説明

エンジンマウント

【課題】門形のストッパ金具を有するエンジンマウントにおいて、エンジンの左右方向の変位を規制するストッパ機能を持たせて、エンジンと周辺部材との干渉の恐れをなくし、またエンジンの左右方向の変位規制により操縦安定性を高めることを目的とする。
【解決手段】エンジン側に固定される上金具12と、車体側に固定される下金具14と、それらを連結する本体ゴム弾性体16と、略門形を成すストッパ金具18とを有して成るエンジンマウント10において、ストッパ金具18におけるブリッジ部22に窓部36を設ける一方、上金具12に窓部36に突入する突出部60を設けて、これを車両左右方向の左右ストッパ部と成し、窓部36の縁部の一部にて構成される当接部58Aに緩衝ゴム62を介して当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエンジンマウントに関し、詳しくは略門形をなす剛性のストッパ部材を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン側に固定される上剛性部材と、車体側に固定される下剛性部材と、それら上剛性部材及び下剛性部材を連結する本体ゴム弾性体と、本体ゴム弾性体に対し前,後に配置された一対の脚部及び本体ゴム弾性体の上方でそれら脚部を前後方向に繋ぐブリッジ部を有して該本体ゴム弾性体を包囲する、全体として略門形をなす剛性のストッパ部材と、を備えたエンジンマウントが公知である。
例えば下記特許文献1,特許文献2にこの種のエンジンマウントが開示されている。
【0003】
しかしながら略門形のストッパ部材を有するこの種の従来のエンジンマウントにあっては、上剛性部材の軸方向の変位を規制するためのストッパ機能を有しておらず、従ってかかるエンジンマウントにてエンジンを防振支持した場合、車両の走行に伴なうエンジンの左右方向の大きな変位を十分に防止できず、これによりエンジンが周辺部材と干渉して異音を発生したり、部品の破損を招いたり、或いはエンジンの左右方向の大きな変位に伴なって操縦安定性が損なわれる恐れがあるといった問題を有していた。
【0004】
【特許文献1】特開2003−202053号公報
【特許文献2】特開平7−174185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、剛性の略門形のストッパ部材を有するエンジンマウントにおいて、上剛性部材における車両左右方向の相対変位を規制するストッパ機能を持たせて、エンジンと周辺部材との干渉や部品の破損、さらにはエンジンの左右方向の変位に基づいて操縦安定性が損なわれる問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而して請求項1のものは、(a)エンジン側に固定される上剛性部材と、(b)車体側に固定される下剛性部材と、(c)それら上剛性部材及び下剛性部材を連結する本体ゴム弾性体と、(d)該本体ゴム弾性体に対し前,後に配置された一対の脚部及び該本体ゴム弾性体の上方でそれら脚部を前後方向に繋ぐブリッジ部を有して該本体ゴム弾性体を包囲する、全体として略門形を成す剛性のストッパ部材と、を備えて成るエンジンマウントであって、前記ストッパ部材における前記ブリッジ部に貫通且つ開口形状の窓部を設ける一方、前記上剛性部材に、上向きに突出して該窓部に突入する突出部を設け、該突出部を該上剛性部材の軸方向である車両左右方向の左右ストッパ部と成すとともに、前記窓部における縁部の該突出部に対して左右方向に対向する部分を当接部となし、該突出部と当接部とを、それらの一方又は両方に設けた緩衝ゴムを介して当接させるようになしたことを特徴とする。
【0007】
請求項2のものは、請求項1において、前記上剛性部材には前後方向のゴムストッパ部及び上下方向のゴムストッパ部が設けてあることを特徴とする。
【0008】
請求項3のものは、請求項2において、前記突出部はまた、前記前後方向のゴムストッパ部がストッパ作用を開始した後、前記上剛性部材が更に前後方向に相対変位したところで前記窓部における縁部の前記突出部に対して前後方向に対向する当接部に当接してストッパ作用をなす、前後方向の2次ストッパ部を成していることを特徴とする。
【0009】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記ストッパ部材が板材を曲げて構成したものであって、前記窓部の縁部に沿って立ち上がるリブ状の壁部が形成してあり、該壁部の一部が前記当接部を成していることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0010】
上記のように本発明は、ストッパ部材におけるブリッジ部に開口形状の窓部を設ける一方、上剛性部材に、その窓部に突入する突出部を設けて、その突出部を左右ストッパ部となすとともに、窓部における縁部の、その突出部に対して左右方向に対向する部分を当接部となして、それら突出部と当接部とを緩衝ゴムを介して当接させるようになしたもので、本発明によれば、上剛性部材の車両左右方向の過大な変位、即ちエンジンの左右方向の過大な変位を規制することができる。
従って本発明によれば、エンジンの車両左右方向の過大な変位に伴ってエンジンが周辺部材と干渉を起こして異音を発生させたり、部品の破損を招いたりする恐れを無くすことができる。
またエンジンを左右方向に変位規制できることから、例えば車両がカーブ走行する際にエンジンが大きく左右方向に変位するのを防止でき、車両の操縦安定性を高めることができる。
【0011】
本発明においては、上剛性部材に前後方向のゴムストッパ部及び上下方向のゴムストッパ部を設けておくことができ(請求項2)、このようにすれば、前後,上下及び左右方向の何れの方向においてもエンジンの変位を良好に規制することができる。
【0012】
次に請求項3は、前後方向のゴムストッパ部がストッパ作用を開始した後、上剛性部材が更に前後方向に相対変位したところで突出部が上記の窓部における縁部の、突出部に対し前後方向に対向する当接部に当接して前後方向の2次ストッパ部として働くように成したもので、この請求項3によれば、上剛性部材の前後方向の変位を2段階に亘って規制することができる。
【0013】
上記ストッパ部材は、板材を曲げて構成し、そして窓部の縁部に沿って立ち上がるリブ状の壁部を形成して、その壁部の一部を上記当接部となしておくことができる(請求項4)。
このようにすればストッパ部材を簡単に構成することができるとともに、上記突出部から成るストッパ部を、対応する当接部に対して広い面積に亘って当接させることができ、安定したストッパ機能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1〜図4において、10は本実施形態のエンジンマウントで、エンジン側に固定される上金具(上剛性部材)12と、車体側に固定される下金具(下剛性部材)14と、それらを連結する本体ゴム弾性体16と、これらとは別体を成す略門形のストッパ金具(剛性のストッパ部材)18とを有している。
ここで上金具12及び下金具14は、本体ゴム弾性体16に一体に加硫接着されている。
【0015】
ストッパ金具18は金属板材を曲げて構成したもので、本体ゴム弾性体16の前,後に位置する一対の前,後の脚部20と、本体ゴム弾性体16の上方でそれら一対の脚部20を連結するブリッジ部22とを有している。
またこのストッパ金具18には、図1に示しているように上金具12の軸方向、即ち車両左右方向(図2中の紙面と直角方向)の両端部に補強用のリブ24が設けられている。
また一対の脚部20の各下端から固定部26が延び出していて、これら固定部26において、下金具14の対応する固定部28に固定されるようになっている。
これら固定部26,28のそれぞれには固定孔30が設けられている。
【0016】
本体ゴム弾性体16には、これを上金具12の軸方向に貫通するすぐり部(空所)32が形成されており、このすぐり部32の前,後にエンジン荷重を支持する前後一対のゴム脚34が構成されている。
ここで一対のゴム脚34は全体として下向きにハの字に開いた形態をなしている。
【0017】
上記上金具12は軸方向に貫通する円形の中心孔35を有しており、この中心孔35においてエンジン側に締結固定されるようになっている。
上金具12は前,後の面が上下方向にストレート形状で延びるストレート面36とされており、これらストレート面36に続いて内向きの傾斜面38が形成されている。
上記一対のゴム脚34は、この上金具12の傾斜面38と下金具14における後述の傾斜面40とで挟まれている。
【0018】
下金具14には前,後に一対の上向きの突出部42が設けられており、この突出部42によって上記の傾斜面40が形成されている。
下金具14にはまた、それら前,後の一対の突出部42の間の位置において上向きに突出する第2の突出部44が設けられている。
この突出部44の上面は平坦面とされていて、そこにバウンド時にストッパ作用をなすゴムストッパ部46が設けられている。
このゴムストッパ部46は、下金具14に対して一体に加硫接着されている。
このゴムストッパ部46と一対のゴム脚34とは連絡部48にて互いに連絡されている。
【0019】
上金具12には、上記の前,後のストレート面36から前,後に突出する形態で前後方向のゴムストッパ部50が設けられている。
これら前後方向のゴムストッパ部50は、上金具12が前後方向に相対変位したとき、対向するストッパ金具18の脚部20に当接してストッパ作用をなし、上金具12の前後方向の過大な変位を規制する。
これらゴムストッパ部50の付根には上下方向のくびれ部52が設けられており、またゴムストッパ部50は先端が先細りの断面略三角形状をなしている。
【0020】
上金具12の上面は水平な平坦面とされていて、そこにリバウンド時にストッパ作用をなすゴムストッパ部54が設けられている。
ここでゴムストッパ部54は、上記の前後方向のゴムストッパ部50とともに、ゴム脚34と一体に成形されている。
【0021】
上記ストッパ金具18のブリッジ部22には、これを上下方向に貫通する開口形状の窓部56が設けられている。
窓部56は、図2に示しているように平面形状が前後方向に長い矩形状をなしており、この窓部56の縁部に沿って上向きに立ち上がるリブ状の壁部58が形成されている。
【0022】
一方上金具12には、図3及び図4に示しているようにこの窓部56に突入する上向きの突出部60が一体に形成されている。
この上向きの突出部60は、上金具12の軸方向即ち車両左右方向の相対変位時にストッパ作用をなす、左右ストッパ部を成しており、その頂面及び外周面全体が緩衝ゴム62にて被覆されている。
ここで緩衝ゴム62は、上記ゴム脚34に対して前後,上下方向のゴムストッパ部50,54等とともに一体に成形され且つ上金具12に加硫接着されている。
【0023】
ここで突出部60は、図2に示しているように平面形状が窓部56に対応した、前後方向に長い矩形状をなしており、上金具12がその軸方向即ち車両左右方向に大きく相対変位したとき、壁部58の当接部58Aに当接してストッパ作用をなす。
即ちこの突出部60と当接部58Aとの当接によって、上金具12の(即ちエンジンの)車両左右方向の過大な変位が規制される。
【0024】
この突出部60はまた、前後方向の2次ストッパ部としても働く。
即ち、上金具12の前後方向の相対変位時には先ず前後方向のゴムストッパ部50がストッパ金具18の脚部20に当接して一次的なストッパ作用をなすが、更に引き続いて上金具12が同方向に大きく相対変位したとき、突出部60が壁部58における前後方向の対応した当接部58Bに当接して、一定以上の大きな相対変位をそこで規制する。
【0025】
本実施形態のエンジンマウント10の場合、図5に示しているように上金具12と下金具14と本体ゴム弾性体16等が一体加硫品を成しており、そこに門形をなす別体のストッパ金具18が固定されて1つの組付品となる。
【0026】
以上のような本実施形態においては、上金具12の左右方向の過大な変位、即ちエンジンの左右方向の過大な変位を、突出部60と当接部58Aとによって規制することができる。
従って本実施形態によれば、エンジンの過大な変位に伴ってエンジンが周辺部材と干渉を起こして異音を発生させたり、部品の破損を招いたりする恐れを無くすことができる。
またエンジンが左右方向に変位規制されることから、例えば車両がカーブ走行する際にエンジンの大きな左右方向変位が防止されて操縦安定性を高められる。
【0027】
また本実施形態においては上金具12に前後方向のゴムストッパ部50及び上下方向のゴムストッパ部(リバウンドストッパ部)54が設けてあるため、更には下金具14においても上下方向のゴムストッパ部(バウンドストッパ部)46が設けてあるため、前後,上下及び左右方向の何れの方向においてもエンジンの変位を良好に規制することができる。
【0028】
また前後方向のゴムストッパ部50がストッパ作用を開始した後、更に上金具12が前後方向に相対変位したところで、突出部60が前後方向の2次ストッパ部として働くため、上金具12の前後方向の変位を2段階に亘って規制することができる。
【0029】
本実施形態では、ストッパ金具16を板材を曲げて構成し、そして窓部56の縁部に沿ってリブ状に立ち上がる形態で壁部58を構成して、その壁部58の一部を上記当接部58A,58Bとしてあるため、ストッパ金具16を簡単に構成することができるとともに、突出部60から成るストッパ部を当接部58A,58Bに対して広い面積に亘って当接させることができ、ストッパ作用を安定的に行わせることができる。
【0030】
図6及び図7は本発明の他の実施形態を示している。
この実施形態は、上金具12の軸方向の一端から同方向に延び出す形態で、エンジンとの固定用のブラケット64を一体に形成した例である。このブラケット64には締結孔66が板厚方向に貫通する形態で設けられている。
このブラケット64は、本体ゴム弾性体16にて片持ち状態に弾性支持される。
尚他の点については上記実施形態と同様である。
【0031】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態のエンジンマウントを示す斜視図である。
【図2】同実施形態のエンジンマウントの一部切欠平面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】図2のIV−IV断面図である。
【図5】同実施形態のエンジンマウントをストッパ金具と本体の一体加硫品とに分解して示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態のエンジンマウントを示す図である。
【図7】図6のエンジンマウントの一部切欠平面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 エンジンマウント
12 上金具(上剛性部材)
14 下金具(下剛性部材)
16 本体ゴム弾性体
18 ストッパ金具
20 脚部
22 ブリッジ部
46,50,54 ゴムストッパ部
56 窓部
58 壁部
58A,58B 当接部
60 突出部
62 緩衝ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エンジン側に固定される上剛性部材と、(b)車体側に固定される下剛性部材と、(c)それら上剛性部材及び下剛性部材を連結する本体ゴム弾性体と、(d)該本体ゴム弾性体に対し前,後に配置された一対の脚部及び該本体ゴム弾性体の上方でそれら脚部を前後方向に繋ぐブリッジ部を有して該本体ゴム弾性体を包囲する、全体として略門形を成す剛性のストッパ部材と、を備えて成るエンジンマウントであって
前記ストッパ部材における前記ブリッジ部に貫通且つ開口形状の窓部を設ける一方、前記上剛性部材に、上向きに突出して該窓部に突入する突出部を設け、該突出部を該上剛性部材の軸方向である車両左右方向の左右ストッパ部と成すとともに、前記窓部における縁部の該突出部に対して左右方向に対向する部分を当接部となし、該突出部と当接部とを、それらの一方又は両方に設けた緩衝ゴムを介して当接させるようになしたことを特徴とするエンジンマウント。
【請求項2】
請求項1において、前記上剛性部材には前後方向のゴムストッパ部及び上下方向のゴムストッパ部が設けてあることを特徴とするエンジンマウント。
【請求項3】
請求項2において、前記突出部はまた、前記前後方向のゴムストッパ部がストッパ作用を開始した後、前記上剛性部材が更に前後方向に相対変位したところで前記窓部における縁部の前記突出部に対して前後方向に対向する当接部に当接してストッパ作用をなす、前後方向の2次ストッパ部を成していることを特徴とするエンジンマウント。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記ストッパ部材が板材を曲げて構成したものであって、前記窓部の縁部に沿って立ち上がるリブ状の壁部が形成してあり、該壁部の一部が前記当接部を成していることを特徴とするエンジンマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−161973(P2006−161973A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355091(P2004−355091)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】