジンにおいて、燃料系の異常などによって気筒間の空燃比にばらつきが生じることが知られている。そこで特許文献1にはクランク角センサの検出値に基づいて気筒間のトルク変動を判別し、当該トルク変動に基づいて空燃比の気筒間ばらつきを検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−515911公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術では、クランク角センサの検出値に基づいてクランク軸の回転変動を解析しているので外部振動の影響を受けやすく、また気筒数が多いエンジンではクランク軸の回転変動が小さくなるので気筒間ばらつきの検出精度が低下する。
【0005】
本発明は、空燃比の気筒間ばらつきの検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の気筒を有し、複数の気筒ごとに燃料が噴射されるエンジンにおいて、複数の気筒からの排気が集合する集合部において排気の空燃比を検出して検出信号として出力する空燃比センサと、検出信号の時系列データからエンジンの回転周波数とは異なる周波数域の信号である判定パラメータの時系列データを抽出する判定パラメータ抽出手段と、判定パラメータの時系列データの中に所定値より大きいデータがあるとき、複数の気筒間に空燃比のばらつきがあると判定する気筒間ばらつき判定手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、空燃比センサの検出信号の時系列データからエンジンの回転周波数とは異なる周波数域の判定パラメータを抽出し、抽出された判定パラメータの時系列データの中に所定値より大きいデータがあるとき、気筒間ばらつきがあると判定するので、エンジンの回転周波数より低い周波数としてあらわれる気筒間ばらつきを、外部振動や気筒数にかかわらず精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態におけるエンジンの制御装置の構成を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態におけるエンジンの制御装置の制御を示す概略構成図である。
【図3】判定パラメータの演算方法を示すブロック図である。
【図4】バンドパスフィルタの振幅特性を示すテーブルである。
【図5】A/Fセンサ値の時系列データを示すテーブルである。
【図6】判定パラメータの時系列データを示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では図面を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。図1は本実施形態におけるエンジンの制御装置の構成を示す概略構成図である。本実施形態におけるエンジンの制御装置は、エンジン1と、クランク角センサ2と、燃料噴射弁3と、A/Fセンサ4と、コントローラ5とから構成される。
【0010】
エンジン1は、図1では4つの気筒を有する直列4気筒エンジンとして示されるが、V型6気筒、V型8気筒など、多気筒エンジンであれば気筒数や気筒配列が異なるエンジンであってもよい。
【0011】
クランク角センサ2は、エンジン1のクランク角を検出してコントローラ5へ送信する。コントローラ5では受信したクランク角に基づいてエンジン1の回転速度を演算する。
【0012】
燃料噴射弁3は、エンジン1の吸気ポート7に気筒ごとにそれぞれ設けられ、コントローラ5からの信号に応じて吸気ポート7に燃料を噴射する。
【0013】
A/Fセンサ4は、排気マニホールド8の排気が集合する集合部9の近傍に設けられ、集合部9を通過する排気の空燃比を検出してコントローラ5へ送信する。
【0014】
コントローラ5は、クランク角センサ2及びA/Fセンサ4から信号を受信して各気筒の燃料噴射弁3をそれぞれ制御する。
【0015】
以下、図2を参照しながらコントローラ5で行う制御について説明する。図2は本実施形態におけるエンジンの制御装置の制御を示すフローチャートである。
【0016】
ステップS1では、判定パラメータを演算する。判定パラメータは、空燃比の気筒間ばらつきを判定するために用いるパラメータであり、図3のブロック図に従って演算される。
【0017】
ここで、判定パラメータの演算方法について図3を参照しながら説明する。
【0018】
周波数演算部51では、エンジン1の回転速度が入力され、(1)式に従ってバンドパス周波数ωが演算される。
【0019】
【数1】

【0020】
フィルタ処理部52では、A/Fセンサ4の検出値が入力され、(2)式に従ってバンドパスフィルタをかけ、バンドパス後センサ値を出力する。
【0021】
【数2】

【0022】
差分演算部53では、A/Fセンサの検出値とフィルタ処理部52から出力されるバンドパス後センサ値との差分が演算され、この差分が判定パラメータとして出力される。
【0023】
上記のようにA/Fセンサ値をバンドパスすることで、A/Fセンサ値のうちエンジン1の回転速度に依存する周波数成分のみが抽出される。これについて図4及び図5を用いて説明する。
【0024】
図4はバンドパスフィルタの振幅特性を示すテーブルであり、(a)はA/Fセンサから送信される信号の振幅特性を示し、(b)はバンドパス後センサ値の振幅特性を示す。図4(a)に示すように、A/Fセンサ値にはあらゆる周波数成分が含まれているが、バンドパスフィルタをかけることでバンドパス周波数ωと同一の周波数成分が抽出され、バンドパス周波数ωより低周波及び高周波の成分は除去される。なおこのとき、バンドパス周波数ωは所定の幅(例えばエンジン回転速度にして100rpm)を有するように設定され、所定の周波数域のセンサ値のみが抽出される。
【0025】
図5はA/Fセンサ値の時系列データであり、(a)はA/Fセンサのセンサ値、(b)はバンドパス後センサ値、(c)は判定パラメータを示す。なお横軸は時間、縦軸はセンサ値を示し、センサ値が大きいほど排ガスがリーン側に偏っていることを示す。
【0026】
図5(a)に示すように、センサ値は各気筒の燃焼サイクルに従って上下に変動する。これに加えてセンサノイズなどによって生じる燃焼サイクルより高周波の成分と、気筒ごとのばらつきによって生じる燃焼サイクルより低周波の成分とが含まれる。
【0027】
図5(b)に示すように、センサ値をバンドパスすることでエンジン1の回転速度、すなわち燃焼サイクルに依存する成分のみが抽出され、低周波成分と高周波成分とは除去される。
【0028】
図5(c)に示すように、図5(a)と図5(b)との差分をとると、エンジン1の燃焼サイクルに依存する成分は相殺され、高周波成分と低周波成分とが抽出される。このようにして抽出された信号がステップS1において演算される判定パラメータであり、時系列データとして抽出される。
【0029】
図2に戻ってステップS2では、判定パラメータの絶対値の時系列データの中に所定値以上となるデータがあるか否かを判定する。所定値以上のデータがあると判定されるとステップS3へ進み、所定値以上のデータがないと判定されると処理を終了する。
【0030】
図5(c)に示すように、判定パラメータの絶対値の時系列データの中に所定値以上となるデータがあると判定されると燃焼サイクルに依存する成分より低周波の成分が発生していると判定でき、これにより気筒間ばらつきが生じていると判断することができる。したがって、所定値は空燃比の気筒間ばらつきが生じていると判断できる程度の値に設定され、予め実験などによって求めておく。
【0031】
図2に戻ってステップS3では、気筒判別制御を行う。気筒判別制御は気筒間ばらつきの原因となる気筒が第n気筒であるかを判別するための制御である。気筒判別制御では、初めに第1気筒の燃料噴射量を一度だけ変更させる。以下では、一度だけ燃料噴射量を増大させる制御について説明する(以下、これを「マーカー噴射」という)。これにより、第1気筒の空燃比が変化するので判定パラメータが変化する。なお、マーカー噴射時の噴射量はエミッションが悪化しない程度に設定される。
【0032】
次に、マーカー噴射による判定パラメータの変化するデータ点を第1の基点とし、さらに判定パラメータが所定値以上となるデータ点を第2の基点とする。そして、第1の基点から第2の基点までの時間(クランク角の変化量)に基づいて空燃比が偏っている第n気筒を判別する。
【0033】
気筒判別制御について図6を参照しながらさらに詳細に説明する。図6は判定パラメータの時系列データであり、例として第3気筒が異常である場合を示している。マーカー噴射を行うと、第1気筒の空燃比がリッチになるので判定パラメータが変動し、第1気筒の上死点(TDC)付近で判定パラメータの絶対値が増大する。また、第3気筒は空燃比が異常であるので、第3気筒のTDC付近で判定パラメータの絶対値が所定値以上となる。
【0034】
これにより、第1の基点から、第2の基点までの時間(第1気筒TDC〜第3気筒TDC)を検出することで、空燃比が異常である第n気筒を判別することができる。
【0035】
図2に戻ってステップS4では、異常であると判別された第n気筒のλ制御を行う。λ制御は燃料噴射弁3の開弁時間を調整することで燃料噴射量を増大又は低減させる制御であり、A/Fセンサ値がリーン側に振れている場合は噴射量を増大させ、リッチ側に振れている場合は噴射量を低減させるように制御される。ここで、λ制御の補正量は判定パラメータの第2の基点におけるデータが所定値以内となるように設定される。
【0036】
ステップS5では、第n気筒のλ補正量の絶対値が所定量以上であるか否かを判定する。所定量以上であると判定されるとステップS6へ進んで第n気筒の異常を確定し、所定量より小さいと判定されるとステップS7へ進む。所定量は第n気筒の燃料噴射量の補正幅が大きく、第n気筒の燃料系が異常であると判断できる程度の値であり、予め実験などによって求めておく。
【0037】
ステップS7では、判定パラメータの絶対値の時系列データの中に所定値以上となるデータがあるか否かを判定する。所定値以上のデータがあると判定されるとステップS4へ進み、所定値以上のデータがないと判定されると処理を終了する。所定値はステップS2の所定値と同一の値である。
【0038】
ここで、ステップS4においてλ制御が行われることで空燃比がある程度改善されるので、第n気筒に対応する判定パラメータの値(図5(c)の山)は小さくなる。しかし、第n気筒以外の気筒にも異常がある場合には当該気筒に対応する判定パラメータの値が大きくなるので、ステップS7によって判定パラメータの絶対値が所定値以上であるか否かを判定することで、既に燃料系異常であると確定した第n気筒以外の他の気筒にも異常があるか否かを判定することができる。
【0039】
以上のように本実施形態では、A/Fセンサ4の検出値の時系列データからエンジン1の回転周波数とは異なる周波数域の値である判定パラメータを演算し、判定パラメータの時系列データの中に所定値以上のデータがあるとき気筒間ばらつきがあると判定するので、エンジン1の回転周波数より低い周波数としてあらわれる気筒間ばらつきを、外部振動や気筒数にかかわらず精度よく検出することができる。
【0040】
また、A/Fセンサ4の検出値にバンドパスフィルタをかけた後のバンドパス後センサ値と検出値との差分の絶対値を判定パラメータとするので、エンジン1の回転周波数を含む周波数域の周波数成分を除去して気筒間ばらつきをより精度よく検出することができる。
【0041】
さらに、気筒間にばらつきがあると判定されたとき第1気筒にマーカー噴射を行い、マーカー噴射による判定パラメータの変化から、判定パラメータが所定値以上となるときまでの時間に基づいて空燃比が偏っている気筒を判別するので、空燃比が異常である気筒をエンジンの回転速度に応じて精度よく判別することができる。
【0042】
さらに、空燃比が異常であると判別された気筒に対してλ制御を行って燃料噴射量を増大補正又は低減補正し、補正量が所定量以上であるとき補正を行った気筒が異常であると確定するので、一時的な要因でA/Fのセンサ値が変動したような場合には当該気筒の異常を確定せず、異常判定の判定精度を向上させることができる。
【0043】
さらに、気筒の異常を確定した後に、判定パラメータの絶対値の時系列データの中に所定値以上であるデータがあるか否かを再度判定し、所定値以上のデータがあるときはステップS4〜S6を再度実行するので、気筒間ばらつきの原因となる気筒が複数ある場合でも各気筒の空燃比異常をそれぞれ判別することができる。
【0044】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
【0045】
例えば、本実施形態ではポート噴射式のエンジン1を用いて説明したが、直噴エンジンであっても適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 エンジン
3 燃料噴射弁
4 A/Fセンサ(空燃比センサ)
5 コントローラ
9 集合部
52 バンドパスフィルタ
S1 判定パラメータ抽出手段
S2 気筒間ばらつき判定手段
S3 マーカー噴射手段、気筒判別手段
S4 噴射量補正手段
S6 異常確定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有し、前記複数の気筒ごとに燃料が噴射されるエンジンにおいて、
前記複数の気筒からの排気が集合する集合部において前記排気の空燃比を検出して検出信号として出力する空燃比センサと、
前記検出信号の時系列データから前記エンジンの回転周波数とは異なる周波数域の信号である判定パラメータの時系列データを抽出する判定パラメータ抽出手段と、
前記判定パラメータの時系列データの中に所定値より大きいデータがあるとき、前記複数の気筒間に空燃比のばらつきがあると判定する気筒間ばらつき判定手段と、
を備えることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記判定パラメータ抽出手段は、前記検出信号の時系列データのうち前記エンジンの回転周波数を含む周波数域の信号のみを通過させるバンドパスフィルタを備え、前記バンドパスフィルタを通過後の信号と前記検出信号との差分の絶対値を前記判定パラメータとして抽出することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの回転角を検出する回転角センサと、
前記気筒間ばらつき判定手段によって前記複数の気筒間に空燃比のばらつきがあると判定されたとき、所定の一気筒に対する燃料噴射量を変更する燃料噴射量変更手段と、
前記判定パラメータの時系列データのうち、前記燃料噴射量の変更によって変化するデータ点を第1の基点とし、前記所定値より大きいデータ点を第2の基点とし、前記第1の基点から前記第2の基点までの前記エンジンの回転角の変化量に基づいて前記ばらつきの原因となる気筒を判別する気筒判別手段と、
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記判定パラメータの前記第2の基点におけるデータが小さくなるように前記ばらつきの原因となる気筒に対する燃料噴射量を補正する噴射量補正手段と、
前記噴射量補正手段による燃料噴射量の補正量が所定量より大きいとき、前記ばらつきの原因となる気筒が異常であると確定する異常確定手段と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記気筒間ばらつき判定手段は、前記噴射量補正手段によって前記燃料噴射量が補正された後、前記判定パラメータの時系列データの中に前記所定値より大きいデータがさらにあるか否かを判定し、
前記所定値より大きいデータがさらにあると判定されたとき、当該データ点を新たに第2の基点とし、前記第1の基点から前記第2の基点までの前記エンジンの回転角の変化量に基づいて前記ばらつきの原因となる気筒を判別することを特徴とする請求項4に記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−209682(P2010−209682A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53327(P2009−53327)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】