説明

エンドセリン作用抑制剤及び美白剤

【課題】エンドセリン作用抑制剤及び美白剤を提供する。
【解決手段】ショウコウ(Pinus yunnanensis Franch.)、バタグルミ(Juglans cinerea)、セキカ(Parmelia tinctorum Despre.)、センネンケン(Homalomena occulta(Lour.)Schott)及びアレトリス・ファリノサ(Aletris farinosa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を有効成分として含有するエンドセリン作用抑制剤および美白剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドセリン作用抑制剤及び美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドセリンは、内皮細胞由来のペプチドホルモンで、受容体を通して種々の細胞や組織に作用する。例えば、血管平滑筋細胞等において細胞内カルシウム濃度上昇を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。
近年、エンドセリンが表皮メラノサイト(メラニン細胞)に対し細胞内カルシウム濃度上昇を促し、細胞内のシグナル伝達系を介して細胞増殖を促進するとともに、メラニン合成の律速酵素であるチロシナーゼの活性を増強することが報告されている(非特許文献2参照)。また、エンドセリンは表皮角化細胞(ケラチノサイト)が産生するメラノサイト活性化因子の1つであること(非特許文献3)、紫外線誘導性色素沈着や老人性色素斑形成の重要な要因であることが報告されている(非特許文献4、5)。
このようなエンドセリンの生体作用から、エンドセリンの作用を抑制しうる物質はメラニン生成や色素沈着等の改善や予防に有用であることが十分予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hirata Y. et al. (1988) Biochem. Biophys. Res. Commun. 154, 868-875
【非特許文献2】Yada et al. (1991) J. Biol. Chem. 266, 18352-18357
【非特許文献3】Imokawa et al. (1992) J. Biol. Chem. 267, 24675-24680
【非特許文献4】Imokawa et al. (1995) J. Invest. Dermatol. 105, 32-37
【非特許文献5】Kadono et al. (2001) J. Invest. Dermatol. 116, 571-577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エンドセリンの作用を効果的に抑制するエンドセリン作用抑制剤を提供することを課題とする。また、本発明は、エンドセリンの作用を抑制しメラニン生成を抑制しうる美白剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題に鑑み、エンドセリンの作用を抑制する新規物質を探求すべく鋭意検討を行った。その結果、ショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン及びアレトリス・ファリノサの抽出物が、エンドセリンの作用によって引き起こされるメラノサイト内のカルシウム(イオン)濃度上昇を効果的に抑制することを見出し、該抽出物が新規の美白成分として有用であるとの知見を得た。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、ショウコウ(Pinus yunnanensis Franch.)、バタグルミ(Juglans cinerea)、セキカ(Parmelia tinctorum Despre.)、センネンケン(Homalomena occulta(Lour.)Schott)及びアレトリス・ファリノサ(Aletris farinosa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を有効成分として含有するエンドセリン作用抑制剤に関する。
また、本発明は、ショウコウ(Pinus yunnanensis Franch.)、バタグルミ(Juglans cinerea)、セキカ(Parmelia tinctorum Despre.)、センネンケン(Homalomena occulta(Lour.)Schott)及びアレトリス・ファリノサ(Aletris farinosa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を有効成分として含有する美白剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエンドセリン作用抑制剤は、優れたエンドセリン作用抑制効果を奏し、エンドセリンによるメラノサイト内のカルシウム濃度上昇を効果的に抑制することができる。また、本発明の美白剤は、メラノサイトに対するエンドセリンの作用を抑制し、メラニン生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の参考例において、ジャーマンカミツレ抽出物を添加した系での細胞内カルシウム濃度上昇率(相対値%)を示す図である。
【図2】実施例2において、ショウコウ、バタグルミ、セキカ及びアレトリス・ファリノサの抽出物を添加し培養した皮膚シートの写真である。
【図3】実施例2において、各抽出物を添加した皮膚シート中のメラニン量(相対値%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のエンドセリン作用抑制剤及び美白剤は、ショウコウ(Pinus yunnanensis Franch.)、バタグルミ(Juglans cinerea)、セキカ(Parmelia tinctorum Despre.)、センネンケン(Homalomena occulta(Lour.)Schott)及びアレトリス・ファリノサ(Aletris farinosa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を有効成分として含有する。後述の実施例で実証するように、これらの抽出物は優れたエンドセリン作用抑制効果及びメラニン産生抑制効果を有する。
【0010】
まず、本発明に用いられる植物及び地衣類について説明する。
本発明において、ショウコウはマツ科マツ属に属する植物で、学名はPinus yunnanensis Franch.で、和名は雲南松(ウンナンショウ、ウンナンマツ、ユンナンマツ)である。
バタグルミはクルミ科ジュグランス属(Juglans)に属する植物で、学名はJuglans cinereaで、別名シログルミ、バターナット又はホワイトウォルナットとも呼ばれる。
セキカは、ウメノキゴケ科ウメノキゴケ属に属する地衣類で、学名はParmelia tinctorum Despr.で、和名は石花、ウメノキゴケである。
センネンケンは、サトイモ科ホマロメナ属(Homalomena)に属する植物で、学名はHomalomena occulta(Lour.)Schottで、和名は千年健である。
アレトリス・ファリノサは、ユリ科ソクシンラン属に属する植物で、学名はAletris farinosaである。
本発明においては、上述したそれぞれの属に属する類縁植物や地衣類を用いることもできる。
【0011】
本発明において用いる、ショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン及びアレトリス・ファリノサは、それら植物又は地衣類の全ての任意の部分が使用可能である。例えば、上記植物の全木、全草、又は任意の部位(根、根茎、幹、枝、茎、葉、樹皮、樹液、樹脂、花、果実、種子、果皮、莢、芽、花穂、心材等)、上記地衣類の葉状体、子実体等を用いることができる。また、各部位を複数組み合わせて用いてもよい。
【0012】
本発明においては、上記植物又は地衣類の各部位の中でも、特に下記の部位から抽出物を得ることが好ましい。
ショウコウの抽出物を得るためには、前記植物の樹脂を用いるのが好ましく、ショウコウを基原植物として得られた生薬、松香を用いることもできる。
バタグルミの抽出物を得るためには、前記植物の樹皮を用いるのが好ましい。
セキカの抽出物を得るためには、前記地衣類の葉状体、子実体を用いるのが好ましい。
センネンケンの抽出物を得るためには、前記植物の根茎を用いるのが好ましく、センネンケンを基原植物として得られた生薬、千年健を用いることもできる。
アレトリス・ファリノサの抽出物を得るためには、前記植物の根茎を用いるのが好ましい。
本発明のエンドセリン作用抑制剤又は美白剤においては、上記各抽出物を単独で用いてもよく、また2種以上混合して用いてもよい。
【0013】
本発明において用いる、ショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン及びアレトリス・ファリノサの抽出物の製造方法については特に限定はなく、上記植物又は地衣類を通常の方法で抽出することにより抽出物を得ることができる。具体的には、上記植物又は地衣類を乾燥させた乾燥物、その粉砕物等を圧搾抽出することにより得られる搾汁、水蒸気蒸留物、各種抽出溶剤による粗抽出物、粗抽出物を分配又はカラムクロマトなどの各種クロマトグラフィーなどで精製して得られた抽出物画分などを本発明における抽出物として用いることができる。
上記植物又は地衣類は生のままで抽出に供することも可能であるが、より抽出効率を高めるために、乾燥、細断、粉砕などの工程を加えることも好ましい。また、本発明においては、上記の抽出物、水蒸気蒸留物、圧搾物等を、いずれかを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明においては、上記植物又は地衣類を乾燥させた乾燥物又はその粉砕物から、抽出溶剤を用いて得られた抽出物を用いることがより好ましい。
抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。このうち、水、アルコール類、水−アルコール混合液、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール、水−多価アルコール類の混合液を用いるのが好ましく、エタノール水溶液を用いるのがより好ましい。
【0015】
本発明で用いられる抽出物を得るための抽出条件については、使用する溶剤によって異なり特に制限はないが、例えば水、アルコール類又は水−アルコール混合液、プロピレングリコール、ブチレングリコールにより抽出する場合、好ましくは植物又は地衣類1質量部に対して1〜50容量部の溶剤を用い、好ましくは3〜100℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは20〜40℃の温度で、好ましくは1時間〜数週間、より好ましくは1日〜30日間程度浸漬又は加熱還流するのが好ましい。また、抽出効率を上げる為、併せて攪拌を行ったり、溶媒中でホモジナイズ処理を行ってもよい。
【0016】
上記溶媒で抽出して得られた抽出物はそのまま使用してもよいが、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留等により活性の高い画分を分画して用いることもできる。本発明において抽出物とは、このようにして得られた各種抽出物、その希釈液、その濃縮液、その精製物又はそれらの乾燥末を包含するものである。
【0017】
後述の実施例で実証しているように、ショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン及びアレトリス・ファリノサの抽出物は、エンドセリンによるメラノサイトのカルシウム濃度上昇を効果的に抑制することができる。さらに、これらの抽出物は、メラノサイトに対するエンドセリンの作用を抑制することでメラニン生成を抑制しうるため、美白効果を奏する。なお、本発明において「美白(作用)」とは、メラニン色素の生成を抑え、余分なメラニンのない本来の透明な肌色に戻すこと、または皮膚の黒化若しくはシミ・ソバカス等の色素沈着を防止、抑制することを意味する。
【0018】
メラノサイトに対するエンドセリンの生理作用、すなわちメラノサイト内のカルシウム(カルシウムイオン)濃度上昇を評価する方法として、例えば、細胞内カルシウム(Ca)標識試薬であるFura-2AMやFluo-4AMを細胞内に取り込ませた後に、細胞内Ca濃度を示す蛍光強度の比をデジタルイメージングマイクロスコープ等により測定する手法がある。これは従来から用いられている手法であるが、マイクロスコープでは多数の評価サンプルを同時に取り扱うことが難しい。本発明では、後述の実施例で詳述するように、より高い有効性を持つエンドセリン作用抑制物質を効率よく探索・同定するため、スループット性の高い評価手法としてFDSS(Functional Drug Screening System)を用いて候補物質の評価を行った。その結果、特に有効性の高いものとして上記5つの抽出物を同定した。
【0019】
本発明のエンドセリン作用抑制剤又は美白剤には、有効成分としてショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン又はアレトリス・ファリノサの抽出物を単独で用いてもよく、また2種以上混合して用いてもよい。
本発明において、ショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン又はアレトリス・ファリノサの抽出物は、そのままエンドセリン作用抑制剤又は美白剤として用いてもよい。また、上記抽出物に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えて用いてもよい。この場合、剤中に含有される上記抽出物の量は特に制限されないが、上記抽出物が0.0001〜50質量%含まれることが好ましく、0.001〜25質量%含まれることがより好ましく、
0.01〜10質量%含まれることが特に好ましい。
【0020】
本発明の美白剤には、上記抽出物に加え、他の薬効成分を加えてもよい。例えば、その他の美白剤、保湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、色材種等を加えることができる。他の薬効成分とともに組成物として用いる場合、美白剤中に含有される上記抽出物の量は特に制限されないが、上記抽出物が0.00001〜5質量%含まれることが好ましく、0.0001〜5質量%含まれることがより好ましく、
0.001〜5質量%含まれることが特に好ましい。
【0021】
本発明のエンドセリン作用抑制剤及び美白剤は、皮膚外用剤の形態で使用することができる。「皮膚外用剤」とは、皮膚化粧料、外用医薬品、外用医薬部外品等として皮膚に適用されるものを意味し、その剤型も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、ゲル系、軟膏系、クリーム、水−油2層系、水−油−粉末3層系など、幅広い形態をとり得る。例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスク、ファンデーション、軟膏、シート状製品等の形態が挙げられる。
皮膚外用剤の形態で使用する場合には、上記抽出物の他、通常の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば界面活性剤、油性物質、高分子化合物、防腐剤、前記以外の薬効成分、紛体、紫外線吸収剤、色素、香料、乳化安定剤、pH調整剤等を適宜配合できる。また、上記抽出物を含有する皮膚外用剤の使用量は、有効成分の含有量により異なるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合、皮膚面1cm当たり0.1〜5μg、液状製剤の場合、同じく0.1〜10μg使用するのが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
(参考例1)ジャーマンカミツレ抽出物の調製
ジャーマンカミツレ(和名:カミツレ、新和物産(株)より入手)の花部40gへ、50%エタノール含有水溶液400mLを加え、室温で14日間抽出後、濾過し、ジャーマンカミツレ抽出物(221mL)を得た(蒸発残分2.63%)。
【0024】
(製造例1)ショウコウ抽出物の調製
ショウコウ(和名:雲南松(ウンナンショウ)、新和物産(株)より入手)の樹脂部40gへ、50%エタノール含有水溶液400mLを加え、室温で41日間抽出後、濾過し、ショウコウ抽出物(365mL)を得た(蒸発残分0.60%)。
【0025】
(製造例2)バタグルミ抽出物の調製
バタグルミ(学名:Juglans cineria、Moutain Rose Harbs社より入手)の樹皮部40gへ、95%エタノール含有水溶液400mLを加え、室温で27日間抽出後、濾過し、バタグルミ抽出物(333mL)を得た(蒸発残分1.24%)。
【0026】
(製造例3)セキカ抽出物の調製
セキカ(和名:石花、新和物産(株)より入手)の葉状体部40gへ、95%エタノール含有水溶液400mLを加え、室温で27日間抽出後、濾過し、セキカ抽出物(325mL)を得た(蒸発残分0.60%)。
【0027】
(製造例4)センネンケン抽出物の調製
センネンケン(和名:千年健、新和物産(株)より入手)の根茎部40gへ、95%エタノール含有水溶液400mLを加え、室温で21日間抽出後、濾過し、センネンケン抽出物(367mL)を得た(蒸発残分0.70%)。
【0028】
(製造例5)アレトリス・ファリノサ抽出物の調製
アレトリス・ファリノサ(学名:Aletris farinosa、Monteagle Herbs社より入手)の根茎部50gへ、95%エタノール含有水溶液500mLを加え、室温で15日間抽出後、濾過し、アレトリス・ファリノサ抽出物(425mL)を得た(蒸発残分0.23%)。
【0029】
実施例1 エンドセリン作用抑制効果の検証
上記製造例で調製した各抽出物について、下記の評価系を用いてエンドセリン作用抑制効果を検証した。
(1)評価系
正常ヒト新生児表皮由来メラノサイト(NHEMs;クラボウ社)を、蛍光検出用の96穴プレートに3×10cells/well(200μL/well)で播種し、5%CO下にて37℃で培養した。培地には、PMA(−)の増殖用添加剤(HMGS)を含むMedium 254を用いた。
3日間培養後、培養プレートからデカントで培地を除去し、細胞内Ca2++測定試薬Fluo4−AMを含むアッセイバッファーに置換し、37℃で1時間インキュベートした。次に、FDSS(Functional Drug Screening System)機器において測定開始20秒後に所定濃度の上記抽出物を1分間前処理した後、リガンドであるエンドセリン(ET−1、終濃度100nM)を添加し、Fluo−4AMの蛍光をEx.480nm/Em.540nmの測定波長で測定開始から5分後まで経時的に検出した。
コントロールにおけるFluo4−AMの蛍光増加比(Max ratio−Min ratio)を100とした場合の相対値(%)で、各抽出物の細胞内カルシウム(カルシウムイオン)濃度上昇率(%)を算出し、エンドセリン作用抑制効果を評価した。なお、コントロールとして、エタノール又は10〜95v/v%の含水エタノール溶液を終濃度0.1〜0.5v/v%で添加したものを用いた。
【0030】
(2)参考例:ジャーマンカミツレ抽出物の評価
ポジティブコントロールとして、上記参考例1で調製したジャーマンカミツレ抽出物(蒸発残分2.63%、50%EtOH溶媒)を用いた。ジャーマンカミツレエキスはエンドセリンの作用によるメラノサイトのCa濃度上昇を抑制し、メラニン産生を抑制することが知られている。
ジャーマンカミツレエキスを、0.5v/v%及び1.0v/v%の終濃度で前処理して上記評価系に供し、エンドセリン刺激によるカルシウム(Ca)濃度上昇率を算出した(N=6)。結果を図1に示す。
図1から明らかなように、ジャーマンカミツレエキスを添加した系では、濃度依存的なCa濃度上昇抑制作用が確認された。特に濃度が1v/v%の系では、20%以上もCa濃度上昇が抑制され、優れたエンドセリン抑制作用が確認された。
【0031】
(3)本発明の抽出物の評価
上記製造例1〜5にて調製した各抽出物(蒸発残分1w/v%)を、0.3v/v%の終濃度で前処理して上記評価系に供し、エンドセリン刺激によるCa濃度上昇率を算出した(N=6)。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、ショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン、アレトリス・ファリノサの抽出物を添加した系ではいずれも、エンドセリン刺激による細胞内Ca濃度上昇が20%以上も抑制されていた。すなわち、本発明で用いるショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン及びアレトリス・ファリノサの抽出物は、細胞内Ca濃度上昇を20%以上も抑制するという優れたエンドセリン抑制作用を有し、その抑制効果は公知の美白成分であるジャーマンカミツレエキスと同程度、或いはそれ以上のものであった。
【0034】
実施例2 メラニン産生抑制作用の検証
上記で製造した抽出物を用いて、皮膚におけるメラニン産生の抑制作用について検証した。
メラノサイトを含む3次元培養皮膚モデル(MEL300A;クラボウ社)を、メラノサイト活性化因子であるエンドセリン−1(ET-1)とSCF(幹細胞増殖因子)とを終濃度10nMで添加したEPI-100-NMM113培地を用いて、37℃、5%CO条件下にて培養した。培養初日より、上記製造例1〜3,5にて調製した各抽出物(蒸発残分1w/v%)を終濃度0.1〜0.5v/v%で添加した(N=2)。培地交換は3日に一度行った。14日後に、皮膚モデルをPBSにて洗浄し、写真撮影を行った。結果を図2に示す。その後、アラマーブルー試薬を用いて細胞呼吸活性を測定し、上記終濃度が細胞毒性を示さない濃度であることを確認した(結果は図示せず)。
続いて皮膚モデルカップをPBSで洗浄し、ピンセットで皮膚シートを剥離してチューブに移し、PBSで3回洗浄した。50%エタノールで3回、100%エタノールで2回洗浄した後、室温で一晩放置し、完全に乾燥させた。2M NaOHを200μL加えた後100℃で溶解させ、遠心分離によって得られた上清について405nmの測定波長で吸光度を測定し、メラニン量を算出した。
結果を図3に示す。メラニン量は、コントロールのメラニン量を100とした場合の相対値(%)で示した。なお、コントロールとして、エタノール又は10〜95v/v%の含水エタノール溶液を終濃度0.1〜0.5v/v%で添加したものを用いた。
【0035】
図2から明らかなように、ショウコウ、バタグルミ、セキカ及びアレトリス・ファリノサの抽出物を添加した系では、コントロールの系に比べて皮膚の色が明るく、メラニン産生による皮膚の黒化が抑えられていた。また、図3に示すように、ショウコウ、バタグルミ、セキカ及びアレトリス・ファリノサの抽出物を添加した系ではいずれも、細胞毒性を示さない添加濃度において、コントロールの系に比べて皮膚組織中のメラニン量が40%以上も低下していた。
上述のように、エンドセリンはメラノサイトに作用してカルシウム濃度を上昇させ、メラニン産生を増加させることが知られており、エンドセリンの当該作用を抑制する物質は美白成分として有用である。本発明の上記実施例でも、メラノサイトに対するエンドセリンの作用を抑制する物質が、メラニン産生を効果的に抑制できることが実際に確認された。
したがって、本発明で用いるショウコウ、バタグルミ、セキカ、センネンケン及びアレトリス・ファリノサの抽出物が、細胞内カルシウム濃度の上昇を促すエンドセリンの作用を効果的に抑制することで、メラニン産生を抑制でき、美白剤として有用であることがわかった。
【0036】
(処方例)
前記製造例で得られた抽出物を有効成分として、下記に示す組成のローション、
乳液、美容液及びクリームを常法により各々調製した。
【0037】
1.ローションの調製
(組成) (配合:質量%)
1,3−ブチレングリコール 8.0
グリセリン 5.0
エタノール 3.0
ショウコウ抽出物 3.0
カミツレエキス 3.0
キキョウエキス 1.0
チョウジエキス 1.0
キサンタンガム 0.1
ヒアルロン酸 0.1
リン酸二ナトリウム 0.1
リン酸二水素ナトリウム 0.1
アスコルビン酸2−グルコシド 2.0
精製水 残部
香料 適量
防腐剤 適量
【0038】
2.乳液の調製
(組成) (配合:質量%)
バタグルミ抽出物 5.0
カミツレエキス 1.0
キキョウエキス 1.0
アルテアエキス 2.0
スクワラン 3.0
オリブ油 3.0
グリセリン 5.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(エチレンオキサイドの付加モル数:40)1.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.1
キサンタンガム 0.2
エデト酸二ナトリウム 0.02
精製水 残部
防腐剤 適量
【0039】
3.美容液の調製
(組成) (配合:質量%)
セキカ抽出物 5.0
カミツレエキス 1.0
キキョウエキス 1.0
チョウジエキス 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.2
水酸化カリウム 0.2
キサンタンガム 0.1
ヒアルロン酸 0.2
クエン酸ナトリウム 0.15
クエン酸 0.03
グリセリン 10.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
エデト酸二ナトリム 0.05
精製水 残部
防腐剤 適量
香料 適量
【0040】
4.美容液の調製
(組成) (配合:質量%)
センネンケン抽出物 3.0
カミツレエキス 1.0
チョウジエキス 1.0
キキョウエキス 1.0
キサンタンガム 0.2
カルボキシメチルセルロース 0.2
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.1
クエン酸 0.03
クエン酸ナトリウム 0.15
グリセリン 5.0
プロピレングリコール 3.0
ポリエチレングリコール(分子量1500) 1.0
モノステアリン酸ポリエチレングリコール 0.5
精製水 残部
防腐剤 適量
【0041】
5.クリームの調製
(組成) (配合:質量%)
アレトリス・ファリノサ抽出物 3.0
カミツレエキス 2.0
キキョウエキス 2.0
チョウジエキス 2.0
メチルポリシロキサン 3.0
スクワラン 2.0
ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 3.0
ステアリルアルコール 1.5
セタノール 1.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(エチレンオキサイドの付加モル数:60)0.5
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.3
水酸化カリウム 0.15
キサンタンガム 0.1
エデト酸二ナトリウム 0.05
精製水 残部
防腐剤 適量
香料 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウコウ(Pinus yunnanensis Franch.)、バタグルミ(Juglans cinerea)、セキカ(Parmelia tinctorum Despre.)、センネンケン(Homalomena occulta(Lour.)Schott)及びアレトリス・ファリノサ(Aletris farinosa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を有効成分として含有するエンドセリン作用抑制剤。
【請求項2】
ショウコウ(Pinus yunnanensis Franch.)、バタグルミ(Juglans cinerea)、セキカ(Parmelia tinctorum Despre.)、センネンケン(Homalomena occulta(Lour.)Schott)及びアレトリス・ファリノサ(Aletris farinosa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を有効成分として含有する美白剤。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−20950(P2012−20950A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158847(P2010−158847)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】