説明

オゾン水による金属表面の改質方法

【課題】水晶デバイスを製造する工程において、レジスト塗布前の基板上に形成されたAu/Cr耐蝕膜のAu層を短時間のオゾン水により表面の改質処理を施すことで、レジストの付着性を向上させることにより、生産性を向上させる。
【解決手段】基板1の表面に形成されたAu表面4のぬれ性を改善する方法であって、前記Au表面4を、オゾン濃度が100ppm以上の炭酸を含む50℃以上のオゾン水3と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン水による金属表面の改質方法に係り、特に、水晶基板上に形成されたAu、Pt等の通常は酸化物を形成しない貴金属表面の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶発振子のような水晶デバイスの製造工程においては、水晶基板上に耐蝕膜を形成し、その上にフォトレジスト膜を形成して、フォトリソグラフィー技術により、例えば、周波数調整部や電極部を成膜することが行われている。
水晶基板上の耐蝕膜は、例えばスパッタや蒸着によりAu/Crの積層膜として形成されている。また、周波数調整部は、所定の形状にパターニングされた耐蝕膜上に耐蝕膜のAu膜を負極としてAuメッキで形成され、電極部は電極パターンとなる領域の耐蝕膜をエッチングにより除去し、Ti/Pdなどの蒸着膜で形成されている(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
Au/Cr耐蝕膜のエッチングは、Au/Cr耐蝕膜上にフォトレジストの塗膜を形成し、露光し現像した後、ヨウ化カリ/ヨウ素混合水溶液中に浸漬してAu膜をエッチングし、水洗した後、硝酸第2セリウムアンモン水溶液中に浸漬してCr膜をエッチングし、フォトレジストを除去することにより行われる。
【0004】
周波数調整部は、この後、Au/Cr耐蝕膜と露出した水晶基板上にフォトレジスト塗膜を形成し、フォトリソグラフィー技術によりAu/Cr耐蝕膜上に所定の開口を形成し、シアンメッキ浴を用いて金メッキを行い、さらに、フォトレジストを除去することにより形成される。
【0005】
このような水晶デバイスの製造工程においては、歩留まりが低いという問題があった。これは、耐蝕膜のAu層とフォトレジストの密着性が良くないことが原因であった。
たとえば、レジストの塗りむらが生じて、レジストの薄い層が、後の工程で問題となる場合がある。たとえば、エッチング工程でレジストの薄い層の部分も同時にエッチングされてしまう場合がある。
また、レジスト塗布の工程が一見問題なく行われたと考えられる場合でも、そのあとの工程、たとえば、耐蝕膜のAu層を負極にして、その上にメッキする工程で、フォトレジストに被覆された耐蝕膜にメッキ液が浸透してAu層が正に帯電し、Auの溶けだしが発生するため、所定の形状にパターンが形成されないという問題が生じることもある。
この問題は、Au層が疎水性を有するため、フォトレジストの密着性が悪いことが原因である。したがって、耐蝕膜のAu層表面のぬれ性を大きくする、すなわち、親水性を付与することが課題とされていた。
金属表面のぬれ性を大きくする方法としては、金属表面のプラズマ処理や紫外線照射下にオゾンと接触させる方法なども提案されているが、これらの方法をメッキ工程の前工程に入れることは、処理時間が長いことや装置構成が複雑、もしくは、装置が大型になることなどの問題から、実用的ではない。現状では、レジストを多く塗ることが対策として行われているが、それでも十分な効果は得られていない。また、この方法には、レジストの使用量が増加するという問題もある。
【0006】
また、オゾンによる水晶基板の処理の例として、特許文献2には、レジストを塗布した水晶基板にオゾンガスと水等の溶媒を同時に接触させて処理することによって、表面上のレジスト由来の有機物を分解処理する方法が開示されているが、この方法は、金属基板上のレジストのような基板表面に付着した有機物をオゾン水を用いて除去するものであり、有機物の付着のない金属表面の改質を目的とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−187143号公報
【特許文献2】特開2006−005259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、水晶デバイスを製造する工程において、水晶基板にAu/Cr耐蝕膜を形成させたのち、レジストを塗布する際に、耐蝕膜のAu層へのレジストの密着性に問題があるため、歩留まりに影響する問題があった。
そこで、本発明の目的は、例えば、水晶デバイスを製造する工程において、レジスト塗布前の基板上に形成されたAu/Cr耐蝕膜のAu層を短時間のオゾン水による処理を施すことにより、金属表面を改質し、これによって金属表面に対するレジストの付着性を向上させるとともに生産性を向上させたオゾン水による金属表面の改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、基板上に形成されたAu/Cr耐蝕膜のAu層を、50℃以上、かつ100ppm以上のオゾン水による金属表面の改質処理を施す場合、他の条件で洗浄した場合には得られないような接触角の改善効果が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
本願発明のオゾン水による金属表面の改質方法は、基板の表面に形成されたAu表面のぬれ性を改善する方法であって、前記Au表面を、オゾン濃度が100ppm以上、好ましくは120ppm以上の炭酸を含む50℃以上のオゾン水と接触させることを特徴とする。
本発明によってぬれ性を改善可能なAu表面は、100%Auのものに限定されるものではなく、耐蝕層として用いられるAu合金からなる層の表面も含まれる。また、Au/Cr耐蝕膜のように、2種類以上の金属からなる2層以上の層の表面も含まれる。
特に、本発明の適したAu層としては、蒸着又はスパッタリングにより水晶基板上にCr層を介して形成されたAu層、すなわち、Au/Cr耐蝕膜が挙げられる。
本発明において、表面を改質する金属は、Au、Pt等の、通常は酸化物を形成しない貴金属であり、特にAuに対して効果的である。
オゾン水とAu表面との接触は、流水状態で行うことが好ましい。流水状態で接触させる方法としては、Au層の形成された基板をオゾン濃度が100ppm以上、好ましくは120ppm以上の炭酸を含む50℃以上のオゾン水の流水中に浸漬したり、被処理面を上向きにして配置した基板上に前記オゾン水を流下させる方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板上に形成されたAu皮膜のぬれ性を改善してフォトレジストとAu皮膜との密着性を改善することができる。その結果、レジスト塗布の際に目標としていた接触角(30°)以下の値を得られ、実際の製造においても、レジストの塗りむら不良が2%以上向上するとともに、レジストの使用量が1割以上削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の適用される基板試料にオゾン水を接触させる方法を模式的に示す断面図である。
【図2】本願発明におけるオゾン水のオゾン濃度及び基板試料にオゾン水を接触させる方法の相違が接触角に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】本願発明における接触角の改善とオゾン濃度、温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。
【0014】
[実施例1]
(基板試料)
図1に示すように、43mm×38mmの水晶(SiO)基板1の両面にCr層(厚さ20nm)とAu層(厚さ120nm)とを順にスパッタリングで形成した最外層にAu層を有する耐蝕層付き水晶基板を基板試料とした。
【0015】
(オゾン水)
高温高濃度オゾン水製造装置(野村マイクロ・サイエンス社製 ノムクレン(商品名))を用いて所定の濃度のオゾン水を生成した。オゾンガスの生成は、無声放電式のオゾン発生機を用いた。
(オゾン水への炭酸の添加)
流量5L/分のオゾン流水中に、25℃で飽和させた炭酸水を0.05〜0.1L/分で注下して均一に混合させた。
【0016】
(基板試料とオゾン水との接触)
200mLのガラスビーカーの底に予め水に対する接触角を測定した基板試料の測定面を上にして水平に置き、この中にオゾン濃度を120ppm、温度50℃に調整した炭酸水を含むオゾン水を0.5L/分でオーバーフローさせ、3分後、5分後に基板試料を取り出して乾燥させた。乾燥はクリーンエアーを吹きかけることで行った。
【0017】
(ぬれ性の評価)
乾燥した基板試料のオゾン水処理時上側とした面の中心部、左右両側の3点に水を滴下し、接触角計測機(PG−X マツボー社製商品名)で水滴の基板面に対する接触角を測定することにより行った。なお、測定は、25℃の恒温室内で行った。
【0018】
測定結果を表1に示す。表中の接触角の値は、3点の平均値である。
【表1】

3分間の処理で接触角が半分の値になり、5分間処理では、接触角がほぼ1/3の値になった。なお、5分以上処理しても、接触角は殆ど変わらなかった。
【0019】
[実施例2]
オゾン水のオゾン濃度を120ppm、炭酸を含むオゾン水の温度を50℃とした。炭酸を含むオゾン水は図1に示したように、基板1を水平にした状態で基板表面近傍の上部のオゾン水給水配管2より炭酸を含むオゾン水3を矢印方向に5分間又は10分間流して処理を行った。他の処理条件は、実施例1と同じ条件である。
なお、図1中、符号4はAu層、符号5はCr層、6は水晶基板である。
処理後乾燥した基板試料表面の接触角の測定結果を表2に示す。
【表2】

【0020】
表2から明らかなように、3分間の処理で接触角は25°未満となり、5分間処理でも接触角は変わらないので、この方法では5分間の処理で到達可能な最小接触角になったものと考えられる。なお、5分以上処理しても、接触角は殆ど変わらなかった。
【0021】
図2に基板試料をオゾン水に浸漬した場合と基板試料にオゾン水をかけ流した場合についてオゾン水のオゾン濃度を変えて、50℃で5分間処理を行ったときの接触角の変化を示した。
この実施例から、明らかなように、処理温度50℃では、オゾン濃度が100ppm以上では、Au表面と炭酸を含むオゾン水との接触方法にかかわらず、接触角が初期値の1/2以下となり、したがって、ぬれ性が格段に改善されていることがわかる。
また、基板試料を単にオゾン水に浸漬した場合と比較して、流下させて接触させた場合の方が接触角を小さくする効果が大きいことがわかる。
【0022】
[比較例1]
オゾン水のオゾン濃度を60ppm、オゾン水の温度を25℃とした以外は、実施例1と同じ条件で処理を行った。
処理後乾燥した基板試料表面の接触角の測定結果を表3に示す。
【表3】

【0023】
表3からわかるように、3分間の処理では、接触角の低下を極めて小さく、接触角が大きいことから、Au表面は疎水性を示している。しかし、5分間処理したものでは、約20°の接触角の低下が見られた。なお、5分以上処理しても、接触角は殆ど変わらなかった。
【0024】
[比較例2]
オゾン水の温度を50℃とした以外は、比較例1と同じ条件で処理を行った。
処理前及び処理後の金属被覆水晶基板の中心部、左右両側の3点に水を滴下し水滴の基板面に対する接触角を測定した。
測定結果を表4に示す。
【表4】

【0025】
表4からわかるように、50℃の炭酸を含むオゾン水では、3分間の処理で17°の接触角の低下が見られ、5分間の処理では20°の接触角の低下が見られた。なお、5分以上処理しても、接触角は殆ど変わらなかった。
【0026】
[比較例3]
オゾン水の濃度を100ppmとした以外は、比較例1と同じ条件で処理を行った。
処理前及び処理後の金属被覆水晶基板の中心部、左右両側の3点に水を滴下し水滴の基板面に対する接触角を測定した。
測定結果を表5に示す。なお、5分以上処理しても、接触角は殆ど変わらなかった。
【表5】

【0027】
以上の測定結果から明らかなように、処理時間に関しては5分を経過すると接触角は殆ど変わらなくなる。したがって、処理条件としては、処理温度50℃以上、処理時間5分が処理時間の最適値と考えられる。
以上の実施例、比較例の結果を図3に示す。なお、図中の( )内の値は、処理時間5分の場合の接触角の値である。
比較例1と比較例2の接触角の値を比較すると、温度のみを上げた場合では、接触角の向上はしないことがわかる。また、比較例1と比較例3の接触角の値を比較すると、オゾン濃度のみを上げた場合では、接触角は向上しないことがわかる。一方、比較例1と実施例1の接触角の値を比較すると、オゾン濃度、および、温度を上げる場合には、接触角に改善が見られることがわかる。
【0028】
図3の結果から、得られた接触角は概ね60°程度の値が得られる領域2と、概ね25°程度の値が得られる領域1の2種類あることがわかる。
図3において、接触角が60°程度となる領域2はオゾン水のは表面の有機物を除去する効果も寄与しているものと考えられるが、接触角が概ね25°程度となる領域1の効果は、有機物の分解による効果からは予測し得ない結果であり、この領域では、次のようなメカニズムによるAu表面の改質が起きているものと推測される。
【0029】
Auの酸化還元電位EAuは、次式のように表される。
2Au+3HO=Au+6eAu=1.467−0.0591×pH…1)
(Marcel Poubaix Atlas of Electrochemical Equeous Solutions による)
【0030】
本発明においては、オゾン水は、炭酸を添加することにより酸性となっているので、pHは概ね4程度の値となっている。したがって、pH=4を上式に代入すると、Auの酸化還元電位EAu=1.23Vの値が得られる。
また、次式に示すオゾン水の酸化剤としての酸化還元電位(EO3)は、EO3=2.07Vである(新版オゾン利用の新技術(三▲秀▼書房、平成5年出版、p74)による)。ただしこの値は理想値である。
+HO+2e=O+2OHO3=2.07V …2)
【0031】
本発明者が実測した場合でも、EO3≧1.3Vの値が得られた。(測定には、ハンディー型酸化還元電位計 Horiba製 D−52T を用いた。)
すなわち、実測値を用いても、EO3>EAuとなっていることが確認された。これは、オゾンが存在すると、1)式が進行する可能性を強く示唆するものである。
ただし、一般的にAuは酸化物を作らない物質であり、この反応が進行するのは、実際にはごく限られた条件でのみ進行するものと推測される。
図3において、著しく小さい接触角の値が得られた領域では、このような反応が表面で少なくとも一時的に進行していると考えられる。その結果表面の状態が改質され、最終的に接触角が小さい値になったと推測される。
要するに、本発明は、オゾン水の酸化反応を利用したAu表面の改質効果を見出し、Au表面に吸着された有機物の酸化分解だけでは得られないような、親水性を得ることにより、水晶デバイス等の製造における問題点の改善に至ったものである。
【0032】
なお、炭酸を使用しない場合には、図3の領域2でも、接触角は、60°程度であり、効果は得られなかった。
これは、上記メカニズムから説明できる。炭酸を使用しない場合には、pH=7なので、この値を1)式に代入すると、EAu=1.05Vが得られ、EAu<EO3となってしまう。したがって、炭酸をしない場合には、効果が得られなかったのである。
【0033】
一般に、接触角が30°以下になれば、金属表面のぬれ性が改善されたと見ることができるが、図3の領域1では、これよりも低い値の接触角が得られている。
接触角30°未満のAu表面は、レジストの接触角が3°程度となり、レジストの使用量が1割以上減少できるとともに、塗りむら不良が2%以上改善された。
【符号の説明】
【0034】
1……基板
2……オゾン水供給配管
3……オゾン水
4……Au層
5……Cr層
6……水晶基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に形成された貴金属表面のぬれ性を改善する方法であって、
前記貴金属表面を、オゾン濃度が100ppm以上の炭酸を含む50℃以上のオゾン水と接触させることを特徴とするオゾン水による金属表面の改質方法。
【請求項2】
前記貴金属表面は、密着層を介して前記基板上に形成された貴金属層からなることを特徴とする請求項1記載のオゾン水による金属表面の改質方法。
【請求項3】
前記貴金属層は、水晶基板上にCr層を介して形成された貴金属層からなることを特徴とする請求項1又は2記載のオゾン水による金属表面の改質方法。
【請求項4】
前記貴金属層は、蒸着又はスパッタリングにより、水晶基板上に形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のオゾン水による金属表面の改質方法。
【請求項5】
前記オゾン水は、前記貴金属表面に流水状態で接触することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のオゾン水による金属表面の改質方法。
【請求項6】
前記オゾン水は、前記貴金属表面に3分間以上接触させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のオゾン水による金属表面の改質方法。
【請求項7】
前記貴金属は金である請求項1乃至6のいずれか1項記載のオゾン水による金属表面の改質方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−107270(P2012−107270A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255346(P2010−255346)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000166948)シチズンファインテックミヨタ株式会社 (438)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】