説明

エンジン

【課題】連れ回りトルクの大きさに対応した最適な燃料噴射パターンを決定できるエンジンを提供する。
【解決手段】作業機に接続されるエンジン100であって、コモンレール21に蓄圧した燃料をインジェクタ22によって各気筒11・12・13・14に噴射する多段燃料噴射装置20と、エンジンの状態温度を検出する冷却水温度センサー70と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサー60と、前記多段燃料噴射装置20の燃料噴射パターンを制御するECU50と、を具備し、前記ECU50は、始動制御では、前記多段燃料噴射装置20の燃料噴射パターンを、エンジン回転数Neと、冷却水温度Twと、前記作業機の作業負荷Ahと、に基づいて決定するエンジン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関し、特にその燃料噴射制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コモンレールに蓄圧した燃料をインジェクタによって多段噴射する燃料噴射装置を具備するエンジンの技術は公知となっている。このようなエンジンは、燃料噴射量、燃料噴射時期、燃料噴射圧力、多段噴射有無等を含む燃料噴射装置の「燃料噴射パターン」を制御手段により決定して、その決定した燃料噴射パターンで燃料噴射制御を行う。
【0003】
通常制御とは異なった燃料噴射パターンを行う「始動制御」も公知となっている。「始動制御」とは、エンジン始動時間中であって、エンジン状態温度が冷態であるときに行われる燃料噴射パターンを決定する制御である。「始動時間」とは、エンジン回転数が始動開始からアイドル回転数に至るまでの時間をいう。特許文献1の始動制御に代表されるように、従来の始動制御においては、エンジン回転数および冷却水温度(エンジン温度)のみに基づいて燃料噴射パターンが決定されていた。
【0004】
また、エンジンは、出力軸に接続される作業機によって連れ回りトルクが異なる。「連れ回りトルク」とは、広義の意味では、伝達機構において、回転数差がゼロの状態となるために要求される駆動側のトルクである。本発明における狭義の意味として「連れ回りトルク」とは、エンジンに作業機が接続された状態において、エンジンが始動時間に要求されるトルクをいう。
【0005】
図9を用いて、前記従来の始動制御が行われる際の、連れ回りトルクの大きさと始動時間の関係について説明する。
図9の実線は、例えば、エンジンに接続されている作業機が油圧ポンプによって駆動されるものであって、油圧ポンプの容量が小さい場合、すなわち、エンジンの連れ回りトルクが小さい場合における始動時のエンジン回転数Neの変化を表している。一方、図9の破線は、例えばエンジンに接続されている作業機が油圧ポンプによって駆動されるものであって、油圧ポンプの容量が大きい場合、すなわち、エンジンの連れ回りトルクが大きい場合における始動時のエンジン回転数Neの変化を表している。図9の実線および破線から明らかのように、燃料噴射パターンがエンジン回転数および冷却水温度のみに基づいて決定されると、連れ回りトルクが大きい場合には、始動時間が無駄に長くなるという問題が生じていた。一方、連れ回りトルクが小さい場合には、燃料過多により青白煙が発生するという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−12277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、連れ回りトルクの大きさに対応した最適な燃料噴射パターンを決定できるエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、作業機に接続されるエンジンであって、コモンレールに蓄圧した燃料をインジェクタによって各気筒に多段噴射する燃料噴射装置と、エンジン温度を検出するエンジン温度検出手段と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記燃料噴射装置の燃料噴射パターンを制御する制御手段と、を具備し、前記制御手段は、始動制御では、前記燃料噴射装置の燃料噴射パターンを、エンジン温度と、エンジン回転数と、前記作業機の作業負荷と、に基づいて決定するエンジンである。
【0010】
請求項2においては、請求項1記載のエンジンであって、前記作業負荷は、前記作業機に備えられた当該エンジンにより駆動される油圧ポンプの吐出量および圧力に基づいて決定される、前記油圧ポンプの負荷であるエンジンである。
【0011】
請求項3においては、請求項1記載のエンジンであって、前記作業負荷は、前記作業機に備えられた当該エンジンにより駆動される油圧ポンプの作動油の温度に基づいて決定される、前記油圧ポンプの負荷であるエンジンである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエンジンによれば、連れ回りトルクの大きさに対応した最適な燃料噴射パターンを決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態であるエンジンの全体的な構成を示した模式図。
【図2】同じく作業機の油圧回路を示す構成図。
【図3】同じく始動制御のフローを示すフロー図。
【図4】別実施形態である始動制御のフローを示すフロー図。
【図5】本発明の一実施形態である始動制御による燃料噴射パターンの一例を示したグラフ図。
【図6】図5の燃料噴射パターンによるエンジン回転数の変化を示したグラフ図。
【図7】本発明の一実施形態である始動制御による燃料噴射パターンの一例を示したグラフ図。
【図8】図7の燃料噴射パターンによるエンジン回転数の変化を示したグラフ図。
【図9】従来の始動制御によるエンジン回転数の変化を示したグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態であるエンジンの全体的な構成を示した模式図、図2は同じく作業機の油圧回路を示す構成図、図3は同じく始動制御のフローを示すフロー図である。図4は別実施形態である始動制御のフローを示すフロー図、図5は本発明の一実施形態である始動制御による燃料噴射パターンの一例を示したグラフ図、図6は図5の燃料噴射パターンによるエンジン回転数の変化を示したグラフ図である。図7は本発明の一実施形態である始動制御による燃料噴射パターンの一例を示したグラフ図、図8は図7の燃料噴射パターンによるエンジン回転数の変化を示したグラフ図、図9は従来の始動制御によるエンジン回転数の変化を示したグラフ図である。
【0015】
図1を用いて、本発明の一実施形態であるエンジン100について説明する。
エンジン100は、4気筒4サイクルのディーゼルエンジンであって、エンジン本体10と、燃料噴射装置20と、制御手段としてのENGINE CONTROL UNIT(以下ECU)50と、エンジン回転数検出手段としてのエンジン回転数センサー60と、エンジン温度検出手段としての冷却水温度センサー70と、操作部(図示略)に配置されるキースイッチ80と、フライホィール18の近傍に配置されるセルモータ90と、を具備している。
【0016】
エンジン本体10は、4つの気筒として気筒11・12・13・14と、クランクシャフト19と、クランクシャフト19に設けられるフライホィール18と、を具備している。
【0017】
燃料噴射装置20は、コモンレール式の燃料噴射装置であって、高圧の燃料を蓄圧するコモンレール21と、コモンレール21と燃料タンク(図示なし)とを接続する配管を介して設けられコモンレール21の圧力を制御する圧力制御弁23と、エンジン本体10の各気筒11・12・13・14に設けられ、電磁弁22aを開閉することで燃料噴射量等を調整するインジェクタ22と、を具備している。
【0018】
ECU50は、制御プログラムや後述するマップを記憶している。ECU50は、エンジン回転数検出手段としてのエンジン回転数センサー60と、エンジン温度検出手段としての冷却水温度センサー70と、燃料噴射装置20におけるインジェクタ22の電磁弁22aと、燃料噴射装置20における圧力制御弁23と、キースイッチ80と、セルモータ90と接続されている。
【0019】
ECU50は、エンジン回転数センサー60から随時検出されるエンジン回転数Neを取得し、冷却水温度センサー70からエンジン温度として随時検出される冷却水温度Twを取得する。そして、ECU50は、所定時間におけるエンジン回転数Neの上昇率であるエンジン回転数上昇率Reを算出して、燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)を算出し、この燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)に従って燃料噴射装置20による燃料の噴射を制御する。
【0020】
「燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)」とは、燃料噴射圧力Qp、燃料噴射時期Qt、燃料噴射量Qq、およびパイロット噴射INJpを含む多段噴射の有無からなる燃料噴射の形態である。なお、本実施形態では、1サイクルに複数回の噴射を行う多段噴射を、パイロット噴射INJpとメイン噴射INJmとからなる2段噴射としているが、2以上の段数を有する多段噴射とすることもできる。
【0021】
なお、燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)は、燃料の多段噴射が行われる場合に、パイロット噴射INJpおよびメイン噴射INJmのそれぞれの燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)を含むものとする。
【0022】
図2を用いて、エンジン100に接続される作業機200について説明する。
作業機200は、建設機械、農業機械等で油圧ポンプによって駆動されるものであって、特に限定しないものとする。
作業機200は、エンジン100に接続されて駆動される油圧ポンプ210と、作業機200の各部に供給する作動油を溜める油タンク260と、油圧ポンプ210の吐出側に設けられて油圧ポンプ210から吐出される作動油の圧力(油圧ポンプ210の圧力)を検出する油圧検出手段としての油圧センサー220と、同じく油圧ポンプ210の吐出側に設けられて油圧ポンプ210から吐出される作動油の吐出量(油圧ポンプ210の吐出量)を検出する吐出量検出手段としての吐出量センサー230と、所定油圧となれば作動油を油タンク260に逃がし油圧ポンプ210の最大油圧を決定するリリーフバルブ250と、油タンク260に設けられて作動油の温度(油圧ポンプ210の作動油の温度)を検出する作動油温度検出手段としての作動油温度センサー240と、を具備している。
【0023】
油圧センサー220と、吐出量センサー230と、作動油温度センサー240とは、ECU50に接続されている。
ECU50は、油圧センサー220から随時検出される油圧Phを取得するとともに、吐出量センサー230から随時検出される吐出量Shを取得して、取得した油圧Phおよび吐出量Shに基づいて油圧ポンプ負荷Ah(油圧ポンプ負荷Ah=油圧Ph×吐出量Sh)を作業負荷として算出する。
または、ECU50は、油圧センサー220から随時検出される作動油温度Thを取得し、取得した作動油温度Thに基づいて予め記憶された作動油温度Thと油圧ポンプ負荷Ahとの相関(作動油温度マップ)に基づいて、油圧ポンプ負荷Ahを作業負荷として算出する。
【0024】
以下に、本発明の実施形態であるエンジン100の始動制御について説明する。
「始動制御」とは、エンジン100の始動時間中に、エンジン100の状態が冷態であるときに行われる燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)を決定する制御である。
「始動時間」とは、エンジン始動開始後にエンジン回転数Neが0から基準エンジン回転数としてのアイドル回転数Neiに至るまでの時間をいう。
「冷態」とは、エンジン100のエンジン温度が所定温度よりも低い状態であることをいう。本実施形態では、エンジン温度を冷却水温度Twで代用するが、特に限定するものではない。例えば、エンジン温度を潤滑油の温度で代用してもよい。
【0025】
「連れ回りトルク」とは、広義の意味では、伝達機構において、回転数差がゼロの状態となるために要求される駆動側のトルクである。
本実施形態における狭義の意味では、「連れ回りトルク」とは、エンジン100の出力軸に作業機200(油圧ポンプ210)が接続された状態において、エンジン始動時間中にエンジン100が要求されるトルクをいう。本実施形態の作業機200は、エンジン100により油圧ポンプ210を駆動するものとしている。例えば、連れ回りトルクは、エンジン100に接続されて駆動される油圧ポンプ210の容量や油温や油の種類等によって異なる。
【0026】
図3を用いて、始動制御S100の流れについて説明する。
ECU50は、ステップS110において、エンジン回転数センサー60から検出されたエンジン回転数Neを取得し、冷却水温度センサー70から検出された冷却水温度Twを取得する。ECU50は、取得したエンジン回転数Neおよび冷却水温度Twに基づいて始動制御を実行する始動制御モードにあるか判断し、始動制御モードになければ、通常制御を実行し、始動制御モードであれば以下の始動制御を実行する。
「始動制御モード」とは、エンジン100において、キースイッチ80の操作によって、セルモータ90の作動によりクランクシャフト19が回転され、エンジン回転数Neがアイドル回転数Nei以下、かつ、エンジン温度、即ち冷却水温度Twが所定温度Tw0以下である状態をいう。
【0027】
ECU50は、始動制御モードにあれば、次のステップS120において、油圧センサー220から油圧Phを取得し、吐出量センサー230から吐出量Shを取得する。そして、ECU50は、油圧ポンプ負荷Ahを取得した油圧Phと吐出量Shとに基づいて算出する。
【0028】
ECU50は、続いてステップS130において、燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)を、エンジン回転数Ne、冷却水温度Twおよび油圧ポンプ負荷Ahに基づいて、燃料噴射マップf1(Ne、Tw、Ah)により算出して決定する。ECU50は、この算出した燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)に従って、インジェクタ22および電磁弁22aに制御信号を送信して、燃料噴射装置20による燃料の噴射を制御する。
【0029】
図4を用いて、別実施形態である始動制御S200について説明する。
ステップS210は前記ステップS110と同じ制御となるので、説明は省略する。
ECU50は、始動制御モードにあれば、次のステップS220において、作動油温度センサー240から作動油温度Thを取得する。そして、ECU50は、油圧ポンプ負荷Ahを取得した作動油温度Thに基づいて前記作動油温度マップから算出する。
【0030】
ECU50は、続いてステップS230において、燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)を、エンジン回転数Ne、冷却水温度Twおよび油圧ポンプ負荷Ahに基づいて、燃料噴射マップf1(Ne、Tw、Ah)により算出して決定する。ECU50は、この算出した燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)に従って、インジェクタ22および電磁弁22aに制御信号を送信して、燃料噴射装置20による燃料の噴射を制御する。
【0031】
このような流れによって、ECU50は、始動制御を行う。そして、この際には、ECU50は、エンジン100に接続されている作業機200の油圧ポンプ210の容量等によって変化する連れ回りトルクの大きさを、油圧ポンプ負荷Ahに基づいて推定し、その推定した連れ回りトルクの大きさを用いて、燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)を算出して決定するようになっている。
このようにして、エンジン100は、燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)を接続される作業機200(油圧ポンプ210)に対応した、すなわち、連れ回りトルクの大きさに対応した最適なものに設定することができる。
【0032】
図5を用いて、連れ回りトルクが小さい場合の燃料噴射パターンINJ(Qp、Qt、Qq)の一例について説明する。
図5において、実線は、本実施形態の始動制御S100、S200の際に決定された燃料噴射パターンINJ1(Qp、Qt、Qq)に従って燃料噴射制御が行われる場合の燃料噴射量Qqおよび筒内圧力Pcの変化を示している。破線は、従来の始動制御の際に決定された従来燃料噴射パターンINJ0(Qp、Qt、Qq)に従って燃料噴射制御が行われる場合の燃料噴射量Qqおよび筒内圧力Pcの変化を示している。
ここで、始動制御S100、S200による燃料噴射パターンINJ1(Qp、Qt、Qq)は、例えば連れ回りトルクが小さい場合には、従来燃料噴射パターンINJ0(Qp、Qt、Qq)に対してパイロット噴射INJpおよびメイン噴射INJmのそれぞれについて燃料噴射時期Qtが進角するような燃料噴射パターンINJ1(Qp、Qt、Qq)に決定される。
【0033】
図6を用いて、連れ回りトルクが小さい場合の始動制御S100、S200による燃料噴射パターンINJ1(Qp、Qt、Qq)の効果について説明する。
図6において、実線は始動制御S100、S200が行われる場合の時間に対するエンジン回転数Neの変化を示し、破線は従来の始動制御が行われる場合の時間に対するエンジン回転数Neの変化を示している。
従来の始動制御によれば、従来燃料噴射パターンINJ0(Qp、Qt、Qq)は、エンジン回転数Neおよび冷却水温度Twのみに基づいて決定されていたため、連れ回りトルクが小さい場合には、筒内圧力Pcが十分に上昇しない状況で、メイン噴射INJmが行われていた。その結果、メイン噴射INJmの着火不良が発生し、燃料過多により青白煙が発生していた(図6のX部分)。
【0034】
しかし、始動制御S100、S200によれば、ECU50が連れ回りトルクが小さい状況を認識して、最適な燃料噴射パターンINJ1(Qp、Qt、Qq)を決定し、その燃料噴射パターンINJ1(Qp、Qt、Qq)に従って燃料噴射時期Qtを進角させることによって、筒内圧力Pcがパイロット噴射INJpにより早い段階で上昇し、その状況でメイン噴射INJmが行われる。したがって、メイン噴射INJmの着火不良を防止できる。
【0035】
図7を用いて、連れ回りトルクが大きい場合の燃料噴射パターンINJ2(Qp、Qt、Qq)の一例について説明する。
図7において、実線は本実施形態の始動制御S100、S200の際に決定された燃料噴射パターンINJ2(Qp、Qt、Qq)に従って燃料噴射制御が行われる場合の燃料噴射量Qqおよび筒内圧力Pcの変化を示している。破線は従来の始動制御の際に決定された従来燃料噴射パターンINJ0(Qp、Qt、Qq)に従って燃料噴射制御が行われる場合の燃料噴射量Qqおよび筒内圧力Pcの変化を示している。
ここで、始動制御S100、S200による燃料噴射パターンINJ2(Qp、Qt、Qq)は、例えば連れ回りトルクが大きい場合には、従来燃料噴射パターンINJ0(Qp、Qt、Qq)に対してパイロット噴射INJpおよびメイン噴射INJmのそれぞれについて燃料噴射時期Qtが遅角するような燃料噴射パターンINJ2(Qp、Qt、Qq)に決定される。
【0036】
図8を用いて、連れ回りトルクが大きい場合の始動制御S100、S200による燃料噴射パターンINJ2(Qp、Qt、Qq)の効果について説明する。
図8において、実線は始動制御S100、S200が行われる場合の時間に対するエンジン回転数Neの変化を示し、破線は従来の始動制御が行われる場合の時間に対するエンジン回転数Neの変化を示している。
従来の始動制御によれば、従来燃料噴射パターンINJ0(Qp、Qt、Qq)は、エンジン回転数Neおよび冷却水温度Twのみに基づいて決定されていたため、連れ回りトルクが大きい場合には、筒内圧力Pcが最も高くなる直前付近で、パイロット噴射が行われていた。その結果、メイン噴射INJmによる燃料が完全燃焼できずに未燃ガス(青白煙)として排出されることになり、燃焼効率が悪く、無駄に始動時間を要する問題が発生していた。
【0037】
しかし、始動制御S100、S200によれば、ECU50が連れ回りトルクが大きい状況を認識して、最適な燃料噴射パターンINJ2(Qp、Qt、Qq)を決定し、その燃料噴射パターンINJ2(Qp、Qt、Qq)に従ってパイロット噴射INJpおよびメイン噴射INJmの各燃料噴射時期Qtを遅角することによって、筒内圧力Pcが確実に上昇した状況で、パイロット噴射INJpおよびメイン噴射INJmが行われる。したがって、エンジン回転数Neを早期に上昇させて、始動時間が無駄に長くなるのを防止することができ、エンジン100の始動性が向上する。
【符号の説明】
【0038】
20 燃料噴射装置
21 コモンレール
22 インジェクタ
50 ECU(制御手段)
60 エンジン回転数センサー(エンジン回転数検出手段)
70 冷却水温度センサー(エンジン温度検出手段)
100 エンジン
200 作業機
220 油圧センサー
230 吐出量センサー
240 作動油温度センサー
S100 始動制御
S200 始動制御
tf 経過時間
Tw 冷却水温度
Ne エンジン回転数
Nei アイドル回転数
Ph 油圧
Sh 吐出量
Ah 油圧ポンプ負荷(作業負荷)
Qt 燃料噴射時期
Qp 燃料噴射圧力
Qq 燃料噴射量
INJ(Qp、Qt、Qq) 燃料噴射パターン
f1(Ne、Tw、Ah) 燃料噴射マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機に接続されるエンジンであって、
コモンレールに蓄圧した燃料をインジェクタによって各気筒に多段噴射する燃料噴射装置と、
エンジン温度を検出するエンジン温度検出手段と、
エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記燃料噴射装置の燃料噴射パターンを制御する制御手段と、
を具備し、
前記制御手段は、始動制御では、前記燃料噴射装置の燃料噴射パターンを、エンジン温度と、エンジン回転数と、前記作業機の作業負荷と、に基づいて決定するエンジン。
【請求項2】
前記作業負荷は、前記作業機に備えられた当該エンジンにより駆動される油圧ポンプの吐出量および圧力に基づいて決定される、前記油圧ポンプの負荷である請求項1記載のエンジン。
【請求項3】
前記作業負荷は、前記作業機に備えられた当該エンジンにより駆動される油圧ポンプの作動油の温度に基づいて決定される、前記油圧ポンプの負荷である請求項1記載のエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−153551(P2011−153551A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14868(P2010−14868)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】