説明

オージェ分光分析用試料台

【課題】本発明は、AESによる断面加工試料の測定において、断面のエッチングによるクリーニング操作から断面の観察、測定操作までにかかる複雑なステージ操作工程や、さらにCMAを搭載したAESにおける複数試料観察の際の角度微調節といった工程の削減を可能とする試料台の提供を目的とする。
【解決手段】試料台(1)に傾斜角度50°〜60°の傾斜面2面からなる傾斜部分(2)を設けることにより、エッチング後、試料ステージの反転操作を行なわずに観察、測定操作を可能とし、また、傾斜部分(2)に並列に試料(5)を固定できる構造により、観察断面の方向をそろえることを可能とすることで位置調整に要する操作を削減することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オージェ電子分光分析装置により断面加工試料の分析を行う際に用いる試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
オージェ電子分光分析法(AES)は測定試料に電子線を照射し、電子線により励起された試料表面より発生するオージェ電子を検出することによって、試料構成元素の定性分析を行う測定法である。AESによる測定では試料の検出深さが数nmと非常に浅く、なおかつ照射電子線を絞ることで100〜500nmφの局所分析が可能であるため、薄膜や微小な付着物などの分析に多く用いられている。電子部材などnmオーダーの技術を用いた製品においては、これらの品質管理あるいは製品開発において、AESのような微小領域の定性を可能とする測定法は非常に重要な役割を果たす。(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、検出深さの浅さから、積層体の中間層や試料中に埋没した異物などの分析についてはそのまま測定することが出来ず、断面切削装置や集束イオンビーム(FIB)による断面加工を必要とする。
【0004】
特に近年では電子部材の精密化に伴って、問題となる異物のサイズもより微小なものへと範囲を広げており、このような数十μmオーダーの埋没異物に対しては、割断や切削などによる断面加工では目的とする異物の断面を捉えられないという問題がある。そのため、このような場合にはFIBによる加工で異物断面を切り出し、断面についてAES分析を行うことで異物の同定を行なう手法が用いられる。
【0005】
以下に先行技術文献を示す。
【非特許文献1】オージェ電子分光法 日本表面科学会編 丸善株式会社 表面分析技術選書 p1〜3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このとき、FIB加工後の加工断面は加工に使用したイオン(通常Ga)や加工個所の保護膜(CやWなど)の堆積物によって少なからず汚れており、目的とする異物断面のAES測定を行なうためには測定前にArイオンビームの照射などによる断面のクリーニング操作が必要となる。
【0007】
しかし、通常同心円筒鏡型アナライザー(CMA)を使用しているAES装置では、装置の構成上、電子銃とイオン銃を同軸上に設置することが出来ず、図2に示すように斜め方向よりイオンビームを照射する構造となっている。その為、試料ステージは照射イオンビームに対して試料面を向ける方向に傾斜が掛かる機構になっており、クリーニングから断面の分析を行うまでに試料台の回転や位置の修正など煩雑な操作が必要となる。
【0008】
また、CMAを使用している装置では、試料表面からアナライザー検出口までの距離に制限があるため、断面観察の為に試料台を60°近く傾斜させる場合には、傾斜する際に試料台および試料と検出口との接触が起こらないように、試料固定位置を考慮する必要が生じる。結果、試料は断面を試料台外側に向けた状態で試料固定面の可能な限り外側に固定することになる為、複数の試料を1つの試料台に固定し、連続で測定する場合には、試料形状により固定可能な試料数が極端に制限されたり、測定位置への移動および断面方向
の調節にかかる操作が必要となったりするといった問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、そこで、本発明では加工断面のエッチングによるクリーニングを必要とするFIB断面加工試料のAES分析において、クリーニングから測定にかけての試料台操作に必要となる工程を削減し、試料台傾斜時にCMA検出口と試料台の接触の危険性が低い範囲に、複数の試料の観察対象加工面が同方向を向くように固定できるような構造をもった試料台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、本発明の請求項1に係る発明は、試料を保持し該試料を測定位置に設置するオージェ分光分析用試料台において、該試料台(1)上面に該試料台(1)の中心を通過する直線を頂点とする傾斜面を2面設けることを特徴とするオージェ分光分析用試料台である。
【0011】
これによると、本発明における試料台は、2面の傾斜面の頂点がホルダ中心を通過する線上に位置することで、試料台の直径とほぼ同じ長さの範囲において、複数試料の断面を斜面端から上方に向くようにそろえて固定することが出来る。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のオージェ分光分析用試料台において、前記試料台(1)の傾斜面の傾斜角度が、水平面より50°〜60°であることを特徴とするオージェ分光分析用試料台である。
【0013】
これによると、本発明における試料台は、試料傾斜面の傾斜角を50°〜60°にすることで、AES付帯の操作電子顕微鏡(SEM)を用いて試料面上の加工断面の形状を断面の傾斜角30°〜40°で良好に観察し、その後観察された断面の任意の箇所でAESスペクトルの測定をすることが出来る。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、試料を保持し該試料を測定位置に設置するオージェ分光分析用試料台において、該試料台上面に該試料台の中心を通過する直線を頂点とする傾斜面を2面設けることにより、本発明における試料台を使用した測定では、観察対象である断面のエッチングによるクリーニング時に観察試料が固定されている傾斜面が水平になるように試料台を傾斜させる。その後、観察・測定時には試料台傾斜を水平へと戻すことで試料台を回転させること無く、クリーニングと測定を続けて行なうことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を以下、図面を基に詳細に説明する。複数の図面中に同一のものが記載されている場合、これ等の記号を同じものとして重複する説明を省略する。
【0016】
本発明の試料台の形態について図1に示す。図1(a)は本発明の試料台(1)の斜視図であり、図1(b)〜(d)は図1(a)に記載のX、Y、Z方向から見た試料台(1)の形状にあたる。図1(b)〜(d)では傾斜部分(2)の形状をわかりやすくするため、試料台(1)側面の一部を透過して示しており、また、図中記載の傾斜面の傾斜角度は60°に設定してある。
【0017】
試料台(1)の材質としては、銅・真鍮・アルミニウム・アルミニウム合金・ステンレスなどが用いられる。また、該試料台(1)の外観形状に関しては円柱形状、立方体形状、直方体形状など使用する測定機器の規格による。図1の模式図ではこのうち円柱形状のもので円柱側面に溝のある形状の試料台(1)について示している。
【0018】
該試料台(1)は、試料台本体部分(3)を一部掘り下げる形で2面の傾斜面からなる傾斜部分(2)を作成する。その際、試料台本体部分(3)から突出した傾斜部分(2)は使用する測定機器の規格範囲に注意した上で決定し、特に試料台(1)を傾斜させたときに傾斜部分(2)の先端がステージ稼動範囲より外に出ないような高さにする必要がある。さらに、CMA検出器を搭載した装置で使用する場合は、試料導入時に検出器先端と接触せず、試料ステージ稼動範囲内で測定対象個所を測定位置へと移動できる高さに設定するよう注意する必要がある。傾斜面の傾斜角度は水平面より50〜60°の範囲であることが望ましいが、試料ステージの傾斜稼動範囲を超える角度にはしないよう注意する。そして傾斜部分(2)の2面の傾斜面は試料台の中央で頂点を成すものとする。
【0019】
続いて、本発明の試料台(1)による観察についての説明を行なう前に、汎用的な平面の試料台を使用した場合における断面加工試料の観察方法について説明する。図2は平面試料台(4)を用いてFIB断面加工試料(5)を測定する際の、加工断面のエッチングによるクリーニングと、その後試料の観察およびAES測定を行う状態を示す模式図である。
【0020】
図2(a)に示すように観察対象加工断面(6)の表面をイオンガン(7)でエッチングする場合、イオンガン(7)は水平面より15°前後(図2では15°)傾斜している為、試料台の傾斜はしない状態で加工断面(6)の向きがイオンビーム(8)の照射方向に向くように該試料(5)を設置する。そしてエッチング後、断面のSEM観察およびAES測定を行なうためには、図2(b)に示すように、試料(5)を180°回転、50〜60°傾斜させ、加工断面(6)が電子銃(およびCMA検出器)(9)から照射される電子ビーム(電子線)(10)の方向に向くように試料位置を調整する必要がある。
【0021】
図3は本発明の試料台(1)を用いたFIB断面加工試料(5)を測定する際の、断面のクリーニングとその後の測定を行う状態を示す模式図である。
【0022】
本発明の試料台(1)は、50〜60°の傾斜面に試料を固定している為、図3(a)に示すように、加工断面(6)のエッチングの際は、試料台を傾斜面の傾斜角と同じ角度傾斜させ、試料設置面の傾斜を0°にする。続いて断面の観察および測定では、試料台を回転させること無く試料台の傾斜を元に戻すことで測定に移ることが出来る。
【0023】
さらに、CMA検出器を搭載した装置で測定を行なう際の、汎用的な平面試料台(4)における試料固定位置と、本発明の試料台(1)における試料固定位置の模式図を図4に示す。
【0024】
図4(a)に示すように、平面試料台(4)では断面加工試料(5)の加工断面(6)がスロープ加工部分(11)方向より観察できるようにするため、試料台(4)の極力外側の位置に加工断面(6)が外側を向く様に放射状に試料を固定する。このように固定された試料をエッチングまたは観察する場合、各試料の該断面(6)を観察する為には測定位置を変更するたびに微妙な角度調節が必要になる。これに対して図4(b)に示す本発明の試料台(1)では、該試料(5)を加工断面(6)が上を向くように傾斜部分(2)の先端付近に固定する為、該傾斜部分(2)の幅の範囲で該試料(5)を並列に並べることが出来る。そのため、傾斜部分(2)の一方の斜面については複数の試料を続けて測定する際に角度の調節が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の試料台の形状を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)はX方向模式図、(c)はY方向模式図、(d)はZ方向模式図である。
【図2】平面試料台を使用した場合の概略模式図であり、(a)はエッチング時の試料台位置、(b)は断面観察時の試料台位置である。
【図3】本発明の試料台を使用した場合の概略模式図であり、(a)はエッチング時の試料台位置、(b)は断面観察時の試料台位置である。
【図4】平面試料台と本発明の試料台の試料固定位置を示す模式図であり、(a)は平面試料台使用時の試料固定位置、(b)は本発明の試料台使用時の試料固定位置である。
【符号の説明】
【0026】
1…本発明の試料台
2…傾斜部分
3…試料台本体部分
4…平面試料台
5…断面加工試料
6…加工断面
7…イオンガン(エッチング用)
8…イオンビーム(エッチング用)
9…電子銃(CMA)
10…電子ビーム(電子線)
11…スロープ加工部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持し該試料を測定位置に設置するオージェ分光分析用試料台において、該試料台(1)上面に該試料台(1)の中心を通過する直線を頂点とする傾斜面を2面設けることを特徴とするオージェ分光分析用試料台。
【請求項2】
前記試料台(1)の傾斜面の傾斜角度が、水平面より50°〜60°であることを特徴とする請求項1に記載のオージェ分光分析用試料台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−159294(P2008−159294A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344040(P2006−344040)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】