説明

エンベロープ変調リミット・サイクル変調器回路を含む増幅回路

特に無線トランシーバ回路中で使用するための、変調されたRF入力信号を増幅するための増幅回路(10)。増幅回路(10)は、RF入力信号から増幅されたRF出力信号を発生するように構成された自己発振のリミット・サイクル変調器回路(20〜22、26〜29、31〜33)と、変調された入力信号から抽出されたエンベロープ情報によって決定されたRF出力信号を振幅変調するように構成されたエンベロープ変調器回路(34〜36)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変調された無線周波(RF)信号の増幅に関し、より詳細には無線トランシーバ回路での使用に関する。
【背景技術】
【0002】
RF伝送システムにおけるバンド幅効率をより高くするという今までにない要求が、時間で変化する位相または周波数および振幅信号を処理する、高度な変調技術の採用につながっている。これらの変調技術の使用には、信号を正確に処理し、隣接したチャネルの伝送との干渉を抑制するために、まさに線形な伝送特性を有したトランシーバが必要である。広いダイナミック・レンジにわたり線形性を維持することは、パワー制御を利用するパワー増幅器(PA)にとって重要である。
【0003】
しかし、そのような変調された信号は、不定のエンベロープを含み、それによってエンベロープのピーク対平均値の比が比較的大きいことになる。したがって、従来の線形モードのPA、たとえばA級、AB級、またはB級のPAは、1dBの圧縮点(compression point)よりかなり低い領域内で動作しなければならない。したがって、パワー効率が非常に低く、増幅器内で比較的大きな電力損またはワット損が生じる。この大きな電力損によって、セル方式移動無線通信システム(cellular mobile radio communication system)の基地局(ダウンリンク)中で深刻な加熱問題が生じ得る。あるいは、そのようなPAを含むトランシーバを有した端末(アップリンク)のバッテリの寿命が、甚だしく短くなる恐れがある。
【0004】
スイッチ・モードのPAは、線形モードのPAより極めて高い効率をもたらすことができることが示されている。たとえばD、E、F、またはS級で動作するスイッチ・モードのPAでは、スイッチング要素としてのパワー・トランジスタが使用される。増幅された基本成分だけを負荷に送ることを可能にするために、適切な整合ネットワークが必要である。しかし、スイッチ・モードのPAは、一定エンベロープ信号の増幅だけに適する。これらの増幅器を使用して不定のエンベロープ信号を増幅することは、振幅情報を失うことになる。
【0005】
従来の最先端技術を用いた技術では、非常に効率的な非線形PAの線形化が、強く強調されている。公知の線形化技術は、デカルト・ループ・フィードバック(Cartesial-loop Feedback)、エラー・フィードフォワード、プリディストーション、非線形要素を使用した線形増幅(LINC)、およびエンベロープ消去および復元(EER:Envelope Elimination and Restoration)である。
【0006】
デカルト・ループ・フィードバックは、フィードバック信号を直交成分に分割し、IおよびQの形態で従来の負フィードバックの原理に基づきエラー補正を処理する。しかし、デカルト・ループ・フィードバックは、安定性および動作帯域幅に関して厳しい問題を示している。
【0007】
エラー・フィードフォワードは、主のPAによって生成された歪を抽出し、次いで補助の増幅器によって歪を増幅し、それに続いてそれを主のPAの出力から差し引いて、入力信号の線形に増幅された部分を残す。Iの演算およびエラー・フィードフォワードによって、回路が複雑になり、追加のエラー増幅器により非効率的である。
【0008】
プレディストーションによって、PAの歪特性に正確に相補的な歪特性が生成される。プレディストーションは、プレディストーション部の限定された処理帯域幅という難があり、高く飽和したPAの歪特性を十分正確に発生することができない。
【0009】
LINCは、RF信号伝送を2つの定エンベロープ位相変調信号に分割し、その信号をまったく同じように増幅し、それぞれがそれ自体の非線形スイッチングPAを有しており、次いで2つのPA出力経路を加算接合部で結合して、RF信号を合成する。しかし、LINCは、2つのPAまわりの2つの信号処理経路間での不整合問題に加えて、出力結合器において著しい電力損を示す。この不整合は、信号特性を劣化させるだけでなく、反射されたパワーに関した問題、したがって発熱しバーンアウトする問題ももたらす。
【0010】
EERは、RF信号伝送を2つの経路に分割する。すなわち、入力信号のエンベロープだけを含むエンベロープ変調経路、および定エンベロープ位相変調信号だけを含む位相変調経路である。位相変調信号が、非常に効率的にPAによって増幅され、まったく同時に、エンベロープ信号が、PAの出力信号を変調することによって復元される。EERは、2つの信号処理回路間での経路遅延の不整合による深刻な影響のため、狭い動作帯域幅に限定される。
【0011】
それに加え、スイッチ・モードのPAとして使用されるリミット・サイクル変調と呼ばれる技術がある。リミット・サイクル変調器は、入力信号をディスクリート・レベルの出力信号、たとえばスイッチング・デバイスを使用した2つのレベル(1ビット)の信号に変換する負後方結合非線形(a negatively back-coupled nonlinear)デバイスまたはリレー・デバイスを含む自己発振回路である。リレー・デバイスによって導入されたエラーは、周波数領域において整形される。このシステムは、リミット・サイクルと呼ばれる多数のディスクリート周波数で発振し得るたけである。非同期シグマデルタ変調器(ASDM)、および、いわゆる自己発振パワー増幅器(SOPA)、およびデルタ変調器が、サブ・クラスのリミット・サイクル変調器と考えられる。
【0012】
非同期シグマデルタ変調器は、入力信号をパルス列にエンコードする。比較的高い自己発振周波数のため、非線形変調積が、対象の信号帯域から比較的遠くに離れて配置され、したがってこれらの不要な積は、比較的低次および/または低QのRF低域通過(LP)または帯域通過(BP)のフィルタで、比較的容易に除去することができる。しかし、ASDMは、パルス変調のダイナミック・レンジが限定されるという難点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術の増幅回路の上述した欠陥および欠点の観点から、本発明の目的は、時間で変化する位相または周波数および振幅変調されたRF入力信号を増幅し、スペクトルおよびパワー効率をともに最適化するための改良された増幅回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、この目的は、変調されたRF入力信号から増幅されたRF出力信号を発生するように構成された自己発振リミット・サイクル変調器回路と、変調された入力信号のエンベロープ情報によって決定された出力信号を振幅変調するように構成されたエンベロープ変調器回路とを含む増幅回路によって達成される。
【0015】
線形性、効率、帯域幅、およびダイナミック・レンジの観点で最適な線形化増幅器を実現するために、本発明は、自己発振リミット・サイクル変調器回路の最適エラー制御技術に専用される。本発明では、リミット・サイクル変調器回路のフィードフォワード経路中にエンベロープ変調が組み込まれる。
【0016】
リミット・サイクル変調器回路の自己発振特性のため、非線形周波数変調積が所望の信号帯域から離れるようにシフトされて、RF入力信号が変調され、したがってこれらの変調積が比較的容易に出力信号からフィルタで除去され得る。スイッチング周波数を上昇させることによって、広帯域の線形化を得ることができる。同時に、入力信号のエンベロープが、エンベロープ変調器を介して出力信号中に供給される。このようにして、出力信号が入力信号のエンベロープに比例するように、ループ・エラーが制御される。
【0017】
リミット・サイクル変調器回路の制御ループは、エンベロープ変調経路によって導入されたエラーを補正することが可能である。他方では、エンベロープ信号の予測は、リミット・サイクル変調器回路のリレー・デバイスによって生じたエラーを低減する。したがって、残留エラーだけを、制御ループによって補正する必要がある。その結果、優れた線形性が、出力において達成され、広いダイナミック・レンジが、入力のパワー・レベルに無関係に得られる。さらに、本発明による増幅回路によって、リミット・サイクル変調に関する範囲限定の問題が軽減される。
【0018】
本発明の別の実施形態では、エンベロープ変調器回路は、変調されたRF入力信号のエンベロープ情報を抽出するためのエンベロープ検出器回路を含む。RF入力信号からエンベロープ情報を抽出する代わりに、本発明のさらなる別の実施形態では、エンベロープ検出器回路が、ベースバンドにおいて入力信号からエンベロープ情報を合成するように構成される。
【0019】
様々な方法でエンベロープ情報を、リミット・サイクル変調器回路の制御ループ中に導入することができるが、本発明の好ましい実施形態では、エンベロープ変調器回路が、リミット・サイクル変調器回路に給電し、出力信号を振幅変調するように構成される。この目的のために、本発明の他の実施形態では、リミット・サイクル変調器回路に給電するために、パワー変換器回路が、エンベロープ情報によって動作するように制御され、そのパワー変換器は、動作の際、増幅回路に給電するために電源に接続される。パワー変換器回路は、リミット・サイクル変調器回路の供給電圧または供給電流のいずれかを、またはその両方を制御するように構成することができる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態では、リミット・サイクル変調器回路は、RF出力信号から変調されたRF入力回路信号へのフィードバック経路を有した非同期シグマ−デルタ変調器回路の形態を取る。しかし、入力信号がベースバンドのレベルで利用可能な場合、本発明のさらに別の実施形態では、非同期式シグマデルタ変調器回路は、入力信号から変調されたRF入力信号をベースバンドにおいて生成するための手段を含み、ベースバンドにおいてRF出力信号から入力信号への負のフィードバック経路を有する。このフィードバック経路は、RF出力信号をベースバンドへダウンコンバートするための手段を含む。ベースバンドで信号を処理するために、増幅回路は、ディジタル信号処理(DSP)手段を含でいてもよい。
【0021】
本発明による別の実施形態では、DSPは、システム性能をさらに最適化するために、入力信号の予補正(precorrection)の量を生成するように有利に構成することができる。この目的のため、ディジタルの予補正手段を別に設けることができることは、理解されるであろう。
【0022】
RF入力信号をディスクリート・レベルのRF出力信号に変換するASDMなど、リミット・サイクル変調器回路のリレー・デバイスは、様々な特性を発揮することができる。4つの主なリレーのタイプがある。すなわち、どんな遅延またはヒステリシスもない理想的なリレー、出力が生成されないデッド・ゾーンを有したリレー、ヒステリシスを有したリレー、ならびにデッド・ゾーンおよびヒステリシスを有したリレーである。
【0023】
上記にすでに示したように、トランジスタなどの簡単なスイッチをリレー・デバイスとして動作させ、システムを極めて効率的にすることができる。しかし、リレー・デバイスは、たとえば本発明による増幅回路の平衡が取れた構成をサポートする3つのレベル、−1、0、および+1の間で出力を切り替えるために、スイッチング要素の組み合わせによって形成することもできる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、リレー・デバイスは、D、E、F、またはS級のいずれでも動作するように構成されたスイッチ−モードパワー増幅器を含む。ASDM回路のケースでは、パワー増幅器は、たとえばDC基準信号、あるいは正弦波または三角波の形状を有したAC基準信号などの基準信号を加えるために、基準入力を含むことができる。本発明の他の実施形態では、リレー・デバイスは、比較器回路を含むこともできる。
【0025】
本発明の別の実施形態では、リミット・サイクル変調器回路は、リミット・サイクル変調器回路の線形化性能を最適化するように構成されたループ・フィルタを含む。ループ・フィルタは、リミット・サイクル変調器回路のフォワード・ループ中に、即ちRF入力とリレー入力とを接続する経路中に、即ちフィードバック・ループ中に、配置することができる。ループ・フィルタは、フォワードまたはフィードバックのループのいずれか1つまたはその両方にある複数の別々のフィルタから構成され、一方、フォワードおよびフィードバックループは、それぞれいくつかのフォワード・フィードバックサブループから構成され、それぞれが特定の補正または補償機能を果たすことができることを、当業者は理解するはずである。
【0026】
不要な変調積を除去するために、本発明による増幅回路は、帯域フィルタされたRF出力信号を生成するために、RF帯域通過フィルタをさらに含む。本発明の増幅回路のパワーおよびスペクトラル効率を最適化するために、本発明の他の実施形態では、RF帯域通過フィルタ手段は、出力インピーダンスの整合および反射損の最小化に最適に構成された第1のフィルタ手段と、RF帯域をフィルタするのに最適に構成された第2のフィルタ手段とを含む。
【0027】
出力インピーダンス整合に最適に構成された第1のフィルタ手段は、リレー・デバイスの出力に配置され、変調回路の制御ループ中に組み込むことができ、一方、RF帯域をフィルタするのに最適に構成された第2のフィルタ手段は、第1のフィルタ手段の出力に接続される。第2のフィルタ手段がLPフィルタを含むことができることを、当業者は理解するであろう。
【0028】
本発明で使用されるフィルタ手段は、増幅回路ならびにたとえばそれらの接続部、分岐部およびタップを構成する他の構成要素と同様に、集合体または分散した(伝送ライン)構成のいずれかで、能動的または受動的な回路要素を使用して構成することができる。
【0029】
本発明による増幅回路は、たとえば、半導体の特定用途向け集積回路(ASIC)として、およびモノリシック・マイクロ波集積回路(MMIC)として完全にまたは部分的に設計されるのに特に適している。また、たとえば、ただしこれに限定されないが、移動無線通信システム中で使用される無線基地局などの無線アクセス・ユニットのトランシーバ回路、およびそのような移動無線通信システムの端末のトランシーバ回路などの無線トランシーバ回路中で使用するのに適している。
【0030】
したがって、本発明は、上述の増幅回路を組み込んだ、トランシーバ回路、無線アクセス・ユニット、および無線通信ユニットにも関する。
【0031】
本発明の説明および特許請求の範囲中で使用される用語、トランシーバ手段は、トランスミッタ手段、レシーバ手段、または、組み合わされたトランスミッタ/レシーバ手段を含むものとして解釈しなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
ここで、本発明は、添付した図面に示した例示の実施形態を参照してより詳しく述べる。
【0033】
以下の説明では、図面すべてにわたり同じ参照番号は、同じまたは対応するデバイスを示す。
【0034】
図1に、本発明による増幅回路10の第1の全般的な実施形態のブロック図を示す。回路10の主な構成要素は、リレー・デバイス20によって形成される。リレー・デバイス20は、リレー・デバイス20の入力端子21に印加された変調されたRF入力信号を、リレー・デバイス20の出力端子22においてディスクリート・レベルの出力信号に変換するように動作する非線形要素である。
【0035】
第1のフィルタ手段24および第2のフィルタ手段25が、リレー・デバイス20の出力端子22からアンテナ手段39の形態の負荷にカスケード状に接続され、リレー・デバイス20の出力端子22において生成されたRF出力信号を放出する。アンテナ手段39は、このように増幅回路10の部分を形成しない。
【0036】
第1のフィルタ手段24は、反射および伝送の損失を最小にするために、リレー・デバイス20のインピーダンスを整合するために最適に構成され得る。第2のフィルタ手段25は、出力信号のRF帯域を選択するために最適に構成され得る。第1および第2のフィルタ手段24、25は、帯域フィルタされたRF出力信号を生成するために、単一のRF帯域通過フィルタに合体することができることを、当業者は理解するであろう。さらに、第1および第2のフィルタ24、25は、たとえば複数のRF伝送帯域を選択するための複数のサブ・フィルタを備えていてもよい。
【0037】
図1に示すように、第1のフィルタ手段24の出力から、フィードバック・ループ26が減算手段29の入力に接続され、増幅回路10によって増幅される変調されたRF入力信号を受け取るために、その減算手段の他方の入力には、RF入力端子30が接続される。引き算器手段29の出力は、フォワード・ループ31によってリレー・デバイス20の入力端子21に接続される。
【0038】
図1に示すように、フィードバック・ループ26中に、第3のフィルタ手段27および/または利得制御手段28を配置することができ、フォワード・ループ31中に、第4のフィルタ手段32を配置することができる。第3および第4のフィルタ手段27、32は、いくつかのサブ・フィルタから構成され、ともにフォワード・ループ31およびフィードバック・ループ26によって形成されたリレー・デバイス20の閉制御ループのループ・フィルタ手段を形成することができる。制御ループは、多数のディスクリート周波数、いわゆるリミット・サイクルで発振することができる自己発振リミット・サイクル変調器回路が形成されるように、構成される。
【0039】
必須ではないが、そのように形成された変調器回路の発振周波数は、たとえば、信号源33からの基準信号を、リレー・デバイス20の別の入力端子23から印加することによって、制御してもよい。この基準信号は、直流(DC)、または三角波信号などの交流(AC)信号とすることができる。
【0040】
リレー・デバイス20は、図2、3、4、および5に概略的に示すように、4つの基本の変換モードのいずれかに従って動作するように、構成され得る。これらの図では、水平軸上にx、入力信号を示し、垂直軸上にy、出力信号を示す。それらの例示特性から、入力および出力の信号の具体的な振幅値は、示されていない。リレー・デバイス20の入力信号xは、一般に、入力端子21および23における入力信号の組み合わせによって形成される。
【0041】
図2の理想的なリレー・モードでは、出力信号yは、入力信号xのゼロ交差毎に、正の振幅値Ypと負の振幅値Ynの間で遅延なしに切り替わる。図3のデッド・ゾーンを有したモードでは、出力信号yは、入力信号の振幅の絶対値が所定の閾値XpまたはXnより大きい場合に、入力信号xの遷移毎にその状態を変化する。所定の閾値XpまたはXnは、入力信号振幅の正値または負値に対して異なってもよい。閾値XpとXnとの間の入力信号振幅に対して、出力信号ゼロが提供される。図4のヒステリシスを有したリレー・モードでは、出力信号yは、所定の閾値XhpおよびXhnより大きいまたは小さい入力信号遷移に対して、正および負の振幅値YpおよびYnの間で切り替わる。正から負への入力信号の遷移、およびその逆の場合についても矢印で出力信号の変化を示す。図5に示す組み合わせモードでは、ヒステリシスを有したリレーに加えて、出力信号yは、Xp−Xhp/2とXn+Xhn/2の間のデッド・ゾーン中の入力信号値に対して、ゼロの値を取ることができる。どのモードでリレー・デバイスが動作すべきかは、増幅回路10の要求された特性に依存し、用途に依存するしてもよい。
【0042】
本発明の目的のために、スイッチ・モードのパワー増幅器からなり、D、E、F、またはS級のいずれかで動作するリレー・デバイス20、または比較器回路からなるリレー・デバイス20は、特に適している。しかし、本発明が、そのようなタイプのリレー要素に限定されないことを理解すべきである。本発明目的のために、当業者が知るような広範囲の様々なリレー・デバイスまたは非線形要素を使用することができる。Arthur Gelb およびWallace E. van der Velde著、「他入力記述関数および非線形システム設計(Multiple-Input Describing Functions and Nonlinear System Design)」(McGraw-Hill社出版、ロンドン1968年)の特に第3章「非線形システムにおける定常発振(Steady-State Oscillations in Nonlinear Systems)」を参照されたい。これは、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0043】
比較器の形態におけるリレー・デバイス20であって、リレー・デバイス20の入力端子23においてDC基準電圧を印加することによるリレー・デバイス20のケースでは、非同期シグマデルタ変調器(ASDM)と呼ばれるリミット・サイクル変調器回路が形成される。より完全のためには、外部基準信号がなくてもよい。たとえば単一の高利得トランジスタの形のリレー・デバイスのケースでは、トランジスタの閾値電圧が、ASDMとしての動作をサポートする内部基準として機能する。
【0044】
そのように述べた変調器回路の動作では、どんな入力信号もない場合、自己発振が生じて、変調器の自己発振周波数、すなわちリミット・サイクルで周期的な矩形の波形が生成される。とりわけ発振周波数は、変調器回路の制御ループ中のフィルタ手段27、28、および32の特性に依存する。変調器回路は、非線形変調積が対象の信号帯域から離れて位置するように、RF入力端子30に印加されたRF入力信号をパルス列にエンコードする。
【0045】
これらの非線形変調積は、リレー要素20の出力端子22にある帯域通過フィルタ手段、すなわち上述の第1および第2のフィルタ手段24および25によって、除去することができる。線形化は、変調器回路の制御ループ中のフィルタ手段27、28、および32を適切に選択することによって最適化することができる。発振周波数を増加することによって、低Qおよび低次のフィルタ手段を使用することができ、それにより広帯域の線形化を得ることができる。
【0046】
比較器として形成されたリレー・デバイス20の入力端子23に三角形の基準信号が印加されるケースで、フィードバック・ループ26がない場合、動作時に、リミット・サイクル変調器回路が、パルス幅変調(PWM)出力信号を生成するであろう。しかし、フィードバック・ループ26によって、出力信号は、対象の周波数帯域において、入力信号に等しくなるように修正される。
【0047】
しかし、エンベロープ変調RF入力信号のケースでは、主に、リミット・サイクル変調器回路のパルス変調のダイナミック・レンジが限定されるので、著しいエラーが出力信号中に生じる。リミット・サイクル変調器回路のエラー制御を改良するために、本発明によれば、別のフォワード・ループ34が、エンベロープ変調器回路の形態で追加される。
【0048】
図1に示す実施形態では、エンベロープ変調器回路は、変調されたRF入力信号からエンベロープ情報を抽出するために、入力がRF入力端子30に接続されたエンベロープ検出器回路35を含む。エンベロープ検出器回路35は、リレー・デバイス20によって生成される出力信号をその出力端子22において変調するように構成されたパワー変換器回路36を制御する。
【0049】
図1に開示した実施形態では、パワー変換器回路36は、供給電力、すなわち増幅回路10のパワー端子37で印加されるリレー要素への供給電圧および/または供給電流を、エンベロープ検出器回路35によって抽出されたエンベロープ情報に従って、変調するように構成される。提供された変調制御のタイプに応じて、パワー変換器回路36は、たとえばDC/DC電圧または電流の変換器回路として構成することができる。しかし、本発明は、リレー要素20のこのタイプの変調に限定されない。当業者に知られたような、リレー要素20の出力信号の他のタイプの振幅変調が適用されてもよい。
【0050】
上述したように、本発明によれば、変調器回路のループ・エラーは、それがRF入力信号のエンベロープと比例するように制御される。その結果、エンベロープ・フォワード・ループ34の無い変調器回路に比べて、極めてより広いダイナミック・レンジが得られる。変調器回路のフィードバック・ループ26は、エンベロープ変調回路35、36によって残されたエラーを補正することが可能である。さらに、エンベロープ・フォワード・ループ34によるエンベロープ信号の予測によって、変調器回路の非線形信号成分が低減されて、増幅回路10の線形性が改良されることになる。
【0051】
エンベロープ検出器または抽出回路は、当業者に知られており、ここでさらに説明する必要はない。同じことが、リレー回路20の振幅を変調するための変換器回路に適用できる。本発明の実施形態では、変換器回路36は、スイッチ・モードの増幅器を含む。
【0052】
図6に、本発明による増幅回路40の第2の実施形態を示す。この実施形態では、エンベロープ情報は、ディジタル信号処理(DSP)手段などのエンベロープ合成回路41のベースバンド入力端子42に印加されたベースバンドの変調された入力信号から抽出される。そのように抽出されたエンベロープ情報は、リレー・デバイス20の出力信号の振幅変調のために、エンベロープ・フォワード・ループ44を経由して合成回路41からパワー検出器回路36へ供給される。
【0053】
入力が合成回路41の信号出力に接続されたアップ・コンバータ手段43によって、変調されたRF入力信号が、リミット・サイクル変調器回路のフォワード・ループ31に印加される。
【0054】
本発明の別の実施形態では、リミット・サイクル変調器回路のフィードバック・ループ26は、合成回路41に直接付加することができる。このため、図6の点線で示すように、ダウン・コンバータ手段45が設けられ、それにより、フィードバック信号をベースバンドへのダウンコンバージョンして合成回路41に処理させる。ダウン・コンバータ手段45を付加したとき、利得制御手段28の減算手段29への接続が省略されることを理解されるであろう。この目的に適したダウン・コンバージョン手段は、当業者に知られている。図1および6の実施形態では、減算手段29は、たとえば利得制御手段28が反転(負)出力を供給する場合、加算手段と置き換えてもよいことに留意されたい。
【0055】
本発明の別の実施形態では、合成回路41は、増幅回路40の性能をさらに高めるために、リミット・サイクル変調器回路のフォワード・ループ31に印加される入力信号に、ベースバンド・レベルで一定量の予補正(pre-correction)を与えるように構成する、またはそのようにするための手段を含むことができる。適切な合成手段および/または予補正手段は、当業者に知られている。
【0056】
本発明による増幅回路は、たとえばユニバーサル・モバイル・テレコミュニケーション・システム(UMTS)の広帯域符号分割多元接続(WCDMA)規格に従って動作する移動無線通信中で使用されるものなどの無線トランシーバ・デバイス中で使用するのに特に適している。
【0057】
図7に、複数の固定電話ユーザ59が接続された公衆交換電話網(PSTN)またはディジタル総合サービス網(ISDN)などの固定電話網60に接続された移動電話交換室(MTSO:Mobile Telephone Switching Office)51または無線交換を含む、移動無線通信システム50をごく概略的な形で示す。
【0058】
MTSO51は、複数の無線アクセス・ユニットまたは基地局52、53、および54、ならびにこれらに限定されないが、エアー・インターフェース55を介して無線通信するように構成された無線電話送受器などの遠隔無線通信ユニット56、57、および58をサポートする。本発明によれば、無線アクセス・ユニット52は、本発明による上記で開示され説明された増幅回路30または40を有し、RF無線伝送用アンテナ手段63に接続されたトランシーバ手段61を含む。同様に、無線通信ユニット56は、本発明による増幅回路30または40を有し、アンテナ手段64に接続されたトランシーバ手段を含む。
【0059】
フィルタ手段は、低次で低Qのフィルタを使用する可能性があるので、能動的、受動的、集合体、または分散されたフィルタとして構築することができる。同様に、たとえば増幅回路ならびにそれらの接続部、分岐部、およびタップなどを構成する他の構成要素は、集合体、または分散された(伝送ライン)いずれかの構成で、能動的または受動的回路の構成要素を使用して構築することができる。
【0060】
本発明による増幅回路は、たとえば半導体の特定用途向け集積回路(ASIC)として、およびモノリシック・マイクロ波集積回路(MMIC)として完全にまたは部分的に設計するのに特に適している。
【0061】
本発明がその例示の実施形態を使用して上記に説明され開示されてきたが、特許請求の範囲に開示され主張された本発明の新規で発明的な概念から逸脱することもなく、当業者が開示された構成に多数の修正および追加を実施することができることを理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明による増幅回路の第1の実施形態の概略ブロック図である。
【図2】本発明で使用されるリレー・デバイスの基本的な動作様式を概略的に示す図である。
【図3】本発明で使用されるリレー・デバイスの基本的な動作様式を概略的に示す図である。
【図4】本発明で使用されるリレー・デバイスの基本的な動作様式を概略的に示す図である。
【図5】本発明で使用されるリレー・デバイスの基本的な動作様式を概略的に示す図である。
【図6】本発明による増幅回路の第2の実施形態の概略ブロック図である。
【図7】本発明による増幅回路を含むトランシーバ回路を有した無線アクセス・ユニットおよび無線通信ユニットを備えた、移動セルラ方式無線通信システムの概略ブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調されたRF入力信号を増幅するための、特に無線トランシーバ回路中で使用するための増幅回路であって、
前記入力信号から増幅されたRF出力信号を発生するように構成された自己発振リミット・サイクル変調器回路と、
前記変調された入力信号のエンベロープ情報によって決定された前記出力信号を振幅変調するように構成されたエンベロープ変調器回路と、を含む増幅回路。
【請求項2】
前記エンベロープ変調器回路は、前記変調されたRF入力信号から前記エンベロープ情報を抽出するためのエンベロープ検出器回路を含む、請求項1に記載の増幅回路。
【請求項3】
前記エンベロープ検出器回路は、ベースバンドにおいて前記入力信号から前記エンベロープ情報を合成するように構成された、請求項1に記載の増幅回路。
【請求項4】
前記エンベロープ変調器回路は、前記リミット・サイクル変調器回路に給電し、前記出力信号を振幅変調するように構成される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項5】
前記リミット・サイクル変調器回路に給電するためのパワー変換器回路を含み、
前記パワー変換器回路は、前記エンベロープ情報によって動作的に制御される、請求項4に記載の増幅回路。
【請求項6】
前記パワー変換器回路は、スイッチ・モードのパワー増幅器を含む、請求項5に記載の増幅回路。
【請求項7】
前記リミット・サイクル変調器回路は、前記RF出力信号から前記変調されたRF入力信号へのフィードバック経路を有した非同期シグマデルタ変調器回路を含む、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項8】
前記リミット・サイクル変調器回路は、ベースバンドにおいて入力信号から前記変調されたRF入力信号を与えるための手段と、ベースバンドで前記RF出力信号から前記入力信号へのフィードバック経路とを含む非同期式シグマデルタ変調器回路を含む、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項9】
前記フィードバック経路は、前記RF出力信号をベースバンドの低い周波数に変換するための手段を含む、請求項8に記載の増幅回路。
【請求項10】
前記入力信号をベースバンドで処理するためのディジタル信号処理手段を含む、請求項3、請求項8、または請求項9のいずれかに従属した請求項のいずれかに記載の増幅回路。
【請求項11】
前記入力信号を予め補正するための予補正手段を含む、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項12】
前記予補正手段は、ベースバンドにおいて前記入力信号を予め補正するためのディジタル信号処理手段を含む、請求項3、請求項8、請求項9、または請求項10のいずれかに従属した請求項11に記載の増幅回路。
【請求項13】
前記リミット・サイクル変調器回路は、前記RF入力信号をディスクリート・レベルのRF出力信号に変換するためのリレー・デバイスを含み、
前記リレー・デバイスは、理想的リレーと、デッド・ゾーンを有したリレーと、ヒステリシスを有したリレーと、デッド・ゾーンおよびヒステリシスを有したリレーとを含む群のいずれかのリレーの機能を果たすように構成された、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項14】
前記リレー・デバイスは、D、E、F、またはS級のいずれかで動作するように構成されたスイッチ・モードのパワー増幅器を含む、請求項13に記載の増幅回路。
【請求項15】
前記パワー増幅器は、基準信号を印加するために基準入力を含む、請求項14に記載の増幅回路。
【請求項16】
前記リレー・デバイスは比較器回路を含む、請求項12に記載の増幅回路。
【請求項17】
前記リミット・サイクル変調器回路は、前記変調器回路の線形化性能を最適化するように構成された制御ループ・フィルタを含む、請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項18】
帯域でフィルタリングされたRF出力信号をもたらすためのRF帯域通過フィルタをさらに含む、請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項19】
前記RF帯域通過フィルタ手段は、
出力インピーダンスを整合するように最適に構成された第1のフィルタ手段と、
RF帯域でフィルタリングするように最適に構成された第2のフィルタ手段とを含む、請求項18に記載の増幅回路。
【請求項20】
前記第1のフィルタ手段は、前記制御ループ中に構成され、
前記第2のフィルタ手段は、前記第1のフィルタ手段に接続される、請求項19に記載の増幅回路。
【請求項21】
半導体の特定用途向け集積回路(ASIC)として設計される、請求項1から請求項20のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項22】
モノリシック・マイクロ波集積回路(MMIC)として設計される、請求項1から請求項20のいずれか一項に記載の増幅回路。
【請求項23】
請求項1から請求項22のいずれかに記載の増幅回路を含む無線トランシーバ回路。
【請求項24】
移動無線通信システム中で使用するための無線基地局のような無線アクセス・ユニットであって、
請求項23に記載の無線トランシーバ回路を含む、無線アクセス・ユニット。
【請求項25】
移動無線通信システムの端末のような無線通信ユニットであって、
前記端末は、請求項23に記載の無線トランシーバ回路を含む、無線通信ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−528457(P2006−528457A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521017(P2006−521017)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000506
【国際公開番号】WO2005/008884
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】