説明

エンジンマウント

【課題】第1の取付部材の第2の取付部材に対する側方への相対変位を安定して制限可能とされた変位規制手段を備えたエンジンマウントを、簡単な構造でコンパクトに実現して、提供することにある。
【解決手段】門形ブラケット54には、一方の側方開口部72を部分的に覆う第1のストッパ片76が第1の取付部材12の連結部20を外れて設けられていると共に、他方の側方開口部74を部分的に覆う第2のストッパ片78が設けられて、側方投影において第1,第2のストッパ片76,78が何れも第1の取付部材12の本体部18と重なり合っており、第1,第2のストッパ片76,78と本体部18との当接によって第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する側方への相対変位を規制する側方変位規制手段が設けられていると共に、第1,第2のストッパ片76,78が本体部18に対する当接部分よりも下方まで延び出されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等においてパワーユニットと車両ボデーを防振連結するエンジンマウントに係り、特に、第2の取付部材に取り付けられる門形ブラケットを備えたエンジンマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等において、パワーユニットと車両ボデーを防振連結するためのエンジンマウントがある。エンジンマウントは、例えば、特開2009−196512号公報(特許文献1)に記載されているように、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されたマウント本体に対して、一対の脚部とそれら脚部の上端部分を連結する天板部とを備えた門形ブラケットが取り付けられた構造を有している。より詳細には、第1の取付部材が、本体ゴム弾性体に固着される本体部と、本体部から側方に向かって延び出す連結部とを備えており、連結部が門形ブラケットの一方の側方開口部から側方に突出して、パワーユニットに取り付けられるようになっている。
【0003】
ところで、このようなエンジンマウントでは、本体ゴム弾性体の耐久性や自動車の走行安定性を確保するために、エンジン振動や路面からの入力等に伴う第1の取付部材と第2の取付部材の相対変位が制限されていることが望ましい。特許文献1に示されたエンジンマウントでは、第1の取付部材の第2の取付部材に対する相対変位が、車両の前後方向(第1の取付部材と脚部の対向方向)と上下方向(第1の取付部材と天板部の対向方向)において、第1の取付部材と門形ブラケットとの当接によって防止されるようになっている。
【0004】
ところが、このような第1の取付部材と門形ブラケットの当接による変位規制構造では、第1の取付部材の第2の取付部材に対する側方(車両左右方向となる門形ブラケットの開口方向)への相対変位を制限することが難しいという問題があった。
【0005】
なお、特開2006−161973号公報(特許文献2)には、門形ブラケットの天板部に窓部が形成されると共に、その窓部に第1の取付部材から上方に突出する突出部が挿入されており、第1の取付部材の突出部が窓部の内周面と当接することによって、第1の取付部材の第2の取付部材に対する側方への相対変位が規制される構造が、開示されている。しかしながら、このような特許文献2に記載された変位規制手段を採用するためには、門形ブラケットの天板部が充分に大きくされて、第1の取付部材の突出部と窓部の内周面との対向面間距離(ストッパクリアランス)を充分に確保し得るサイズの窓部が、天板部の強度を確保しながら設けられる必要がある。従って、配設スペースの大きさ等に応じてエンジンマウントのサイズが制限される場合には、このような変位規制手段を備えたエンジンマウントを採用することが難しい場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−196512号公報
【特許文献2】特開2006−161973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、第1の取付部材の第2の取付部材に対する側方への相対変位を安定して制限可能とされた変位規制手段を備えたエンジンマウントを、簡単な構造でコンパクトに実現して、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されて、該第1の取付部材が、該本体ゴム弾性体に取り付けられる本体部と、該本体部から側方に延び出す連結部とを備えていると共に、該第2の取付部材には、該第2の取付部材に固定される一対の脚部と、それら脚部を連結する天板部とを備えた門形ブラケットが取り付けられており、該門形ブラケットの該天板部が該第1の取付部材を跨いで配設されていると共に、該第1の取付部材の該連結部が該門形ブラケットの一方の側方開口部から延び出してパワーユニットに取り付けられるようになっているエンジンマウントにおいて、前記門形ブラケットには、該門形ブラケットの一方の側方開口部を部分的に覆う第1のストッパ片が前記第1の取付部材の前記連結部を外れて設けられていると共に、該門形ブラケットの他方の側方開口部を部分的に覆う第2のストッパ片が設けられて、該門形ブラケットの側方での投影においてそれら第1のストッパ片および第2のストッパ片が該第1の取付部材の前記本体部と重なり合っており、それら第1のストッパ片および第2のストッパ片と該本体部との当接によって該第1の取付部材の該第2の取付部材に対する側方への相対変位を規制する側方変位規制手段が設けられていると共に、該第1のストッパ片および該第2のストッパ片が該第1の取付部材の該本体部に対する当接部分よりも下方まで延び出していることを特徴とする。
【0009】
このような本発明の第1の態様に従う構造とされたエンジンマウントによれば、振動入力等によって第1の取付部材が第2の取付部材に対して側方に大きく相対変位する際に、側方変位規制手段によって第1の取付部材の変位量が制限される。それ故、第1の取付部材と第2の取付部材の過大な相対変位に伴う本体ゴム弾性体の損傷等が回避されて、耐久性の向上が図られる。
【0010】
また、側方変位規制手段が第1のストッパ片および第2のストッパ片を含んで構成されており、それら第1のストッパ片および第2のストッパ片が門形ブラケットの側方開口部を覆うように設けられている。それ故、側方変位規制手段を設けることによる門形ブラケットの大型化が防止される。
【0011】
しかも、第1のストッパ片は、門形ブラケットから側方に突出する第1の取付部材の連結部を外れて設けられていることから、第1の取付部材の大型化も必要なく、側方での変位規制手段を備えたエンジンマウントをコンパクトに実現することができる。
【0012】
また、第1のストッパ片および第2のストッパ片が、第1の取付部材との当接部分よりも下方まで延び出している。それ故、パワーユニットの支持荷重が長期に亘って入力されること等に起因して、第1の取付部材と門形ブラケットの上下方向での相対位置が変化する場合にも、第1のストッパ片および第2のストッパ片と第1の取付部材との側方での投影における重なりが維持されて、側方でのストッパ効果が有効に発揮される。
【0013】
さらに、第1のストッパ片および第2のストッパ片と第1の取付部材との当接面積の変化も抑えられることから、初期状態に対する当接時の特性変化が抑えられて、目的とする防振性能が維持される。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載されたエンジンマウントにおいて、前記一対の脚部の対向方向において、前記第1のストッパ片が前記本体部の一方の端部と対向して設けられていると共に、前記第2のストッパ片が該本体部の他方の端部と対向して設けられているものである。
【0015】
第2の態様によれば、第1のストッパ片および第2のストッパ片と第1の取付部材の本体部との当接によって、パワーユニットの変位に起因する第1の取付部材の回転が防止される。その結果、本体ゴム弾性体の捩じり変形が防止されて、優れた耐久性が実現されると共に、パワーユニットの変位が制限されることによって、自動車等における走行安定性の向上が図られる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載されたエンジンマウントにおいて、前記第1のストッパ片が前記一対の脚部の何れか一方および前記天板部から延び出していると共に、前記第2のストッパ片が該一対の脚部の何れか他方および該天板部から延び出しているものである。
【0017】
第3の態様によれば、第1のストッパ片および第2のストッパ片と第1の取付部材の本体部との当接によって、パワーユニットの変位に起因する第1の取付部材の回転が防止される。その結果、本体ゴム弾性体の捩じり変形が防止されて、優れた耐久性が実現されると共に、パワーユニットの変位が制限されることによって、自動車等における走行安定性の向上が図られる。
【0018】
また、第1のストッパ片と第2のストッパ片が、何れも脚部および天板部によって支持されている。それ故、第1のストッパ片および第2のストッパ片が充分な支持剛性で設けられて、第1の取付部材との当接による変形等の損傷が防止されると共に、第1の取付部材の第2の取付部材に対する変位規制を有効に実現することができる。
【0019】
しかも、門形ブラケットにおいて脚部と天板部の連結部分が、第1のストッパ片および第2のストッパ片によって補強されることから、門形ブラケット自体の強度が高められる。その結果、門形ブラケットの補強構造を簡略化したり、厚さ等の部材寸法を小さくすることが可能となり得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1の取付部材の第2の取付部材に対する側方への相対変位が、側方変位規制手段によって制限されて、本体ゴム弾性体の損傷等が防止される結果、耐久性の向上が図られる。また、側方変位規制手段を構成する第1,第2のストッパ片が門形ブラケットの側方開口部を覆うように設けられると共に、第1のストッパ片が第1の取付部材の連結部を外れて設けられることから、側方変位規制手段を設けることによる第1の取付部材や門形ブラケットの著しい大型化が回避される。更に、第1,第2のストッパ片が第1の取付部材との当接部分よりも更に下方に突出していることから、長期的な荷重の入力等に起因して第1の取付部材が初期位置よりも下方に位置する場合にも、側方変位規制手段による変位規制効果を有効に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の1実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【図2】図1に示されたエンジンマウントを別角度で示す斜視図。
【図3】図1に示されたエンジンマウントの縦断面図であって、図4のIII−III断面図。
【図4】図3のIV−IV断面図。
【図5】図1に示されたエンジンマウントを構成するマウント本体の斜視図。
【図6】図5に示されたマウント本体を別角度で示す斜視図。
【図7】図1に示されたエンジンマウントを構成する門形ブラケットの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1〜図4には、本発明の1実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10はマウント本体11を有しており、図5,図6に示されているように、このマウント本体11が第1の取付部材12と第2の取付部材14を本体ゴム弾性体16で弾性連結した構造とされている。なお、以下の説明において、特に説明がない限り、上下方向とは車両への装着状態で略鉛直上下方向となる図3中の上下方向を、前後方向とは車両への装着状態で略車両前後方向となる図3中の右左方向を、左右方向とは車両への装着状態で略車両左右方向となる図4中の下上方向を、それぞれ言うものとする。
【0024】
より詳細には、第1の取付部材12は、図4〜図6に示されているように、本体部18と連結部20を一体的に備えた構造とされており、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材とされている。本体部18は、図3,図4に示されているように、左右方向視で略六角形を呈する厚肉の板形状とされている。連結部20は、本体部18の後端部から側方(車両左右方向の内側)に向かって延び出しており、本体部18よりも前後方向で狭幅とされて、本体部18から延び出す基端支持部22と、基端支持部22の先端側に設けられて、基端支持部22よりも前後方向で幅広とされた先端取付部24が、一体形成されている。なお、連結部20の先端取付部24には、複数のボルト孔26が上下に貫通して設けられている。
【0025】
また、第1の取付部材12には、緩衝ゴム28が取り付けられている。緩衝ゴム28は、板状乃至は帯状とされたリバウンドストッパゴム30と、リバウンドストッパゴム30の前後方向両端から下方に突出する前方ストッパゴム32および後方ストッパゴム34とを有している。更に、緩衝ゴム28は、前方ストッパゴム32の右端から後方に向かって延び出す薄肉板状の右方ストッパゴム36と、後方ストッパゴム34の左端から前方に向かって延び出す薄肉板状の左方ストッパゴム38とを有している。そして、緩衝ゴム28は、第1の取付部材12の本体部18に対して上方から装着されており、リバウンドストッパゴム30が本体部18の上面に重ね合わされていると共に、前後左右のストッパゴム32,34,36,38が本体部18の外周面の上部に外嵌されている。
【0026】
一方、第2の取付部材14は、図3,図5,図6等に示されているように、薄肉の板状乃至は帯状とされており、第1の取付部材12と同様の材料で形成された高剛性の部材とされている。また、第2の取付部材14は、前後方向の中央部分が、両端部分に対して段差状をなして上方に位置する中央固着部40とされており、その前後両端部分が前後方向内側に向かって下傾するテーパ部42,42とされている。更に、第2の取付部材14の前後方向両端部分には、略水平に広がる平板形状とされて中央固着部40よりも下方に位置する一対の端部取付片44,44が設けられており、中央固着部40と一対の端部取付片44,44との連結部分が上下に延びる一対の中間嵌着部46,46とされている。なお、一対の端部取付片44,44には、それぞれボルト孔48が厚さ方向に貫通して形成されている。
【0027】
そして、第1の取付部材12と第2の取付部材14は、第1の取付部材12の本体部18が第2の取付部材14の中央固着部40に対して上方に離隔配置されており、それら本体部18と中央固着部40が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、左右方向視で略ハ字状を呈しており、その上端が第1の取付部材12の下面に加硫接着されていると共に、下端が第2の取付部材14の中央固着部40のテーパ部42,42に加硫接着されている。本実施形態では、本体ゴム弾性体16が第1の取付部材12と第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0028】
また、第2の取付部材14の中央固着部40の前後方向中央部には、バウンドストッパゴム50が固着されている。バウンドストッパゴム50は、上方に向かって次第に狭幅となる突起状のゴム弾性体であって、第2の取付部材14の中央固着部40から上方に向かって突出して、第1の取付部材12の本体部18に対して上下で所定距離を隔てて対向している。また、バウンドストッパゴム50は、本体ゴム弾性体16の下端部の前後方向間に配設されており、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。
【0029】
また、第2の取付部材14の中間嵌着部46,46には、それぞれシールゴム層52が被着形成されている。シールゴム層52は、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のゴム弾性体であって、本体ゴム弾性体16の前後両端部から下方に延び出して、中間嵌着部46,46の前後方向外側の面に加硫接着されている。
【0030】
このような構造とされたマウント本体11には、図1〜図4に示されているように、門形ブラケット54が装着されている。門形ブラケット54は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、図7に示されているように、一対の脚部56a,56bと、それら脚部56a,56bの上端を連結する天板部58とを一体的に備えた構造とされている。
【0031】
脚部56は、左右方向に所定の幅寸法で略上下方向に延びる板状の脚部本体60と、脚部本体60の幅方向両端から前後方向外側に向かって突出する板状の補強リブ62とを一体的に有している。また、脚部56の下端には、前後方向外側に向かって略水平に広がる脚部取付片64が一体形成されており、脚部取付片64にはボルト孔66が厚さ方向で貫通して設けられている。
【0032】
天板部58は、左右方向に所定の幅寸法で略前後方向に延びる板状の天板本体68と、天板本体68の幅方向両端から上方に向かって突出する板状の補強リブ70とを一体的に有している。
【0033】
この天板部58が一対の脚部56a,56bの上端部を連結するように一体形成されて、門形ブラケット54が形成されている。即ち、天板部58の天板本体68が脚部56a,56bの脚部本体60,60の上端間に跨って一体形成されていると共に、天板部58の補強リブ70が脚部56a,56bの補強リブ62,62の上端間に跨って一体形成されている。なお、門形ブラケット54は、例えば、鋳造やプレスによって、一対の脚部56a,56bと天板部58を一体形成することにより得ることができる。
【0034】
そして、門形ブラケット54は、マウント本体11に装着されている。即ち、マウント本体11が門形ブラケット54の下側開口部から挿入されて、門形ブラケット54の一対の脚部56a,56bが、マウント本体11における第2の取付部材14の中間嵌着部46を前後方向で挟み込むことにより、門形ブラケット54が第2の取付部材14に取り付けられている。更に、門形ブラケット54の一対の脚部56a,56bの脚部本体60が、第2の取付部材14の中間嵌着部46の前後方向外面に対して、シールゴム層52を介して重ね合わされている。
【0035】
このような門形ブラケット54のマウント本体11への装着状態において、第1の取付部材12の連結部20が門形ブラケット54の右側方開口部72から右方に向かって延び出しており、連結部20における基端支持部22の一部および先端取付部24が門形ブラケット54よりも側方(右方)に突出している。一方、門形ブラケット54の天板部58が第1の取付部材12の本体部18の上方を跨いで配設されており、第1の取付部材12の本体部18は、門形ブラケット54の左側方開口部74から突出することなく、一対の脚部56a,56bおよび天板部58で囲まれた領域に配設されている。なお、門形ブラケット54において、一方の側方開口部が右側方開口部72とされていると共に、他方の側方開口部が左側方開口部74とされている。
【0036】
なお、マウント本体11に対する門形ブラケット54の装着状態において、第1の取付部材12の本体部18が、門形ブラケット54の脚部56a,56bおよび天板部58に対して、所定の距離だけ離隔して対向されている。また、第2の取付部材14の端部取付片44が、門形ブラケット54の脚部取付片64と上下に重ね合わされており、端部取付片44のボルト孔48と脚部取付片64のボルト孔66が位置決めされている。
【0037】
このような構造とされたエンジンマウント10は、第1の取付部材12の連結部20の先端取付部24が、図示しないインナブラケットを介して同じく図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14の端部取付片44,44および門形ブラケット54の脚部56a,56bの脚部取付片64,64が、図示しない車両ボデーに取り付けられる。これによって、パワーユニットが車両ボデーに対して防振支持乃至は防振連結されるようになっている。なお、第1の取付部材12のパワーユニット(ブラケット)への固定と、第2の取付部材14および門形ブラケット54の車両ボデーへの固定は、例えば、何れも図示しないボルトによる締結によって実現される。また、第2の取付部材14の端部取付片44,44と、門形ブラケット54の脚部取付片64,64が、図示しないボルトによって車両ボデーに固定されることにより、第2の取付部材14と門形ブラケット54がボルト固定される。
【0038】
そして、パワーユニットの振動や慣性力が第1の取付部材12と第2の取付部材14の間に入力される際に、第1の取付部材12と第2の取付部材14の相対変位が変位規制手段によって制限されるようになっている。
【0039】
具体的には、上下方向の入力に対しては、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する上方への変位を規制する上方変位規制手段と、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する下方への変位を規制する下方変位規制手段が、設けられている。即ち、第1の取付部材12の本体部18と門形ブラケット54の天板部58との緩衝ゴム28のリバウンドストッパゴム30を介した当接によって、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する上方(リバウンド方向)への変位を規制する上方変位規制手段が構成される。一方、第1の取付部材12の本体部18と第2の取付部材14の中央固着部40とのバウンドストッパゴム50を介した当接によって、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する下方(バウンド方向)への変位を規制する下方変位規制手段が構成される。
【0040】
また、前後方向の入力に対しては、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する前方への変位を規制する前方変位規制手段と、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する後方への変位を規制する後方変位規制手段が、設けられている。即ち、第1の取付部材12の本体部18と門形ブラケット54の脚部56aとの前方ストッパゴム32を介した当接によって、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する前方への変位を規制する前方変位規制手段が構成される。一方、第1の取付部材12の本体部18と門形ブラケット54の脚部56bとの後方ストッパゴム34を介した当接によって、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する後方への変位を規制する後方変位規制手段が構成される。
【0041】
また、左右方向の入力に対しては、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する左方への変位を規制する左方変位規制手段と、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する右方への変位を規制する右方変位規制手段が、設けられている。
【0042】
より詳細には、門形ブラケット54には、第1のストッパ片76と第2のストッパ片78が一体形成されている。第1,第2のストッパ片76,78は、何れも板形状を呈しており、左右方向に対して略直交して広がっている。また、第1のストッパ片76は、脚部56aおよび天板部58と一体形成されており、それら脚部56aと天板部58の連結部分である隅部から延び出して、右側方開口部72の一部(図1中の右上部分)を覆うように設けられている。一方、第2のストッパ片78は、脚部56bおよび天板部58と一体形成されており、それら脚部56bと天板部58の連結部分である隅部から延び出して、左側方開口部74の一部(図2中の右上部分)を覆うように設けられている。換言すれば、第1のストッパ片76が天板部58の前方側端部に一体的に設けられて下方に向かって突出しており、その前端が脚部56aと一体形成されていると共に、第2のストッパ片78が天板部58の後方側端部に一体的に設けられて下方に向かって突出しており、その後端が脚部56bと一体形成されている。
【0043】
第1,第2のストッパ片76,78は、門形ブラケット54のマウント本体11への装着状態において、第1の取付部材12の本体部18に対して、左右方向で所定の距離を隔てて対向しており、左右方向の投影において部分的に重なり合っている。より詳細には、第1のストッパ片76の後端部分が第1の取付部材12の本体部18の前端部分と左右方向で対向しており、それらの対向面間に右方ストッパゴム36が配設されている。また、第2のストッパ片78の前端部分が第1の取付部材12の本体部18の後端と左右方向で対向しており、それらの対向面間に左方ストッパゴム38が配設されている。
【0044】
また、図4に示されているように、第1のストッパ片76は、第1の取付部材12の連結部20の基端支持部22を前方側に外れた位置で、本体部18と連結部20の先端取付部24との対向面間に挿入されており、それら本体部18および先端取付部24の何れからも離隔している。
【0045】
そして、左右方向の入力時に、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する変位を規制する側方変位規制手段が、第1のストッパ片76による右方変位規制手段と、第2のストッパ片78による左方変位規制手段とによって、構成されている。
【0046】
すなわち、第1の取付部材12が第2の取付部材14に対して右方に変位すると、第1の取付部材12の本体部18が門形ブラケット54の第1のストッパ片76に対して右方ストッパゴム36を介して当接されて、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する相対変位が緩衝的に制限される。これにより、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する右方への相対変位を規制する右方変位規制手段が構成されるようになっている。
【0047】
また、右方変位規制手段において、緩衝ゴム28が第1の取付部材12の上端部分に嵌着されていることから、第1のストッパ片76の後端の上下方向中間部分が第1の取付部材12への当接部分とされており、第1のストッパ片76が第1の取付部材12への当接部分よりも下方まで延び出している。
【0048】
一方、第1の取付部材12が第2の取付部材14に対して左方に変位すると、第1の取付部材12の本体部18が門形ブラケット54の第2のストッパ片78に対して左方ストッパゴム38を介して当接されて、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する相対変位が緩衝的に制限される。これにより、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する左方への相対変位を規制する左方変位規制手段が構成されるようになっている。
【0049】
また、左方変位規制手段において、緩衝ゴム28が第1の取付部材12の上端部分に嵌着されていることから、第2のストッパ片78の前端の上下方向中間部分が第1の取付部材12への当接部分とされており、第2のストッパ片78が第1の取付部材12への当接部分よりも下方まで延び出している。なお、第1のストッパ片76と第2のストッパ片78は、略同じ突出寸法で形成されている。
【0050】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10によれば、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する相対変位が、第1の取付部材12と第2の取付部材14または門形ブラケット54との当接によって、前後、左右、上下の各方向において制限される。それ故、本体ゴム弾性体16の過大な変形が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0051】
また、第1の取付部材12と第2の取付部材14および門形ブラケット54は、緩衝ゴム28およびバウンドストッパゴム50を介して当接されるようになっており、当接による変位規制効果が緩衝的に発揮されるようになっている。従って、当接時の打音や振動の発生が防止されて、防振性能に対する悪影響が回避されている。本実施形態では、前方ストッパゴム32および後方ストッパゴム34に比して、右方ストッパゴム36および左方ストッパゴム38が薄肉とされている。これにより、車両前後方向でパワーユニットの変位が充分に柔軟に制限されて、優れた乗り心地が実現されると共に、車両左右方向でパワーユニットの変位が小さく抑えられて、走行安定性の向上が図られる。
【0052】
また、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する左右方向への変位を規制する側方変位規制手段が、第1の取付部材12の本体部18と、門形ブラケット54の第1,第2のストッパ片76,78との当接によって構成されている。この第1,第2のストッパ片76,78は、門形ブラケット54の脚部56a,56bおよび天板部58から前後方向内方および下方に向かって突出しており、側方開口部72,74の上隅を覆うように設けられている。このような構造の側方変位規制手段を採用すれば、第1,第2のストッパ片76,78が左右方向で脚部56a,56bおよび天板部58よりも外側に大きく突出するのを防ぐことができて、門形ブラケット54の大型化が回避される。しかも、第1,第2のストッパ片76,78が第1の取付部材12の本体部18よりも左右方向外側に離隔して対向配置されていることにより、第1の取付部材12の本体部18を小型にすることができる。
【0053】
また、第1,第2のストッパ片76,78は、何れも第1の取付部材12の本体部18に対して上下方向の中間部分が当接されるようになっており、本体部18との当接部分よりも下方まで延び出している。これによって、本体ゴム弾性体16の変形によって第1の取付部材12と門形ブラケット54の上下方向での相対位置が変化した場合にも、第1,第2のストッパ片76,78と本体部18の当接面積が確保されて、目的とする変位規制効果が有効に発揮されると共に、当接時の特性(当接による振動や打音等)の悪化が防止される。
【0054】
しかも、第1のストッパ片76は、第1の取付部材12の連結部20の基端支持部22を前方側に外れて設けられていることから、門形ブラケット54の右側方開口部72から突出する構造の第1の取付部材12を採用しながら、当接部分よりも下方まで延び出す第1のストッパ片76を設けることができる。特に、本実施形態では、連結部20の基端支持部22が本体部18の後端部分から延び出すように設けられており、第1の取付部材12の大型化を要することなく、第1のストッパ片76と本体部18の前後方向での重なりを充分に確保することができる。
【0055】
また、第1のストッパ片76が脚部56aと天板部58の前端部分で支持されていると共に、第2のストッパ片78が脚部56bと天板部58の後端部分で支持されている。これにより、パワーユニットの変位に伴う第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する相対回転が防止されて、本体ゴム弾性体16の捻り方向での変形が防止されることから、耐久性の向上が図られる。加えて、自動車用のエンジンマウントとして本実施形態に従う構造のエンジンマウント10を採用すれば、パワーユニットの変位が制限されることから、自動車の走行安定性を高めることもできる。
【0056】
また、第1,第2のストッパ片76,78は、門形ブラケット54の隅部に設けられており、第1のストッパ片76が脚部56aと天板部58の両方で支持されていると共に、第2のストッパ片78が脚部56bと天板部58の両方で支持されている。これにより、第1,第2のストッパ片76,78が脚部56a,56bおよび天板部58によって充分な強度で支持されており、本体部18との当接による第1,第2のストッパ片76,78の変形(損傷)が防止されている。更に、第1,第2のストッパ片76,78が、一対の脚部56a,56bと天板部58の境界部分に、リブの如く設けられていることから、門形ブラケット54の強度の向上が図られて、門形ブラケット54の軽量化や小型化が実現され得る。
【0057】
また、マウント本体11が門形ブラケット54に対して下方から嵌め込まれるようになっていることから、第1,第2のストッパ片76,78が側方開口部72,74を覆うように設けられていても、マウント本体11と門形ブラケット54の組付け作業に不具合を生じることはなく、エンジンマウント10を簡単に製造することができる。
【0058】
また、第1,第2のストッパ片76,78は、何れも門形ブラケット54の脚部56a,56bおよび天板部58に一体形成されていることから、部品点数を増やすことなく、側方変位規制手段を備えたエンジンマウント10を得ることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第1,第2のストッパ片は、必ずしも脚部56と天板部58の両方によって支持された構造に限定されるものではなく、脚部56と天板部58の何れか一方から延び出す構造も採用可能である。また、第2のストッパ片は、前端部が脚部56aによって支持されると共に、後端部が脚部56bによって支持されるように形成されていても良く、更に天板部58によって上端部を支持されていても良い。
【0060】
また、第1の取付部材12の連結部20は、本体部18の前後方向中間部分から側方に延び出していても良い。この場合には、連結部20を挟んだ前後両側に第1のストッパ片が設けられて、本体部18と側方投影において重なり合うように配置された構造が採用され得る。このことからも明らかなように、第1,第2のストッパ片は、何れも2つ以上の複数が設けられる場合もある。
【0061】
また、第1,第2のストッパ片は、部品点数を少なくするために、脚部56や天板部58と一体形成されていることが望ましいが、脚部56および天板部58とは別体で形成されて、溶接等の手段で脚部56や天板部58に後固定されていても良い。
【0062】
また、マウント本体は、実施形態に示されているようなソリッドタイプの防振装置であっても良いし、非圧縮性流体が封入された複数の流体室と、それら流体室を連通するオリフィス通路とを備えており、流体の流動作用に基づいた防振効果を利用する流体封入式の防振装置であっても良い。
【0063】
また、本発明の適用範囲は自動車用のエンジンマウントに限定されるものではなく、本発明は、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等のエンジンマウントにも適用され得る。
【符号の説明】
【0064】
10:エンジンマウント、12:第1の取付部材、14:第2の取付部材、16:本体ゴム弾性体、18:本体部、20:連結部、54:門形ブラケット、56:脚部、58:天板部、72:右側方開口部(一方の側方開口部)、74:左側方開口部(他方の側方開口部)、76:第1のストッパ片、78:第2のストッパ片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されて、該第1の取付部材が、該本体ゴム弾性体に取り付けられる本体部と、該本体部から側方に延び出す連結部とを備えていると共に、該第2の取付部材には、該第2の取付部材に固定される一対の脚部と、それら脚部を連結する天板部とを備えた門形ブラケットが取り付けられており、該門形ブラケットの該天板部が該第1の取付部材を跨いで配設されていると共に、該第1の取付部材の該連結部が該門形ブラケットの一方の側方開口部から延び出してパワーユニットに取り付けられるようになっているエンジンマウントにおいて、
前記門形ブラケットには、該門形ブラケットの一方の側方開口部を部分的に覆う第1のストッパ片が前記第1の取付部材の前記連結部を外れて設けられていると共に、該門形ブラケットの他方の側方開口部を部分的に覆う第2のストッパ片が設けられて、該門形ブラケットの側方での投影においてそれら第1のストッパ片および第2のストッパ片が該第1の取付部材の前記本体部と重なり合っており、それら第1のストッパ片および第2のストッパ片と該本体部との当接によって該第1の取付部材の該第2の取付部材に対する側方への相対変位を規制する側方変位規制手段が設けられていると共に、該第1のストッパ片および該第2のストッパ片が該第1の取付部材の該本体部に対する当接部分よりも下方まで延び出していることを特徴とするエンジンマウント。
【請求項2】
前記一対の脚部の対向方向において、前記第1のストッパ片が前記本体部の一方の端部と対向して設けられていると共に、前記第2のストッパ片が該本体部の他方の端部と対向して設けられている請求項1に記載のエンジンマウント。
【請求項3】
前記第1のストッパ片が前記一対の脚部の何れか一方および前記天板部から延び出していると共に、前記第2のストッパ片が該一対の脚部の何れか他方および該天板部から延び出している請求項1又は2に記載のエンジンマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−202418(P2012−202418A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64461(P2011−64461)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】